遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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ど~も~。

早速だけど注意事項。
今回のお話しも、読む人によっちゃあ辛い気持ちになるかも知らん……
前にも言ったけど、気分が悪くなったら読むのやめてね。
ただ、そうでなくとも途中で読む気失せるかも……
まあ、大海としてもそうなるの覚悟で書いたんだけどや。

それでも読んでくれるのなら、言わせてもらおう。
行ってらっしゃい。



第五話 童実野町で ~脱出~

視点:外

 

 星華が、NOAと激闘を繰り広げていたのと同じ頃……

 

 婆ちゃん……もとい、バーチャル世界に引きずり込まれたのは、二人だけではなかった。

 斎王琢磨の妹、『斎王 ミズチ』。彼女の策略により、十代、そしてエドの二人もまた、海馬ランドのバーチャル世界へと誘い込まれていた。

 彼女の配下である四帝、『雷丸(いかずちまる)』、『氷丸(こおりまる)』とのタッグ決闘に敗れた、翔と剣山を人質に、十代とエドにタッグ決闘を挑んできた。

 

「くそぉ……俺があの決闘で、丸藤先輩の足を引っ張ったばっかりに……」

 そう後悔の声を上げる剣山の姿は、すっかり変わってしまっていた。

 愛用するバンダナをそのままに、彼が愛用するデッキの恐竜の姿、巨大なティラノサウルスに変わってしまっていた。

「俺は恐竜さんに進化できて、ちょっと嬉しいザウルス……」

「……」

 普段の翔なら、それは進化ではなく退化だ、という声を上げたに違いない。

 それが今は、眉間に皺を寄せ、その表情を沈ませていた。

 なぜなら……

「そりゃあ、剣山君は恐竜なんだからまだ良いよ……」

 

「何で僕はまた魔女っ娘なんだよ!! 無駄に露出多すぎだよ!! しかも無くなってるのはまだ納得もできるけど胸が無駄に大きすぎるし!! バーチャルだからってやっていいことと悪いことがあるよ!!」

 

 そう、手に持つ杖を振り回しながら絶叫していた。

 身長は普段とそれほど変わらないものの、やや癖のあった水色の髪は、サラリと腰の長さまで伸びている。

 眼鏡を掛けた顔立ちはより幼く、同時に美貌を交え、可愛らしい眼鏡美少女という顔に変わっている。

 そして、翔の言った通り、男子ゆえに平らだったはずの胸は、少し動けばぶるんと揺れる、明日香や星華に匹敵するだけの膨らみを得ている。

 そんな胸の下には、きゅっと引き締まったウエストが光り、同時にそんなくびれを強調する丸みを帯びたヒップが目を引く。

 大多数の男が理想とし、大多数の女が泣いて羨むであろうそんな体を隠す服装は、胸の谷間を強調し、且つ、セクシーな二の腕とヘソを覗かせる艶めいたベスト。

 白く光る太ももが伸びるミニスカートに、同じように白く艶めかしい足や腕を際立たせるブーツとグローブ、頭には愛らしいウィッチハットで決めている。

 そんな、ロリ系巨乳の魔女っ娘眼鏡が、バーチャル世界での翔の姿だった。

 

 そして、そんな変化に誰よりも憤慨しているのが、間違いなく翔本人だった。

「落ち着くドン、丸藤先輩。その格好、とても可愛らしくて、似合ってるドン……」

 声を上げ続ける翔に対して、剣山は慰めの声を掛けるが、それは火に油である。

「似合ってるならどうだっていうのさ? 脱げってのか? よーしもう脱いだろうか? この体の全裸で走ってやろうか? あーん?」

「ちょ、すっごい興奮してるドン……」

 やがて、興奮の声を上げながら、翔は、自身の肢体を隠す服に手を掛けた。

 

「あー! もう頭ったま来た!! 脱いでやる! そんなに僕を女にしたいなら全部脱いでやる! 全裸で走って世界中にその動画ばら撒けばいいじゃないか! やりたきゃやりゃあがれこらー!!」

 

「先輩、落ちついて! 何か色々言ってることとか無茶苦茶ザウルス! いつもの優しい先輩に戻るドン……!」

 

『……』

 ティラノサウルスの大きな手に、二の腕を掴まれながら喚き声を上げる。

 足やら体をバタつかせているせいで、自身で散々否定していた巨乳をぶるんぶるん揺らすロリ系魔女っ娘眼鏡を、十代と、エドと、ミズチの三人は、真顔で眺めていた。

(翔……可愛いな。やっぱり……)

 

「遊城十代! エド・フェニックス!」

 そんな二人を見ていたミズチが、呼び出された二人を呼ぶ。

 二人がミズチの方へ振り返ったところで、本題を話した。

「お前達の運命を確かめたくば、私にタッグで挑むが良い!」

 

 こうして、十代とエド、二人に分裂したミズチによるタッグ決闘が、恐竜に囚われた美少女を背景に、そしてその阿鼻叫喚をBGMに、開始されていた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

『ほほほほ。決闘を受けるとは、本当にカードゲームおバカですねぇ』

 

 決闘を受けることにした梓に向かって、五人分の声の一つが聞こえた。

 最初に五つあった白の光は、既に一つになっていた。五つあった時は、一つ一つがいかにも中年のおじさんという形をしていたが、一つになったそれは、頭の尖った、長身の男の姿に変わっていた。

『ほぉ、これはまた……NOAとの決闘を見ていた時から思っていましたが、何とも絶世の美貌の持ち主だ。後ろに立つグラマラスなピチピチギャルも良いですが、あなたのような和服美人もまた、違った趣がありますなぁ。どちらの肉体を頂くか、迷う。迷う!』

 白い光の下では、おそらく舌なめずりしているだろう。

 そんな声に対して、梓は無言で見ているだけ。

『そんな着物美人の名前と年齢は、なんと言いましたかなぁ……?』

「……水瀬梓……年齢は十七です……」

『よろしい! ちなみに小日向星華、あなたの年齢は?』

 

「……十八……」

 

『素晴らしい! では水瀬梓十七歳! 早速決闘を開始しましょう!』

「……」

 BIG5の陰が、決闘ディスクを構えたのを見て、梓も、光の決闘ディスクを構えた。

 

『決闘!』

「……」

 

 

BIG5

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

『先行は我々だ。ドロー』

 

BIG5

手札:5→6

 

「随分と二枚目な姿になったものだ。顔は全く見えませんが」

『ここはバーチャル世界。現実世界とは違い、自分達の好きに生き、好きな姿になることも可能なのだ』

『君達も、いっそこんな決闘はやめてこの世界を受け入れてはどうかね? 死ぬことも、飢えることも永遠に無い、全てが自分達の思い通りになる世界。そんな理想郷で一生を過ごすことも一興というものだ』

 

 自分勝手な意見を言う男()の声に、星華はただ、不快を表情に浮かべていた。

「何が理想郷だ。何もかもが思い通りな代わりに、何もかもが偽物の世界だと? ラクーンシティの方がまだそそられるわ」

「ら、くーん?」

 星華の反論に、梓が疑問の声を上げた。

「気にするな。梓は知らなくとも問題ない」

「そうですか……私は、どちらかと言えばサイレントヒルの方が良いでしょうか……」

「分かっているではないか!?」

「マレット島か、羽生蛇村も良いですねぇ……」

「微妙にジャンルが変わってるぞそれ! というかよく知っているな!」

「毎日私の部屋で、持参したテレビゲームをプレイしているのを眺めていれば、嫌でも覚えますよ。ついでに言えば、私はどちらかと言えばタルミナ派です」

「ぬぅ、中々コアなところを突く……私は断然ハイラル派だが……」

 

『うおっほん!』

 

 二人の会話が盛り上がっているところに、中年の声が響いた。

 

『決闘を続けてもよろしいかな?』

 

「おやおや、勝手に進めているものとばかり思っていたのに。できれば話している間に済ませて欲しかったです。やるならほら、早くしていただきたい。時間の無駄です」

 当然の指摘をした中年に対する梓の返事は、あまりにも冷たかった。

 NOAと激闘を繰り広げた星華とは違い、やる気も覇気もまるで無く、BIG5と向き合う姿勢をまるで見せない。

 常に決闘と真剣に向き合っていた、普段の梓からは考えられない態度だった。

『おやおや、服装や言葉遣いとは裏腹に礼儀が成っていないようだ』

『ここは一つ、大人として躾けてやらなければいけませんねぇ……』

『うむ……行くぞ』

 

『手札の『嵐征竜-テンペスト』の効果。このカードと風属性モンスター一体を墓地へ送ることで、デッキからドラゴン族モンスターを手札に加えることができます。『嵐征竜-テンペスト』、『風征竜-ライトニング』の二枚を捨て、『巌征竜-レドックス』を手札に加えます』

 

BIG5

手札:6→4→5

 

「征、竜……?」

 聞き慣れないカードの名前が聞こえ、星華は首を傾げる。

 BIG5は続けた。

 

『魔法カード『七星の宝刀』を発動。このカードは一ターンに一枚しか発動できない。手札、または自分フィールドのレベル7のモンスター一体を除外することで、カードを二枚ドローする。レベル7の『巌征竜-レドックス』をゲームから除外し、カードを二枚ドロー』

 

BIG5

手札:3→5

 

「そして、除外された『巌征竜-レドックス』の効果発動。このカードが除外された場合、デッキからドラゴン族、地属性のモンスターを手札に加えられる。『地征竜-リアクタン』を手札に」

 

BIG5

手札:5→6

 

「な、なんだ……?」

 最初こそ、普通に見ていた星華だったが、やがてその、異常な光景に気付き始める。

 

『手札の『地征竜-リアクタン』の効果。手札のこのカードと、ドラゴン族または地属性モンスターを捨てることで、デッキから『巌征竜-レドックス』を特殊召喚します。『瀑征竜-タイダル』を共に捨てます』

 

BIG5

手札:5→3

 

『巌征竜-レドックス』

 レベル7

 守備力3000

 

「レベル7のモンスターを、いきなり特殊召喚だと!?」

 

『この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン攻撃できませんがね、先行なら関係は無い。魔法カード『強欲な壺』。カードを二枚ドロー』

 

BIG5

手札:2→4

 

『手札の『瀑征竜-タイダル』の効果。このカードと水属性モンスターを捨てることで、デッキからモンスター一体を墓地へ送ることができる。『水征竜-ストリーム』を共に捨て、デッキから『焔征竜-ブラスター』を墓地へ』

 

BIG5

手札:4→2

 

『墓地から『焔征竜-ブラスター』の効果。手札または墓地からこのカードを除くドラゴン族、または炎属性モンスターを二体除外することで、墓地から特殊召喚できる。『水征竜-ストリーム』と『地征竜-リアクタン』を除外し、特殊召喚』

 

『焔征竜-ブラスター』

 レベル7

 攻撃力2800

 

『『天使の施し』を発動。三枚のカードをドローし、二枚を墓地へ。『炎征竜-バーナー』と『地征竜-リアクタン』を捨てましょう。そしてそして、魔法カード『龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)』! 自分フィールド、または墓地のモンスターを除外し、ドラゴン族融合モンスターを融合召喚します。墓地の『嵐征竜-テンペスト』、『瀑征竜-タイダル』、『風征竜-ライトニング』、『炎征竜-バーナー』、『地征竜-リアクタン』の五枚を除外し融合召喚!』

 フィールドに巨大な鏡が出現する。その鏡の中で、指定された五体の龍が歪み、一つとなっていき……

 

『現れよ! 我らBIG5の象徴にして、史上最強のモンスター! 『F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)』!』

 

 鏡を割り、破壊し、現れる、その異形の姿。

 巨大な四肢と翼。五つの形の違う首と頭。

 それらを備えた巨大な竜が、既にフィールドに立っている二竜の間に、現れた。

 

F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)』融合

 レベル12

 攻撃力5000

 

「『F・G・D』……攻撃力5000……」

 その存在は、決闘者の間で広く知れ渡っていた。アカデミアでも、愛用する決闘者はいた。

 星華にとって、見るのは初めてではない。それでもいざ目の前にすると、あらためて、その迫力に圧倒される。

 しかし、それ以上に意識を奪われるのは、それら見知ったカードの枚数を上回る、見知らぬモンスター達だった。

『カードを一枚伏せ、ターン終了。そしてこのエンドフェイズ、手札の速攻魔法『超再生能力』発動。これは実在のカードですから効果はご存知でしょうな。このターン、自分の手札から捨てられたドラゴン族モンスター、およびこのターン、自分の手札、フィールドから生贄にされたドラゴン族モンスターの数だけ、カードをドローするカード。このターン、手札から八枚のドラゴン族モンスターが捨てられた。よって、八枚ドロー』

 

BIG5

手札:0→8

 

「八枚だと!? ゼロだった手札が、一気に八枚……!?」

 

『ははは……これで終了としましょう。手札調整に二枚のカード、『炎征竜-バーナー』と『地征竜-リアクタン』を捨てます』

 

BIG5

手札:8→6

 

 

BIG5

LP:4000

手札:6枚

場 :モンスター

   『F・G・D』攻撃力5000

   『焔征竜-ブラスター』攻撃力2800

   『巌征竜-レドックス』守備撃力3000

   魔法・罠

    セット

 

 

「なんだ、これは……うっ……!」

 あまりの光景に、バーチャル世界にも関わらず、星華は吐き気に口を押さえた。

「どれだけ手札とデッキを回転させた……一体なんだ、その吐き気を催す回転力……そんなカード、聞いたことないぞ……」

 

『はははは! それはそうだろう! 我々が自ら作り上げたモンスターなのだから!』

 

「作り上げた……貴様らまさか、自分達の手で勝手にカードを創り出したのか!?」

 

『その通り。これこそ、我々の創り出したモンスター、『征竜』シリーズ!』

 

「『征竜』、シリーズ……」

 

 吐き気に苦しむ星華に向け、BIG5は墓地のカードを取り出し、そのモンスターを見せた。

『征竜シリーズは、四種類あるレベル7の最上級ドラゴンである『四征竜』と、同じく四種類あるレベル3と4の下級ドラゴン『子征竜』、その八種類から成るシリーズ』

『子征竜が、手札からドラゴン族、または同じ属性のモンスターと共に捨てることで、対となる四征竜を呼び出すことができる。その効果で呼び出したドラゴンは攻撃ができなくなりますがね』

『そして四征竜が、手札から同一属性のカードと捨てることで発動する固有の効果と、三つの共通効果を持つ。手札または墓地のドラゴン族、または同一属性のカード二枚を除外する特殊召喚できる効果。除外されたなら、デッキから自身の属性を持つドラゴン族を手札に加えられる効果。特殊召喚された次の相手ターン終了時に手札に戻る効果』

『もっとも、これらの効果は全て、いずれかを一ターンに一度しか発動できない。だが、展開をするなら十分過ぎる能力だと思わんかね』

 

 自慢げに、嫌らしい声で説明してくる。

 そんなBIG5のことを、星華は鋭く睨みつけた。

「そんな反則級なカードを作ったというのか? 定石を無視しているにも程がある! そんな狂ったカードを作り出してまで勝ちたいか!?」

 

『当たり前だろう。私達はこの世界を出たくて出たくて仕方がないのだ。そのためなら、手段など選びはしない』

 相変わらず、星華を見下す声で返事を返した。

『それに、心配しなくとも良い。これらのカードは、我々が現実世界への手土産とする予定だからな』

 

「手土産、だと……?」

 その発言に、星華は再び、疑問の声を上げる。

 

『そうだ。これらのカードを現実でも大量生産し、安い値段で世界中にばら撒く』

『そうすれば、たちまちこのカードの強さを知った決闘者達はこぞってこの征竜シリーズを求めるだろう』『我々は、現実世界で遊んで暮らせるだけの大金を得る』

『同時に、決闘モンスターズ界はどうなると思う?』

 

「……」

 その問い掛けに対して、星華の脳裏には、瞬時にその結果となる光景がよぎった。

「それだけの回転率と展開力を持ってすれば、使い方さえ覚えれば誰でも簡単に勝利することができる。そんなカードが安価で大量に出回れば、ほとんどの決闘者達が、征竜で組んだデッキ、またはその派生デッキばかりを使い、他のカードは見向きもされなくなる。禁止カードとすればそれまでだが、それだけ流行しているカードが、簡単に禁止されるわけがない。征竜のみを使う決闘者達が跋扈し……征竜一強の、暗黒時代が幕を開ける……」

 

『その通り!! 小日向星華十八歳、中々賢い御嬢さんのようだ。ご褒美にあなたの肉体は私が使ってあげましょう!』

 

「やかましい! 貴様ら、決闘モンスターズを腐敗させる気か!?」

 

『そうだ』

 星華の問いに、即答で返す。

『我々をこの世界に閉じ込めた者達は憎いが、そのキッカケとなった決闘モンスターズもまた、我々は憎くて仕方がないのだ』

『だから、この征竜達の力で、決闘モンスターズを一気に腐敗させてやる。それが我々の復讐だ』

 

「貴様ら……」

 NOAとの決闘に始まり、自分たちの愛する決闘モンスターズを、どこまでも愚弄するBIG5の発言。

 征竜によって催した吐き気は吹き飛び、彼らへの怒りが、星華の体を支配していた。

 

『さあ! 説明は終わりです! 水瀬梓十七歳、あなたのターンですよ』

 

「梓……!」

 先程からずっと黙っている、梓のことを思い出し、その背中を見つめる。

 いくら梓と言えども、これだけ完成度の高い、狂ったデッキの前には、苦戦は必至。

 それでも星華は、梓を信じるしかない。

 

「……ドロー」

 

手札:5→6

 

 決闘を始めた時と変わらない、やる気も覇気も感じられない声。

 それを星華が感じたと同時に、

 

『リバースカードオープン!』

 

 BIG5の、甲高い声が響く。

『速攻魔法『速攻召喚』! 手札のモンスターを通常召喚する。我々は、『巌征竜-レドックス』、『焔征竜-ブラスター』を生贄に、新たなモンスターを召喚する!』

 

「なに!? この期に及んでまだ新しいモンスターがいるのか!?」

 

『降臨せよ! 二極の力宿りし浄化の竜! 『光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)』!』

 

 光の純白と、闇の漆黒。その二つが空に現れ、複雑に混ざり合う。

 それはやがて形を形成し、新たな竜の姿を成した。

 

光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)

 レベル8

 攻撃力2800

 守備力2400

 

「『光と闇の竜』……」

 再び現れた、見たことの無いドラゴンの姿。それにまた、星華は目を奪われた。

 

『効果の説明をしておこうか。このモンスターは特殊召喚できない。が、光、そして闇の二つの属性を持つ『光と闇の竜』がフィールド上に存在する限り、魔法、罠、モンスターの効果が発動された時、自身の攻撃力と守備力を500下げることでその効果を無効にする』

 

「なんだと!?」

 その凶悪な効果に、また星華が声を上げた。

 

『もっとも、これは強制効果な上、持ち主である我々にも効果は及ぶ。それに、そのステータスの都合上、攻守のどちらかが500以下になればその効果も発動できなくなる。つまりは、無効にできるのは四回までだ』

 動揺する星華を慰め、且つ、嘲笑うために、敢えてデメリットも説明する。

『更に、このカードを破壊しようものなら、こちらの墓地に眠るモンスター一体を特殊召喚することができる。その場合、自分フィールド上のカードは全て破壊されますがねぇ』

 

「……」

 最大四回の効果発動を封じることができ、破壊したなら、墓地のモンスターが蘇る。

 そんなモンスターと、決闘モンスターズ最大の攻撃力を持つ『F・G・D』。更には征竜の、吐き気を催すバカげた回転力が待ち構える。

「……」

 あまりに絶望的な状況に、星華は目眩を覚え、ひざを着く。

 梓の強さは知っている。それでも、その信頼を根こそぎ踏み潰すだけの力。

 そんな現実を前に、星華の中の気力は失せていた。

 

『さあ、説明はここまでです! 水瀬梓十七歳、決闘を続けなさい!』

「……はぁ……」

 大きな声を上げ続けるBIG5を前に、ずっと黙っていた梓は、溜め息を吐いた。

『おやおや、もう諦めてしまいましたか。なら、大人しくサレンダーをし、あなた方の肉体を我々によこして……』

「思った通り、つまらん決闘だ……」

 その声は、決闘開始の時から変わらない、やる気も覇気も一切ないそれだった。

 

「永続魔法『ウォーターハザード』を発動」

『ふふふ、愚かな。『光と闇の竜』の効果! 攻守を500下げ、その発動を無効とする』

 白黒の二色の体を持つ竜の、顎に備わった二本の角が輝く。

 そこから発生した電撃が、梓の場の『ウォーターハザード』を撃ち抜いた。

 

『光と闇の竜』

 攻撃力2800→2300

 守備力2400→1900

 

『無駄無駄、無駄ですよ! どんなカード効果だろうが、『光と闇の竜』の前では……』

「……ではそれにチェーンして、速攻魔法『禁じられた聖杯』を発動。『光と闇の竜』の攻撃力を400アップさせ、効果を無効とします」

『え……?』

 その宣言の直後、『光と闇の竜』の頭上に、聖なる杯が現れる。

 そこから注がれた水が、『光と闇の竜』の身を包んだ。

 

『光と闇の竜』

 攻撃力2300→2800+400

 守備力1900→2400

 

 結果、ドラゴンの力は失せ、『ウォーターハザード』は無事発動された。

「思った通り、同一チェーン上で無効にできるのは一度きりのようだ。でなければ、自分自身の無効化の効果まで、無効化しなければなりませんからね」

『な! バカな! 説明を聞いただけで、『光と闇の竜』の弱点を突いてきたと!?』

 驚きの声を上げる彼らに対し、梓はまた、溜め息を吐いた。

「確かに、より強く、より使いやすく、そしてより簡単に勝てるカードを、誰しもが求めているのは事実です。それを否定することはできない。私自身、仮に征竜のカードが世に出たなら、喜んで手を伸ばすことでしょう。ですが……」

 そのやる気の無い声は、目の前に立つ男達に対し、ただただ呆れていた。

「そんなカード達が出回ることで腐るほど、決闘モンスターズはチャチなゲームではない。決闘モンスターズとは、全ての決闘者が、あらゆるカードを知り、学び、そのカードで勝利するための戦略を追求し、そして戦うもの。あなた方の作ったカードで簡単に壊れるような、ぬるい世界ではない」

 言い放ちながら、手札のカードに手を伸ばした。

「永続魔法『ウォーターハザード』の効果により、相手フィールドにのみモンスターがある時、私はレベル4以下の水属性モンスターを手札より特殊召喚できる。『氷結界の舞姫』を、特殊召喚」

 

『氷結界の舞姫』

 レベル4

 攻撃力1700

 

「舞姫……!」

 梓の呼び出したモンスターに、星華が思わず反応する。

 今は精霊がいない。ただのカードでしかない。

 それでも、梓が誰よりも信頼する、最愛のモンスターには違いない。

 それを見た星華の動揺も知らず、梓は続けた。

 

「更に、チューナーモンスター『深海のディーヴァ』を召喚」

 

『深海のディーヴァ』チューナー

 レベル2

 攻撃力400

 

『チューナー!? ということは、お前もシンクロ召喚を……!』

「『深海のディーヴァ』は召喚に成功した時、デッキからレベル3以下の海竜族モンスターを呼び出す。レベル3の海竜族『シー・アーチャー』を特殊召喚」

 

『シー・アーチャー』

 レベル3

 攻撃力1200

 

「そして、速攻魔法『エネミーコントローラー』。二つある効果のうち、第二の効果を選択。『シー・アーチャー』を生贄に捧げ、そちらの『光と闇の竜』のコントロールを得る」

『なにぃ!?』

 驚きの声を上げている間に、『光と闇の竜』は彼らのもとを離れ、梓の前に立った。

『くぅ……だが、なぜより攻撃力の高い『F・G・D』を奪わな……』

「それがあなた方自身を象徴するモンスターなのでしょう。そんな汚らわしい物、触りたくもない……」

 再び吐かれる、梓らしからぬ言葉。

「哀れなのは、あなた方の都合だけで生み出されたモンスター達だ……」

 そして、梓の視線は、彼らから、自身の前に降り立った『光と闇の竜』に注がれた。

「どんなに凶悪と揶揄される効果であろうと、生まれてきた者達に罪は無い。間違いなく必要とされ、生まれて欲しいという願いのもとに生まれてきた命なのだから……それを……」

 再び視線を、彼らに移す。

「あなた方の下らない復讐のために、目を背けたくなる力を無理やり与え、そんなカードを大量に作りだした。あまつさえ、決闘モンスターズを侮辱する数々の発言……つくづく救い難い。あなた方は、私が裁く!」

 

「レベル4の『氷結界の舞姫』に、レベル2の『深海のディーヴァ』をチューニング」

 

「凍てつく結界(ろうごく)より昇天せし翼の汝。全ての時を零へと帰せし、凍結回帰(とうけつかいき)の螺旋龍」

「シンクロ召喚! 舞え、『氷結界の龍 ブリューナク』!」

 

『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2300

 

「梓のエース、ブリューナク……!」

 

「ブリューナクの効果。手札を任意の枚数捨てることで、フィールドのカード一枚を手札に戻す。手札の『死者蘇生』を墓地へ」

 

手札:1→0

 

 残り一枚の手札を掲げ、それがブリューナクに吸収される。

「愚か者の象徴など、生きもせず死にもせず、生まれた場所でジッとしていなさい」

 『F・G・D』を指差し、言葉を吐いた瞬間、ブリューナクの総身から霧があふれ出る。

「凍結回帰……」

 それが『F・G・D』を包み、消滅させた。

 

『バカな……バカな……!』

 

「すごい……」

 BIG5は、目の前の現実を受け入れきれない様子だった。

 データだけの存在になりながら、憎しみと復讐だけを糧に、長い年月を掛けて刺客を復活させ、復讐のためのカードを創り、舞い降りたチャンスを手にした。

 結果、刺客は敗北し、新たに作り出したカード達は、奪われた挙句あっさり突破された。

 星華はただ、言葉を失うばかりだった。

 勝手に創られたカードとは言え、そのバカげた力を前に、勝てるはずがないと諦めた。

 それを梓は、瞬時にカード効果の穴を見抜き、そこを起点に、突破して見せた。

 改めて、星華は実感する。

 別格過ぎる。力の差があり過ぎる。

 カードの強さだけではない。水瀬梓という決闘者が持つ、圧倒的な力量。

 

「星華さん」

 

「……んん!?」

 呆然としていた星華に、梓の声が掛けられる。それに驚いたのも構わず、梓は用件を尋ねる。

「仮にこの決闘で彼らを倒したとして、彼らの作り出したカード達は、世に出ることなく葬ることができるのでしょうか?」

「ふむ……」

 梓は機械に極端に弱い。だから、機械に強い星華に聞いた。そして星華は、答えた。

「ああ。そのカード達はBIG5の命にリンクしたデータとして存在している。決闘の敗北によって奴らの存在というデータがデリートされるなら、リンクされているカードデータもまた奴らと共に完全にデリートされるはずだ」

「……きゃんゆーすぴーくじゃぱにーず?」

「要するに、奴らを倒せば征竜達は消える。カードとして世に出ることは、永遠に無くなる」

「……」

 望んだ答えを得た梓は、意識をBIG5に戻した。

 

「誕生する以前の命……それを摘み取ることは忍びない。それでも、より多くの人々を苦しめることになるならせめて、私が、その罪を背負います。バトル!」

 梓が声を上げ、BIG5を怯ませる。そして、終わりを宣告する、言葉を叫んだ。

「ブリューナクの攻撃。静寂のブリザード・ストーム」

 ブリューナクの口から放たれた吹雪が、BIG5を包み込み、ライフを削り取る。

 

BIG5

LP:4000→2700

 

『ぐぅ……!』

 そして、攻撃を受けた直後、残った一体を見た時……

 自分達の生み出したカードの一つ、『光と闇の竜』。

 敵に寝返ったドラゴンのその目は、主人に対し、抱いていた憎しみが燃え上がっているように見えた。

 

「自分達の生み出した、モンスターの怒りを受けなさい! 『光と闇の竜』、ダイレクトアタック!」

 

 BIG5が最後に見たのは、開かれた白黒の竜の口から放たれた、白と黒、二色の輝き。

 そして、最後に聞こえたのが……

 

「それと、最後に一つ……私は男です」

 

BIG5

LP:2700→0

 

 

「梓!」

 決闘の終了と共に、星華が梓に呼び掛け、その身に抱き着いた。

 後ろでBIG5が、消滅に苦しみ絶叫しているのも構わず、二人は顔を合わせた。

「どうしました? 星華さん?」

「……私は、自分が情けない」

 泣き出しそうな顔で、梓に対して懺悔の言葉を連ねる。

「お前のことを、信じることができなかった……奴らのカードの力に絶望し、一人諦めてしまった……お前は決して、諦めてはいなかったのに……」

「諦めるどころか、まともに相手をするだけ無意味だと思ったもので」

 本人の言う通り、梓は最初から、彼らなど眼中に無かった。

 まともに相手をせず、ただ、決闘だけを見つめていた。

(……ただ、後攻だから良かったものの、もし先行だったらと考えると……鳥肌が立ちますが……)

「本当に強いな、お前は……それに比べて、私は……」

「ほらほら、泣かないで。あなたは十分お強いです。落ち込むのはそこまでになさいな。気持ちは分かりますが、それで立ち止まっていては、進むことはできません。それを、私に教えてくれたのは星華さん、あなたですよ」

「梓……」

 苦しく痛む星華の心に、梓の笑顔は、眩しすぎる。

 それでも、いつまでも見ていたくなる。苦しみが和らいでいく。 

 本当なら、誰よりも苦しい思いをしてきたはずのその顔は、傷ついた心を癒してくれる……

「諦めてしまった自分を恥じるなら、それを糧とし次に繋げればいい。そして、前に進んでいけばいい。それが難しいのなら……私のことを、見ていればいい」

 それは昨日、星華が梓に向かって言ったのと、同じ言葉。

「私のことを見て、そして、それを通して現実を見ればいい。そうすれば、直視するよりも楽でしょう。残酷な現実が苦しいなら、私が、あなたを支えてさしあげますから」

「……」

 どうしてこの男は、こんなにも人の心を癒してくれるのだろうか。

 梓の言葉、表情、姿……その全てが星華の心を癒し、そして、捉えて離さない。

「……好き」

 今日まで何度言った言葉か知れない。それでも、言わずにはいられない。

「……好き……梓のことが好き……」

 ただ目の前の男が愛おしく、そんな気持ちのままその身に抱き着く。

 それを、梓も受け入れていた。

 

 やがて、そうして二人がいちゃついている間にBIG5は消滅し……

「星華さん、あれを?」

「……あれは……」

 二人の遥か前方に、白い光の柱が現れた。

「あれが出口のようだ。あそこに飛び込めば現実の世界に帰れる……はずだ」

「はず!?」

「はっきり言って確証は無い。とは言え、それでも他に選択肢もあるまい」

「……」

 と、梓が言葉を失った、その時……

 

 グラララララララ……

 

「これは……!」

「婆ちゃんが痙攣している……」

「バーチャルが地震を起こしている! 早く行かなければ、私達ごとこの世界は消滅するぞ!」

「では急ぎましょう!」

 そして、二人は光の柱に向かって走り出した。

 

 だが、その途中、

「む?」

「なんだ……?」

 二人の前に、今までの白とは違う、毒々しい赤色が発生した。

 それはまるで炎のように揺らめき、形となる。巨大な人の形をしたそれは、凶悪な形相を二人に向け、見下ろしていた。

 

『Let’s play Due……

 

「やかましい!」

 それが表示される前に、梓は刀を抜いた。そして……

「ええー!? 選択肢ごとあいつを斬った!?」

「これ以上付き合ってはいられません。早く帰りましょう」

 驚愕の声を上げる星華に向かって、開き直った梓は答える。

「良いのだろうか……」

「良くないなら呪えばいい。私は凶王。凶事も呪いも日常茶飯事だ」

(カッケェ……)

 

『OK. My name is Gohzaburow.』

 

『OK. My name is Gohzaburow.』

『OK. My name is Gohzaburow.』

『OK. My name is Gohzaburow.』

『OK. My name is Gohzaburow.』

 

 走る二人の後ろから、そんなテキストボックスがいくつも飛んでくる。

「勝手に決闘が承認されているぞ」

「無視しなさい。まったく、現実でもゲームでも、老害は他人の足を引っ張ることしかしないようだ」

「梓……今日はいつにも増して辛口だな」

 やがて、光の柱に到着する。

「一度に通れるのは一人ずつのようですね。では星華さん、お先に」

「ああ。すぐにお前も来いよ」

 そのやり取りの後で、星華はそこへ飛び込む。

 そして梓も、飛び込もうと柱の前に立つ。が、その時、

 

『……』

 

「……NOAさん?」

 梓の前に、真っ白な少年が立っていた。

 少年は右手を差し出した。そこには、一枚のカードが握られていた。

「私に、ですか……?」

 コクリ、と少年は頷いた。梓はそれを受け取り、笑顔を浮かべた。

「こんな言葉が相応かは分かりませんが……お元気で。もしまた出会うことがあるなら、その時はぜひ、私とも決闘をしましょう」

 コクリ、と、また少年は頷く。

 それを見て、梓は今度こそ、光に飛び込んだ。

 

 電子でできていた体が徐々に、血流と体温を取り戻す感覚があった。

 そんな感覚の中、再びNOAへ振り返った時……

 真っ白な光でしかなかったNOAの身が、緑の髪と、白い服の、生身の子供の姿に見えた……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「……はっ!」

 梓が声を出し、体を起こす。

「ここは……」

「気が付いたか」

 そこには、一足先に現実に戻っていた星華が、心配そうに見ていた。

 梓の肉体はいつの間にやら、卵のような形をしたカプセルに寝かされていた。

「戻ってきたようですね」

「ああ……現実であって現実でない、夢の中のような出来事だったな」

「……」

 そこで梓は、ふと、違和感を覚える。

 何も無いはずの右手に、確かに感じる感触。

「……どうやら、一概に夢とも言い切れないようですよ」

「なに?」

 聞き返した星華に、梓は握っていたそれを見せる。それは……

「それは、スピリットモンスターか……!」

「あの世界から脱出する間際に、NOAさんから……BIG5を倒したお礼でしょうか」

 そして梓も、そのカードを見る。

「『氷結界の神精霊』……大切に使わせていただきます」

 そのすぐ後で、左手にも違和感を覚えた。それを見ると……

「これは……!」

「なに? そんなものまで持ってきたのか!?」

 左手に持つそのカードに、梓は困惑し、星華はまた声を上げた。

「『光と闇の竜』……そう言えば、奪った後返すことなくディスクに刺さったままでしたね。それで持ってきてしまったようだ」

「持ってきてしまったようだって……」

「……どうしましょう?」

「どうしましょう、と、言われてもな……」

 星華を絶望に追いやった、BIG5の作り出したカード。

 そんな物の一枚を見て、頭を抱えてしまう。

「ふむ……あいにく私にも、星華さんのデッキにも合いませんね……」

「梓、そいつを連れていく気か?」

「当然です。確かに強力ですが、このカードだけならそれほど問題ではない。肝心の征竜達は、彼らと共に消えたのでしょう?」

「あ、ああ……」

「なら、このカードに罪はありません。信頼できる決闘者を探して、その人に使いこなしていただきましょう」

「……そうだな」

 カードに罪は無い。そう言いながら、左手のカードに慈愛を向け、同時に、自らの手で葬ってしまった征竜シリーズに、心を痛める。

 そんな梓の手を、星華は引いた。

「さあ、すぐにここを出るとしよう。デートの続きだ」

「え、ええ。そうですね……」

 

 そして、その施設を出た時、十代にエド、翔と剣山、ついでに三沢の無事を確認し、心置きなく修学旅行に戻った。

 

(さてと……アズサへのお土産は何が良いでしょうか……)

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 だが、梓も星華も、知らなかった。

 

 梓がBIG5と共に葬ったはずの、征竜シリーズのデータは、粉々になりながらも僅かに生きており、それが長い長いネットワーク世界の旅路の果てに、やがて、彼らにとっては数年後の未来、かつ、彼らの生きる世界とは全く別の、異世界に流れ着いたことを。

 そんな世界で、そのデータを目ざとく手に入れた悪徳デザイナーの手により、完璧に再現され、カードとして誕生してしまった征竜シリーズが、星華の恐れた、むしろ星華の想像から遥かに悪化した、長い長い決闘の大暗黒時代を、その世界に作り上げてしまったことを。

 そして、月日の流れと共に、ああそう言えば、そんな時代もあったな、と、数ある暗黒時代の一つとして、やがて忘れ去られてしまうことを。

 

 梓も星華も、それらの出来事を知ることは、永遠に無かった……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「翔君やあああああああいいいい!! 出ておいどぇええええええいい!! あなたのモモエはここだっしゃああああああ!!」

 

「……(ボリボリ)こっちのニンニクはあ~まいぞ~……(ボリボリ)あっちのニンニクはセ~コイぞ~……来い(ボリボリ)……来い(ボリボリ)……翔よ来い(ボリボリ)……」

 

『モンケッソクカゲキカゲムシャシエンシハンキザンキザンエクスカリバーマガタマケイコクセンコクセット……サイクサイクナイショトフェニシユウエメラルドアトゥムスレダメレダメグスタフ……サイクサイクナイショアライブエアーバブルブレハセイカン……ダグレヘルパトデーモンガンサーチチェインガンビートルデーモンマンサーオーガゼロマスタダブレイクブレイクバリアセット……カンパサモサモキャットベルンベルンDDBDDBダイレクトダイレクトシャシュツシャシュツアザッシター……』

 

「なにこれ……」

 レッド寮のキャンプを訪れ、翔がまず発した言葉がそれだった。

「お前がいなくなってから、ずっとこんな調子なんだ。翔、どうにかしてくれ」

「……」

 十代からの言葉に頭を抱え、戻ってきた翔の姿も見えていない三人に、どうすべきか思案する。

 そして……

「……仕方ない」

 するべきことを決め、三人に近づいた。

 

「翔くうううううううん!!」

 ツンツン……

「翔くううう……んぐっ!」

 背中をつつき、振り返りながらなお喚くモモエの口を、自らの口で押さえる。

 見ていたレッド寮の面々が上げる驚愕の声を無視しながら、翔は続ける。

「ん……んん、んん……!」

 

 ツゴウニヨリギオンハナシ……

 

 口の中に舌を挿し入れ、動かし、その場にしめやかな音を響かせていく。

 すると、カミューラとマナの二人もその音に気付き、やがて、翔の存在に気付く。

「んん……んんん……!」

 そして、それをされているモモエは、ただただ目を見開き、口の中からあふれ出る快感に抵抗することができない。

 やがて……

 

 チュポン……

 

 翔が唇を離すと共に、モモエの体は倒れ、それを翔は、しっかり抱き止めた。

「よし」

 

『なにがよしだ!!』

 

「この三人を正気に戻すには、これが一番手っ取り早いからね。ほら、戻ってるでしょう」

 翔の言った通り、カミューラも、十代と翔以外には見えないマナも、正気を取り戻し、その視線を翔に向けている。

 モモエはと言うと……

「翔君がぁ~//// キスしてくれたぁ~//// 翔君の方からぁ~//// とびきりのディープキスぅ~////」

 モモエの言った通り、何気に女子からではなく、翔の方から進んで行った接吻を、モモエは初めて勝ち取ったことになる。

 その事実に気付いたカミューラとマナは、すぐさま翔に詰め寄る。

 

「ちょっとおー!! 翔!! するなら何で私にしないのよー!!」

『私にもあんなすごいの、してくれたことないじゃないですかー!!』

「いや、何でって……カミューラは、ニンニクの匂いがすごすぎるし……」

「う……」

(マナは、そもそも実体化してないから触れないし……)

『はぅあ……』

「……確かに臭い……おまけに口の中辛っらぁ……」

『うぅ……ていうか、翔さんはいつの間にそんなキス覚えて……』

「前にカミューラに無理やりされた時に、何となくどうやるか覚えたんだよ」

「あの一回だけで……」

『なにその才能……』

「えへへへぇ~//// 翔くぅ~ん////」

 

『……』

 今回も、安定の四人の惚気でシメとなった。

 

 こうして、バトル有、トラブル有、コメディ有、イチャラブ有の、波瀾万丈に過ぎる彼らの修学旅行は、幕を閉じるのである。

 

 

 

 




お疲れ~。

よーし、何とか三人とも翔の唇ゲットさせられたぁ……まあどうでもいいけど。

いやぁ、今思い出しても征竜の暗黒時代は酷かったなぁ~……

ちなみに大海は当時、全盛期征竜には何度か勝ったけど、その後の全盛期魔導にふるぼっこにされましたわ。
ちなみに当時の愛用デッキは、『虚無空間』フル投入の『武神』だった……


まあ、過去話はこの辺にして、これで修学旅行はお終いですわ。
ちょこっと詰め込み過ぎた気がしなくもないけどよぉ。やっぱ童実野町はネタの宝庫だねぁ~……
とりあえず、次話でアカデミアに戻りまっさ。
次はいつになるきゃーのー……

まあどれだけ時間が掛かろうが、大海が言えることは、これだけさね。
ちょっと待ってて。

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