二宮隊の夏   作:てしてし

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9.矛と剣ー後編ー

槍型孤月の刺突が繰り出される度に、その矛先を逸らさんとする孤月の受太刀が接触し、スパークが爆ぜる。その閃光は漆黒の闇の中一際鮮やかに瞬き、そして闇へと吸い込まれていく。

 

米屋の一方的な、しかして正確な槍撃は留まるところを知らず、俺は反撃の機会を許されなかった。

 

幾たびも攻撃を凌ぐなかで、俺は米屋の攻撃のインターバルが徐々に長くなっている事に気付く。

 

単なる息切れか、或いはー

 

"ボッ!!"

 

最大加速の槍撃が脳天目掛けて一直線に迫る。緩急を付けて相手のリズムを崩す手だ。が、これを予期していた俺は首をひねり、すんでのところで躱す。そして、この機を逃さず、一太刀浴びせるべく、孤月を振り上げ、対する米屋は突き出した槍を素早く引き戻し、構えなおそうとする。米屋の行動は一手遅い…ハズだった。

 

見ると、こちらに向けられた槍はその穂の根元で直角に新たな刃を左右に生やしていた。所謂十文字と呼ばれる形状だ。刀の形状を自由に変化させるオプショントリガー"幻踊"の成せる技である。

 

(やられた)

 

そう認識するや否や俺の首元から大量のトリオンが吹き出した。

 

十文字槍での攻撃方は大きく二つ、まず刺突。これが躱された場合、槍を引き戻す動作で相手の首を刈る、これが二つめ。

"突けば槍、薙げば薙刀、引けば鎌"と言う訳だ。

そう、米屋の攻撃は始めから、初手は躱される事を前提とした二段構えのものだったのだ。

 

読み逃したと言えばそれまでだが、そもそも敵の間合いでやり合う時点で、勝機などあるべくもない。こうまで易易と間合いを取られるのは、やはり、一戦目の米屋の新技に原因があった。元々長い槍のリーチを、モーションの少ない"刺突旋空"で更に強化した圧倒的な間合いは、とても孤月一振りで崩せるものではない。

 

"トリオン供給機関破損、ベイルアウト"

 

俺のトリオン体は、一条の光となって霧散した。

 

 

9-0、未だ一本も取れていない。こうまで米屋に差を付けられたのはこれが初めてだった。3週間の間に、これほどの実力の開きができたということか?いや、それは流石に考え難い。無論、米屋の新技による所も大きいだろう。しかし、問題はそれ以上に…

 

「俺自身にある…と言うことか」

 

十度目の転送を終え、薄ら寒い、夜の露と月の光を浴びながら俺は独りごちる。その普段とは比較にもならないほど鋭く冴えた感覚が、音も無く押し寄せる殺気を捉えた。右手で柄を、左手で鞘を握り、俺は居合の構えを取る。

 

初戦と同じ立ち上がり。

 

だがー

 

"ズバ!!!"

 

敵のシルエットを見るや否や俺は"旋空孤月"を抜き放つ。三日月状に弧を描いた閃光はー

しかし、敵には届かない。

 

これは目くらまし。敵の前進を止めたのを一瞬確認し、俺は左側のブロック塀を足場に高く飛翔ーそのまま民家の屋根へ着地しようとする。

 

突如無防備な背中を晒して、民家の屋根に駆け上がらんとする俺を、米屋も猛追して塀を足場に高く飛翔ー俺の着地にタイミングを合わせ、空中で"刺突旋空"を突き出す。

 

両足が地に着く一瞬前に、俺は孤月を屋根に突き刺す。慣性に乗った俺の身体は大きく弧を描いて宙を舞い、一回転した後で着地する。大技を決めた俺のすぐ背後で落雷の如き光が炸裂ー間髪入れずに、屋根の一部が崩落し、けたたましい衝撃音が鳴り響く。"刺突旋空"による一点集中の衝撃は、屋根はおろか、二階の床をも突き破った。

 

すぐさま俺は踵を返し、居合の構えを取る。丁度、米屋が屋根に開いた穴を隔てて着地したところだった。着地取りもまた勝敗を決する重要なファクターである。

 

槍を構え直す暇も無く、さりとて"旋空"の斬撃を"シールド"で防ぎきれない絶妙の間合いに誘い込まれたことを悟った米屋は、目もくれず、自身が穿った穴に飛び込む。

 

"狙い通り"

 

俺は穴の淵から、絶妙のテクニックで階下の米屋に"旋空"を放ち、自身も間を置かずに穴に飛び込む。穴に吸い込まれたかの如き閃光は、着地直後の米屋の頭上に襲いかかった。

 

"バリン!!!"

 

着地直後にも拘らず、米屋は左手を頭上にかざし"シールド"を展開ー薄緑の丸いガラスの如きそれは、直後に粉々になりながらも光の斬撃の威力を殺す。

 

"もう一撃!!"

 

二階分の落下速度を加味して、俺は渾身の一閃を振りかざす。"盾"を失った米屋はなんとか体制を立て直そうとするが、頭上からの攻撃を槍で受けるのは不可能と言っていい。

 

"もらった!!!"

 

「と、思うじゃん?」

 

"ガキン!!!"

 

渾身の斬撃は、しかし、槍の穂の根元から直角に枝分かれした刃に受け止められていた。またしても"幻踊"である。米屋は、槍をひと薙ぎし、未だ宙に浮く俺の体を突き飛ばす。

 

すぐさま体制を立て直しにかかる俺に、米屋は狙いを突けて、一度槍を引く。

 

"ガッ"

 

狭い室内で引かれた槍の末端が、崩れ落ちた瓦礫に接触する。

 

一旦動きを止めるも、すぐさま刺突を繰り出す米屋。

 

「「施空孤月!!」」

 

再び凄まじい閃光が、空気を斬り裂く衝撃音と共に、稲妻の如く走る。

 

勝敗は決した。

 

閃光を発したのは、俺の刃だ。米屋が動きを止めた一瞬の隙に"旋空孤月"を振り放ったのである。

 

「まさか、最初からこれを狙って室内に…?」

 

身体を胸部で上下に二分された米屋は、驚きを隠しきれない面持ちで呟く。

 

"トリオン供給機関破損"

 

再び無機質なアナウンスが流れた。

 

 

「いや〜、ラスト一戦落とすとかマジショックだわ!」

 

大きなロビーを出てすぐの通路には、自販機とソファーが備え付けてある。人だかりを逃れて、僕と陽介くんはここで休息をとっている。

 

「それを言うならこっちこそ9敗もしてマジでショックだから…」

 

応じる僕の声は、彼とはうってかわって暗いものだった。

 

その圧倒的なまでの喪失感と虚無感は、トリオン体の換装が解けた後に襲ってきた。それを察してか、陽介くんの声音が変わったのが分かる。

 

「ん〜、それなんだけどさ。辻ちゃんの剣、いつもと違ってかなり前のめりだった。ん〜なんか旨く言えないけど、剣に迷いが乗ってる的な?」

 

「剣に迷いが乗る…か」

 

彼の言葉を反芻する。

 

結局この日はそれ以上ソロ戦を行う気力も起こらず、帰路につくこととした。

 

 

 

 

 




米屋 陽介

年齢 16歳
誕生日 11月19日
身長 175cm
血液型 B型
星座 くじら座
好きなもの 飲み物・戦闘・犬
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