んでもって、四話も完結~。
そんじゃ、行ってらっはい。
視点:外
「レベル6『サタンクロース』、レベル1『レベル・スティーラー』に、レベル1『リサイクル・ジェネクス』をチューニング!」
それはこの決闘中、何度も見た光景だった。
ただ、それを行っているのが、この決闘中、ほとんど第三者として扱われてきた少女だった。
そんな少女が、自分を第三者と見なした、三人のモンスターを使って行った。
「王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見るがいい」
計八つの星の輝きが、赤と黒の光に変わる。
空を燃やす爆炎は、彼らを覆う影の、全てを払うようだった。
周囲を煌々と照らす炎なのに、その炎には、なぜだか闇がよく映えた。
そして、そんな闇と同化するように、爆炎と共に誕生する。
強靭なる剛腕。
雄々しき二翼。
凶悪なる形相。
正に、全てを破壊し尽くさんとする、彼女の意志が体現したような、破壊の権化。
それが、彼女の叫びと共に、形を成す……
「シンクロ召喚! 我が魂『琰魔竜 レッド・デーモン』!」
名前を呼んだ。同時に、体に残っていた炎の全てを払いのける。
そこから、その禍々しくも美しい、赤と黒のコントラストは、完全なる姿を現した。
『琰魔竜 レッド・デーモン』シンクロ
レベル8
攻撃力3000
「これは……」
その姿を、梓は呆然と見ていた。
「……いや、似ているが違う。しかし、あまりにも……」
「なんだよぉ、それぇ……」
そんな梓をよそに、もはや正気を失い、ふら付いていたタクヤが、声を上げた。
「お前ぇ……できるんじゃないかぁ、シンクロ召喚……人間は嘘をつく……いつでも嘘をつく……それで僕らのことも騙して、利用する……だからウザいんだぁ……だから憎いんだぁ……!」
「破壊……破壊……全てを破壊……破壊……破壊……」
「……そんなに破壊が望みなら……」
そんな二人を、星華は、憐れみを向けた目で見つめていた。
しかしすぐ、その目に敵対を宿し、二人を睨み据える。
「私が全てを破壊する。貴様らの力と憎しみ、全てをな……レッド・デーモン!」
『グオオオオオオオオオオオオオオ!!』
その呼び掛けにこたえるように、レッド・デーモンが高らかに吼えた。
「レッド・デーモンの効果は一ターンに一度、自分のメインフェイズ1のみに発動できる。このターン、こいつ以外の攻撃を放棄することを引き換えに、こいつを除く、フィールド上の攻撃表示のモンスター全てを破壊する」
説明を受けながら、レッド・デーモンが飛び上がり、フィールドの中心に降り立つ。
そこで両翼を広げ、それが巨大な炎に包まれ、フィールド全体を赤く照らし出す。
「
星華の叫び。そして、レッド・デーモンの雄叫びと、大地から吹き出す爆炎。
それが、レッド・デーモンを除くモンスター全てを燃やし尽くす。
自身の前に立ちはだかる、あらゆるものを破壊する、無情の一撃。
タクヤの『レアル・ジェネクス・クロキシアン』も。
カズヤの『A・O・J ディサイシブ・アームズ』も。
梓の『氷結界の龍 トリシューラ』も……
「……」
『……』
彼らの兵器も、彼らの怒りも、そして、そんな彼らの恨みすら、容赦なく飲み込む獄炎。
そんな火炎地獄を前に、梓は、そして、双子もまた、言葉を失った。
「バトル!」
やがて、そんな双子に構うことなく、星華は叫ぶ。
「『琰魔竜 レッド・デーモン』の攻撃!」
そして、その悪魔竜は、タクヤへ向かった。
「
その口から、灼熱の火炎弾が放たれる。
タクヤの中に宿る、怒りと憎しみ、それら全てを燃やし尽くすように、タクヤのライフポイントの全てを燃やし尽くした。
タクヤ
LP:300→0
「破壊……ハ、カ、イ……」
カズヤの顔が、倒れたタクヤに向けられた。
倒れたタクヤの表情は、まるで憑き物が落ちたように、安らかな表情を浮かべていた。
「ハ、カ、イ……ハ、カ……タ、ク、ヤ……」
「私はこれでターンを終える。そして、私の次のターンを迎える者が倒れたことで、自動的に貴様にターンは移る」
星華
LP:100
手札:0枚
場 :モンスター
『琰魔竜 レッド・デーモン』攻撃力3000
魔法・罠
永続魔法『機甲部隊の最前線』
カズヤ
LP:300
手札:0枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
梓
LP:150
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
「……ハ、カ、イ……タ、ク、ヤ……」
カズヤ
手札:0→1
「……『A・O・J コアデストロイ』……」
『A・O・J コアデストロイ』
レベル3
攻撃力1200
まるで、それこそ壊れた機械のような口調と動作で呼び出したのは、最初に呼んだ、カタストルを子供にしたような、小さな機械。
だが、カタストルに比べて、その外見はあまりに弱々しく、そして、大人しかった。
カタストルの量産型か、試作型か、それとも、使い古されたカタストルか……
もしかしたら、兵器として使われるより前に、ジェネクスのような心を持っていた、そんな時の姿なのかもしれない。
そんな真相は、永遠に分かる時は来ない。そして、誰も興味を示さないだろう。
いずれにせよ、名付けられた物騒な名前も、兵器という言葉も似つかわしくない優しさが、その小さな機械にはあった。
「……ハ、カ、イ……コウ……ゲキ……」
長い間戦い続け、敵が消えた後になっても、光で無理やり作った敵と戦い続け、最後の一体となった……
そんな小さな機械は、途切れ途切れの宣言に従い、梓へと向かっていく。
「……ハ……カ…………イ…………………………シ…………テ…………」
「……レッド・デーモン」
そんなコアデストロイの前に、琰魔竜が立ちはだかる。
感情が無く、勝てないという現実も分からない機械は、ただ前進するしかない。
そんな機械に向けて、レッド・デーモンは拳を上げた。
「
静かな言葉のもとに振るわれた拳は、あっさりコアデストロイを粉々に破壊する。
同時に、カズヤの中に残っていたものも、全て破壊された。
「……」
カズヤ
LP:300→0
「……」
「……」
倒れた双子は、共に同じ顔で、同じように、穏やかな表情を浮かべている。
決闘中に見せていた、狂気や憎しみ、破壊衝動など、そのあどけない表情にはまるで見られない。
目の前で倒れているのは、若く幼い、双子でしかない。
「……」
そんな双子を前に、星華は決闘ディスクから、カードを取り出す。
「レッド・デーモン……」
それまでシンクロモンスターなど、
そして、当たり前だが、デッキには一枚たりとも入っていないはずだった。
だというのに、今自分の手にあるカードは、夢でも幻でも無い。
慣れ親しんだものとは違う白い縁取りと、そんな白とは対照的な、赤と黒の邪悪な色合いの竜が、こちらを睨みつけている。
「……」
いつどこから、このカードがデッキに紛れていたのか……
そして、なぜ自分は、まるで知っていたかのようにこのカードを使うことができたのか……
分からないことはいくつもある。ただ分かるのは、自分達が勝利したということ。
そして……
「星華さん」
倒れた双子の様子を見ていた梓が、星華の方へ歩み寄る。
その表情は星華と同じように、疑問を浮かべていた。
「そのカード、一体どうして……」
ドッ
「……」
質問の全てを言い切る前に、カードを見ていた星華の、右の拳が顔面へ飛んだ。
「……っ」
もっとも、星華の拳ごときでは、梓は当然倒れず、瞬きすら起こさず、ビクともしない。
それこそ壁を殴ったのと同じで、むしろ、殴った星華の方が拳を引っ込め、痛みに悶える始末だった。
「……どうしました? 星華さん……」
「どうしただと……?」
低く、ドスの効いた声で聞き返しながら、梓の決闘ディスクに手を伸ばす。
そこに伏せられていたカードを取り上げ、それを見る。
「『
「……」
当たっているため否定はしない。
そして、そんな梓の着物の袖……胸倉を、乱暴に引っ掴む。
「この……大バカ者がぁああ!!」
思い切り顔を近づけ、唾が飛ぶのも構わず、大音量の怒声を浴びせた。
そんな星華の顔は、怒りに醜く歪みながら、
「星華さん……」
その両目の淵には、光るものがあった。
「そんな方法で私だけが助かって……貴様のいない未来で、私が生きていけると思っているのか!?」
「……」
何も、言い返すことができずにいた。
そして今度は、そんな梓の胸に、自身の額を押し当てた。
「この先一度でも……私のために、命を落とすようなことをしてみろ……私もすぐに、お前の後を追ってやるからな……」
「え……」
動揺の声を上げる梓に向かって、顔を上げ、再び声を張り上げた。
「いいな! 私に死んでほしくないと考えるなら、まずはお前が生き残ることを考えろ! お前が長生きすることが、私が長生きすることとイコールだ! この先お前が、私より先に、そして、私のために死ぬことは許さん!」
「……」
「分かったのか!?」
「……」
少しの間逡巡しながら、それでも、笑顔を浮かばせて、
「分かりました」
梓は返事をしながら、袖を掴む星華の両手に、自身の手を添えた。
「私の生が、あなたにとって生きる理由になるというなら……私も、長生きするよう努めましょう」
「……」
結局、梓という男は、どこまでも他人のためにしか生きられない男なのだと、星華は痛感することになった。
自分のために生きているのではなく、他人が望むから、自分もまた生きる。
己と言うものに対する意識がどこまでも希薄で、優先するのは他人ばかり。
「……」
それでも、少なくとも今この瞬間、梓が、自分だけのために生きると言ってくれたことは、嬉しかった。
その梓が、自分だけに向けてくれる、いつもの笑顔がより眩しかった。
カアアアアアアアアァァァァ……
「な、なんだ……?」
「これは……?」
二人が見つめ合っていた時、正面に倒れている双子の、決闘ディスク……にセットされた、デッキが光輝いていた。
輝きを発しながら、やがてディスクから、一枚一枚が飛び出し、一箇所に重なる。
一つになったカードの束は、より輝きを増した。
そして、それがフワフワと移動し、
「……え?」
星華の目の前で、制止する。
「なんだ……? 私を……?」
怪しい輝きを前にしながら、それでも、無意識に手が伸びてしまう妖しさがあった。
手を伸ばし、カードの束に指が触れた瞬間……
「……!」
輝きがより強くなると同時に、星華の手に納まる。それは、梓には覚えのある光景だった。
「まさか……封印が解かれた?」
「封印?」
「……このデッキは、星華さんを選んだ、ということです」
「私を……今まで、明らかに私を敵視していたのに……?」
「それは……私にも、よく分かりませんが……」
梓も表情を悩ませながら、自身の決闘ディスクから、デッキを取り出した。
「……しかし、そんなことを言えば、私とて、元はと言えば、彼らとは敵同士でした。それがどういうわけか、こうして、デッキを使っているのです……」
「……」
事情はよく分からない。それでも、星華は自身の手にある、デッキの一番上のカードをめくった。
「これは……!」
それは、少なくとも今行った決闘では、見ることの無い名前だった。
そして、決闘を振り返っても、二人のデッキには無かったと断言できる。
更にめくっていくと、二枚目も、三枚目も、無かったはずの、同じ名前を冠している。
双子が使っていたものと合わせて、それが今、星華の手に渡った瞬間、新たに出現していた。
「『
「……うぅ」
と、星華と梓が、新たに出現したカードを見ていると、正面から声が聞こえた。
「……んぁ?」
双子は同時に目を覚まし、体を起こしていた。
「……あれ? なにここ……」
「……なぜ、こんな場所に……?」
「……覚えていないのか?」
星華が声を掛けると、二人は星華の方を見た。
「……? どちらさま?」
「その制服……決闘アカデミアの生徒、か……?」
「あ、ああ……」
双子は共に、明らかに梓や星華のことは、記憶に無い様子だった。
聡明そうな弟と、おバカな雰囲気の兄という、出会った時そのままの姿に戻っている。
そんな二人が、初対面ですがなにか? という表情を、二人に向けていた。
「立てますか?」
そんな二人に対して、混乱している星華とは違い、梓は普通に話し掛けている。
双子はそんな梓の綺麗な顔に、顔を赤らめていた。
「あ……ええ、はい、立てます立てます。ピンピンしとりますけん……」
「言葉がおかしいぞ……ありがとう。心配してくれて」
二人とも視線を逸らしながら、急いで立ち上がっていた。
「……お二人とも、ここで倒れる以前のことは覚えておられますか?」
『……』
質問され、双子は一度顔を見合わせた。そして、
「……いや、なにも……気が付いたら、ここにいた……」
「う~む……これが噂の夢遊病ってやつ? もしくは幽体離脱?」
「アホか……」
罵倒したカズヤを、タクヤはけたぐり転がした。
そして、仰向けになったところに重なって、
「ゆ~たいりだつ~」
「あっはははははは!!」
タクヤが楽しそうな声で言い、梓は大声を出して爆笑し、カズヤは呆れ、星華は溜め息を吐いていた。
数年後、中々に二枚目だった容姿が見る影も無いほど太ってしまったこの双子が、お笑いコンビとしてデビューし、一斉を風靡することになるのは、また別の話である……
……
…………
………………
視点:星華
「ふむ……いつの間にやら、空は元に戻っておりますね……」
元いたビルから移動し、別のビルから空を見上げながら、梓は言った。
確かに、決闘する以前、厚い雲に覆われていた空は青く晴れ渡り、街を囲んでいた大きな力も今は感じない。
更には、向かっていたビルを見上げながら……
「翔さんに剣山さんも、どうやら決闘を終えたようですし……」
「……まあ、丸藤翔には精霊もついているのだろう? なら大丈夫ではないか?」
「……むしろ、その精霊の方がより心配というか……」
「……」
まあ、何度か遠くから見掛ける程度ではあったが、確かに頼りないと言ってしまえばそこまでではあるな。
少なくとも性格だけを見れば……舞姫の方が、よっぽど信頼はできる……
「……とは言え、剣山さんのことは、私はよく知りませんが、翔さんも一緒におりましたし、おそらく大丈夫でしょう」
「ふむ……」
丸藤翔という二年生のことを、梓はかなり買っているようだな。
確かに、あまり注目されてはいないが、実力者であることは間違いない。
私はすっかり嫌われているようだから、深くは知らんがな……
「これからどうしますか?」
「うむ……」
確認の意味も籠めて、梓が私に尋ねてきた。
心配する梓の気持ちも分かるが、手掛かりも無い以上、これ以上の捜索も仕様が無いだろう。
何より、先程の決闘で、すっかり時間を食ってしまったからな。
「どうもこうも無い。夜にはホテルに集合だが、それまで時間はある。ならば、デートの続きと行く他あるまい」
言いながら、腕に抱き着く。
辛い決闘をした直後だというのに、ここはいつでも私を安心させてくれる。
梓の隣という、ある意味この世で最も安全で、そして、神聖な場所……
「……そうですか」
梓はそう聞き返すと、微笑みかけてくれた。
「では、また歩きますか。ただ、決闘の聖地、と言っても、行ってしまえば単なる都心なので、見る価値のある名所には乏しいのですが……」
「構わん。お前と一緒なら、そこは私にとって価値ある名所だ」
「……? そうですか……」
理解できない、という表情だが、それでもいい。
突然現れたカードと言い、いきなりデッキに選ばれたことと言い、この街に来てから、分からないことだらけだ。
そんなものを突然押し付けられて、不安やら、混乱やら、悩みは尽きることが無い。
だがそれでも、お前がこうして隣にいる。それだけで、とても心強い。
お前の声や笑顔は、不安や負の感情の全てを消し去ってくれる。
これから起こるかもしれないことへの恐怖も、お前がそばにいるだけで、忘れさせてくれる。
依存している……と言われれば、それまでだ。
さっきも言ったが、もはや私は、梓がいなければ生きていけない。
だからこそ、今はこうして、お前に甘えさせてくれ。
一番に選ばれなくても良い。
ただ、お前が生きていることが、私にとっては希望になるから。
そして、お前にとっても、希望と言える存在になりたいから……
「……で、お前はなぜまた、私をおぶっている?」
「普通に歩くよりも、こちらの方が早いので。しっかり掴まっていて下さい」
「いや、早いとか、そういうこ、と、で、な、く、て……」
「うおおおおおおお!! 話してる最中に跳ぶなああああああああああ!!」
「見て下さい。あれが、先程紹介できなかった、武藤遊戯さんの実家である『亀のゲーム屋』さんです」
「そうなのかあああああああああ!?」
「あの河川敷、あそこがかつて、武藤遊戯さんが、『オシリスの天空竜』を操るグールズの一人と決闘した場所です」
「あそこがなあああああああああ!?」
「あれは、『ジャンキー・スコーピオン』という靴屋さんです。店主の『
「それはどうでも良いいいいいい!?」
「それで、あそこが……」
「待て! こんな状態で名所を巡られても分からあああああああああああん!!」
これは……
デートとは言わない……
そして、叫んだ後に地上に降りて、普通に歩くことがどれだけ楽しいことかを思い知らされた。
お疲れ~。
久しぶりに……手強かったぜ……
Aジャスは元より、ジェネクスも見てみたら微妙な効果ばっかで……Aジェネ縛らなきゃだし……
決闘のクオリティとか、大丈夫かね……?
まあそんなわけで、星華は新たに、『A・ジェネクス』を手に入れましたわ。
当然、既存の『A・O・J』やジェネクスも使わす予定なので。
まあ先のことはどうなるか分からんがね。
んじゃ、今度は五話で会いましょうや。
ちょっと待ってて。