ぺディグリーすかーれっと   作:葉虎

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第2話

 

「うぉおおおお!!」

 

―ドカッ!!

 

「どえりゃあああ!!」

 

―ドゴォ!!

 

「ちぇすとぉおお!!」

 

―バキッ!!

 

「はぁ、はぁ…」

 

い、忌々しい壁めが…

 

お昼ごはんを平らげ、お昼寝をし、元気十分な状態で、再び見えない壁に神風アタックを何度となく慣行するが、今だ突破できず。

 

先に、こちらの疲労がピークに達し、大の字に地べたに転がる。

 

まぁ、あれだけ叫びながら体当たりをすれば疲れるよなぁ。

 

むしろ、ガキの身体でよく頑張った方だと思う。

 

ぶっちゃけ叫ぶことにより、一層体力を消耗したが、そこら辺は致し方がないと思う。

 

最初のうちは無言でただただ、体当たりをしていたが、だんだんと虚しくなってくる訳で…

 

何やってんだろ俺…ってな感じにどんどん鬱になっていく訳で…

 

んで、自分を鼓舞し、気合いを入れるために叫ぶ事にしたって訳で…

 

もう、そろそろ日が傾き始めた。暗くなる前に帰らないとお母様にどんなお叱りを受けるか……

 

ぶるりと身体が震える。

 

うちのお母様の躾はかなり厳しい。俺がお母様なんていう呼び方をしているのもその成果だ。

 

別に殴られるとかそういった体罰を受けるわけじゃない。ただただ、冷たい目でジッと見つめられるのだ。

 

美人なお母様のそんな視線はすごく迫力があるがそれだけじゃ、ここまで恐れはしない。仮にも精神年齢は大人だしね。

 

しかし、どういう訳か、理屈抜きでただただ恐ろしく感じてしまうのだ。

 

う~む、不思議ミステリーー!って、こんな事やってる場合じゃない。

 

早く、帰らないと!

 

ガバッと起き上がり、家に向けて歩き始める…が、数歩歩いたところで…振り返り。

 

「ふんっ、これで勝ったと思うなよ!!」

 

今日の宿敵(みえない壁)に捨て台詞を吐く。

 

そして、意気揚々と家路に……って、待て待て待て…

 

そこでハタと自分の格好に気がつく。

 

何度も体当たりをし、跳ね飛ばされて地面に転がった結果。砂だらけの埃まみれ……

 

午前中は一度や二度程度であまり汚さなかったため、転んだで済んだが、今の状況だと確実に説教コースだ。

 

「どうしよう…どうしよう……」

 

考えた処で、どうしようもなく。素直にお説教を受けるしかないのだが、やはり怖いものは怖い。

 

「くそっ、元はと言えば貴様がぁあああ!!」

 

そして、くるりと振り返り、壁に向かって駆け出す。

 

完全な現実逃避の責任転嫁だが、相手は壁だ。思う存分八つ当たりをさせてもらおう。

 

駈け出したままの勢いで大地を帰り、宙を舞う。

 

そして、今人生初の渾身の跳び蹴りが炸裂した!

 

―ビキッ!!

 

「ぜーぜー、おっしゃっ、手ごたえあり!!」

 

大きな亀裂の入る音が聞こえた。崩壊はもうすぐだ!

 

「ふっ、待っとれよ…。今とど「クラン」…を刺す……って、お母様っ!!」

 

意気揚々ともう一撃喰らわせたろうかと思いきや、聞き覚えのある優しい声……間違いなくお母様のもの。

 

若干、驚きながらも呼ばれたので振り返るがそこにいたのはにっこりと微笑を浮かべるお母様。しかし、目が笑っていない。

 

だらだらと嫌な汗が背中を流れる。

 

「もう日も暮れるわ。お腹すいたでしょう?帰りましょうか」

 

「そ、そうですね!帰りましょう。やれ、帰りましょう」

 

微笑みながらお母様は俺の手を握る。白くてスベスベで綺麗な手。

 

夕日に照らされ、中睦まじく手を繋ぐ親子の影……とても心温まるワンシーンだと思う。

そう、この言葉を聞くまでは…

 

「そうそう…クラン。夕食の前に少々お話がありますから♪」

 

ギュッと手を握る力が強まる。痛くはないのだが、心理的には途轍もない恐怖だ。

 

まるで逃がさないからねと言われているようで…

 

その日、夕食に有りつけたのはどっぷり日が沈み、月がかなりの高さに来てからであった。

 

 

 

「い、行ってきまーす」

 

翌日、昨日と同様に家を出る。

 

だが、日が暮れる前に必ず家に帰ってこようと自身に制約を立てるのは成長の証だろう。

昨日は滅茶苦茶怖かった……。何度ちびったか分からん。

 

美人がトラウマになりそう……いやいや、しっかりしろ。俺っ!?

 

「可愛い女の子が好きだーー!!」

 

「綺麗な女の人が好きだーー!!」

 

「美人なお姉様も大好きだーー!!」

 

よし、トラウマなんぞ何のその。段々とテンションが上がって来たぞ。

 

「巨乳も好きだけど、美乳は大好きだーーー!!」

 

客観的に見たら、朝っぱらからとんでもねぇ事を叫ぶエロガキだと思われること間違いなしの叫びを上げながら、昨日の場所までやってきた。

 

いや、正確には……

 

―バッィイイイン!!

 

「な、なんでじゃーー!」

 

昨日の場所より数メートル手前で見えない壁に行く手を阻まれた。

 

「ば、馬鹿なっ!」

 

俺の感覚が可笑しいのか?いやいやそれはない。この壁の向こう側には昨日の悪戦苦闘の痕跡が残っている。

 

壁を認知しやすいように壁の手前に穴を掘るなどの印を付けたのだが、ちゃんとその穴が壁の向こう側に見えるし……

 

しかも今日のこの壁は……

 

「昨日のよりパワーアップしてるっ!?」

 

そう弾力性が昨日の比ではないのだ。さっきもかなりふっ飛ばされたし。

 

「くそっ、忌々しい。どこまでも邪魔をしおって。いったい何なんだこの壁は!?」

 

悪態をつき、地面の石を蹴る。

 

こんな非常識な透明な壁。本当に突破出来るのだろうか……。

 

ともあれ、昨日と同じ方法では無駄な徒労となってしまうだろう。

 

しかし、この非常識な壁が何なのかが分からんことには対策の練りようが……

 

むっ、待てよ。非常識?

 

俺の中の常識とは、元々の世界の中の知識だ。

 

だが、此処は元々の世界ではない。H×Hの世界だ……。

 

H×Hに非常識な壁……念しかありえねぇ!!

 

誰の能力かは知らんが傍迷惑な話だ。いや、まだ確実に念と決まったわけじゃないが…

 

何れにしろ俺が念を覚えれば、この程度の壁……硬を込めた拳で楽々突破だ。

 

「ふむ、となるとまずは念を覚えるのが一番の近道か……」

 

元より、念には興味があった。何の因果かH×Hの世界に来たんだもん。そりゃ念は覚えるでしょ。

 

んでもって、覚えた念でハンター試験を楽々突破。原作ではハンター試験時に念が使えたのはヒソカとギタラクル…キルアの兄ちゃんの二人だったと思う。念というアドバンテージがあれば合格なんぞ楽勝だ。

 

んでもって、ライセンスを売っぱらって、後は薔薇色の人生だ。

 

沢山の可愛い、綺麗なメイドさんを雇って…イチャイチャしたり

 

美味しいご飯を腹いっぱい食べたり………

 

欲しいものは何でも買えるし……

 

人生の勝ち組決定だ!!

 

まぁ、それも幻影旅団を何とかしてからなんだが、遅かれ早かれ念は必要だ。

 

となれば……

 

「早速特訓開始だ!!」

 

 

 

……んで…

 

「念ってどうやって覚えればいいんだ?」

 

少し横道に入った草むらの上にどっこらしょっと座り込み、うんうんと頭を悩ませる。

 

原作では纏を覚えてからの修行を行っており、その辺りの知識はうろ覚えだがあるので何とかなるのだが、問題はどうやって纏を覚えるかだ。

 

ゴンとキルアは師匠であるウイングさんの念で、精孔を開いてそれを制御する事で習得していたが……

 

「そんな裏ワザ使えねぇって!」

 

第一、精孔を開いてくれる人がいない。つか、接点がある人物ってお母様しか居ない。

 

念を覚えているか定かではないお母様に一か八か訪ねて、頼んでみるというのも手だが、そもそも念を何処で知ったのかと聞かれたら、返答に困る。

 

嘘を付くにも、あの昨日のような冷たい視線で見つめられたら……自白するのは目に見えてる。うん、無理だね。嘘はやめよう!アハハハ…け、けしてお説教が怖いわけじゃないんだからね!

 

こほん、気を取り直して……となると後はズシみたいにゆっくり精孔を開いていくしかないのか……

 

だが、どれだけ掛かるんだろうか?

 

10万人に1人という、念の才能があるズシですら…三か月位だったっけ?よく覚えてないがそん位掛ったという。んじゃ、俺はどのくらい掛かるんでしょうかね…

 

「方便の方の燃なら自信があるんだけどな……」

 

まずは点…心を一つに集中、目標を定める。

 

そして舌。頭に思い描いた目標を言葉にする。

 

「美人なお姉さんとのエッチ!」

 

さらに錬!その意思を高める。

 

お姉さんとエッチな事!あんな事やこんな事!あわよくばそんな事!!

 

「うぉおおお!!」

 

ぶわぁぁあ!っと、ピンク色の風が草花を揺らす。

 

そして発!!実際に行動に移す!って、

 

「相手が居ねぇぇんだよ!!」

 

…………なんだろう。途端に虚しくなった。

 

つうか!こっちの燃に対して才能があっても嬉しくねえっての!

 

「はぁ、時間が惜しい。とっとと、念の修行に入ろう」

 

えっと、確かゆっくりと精孔を開くには瞑想なんかで、自分の周りのオーラを感じ取るんだっけ。

 

よし、瞑想だ!瞑想!!

 

胡坐をかき、目を瞑る。

 

心を無にして…無に…む……ぐぅ…Zzz。

 

 

 

「はっ!?」

 

パチッと目を覚ませば、もう太陽はかなり高くまで登っていたって、ヤヴァイ!!

 

「昼ごはんまでには帰らないと!!」

 

また、お説教が……それだけはごめんだ!!

 

全力で家に駆け出す。

 

どうにか昼食には間に合ったが、手を洗う際に洗面所で見た俺の瞳は緋色に染まっていた。

 

こんな事で発動してどうするよ緋の瞳。

 

 

昼食を食べ終え、午後も同じ場所で胡坐をかいて座る。

 

瞑想だ、瞑想。

 

 

……

 

………

 

「だぁああ!!無理だああ!」

 

目を開いて、吼える。

 

娯楽の満ち溢れた現代からやってきた現代人精神の俺に、この退屈は拷問とも言えよう。

オーラなんて、ちーっとも分からんしね。

 

いや、駄目だ。こんな事じゃ全滅フラグを乗り越えて、女の子…っと、美人な女の子とイチャ付いて暮らすという俺の目標が達成出来ないではないか。

 

そうだ、その為になら念ごとき…

 

決意を新たにし、深呼吸をして心を落ち着かせると再び瞑想に入る。

 

 

……

 

……うへへっ♪

 

「って、いかーーん!!」

 

気がつけば、綺麗な女の子とのエッチな事を想像してしまっていた。

 

うぅ、瞑想が妄想に……

 

しかし、俺の妄想とはいえ、あの女の子はいい乳してたなぁ…

 

美乳と巨乳を併せ持つというまさに至高の逸品……って、だから違うっての!

 

「うぅ、俺には念を覚えるのは夢のまた夢なのか……」

 

まさに前途多難である。


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