犬飼先輩の表情は普段からは想像もつかないほど暗かった…
「うちの隊長…ボーダー、辞めるってよ」
頭が真っ白になる、とはまさにこのことだろう。同時にそれは視界をも真っ白に染めあげ、尚且つグラグラと視野を揺する。まるで世界が崩れていくような…
「なんちゃって、ビックリした?」
「……………………………」
「……………………アレ?」
「……………………ッ!!?」
思考が追いつくまでに30秒は要してしまった。
「ハハ、ごめんごめん!洒落にならなかったね。」
全くだ。不謹慎な事この上ないし、第一、冗談で寿命を縮められたらたまったもんじゃない。僕は悪びれもせずに笑う犬飼先輩を詰問代わりに鋭く睨む。すると先輩の笑顔は霧消し、再び真面目な表情が現れる。今度は騙されない、と怪訝な顔を崩さない僕を見据えて先輩は言った。
「隊長さ、辻ちゃんと同じ事してた」
何のことだろうか。首を傾げる僕に対して先輩は続ける。
「全部の荷物をまとめ終えて、そいつを新しい部屋に運ぼうってなったときにさ、隊長が俺に言ったんだ。すぐに行くから先に部屋に行っててくれって。仕方ないから荷物を俺1人で部屋に運んでずっと待ってたんだけど、隊長はいつまでたっても来なかった。心配になって探しにいったらさ、」
「ずっと…あの部屋にいたんですか。」
「うん、それも辻ちゃんと一緒で、真っ暗にしたままでね。」
ああ、これでさっきの犬飼先輩の反応に合点がいった。
「隊長はああ見えて誰よりもチームの事を愛してたんじゃないかな。まあ、自分が作ったチームだしね。けど、」
先輩はそこで一呼吸間を開けた。
「だからこそ、誰よりも今、傷ついてるだろうし、誰よりも辛いだろし、そして誰よりも悔しいんだろうね。きっと、」
※
二宮隊の新たな作戦室は、前の部屋よりも窮屈に感じられた。実際、給湯室のスペースがなくなっているので、間取りが少なくなっているのは事実だ。しかし、僕が感じる、この部屋の閉塞感の原因はそれではない気がした。
簡単に部屋の説明をすると、縦長の部屋が"円"の漢字状に三分割されており、まずドアから入ってすぐの一番大きな部屋が四つの椅子を備えたテーブルを有するリビングだ。その奥には二部屋存在し、そのうち左側が四つのベッドを備えたベイルアウトルーム、右側が中央にデスクを、(入口ドアに対して)奥の壁に各隊員の私物が鎮座する棚を有するオペレータールームとなっている。
この空気の薄い部屋に、僕と犬飼先輩は先ほどから段ボールに詰めた私物を配置し直している。荷解きもいよいよ大詰めである。僕と先輩は先述の私物棚の前で横並びに、アロサウルスとプレシオサウルス、B787をそれぞれ飾っていた。
「うん、この曲線美、やはり美しい」
「分かります。でも曲線美と言えばコイツですよ。」
自身の模型に恍惚としている先輩に僕は完全なる首長竜の模型を差し出す。
「これは手強い!」
模型を眺める先輩の目は輝いている。二宮隊に犬飼先輩が居てくれて本当に良かったと思う。もし先輩が居なかったとしたら、今頃このチームは…
ふいに現実に引き戻されてしまった僕は、薄れ始めていた息苦しさを再び実感した。私物棚の横、部屋の片隅には未開封の段ボールが積んである。多分、鳩原先輩のものだろう。
(解散…しちゃうのかな?)
ひゃみさんの震え声が蘇る。これから二宮隊はどうなるのだろう。再び視野が白みだす。
「辻ちゃん、大丈夫?」
急に固まった僕の顔を覗きこみながら、先輩は問いかけてきた。慌てて僕は取り繕う。
「いや、ちょと思うところあって…そう言えば犬飼先輩、来シーズンのランク戦って僕たち…」
「ん〜どうだろうね。なんか隊長には聞き難いし、今夜辺り東さんに確認しとくよ。あっ、そうか、もう来週か。」
「今週末ですよ。」
先輩はスマホを取り出し日付けを確認している。
「あ、ホントだ〜、辻ちゃんナイス。何か3週間も開くと色々と感覚狂うな〜、ね!辻ちゃん、」
荷物をまとめつつ応じる。
「はい、だから今から取り戻してきます。」
「行ってらっしゃい…と言いたいとこだけど、今日はやめといた方がいいと思うよ」
今にもオペレータールームを出ようとしていた僕は足を止めざるをえなかった。
「?いや、仮にランク戦が無くても、もう三週間も間が開いちゃったから、早く感覚を戻したいんです。」
「だよねー、それじゃあ仕方ないよね」
何か腑に落ちないものを感じながら、僕はオペレータールームを後にした。
「?それじゃ、お先失礼します。」
「GOODLUCK!」
先輩はまたぞろ不気味な笑顔を見せていた。
犬飼 澄晴
年齢 18歳
誕生日 5月1日
身長 176cm
血液型 AB型
星座 ねこ座
好きなもの 飛行機・ホットドッグ・ぶどう