ぺディグリーすかーれっと   作:葉虎

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第21話

 

三次試験会場へ移動する飛行船の中。

 

試験官たちは食事をしながら、今期の受験生について話し合っていた。

 

 

 

「今年は豊作ですね」

 

試験を振り返り、一次試験官……サトツはそう話す。

 

身体能力的にも優れた面々が数多くいる事もそうだが、既に念能力者が5人も居るのだ。

 

「えぇ、個性的な粒ぞろいが沢山いましたね。ところで…所でサトツさんが注目している受験生は誰ですか?」

 

サトツの言葉に反応したのは二次試験官のメンチだ。

 

「そうですね。やはり…44番でしょうか」

 

サトツがそう漏らす。その反応にメンチ、もう一人の二次試験官ブハラも同意を示す。

 

44番…ヒソカ。

 

試験中、試験官に対してずっと殺気を送っていた男。

 

サトツに至っては直接攻撃を受けているし、メンチもその殺気に苛立ったせいで、二次試験が台無しになりかけた。

 

「……あと、217番と320番も興味深いですね」

 

サトツは思い返す。

 

一次試験の時、競い合うように物凄いスピードで自分を追い抜き、駆けて行った2人。

 

サトツ自身、全力で走れば大半の受験生を置き去りにしてしまう。

 

難易度調整の為、全力ではなくある程度の速度で走っていたが…

 

全力で走ってもあのスピードに…自分は着いていけるかどうか…

 

そして、あわや失格かと思いきや、何時の間にか最終集団に合流して、結局二次試験会場までたどり着いた二人。

 

「あ、あの二人。確かに見どころありますよね」

 

メンチもサトツどうよう二人を押す。

 

まさか、こんな場所できちんとしたプロの握った寿司が食べられるとは思っても居なかった。

 

「そういえばメンチ。あのスシはどうだったの?」

 

「美味しかったわよ。それに交換したこのウニも…」

 

ブハラにそう言って、卵と交換したウニを堪能するメンチ。

 

「へぇ…この辺りじゃ手に入らないけど……どうやったのかなぁ」

 

「多分、何らかの念能力でしょ?正直、私達美食ハンターからしたら喉から手が出るほど欲しい能力よ!」

 

興奮するメンチ。

 

先ほど食べたスシも今食べているウニも鮮度は抜群だった。

 

獲ってからさほど時間がさほど立っていないだろう。

 

しかし、この辺りに海なんてなく、試験中に捕獲する事は事実上不可能。

 

考えられるのは念能力。

 

瞬間移動のような能力で移動して、これらの食材を取って来たのか…

 

そう考え、メンチはそれを否定する。

 

試験中の短い時間にこれほどの物を用意する時間なんて無い。

 

恐らくは、なんらかの形で鮮度を損なわず、保存するような能力があるのだろう。

 

「あの二人…合格したら私たちのチームに誘ってみようかしら。腕もよさそうだし」

 

あの能力があれば、いつでもどこでも。

 

極上の料理を食べる事が出来るに違いない。

 

半ば本気でそう考えるメンチ。

 

受験生の話を中心に、試験官達の食事会は続くのだった。

 

 

 

 

 

三試験会場に到着した。

 

何やら建物の上に降ろされる俺達。

 

トリックタワーというらしい。

 

試験内容は72時間以内に生きて下まで降りること……。

 

「ふむ……さてオウカどうし…よ……う?」

 

居ないし!?

 

円を使用してみる。……居た。

 

どうやら、既に隠し扉を使用し、屋上から消えていたらしい。

 

速いよ。

 

「さて…俺はどうするか……」

 

考える。

 

思い出すのは前回のハンター試験。

 

ペアでの試験だった為……俺は落ちた。

 

あのバカ野郎のせいで……

 

名前なんだっけ…じょ…じょ……ジョジョーーー!!……なんか違うな。

 

と、とにかく。今回は前回の教訓を活かして…。

 

仮にチームプレイが必要なルートだった場合、勝手な行動はさせん。

 

気絶させ、引きずってでも…合格してみせる。

 

そう固く決意し、俺は入り口をの一つから中に入った。

 

 

そして…

 

「二人三脚の道ねぇ」

 

目の前には鎖でつながれた足かせ。

 

此れを俺とパートナーの足に着けないと扉は開かないらしい。

 

こうなると…オウカが居ないのはかなり痛い。

 

まぁ、居ないものはしょうがない。

 

俺はパートナーが来るのを暫く待った。

 

そして、来てくれたパートナーは……

 

「………」

 

おぉ、金髪グラサン美女(予想)来たぁああああ!!

 

何たる幸運。

 

使えない奴だったらどうしよう。

 

暑苦しい筋肉ムキムキのおっさんだったらどうしよう。

 

変態ピエロか針人間だったらどうしよう。

 

そう思っていた矢先の事である。

 

内心ヤッホーと喜んでいると…

 

説明を読んだ金髪美女さんから…

 

「早くつけなさいよ。愚図ね」

 

そんな暴言を吐かれた。

 

あぁ!?

 

この野郎。ちょっと顔が良いからって…

 

礼儀ってものを教えてやろうか?

 

此処はガツンと…

 

「あなた左側でいいわよね。ほら、早くしなさいってば」

 

「は、はい…」

 

……ヘタレ。

 

俺のヘタレ。

 

あ、あれだよ。

 

見知らぬ男だし警戒してるんだよ。

 

此処は警戒心を解いてもらって、楽しく下を目指すことにしよう。

 

「よ、よろしく。俺の名前はセタンタ。」

 

「……」

 

む、無視ですか…。

 

なんだよ…こっちが折角仲良くしようとしてるのに。

 

最低限の礼儀もないのかこいつには…。

 

駄目だ。いくら美人でもこれは駄目だ。

 

俺ははぁ…とため息を吐いて…一歩踏み出したところで…

 

盛大につんのめった。

 

ジロッと睨まれる。

 

「こういう時、最初は繋がれた方の足を出すものじゃないかしら」

 

「何それ?知らねーよそんなルール。

 

なら、最初に行っておけよこのアマ」

 

「……ケンカ売ってるのね。上等よ」

 

へ、俺、今…

 

「声に出てたわよ。」

 

いいながら、剣呑なオーラを纏わせる美女。

 

「ま、待て!此処で俺達がやりあって、どっちかが動けなくなったら…」

 

「あら♪大丈夫よ。あなたが動けなくなっても私が引きずって連れて行ってあげるから」

 

なんか、身に覚えのある台詞を言われた。

 

とはいえ、こちらも唯でやられるつもりは無い。

 

相手が臨戦態勢になった直後、凝を行っているし…同時に堅も行う。

 

そして、足が繋がれているので。

 

図らずもチェーンですマッチのような戦いになり。

 

お互い足を止めての打ち合いになった。

 

最初にしかけて来たのは金髪美女…いやもう金髪女でいいや。

 

オーラを纏わせた右拳。流石に硬をいきなり使うというリスキーな事はやらないらしい。

 

思いのほか鋭い拳は…

 

足の繋がれた今の俺の状態で躱せずに

 

ボディに突き刺さる。

 

一瞬、呼吸が止まる。だが…こっちも

 

「うらっ!!」

 

負けじとやり返す。当たったのは胸の辺り。……狙ったわけジャナイヨ?

 

「くっ、ちょっと、あんた女に手をあげる気?」

 

「知るか。俺はフェミニストって訳じゃないからな。やられたらやり返す。」

 

第一、俺が過去戦った相手は訓練という事も含めて、圧倒的にオウカが多い訳で…。

 

「そ、それに…どこ狙ってるのよ!?変態!!」

 

「はん。言う程ないくせに。悔しかったらオウカを見習うんだな。」

 

「なっ!?む、胸は大きさじゃないわ。形よ!!」

 

「そんなの服の上からじゃよく分からんしな。なんだ?証拠に見せてくれるのか?」

 

「そんな訳ないでしょ!!」

 

言い合いながら殴り合いを続ける。

 

お互い厚くなっていたこともあり、技術もへったくれもない。

 

単なるド突き合い。

 

最初は相手の身体を中心に殴り合いをしていたが、熱くなるごとに互いの顔をめがけて拳を振るうようになり…。

 

互いに痣が増えていく。

 

金髪女の方も、グラサンが割れ、煩わしそうにそのグラサンを放り投げた事でその素顔が伺えた。

 

その瞳の色は美しい碧だった。

 

やはり思った通りの美女だった。

 

そしてその顔を見た瞬間…俺の中で既視感が…。

 

しかしその感覚は相手に殴られたことで消え、こちらも殴り返す。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…な、なあ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、な、何よ。」

 

「一時休戦にしないか?このまま続けても…なんか不毛な気がしてきた」

 

「……そうね、こんなので不合格になったらバカみたいだし」

 

互いに身体を休めるため、ドサッと座り込む。

 

そして、できた傷を撫でる…

 

オウカといい、こいつといい。女の拳じゃねぇぞ。

 

そう思いつつ、巾着袋の中からストックして置いたきずぐすりと飲み物を取り出だす。

 

「ねぇ、あんた名前なんて言ったっけ?」

 

「あぁ…く……セタンタだ」

 

あぶねぇ…思わず本名を名乗るところだった。

 

「そう、セタンタ。私の名前はね…」

 

そして…俺はその名前を聞く。

 

「リエルって言うわ」

 

その懐かしい名前を…

 

思わず口に含んだ飲み物を吹き出す…

 

今、何て言った?

 

リエル?

 

え?……いやいやいや別人だろ…

 

……でも。

 

ジッとよく見る。

 

確かにパーツパーツはリエルに似ていなくもない。

 

……いや無いな。

 

ありえないだろ。あのリエルだぜ?あのぽっちゃリーニだぜ?

あれがこんな美女になるわけがない。

 

別人だ。別人。

 

そう考えつつ、薬を振り掛け傷を治す。

 

「んじゃ、とっとと行くぞ」

 

「ちょっと待ちなさいよ。こっちはあんたにやられた傷がまだ痛…って、あんたその顔。

……そうか、治癒の能力を持っているのね。」

 

なんだそのジト目は…

 

「私のも治して」

 

はぁ、何でだ?

 

……だが、待てよ。

 

このまま一緒に下まで降りたとする。

 

先にオウカが居た場合…。

 

リエルの怪我を見て邪推するだろう。

 

……オウカはどういう反応をするだろう。

 

あいつは剣を振るう事を始めた時から、相手を切る覚悟を決めたという。

 

そのこともあり、あいつは戦闘に関しては厳しい。

 

俺が女性をボコったとしても、そのことに関してでは怒らないだろう。

 

だが、その理由に正当な理由がなければ別だ。

 

喧嘩の原因は踏み出しが会わずにつんのめった事にある。

 

……ふむ。

 

俺は無傷。相手は怪我。

 

此れは傍から見れば俺が一方的にこの女性をボコったように見えるだろう。

 

しかもそんな下らない理由で。

 

オウカは俺の能力を知っているけど…果たしてあの猪突猛進…想い~込んだら♪一直~線♪なオウカがそんな冷静な判断が出来るだろうか……

 

無理だな……。

 

「ほれ、これを適当に振りかけろ」

 

巾着袋からすごいきずぐすりを取出し、ポイッと投げる。

 

そして傷を治した俺達はトリックタワー攻略に乗り出した。

 

今度は声を出しながら、結ばれている方の足を踏み出して…。




当初、三次試験はグリードアイランドをパクる時に使った

雷速剣舞・戦姫変生を使って落雷となって下まで飛び降りようと思ったんだけど没にしました。

そして、何故かこうなった……。

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