2017/01/26 レイアウト修正。文章の加筆・修正。
2017/05/15 文章の加筆・修正。
2017/07/17 文章の加筆・修正。
「まさか、アサシンが……?」
ウェイバーは自身の拠点である住宅の二階に於いて、瞑っていた目を見開きながら、信じられないと言わんばかりの口調で呟いた。
彼は今後の戦略を立てるための情報収集として、『始まりの御三家』の一つである遠坂邸に使い魔を放ち、敷地内の様子を伺っていた。遠坂は聖杯戦争の常連であるため、安々と尻尾は見せないだろうと考えてあまり期待してなかったのだが、その予想に反してサーヴァント同士の抗争が発生したのである。
月明かりに照らされ、静まり返った邸宅の玄関先から前触れ無く閃光が発せられたかと思うと、物の一分もしない内にサーヴァントと思しき者達が庭に現れ、戦闘を開始する。
空に漂うのは豪奢なドレスで着飾った、妖艶な気配を醸す女性、アーチャー。
地を駆けるのは黄色の衣服を身に纏い、黒鍔帽子を冠った少女、アサシン。
アーチャーは自身の力で以て空間を切り裂き、その中から光の帯を射出して絨毯爆撃を行う。戦闘に巻き込まれて使い魔が死ぬことの無いよう、離れた場所から観察していたのだが、それでも爆撃の振動と閃光は凄まじく、その場に立ち会ったかのような臨場感をウェイバーに齎していた。
庭を根こそぎ更地にするかのような砲弾の嵐の中で、アサシンはダンスを踊るかのように安々とそれらを躱していく。もしも常人がその中に放り込まれたのなら、幾秒も耐えきれずに、瞬く間に蜂の巣にされるであろう。
そんな状況にも関わらず、焦燥どころか喜悦の表情を浮かべている彼女は何者なのか。命の取り合いにしか価値を見出さない
戦いが始まって数分後、庭から嘗ての面影が完全に消え失せた頃。遂にアサシンはアーチャーの猛攻に屈し、両手足を光針により地面へと縫い付けられる。元より『空を舞う者』と『地を這う者』では、立場の優位性に大きな開きがある。つまりアサシンがアーチャーに敗北するのは必定であり、戦う前から決まりきっていたことだ。
血だらけで息も絶え絶えながらも、未だに笑みを衰えさせないアサシン。それをアーチャーは、扇で顔を隠しながら平坦な視線で見下ろす。そして幾許かの沈黙の後、彼女は扇を閉じて天高く掲げ、大きく縦に空を切った。
その時に起きた現象を、ウェイバーは未だに理解することができていない。
戦いの最中、アーチャーが周囲に展開していた小さな空間の亀裂。それが巨大化したものがアーチャーの目の前に現れたかと思うと、劈くような音とともに引き裂かれ、その中から何か大きなものが高速で飛び出したのである。
その物体の名を一言で表すならば『電車』であった。ウェイバーは知る由もないが、その鉄塊は嘗て日本国内で運用されていた代物であり、路線が廃止されてスクラップになろうとしていたところを、アーチャーが無断で拝借したのである。
今頃車両を盗まれた鉄道会社は大騒ぎであろうが、そんなことを気に留めるような彼女ではない。黄泉路に向かう途中で連れ攫われた哀れな機械は、空から放り投げられた挙句、アサシンの小さな体を押し潰して地面に激突し、胴が拉げた無残な姿を晒すことになった。
顛末を見届けたアーチャーは壊れた電車を空間の裂け目に落とすと、自身の体も同じように裂け目に潜り込ませて姿を消す。残されたのは穴だらけになった庭先のみであり、潰されたアサシンの肉体は、死んだことで魔力へと還ったのか、跡形も残ってはいなかった。
「なぁ、ライダーはどう思う?」
「んー、そうだな……」
ウェイバーは、隣に座っていたライダーに問う。彼女もウェイバーと共に遠坂邸の出来事を観察し、使い魔を通して見届けた出来事に頭を捻らせていた。
実のところ本来であれば、遠坂邸の監視はウェイバー一人で行う予定だった。その理由は偏に未だに自分勝手なライダーに対して、マスターとしての威厳を見せつけるためである。
ライダーは召喚されてからというものの、図書館から盗んできた書物を片っ端から読み耽るか、そうでなければ無断で外に飛び出して山菜――――ライダー曰く魔法薬の触媒らしい――――を摘んでくることを繰り返していたのだ。
無論のこと、ウェイバーがそれを看過するはずもなく、再三ライダーに対して無断外出を諌めていたが、本人は「後で絶対に役に立つから」と言って取り合わず、あろうことか自身が作成した怪しい薬を勧めてくる始末。更にはライダーの存在に気づいた家主の老夫婦が、「孫に漸く春が来た」と喜びの声を上げるまでになり、ウェイバーの胃を更に酷使させることとなっていた。
指示を聞かないライダーに業を煮やしたウェイバーは、ライダーを見返すための手柄を立てようと偵察のための使い魔を放つ準備を始めた。しかし何を思ったのか、ライダーは日課の読書を突如止め、ウェイバーの作業に興味を抱いたのだ。
やれ何をしているんだとか、やれどんな仕組みなんだとか、事あるごとにちょっかいを出してきたため、それを黙らせるために仕方なく偵察に同伴させることにしたのが事の顛末である。
「取り敢えず、サーヴァントの事については幾つか判ったことがある。って言っても、アサシンだけなんだけどな」
「本当か!?」
「あぁ。マスターも気づいたと思うけど、アサシンの体に球体から伸びた管が巻き付いていただろ? あれは『第三の目』って言ってな、
「妖怪? ……そう言えば文献には『
日本人ではないウェイバーにとって、『妖怪』はあまり馴染みのないものだ。時計塔の図書館で東方の幻想種に関する文献を漁っては見たものの、日本への出発前で時間が無かったことと、遙か遠方の島国の話であるために、さほど目ぼしい情報は得られなかった。
よって彼の頭の中では、『妖怪=悪魔』という簡単な図式しか成り立っていなかった。
「マスターの考えは
「人間の想像……」
「そうだ。例えば吸血鬼――――死徒のことじゃないぜ? マスターも知ってると思うけど、そいつらの生まれには疫病が大きく関わっているんだ。原因が解らない病気に恐怖した人間が、理由を求めて墓場を掘り起こしたら、
ライダーの説明に、ウェイバーは何度か頷きながら頭の中で情報を纏めていた。
魔術師にとっての吸血鬼と言えば、基本的に死徒のことを指すために一般伝承の吸血鬼については齧った程度しか知らない。しかしそれでも、ライダーが言わんとしていることは理解できた。
例えば魔術師が扱う『魔術』。それは人間の「神秘がある」という信仰によって成り立っている。
人々の集合無意識によって世界に刻みつけられた大魔術式。『魔術基盤』と呼ばれるそれを使用したシステムこそが『魔術』なのだ。それを考えると、妖怪という存在は、「人々の信仰によって生まれる」という点で魔術によく似ていると言える。
「妖怪も魔術も人間の信仰によって生まれたもの。魔術はそれを理解する者が多くなるほど力を失う。ってことは妖怪も……?」
「ご名答だぜマスター。己の存在を
幻想郷。それは、人々から忘れ去られた神秘が最後の寄る辺とする理想郷の名。
ウェイバーは時計塔で聖杯戦争について記載された書物を探す中で、その一文を一度目にしたことを思い出していた。
忘れられた幻想が集う場所。それが意味する所は、その地には現代では失われて久しい太古の神秘が、今も尚存在しているということに他ならない。もしも幻想郷に至ることができたならば、その魔術師は他の者よりも大幅に『根源の渦』に近づくことになるだろう。
その事実に気づいた時、ウェイバーの心に震えが走った。所詮自身の魔術師としての家系は、三代しか続いていない若輩である。故に甚だ腹立たしいことではあるが、数百年続いた家系に連なる者から見れば、自身は嘲笑の的でしかないことは理解できていた。だからこそウェイバーは彼等を見返すために、斯様な野蛮な魔術儀式に参加して名誉を得ようとしているのだから。
しかしこの戦いに勝利して幻想郷に至れば、それは奴らを見返すどころの話ではなくなる。普通であれば、千年でも足りぬ時間を必要とされる『根源の渦』への到達。その道程の極々一部を省略するために、昨今の魔術師がどれだけの犠牲を払っているというのか。そんな彼等の労苦を無為にする手段を手にすること。それが一体何を齎すのか、想像できないウェイバーではなかった。
「ちょっと話が逸れちまったけど、要するにあのアサシンはどんな妖怪か判る特徴を持ってた訳だ……マスター、聞いてるのかよ?」
「ん? あぁ、ごめん。 で、一体どんな妖怪なんだよ?」
「しっかりしてくれよマスター」
説明を続けていたライダーが、無言になったマスターを見て怪訝な顔を浮かべた。それに気づいたウェイバーは、思考を打ち切って何でもないかのように取り繕う。
「私の考えが正しいなら、アサシンは心を読む妖怪……『
「心を読む妖怪か……
「
「確かに。いくら考えを読めても、攻撃を避けられなきゃ意味がない」
アーチャーの爆撃は、ただ心を読めるだけでは捌ききれない。
人間のウェイバーには「気がついたら何かが地面に突き刺さっていた」としか認識できなかったそれが、何十、何百も降り注ぐのである。如何に身のこなしに優れているアサシンと言えど、無造作に飛来するそれらを全て躱し切ることはできなかったということだろう。
「ただそのアサシンがいなくなった以上、もう私たちは背中を気にすることなく戦えるってことだ。この前、私達を付け狙ってたのもあいつだったろうしな。その点についてはアーチャーに感謝だぜ」
ライダーは大きく背伸びして、その場に横になる。相変わらず緊張感がない彼女であるが、ウェイバーは既に慣れたのか、それとも諦めたのか、呆れた顔をして見下ろすだけであった。
だがライダーが言うように、アサシンが脱落したことで後ろから奇襲される懸念を払拭できたことは大きい。どこから来るともわからない脅威に警戒し続けるのは精神的に負担が重く、疲労によって思わぬ墓穴を掘ることにもなりかねないからだ。
焦燥に駆られ、無策な行動を取ったマスターの首を刈り取る。
それこそがアサシンの戦い方なのだから。
「アサシンのことはもういいとして、アーチャーはどうなんだ?」
「マスター、私は最初に言ったはずだぜ?
「でも、何か気づいたことくらいあるだろ? 僕には何が起こったのかよくわからなかったし」
サーヴァント同士の戦闘は忘却された神秘のぶつかり合いだ。一介の魔術師でしか無いウェイバーでは、その光景を
それ故のライダーへの問いかけであり、同じ次元に位置するサーヴァントである彼女ならば何か知っているだろうと期待してのことであった。
「アーチャーの正体は私でもわからない。けど、あいつの特徴くらいは説明できるぜ。それでもいいか?」
「いいよ、それでも」
「りょーかい。とりあえず、あの戦いでアーチャーが使った能力みたいなもんをおさらいしようか」
ライダーはそう口にしつつ、地面に落ちていたノートとペンを拾い上げる。それらはウェイバーが現地で購入したものであり、決してライダーが盗んできたものではない。決して。
「まずその一。アーチャーは空を飛べる。と言うより、浮くことができると言ったほうが正しいかもしれないけどな」
「どういう意味だよ?」
「マスターには見えなかったかもしれないけど、アーチャーは宙に浮く
「そういうものなのか?」
「そういうものだぜ」
ライダーの話を聞いて、ウェイバーはまた一つ幻想郷について知識を得る。
彼女の言葉を考えるに、幻想郷では魔術を使わずとも空を飛ぶことができるようだ。どのような理論なのかはわからないが、幻想郷の地に在る高濃度の神秘がそれを可能としているのだろう。魔術を介さなくとも神秘を操ることができるとは、やはりその地は規格外の霊地なのだとウェイバーは再認識する。
「そしてその二が、空間を切り開ける。で、その中から色々なものを取り出せる。電車なんかも入ってることを考えると、中はかなり広いと思うな。もしかしたら、あれよりも大きなものがあるかもしれない」
「例えば、どんな?」
「さぁ? ICBMでも入ってたりしてな」
「……」
その言葉を聞き、ウェイバーの心中は一気に穏やかではなくなった。
普段であれば笑い飛ばす所だろうが、
もしも本当に核弾頭を持っていたとして、それを使われでもしたら聖杯戦争どころの騒ぎでは済まなくなるだろう。それにより齎される被害は、「核弾頭は神秘ではない」という理由で神秘漏洩の観点では問題はないだろうが、その後の収拾をつけることはまずもって不可能だ。そもそも、その時には自身は既にこの世にはいないだろうから、気にするだけ無意味かもしれないが。
「まぁともかく、あの空間を切り開く能力からは魔術の気配がしなかった。大方宝具だろうな。宝具ってのは
そんな言葉を零しながら、ライダーは再びだらしなく床に寝そべる。
彼女が言うように、今自分達の手元にある情報でアーチャーの正体を掴むことは不可能に近い。情報自体はあるものの、その尽くが意味不明で使い物にならないのだ。あのサーヴァントを完全に理解するためには、直接アーチャーに対峙することも視野に入れる必要があるだろう。
しかし、それを行うのは最後の手段である。アーチャーに対して真正面から勝負を挑むなど、とてもではないが賢い選択とは言えない。ライダーのステータスは一部を除いて平均以下なのだ。そんな彼女が、あの光線の嵐の中を生き残れるとは到底思えない。
聖杯戦争の勝利条件は
ただ問題があるとすれば、ライダーがウェイバーの指針に従ってくれるかどうか。まだ数日程度の付き合いであるが、彼女の性格についてはある程度把握してきている。落ち着きのないライダーにとって、籠城紛いの作戦は肌に合わないに違いない。最悪、ウェイバーの指示に従わずに勝手に行動することすらあり得る。
もしそうなれば、ウェイバーは文句を吐き捨てつつも泣き寝入りするしかなくなる。彼はサーヴァントに対して毅然な態度が取れるほど、まだ肝は座っていないのだから。
「とりあえず他の場所で何か起こってないか、もう少し観察してみよう」
「おーマスター、頑張ってくれ。私は内職に戻ることにするぜ」
「それは別にいいけどさ。
ウェイバーは部屋の片隅に積まれた山を指差して嘆息する。
その山の正体とは、ライダーの魔の手によって図書館から誘拐された哀れな書物達である。彼等は現在ウェイバーの部屋の片隅に住居を移しており、その居住面積は部屋の半分以上を侵食するまでになっていた。そして残りの空間の大部分はライダーの魔術具作成のためのスペースとなっており、ウェイバーが使用できる場所は僅かしか残されていないのだ。これでは、どちらが部屋の所有者なのかまるでわからない。
しかしそれ以上に懸念していることが、盗難した書物を探し求めている国家権力がこの場所を嗅ぎつける可能性だ。聖杯戦争の只中で警察にお世話になるなど笑い話にもならない。ウェイバーとしては厄介なことになる前に、さっさと書物を元の場所に戻してきてほしかった。
「えー、まだ全部読んでないし」
「ここは僕の部屋だぞ? それなのに僕のスペースが殆どないじゃないか! ベッドの上まで本を積みやがって、何処に寝ればいいんだよ!」
「人間、その気になれば何処にだって寝られるぜ? 私なんか向こうにいた時は椅子の上で寝るなんてしょっちゅうだったし。あ、勿論枕は本だぜ!」
「胸を張って言うことかよ!?」
ドヤ顔を決めるライダーに、ウェイバーは怒声を上げた。
幸いなことに、家主である老夫婦にはウェイバーの部屋に入らないよう暗示をかけているため、この騒ぎによって彼等が部屋に踏み込んでくることはない。精々「ちょっと騒がしい」程度の認識だろう。「年頃の男女がいる部屋で騒ぎが起きている」という時点で色々と不味いのだが、魔術を知られるという最悪の事態に比べればどうということはないのだ。
ウェイバーは興奮が冷め止まぬまま、ぶつくさとライダーへの文句を言いながら使い魔による偵察作業へと戻る。そんなマスターの姿を見ていたライダーは、何故か気分良さそうな笑いを浮かべながら自身の領域へと身を引っ込めるのだった。
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翌日。その日は休日ということもあって、冬木市の東部に位置する新都は市民によって大きく賑わっていた。
人々の様子からは、昨夜遠坂邸の庭が全壊したことなど微塵も感じられない。その事実は遠坂の隠蔽魔術がどれだけ優れているのかを、そして聖杯戦争の隠蔽工作を行っている部隊の腕の良さを如実に表していると言えよう。自分達の住む街が魔術師達による殺し合いの舞台になっていることなど露とも知らず、人々は今日も平和の風を存分に満喫していた。
そんな平穏な昼下がりの中、街ののどかな雰囲気を一切気に留めることなく、部屋に引きこもる者共がいた。清潔で真新しい高層ビルが幾つも立ち並ぶ中、隠れ潜むかのようにして聳える古びたビジネスホテル。前時代的な気配を漂わせる建造物に一室において、一組の男女がブラウン管に映し出される映像を注視している。
部屋に備え付けられた、安物の椅子に座る男の名は衛宮切嗣。言わずもがな、セイバーのマスターである。
彼はアイリスフィールとセイバーに先んじて、聖杯戦争の舞台となる冬木市に来訪していた。その理由は、「セイバーの
一方、切嗣の傍らに立つ女の名は
抜き身のナイフのように鋭い目つきをした彼女の実態は、切嗣の協力者であり、右腕であり、そして道具である。彼女と切嗣の関係は、アイリスフィールのそれよりも古い。二人の初めての邂逅は十一年前、咽返る程の硝煙の匂いが立ち込めた炎の中でのこと。それ以来、彼等の間には必ず戦場の影が付き纏っており、それ故に二人の関係は数多の血潮に塗れたものとなっていた。
「映像は以上になります」
「あぁ。監視ご苦労だった、舞弥」
ビデオデコーダーが停止の音を鳴らし、テレビは沈黙する。
ビデオに録画されていたのは、昨夜遠坂邸で起こった出来事の映像記録である。遠坂邸の玄関先で起きた爆発から始まり、サーヴァントの対峙、空に浮かぶ遠坂のサーヴァントによる宝具の展開、一方のサーヴァントが鉄塊に押しつぶされる瞬間に至るまで、使い魔に括り付けられた小型カメラにより余すことなく記録されていた。
「舞弥、あのサーヴァント達をお前はどう見る?」
切嗣は根本まで灰になった煙草を灰皿に押し付けると、舞弥に映像の意見を集う。
機械によって記録された映像からでは、マスターの特権である透視力を用いてサーヴァントのステータスを読み取ることは叶わない。それ故の切嗣からの問いかけであり、それに対し舞弥は一瞬の間を置いて自身の考えを口にした。
「私の予想では、遠坂のサーヴァントのクラスはアーチャー、戦闘を仕掛けたサーヴァントのクラスはアサシンだと考えられます」
「その根拠は?」
「まず遠坂に戦闘を仕掛けたサーヴァントですが、あのサーヴァントの特筆するべき所はあの身のこなしです。軽業師のような動きをこなせるのは、ランサーかアサシンのどちらか。ライダーなら騎乗するものを出すでしょうし、直接戦闘に向かないキャスターは論外。バーサーカーにしては、動きが理性的すぎるように思えます。そして戦闘中最後まで槍を手にしなかったことから、ランサーである可能性も低いでしょう」
「……」
「次に遠坂のサーヴァントですが、あのサーヴァントは最後まで遠距離攻撃しかしていません。この時点で、得物が車馬に類するものであるライダーは除外されます。ランサーについては、クラスの特徴である俊敏性を無視した
すらすらと並び立てられる舞弥の意見を、切嗣は終始無言で傾聴する。彼女の意見は、切嗣が考えているものと大きな差はない。時臣のサーヴァントのクラスとして、最も可能性があるのはアーチャーであり、所属不明のサーヴァントがアサシンであることはほぼ明らかだ。
無論のこと、能力のカモフラージュが行われていることは否定できないが。
「僕も同じ意見だ。ただ、まだ実力を隠している可能性もある。情報も少ないし、先入観に囚われないように気をつける必要があるな」
「はい」
「とりあえず、奴らがアーチャーとアサシンだと仮定して話を進めようか。舞弥、この展開をどう考える?」
「功を急いだアサシンのマスターが遠坂に攻撃を仕掛け、遠坂はそれを返り討ちにした、という展開が一番妥当だと考えられます」
「あぁ、
切嗣は舞弥の意見を肯定しつつも、その結論で思考を終わらせるようなことはしなかった。
生粋の暗殺者である彼にとって、最も恐れるべきことは狩るはず獲物に追われる立場になることである。切嗣は謀殺を得意とするが為に、正面から相手と戦うことが苦手だ。学者然とした魔術師ならば、精神的な揺さぶりをかけて隙を生み出すことはできるだろう。しかし殺し合いに慣れた者、そして動揺を誘えない者には、切嗣の戦い方はあまりにも無力なのだ。
絶対的な優位性を保持し続けるためには、油断や怠慢は何よりも大敵である。だからこそ切嗣は、その思考を滞らせるようなことは絶対にしない。
「舞弥、アサシンのマスターについては?」
「その者に関しては、昨夜教会から告知がありました。アサシンのマスターは脱落、監督役の保護下に置かれたと。名は言峰綺礼だそうです」
「……とすると、益々怪しくなってきたな」
舞弥の言葉を聞き、切嗣は再び煙草に火をつけると、ぽつりと言葉を漏らす。その瞳は先程と打って変わって険しいものであり、氷のような冷徹さを感じさせる眼光を放っていた。
「舞弥、教会に使い魔を。数は一、敷地のぎりぎり外に念入りに隠しておけ」
「よろしいのですか? 教会は不可侵領域に指定されているはずですが」
「問題ない。これは牽制だからね。僕の予想が正しければ、使い魔を見付けたとしても、こちらに忠告してくるようなことはないだろう。……疚しいことをしているのは、向こうも同じだろうからね」
「と、言いますと?」
「僕達は
「わかりました。直ぐに使い魔を協会に向けて飛ばします。」
切嗣の言葉に
切嗣が懸念しているのは、時臣と綺礼が裏で手を組んでいる可能性だ。この二人と監督役の関係は非常に密接であり、共謀している可能性は否定できない。時臣と綺礼は魔術の師弟関係にあり、聖杯戦争が始まる直前に仲間割れしたという情報を入手していたが、無論のことそれを鵜呑みにするほど切嗣は愚かではない。
この聖杯戦争において、切嗣が最も『危険視』するべき人物は言峰綺礼ただ一人。他の魔術師も勿論脅威ではあるが、彼等が魔術師である以上対策も取りやすいため、精々『厄介』程度の認識である。
では何故、言峰綺礼は危険視するに足る人物なのか?それは切嗣から見て、言峰綺礼という人間は
輝かしい出世街道を外れ、聖堂教会と呼ばれる血塗れた修羅道に自ら足を踏み入れた男。そして人間兵器とも揶揄される『代行者』にまで上り詰めながらも、聖堂教会とは犬猿の仲である魔術協会に出向し、更には聖職者にとっては禁忌である魔術を数多く習得しているという矛盾。
そこから切嗣が下した言峰綺礼への評価は、「どこまでも空虚な人物である」というものだった。
執着心が皆無である言峰綺礼には、切嗣が得意とする精神を揺さぶる戦法は全く通じない。そして『元・代行者』という肩書きから、真正面は言わずもがな奇襲による勝利も困難だろう。正に『
だが奴に勝利しなければ、切嗣が聖杯を手にすることは叶わない。切嗣が思い描く恒久平和の夢は霧散し、彼が夢のためにこれまで捧げてきた犠牲は、その尽くが無価値なものへと貶められることになる。そのような結末は断じて許されるべきことではないし、何より
(気の利いた言い方をすれば、これは『試練』というやつなのかもな。別に神なんて信じちゃいないが)
自身の故郷を焼き払われ、数々の
しかし、それももうすぐ終わる。聖杯さえ手にすればこの世の地獄は全て一掃され、人類は石器時代から漸く前進することができるのだから。
「舞弥、装備の確認をしたい。準備してくれ」
切嗣は冷え切った心のなかに燻る情念を秘めつつ、己の部下に指示を出すのだった。
ライダー先生の妖怪講座。
型月世界の設定と東方世界の設定が混ざってるので、
もしかしたら齟齬が生まれているかもしれませんがご容赦ください。