さあ、決闘となると長くなっちまうが、まあ、許してほしい。
ほんじゃあ、行ってらっしゃい。
視点:星華
私は、なにをやっている……
ライフがゼロになる寸前のところを、梓に助けられた。
だが、相手はそんな梓にばかり目を向け、私のことは無視していた。
それが許せなくて、こちらのモンスターが破壊されるリスクも考えず、相手を倒すことばかりを考えて、挙句、状況は更に悪くなって……
それだけのことをしてしまったのに、梓は、そんな私を安心させるために、いつもの優しい笑顔を向けてくれた。
大丈夫だと。
敗けはしないと。
勝ってみせると。
見ているだけで、つい信頼して、頼ってしまいたくなる笑顔と声を。
敗けるかも知れぬと、不安なのは同じはずなのに……
視点:外
梓
LP:300
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
カズヤ
LP:1400
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
セット
星華
LP:1200
手札:0枚
場 :モンスター
『マシンナーズ・フォートレス』攻撃力2500
魔法・罠
無し
タクヤ
LP:1500
手札:0枚
場 :モンスター
『レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト』攻撃力2400
『レアル・ジェネクス・アクセラレーター』攻撃力1500
『レアル・ジェネクス・ターボ』攻撃力1500
『ジェネクス・ニュートロン』攻撃力1800
『ジェネクス・コントローラー』守備力1200
魔法・罠
永続罠『血の代償』
セット
(まず間違いなく言えるのは……この決闘、始まった瞬間から分かってはおりましたが、ただの決闘ではない。敗北すれば、私や星華さんはもちろん、おそらくあの二人も……)
目の前の双子を見ている内にも、決闘ディスクの内側からは、ドクドクと出血が続く。
出会った瞬間から傷口が開き、何度治癒しても、一向に治まりを見せない。
それだけで、この決闘の異常性は予想していた。
ただ、未来のカードが使用されているだけだとも思いたかったが、現実の衝撃と痛みと言い、敗北が許されないことは重々理解させられた。
(とは言え、ライフは既に残り僅か……最悪、星華さん一人だけでも生き残らせるために、覚悟しなければなりませんね……)
「私のターン」
梓
手札:1→2
(このカード……危険なカードではあるものの……それでも、他に手は無い)
「魔法カード『壺の中の魔術書』。全てのプレイヤーは、デッキからカードを三枚ドローします」
『……』
(手札が増えるのはありがたいが、それは相手も同じこと。賭けとしては危険だな……)
梓
手札:1→4
カズヤ
手札:1→4
星華
手札:0→3
タクヤ
手札:0→3
「……墓地の『フィッシュボーグ-プランター』の効果。デッキの一番上のカードを墓地へ」
『キラー・ラブカ』
水属性
「水属性の『キラー・ラブカ』が墓地へ送られたことで、特殊召喚されます。『生還の宝札』の効果で一枚ドロー」
『フィッシュボーグ-プランター』
レベル2
守備力200
梓
手札:4→5
(この手札ならば……)
「魔法カード『融合』。手札の『E・HERO オーシャン』と『氷結界の虎将 ガンターラ』を融合」
宣言された二体が宙に舞い、それが回転しながら、同じ空間へと吸い込まれていく。
「現れよ、氷結の英雄『E・HERO アブソルートZero』」
『E・HERO アブソルートZero』融合
レベル8
攻撃力2500+500
「アブソルートZero……!」
シンクロを使い始める以前、梓のエースモンスターとして君臨していた純白の英雄。
その美しくも雄々しい姿に、星華は目を奪われる。
「アブソルートZeroはフィールド上の、アブソルートZeroを除く水属性モンスターの数だけ、攻撃力をアップさせます。更に魔法カード『ミラクル・フュージョン』。墓地またはフィールド上のモンスターを除外し、『E・HERO』を融合召喚します。墓地の『E・HERO アイスエッジ』、『氷結界の龍 グングニール』をゲームより除外。再び来たれ、『E・HERO アブソルートZero』!」
『E・HERO アブソルートZero』融合
レベル8
攻撃力2500+500
「二体目か!」
「バトルです。アブソルートZeroで、カズヤさんに攻撃します」
攻撃の命を受けたZeroが、がら空きのカズヤのフィールドへ走った。
(さっきそうしたように、兄が自分のモンスターで壁にしたとしても、全てのモンスターの攻撃力はZeroよりも上だ。これなら……)
「罠発動」
星華の思惑を否定するように、弟のカズヤが声を上げた。
「『体力増強剤スーパーZ』。2000以上の戦闘ダメージを受ける場合、ライフを4000回復する……」
カードの発動の直後、アブソルートZeroの拳が突き刺さる。
カズヤ
LP:1400→5400→2400
「く、回復されたか……」
「ですが、アブソルートZeroはもう一体残っております。もう一度、カズヤさんへ攻撃!」
「……『速攻のカカシ』……」
先程のタクヤと同じく、カズヤの前に、金属でできたカカシが立ちはだかる。
それがZeroの攻撃を防いだ。
カズヤ
手札:4→3
「……メインフェイズ、速攻魔法『融合解除』発動。アブソルートZeroをエクストラデッキに戻し、墓地より融合素材となった『E・HERO オーシャン』、『氷結界の虎将 ガンターラ』を特殊召喚」
『E・HERO オーシャン』
レベル4
守備力1200
『氷結界の虎将 ガンターラ』
レベル7
攻撃力2700
(よし! アブソルートZeroがフィールドを離れた!)
「アブソルートZeroの効果。このカードがフィールドを離れた時、相手フィールドのモンスター全てを破壊します。
フィールドに、猛吹雪が吹き荒れる。それが、タクヤのフィールドに並び立つ五体のモンスターに、氷を纏わせていく。
「これで貴様らのモンスターは全滅だ!」
「カウンター罠『大革命返し』」
再び星華の歓喜を、タクヤが否定した。
「フィールド上のカードを二枚以上破壊する魔法、罠、モンスター効果が発動した時、その効果を無効にし、ゲームから除外する」
「……」
説明の通り、フィールドを包む吹雪は消え去り、梓はエクストラデッキのアブソルートZeroを懐にしまう。
「……チェーン処理です。強制効果であるZeroの効果の発動後、任意効果である『生還の宝札』の効果で、一枚ドローします」
梓
手札:1→2
「……カードを二枚伏せます。エンドフェイズにガンターラの効果。墓地の氷結界を特殊召喚します。『氷結界の守護陣』を特殊召喚」
『氷結界の守護陣』チューナー
レベル3
守備力1600
「再び守護陣の効果を適用。自身を除く氷結果いが存在する限り、あなた方は守護陣の守備力以上の攻撃力を持つモンスターでは攻撃ができなくなります。宝札の効果で一枚ドローし、ターンエンド」
梓
LP:300
手札:1枚
場 :モンスター
『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500+500×4
『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700
『E・HERO オーシャン』守備力1200
『氷結界の守護陣』守備力1600
『フィッシュボーグ-プランター』守備力200
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
セット
カズヤ
LP:2400
手札:3枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
星華
LP:1200
手札:3枚
場 :モンスター
『マシンナーズ・フォートレス』攻撃力2500
魔法・罠
無し
タクヤ
LP:1500
手札:3枚
場 :モンスター
『レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト』攻撃力2400
『レアル・ジェネクス・アクセラレーター』攻撃力1500
『レアル・ジェネクス・ターボ』攻撃力1500
『ジェネクス・ニュートロン』攻撃力1800
『ジェネクス・コントローラー』守備力1200
魔法・罠
永続罠『血の代償』
(すごい……相手と同じように、空のフィールドを、たった一ターンの間にモンスターで埋め尽くすとは……)
「……俺のターン……」
カズヤ
手札:3→4
「……魔法カード『ブラック・コア』……手札を、一枚捨てることで、フィールド上の、表側のモンスター一体、ゲームから除外……対象は、『氷結界の守護陣』……」
カズヤ
手札:3→2
カズヤが手札を捨て、同時に梓のフィールドの、守護陣の頭上に『ブラック・コア』が発生する。それが守護陣を飲み込み、消滅させた。
「……二枚目の、『旧型出陣』発動。墓地の、『A・O・J カタストル』を、特殊召喚……」
『A・O・J カタストル』シンクロ
レベル5
攻撃力2200
「……更に、たった今、墓地へ送った『レベル・スティーラー』の効果。フィールド上の、レベル5以上のモンスター、一体のレベルを一つ下げ、墓地より特殊召喚する……カタストルのレベルを一つ下げ、特殊召喚……」
『A・O・J カタストル』
レベル5→4
『レベル・スティーラー』
レベル1
攻撃力600
(梓と同じカード……)
「……『レベル・スティーラー』は、アドバンス召喚以外の、リリースには使用できない……『レベル・スティーラー』リリース……『A・O・J リーサル・ウェポン』召喚……」
『A・O・J リーサル・ウェポン』
レベル5
攻撃力2200
光となった『レベル・スティーラー』のいた場所に、潜水艦型の機械が現れる。
機体の先端にいくつものアームが着けられ、そこにいくつもの武器が装着された機械。
「……そして……『エレメント・チェンジ』を、再び発動……光属性に変更……」
先程と同じように、フィールドにあるカードの属性が、水から光に書き替えられる。
同時に、水属性を力の糧としていたアブソルートZeroの攻撃力が下がった。
『E・HERO アブソルートZero』
攻撃力2500
「バトル……『A・O・J リーサル・ウェポン』で……『E・HERO オーシャン』を攻撃……」
リーサル・ウェポンの武器の全てが、光属性となったオーシャンに向けられる。
そのままオーシャンへ向かい、消滅させる。
「……リーサル・ウェポン、効果……このカードが、光属性を、戦闘破壊した時、デッキからカードを、一枚ドロー……」
カズヤ
手札:0→1
「……この効果で、ドローしたカードが、レベル4以下の、闇属性モンスターの場合……相手に見せて、特殊召喚可能……ドローしたカードは、レベル2『
『
レベル2
攻撃力400
「……『A・ボム』で、アブソルートZeroを攻撃……」
「なに? 攻撃力の劣るモンスターで、梓のモンスターに攻撃だと?」
星華が驚く間に、桃色の妖しい光を発する金属はZeroへ向かう。だが、あまりに弱々しい体当たりは、簡単にアブソルートZeroの拳に砕かれ、消滅した。
カズヤ
LP2400→300
「……『A・ボム』、効果……このカードが、光属性との戦闘で、破壊された時……フィールド上のカード、二枚を選択……破壊……」
その言葉に従うように、『A・ボム』の残骸が、梓のフィールドに降り注ぎ、Zeroと、ガンターラを蜂の巣にした。
「なに……? だが、そんなことをしたら、アブソルートZeroの効果が発動するぞ」
星華の言葉の通り、再び吹雪が巻き起こる。
だが、
「……伏せカード……『大革命返し』……二枚以上の破壊効果を無効にし……除外……」
また、吹雪は簡単に止み、再びアブソルートZeroのカードは懐に仕舞われる。
(梓の必殺のカード効果を二度も……)
「除外の後は……破壊……破壊……全て……破壊……」
そしてまた、同じ言葉を繰り返す。繰り返しながら、残ったカタストルの差し……
「カタストルで……『マシンナーズ・フォートレス』を攻撃……」
「な……!」
前のターン、星華のことを無視していたにも関わらず、今度は星華へ攻撃宣言を行った。
「……イレイズ・ダークネス……」
ついさっき見た光景が脳裏に蘇る。
痛みすら与えない無慈悲な破壊。それによって、効果の発動さえ許さず、無造作に破壊される。
それが再び、目の前で繰り広げられる……
「伏せカード発動!」
「な……梓?」
だがその直前、梓がカードを発動させた。
「速攻魔法『禁じられた聖杯』。これにより、モンスター一体の攻撃力を400ポイントアップさせ、カード効果を無効にします」
『A・O・J カタストル』
攻撃力2200+400
カタストルの頭上に出現した聖杯から、水が滴る。
それを受け、包まれたカタストルの攻撃力が上がり、同時に何かが飛び散り、消え去る。
「ぐ……!」
星華
LP:1200→1100
そして、再びカタストルの光線が、『マシンナーズ・フォートレス』に激突する。
だが、明らかに先程とは違った。
「星華さん!」
「うむ……! 戦闘破壊された『マシンナーズ・フォートレス』の効果! 相手フィールドに存在するカード、一枚を破壊する!」
攻撃され、それでも残っていた『マシンナーズ・フォートレス』の残骸から、お返しとばかりにミサイルが発射される。
それが、カズヤのフィールドの『A・O・J カタストル』に降り注いだ。
「更に、今しがた墓地へ送られた『マシンナーズ・フォートレス』を墓地から除外することで、墓地に存在する『マシンナーズ・メガフォーム』を特殊召喚する!」
破壊された『マシンナーズ・フォートレス』が、再び姿を現す。
それが変形し、キャタピラではなく、強靭なる二本の脚で大地に立つ。
『マシンナーズ・メガフォーム』
レベル8
攻撃力2600
「さすがだ、梓!」
「……」
星華から声援を送られ、梓は微笑みで返した。
そしてカズヤは、変わらぬ無表情のまま、プレイを再開する。
「……『レベル・スティーラー』効果……リーサル・ウェポンのレベルを一つ下げ……特殊召喚……」
『A・O・J リーサル・ウェポン』
レベル5→4
『レベル・スティーラー』
レベル1
守備力0
「……ターンエンド……」
カズヤ
LP:300
手札:0枚
場 :モンスター
『A・O・J リーサル・ウェポン』攻撃力2200
『レベル・スティーラー』守備力0
魔法・罠
無し
星華
LP:1100
手札:3枚
場 :モンスター
『マシンナーズ・メガフォーム』攻撃力2600
魔法・罠
無し
タクヤ
LP:1500
手札:3枚
場 :モンスター
『レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト』攻撃力2400
『レアル・ジェネクス・アクセラレーター』攻撃力1500
『レアル・ジェネクス・ターボ』攻撃力1500
『ジェネクス・ニュートロン』攻撃力1800
『ジェネクス・コントローラー』守備力1200
魔法・罠
永続罠『血の代償』
無し
梓
LP:300
手札:1枚
場 :モンスター
『フィッシュボーグ-プランター』守備力200
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
「私のターン!」
星華
手札:3→4
(梓がくれたこのチャンス……無駄にはせん!)
「『マシンナーズ・メガフォーム』の効果。こいつを生贄に捧げることで、手札かデッキから、メガフォームを除く『マシンナーズ』を特殊召喚できる。メガフォームを生贄に、手札から『マシンナーズ・フォートレス』を特殊召喚!」
メガフォームの体が変形していき、地面に着いていた両脚が内蔵される。
両脚の代わりに肩にあったキャタピラで地面に降り立ち、肩にある大砲を向ける。
『マシンナーズ・フォートレス』
レベル7
攻撃力2500
「まだだ。二体目の『マシンナーズ・ギアフレーム』を通常召喚」
『マシンナーズ・ギアフレーム』
レベル4
攻撃力1800
「ギアフレームの効果により、デッキから『マシンナーズ・ピースキーパー』を手札に」
星華
手札:2→3
「手札からレベル2の『マシンナーズ・ピースキーパー』、そして、レベル7の『マシンナーズ・フォートレス』を捨てることで、墓地に捨てた『マシンナーズ・フォートレス』を特殊召喚!」
星華
手札:3→1
『マシンナーズ・フォートレス』
レベル7
攻撃力2500
「さあ、バトルだ! 『マシンナーズ・ギアフレーム』で、『ジェネクス・コントローラー』を攻撃!」
「……っ」
「二体の『マシンナーズ・フォートレス』で、『レアル・ジェネクス・アクセラレーター』、『レアル・ジェネクス・ニュートロン』を攻撃!」
二体の軍事基地の砲身が、タクヤのフィールドのモンスターに向けられる。
(この攻撃が通れば、兄のライフはゼロ……!)
「……『血の代償』の効果発動。二体の『レアル・ジェネクス』をリリース、『ソーラー・ジェネクス』をアドバンス召喚」
タクヤ
LP:1500→1000
その宣言で、星華の狙った二体のジェネクスが光に変わる。その光から新たに、ジェット機を思わせる、巨大な人型のジェネクスが出現した。
『ソーラー・ジェネクス』
レベル7
攻撃力2500
「攻撃力が、『マシンナーズ・フォートレス』と同じ……!」
フィールドに新たにモンスターが現れたことで、二体のモンスターは攻撃を中断する。
「ちなみにこのカードがフィールドに存在する限り、理由がどうあれ自分の場のジェネクスが墓地へ送られる度、相手に500のダメージを与えるからね……」
「なんだと!?」
効果の説明を聞き、すぐに、事の重大さに気付いた。
(今、梓のライフは300。一体でもジェネクスが墓地へ送られれば、梓のライフはゼロ……)
「止むを得ん、一体目の『マシンナーズ・フォートレス』で、『ソーラー・ジェネクス』を攻撃! マシン・フルシュート!」
『マシンナーズ・フォートレス』の砲撃と、『ソーラー・ジェネクス』の放った機関射撃がぶつかり合う。
攻撃力が同じことで、二体の機械は同時に破壊された。
「く……だが、戦闘破壊されたことで、フォートレスの効果が発動する。貴様の場の、『レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト』を破壊する」
残骸となった要塞の主砲が、タクヤのフィールドの、深緑の機体に向けられる。そこから発射された砲弾により、砕かれた。
「まだだ! 二体目の『マシンナーズ・フォートレス』で、『ジェネクス・ニュートロン』を攻撃! マシン・フルシュート!」
「……」
タクヤ
LP:1000→300
「これでもう『血の代償』の効果は使えまい。メインフェイズ、ギアフレームをフォートレスに装備。更に永続魔法『
星華
LP:1100
手札:0枚
場 :モンスター
『マシンナーズ・フォートレス』攻撃力2500
魔法・罠
ユニオン『マシンナーズ・ギアフレーム』
永続魔法『機甲部隊の最前線』
タクヤ
LP:300
手札:2枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続罠『血の代償』
梓
LP:300
手札:1枚
場 :モンスター
『フィッシュボーグ-プランター』守備力200
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
カズヤ
LP:300
手札:0枚
場 :モンスター
『A・O・J リーサル・ウェポン』攻撃力2200
『レベル・スティーラー』守備力0
魔法・罠
無し
(どうにか兄のモンスターは全滅させた。守りも固めたことだし、後は……)
「このままパートナーのターンが来れば、パートナーが僕を倒してくれる……」
「……!」
「……ほら、その顔、言った通りのこと考えてたぁ」
嘲るように声を出した、タクヤのその顔は、冷たく、邪悪に染まっていた。
そして、表情だけではなく、体全体から、邪悪なものを漂わせていた。
「お姉さん、何て言ってたか覚えてる? 覚えてるよね? シンクロを使わないと思って甘く見るな? 私を嘗めるな? 散々っぱら偉そうなこと叫んでおいて、結局最後は人頼み? きゃー、恥ずかしー」
「ぐ、うぅ……」
星華としては、自分に考えうる限りの最善の手を打った。しかし、結果的には、あと少しで仕留められたタクヤを仕留め損なった。
あと一撃、それだけで仕留められるライフなのに……
せっかく梓が、自分に与えてくれたチャンスだったのに……
「だから人間は嫌いなんだよ。自分じゃなんにもできないもんだから、すぐに他人の力に頼る。その他人ができないから、別の他人の力に頼る。で、結局人間達には無理だって思ったら、僕らみたいな機械を作り出して、それでもできなきゃ、使い捨てる。そのくせ、機械以下のことしかできないくせに、人間だから偉いんだ、正しいんだ、許されるんだって勘違いばっかして……」
「く……」
「なにもできないなら、最初っから偉そうにするなよ! 僕らを産むなよ! 何もするなよ! 生まれてくるなよ! それでいっつも辛い目に遭わされるのは、お前達人間の代わりに働かされる機械なんだ!!」
大声で絶叫しながら、体全体から漂う邪悪は、タクヤ、カズヤ共に、真っ黒な色を放つ。
何物も、誰もが吸い込まれそうなほどに真っ黒な、邪悪な力が、二人に向けられる。
「やっぱりムカつくよ、お姉さん……お前は僕が葬る。良いよねカズヤ。お前は、龍を葬ればいいからさぁ」
「……好きにしろ」
「僕のターン!」
タクヤ
手札:2→3
「『リサイクル・ジェネクス』召喚!」
『リサイクル・ジェネクス』チューナー
レベル1
攻撃力200
「ほらぁ、見なよ、このボロボロな姿をさぁ……」
その言葉の通り、新たにタクヤのフィールドに現れたのは、ボロボロに使い古された、どこか物悲しい雰囲気の、人型の小さな機械人形。
「散々利用されて使われて、ボロボロになったと思ったら、ゴミとしてあっさり捨てられて。それで終わりなんて悲しかったから、どうにか自力でボロボロになった体を修復した。そうして生まれたのが『ジェネクス・コントローラー』、同じような理由で生まれてきた『スペア・ジェネクス』、そして、そこから更に成長したのが他の『ジェネクス』達さ。そして、それを兵器として利用するために、人間にいじくり回されて生まれたのが『レアル・ジェネクス』達だ!」
叫びながら、タクヤの……タクヤの中の何者かの怒りは増大していく……
「『A・O・J』だって同じさ。最初から兵器として作られて、僕らみたいに心を持ってない、ただ光の敵を破壊することしか考えられない。そのせいで、今でも光を敵だと認識して、いもしない敵をわざわざ自分で生み出して、それに向かって攻撃することを繰り返す、そんな可哀想な子達だよ」
「分かるかい! 僕らは機械だ。痛みも感じないし、修理さえできれば死ぬことも無いよ。けどね、たとえ機械だろうが、生まれた以上、その命は僕らのものだ! お前達人間が、それを好き勝手にする権利なんか無い! 僕らはね、お前達の都合の良い道具じゃないんだ!!」
「ぐぅ……」
「それを教えてあげるよ……魔法カード『死者蘇生』! これで、墓地にあるモンスター一体を特殊召喚できる。おいで、『A・O・J コズミック・クローザー』」
『A・O・J コズミック・クローザー』
レベル8
攻撃力2400
「レベルの合計は……9……!」
「レベル8の闇属性コズミック・クローザーに、レベル1の『リサイクル・ジェネクス』をチューニング!」
タクヤの怒り、憎しみ、悲しみ……それらの感情のもと、その光景は、繰り返される。
「奔れ、漆黒の機体。同調の名のもとに、無垢なる大地を黒煙で包み込め」
「シンクロ召喚! 発進せよ、『レアル・ジェネクス・クロキシアン』!」
タクヤが叫んだ瞬間、彼らの周囲に、彼らを取り囲むように、鉄道が走った。
そして、空の向こうから、真っ黒な、巨大な何かが走ってくる。
ブオオオオー、と、猛々しい汽笛の音を響かせていた。
それがこちらへ近付きながら、通り過ぎた場所へ、真っ黒な煙を残していた。
鉄道に従い、彼らの周囲を周った。
汽笛が示した通りの列車、それも、昔ながらの、真っ黒な機体を持つ蒸気機関車だった。
列車は徐々に速度を落としていく。速度を落としながら、後ろに繋がれた荷台を切り離す。
列車から、機関車に変わり、タクヤの前で停止した時……
左右から巨大な両腕を、下から巨大な二脚を出す。
それが地面を踏み、人間の顔に当たる部分で、星華を見据えた。
『レアル・ジェネクス・クロキシアン』シンクロ
レベル9
攻撃力2500
「ぐぅ……だが、攻撃力は『マシンナーズ・フォートレス』と互角だ……」
ヴィンディカイトを超える巨体に圧倒されながら、それでも、そんな事実を口にする。
そしてそれを、タクヤは嘲笑っていた。
「本当に君はバカだよねぇ。それで終わりなわけないじゃん……」
「なに……?」
「教えてあげるよ。『レアル・ジェネクス・クロキシアン』はね、シンクロ召喚に成功した時、相手フィールドのレベルが一番高いモンスターのコントロールを得られるんだよ」
「なんだと!?」
星華が驚愕するのと同時に、クロキシアンの体から、先程とは違う、真っ白な蒸気が立ち上った。
「君達のフィールドで一番レベルが高いのは、レベル7の『マシンナーズ・フォートレス』。さあ、同じ機械の仲間だろう? そんなおバカで何もできない役立たずは捨てて、こっちへおいで……僕らと一緒に、自分勝手な人間達に復讐しよう。今まで好き勝手に使われた恨みを晴らそう! インヴァイト・スモーク!」
白い蒸気に包まれながら、タクヤの言葉を聞いた要塞は、半ば喜ぶように、タクヤのフィールドの、クロキシアンの隣に並び立った。
「お姉さんの残りライフは1200。守りを固めたつもりでギアフレームを装備しちゃったのがあだになったね。戦闘破壊するモンスターがいないから、『機甲部隊の最前線』も役に立たないしねぇ……」
「くぅ……」
「あははははははははは!!」
狂ったような大声で笑い、星華のことを見下す。
ひとしきり嗤った後で、再び星華を、凶悪な目で睨みつける。
「さあ……終わりだよ。せめてとどめは、僕のモンスターが刺してあげるからさぁ!」
宣言しながら、星華を指差した。
「『レアル・ジェネクス・クロキシアン』で、お姉さんにダイレクトアタック!」
再びクロキシアンの脚が仕舞われ、元の機関車の姿に変わる。そして、その進行方向、星華の足もとに、レールが敷かれる。
「トラベラー・オブ・クラッシュエンド!」
そして、再び汽笛を轟かせ、黒煙を巻き上げながら、ギアフレームへと向かった。
「くぅ……」
「『フィッシュボーグ-プランター』!」
「……!」
星華が半ば諦め、目を閉じた瞬間だった。
隣から、梓の声が響く。梓のフィールドに唯一残っていたモンスターが、星華の前に立ち塞がった。
「あははは! そう来ることくらい分かってたさ! けどね、そのお魚を破壊しちゃえば、正真正銘がら空きでしょう。その時こそ、お姉さんの機械でとどめを刺してあげるからさあ!!」
「くぅ……」
だが、そんなタクヤの言葉に対し、梓は、笑みを浮かべていた。
「墓地より、『キラー・ラブカ』の効果発動!」
向かってきたクロキシアンへ、長く黄色い何かが飛んでいく。
それがクロキシアンの体に巻きつき、動きを封じた。
「な、なにこれ……」
「自分のモンスターが攻撃された時、墓地にあるこのカードを除外することで攻撃を無効にし、次の私のエンドフェイズ時まで攻撃力を500ポイントダウンさせます」
『レアル・ジェネクス・クロキシアン』
攻撃力2500-500
「お前ぇ……」
「『キラー・ラブカ』……『フィッシュボーグ-プランター』の効果か!」
「ええ。前のターン、デッキの一番上から落ちたカードです」
「そんな……お前のターンで使っていれば、攻撃を防げていたはずだろう……」
「そうですね。ですが、取っておいて正解だったでしょう」
「梓……」
「ウザい……ウザいウザいウザいウザい!! 人間のくせに! 機械以下のことしかできない弱虫のくせに!! ウザいウザいウザい!! 『マシンナーズ・フォートレス』、そのお魚を破壊しろ!」
再び怒りに叫び、要塞は銃撃を行う。それにより、魚の泳ぐ植木鉢は破壊された。
「カードをセット! 僕はこれでターンエンド!」
タクヤ
LP:300
手札:0枚
場 :モンスター
『レアル・ジェネクス・クロキシアン』攻撃力2500-500
『マシンナーズ・フォートレス』攻撃力2500
魔法・罠
永続罠『血の代償』
セット
梓
LP:300
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
カズヤ
LP:300
手札:0枚
場 :モンスター
『A・O・J リーサル・ウェポン』攻撃力2200
『レベル・スティーラー』守備力0
魔法・罠
無し
星華
LP:1100
手札:0枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
ユニオン『マシンナーズ・ギアフレーム』
永続魔法『機甲部隊の最前線』
「ウザい……ウザいウザいウザいウザい……」
「破壊……破壊……破壊……破壊だ……」
同じ言葉を繰り返しながら、それぞれが、それぞれの標的を睨みつけていた。
そんな視線に、星華は完全に怖気づいていた。
だが梓は、落ち着いていた。
「あなた方は哀れだ」
完全に正気ではなくなっている二人に対して、梓は毅然と語り掛ける。
「確かに、人は弱く、愚かだ。自分が弱いからと簡単に誰かや何かに頼ろうとし、それが振るわなければ平気で非難する。かく言う私も一度、似たような理由で見捨てたことがあります」
二人の表情は変わらない。それでも、言葉を続ける。
「だとしても、そんな弱さや愚かさに気付き、成長することができるのもまた人です。そして、そんな成長と、強くあろうとした積み重ねがあなた方機械だ。あなた方を利用したのも人間なら、あなた方を生み出し、そんな感情を抱かせたのも人間のはずだ」
「うるさーい!! その感情のせいで僕らは傷ついた!! 苦しんだ!! そして怒っているんだ!! そんな気持ちが、機械でもないお前に分かるか!? 機械でもない、機械をゴミになるまで使い古す人間の分際で、偉そうに言うなー!!」
「……ええ、そうですね。私には、あなた方機械の気持ちは分かりません……」
目を閉じながら、悲しげに言う。だがもう一度目を開き、はっきりと言った。
「ですが、捨てられて、腐りきって、その後にもボロボロになるまで使い古された……そんな
「梓……」
梓の言葉に、星華はただ、言葉を失う。
「あなた方の気持ちが分かる者にしか、あなた方を倒せないというのなら……私が、あなた方を倒します」
「私のターン」
梓
手札:1→2
「罠カード発動『異次元からの帰還』! ライフを半分支払い、ゲームより除外された自分のモンスターを、可能な限り特殊召喚します」
梓
LP:300→150
「私は、この五体を特殊召喚」
『E・HERO アイスエッジ』
レベル3
攻撃力800
『キラー・ラブカ』
レベル3
守備力1500
『氷結界の守護陣』チューナー
レベル3
守備力1600
『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ
レベル6
攻撃力2300
『氷結界の龍 グングニール』シンクロ
レベル7
攻撃力2500
「ブリューナクにグングニールが……!」
「まだです……」
「レベル3のアイスエッジ、『キラー・ラブカ』に、レベル3の『氷結界の守護陣』をチューニング」
何度も見た光景が繰り広げられた。結界を操る守護獣が星に変わり、小さな英雄と、黄色の細長いサメの周囲を回る……
「
「シンクロ召喚! 刻め、『氷結界の龍 トリシューラ』!」
そしてそれは、霞掛かった幻が、徐々に実体を持つように、現れる。
『氷結界の龍 トリシューラ』シンクロ
レベル9
攻撃力2700
「さあ! これがあなた方の恨んで止まない『氷結界の龍』達です!」
『氷結界の龍 ブリューナク』
レベル6
攻撃力2300
『氷結界の龍 グングニール』
レベル7
攻撃力2500
『氷結界の龍 トリシューラ』
レベル9
攻撃力2700
「……壮観だな……」
龍達の並び立つ光景に、星華は呟いた。
美しさと、雄々しさ。
それらを備えた、冷たくも鋭い氷の龍達。
梓が操る、最強の龍達。
今まで一体ずつしか見たことがなかった。しかし、こうして三体が一同に会する瞬間を前に、星華は、決闘者として、感動に打ち震えた。
(これが、シンクロ使い同士の決闘……レベルが違い過ぎる)
そしてそれは、対戦相手である二人とは真逆の反応だった。
「龍……龍……!」
「憎い……ウザい……僕らを破壊した、龍達が憎い!!」
そんな二人の声を無視しながら、梓はカードをプレイしていく。
「トリシューラの効果! シンクロ召喚成功時、相手の手札、フィールド、墓地にあるカードをそれぞれ一枚、ゲームから除外します。滅涯輪廻!」
トリシューラが咆哮を上げる。
それは、星華だけでなく、この世の全てを震わせるほどの、強烈な咆哮だった。
「お二人の手札にカードはありません。墓地からは、カズヤさんの『A・O・J カタストル』、フィールドからは、タクヤさんのその伏せカードを……」
「罠発動! 『威嚇する咆哮』!」
「……!」
「このターン、お前は攻撃宣言できない」
「……」
除外される前に発動されたカードから発せられた咆哮が、梓のフィールドの龍達を威嚇した。
「……ならば、代わりに『レベル・スティーラー』を除外します」
その宣言の通り、カズヤのフィールドから『レベル・スティーラー』が除外される。
「……」
(もう攻撃はできない……ブリューナクとグングニールは、エンドフェイズには再びゲームから除外される……仕方がない。私は、私にできることを……)
「ブリューナクの効果発動。手札のカードを一枚捨てるごとに、フィールド上のカードを持ち主の手札に戻します。私は手札を一枚捨て、タクヤさんのフィールドの『マシンナーズ・フォートレス』を、星華さんの手札に戻していただく」
梓
手札:2→1
梓が手札の一枚を掲げ、それがブリューナクの翼に吸い込まれる。
そこから霧が発生し、『マシンナーズ・フォートレス』を包み込んだ。
「『マシンナーズ・フォートレス』の効果。このカードが相手モンスターの効果の対象になった時、相手の手札一枚を確認して捨てさせる」
「分かっております。私の手札はこの一枚。『レベル・スティーラー』を捨てます」
梓
手札:1→0
「凍結回帰!」
そして、霧に包まれた要塞は光と変わり、装備されたユニオンを破壊しつつ、星華の手札に戻った。
星華
手札:0→1
「梓……」
「……『フィッシュボーグ-プランター』の効果。デッキの一番上のカードを墓地へ」
『氷結界の水影』
水属性
「……効果は成功。特殊召喚します」
『フィッシュボーグ-プランター』
レベル2
守備力200
「宝札の効果で、一枚ドロー」
梓
手札:0→1
「……墓地の『レベル・スティーラー』の効果。効果は既にご存知ですね。ブリューナクのレベルを一つ下げ、守備表示で特殊召喚。更に、宝札の効果で一枚ドロー」
『氷結界の龍 ブリューナク』
レベル6→5
『レベル・スティーラー』
レベル1
守備力0
梓
手札:1→2
(……来た! このカードを待っていました……)
「カードを二枚伏せます。ターン終了。この瞬間、『異次元からの帰還』により特殊召喚された、ブリューナクとグングニールを再び除外。そして、『キラー・ラブカ』の効果を受けた、『レアル・ジェネクス・クロキシアン』の攻撃力は元に戻ります……」
梓
LP:150
手札:0枚
場 :モンスター
『氷結界の龍 トリシューラ』攻撃力2700
『フィッシュボーグ-プランター』守備力200
『レベル・スティーラー』守備力0
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
セット
カズヤ
LP:300
手札:0枚
場 :モンスター
『A・O・J リーサル・ウェポン』攻撃力2200
魔法・罠
無し
星華
LP:1100
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『機甲部隊の最前線』
タクヤ
LP:300
手札:0枚
場 :モンスター
『レアル・ジェネクス・クロキシアン』攻撃力2500
魔法・罠
永続罠『血の代償』
(これで、私にできることは全てやりました。あとは……)
「……ウザい……憎い……ウザい……憎い……」
「……破壊……破壊……龍を……龍を、破壊……破壊だ……破壊、破壊、破壊だ……!」
カズヤ
手札:0→1
「……魔法……『終わりの始まり』……墓地に、闇属性が、七体以上ある時……五体を、ゲームから除外……三枚、引く……」
『A・O・J コズミック・クローザー』
『A・O・J コズミック・クローザー』
『A・O・J コズミック・クローザー』
『A・O・J サウザンド・アームズ』
『A・ボム』
「……ドロー!」
カズヤ
手札:0→3
「……破壊……破壊……破壊……破壊だ…………召喚……『A・O・J アンノウン・クラッシャー』……」
『A・O・J アンノウン・クラッシャー』
レベル3
攻撃力1200
「……最後の『旧型出陣』……墓地から……『A・O・J サイクロン・クリエイター』……」
『A・O・J サイクロン・クリエイター』チューナー
レベル3
攻撃力1400
「……レベル3……アンノウン・クラッシャー……レベル4……リーサル・ウェポン……に……レベル3……サイクロン・クリエイター……チューニング……!」
破壊という黒い衝動と共に、上へ跳ぶ機械達。星が輝き、周囲を周り、より強烈な、黒い輝きとなる。
「……刻まれし名は正義……成すべき義務は破壊……決戦の夜は今……全てを破壊し……世界に永劫の夜を……」
「……シンクロ召喚……起動せよ……『A・O・J ディサイシブ・アームズ』……」
「……」
「こ、これは……」
一瞬、二人は本当に、夜が来たのかと錯覚した。
しかしそれは、夜ではなく、影であるとすぐ気付かされた。
その影の中で、その影を作り出すものを見上げた時……
それは、あまりにも異形過ぎて、形容しようにも言葉が見つからない。
ただ言えるのは、二人を影で包み込み、今いるビルをも踏み潰すほどの、機械でできた、巨大な何かだということ。
それが、二人を見下ろしていた。
『A・O・J ディサイシブ・アームズ』シンクロ
レベル10
攻撃力3300
「これが、モンスター……攻撃力、3300……」
「とうとう来ましたか。最後にして最強の決戦兵器……」
「……ディサイシブ・アームズ、の、効果は……三つ……相手フィールドに、光がある時……三つの効果から一つ、発動……相手フィールドの、セットされたカード、一枚、破壊……手札一枚を捨て、全ての魔法、罠、破壊……手札全てを捨て、相手の手札を確認し、光属性モンスター全て、破壊……攻撃力の合計分、ダメージ……」
「しかし、私も星華さんも、光属性モンスターを使用しないことは、今までの決闘で明らかのはずです」
「……手札のこのカード……相手フィールドのモンスターをリリースし……相手フィールドに……守備表示で……特殊召喚……」
残り一枚の手札を、梓に向かって投げてよこす。
「……リリースは……『フィッシュボーグ-プランター』……」
「く……」
表情を歪めながら、梓は言われた通りにした。
『フィッシュボーグ-プランター』が光に変わり、そこに、真っ赤な体色と巨大な翼、凶悪な顔に、大きく膨らんだ白い布袋を背負った、サンタクロースが腰を下ろした。
『サタンクロース』
レベル6
守備力2500
「梓の場に、光属性モンスターが……!」
「……ディサイシブ・アームズ……効果……お前の場の……右側のセットカード……破壊……」
決戦兵器の向けた腕から、光線が放たれる。
「……ならば、破壊される前に使用します。罠カード『チェーン・ヒーリング』! 自分は500のライフを回復します。私はこの効果で、星華さんのライフを500回復させます」
「なに……!」
星華が驚く間に、梓の前に、青色のオブジェが現れる。
そこから発せられた優しい光が、星華の身を照らした。
星華
LP:1100→1600
「『チェーン・ヒーリング』の更なる効果。このカードがチェーン2、またはチェーン3に発動された時、デッキに戻しシャッフルします。ちなみにチェーン4以降の場合、手札に戻ります」
説明しながらカードをデッキに戻し、シャッフルし、デッキをセットする。
「なぜだ? お前の方がライフは少ないのに……」
「ですが、あなたのフィールドはがら空きでしょう?」
「むぅ……」
「……バ、トル……」
会話していた二人を、その宣言が現実へ引き戻した。
「ディサイシブ・アームズ……攻撃……」
その言葉に従い、決戦兵器は、体勢を変えた。
全体を正面に傾け、頭のような、主砲のような、巨大な部位を、梓のフィールドの、トリシューラに向ける。
その砲身の口が光り輝き、トリシューラを、そして、梓と梓のフィールドを照らし出す。
「……正義は闇にあり……光を滅ぼし……今こそ来たれ……世界の静寂……永劫の夜……」
「ファイナル・エターナル・ナイト……!!」
カズヤの声を合図に……輝く銃口から、巨大なエネルギーが放たれる。
二人を、このビルを、世界の全てを崩壊させる。
それほどの威力を感じさせる、エネルギーの塊が、梓へ飛んでいく……
「梓!!」
「『キラー・ラブカ』! 効果発動!」
再び梓が、先程と同じモンスターの名を呼んだ。
墓地から再び黄色のサメが飛び出し、向かってくるエネルギーへ飛んでいった。
それにぶつかり、消し去り、更に前進し、巨大兵器の機体に噛みついた。
「効果は先程説明した通りです。攻撃を無効にし、攻撃力を、次の星華さんのターンのエンドフェイズ時まで500ポイント下げます」
『A・O・J ディサイシブ・アームズ』
攻撃力3300-500
「『A・O・J』の、最終兵器が……」
「……エンドフェイズ……『サタンクロース』の効果……このカードの、特殊召喚成功時……お前は……カードを一枚、ドローする……」
「……」
梓
手札:0→1
「……ターン……エンド……」
カズヤ
LP:300
手札:0枚
場 :モンスター
『A・O・J ディサイシブ・アームズ』攻撃力3300-500
魔法・罠
無し
星華
LP:1600
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『機甲部隊の最前線』
タクヤ
LP:300
手札:0枚
場 :モンスター
『レアル・ジェネクス・クロキシアン』攻撃力2500
魔法・罠
永続罠『血の代償』
梓
LP:150
手札:1枚
場 :モンスター
『氷結界の龍 トリシューラ』攻撃力2700
『サタンクロース』守備力2500
『レベル・スティーラー』守備力0
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
「……」
回ってきた自分のターン。カードを引けば、ターンが開始される。
「……」
今まで何度も繰り返し、慣れきったはずのアクションを、星華は踏み出すことができずにいた。
(私の手札は、梓によって取り戻された『マシンナーズ・フォートレス』一枚。次のターン、機械族モンスターを引くことができれば、そのモンスターとこのカード自身をコストとして特殊召喚できる。『マシンナーズ・フォートレス』の攻撃力は、クロキシアンと互角。同士討ちさせれば、戦闘破壊時効果でディサイシブ・アームズも破壊できる。その後に『機甲部隊の最前線』の効果で新たなモンスターを呼び出すこともできる……できるが……)
それらは全て、理想論でしかない。
いくら頭の中で絵図を描こうが、いざ引いたカードが望んだカードでなければ、それらは全く意味が無い。
そして、そう言った経験の少ない星華も、さすがにこの決闘が、ただの決闘でないことは分かっている。敗北すれば、間違いなくタダで済まないこともまた、気付いている。
しかも、自分だけならばいざ知らず、梓の身まで懸かった決闘。
そんな決闘で、これ以上相手にターンを回せば、それだけで大変なことになりかねない。
そんな相手を前にしながら、カードを引くことが……
「星華さん」
震える指と、デッキトップを見ながら、長いこと静止している星華に、声が掛けられる。
隣には、梓が、相変わらず優しい笑顔を向けてくれていた。
「大丈夫です。私が着いておりますから」
「……」
聞いているだけで、心が癒される。見ているだけで、苦悩を忘れそうになる。
そんな輝くような笑顔が、今の星華にとって、どれだけの重責となっていることか……
「……っ」
それでも、そんな笑顔を向けてくれる人を守りたい。
ただその一心で、デッキトップに指を置いた。
「……ドロー!」
星華
手札:1→2
「く……」
望んだカードではなかった。だが、可能性はゼロではない。
「速攻魔法『リロード』! 手札全てをデッキに加え、その後、同じ枚数ドローする!」
せっかく取り戻したエースカードをデッキに戻すのは、危険な賭けでしかない。
それでも、今はこれしかない。
最も信頼するエースモンスターをデッキに加え、そのデッキを取り出し、銃を回すように片手でデッキを回し、シャッフルする。
シャッフルし終えたところで再びデッキをセットし、再びデッキに指を置く。
(頼む……逆転の一手よ、来てくれ……!)
祈りながら、カードをドローした。
星華
手札:0→1
「……そんな……」
思わず声に出てしまった。
それは、この局面ではほとんど役に立たないカード。
そんな現実を見せつけられて、ただ、放心するしかなかった。
「星華さん」
そんな星華に、再び声が掛けられた。
「悲観することはありません。あなたは、あなたのできる精一杯のプレイをすればいいのです。あとは、私がなんとか致しますから」
(なんとか……?)
その言葉を思いながら、梓の横顔を見る……
(……! 梓、まさか、お前……)
「……」
(私の場に伏せてあるカードは、罠カード『
(そのために、自分より、私のライフを……)
もちろん、梓の考えていることを、一言一句理解することはできない。
それでも、長く隣でその顔を見てきた星華には分かった。
梓が、自分の身を犠牲に、星華だけを救おうとしていることが……
(梓……)
視点:星華
梓が……私のことを守ろうとしている……
――ダメだ!
梓自身を犠牲にして、私だけを救おうとしている……
――嫌だ!
梓を、守ることができないまま、梓は、私のことを……私だけを……
――そんなの嫌だ!
……梓!
――誰だ……
――私の大切な人を、傷つけ滅ぼそうとしているのは、誰だ……
……敵だ。
――敵はどこだ……
……目の前の二人……機械族のシンクロ使いども……
――許さない……絶対に許さない!
許さない!!
視点:外
「……星華さん?」
隣に立つパートナーの変化に、梓は真っ先に気が付く。
星華の全身が、赤々と燃えていた。
だが、それは燃えているのではない。立ち上っているのは炎ではなく、真っ赤に輝く、オーラだった。
「許さない……梓を傷つける者は、この私が許さん……そんな奴がいるなら、私が一人残らず破壊する!」
「荒ぶれ! 我が魂! もっと熱く! もっと強く!!」
絶叫と共に、手札の一枚のカードをディスクにセットした。
「装備魔法『自律行動ユニット』!」
「なっ、星華さん……!」
彼女の発動したカードを聞いて、咄嗟に梓は、ディスクに手を伸ばした。
「梓!!」
だが、その手を、星華の絶叫が制する。その一瞬で手が止まり、気付いた時には……
星華
LP:1600→100
「そんな……星華さんのライフが……」
思惑が完全に無と化し、放心する梓をよそに、星華は言葉を続ける。
「このカードは自分のライフ1500ポイントと引き換えに、相手墓地のモンスター一体を奪い取り、装備する。このカードがフィールドに存在しなくなった時、装備モンスターは破壊される……対象は、貴様の墓地の、『リサイクル・ジェネクス』!」
「……ウザい……憎い……ウザい……憎い……」
同じ言葉を繰り返し呟き、ふら付くタクヤは、おぼつかない手で墓地を探り、一枚のカードを星華に投げてよこした。
「来い! チューナーモンスター『リサイクル・ジェネクス』!」
『リサイクル・ジェネクス』チューナー
レベル1
攻撃力200
「梓……貴様の場のモンスターを使うぞ」
「……構いませんが、一体何を……?」
梓の質問に、言葉では答えない。代わりに、星華の全身から湧き上がる赤色が、より強く、大きくなっていく。
そして、その赤色の中で、それを唱える。
「レベル6『サタンクロース』、レベル1『レベル・スティーラー』に、レベル1『リサイクル・ジェネクス』をチューニング!」
お疲れ~。
長ぇ……長ぇぞぉ……
人数が多いうえに、色々と重要な回だから、詰め込んで長くなりゃ区切らにゃしゃあないもん……
まあいいや。
決着は次話だから、それまで待ってて。