遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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いぇあ~。
タイトルの通り、決闘いきま~すら~。
行ってらっしゃい



第五話 童実野町で ~決闘~

視点:外

 

「……う、む……」

「うぅ……ん?」

 目が覚めて、体を起こした時、目の前の光景に、梓は疑問の声を出した。

「……星華さん、星華さん……」

 隣では、まだ目を覚まさず項垂れている星華が一人。

 声を掛けると、星華も体を起こした。そして、梓と同じく、目の前の光景に目を丸めた。

「これは……」

 それを見たのは梓よりも後だが、こう言ったことに強い星華の方が、梓よりも先に状況を理解した。

「どうやら私達は、『バーチャル世界』に引きずりこまれたようだな」

「『婆ちゃん世界』……そんなうらうらした世界があるのですか?」

「バーチャ、()だ。仮想現実……まあ早い話、私達はゲームの世界に引きずられたらしい」

「ゲームの世界……」

 星華の分かり易い表現にも、梓は付いていけていない様子を見せていた。

 周囲の空間は光源も見当たらないのに、目の前の光景や、自身の姿がはっきりと見えている。

 もっとも、見えるのはただ真っ黒な空間と、地面と空に無数に刻まれた、緑色の幾何学模様だけ。

 知識ある者なら、確かにこの世界は、ネットワークの生み出したバーチャルの世界だ、と、専門的な知識は無くともなんとなく理解することはできる。

 そして、そう言った知識が無いうえ、ただでさえ機械が苦手な梓は、理解は不可能な様子だった。

「……それで、その、婆ちゃんのゲーム世界から出るには、どうすれば良いのでしょう?」

「婆ちゃんのゲームとは何だ? 爺ちゃんのゲームなら『ソリッド・スネーク』辺りが思い浮かぶが……ではなく……」

 見知らぬ世界に混乱し、自分を頼っている梓の質問に対して、星華は答えを探した。

「……そんな方法は無い」

「無いのですか!?」

「ああ。ゲームである以上、当然リセットする方法はあるだろうが、そのためのシステムは見当たらない。オプションメニューかリセットボタンでも押せれば話は別だが、あいにく生身の肉体はこの世界の外、現実世界の別のハードに繋がれているはずだ。となると、何らかのプロトコルからアクションやイベントが発生するのを待つことになるが、そもそもそのようにプログラミングされているのかも分からん。というか、そもそも私達が引きずられた理由も分からん。一体誰だ、こんなバカげたアルゴリズムを組んだエンジニアは……」

「……? ……?? ……?」

 星華の話しを、梓は真顔で聞きながら、その頭の上には大量の?マークが浮かんでいる。

「……きゃんゆーすぴーくじゃぱにーず?」

 分からないまま、そう発するのが精いっぱいだった。

「いずれにせよ、この世界が何らかの動きを見せない限り、手の内は無い、ということだ」

「何らかの動き……」

 そんなことを言われても……そう思いながら、二人は周囲を見渡した。

 周囲には相変わらず何もない。景色も見えず、物体も見えず、自然も見えず、空気すら見えない。ただ電子によって作られただけの空虚な世界は、外界から隔離された二人を嘲笑うかのように、無、という世界を見せるだけ。

「……私達……」

 そんな世界を眺めながら、梓は思わず、口からもらした。

「もしかして、このままここに、永久に閉じ込められたまま……ということも……」

「……」

 否定はできない。とは言え、認めたくも無い。だから、星華は返事ができなかった。

 

 ……と、二人が何もできず、周囲を見ていた時だった。

「……む?」

「あれは……」

 それに、二人は同時に気付いた。

 黒と緑しか見えないこの世界の、正面に、白い光が見えた。

 まるで上から落ちるしずくのように、その光は宙に浮かび、そこへ段々、形を成していく。

「もしかして、あそこになにか?」

「……他に手掛かりも無いことだしな……」

 それ以上は言わず、二人はそこへ近づいていった。

 

 近づくと、白のしずくは既に止まり、完全な形となっていた。

「子供、でしょうか……」

「に、見えるがな……」

 その白は、二人よりも背の低い少年の形で、少年の手の形をした部分を動かした。

 すると、彼らの目の前に、ゲーム画面のテキストボックスのような表示が現れる。

 

『Let’s play Duel?』

『Yes. No.』

 

「決闘をしますか? はい、いいえ……」

「ふむ……つまりは決闘をしろ、ということか……」

 画面を見ながら、再び目の前の、『少年』を見る。

 真っ白に光るその顔から表情はうかがえない。ただ、二人をジッと見ているだけだった。

「……よし、私がやろう」

「星華さんが?」

 考えている梓を尻目に、星華は決闘ディスク取り出した。

「勝てば出られるかもしれん。だが、お前はこういう世界は苦手そうだからな。私が適任だ。それに……」

 星華デッキを取り出した。

「このデッキの力を試すには、ちょうどいい」

「試す? そのデッキを使用する気ですか?」

「ああ。見たところ、銃火器は全て現実世界に置いてきてしまったようだが、どうやらデッキはそのままらしい。それにバーチャルなら、誰にも見られはしないだろうからな」

 そう言いつつ、決闘ディスクを腕に装着し、デッキを切った後でセットする。そして、目の前のテキストボックスの、『Yes.』の部分に指を触れた。

「私が決闘をしよう」

 

『OK. My name is NOA.』

 

「NOA……それが、あなたの名前ですか……」

 梓が呟くよりも早く、白い子供『NOA』もまた、決闘ディスクを構えていた。

「では、始めるとしよう」

「……」

 

「決闘!」

 

 

星華

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

NOA

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「先行は私だな。ドロー」

 

星華

手札:5→6

 

「……私は、『A(アーリー)・ジェネクス・チェンジャー』を召喚」

 

A(アーリー)・ジェネクス・チェンジャー』

 レベル3

 守備力1800

 

 星華の声と共に、彼女の新たなカードが姿を現す。

 全体的に緑色のカラーリングと、両手の平、両膝に着けられた、アンテナのような部品が特徴的な、小人のようなデザインの機械人。

 攻撃的なデザインの『A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス)』とも、工業的なデザインの『ジェネクス』とも違う、まるで平和を願うかのような姿をかたどった機械が、守備の姿勢を取る。

「更に、カードを二枚伏せる。これでターンエンドだ」

 

 

星華

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『A・ジェネクス・チェンジャー』守備力1800

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

『……』

 NOAと名乗った白の少年は、そんな星華の様子を、ジッと眺めていた。

 やがて、自身にターンが回ってきたことを自覚し、手を動かした。

『……ボク……ノ……ターン……』

 

NOA

手札:5→6

 

「喋れるのか……」

 目の前の少年に対する、新たな事実を知ったところで、少年は続けた。

『……召喚……スピリットモンスター……『因幡之白兎(イナバノシロウサギ)』……』

 

因幡之白兎(イナバノシロウサギ)』スピリット

 レベル3

 攻撃力700

 

「なに? 『スピリット』だと!?」

 NOAの召喚した、メカメカしいキネとウスを手に持つ透明な白ウサギを見て……否、NOAの言葉を聞いて、星華は驚愕の声を上げた。

 決闘を見ている梓も、目を丸くした。

「スピリットモンスター……日本神話をモチーフにデザインされた、幻のシリーズ……」

 そして、二人が気付きを得た後にも、少年は続けた。

『スピリットモンスター……不可能……特殊召喚……『因幡之白兎』……特殊能力……ダイレクトアタック……バトル』

 その機械的で静かな宣言を聞き、白兎の持つキネから炎が噴射される。

 それがまるで、ロケットのような機動を描き、星華の身に飛んでいった。

「ちぃっ……!」

 

星華

LP:4000→3300

 

『……セット……2……発動……『エレメントの泉』……ターンエンド……『因幡之白兎』……特殊能力……手札ニ戻ル……』

 

NOA

手札:2→3

 

「……そう言えば、そういう特徴があったな」

「……効果……『エレメントの泉』……フィールド……モンスター……手札ニ戻ル……ライフ……回復……500……」

 

NOA

LP:4000→4500

 

 

NOA

LP:4500

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『エレメントの泉』

    セット

    セット

 

星華

LP:3300

手札:3枚

場 :モンスター

   『A・ジェネクス・チェンジャー』守備力1800

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「だが、それは言うなれば必ずフィールドが空になるという弱点に他ならん。一気に攻めさせてもらうぞ。私のターン」

 

星華

手札:3→4

 

「星華さん」

「む?」

「冷静に、ですよ……」

「ああ。分かっているさ」

 決闘ですぐ熱くなるのがあなたの悪い癖。それは、複雑且つ、時に繊細な動きを強要されるシンクロのデッキを使う上で良くない。

 徹夜しながら散々言われたことを思い出しながら、カードに手を伸ばした。

「こいつを召喚する。『A・ジェネクス・ソリッド』」

 

『A・ジェネクス・ソリッド』

 レベル2

 攻撃力500

 

 新たに姿を現した、青色のカラーリングと、各所に装着されたヒレという、水を連想させる機械人。

「こいつの効果は、自分フィールドに存在する水属性のジェネクス一体を墓地へ送ることで、カードを二枚ドローできる。私の場のジェネクスは二体とも闇属性だが……ここで『A・ジェネクス・チェンジャー』の効果。一ターンに一度、フィールド上のモンスター一体の属性を、このターンの間変更できる。『A・ジェネクス・ソリッド』の属性を、闇属性から水属性に変更」

 その言葉の通り、表示されている『A・ジェネクス・ソリッド』の属性が、闇から水に書き換えられる。

「ここでソリッドの効果を発動。このカード自身を墓地へ送り、カードを二枚ドロー」

 

星華

手札:3→5

 

「……魔法カード『ワン・フォー・ワン』。手札一枚を捨てることで、手札またはデッキのレベル1のモンスター一体を特殊召喚できる。私はこの効果で、デッキからレベル1のチューナーモンスター『リサイクル・ジェネクス』を特殊召喚」

 

星華

手札:4→3

 

『リサイクル・ジェネクス』チューナー

 レベル1

 攻撃力200

 

『チュー……ナー……?』

 その単語を聞いた途端、白の少年は首を傾げながら、疑問を声に出した。

「ほう、人間らしい仕草も見せるのだな……私は更に魔法カード『死者蘇生』発動。私は墓地から、たった今手札から墓地へ送った『ジェネクス・ブラスト』を特殊召喚する」

 

『ジェネクス・ブラスト』

 レベル4

 攻撃力1600

 

「『ジェネクス・ブラスト』が特殊召喚に成功した時、デッキから闇属性のジェネクス一体を手札に加えられる。デッキから『A・ジェネクス・ケミストリ』を手札に加える」

 

星華

手札:2→3

 

「これで準備は整った……いくぞ」

 

「レベル4の『ジェネクス・ブラスト』に、レベル1の『リサイクル・ジェネクス』をチューニング!」

 

『……チュー……ニング……?』

 少年が再び、疑問の声を上げた。

 そして、そんな疑問に答えるように、そして、初めて自分の意志で行うシンクロに歓喜するように、星華は声を張り上げた。

 

「正しき闇より生まれし正義の機械(からくり)よ。殲滅の闇の一陣となりて、悪しき光に今、裁きの時……」

「シンクロ召喚! 起動せよ、『A・O・J カタストル』!」

 

『A・O・J カタストル』シンクロ 

 レベル5

 攻撃力2200

 

 星華が初めて、自分の意志で呼び出したシンクロモンスター。

 それは図らずも、(あずさ)以外の人間が初めて呼び出すのを見、星華自信を散々苦しめた、『A・O・J』の先兵たるモンスター。

 

『シンクロ……召喚……?』

「そうだ。チューナーモンスターと、それ以外のモンスターのレベルを合計し、墓地へ送ることで融合デッキから特殊召喚する。それがシンクロ召喚。そして、その召喚で呼び出されるモンスターが、シンクロモンスターだ」

 真っ白に光っているため、少年の表情は分かり辛い。それでも、驚愕していることはその反応だけで察しが付く。

 そんな少年を更に驚かせるために、星華は手を動かす。

「『A・ジェネクス・チェンジャー』を攻撃表示に変更」

 

『A・ジェネクス・チェンジャー』

 レベル3

 攻撃力1200

 

「バトルだ! 『A・O・J カタストル』で、NOAにダイレクトアタック!」

 星華の指令に従った機械が、その四つの足で白の少年に近づいていく。

 だが、それで少年が慌てる様子は無い。

「……発動……罠……『攻撃の無力化』……」

 少年が手を動かし、伏せカードが表になる。

 そこに発生した渦が、発射されたカタストルの光線を吸収した。

「さすがに簡単に通りはしないか……これでターンを終了する」

 

 

星華

LP:3300

手札:3枚

場 :モンスター

   『A・O・J カタストル』攻撃力2200

   『A・ジェネクス・チェンジャー』攻撃力1200

   魔法・罠

    セット

    セット

 

NOA

LP:4500

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『エレメントの泉』

    セット

 

 

「ちなみに言っておくが、カタストルはモンスターとバトルする時、闇属性以外のモンスターをダメージ計算を行わず破壊する効果を持っている。倒す気があるなら気を付けることだ」

『……ボク……ターン……ドロー……』

 

NOA

手札:3→4

 

『……召喚……『和魂(ニギタマ)』……』

 

和魂(ニギタマ)』スピリット

 レベル4

 攻撃力800

 

 星華の解説の後に出てきたのは、凶悪な効果を持つカタストルとは対照的な、優しげな緑に光る丸い塊。

『……『和魂』……効果……召喚成功……スピリット……通常召喚……』

『『和魂』……生贄……召喚……『砂塵の悪霊』』

 

『砂塵の悪霊』スピリット

 レベル6

 攻撃力2200

 

『……『和魂』……効果……墓地ヘ行キ……場ニ……スピリットモンスター……一枚……ドロー……』

 

NOA

手札:2→3

 

『『砂塵の悪霊』……効果……召喚成功時……表側モンスター……全テ……『砂塵の悪霊』以外……破壊……』

「何だと!?」

 呼び出された『砂塵の悪霊』が、その鋭い牙の生え揃った口を開く。

 そこからまるで、この世のものとは思えぬ、おぞましい音色が鳴り響いた。

 それを聞いた星華は思わず耳を塞ぎ、フィールドの二体の機械達は、その身を震わせる。

 結果、その振動に耐えかね、徐々にひび割れ、砕けた。

「私のモンスターが……」

『……バトル……』

 そして、空になった星華のフィールドを見据え、NOAは宣言した。

『ダイレクトアタック……『砂塵の悪霊』……』

 悲鳴を上げた悪霊は、今度はその牙を、星華に向けて走り出した。

 そんな悪霊を前にして、星華は、笑みを浮かべる。

「永続罠『リビングデッドの呼び声』! 復活しろ、カタストル!」

 

『A・O・J カタストル』シンクロ 

 レベル5

 攻撃力2200

 

 再び星華の前に、その白色の機械が姿を現した。

「『砂塵の悪霊』は地属性。攻撃力は同じでも、戦闘を行えば一方的に破壊されるのはその悪霊だけだ」

『……バトル……中止……』

 星華は余裕を見せている。しかし、その余裕を崩す一手を、NOAは見せる。

『……発動……魔法……『強制転移』』

「……え?」

 余裕の笑みを浮かべていた星華の顔が、一気に困惑に変わる。

 と同時に、星華のフィールドのカタストルと、NOAのフィールドの悪霊が、その立ち位置を入れ替えた。

「しまった……! スピリットモンスターはターンエンドと同時に持ち主の手札に戻る。つまり、コントロールを交換する『強制転移』が、完全なコントロール奪取カードになる、ということか……」

『……罠……『八汰烏(ヤタガラス)の躯』……相手フィールド……スピリット……カードドロー……2……』

 

NOA

手札:2→4

 

「コントロール奪取と共に、手札まで増やすだと……!」

『……セット……2……エンド……『砂塵の悪霊』……手札ニ……効果……『エレメントの泉』……回復……500』

 

 

NOA

LP:5000

手札:2枚

場 :モンスター

   『A・O・J カタストル』攻撃力2200

   魔法・罠

    永続魔法『エレメントの泉』

    セット

    セット

 

星華

LP:3300

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

 

 

「こいつ、強い……」

「相手モンスターを確実に除去しつつ、ライフ、そして手札のアドバンテージをも確保する。機械的に見えて、何と堅実で強かな決闘よ……」

 星華も、そして後ろで見ている梓も、NOAの決闘に驚かされていた。

 同時に、星華は最初感じていた、この世界に対する混乱を消し去り、改めて思う。

「面白い……面白いぞNOA! 貴様の決闘! なぜ私達を呼んだのかは知らんが、楽しませてもらうぞ。私のターン」

 

星華

手札:3→4

 

「……まずは、その手札にある厄介な『砂塵の悪霊』、ついでに『因幡之白兎』から消えてもらう。魔法カード『手札抹殺』を発動。互いの手札を全て捨て、捨てた枚数カードをドローする」

 星華は三枚、NOAは二枚のカードを入れ替える。

「ここで罠カード『堕天使の施し』を発動。このターン、手札から墓地へ捨てたカードを手札に加える。私は今捨てた三枚のカードを手札に加える」

 

星華

手札:3→6

 

「そしてこれだ。魔法カード『マジック・プランター』。永続罠『リビングデッドの呼び声』を墓地へ送り、カードを二枚ドローする」

 

星華

手札:5→7

 

「そして同時に、『リビングデッドの呼び声』がフィールドを離れたことで、カタストルも破壊される」

『……』

「『A・ジェネクス・ドゥルダーク』を召喚」

 

『A・ジェネクス・ドゥルダーク』

 レベル4

 攻撃力1800

 

 今までのA・ジェネクスと同じようなフォルムに、全身が漆黒の機械人が立った。

「続けて魔法カード『二重召喚(デュアル・サモン)』。この効果により、私は新たにモンスターを召喚する。『A・ジェネクス・リモート』を召喚」

 

『A・ジェネクス・リモート』チューナー

 レベル3

 攻撃力500

 

「リモートの効果。一ターンに一度、フィールド上のチューナー一体の名前を『ジェネクス・コントローラー』に変更できる」

『……名称変更……?』

「このデッキには使える効果でな」

 疑問の声を上げるNOAに応えるように、新たな魔法カードを発動した。

「魔法カード『機械複製術』。自分フィールドに存在する、攻撃力500以下の機械族モンスターを選択し、デッキから同名モンスターを二体まで特殊召喚する。デッキから、二体の『ジェネクス・コントローラー』を特殊召喚する」

 

『ジェネクス・コントローラー』チューナー

 レベル3

 攻撃力1400

『ジェネクス・コントローラー』チューナー

 レベル3

 攻撃力1400

 

「このまま攻撃してもいいが……手札の『A・ジェネクス・ケミストリ』の効果。こいつを手札から捨てることで、自分フィールドのジェネクス一体の属性を変更できる。私はドゥルダークの属性を、闇から風に変更する」

 

星華

手札:3→2

 

「レベル4の風属性となったドゥルダークに、レベル3の『ジェネクス・コントローラー』となった『A・ジェネクス・リモート』をチューニング」

 前回のターンにも行われた光景が、再び繰り返される。

 仮初の名前と姿を手に入れた『A・ジェネクス・リモート』は三つの星に変わり、風属性へと変わったドゥルダークの周囲を回った。

 

「鋼機の絆よ、烈風と交わりて、同調の名のもとに吹きすさぶ嵐とならん」

「シンクロ召喚! 起動せよ、『ウィンドファーム・ジェネクス』!」

 

 カタストルとは打って変わり、見た目にも凶悪な緑色の巨人が姿を現した。

 

『ウィンドファーム・ジェネクス』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2000

 

「『ウィンドファーム・ジェネクス』の攻撃力は、フィールド上にセットされた魔法・罠カード一枚につき300ポイントアップする。更に、手札を一枚捨てるごとに、フィールド上にセットされた魔法・罠カード一枚を破壊できる。私はこの一枚を捨て、NOA、お前の場にセットされたカードを破壊する。右側のカードだ」

 

星華

手札:2→1

 

 星華の捨てたカードを吸った、『ウィンドファーム・ジェネクス』の胸のタービンから、巨大な風が発生した。それが指定されたカードに向かって、破壊せんと吹き荒れる。

『……発動……速攻魔法……『速攻召喚』……モンスター一体……召喚……』

 破壊されるより前に、カードが表になった。そして、その効果はすぐに適用された。

『……召喚……『荒魂(アラタマ)』……守備表示……』

 

荒魂(アラタマ)』スピリット

 レベル4

 守備力1800

 

「『荒魂』……効果……召喚成功……デッキ、カラ……スピリット……『荒魂』以外……手札ニ……『和魂』……」

 

NOA

手札:2→3

 

『ウィンドファーム・ジェネクス』

 攻撃力2000+300

 

「く、サーチされたか……ならばバトルだ! 『ウィンドファーム・ジェネクス』で、『荒魂』を攻撃! ビッグブラスト!」

 再びその胸の巨大なファンが回り、今度は伏せカードではなく、モンスターに向かう。

 燃え上がる火の玉はその風を受け、消えていった。

「更に、二体の『ジェネクス・コントローラー』でダイレクトアタックだ!」

 二体の機械人形がNOAに向かう。その攻撃を、NOAは防ぐことなく受けた。

『……』

 

NOA

LP:5000→2200

 

「カードを伏せる。これでターンエンド」

 

 

星華

LP:3300

手札:0枚

場 :モンスター

   『ウィンドファーム・ジェネクス』攻撃力2000+300×2

   『ジェネクス・コントローラー』攻撃力1400

   『ジェネクス・コントローラー』攻撃力1400

   魔法・罠

    セット

 

NOA

LP:2200

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『エレメントの泉』

    セット

 

 

『……シ……ィ……』

「……ん?」

 星華がターンを終えた時、NOAは、今までとは違う声を発していた。

『……ノシィ……』

「……?」

『……タノシイ……』

「なに?」

 はっきりと聞き取れたその言葉を、つい、聞き返した。

『……タノシイ……デュエルガ……タノシイ……』

「……そうか」

 聞き取れた言葉は間違いではなかった。そして、NOAの真っ白な表情も、笑っているように見えた。

『……モット……ツヅケル……タノシイ……デュエル……』

「ああ。決闘はまだまだこれからだ。存分に掛かってくるがいい」

『……ボクノターン……』

 

NOA

手札:3→4

 

 聞こえてくる声も、だいぶ聞き取り易く、より人間らしくなっていた。

 そして、その言葉の流れのままに、カードに手を伸ばした。

『……『伊弉波(イザナミ)』、ヲ、召喚……』

 

伊弉波(イザナミ)』スピリット

 レベル4

 攻撃力1100

 

 伝説の神々、その母の名を持つモンスター。その清らかさを表したかのような女性が、フィールドに降り立った。

『『伊弉波』、ノ、効果……手札、カラ、一枚、捨テ……墓地、ノ、スピリット、一体、手札、ニ、戻ス……二枚目、ノ、『和魂』、捨テ、戻ス、ノハ、『砂塵の悪霊』……』

「ちぃ……!」

 NOAの手札が入れ替わるが、それだけでは終わらない。

『『和魂』、ノ、効果……墓地、ヘ、落チタ、コトデ……1、枚、ドロー……』

 

NOA

手札:3→4

 

『永続、罠……『血の代償』……ライフ、ヲ、500、払イ……通常召喚……『伊弉波』、ヲ、生贄ニ、捧ゲ……『砂塵の悪霊』ヲ……』

「させん! 罠発動『攪乱作戦』! 相手は手札を全てデッキに加えてシャッフルする。そして、デッキに加えた枚数分、カードをドローしろ」

『……』

 その効果に従い、NOAは手札を全て戻し、新たにカードをドローした。

『……手札、ノ、『竜宮之姫(オトヒメ)』、ヲ、除外……『伊弉諾(イザナギ)』、ヲ、特殊召喚……』

 

NOA

手札:4→3

 

伊弉諾(イザナギ)

 レベル6

 攻撃力2200

 

 同じく神々の父の名を持つモンスター。長い槍を構え、長い白髪を揺らす、剛毅の士。

「あれは、スピリットモンスターではないのか……」

「……ライフ、ヲ、払イ……通常召喚……『阿修羅(アスラ)』……」

 

NOA

LP:2200→1700

 

阿修羅(アスラ)』スピリット

 レベル4

 攻撃力1700

 

『バトル……『阿修羅』ノ、効果……相手モンスター、全テ、ニ……一度、ズツ……攻撃……』

「全体攻撃か……!」

 その効果を把握した所で、『阿修羅』の六本の手から、いくつもの光が伸びる。それが、二体の『ジェネクス・コントローラー』を貫いた。

 

星華

LP:3300→2700

 

『……『伊弉諾』、デ、『ウィンドファーム・ジェネクス』ヲ、攻撃……』

 続く『伊弉諾』も、右手に構えた剣で、セットカードが消えたことで攻撃力が戻った緑の機械巨人に切り掛かる。

 そのまま真っ二つにされ、爆発する。

「くぅ……!」

 

星華

LP:2700→2500

 

『……最後、ニ……『伊弉波』デ……ダイレクトアタック……』

「ぐあ……!」

 

星華

LP:2500→1400

 

「……ターンエンド……場ニ、『伊弉諾』ガ、イルカギリ……スピリットモンスター、ハ……手札ニ、戻サナクテモ、イイ……」

 

 

NOA

LP:1700

手札:1枚

場 :モンスター

   『伊弉諾』攻撃力2200

   『伊弉波』攻撃力1100

   『阿修羅』攻撃力1700

   魔法・罠

    永続魔法『エレメントの泉』

    永続罠『血の代償』

 

星華

LP:1400

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「……」

 ライフの差は大きくない。

 しかし、モンスターも、伏せカードも無し。一方、相手の場には三体のモンスター。

 圧倒的不利、だというのに……

「さて……次は何が来るか……」

 星華の顔から、笑みが消えることは無い。

 そしてそれは、NOAも同じだった。

『モット……タノ、シモウ……コノ、デュエル……』

「ああ。もちろんだ。こんな形で終わらせてなるものか。絶対に逆転してみせるさ。ドロー!」

 

星華

手札:0→1

 

「魔法カード『終わりの始まり』発動。墓地の闇属性モンスターが七体以上ある時、そのうちの五体を除外することで、カードを三枚ドローできる。私の墓地に眠る闇属性モンスターは九枚。この五枚を除外する」

 

『A・ジェネクス・ドゥルダーク』

『A・ジェネクス・リモート』

『A・ジェネクス・ソリッド』

『A・ジェネクス・ケミストリ』

『ジェネクス・コントローラー』

 

星華

手札:0→3

 

「……よし。私は『スペア・ジェネクス』を召喚する」

 

『スペア・ジェネクス』チューナー

 レベル3

 攻撃力800

 

「更に、魔法カード『旧型出陣』。墓地の機械族を特殊召喚する。『A・ジェネクス・チェンジャー』を特殊召喚」

 

『A・ジェネクス・チェンジャー』

 レベル3

 攻撃力1200

 

「『A・ジェネクス・チェンジャー』の効果により、こいつ自身の属性を光属性に変更する。更に『スペア・ジェネクス』の効果。自分フィールドにこいつ以外のジェネクスが存在する時、このターンの間、名前を『ジェネクス・コントローラー』に変更できる」

「いくぞ。レベル3の光属性『A・ジェネクス・チェンジャー』に、レベル3の『ジェネクス・コントローラー』をチューニング」

 そして再び繰り返される。だが三度目となるそれは星華にとって、先の二度とは全く意味合いの異なる儀式となる。

(このモンスターこそが、正真正銘、私の新たなデッキで呼ぶ、私だけの新たなモンスター……)

 

「正義と絆、二つの闇が一つとなりて、誕生せしは鋼機の漆黒……」

「シンクロ召喚! 起動せよ『A・ジェネクス・トライアーム』!」

 

 これまでのA・ジェネクスとは違う、だが、同じと分かる機械人が降り立った。

 短かくデフォルメされていた頭身は、より人間的かつ強靭となった。

 左手に、その名前が示す三つの砲口を備えた機銃兵器を備えたその姿は、正にサイボーグと言えた。

 SF映画を彷彿とさせる、誰もが正義の味方と信じる機械戦士。

 それが、星から生まれた闇のもとに、フィールドに降り立った。

 

『A・ジェネクス・トライアーム』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2400

 

「『A・ジェネクス・トライアーム』の効果。こいつはシンクロ召喚の際、素材としたチューナー以外のモンスターの属性によって効果を変える。光属性モンスターを素材とした時、一ターンに一度、手札を一枚捨てることで、相手フィールドの光属性モンスター一体を破壊し、カードを一枚ドローする。NOA、貴様の場の『阿修羅』は光属性だな」

 その言葉の通り、星華の一枚の手札が弾丸となり、トライアームの左手の砲身に装てんされる。

 それが阿修羅を捕らえ、撃ち抜いた。

「カードをドロー」

 

星華

手札:0→1

 

『……『血の代償』、ノ、効果……ライフ、ヲ、500、払イ……『伊弉諾』、『伊弉波』ヲ、生贄二……セット』

「なに!?」

 

NOA

LP:1700→1200

 

 その言葉の通り、夫婦神のスピリットは光と変わり、新たなモンスターが現れた。

 しかしそれは、堂々とした上級モンスターではなく、裏側守備表示だった。

「二体を生贄にしておいて、裏守備だと? しかも、バトルに入る前の、こんなタイミングで……?」

 

「星華さん、お気を付けて。最上級モンスターをわざわざセットしたのです。強力な効果を有している可能性が高い」

 

「分かっている。だが……」

 分かっていても、ここで攻撃をやめるわけには行かない。もしかしたら、次のターンで逆転されるかもしれない。ならばここは、攻撃するしかない。

「……」

 そうは考える物の、やはり怪しい。迂闊に攻撃したものか、どうしても躊躇いが先んじる。

(となると……今ドローしたカードはこれか。なら、これに賭けるか……)

「魔法カード『強欲な壺』。カードを二枚、ドローする」

 ただ攻撃するだけならいつでもできる。なら、選択肢は多い方が良い。

 そのために、一枚しか無い手札を二枚に増やす。

 

星華

手札:0→2

 

「……よし。このカードなら……魔法カード『抹殺の使徒』! 裏守備モンスター一体を破壊し、ゲームから除外する。そして、それがリバース効果を持つモンスターであれば、互いのデッキを確認し、同名カード全てを除外する!」

 発動と共に、表示されたカードから、鎧と剣を纏った騎士が立った。

「どんなに強力なモンスターだろうが、表になる前に消してしまえば関係は無い。ついでにリバースモンスターなら、貴様のデッキのカードも見せてもらうぞ」

 その言葉を実践すべく、騎士は真っ直ぐ、セットされたモンスターに向かった……

 

『……掛カッタ……』

 

「なに……?」

 

 騎士の剣がカードに当たる寸前、突然、裏側だったはずのカードが表になった。

 

『太陽司りし大御神よ……目覚めの時は来たれり……天岩戸(あまのいわと)より姿を現し……災い吹き荒れし現世に光を……』

 

 NOAのその言葉は、機械的ではなく、完全な人間のそれだった。

 だがそれ以上に、表になったカードは、あまりに強烈な光を発していた。

 強く、なのに優しく、激しく、なのに暖かい。

 世界の全てを包んでしまいそうなその光は、黒と緑しかない無機質な空間を白く染めた。そんな強い光だというのに、星華は、そして梓は、目を背けることができなかった。

 

『目覚めよ! 最高神『天照大神(アマテラス)』!』

 

 そして、そんな強い光と共に、カードから浮かび上がった者。

 日本人的な黒髪と、整った容姿。赤と金、そして樹木によって彩られた、豪奢な装束。

 だが、容姿や、装束さえも忘れさせるほどの、圧倒的な神々しさと、存在感。

 そして、美しさ。

 そのモンスターが備えるそれらは、二人の目をくぎ付けにしてしまうには十分すぎた。

 

天照大神(アマテラス)』スピリット

 レベル9

 守備力3000

 

「……はっ!」

 と、すっかりその姿に見惚れていた星華は、すぐに正気を取り戻す。

「レベル9……攻撃力、守備力が共に3000……!」

 改めてその重いステータスに驚くが、NOAは言葉を続けた。

『『天照大神』、ハ……特殊召喚モ、召喚モ、デキナイ……裏側表示ノ、コノカードガ、カード効果ノ対象ニ、サレタ時……コノカード、ヲ、表側守備表示ニシ……カードヲ一枚、ドロー……』

 

NOA

手札:0→1

 

『……『抹殺の使途』、ハ……『天照大神』、ガ……表ニ、ナッタコトデ、不発……』

「く……しかも、守備力が3000では、手が出せない……」

『……『天照大神』……効果……』

 その厚い壁を前に、考えを巡らしているところに、NOAは言葉を続けた。

『『天照大神』ガ、リバースシタ、瞬間……『天照大神』以外、ノ、フィールドノカード、ヲ、全テ、除外……』

「なんだと!?」」

 星華が驚愕の声を上げた直後、最高神の総身から、再び光が溢れだした。

 それが、星華のフィールドのモンスター、そして、NOAのフィールドの魔法・罠カード、全てを包み込み、そして、消し去った。

「こんな……バカな……」

 

「まさに最高神の名にふさわしい力……あれが、最強のスピリットモンスター……」

 

 星華は、目の前の光景に言葉を失い、梓は、その凶悪なモンスター効果に唖然とする。

 そして、言葉を失いながらも、星華は手札を見た。

「……カードを伏せる。これでターンを終了」

「……『天照大神』ハ……リバースシタターン、ノ、エンドフェイズ時……手札ニ戻ル」

 

NOA

手札:1→2

 

「そこはしっかりスピリットというわけですか……」

 

 

星華

LP:1400

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

NOA

LP:1200

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

『……僕ノ、ターン……』

 

NOA

手札:2→3

 

『……『貪欲な壺』……5枚、モンスターヲデッキニ戻シ、2枚、ドロー……』

 

『砂塵の悪霊』

『和魂』

『和魂』

『荒魂』

『伊弉諾』

 

NOA

手札:2→4

 

『……『雷帝神(スサノオ)』、召喚……』

 

雷帝神(スサノオ)』スピリット

 レベル4

 攻撃力1100

 

『……手札ノ、『月読命(ツクヨミ)』ヲ、除外……『伊弉諾』、特殊召喚……』

 

『伊弉諾』

 レベル6

 攻撃力2200

 

「くぅ……」

 ライフ残り1400。そんな星華の前に再び並び立つ、親子たる二体のモンスター。

『バトル……』

 そしてNOAは手を上げ、命令を行った。

『『伊弉諾』、ダイレクトアタック……』

 父たる神が、その槍を握って星華へと向かっていく。

「まだだ! 罠発動『ドレインシールド』! モンスター一体の攻撃を無効にし、その攻撃力分、ライフを回復する!」

 『伊弉諾』の槍は、見えない壁に防がれた。そして、その壁から溢れた光が星華を包み、そのライフを回復させた。

 

星華

LP:1400→3600

 

『……『雷帝神』、ダイレクトアタック……』

 続いて、雷を纏った戦士が、星華に向かう。戦士の振う草薙の剣は、防がれることなく星華を切り裂いた。

 

星華

LP:3600→2600

 

『……『雷帝神』ガ、相手ニ与エル、戦闘ダメージハ、半分ニナル……ターンエンド……』

 

 

NOA

LP:1200

手札:1枚

場 :モンスター

   『伊弉諾』攻撃力2200

   『雷帝神』攻撃力2000

   魔法・罠

    無し

 

星華

LP:2600

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「……」

 ライフは回復した。しかし、二体のモンスターに攻撃されれば確実に削り取られる。

 伏せカードは無いが、手札の残り一枚は、全てを消し去ることのできる最高神。

 それを再びセットされる前に、攻撃力2000オーバーのモンスター二体を除去し、ライフをゼロにしなければ、星華に勝ちは無い。

 手札がゼロの状態で……

(これは……万事休す、かもしれんな……)

 この決闘は星華にとって、多くの意味があった。

 突然放り込まれた、謎のバーチャル世界からの脱出。

 新たに手にしたデッキでの、初めての実戦。

 機械でありながら、心躍る決闘を展開する少年、NOAとの闘い。

 それだけ多くの意味を持つ決闘で、星華は全力を出し、そして今、追い詰められている。

 半ば、これだけの決闘をして、敗北したとて悔いは無い。そんな思いに駆られた。

 

(……いや)

 そう思いながらも、デッキを見て、その考えを改める。

(私のデッキにはまだ、逆転の手が残されている……)

 デッキを見据え、その残された可能性を見つめる。

 このターンで引く可能性は、限りなく低い。引けなければ、それは敗北の時。

 それでも……

 

「……NOA」

 この日、初めて名前を呼ばれた少年は、星華を見つめる。

 NOAを真っ直ぐ見つめる星華の姿。

 凛々しくも美しく、美しくも力強い。何物にも侵しがたい、真なる強さを持った、『女帝』。

「お前もまた、真の決闘者だ。そのお前に敬意を表し、今こそ名乗ろう。この女帝の名を……」

 

「あれは……!」

 

 その時、梓は見た。そして、NOAもまた気付く。

 だが星華は、それがまるで当然であるかのように、突然手の中に現れた、黒く蠢くそれ(・・)を掴んだ。

 それは、最初こそ、ただ蠢くだけの、形の無い『闇』だった。

 しかし、星華が掴んだ時、それは、確かな光沢を見せる、真っ黒な『銃』へと変わった。

 

(あれは、あずささんの……いや、『A・ジェネクス』の闇。彼らが星華さんに与えた力か……)

 

 その、闇から生まれた拳銃を、星華は宙に向けた。

 引き金を引いた時、大きな、力強い銃の声が、バーチャル世界を包む。

 その声の中で、それに負けないだけの雄大な声を、星華は上げる。

 

「私の名は、小日向星華! 括目せよ。これが私の生き様だ!」

 

 名乗った直後、銃は再び闇に戻り、消える。

 その手を、デッキトップに置いた。

 

「ドロー!」

 

星華

手札:0→1

 

「……」

 

『……』

 

「……魔法カード発動『次元融合』」

 星華が引いたカード。それは、逆転の一手。

「ライフを2000支払い発動する。互いに除外されたモンスターを、可能な限り特殊召喚できる。NOA、お前もいくつかモンスターを除外していたが、スピリットモンスターは全て、特殊召喚できないモンスターだったな」

『……!』

 

星華

LP:2600→600

 

 NOAが、初めて人間らしい動揺を見せたと同時に、星華のフィールドに、そのモンスター達は現れた。

 

『ジェネクス・コントローラー』チューナー

 レベル3

 攻撃力1400

『A・ジェネクス・ソリッド』

 レベル2

 攻撃力500

『A・ジェネクス・ケミストリ』チューナー

 レベル2

 攻撃力200

『A・ジェネクス・ドゥルダーク』

 レベル4

 攻撃力1800

『A・ジェネクス・トライアーム』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2400

 

『……ッ……』

 その大量展開に、NOAは変わらぬ動揺を見せていた。

 しかし、星華は冷静そのものだった。

「だが、いくら展開したところで、これだけでは貴様の布陣を突破することはできん……もう分かるだろう。ここからどうするか」

『……』

 NOAは、何も返事をしない。しかし、その仕草はまるで、これから起こることに期待を寄せているようにも見える。

 そんな期待に応えるため、星華は、声を上げた。

 

「さあ、今こそ見るがいい! これから呼び出すモンスターこそ、私の持つ最強のモンスターだ!」

 

 その雄叫びと共に、星華のその身が、真っ赤な炎……否、オーラに包まれた。

「荒ぶれ! 我が魂! もっと熱く、もっと強く!!」

 

「レベル4の『A・ジェネクス・ドゥルダーク』と、レベル2の『A・ジェネクス・ソリッド』に、レベル2の『A・ジェネクス・ケミストリ』をチューニング!」

 

 そう。これから呼び出すモンスターこそ、正真正銘、星華が初めて手にした力。

 梓を守るという誓いのもとに姿を現した、破壊の権化たる、闇と炎の化身……

 

「王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見るがいい」

「シンクロ召喚! 我が魂『琰魔竜 レッド・デーモン』!」

 

『琰魔竜 レッド・デーモン』シンクロ

 レベル8

 攻撃力3000

 

 爆炎をはらい現れる、禍々しくも美しい、赤と黒のコントラスト。

 現れた悪魔の竜は、自身の前に立つ真っ白な少年を、真っ直ぐに見下ろした。

 

「『琰魔竜 レッド・デーモン』の効果」

 NOAもまた、『天照大神』を見た時の星華らと同じく、その姿に目を奪われていた。

 そして、星華の命に従った悪魔の竜は、その力を振った。

「このターン、このモンスター以外の攻撃を放棄することで、こいつを除く、フィールド上の表側攻撃表示のモンスター全てを破壊する」

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 その力を振うがために、『レッド・デーモン』が雄たけびを上げる。

 その身は真っ赤な炎に包まれ、電脳世界を真っ赤に照らす……

 

真紅の地獄炎(クリムゾン・ヘル・バーン)!!」

 

 地面から吹き出した爆炎が、フィールドの全てのモンスターを襲った。

 星華のフィールドに残っていた、二体の機械。

 そして、NOAのフィールドに立っていた、親子たる神々。

 計四体のモンスターを燃やし尽くした。

『……』

 

「NOA」

 レッド・デーモンを、そして、破壊されるスピリット達を見ていたNOAに向かって、星華は、最後の言葉を送る。

「お前は本当に強かった。実に楽しかったぞ。この決闘」

『……』

 NOAの表情が、笑みを浮かべたように見えた。

 そんな少年に向かって、星華は、終止符を打つ声を上げた。

 

「『琰魔竜 レッド・デーモン』で、NOAにダイレクトアタック!」

 レッド・デーモンの口から、炎が溢れだした。

 それが、NOAに狙いを定め……

 

極獄の裁き(アブソリュート・ヘル・ジャッジ)!」

 

 放たれた火炎弾が、NOAの身を包んだ。

 

 ――アリガトウ……

 

 その声は、炎の中から、確かに二人の耳に届いた。

 

 ――ありがとう……とても……楽しかった……

 

 ――ありがとう。小日向星華……

 

「……さらばだ。NOA。誇り高き、真の決闘者よ」

 

NOA

LP:1200→0

 

 

 決闘が終わり、NOAの姿も消えていた。

 そんな電脳世界で、残されたのは、星華と梓の二人だけ。

「……これで、元の世界に戻れる、と、いうことなのでしょうか……」

「……分からん。そもそも、あいつが私達を呼んだのか、それすら怪しいものだ……」

「……」

「……」

 

 ――失望したぞ!

 

 次にすべきことを思案していた二人に、新たな声が響いた。

 直後、二人の前、NOAが立っていた場所に、新たに人型の光が現れた。

 それは新たに、大人の男性の姿を取っていた。

「今度はなんだ……?」

「一度に五人……?」

 

『まったく! 奴らを決闘で倒させるために、わざわざバラバラになっていたデータを復元させて復活させてやったというのに、この体たらくとは……』

 

 その声は、NOAとは違い、はっきりと聞き取れる声だった。

「何者だ! 貴様ら!」

 

『我々は『BIG5』。かつて、海馬瀬人を始めとする決闘者達により、このバーチャル世界に閉じ込められた者達』

 

「バーチャル世界に閉じ込められた……?」

「声色で分かります。閉じ込められて当然の、ろくでも無い人達だったのでしょう」

 驚きの声を上げる星華に対し、冷静に、冷たい言葉を放つ梓。

 

『黙らっしゃい! 世間がどう言おうが、私達は現実世界への帰還を諦めてはいない』

『そのためには、現実で死んでしまった肉体に代わる新たな肉体が必要だった』

『そして、その肉体を求めていた所に、お前達という恰好の若い肉体が現れた、ということだ』

『そして、勝利を確実なものとするために、かつて、海馬瀬人を下し、武藤遊戯をも追い詰めたバーチャル世界の住人、『乃亜』を蘇らせたというわけです』

 

「海馬瀬人を倒しただと!? しかも、武藤遊戯を追い詰めて……」

 強いはずだと、星華は思った。伝説の決闘者達にも匹敵する力。もし、シンクロモンスターが無ければ自分は確実に敗けていた。

 そのことを思っている間にも、BIG5は言葉を続けた。

 

『ついでに言えば、我々を散々利用し、最後には切り捨てた憎っくきガキだった。私達のことを消去しようとしたが、すんでのところで助かったというわけだ』

『そんなガキのデータを集め、数年かけて再生した。もっとも、一度破壊されたことでデータの大部分は欠損していたがな。それでも、決闘ができるだけの人形としては十分だった』

 

「人形だと!?」

 その言葉に、星華は怒りの声を上げる。

 そんな声を嘲笑うかのように、BIG5は言葉を続ける。

 

『そうだ。そして、肉体がやってきたから、決闘をさせてみればこの体たらく。所詮は欠損データの寄せ集めに過ぎん。使えないガキというわけだ』

 

「黙れ!」

 それ以上は黙っていられなくなり、声を上げた。

「NOAは誇り高き決闘者だ! 確かにデータだったのかもしれん。それでも、私と奴の決闘は、何者にも恥じることの無い最高の決闘だった。それを笑うことは許さん!」

 そんな星華の苦情に対して、BIG5は高笑いで返した。

 

『何が真の決闘者だ。たかがカードゲームで熱くなりよってからに』

『たかだかカードゲームしか取り柄の無い子供の分際で、あまり大げさなことを言わないことだ。見ているこっちが恥ずかしくなる』

 

「なにをぉ……!」

 声も、言葉も聞こうとはせず、ただ見下し、嘲笑う。

 表情はほとんど分からない。それでも、間違いなく撃ちたくなる顔をしている。

 会って間もない五人組に対する憎悪が、星華の中でふつふつと渦巻いていく。

 

『まあいい。あんな使えないガキなど作らず、最初からこうすれば良かったんだ』

『そうだ。我々はお前達と決闘する。我々が勝てば、その肉体を渡してもらう』

『我々に勝つことができれば、そのための舞台として作り上げたこの世界は崩れ、現実世界への扉が開くだろう』

 

 その言葉と共に、二人の前に、再びテキストボックスが表示される。

 

『Let’s play Duel?』

『Yes. No.』

 

『嫌なら構わず『No.』を選びたまえ』

『その時は、問答無用で君達の肉体は我々のものだ』

 

 NOAへの侮辱。そして、新たに提示された、選択の余地の無い選択肢。

 それを聞いた星華の、次の行動は決まった。

「上等だ。貴様らは私が……」

 と、星華が決闘ディスクを構えた、その時……

「……」

「……梓?」

 星華の前に、光の刀を持つ梓が立った。

 

「……正直、彼らのお話しの半分以上は理解できかねますが……」

 言いながら、愛用の刀を真上へ放り投げる。

「つまりは、彼らとの決闘に勝利すれば、現実世界に戻れる、ということ……」

 再び手元へ降ってきたそれは、刀から、決闘ディスクへ姿を変えていた。

「そして、星華さんと、NOAさんの決闘を侮辱したということは理解しました」

 決闘ディスクを左手に装着し、懐から取り出したデッキをセットする。

「あなた方は……私が倒します」

 そして、目の前に表示された、『Yes.』を、思い切り叩いた。

 

『OK. Our name is BIG5.』

 

 

 

 




お疲れ~。

綴り、NOAとNoarのどっちにすべきか迷ったけど、NOAで大丈夫かね……?

てか、『A・ジェネクス』。ムズ過ぎ……
本当に星華姉さんは大海を苦労させよるな。
けどまあ、かと言って他のキャラは楽かって言われりゃそうとも言えねえけどや。
ただ、主人公ならまだ書き易い気がする。
そんなわけで、次話は梓の決闘、いくでよ~。
てなわけで、ちょっと待ってて。

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