お馴染みの特別編ですよ~。
てなことで、行ってらっしゃい。
視点:梓
「苦染増……?」
いつものように数人の女子に囲まれ、話題に上ったのはそんな言葉でした。
「何ですか? その明らかに恐ろしげな催しは……」
そんなものが明日行われると言われると、恐怖しかありません。明日は寮の自室で大人しくしておくべきでしょう。そうしましょう……
「……梓さん、まさかそれも知らないのですか……?」
「……」
何やら心配そうに言ってきた言葉に、さすがに罪悪感が芽生えました。
「冗談です。いくら私でも『クリスマス』くらいは知っております」
過去に二度ほど、今まで知らなかった催しの時も同じようなやり取りをしたので、今回も思わずそう言ってしまいましたが。
もっとも、毎年テレビで騒がれ、街が飾りつけされ、周囲がそんな空気になっていれば、むしろ全く知らないという方が無理があります。
「それで、その……明日はクリスマスイブで、ちょうど学校もお休みですが、梓さんは、明日は、ご予定はおありで……?」
「……」
顔を赤くしながら、そんなことを尋ねてくる。
何をしたいのかは分かっております。できれば、それにお応えしてあげたい。しかし、私にも、その日に対する欲求くらいはある。
「すみません。明日は、私にも予定があります……」
彼女達の気持ちは、よく分かる。しかし、何もこの日を楽しみに待っていたのは、彼女達だけではない、ということです。
『……』
彼女達も、どうやら分かってくれたらしい。そりゃ、いくら皆さんが私のことを思って下さっても、その私に、その……本命、がいる以上、彼女達が私に対して期待している欲求を、私もまた懐いているということを理解したことでしょう。
「……分かりました。では、私達は、これで……」
「え、ええ……」
明らかに肩を落とし、気落ちしながら、歩いていく。
「……」
視点:外
教室を出て、廊下を歩きながら、梓が脳裏に浮かべるのは、直前に別れた女子達の顔だった。
「……悪いことをしましたでしょうか」
んなこたぁねえよ。さっきお前さんも言ってたけど、誰だって、思い人に何かを期待したい気持ちは同じなんだからや。ただその期待の数が、多かったか少なかったか、それだけのこったら。その期待を裏切ったところで、梓が文句言われる筋合い無えよ。
「そういうものですか?」
そういうもんだよ。まあ、誰からも期待されたことのない俺が言うのもどうかとは思うけど。
「……そんなふうに言われると、確かにそうですね……」
そ。いやまあ、俺は別に良いんだよ。興味ないし、期待なんてされたって、それに応えようと頑張るんは疲れるだけさね。のびのーび、自分のしたいこと追及する方が楽しいってもんだいや。
「ふむ……それは、自堕落、ということでしょうか?」
まあ、否定はしねえよ。俺には難しいことなんて分からないし、考えても頭痛くなるだけだしね。考えるのは、今日の飯の献立と、今月のお小遣いの残高と、お米と洗剤の残高、あとは、次のお話しの展開。それだけで十分。
「……妙なところはしっかりしているのですね……」
……てか、話しが逸れた。とにかく、平家あずさを探すのじゃろ?
「そうでした」
本来の目的を思い出し、梓は目的の、意中の人物を探すため、校内を回った。
意中の相手は、すぐに見つかった。
彼女は女子ブルー寮へ帰る道のりを、今日も変わらぬ様子で、一人、歩いていた。
その背中は、とても孤独だった。女子ゆえに線が細く、とても小さい。身長も、梓とそう変わり無い。だというのに、どこまでも強大な、力強さを感じさせる、梓以上に大きな背中に見えた。もし、平家あずさのことを全く知らない人間が見たとしても、その後ろ姿だけで、話し掛けることは愚か、近づくことすら敵わないことだろう。
そして、そんな少女の背中ではなく、前面を見たなら、その強烈な力強さを纏うには、愛らしさに過ぎるその顔に、もしくは、その強大さを体現したような、主に胸部の大きさに、驚愕することは間違いない。
「あずささん」
その呼びかけに、少女は振り向く。茶色の髪をなびかせるその少女は、年齢よりも幼い印象を与える顔から、大きく丸い目を梓に向けて、その小さな可愛らしい口元に、微笑を浮かばせた。
「……ていうか、いい加減分かってるからいいでしょ、わたしの描写は……」
あ、そう? んじゃこれで終わる。
そして、そんな少女……面倒臭え。あずさに、梓は緊張した面持ちで近づきながら、声を掛ける。
「その、あずさ、さん……?」
「なに?」
緊張しながら、体が妙にギクシャクとしている梓とは対照的に、あずさはあくまで、陽気に、無邪気に、いつもの調子を崩すことなく聞き返している。これは、思いを向ける者、向けられる者、誘う側、誘われる側、または単純な男女の差……というものではなく、単純に、お互いの備える性格が原因だった。
「だから、そういうのいいって。読んでる人達も飽きちゃうよ」
おうおう、酷い言い草だね……分かったよ。
緊張する梓に対し、あずさはいつもの調子で、軽く聞き返した。もっとも、その声には、明らかに弾んだものが窺えるが。
「えっと、その……明日、なのですが……」
「うん……」
聞き返しながらも、梓の緊張は解けることは無い。
「あの……明日、ご予定は、その……開いて、おられますでしょうか?」
「……梓くんは、明日予定があるの?」
「え……?」
聞き返されたことで、梓は、正直に答える。
「明日は……いえ、私に予定は、ありませんが」
その答えは、どうやらあずさにとって好都合だったらしい。笑顔が、満面の笑みに変わった。
「じゃあ丁度良かった。明日、レッド寮でクリスマスパーティがあるんだ。梓くんも行こうよ」
「え……?」
また、聞き返す。
梓としては、クリスマスという聖なる夜を、愛しいあずさと二人きりで過ごすことを望んでいた。
だが、改めて考えてみれば、二人きりになってしまうと、何をすればいいのかは分からない。ある意味、好都合な提案でもある。
それでも梓としては、その心中は、複雑だった。
「……え、ええ、良い、と思います。分かりました。では、その……では、明日」
「うん。明日」
最後にそうやり取りをし、その場を後にする。
あずさと二人きりになれない。しかし、大切な仲間達との楽しい時間を過ごすことは、梓にとっても、悪いことであるはずがない。
最悪ではない。だが、最善とも言い難い。どれだけ最善の方へ傾いた結果だとしても、最善ではなく、妥協による善策が結果として残ったなら、人はどうしても、最善に対して未練を感じるものだ。
「……あなたの文章は理屈的に過ぎます。もっと簡潔に言いたいことを表せないのですか?」
……これでも読みやすいよう気を遣ったつもりなんだけどなぁ……
「……もういいです。すみませんが、一人にして下さい」
はいはい。精々、落ち込むでもなく喜ぶでもない、どっちつかずな感情のはざまに、明日の朝まで苦悩していればいいさね。
「また、無駄に文学的な台詞回しを……」
うるへぇー。二次だろうが俺が書いてるのは小説だー……
視点:梓
やれやれ。あんな調子で、少ないながらもよく読者や感想を獲得できているものだ……
「梓くん!」
と、消えた外のことを考えていると、後ろから、あずささんの声が聞こえました。それに、振り返ると……
「うわ!」
「むぎゅ~……」
い、いきなりなんです?//// なぜ、ここで抱擁を……?////
「あ、あずさ、さん……?////」
「明日、夕方くらいに、梓くんの部屋に行ってもいい?」
「え? レッド寮では?」
「ああ、あれは嘘。パーティは確かにあるけど、わたしは行かないよ」
「嘘? なぜそんな嘘を?」
「だってさぁ、あそこで正直に言ったら、外のことだから、絶対に出てくるよ」
「ああ……」
それは同感だ。あからさまに妨害をするようなことはしないでしょうが、会話に割り込んで余計な茶々を入れるくらいは平気で行うでしょう。
「だからさ、あいつを追い返すには、一回嘘つくしかなかったんだ。もしかして、怒った?」
「……」
抱き着きながら、不安げな、上目遣いの可愛らしい顔で迫られて、怒る男子はおりません。
「いいえ。すごく嬉しいです」
「本当? よかった~」
いずれにせよ、これで良い。明日、クリスマス。あずささんと、二人きり。
「では、明日は腕によりを掛けて、料理をご用意致します」
「うん。私も作って持っていくよ」
「え? いえ、そんな、悪いですよ……」
「いやぁ、だって……」
と、急に、言い辛そうに視線を泳がせております。
「あずささん?」
「いや、その……梓くん、クリスマスのお料理、作れるの?」
「う……」
それは……
「クリスマスって言ったら、クリスマスケーキに七面鳥が基本だよ。まあ、七面鳥はさすがに無理だから、普通はフライドチキンだけどね。梓くん、作れる?」
「それは……鳥の唐揚げくらいなら……」
「ああ、あれも一応日本料理か」
「あと……ケーキ……」
「え? 作れるの?」
「……に、模した、和菓子くらいなら、何とか……」
「……美味しそうだと思うけど、それじゃあダメだよ。本物のケーキじゃなきゃ」
「う~……」
そりゃあ、私は和食以外は料理もお菓子も素人以下の腕前ですけれどぉ……
「だから、その辺はわたしが作って持っていくよ」
「けど……」
何だか、悪い気がします……
「それに……」
「それに?」
「そりゃあ、料理で梓くんには敵わないけど、それでも、たまには私だって、好きな人に手料理ご馳走したいからね////」
「はぅ……!////」
赤くなりながら……好きな人に、手料理……
い、いかん……頭が、頭が沸騰してしまいそうです……
「梓くーん、大丈夫ー?」
は! い、いかん。いくら相手が可愛いあずささんでも、私とて一男子……
「ええ、分かりました。では、私も期待してお待ちしております」
「うん。楽しい夜にしようね」
「はい////」
……
…………
………………
そして、一日が開け、現在、約束の時間が近づいております。
(そわ…… そわ……)
何やら、新手の賭博でも起こりそうな擬音を心が発しているような気がします。
とにかく落ち着かない。今日に向けて、できる限りの用意はしました。あとはあずささんを待つのみ。
ただ、
「天ぷら、茶碗蒸し、鴨の小鍋、お吸い物、おひたし、散らし寿司、中心に船盛り……」
クリスマスらしさの欠片もない献立ができあがってしまった。
こんな料理で、あずささんに減滅されなければいいのですが……
「あぅ~、緊張してしまいますぅ~……////」
もう少し味見を重ねるべきでしたでしょうか?
お部屋のお掃除はきちんと行き届いていますか?
座布団、これで良かったものか?
あぁ、忘れたものは、何か無いでしょうね?
「はぁ……」
落ち着かない。こんなことで、私はきちんとあずささんをおもてなしなどできるのだろうか……
コンコン
「ふぁっ!」
と、おかしな声が出てしまった。
「は、はい、どちら様でしょう?」
一応、最初は誰かを尋ねます。
『梓さん、いらっしゃいますか?』
「はい」
この声、あずささんではありませんね。第一、ドアの外にいる時点で気配が違いましたし。まあそれでも、一応応対はしますが。
「なんでしょう?」
ドアを開き、外を見てみる。するとそこには、昨日と同じように、大勢の女子生徒が立っておりました。
「梓さん」
「はい?」
「これから、ブルー寮でクリスマスパーティが開かれるのですが、梓さんもご一緒にどうですか?」
「これから……」
この人達は、昨日の女子の中にもいたはずです。話しを聞いていたのか……?
「残念ですが、私もこの後予定がありますので……」
あずささんに断られたというならいざ知らず、先の約束がある以上、そちらが優先される……いやむしろ、あずささんとの約束ならば、私は他の何物も放り出してそちらを優先します。
「ああ、それと……」
と、私が断ると、新たに言葉を繋ぎました。
「はい?」
「平家あずささんから、急に来られなくなったと、言伝を賜っております」
「……は?」
……今、何と言いました?
「ですから、平家あずささんから、今日は来られないと、言伝を……ひっ!」
ふむ……念のため二度聞き返して正解でしたね。危うく騙されるところだ。
「嘘を吐くのなら、もう少しばれない工夫をするべきですねぇ……」
まったく、この人達は。私がそんなことに引っ掛かるとお思いか……
「いや、その……嘘、では……」
この期に及んでまだ何か言いたいのですか?
「一つ、質問します」
極力優しい笑顔を作っているつもりですが、それでも彼女達は怯えている。
何だが不本意な気がしますが、まあ、それはこの際どうでも良い。
「皆さんは、年中暖かな気候の決闘アカデミアに長くいて、冬の寒さが恋しいと感じたことはありませんか?」
「え……?」
「いえ、特には……寒む!」
ええ、常人には寒いでしょうよ。私の足下から目の前の廊下の壁まで、白い物を広げさせて頂きましたから。
「もしよろしければ、皆さんに、本物の冬以上の寒さを提供できますが、どうでしょうか?」
「いえ……それは、その……」
「皆さん……凍死、という経験を、してみたいとは思いませんか?」
『……!!』
極力、爽やかな笑顔を作りながら、そう尋ねました。すると皆さん、顔がなぜか、蒼白に変わりました。
『ご、ごめんなさーい!!』
そして、叫びながら、走って去っていきました。約一名白い物に滑って転んだ人もおりましたが、すぐに立ち上がって、一目散に駆けていく。
「青色……? まあ、どうでもいいか」
ドアを閉めて、そのドアにもたれ掛け、改めて彼女を待つ。
しかし、彼女達は本当に、こんな私に何を期待しているというのだ? 私の心は、彼女達以外のただ一人に決まっているというのに、そんな私の、何を求めているというのだろう?
彼女達が望むような気持ちを与えることは、まずできないというのに……
視点:外
その頃、ブルー寮の食堂では……
「皆さーん、今日は素敵なサプライズゲストがいらっしゃっておりまーす!」
クリスマス特別メニューに舌鼓を打ちながら、それぞれ学友達との談話を楽しむ生徒達に、そう呼びかけたのは、ももえ。
彼女の声に、一同が注目する。そして、全員の視線を集めたことを確認し、次の言葉を紡ぐ。
「それでは、お呼びしましょう。サンタちゃーん、カモン!」
と、その呼び掛けで、彼女の立つ場所の袖から現れた人物、それは……
「お……おお!」
「マジかよ!!」
「ええ!? わざわざ来てくれたのか!?」
ももえの言葉の通りのサンタコスチューム。ただし、一般的な、老人としてのそれではなく、赤いズボンの代わりにミニスカートを穿き、腕は二の腕全てを露出させた、冬なのにそれはどうなのだと言うべき、現代社会の俗物的嗜好が生み出した姿。
そんな可愛らしい服装に身を包み、白い大きな袋を背負う、水色の髪のその人物。
「皆さーん、こんにちはー」
その人物が声を出した時、
『ショウ子ちゃんだあああああああああああああ!!』
集まった生徒達が、同時に大声を絶叫した。
「今日はお招きいただき、ありがとうございまーす。今日はショウ子も、皆さんに混ざって、楽しませて下さーい」
『うおおおおおおおおおおおおおおお!! ショウ子ちゃあああああああああん!!』
また、大勢の声が唱和する。彼女の登場と言葉。それだけで、どこか厳粛であったパーティの場の雰囲気は、一気に熱気に包まれた。
そして、そんな熱気についていけない人物が、約一名……
(いっそ誰か気付いて……そして僕を殺しておくれ……)
誰あろう、ショウ子ちゃん自身は、天使の笑顔とは裏腹に、そんな光景と、自身の痴態から、内心では号泣しながら、一時の自殺願望に囚われてしまっていた……
視点:あずさ
さぁ~て……この状況をどうするべきか……
「さあ、次は私の番ですわ!」
「えぇ、まだやるのぉ……?」
「当然です! このままあなたを、梓さんの元へ行かせてなるものですか!」
「はぁ……」
まあ、そんなわけで、多分、十二人目くらいの女の子が、わたしの前に出てきました。
そりゃあ、梓くんをわたしみたいな人に渡したくないって気持ち、分からないこともないけど……
「何度も言ってるけど、わたしには勝てないって……」
さっきから倒した子達も、私のライフを一つも削れずにやられちゃったし、タッグで来た子達もいるけど、シンクロを使うまでもなく倒せちゃったし。
「お黙りなさい! 梓さんと同じ、シンクロモンスターを使用するからと良い気にならないで! あなたのような人は、梓さんは相応しくないわ!」
「……相応しいも何も、わたしを選んでくれたの、梓くんなんだけど……」
「それが問題なのです! 一体どんな手段を用いて、梓さんのような人を
「えぇ~……」
後ろに並んでる子達も、そーだそーだって喚いてるし。
「いや……あのねぇ、わたしに誰かを誑し込めるだけの魅力があるように見える?」
『見えん!!』
……そんなきっぱり返事されると傷つくけど……
「だからさぁ、何度も説明したでしょう。梓くんの方がわたしに一目惚れして告白してくれて、わたしもそれをオーケーしたって」
実際は、もっとかなり細かい事情があるけど、面倒だからカットしちゃおっと。
「あり得ません!」
細かく説明したところで、この子達が信じるわけないし……
「あのお淑やかな梓さんが、あなたのような下賤で野蛮な女を選ぶなど!」
「う~ん……下賤は認めるけど、野蛮ていう言葉は、梓くんにも当てはまる気が……」
『……』
黙っちゃったよ。まあ、さすがにみんなも同意みたいだ。
「……とにかく! あなたをこのまま梓さんの元へ行かせるわけにはいきません!」
やれやれ……力づくで通るのは簡単なんだけど、手荒に扱えない荷物もあるしなぁ……
「分かったよ……」
……
…………
………………
「きゃああああああああああああああ!!」
「はぁ……」
二十人目の生徒もどうにか撃退できた。さすがに疲れたなぁ……
「これで全員かなぁ……」
死屍累々な子達を見回して、そう話し掛けてみる。まだやってない子もいるけど、みんな怯んじゃってるし、大丈夫みたい。
「じゃ、わたしはこのまま通るからねぇ」
そう言いつつ、置いておいた荷物を手に取る。念のため中を確かめてみるけど、中身が盗られた様子も無い。大丈夫だね。
そんな感じで、まだ私を見ながら怯んでる子達を無視して歩いていきました。
……さて、
「梓くん、もういいよ」
そう、歩いてる途中で見かけた木の方へ話し掛けると、梓くんが顔を出した。心配して来てくれてたんだね。
「……」
ああ……やっぱり怒ってる。隠れてるのには気付いてたけど、その時点で殺気が凄かったからなぁ……
「ほらほら、怒らない怒らない。わたしは大丈夫だからさ」
「……しかし、あの女共。あずささんのことを……」
「ほらほら、そうやって怒っててもいいこと無いからさ。ねえ、良い子良い子……」
話し掛けながら、頭を撫でてあげる。すると、
「……」
よし、機嫌が直った。
「……」
直ったけど、いつもみたいに、癒された感じじゃないな。何だか、落ち込んでる?
「……私は……」
「え?」
「……私は、もしかして、あずささんには、相応しくありませんか?」
「……」
「私があなたの恋人であるせいで、あなたはいつも女子の皆さんから罵倒されて、傷ついている。そんなことをさせてしまう私は……あなたにとって、相応しくないのでは……」
「ていっ」
「がっ!!」
全部言う前に、殴りました。
「お゛お゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉ……」
うわぁ、痛そう。けど、ここ以外を殴っても梓くんには効かないからなぁ。
まだ、手に感触が残ってる。これが、梓くんの……////
なーんてことは、ここでは置いといて。
「梓くん」
「……はい?」
涙目で返事を返したところで、言いたいことを言わせてもらう。
「今度同じこと言ったら、本気で怒るからね」
「……」
困ってる。けど、それはわたしだって同じなんだから。
「じゃあ、聞くけど、もし、わたしがここで、そうですねって言ったら、梓くんは、わたしのこと、諦めてくれるの?」
「それは……」
別れてくれる、じゃなくて、諦めてくれるか。
「……」
すっごく悲しそうで、なのにどこか焦ってて、そんな自分が許せない。そんな顔してる。
きっと、自分の本当の気持ちが許せないんだろうな。
「もし、わたしが逆に、梓くん本人から、あの子達の言ってたことそのまま言われたとしたら……すっごく傷ついて、すっごく焦って、すっごく、諦めなきゃって焦って……それでも、一生諦めるなんて、できないと思う」
「……」
今言った言葉そのままのこと、梓くんも、きっと思ったんだろうな。
「そりゃあ、わたしは梓くんのこと好きだけど、その梓くんが、もうわたしなんて嫌だって言うのなら、仕方がないって思うよ。けどさ、だからって、簡単に諦めて、割り切れる気持ちじゃないんだよ。わたしが、梓くんに対して懐いちゃった気持ちはさ」
「……」
「いくら迷惑とか、相応しくないとか、ダメだとか、色んな人に言われたとしても、梓くんが許してくれるなら、ずっと持ってたい気持ちだよ。もちろん、気持ちだけじゃない。許されるなら、梓くんのこと、一人占めしたい。梓くんが、他の女の子と仲良くしてるのも、我慢できないわけじゃないけど……見てて、嫌だし……」
「それは……私も、同じ、です……」
言いながら、段々声が小さくなった。
うん、そうだよね。最初に告白してくれた時も言ってたもんね。
わたしの隣に、梓くん以外の男の子がいるとこ想像しただけで、胸が張り裂けそうになる、だっけ?
あの時は、言われて恥ずかしいだけだったけど、今ならその気持ち、よく分かる。だから……
「だったらさ……お願いだから、わたしには似合わないとか相応しくないとか、悲しいこと、言わないでほしいな……」
「……」
「梓くんに嫌われちゃったとしても、わたしは……諦めきれないと思うけど、受け入れる覚悟はしてる。だけど……少なくとも、梓くんが、わたしのこと好きだって思ってくれてる間は、梓くんの彼女でいたい」
「あずささん……」
「……梓くんが、迷惑でないなら、だけどさ……」
「……」
私が言い終わると、梓くんは、また恥ずかしそうに目を泳がせながら、
「……いや、じゃ、ないです……」
そう言った。
「……迷惑なわけ、ないじゃないですか。私は、あなたが許してくれる限り、あなたのそばに置いてほしい。あなたのものでいたいです」
「……うん」
正直、自分を物みたいに言うのはどうかと思うけど、それでも、わたしと同じ気持ちでいてくれてることは、嬉しい。
「じゃあ、ちょっと遅くなっちゃったし、もう行こっか」
「はい」
返事をしてくれたから、わたしは、開いてる方の手を差し出した。
「え……?」
「お手手を繋ごう」
「あ……はい////」
また赤くなった。やっぱ、梓くんは可愛いなぁ……
そんなことを考えながら、わたし達は、改めて、ブルー寮の方へ歩いていく。
隣では梓くんが、いつまでも恥ずかしそうに、けど、嬉しそうに、私の手を握ってくれてた。
正直、相応しくないとか、下賤とか野蛮とか、言われて全然傷つかないわけじゃない。けど、それでも梓くんが求めてくれる限り、わたしの居場所は、ここ。
君の隣だよ。
梓くん。
お疲れ~。
読み直してみて、我ながらクリスマスの要素がほとんどないな。
まあ久々に二人をイチャつかせるのは面白かったからいいや。
ちなみに読んでいただいた通り、ここでは星華もアズサも登場しませぬ。この二人を期待してた人には謝ります。ごめんね。
じゃ、後半へぇ~続く。
それまで待ってて。