以前別のサイトに投稿していたものを加筆、修正して投稿させていただいております。
誤字脱字、矛盾もあるかもしれませんが、とにかく楽しんで頂く事を祈ります。
それでは、行ってらっしゃい。
第一話 咲き誇る氷結の花
視点:???
……
…………
………………
……ざわ……ざわ……
……ざわざわ……
「……」
目を覚ました時、周囲からざわめく声が聞こえてくる。
大勢の、若い少年少女の声。
ある者は興奮し、ある者は明るい声を出したと思えば、ある者はショックなことがあったのか、大変項垂れています。
その理由は分かっています。そして、座った状態のままうっかり眠ってしまっていた私もまた、その事柄の順番を待つ者の一人。
眠っていたままの体勢でジッと座り、その時が来るのを待ちます。
その間、周囲からの多くの視線が私を襲います。当然理由も分かっていますし、こういう事にも慣れているので今更気になりません。
今はただ、静かに時を待つだけです。
そして、遂にその時が来ました。
「受験番号1-B番、準備して下さい」
受験番号1-B番。私のことです。
ひざの上に乗せた、白く光るデュエルディスクを手に立ち上がり、控室から出ます。そして廊下を歩き、デュエル場の前に立った時、先程以上に多くの、興奮の声が私を包む。
ここは未来の
試験の内容は、一に筆記、二に実技の成績を見ます。確か実技での受験番号は、筆記での成績で決まります。
私は受験番号1-B。
随分特殊な数字ですが、何でも私と共に筆記で一位を取った方、1-Aの方がいて、今私の前でデュエルを行っているということです。
目の前には灰色の制服を着た少年が、黒い服を着た試験官さんと向かい合っています。
彼の前には、
彼は余裕な様子でデュエルディスクに手を伸ばします。
「罠発動、『破壊輪』!」
その声と同時に、ブラッド・ヴォルスの首に手榴弾の付いた首輪が掛かります。
『破壊輪』は、フィールド上のモンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージをお互いに与える。
『ブラッド・ヴォルス』の攻撃力は1900、そして二人のライフは……
終わりですね。
「ぐあー!!」
試験官さんの悲鳴が上がり、同時にライフはゼロに。
最後に立っていたのは、灰色の制服の少年でした。
視点:三沢
「見事なデュエルだった」
「ありがとうございます」
デュエルを終え、試験官と握手をする。少なくともこれで合格は間違い無いだろう。
気になるのは、筆記で俺と同率一位、俺と同じく満点を取ったという受験番号1-B番の存在。もっとも、控室で待っていた間に大方の目星は付いた。
そいつはかなり目立つ格好をしていた。ほとんどの人間が制服姿である中、一人だけ私服だった。いや、あれは私服と呼んでいい物なのかすら怪しいが。
そして何より、みんなが緊張や興奮といった感情を露わにしていたにも拘わらず、そいつは余裕だというように居眠りを決め込んでいた。それが余裕なのか、それとも疲れなどから来たものなのかは分からないが、とにかく、色々な意味で面白い存在だ。
そんな存在を頭に浮かべていた時、『彼女』は目の前に立っていた。
「やあ」
軽く声を掛けると、彼女はこちらに目を向ける。
ずっと座っていたから分からなかったが、身長は思った通り、俺より頭一つ分短いくらいだろうか?
「やはり君が1-B番か。そんな気はしていたが、正直少し驚いているよ」
そう言うと、彼女は無言で笑顔を見せた。
大きく光る目、小さな鼻、艶やかな唇、白く輝く肌。思わず見とれてしまうほどの美しい笑顔だ。いや、美しいのは顔だけじゃない、とにかく、彼女は全てが美しかった。
顔と同じく、透き通るように白く光っている、首や手といった露出した部分の肌。後ろで一本に縛ってある腰の辺りまで伸びた黒髪も、艶があり光っている。
そして何よりも目立つのが、青色に輝く、着物。青色の布地にいくつも施された白い花の刺繍が輝いていて、一瞬彼女が妖精に見えてしまう。雪の結晶の形をした髪飾りもそう見せているのかもしれない。姿と雰囲気から、本当に雪の妖精のようで、とにかく美しかった。
「受験番号1-B番、デュエル場へ」
その声で、一瞬呆けていた俺は我に返ることができた。
彼女は俺に話し掛けようとしたようだが、呼ばれたことで試験官の方を見ている。
「じゃあ、頑張ってくれ」
一言だけ言い、急いで観客席へ走る。
向き合い、話してみて分かった。
彼女はとても強い。雪のように透き通る美しさの中に、確かに俺は感じた。
これからきっと、凄いデュエルが見られると。
客席に着くと、何とか間に会ったようだ。彼女はまだデュエルディスクを手に持ったままだ。
「綺麗な人だなぁ……」
目の前に立っている、眼鏡を掛けた水色髪の少年がそう言った。
そう言ってしまうのも分かる。彼女は本当に美しいのだから。
「名前と受験番号を」
そう彼女に声を掛ける試験官も、どこか声が浮ついているように聞こえる。それによく見れば、周りに座っている、男女問わず生徒のほとんどは彼女に見惚れている。彼女がどれだけ美しいのかを嫌でも再認識されてしまうな。
そんなことを考えながら彼女に目を向けた時、彼女は口を開いた。
「受験番号1-B番、『
視点:万丈目
『男ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!??』
水瀬梓。
あの男の発言に、デュエル場は騒然となった。
まあ確かに、あいつはどう見ても男子には見えない。服装から容姿から、全てが明らかに少女のそれだ。
ただ、声だけは違う。
やや高めではあるが、それでも明らかに少年の声をしている。
「男……あの美しさで……男……」
「そんな……バカな……」
左右に座っている取巻き二人もショックを受けている。
哀れだな。
俺にはよく分からんが、とにかく男であることが相当ショックだったらしい。まあ、あんな和服美人と付き合うのは、男としてハッピーかもしれんが、どの道俺には興味が無い。俺には既に、心に決めた人がいるのだからな。
「で、では早速、デュエルを開始する」
試験官も、驚いて呆けていたのがようやく元に戻ったようだ。
どの道、直前の三沢大地もそうだが、水瀬梓、受験番号1番になるほどの頭脳の持ち主。
まあエリートである俺にはあまり関係の無いことだろうが、実力がどれほどの物か見せて貰おうじゃないか。
視点:梓
やはり、どこでも反応は同じですね。まあ、好きでこんな格好をしている上に、昔から顔も女性そのものなのだから仕方が無いと言えばそれまでなのですが。
「で、では早速、デュエルを開始する」
「はい」
返事をし、私は左腕にディスクを装着し、左腕の袖から青色のデッキケースを取り出します。
しかし、それを見た瞬間、昨日まで感じていた不安が、今になってまた蘇ってきました。
このデッキは、試験の二週間ほど前に出会ったカード群で構成されたデッキ。それまで使っていた物とは明らかに違う物。
しかし、彼らと出会った時、確かに私は感じた。彼らと私の間には、何か切ることは出来ない大切な、絆のような物があると。同時に彼らとは、共に戦っていかなければならないと。だから私はそれまで使っていたデッキを置き、彼らと共に行くことを誓ったのです。
しかし、やはり不安です。
いくら絆を感じたとはいえ、出会って半月ほどしか経っていない。もちろん、私なりに彼らの特性を活かすため、今日まで試行錯誤してきました。かといって、それで彼らは応えてくれるのか。本音を言えば、今このケースに入っているデッキさえ、まだまだ未完成なのだから。
怖い……
負けることや、試験に落ちることがではない。
負けることで、彼らの期待を裏切ることになるのではないか。
私の感じた絆は、そこで絶えてしまうのではないか。
それがとても怖い。
二週間という短い時間でも、彼らにはそれを感じさせる何かがある。その何かを失うことが、私は堪らなく怖い……
「……大丈夫か?」
遠くから聞こえた気がしました。そして、そちらを見ると、試験官さんが心配そうに見ていました。
「デュエルはできるのか?」
「……あ、はい、申し訳ありませんでした」
慌てて返事を返しました。それと同時に見てみると、どうやら客席にいた人達も、私の様子がおかしいことを気にしたらしく、一様に心配そうな目を浮かばせています。
その時、思い出しました。
そうだ。不安など、形はどうあれ今日ここにいる人達全員が感じている。それに、自慢したくはありませんが、私は受験番号1番という、誉れある称号を与えられた身。そんな私が、不安ごときに負けるわけにはいきません。
怖いことは変わらない。ですが、私は、その恐怖を乗り越えます。
視点:亮
どうやらもう心配は無さそうだ。
水瀬梓といったあの少年、デッキを見ながら、何かに苦しんでいるような顔を見せていた。しかし、試験官に話し掛けられ、その直後に周囲の生徒達を見て、その表情から不安は消え、変わりに強い決意が伝わってくる。
何を不安に感じていたかまでは分からないが、それを断ち切る覚悟を決めたようだ。
「ようやく、彼のデュエルが見られそうね」
隣に立つ一年女子、『天上院 明日香』が話し掛けてくる。
俺は頷き、明日香と共に水瀬梓に集中した。
視点:梓
ケースからデッキを取り出し、ディスクにセットし、試験官さんと向き合います。
「準備が出来ました」
「よし。では始めよう」
「はい!」
お互いにデッキから五枚のカードを引き、手札を作る。
『
試験官
LP:4000
手札:5枚
場:無し
梓
LP:4000
手札:5枚
場:無し
「先行は私だ。ドロー」
試験管
手札:5→6
試験官さんがカードをドローした時、私も自分の手札を見ますが……
これは……
「行くぞ。私はフィールド魔法、『伝説の都 アトランティス』を発動する」
足元に大量の海水が発生し、あっという間に私や試験官さん、そして周囲の人間を沈め、同時に風景が海の底の、古代神殿に姿を変えます。
「アトランティスがフィールドに存在する限り、手札とフィールド上の水属性モンスターのレベルは一つ下がり、フィールド上の水属性モンスターの攻撃力、守備力は200ポイントアップする! 私は手札より、レベル5から4に変わった『ギガ・ガガギゴ』を召喚!」
『ギガ・ガガギゴ』
レベル5→4
攻撃力2450+200
鉄の鎧に包まれた、トカゲでしょうか? そんな感じの殿方が目の前に立ちました。
「先行は1ターン目での攻撃は不可能。私はカードを1枚伏せ、ターンを終了しよう」
試験官
LP:4000
手札:3枚
場 :モンスター
『ギガ・ガガギゴ』攻撃力2450+200
魔法・罠
フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』
セット
試験官さんがエンド宣言をするまで、私は食い入るように手札を見ていました。
「私のターン、ドロー」
梓
手札:5→6
今引いたカード……
そして、この手札……
そうですか。それがあなた達の、私への答えなのですね……
「私は今引いた速攻魔法、『サイクロン』を発動!」
目の前にカードを掲げた瞬間、フィールドに竜巻が巻き起こる。
「試験官さんのセットカードを破壊!」
竜巻に巻き上げられたカードは、『激流葬』。
危ない所でした。やはりこのデッキは……
「私は永続魔法、『ウォーターハザード』を発動!」
「……君も水属性デッキか」
試験官さんがそう呟いたのが聞こえました。まあ、誰でも分かることですよね。
「このカードが存在する限り、私の場にモンスターが存在しない時、手札からレベル4以下の水属性モンスターを特殊召喚することができます。この効果で、私は手札の『氷結界の水影』を特殊召喚!」
私の前に大きな水柱が発生し、その中から紫色の服を着た、金髪の忍者が姿を現しました。
『氷結界の水影』
レベル2→1
攻撃力1200+200
「そしてこの瞬間、速攻魔法『地獄の暴走召喚』を発動!」
「な!? そんなことをしたら!」
試験官さんの口から驚きと、何やら呆れた風な声が漏れました。まあ、無理も無いかもしれませんが。
「相手の場にモンスターが存在する時に攻撃力1500以下の『氷結界の水影』を特殊召喚したことで、私はデッキより、新たに『氷結界の水影』を二体、特殊召喚します。試験官さんの場には『ギガ・ガガギゴ』が一体、手札かデッキから、同名カードを可能な限り特殊召喚願います」
『氷結界の水影』
攻撃力1200+200
『氷結界の水影』
攻撃力1200+200
『氷結界の水影』
攻撃力1200+200
『ギガ・ガガギゴ』
攻撃力2450+200
『ギガ・ガガギゴ』
攻撃力2450+200
『ギガ・ガガギゴ』
攻撃力2450+200
「プレイミスかね? わざわざ三体にしてくれるとは。おまけにアトランティスの効果で攻撃力がアップしているとはいえ、それでは『ギガ・ガガギゴ』には勝てない。それなのに攻撃表示とは」
「何やってるんだあの人?」
「どうしてわざわざ相手の場に上級モンスターを?」
「プレイミスかよ」
「これであの人も終わったな」
そんな声が周囲から聞こえますが、関係ありません。
なぜなら、私は確信しているからです。このカード達。彼らとの絆、繋がり、それらは全て、本物だったと。私の信頼に、彼らは確かに応えてくれました。
「『氷結界の水影』の効果、自分フィールド上にレベル2以下のモンスターしか存在しない時、相手に直接攻撃することができます!」
「なに!?」
彼らが応えてくれるなら、私は何も怖くない。
共に行きましょう。今はまだ形すら見えぬ、しかし確かに存在する、私達の目指すべき場所へ。
「『氷結界の水影』三体で、試験官さんにダイレクトアタック!」
三人の水影の姿が消えた、その瞬間、私の足元が突然凍りつきました。
氷はあっという間にフィールドを飲み込み、全てを氷の世界へ。まるで私を中心に、氷の花が咲いたように。それは妖しくも美しい、涼しげながらもどこか暖かい、幻想的な空間。
その空間で、私はもう一度叫びます。
「氷結・斬影の形!」
「三!」
(ズバ!)
「うお!」
「連!」
(ズババ!)
「がは!」
「斬!!」
(ズバァ!)
「ぐあああああああああ!!」
試験官
LP:4000→0
『ワンターンキル……!!』
最後の試験官さんの悲鳴とほぼ同時に、水影達は私の前に戻って参りました。
そして、三人は私を一瞥し、消えていきました。
同時に仮想立体映像である氷の世界も消え、辺りは通常の決闘場に戻ります。
「……」
怖がる必要も、不安を感じる必要も、始めから無かったのですね。
あなた方は始めから私のことを信じ、勝利を与えてくれた。
改めて、私と共に戦いましょう。私の愛するデッキ。私の愛するカード達……
視点:外
決闘に勝利した直後、梓は左手の決闘ディスクを抱き締めるように胸に抱き、右手をデッキに添え、目を閉じた。その表情にはうっすら微笑がうかがえる。
たったそれだけの動作に、決闘場に集まった視線は、一瞬にして彼に注がれた。
「う、美しい……」
「きれい……」
並んで立っていた二人の少年、『三沢 大地』と『丸藤 翔』。
自身でも気付かぬうちに漏らした一言だった。
梓の容姿はもちろんのことだが、表情、立ち居振る舞い、そして何より存在自体。それら全てが、美しく輝きを放っているように見えた。
まるで、決闘場という鉄の塊が広がる場所から、手を押し広げるように咲いた一輪の青い花のように。
仮にデュエルの女神という物が存在するとするならば、彼にこそその言葉は相応しいのかもしれない。梓の性別は男だが、そんなことは気にならないほどの輝きを、デュエル場にいる者全員が感じた。
そして、その美しさの正体。それに、形はどうあれ気付いた者も数人いた。
(どうしてかしら? 今までデッキと向き合っているという決闘者は大勢見てきたつもりだけど、彼ほど明確に、カード達への愛情を感じる人は初めて見たわ……)
中等部女子のナンバーワンに君臨する少女、『天上院 明日香』。彼女はその美しさの中にあるカードへの愛、それを、敏感に感じ取った。
(そうか。彼はデッキを愛しているのはもちろんだが、彼もまた、デッキに愛されている。だからカードと触れ合った姿が、あんなにも輝いているのか……)
決闘アカデミアで『カイザー』の称号を欲しいままにする実力ナンバー1、『丸藤 亮』。彼もまた、その美しさの正体に気付いていた。
そしてここにもう一人、その美しさの正体に気付いた人物。
(……! く、いかん! 俺まで一瞬奴の美しさに見とれてしまった。まさかここまで、決闘を愛し、決闘に愛されている人間が存在するとは……)
左右で梓の姿に無言になってしまっている取り巻きを前に、『万丈目 準』は一人、悔しさと、嫉妬を芽生えさせていた。
中等部でトップの成績を維持し、エリートとして君臨し、その身には既に実力随一の寮、『オベリスクブルー』の制服に身を包んでいる。
だがそんな彼でさえ、決闘を愛することはできても、決闘に愛されるという境地には未だ到達できずにいた。
そんな万丈目にとって言えば、同い年ながら目の前で輝く梓の存在は、感動を通り越して嫉妬を、そしてそれさえ通り越し、怒りさえ芽生えさせる存在と化していた。
(おそらく奴はそう遠くないうち、アカデミア最大の脅威となる。だが、負けてたまるか! 入学したてである奴に、アカデミアのエリートである俺が負けることなどあってはならない!!)
そうして、梓を中心に、それぞれがそれぞれの思いを抱いた空間に、その空気を壊す声は響いた。
「すいませーん!!」
廊下から聞こえたその声に、梓は反射的に振り返る。その瞬間、黒の学生服を着た少年とぶつかり、上下に向かい合う形で仰向けに倒れてしまった。
「痛てて、大丈夫か?」
「ええ……あなたは?」
「俺は大丈夫だけど」
上下に向かい合いながら、そう気軽に会話を始めた。
「そういやお前、決闘見てたけどすっげえ強えんだな!」
少年は興奮を隠しきれない様子で、倒れた体勢のまま立ち上がろうともせずそう話し掛ける。
「カード達が応えてくれたお陰です」
「ああ。お前のデュエル見て、カード達に好かれてるのがすっげえ伝わってきたぜ!」
梓もまた、現在の体制を直そうとはしない。ただ気軽に会話をするだけ。
「俺は『遊城 十代』。よろしくな!」
「『水瀬 梓』と申します。よろしくお願いします」
「ああ。お前みたいな強い奴を見てると、それだけでワクワクしてくるぜ!」
「それは嬉しい言葉ですね。私より強い人というのは大勢いるでしょうが。もしかして、あなたもその一人ですか?」
「お、分かるかぁ?」
「ゥオッホン!」
二人の会話を中断したのは、そんな咳払いだった。
「あなたガータ、いつまでそんな体勢でいるつもりナーノ?」
かなり癖のある口調に、真っ白な肌と青の制服。実技担当最高責任者『クロノス・デ・メディチ』は顔を赤く染めながら、二人に怒りの声を上げていた。
「そんな体勢って?」
「何か問題でも?」
「問題大アリナノーネ!! 早く立たないと公然
能天気に尋ねる二人にまたクロノスは叫ぶ。
クロノスの怒りももっともだ。梓も十代も、現在の自分達の状況を分かっていない。
十代が上になり、梓がその下に倒れている。おまけにぶつかった拍子に着物が乱れ、梓の白く光る胸元が、細身な二の腕が、そして太腿が、エロティックに露出してしまっている。
まるで十代が梓に襲い掛かり、梓は無抵抗のまま成すがままにされているかのように。
実際クロノス以外にも、それを見ている者全員が一様に顔を赤らめていた。
「警察って……何だよ、何とかわいせつ罪って?」
「公然猥褻罪というのはですね……」
「ンガー!! いいから早く立つノーネ!!」
結局二人とも釈然としないまま、クロノスの悲鳴に立ち上がった。
梓が着物を直していると、また十代は梓に話し掛けた。
「なあ梓、今度俺と決闘しようぜ!」
「ええ。アカデミアで会いましょう。十代さん」
最後にそう会話し、梓は去ろうとしたが、
「あっ」
何かを思い出し、踵を返して客席とは逆方向へ走った。
そこは、試験官達の座る席。その前をしばらく歩きながら、ついさっきデュエルをした試験官を見つけ出した。
「良きデュエルを、感謝致します」
礼を言いながらお辞儀をし、今度こそ客席へ。
その一連の行動に、礼を言われた試験官はもちろん、そこにいた試験官全員が笑顔を見せた。
その後、受験番号110番『遊城 十代』は、実技担当最高責任者でありながら、試験用のデッキではなく、自分のデッキを手に試験官として対面した『クロノス・デ・メディチ』を下した。
「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ」
「格好良いー」
「どうやら、1-B番以外にも、警戒するべき人間はいたようだな」
「遊城十代、面白い奴」
(……)
(まさか110番の落ちこぼれが、クロノス教諭を倒すとはな)
遊城十代。彼もまた、多くの生徒達に多くの思いを芽生えさせた。
そして、梓もまた。
(本当に、これからが楽しみです)
本当に楽しそうにデュエルをする十代の姿に、そして、ようやく思いを分かち合うことができた自分のデッキに、未来への希望を抱いていた。
お疲れ様でした。
梓の見た目ですが、おそらく皆さんが真っ先に思い浮かんだ『梓』で問題無いかと。ポニテにして着物着せて下さい。ただし、CVは全く違います。
三話辺りでCVが発覚すると思うので、ちょっと待ってね。