遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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第三部~。
みんな大好き、ジェネックス、は~じま~るよ~。
つ~ことで、行ってらっしゃい。



第三部 ジェネックス
ジェネックス開幕


視点:斎王

 ……やはり、王達は彼のもとへと集まったか。

 彼は今や、三人の王、『愚者』、『女帝』、『力』、三人に守られ、同時に三人を守っている。

 こうなってはもはや、彼を我がものにすることは叶いそうにない。

 

 水瀬梓……『世界(ザ・ワールド)』。

 

 三人が彼のもとへ集ったことで、逆位置であった彼は今、正位置……『完成』に至った。

 彼が何らかの世界を作ろうとしているのか、それとも、彼自身が世界となるのか。

 それは分からないが、いずれにせよ、もはや彼は敵でしかない。

 しかし、彼は強過ぎる。私の力を持ってしても押さえることは不可能だろう。

 もっとも、未だ彼と私の運命が交差する未来は見えない。

 こちらから何の干渉も無ければ、世界とて、私など見えはしまい。

 諦めるには少々惜しい力だが、今は黙している他ない。

 今は、成すべきことを成すのみ……

 

 ……それにしても、気になるのは、もう一人……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:あずさ

 

「じゃあ、おやすみ、あずさ」

「……うん。おやすみ、明日香ちゃん」

 

 こんばんは。

 ここは、明日香ちゃんのお部屋です。

 あの後、三人で梓くんを保健室へ運んで、その後は梓くんに言った通り、明日香ちゃんのお部屋へ来ました。

 明日香ちゃんは二つ返事でお泊りを快諾してくれて、ご飯とお風呂を終えて、後は寝るだけ。わたしにベッドを使えって言ってくれて、遠慮するわたしを置いてどこかへ行っちゃった。

 今頃、漫画かOVAでも見てるか、カミューラからもらった十代くんの生写真でも見てニヤニヤしてるのかな。

 

 ……もっとも、わたしはわたしで眠れない。

 それに、一人になれてよかった。

 だって……

「……~~~~~~////」

 思い出したら、変な声が出てきた。

 それでたまんなくなって、ベッドの上をゴロゴロ転がっちゃった。

 だって、梓くんとわたし、ついに……

 せ……せ……せっぷ……

 

「~~~~~~~~~~~////////////」

 

『あ~あぁ、見ちゃいらんねえなぁ……』

「うおわ!! ……っ痛たぁ!!」

 いきなりの声に驚いて、顔面から転げ落ちた。

(シエン……いきなり出てこないでよ。ずっと姿見せないで、読者だってもう忘れてるよ……)

 ちなみに明日香ちゃんには聞こえないよう、声は出さずに話してます。

『……心配していたのは、梓や人間達だけじゃない……』

(キザン……そりゃあ、分かってるけどさ……)

 シエン、キザンときて、後の四人も久しぶりに姿を現した。

『そうそう。特にキザンの奴は本気で心配してたからな』

(ほえ?)

 カゲキが笑いながらそう言った後、キザンは何だか目を細めた。

『特に、君のお部屋が燃やされて生徒達が大騒ぎした時は、今すぐその生徒達を斬り殺そうって怒りだしてさ。シエンも含めた五人総出で止めたんだから』

『あそこまで怒ったキザンを見たのは、梓の父君を殺して消えたシエンが帰ってきた時以来でしたね』

『……お前達……』

 ニヤニヤしながら話す五人に対して、キザンは刀を取り出した。

『……そんなに殺されたいか……』

(まあまあ、落ちついて、キザン……)

 取り出した刀に手を添えつつ、話しかけました。

(心配してくれてありがとう。もう大丈夫だからさ)

『……』

 そう言うと、刀をしまった。

 

(梓くんも元気になってくれたし、わたしと話してくれるようになったし、ついでにわるもの達は全員アカデミアから出て行ったし……後は、何とか明日香ちゃんや万丈目君をホワイト寮から連れ出せないかな……)

 梓くんがわたしを思い出してないからってお誘いを断ったけど、実はこれも理由の一つだったりする。

 今のところ、二人に何か変なことする素振りはないけど、いざって時は、わたしが二人を守らなきゃいけないからね。

(シエン、なんとかなんないかなぁ……)

『なんとかって言われてもなぁ……あの斎王ってやつの力、精霊の力に似てるっちゃ似てるが、明らかに違うからなぁ。精霊とは明らかに違う邪悪な力が働いてるなら、少なくとも精霊にそいつをどうにかする力なんて無えぞ』

(……こうなったら、やっぱ斎王をボコボコにするしかないかなぁ……)

『んな物理的手段で解決できる程度の力なら、こんな苦労して考えなくて済むっての。第一、本当の力の一部しか見せてない今の斎王を、決闘であれ腕ずくであれブッ飛ばしたところで、多分洗脳は解けねえぞ』

(やっぱそっかー……せめて、今のところ、明日香ちゃんも万丈目くんも、正気は保ってるみたいなのが救いかなぁ……)

『……ま、今は気長に見張ってるっきゃねえな……』

 

『……』

(キザン、キザン……)

(……なんだ?)

(どんな気持ち? 大好きなあずさちゃんが、一番好きなのが梓で、一番頼りにしてるのがシエンで、六人の中でいっち番あずさちゃんを心配してた君のことはほとんど眼中にないって、ねえどんな気持ち?)

(……)

 

 どうしてか、シナイにアイアンクローしてるキザンを横目で見ながら、わたしとシエンは話し合いを続けた。

 

(……シナイ)

(……な、なに……?)

(……ありがとう。慰めてくれて……)

(……どう、いたしまして……痛い痛い痛い痛い痛い!!)

(シナイ~~~~……)

 

(……俺達は空気だな……これがキャラクターの差か……)

(カゲキ、お前は決闘じゃ先兵だからまだ良いだろう。俺なんか影も薄いし、出し辛さのせいで決闘でのポジションも微妙なんだぜ……)

(『はぁ……』)

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 

 ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ……

 

 バクバクバクバクバクバクバクバクバクバク……

 

 同じくホワイト寮の、梓の部屋。

 梓を保健室へ運んだ後、三人の看病(二割)と、自身の持つ治癒能力(八割)によってどうにか鼻血は止まり、夜には寮の自室へ戻ることになった。

 保険医の鮎川には、泊まっていかないかと提案もされたが、その必要はないと答えた。

 そして、少々遅い時間ながら、帰った後はすぐに夕飯を作ったのだが……

 

 ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ……

 グビグビグビ……

 バクバクバクバクバクバクバクバクバクバク……

 

 夕飯を作り終えるなり、テーブルの上に大量に置かれた料理やご飯やお茶を、瞬く間に口へ入れていく。

 そんな光景を繰り広げる男を、星華と、アズサの二人は、呆然と見つめていた。

 

 ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ……

 グビグビグビ……

 バクバクバクバクバクバクバクバクバクバク……

 

「……舞姫よ、これは一体どういうことだ……?」

 自身の目の前の食事には手を付けず、星華は、隣で同じように固まっているアズサに尋ねた。

「……多分、あずさちゃんにキスされて、その興奮を抑えようと食いまくってるんじゃないかな……」

 普段はむしろ食欲旺盛である二人とも、軽く見て五十人分以上はあった料理を五分弱で完食し、今なお腹に詰め込んでいる梓を前に、食欲を失くしていた。

 普段は二人に、バランス良く美味しい料理を振る舞っていながら、自身はご飯一杯、水の一杯さえ、食事を摂る素振りすら見せなかった。

 にも関わらず、今の梓は、とってもやさしー実家のおかげで無駄に豊富過ぎる食材を贅沢に使い、大鍋や網焼き、フライパンやら大釜いっぱいに料理を作り、その全てを、ほとんど一人で食していた。

「……サイヤ人を思い出すな」

「僕はゴム人間が思い浮かんだけど……」

 メニュー一つ一つを見れば、どれも体には良さそうだが、これだけ暴食していてはバランスもへったくれもない。

 普段は二人に必ず言わせている、いただきます、の挨拶もせぬうちに、夢中で食器を空にしていく様は、食事というより、ただ大暴れしているようにしか見えない。

「……絶食家で美食家……悪食家で、そして暴食家……どれが本当の、梓の食欲だ……」

「う~ん……全部?」

 二人がそんな会話をしている間も、梓の箸は止まらない。

 着物の下の、世の女性の誰もが羨む細身なウェストと、そこに納まっているであろう胃の面積を明らかに超えた食事量。そんなギャップに、二人は目を奪われるばかりだった。

 

「……でもそっか。今度から、梓にご飯を食べて欲しい時は、あずさちゃんにキスしてもらばいいんだ」

「……」

 アズサが笑いながら言った言葉に、星華は鋭い視線を向けた。

「……言っている意味が分かっているのか?」

「……分かってるよ。じゃあ星華姉さんは、ご飯をちっとも食べない梓のがいいの?」

「……」

 悲しげな目で返してきた質問に、星華は沈黙する。

「……食べ過ぎるのも、問題だと思うぞ」

「……そりゃそうか……」

 二人が苦笑しながら呟き話している前で、梓は、通算九十杯目の丼と、大鍋いっぱいに作った豚汁を空にし、おおよそ三十匹目の焼き魚を箸に掴んでいた。

「サンマを頭から骨ごといってるよ……」

「メザシではないぞ……」

「うわっ、今度は焼きサザエを殻ごとバリバリと……」

「煎餅ではないぞ……」

 

 ピピピピッ

 ピピピピッ

 

 18時46分ころ、茨城県南部で震度4の地震がありました

 この地震による津波の心配はありません

 

「……む? 地震速報」

「またヘルカイザーがキメラテックでも使ったかな? ……マグニチュード4.8だってさ」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 それからというもの、様々な出来事があった。

 

「アリスちゃ~ん//// 可愛いドン////」

 剣山が初恋と失恋を経験したり……

 

 シュ ゴオオーッ

「遊城十代! きさま! 見ているなッ!」

 十代が明日香に覗き魔と疑いを掛けられ、その後でクイズオタクのホワイト寮生徒と決闘したり……

「十代になら何をされても良いんだから覗きなんてせずに部屋まで堂々と襲いにきなさいよ!(覗きなんて許さないわよ!)」

「ちょ、明日香ちゃん落ち着いて! 多分口と心の声が逆……」

 

 三沢が万丈目との決闘に敗れ、ホワイト寮入りすることになったり……

 

「またまたやらせていただきましたァン!」

 十代がデッキ破壊を操るプロ決闘者と決闘をしたり……

 

 

 そしてそれは、アカデミアの外でも例外ではない。

 

「……これが、今の亮のデッキ……『ドラグニティ』の、真の姿か……」

 雪山の頂上にある、古びた巨大な建物。

 武闘家達の気迫を感じさせる独特の空気と、ただそこにいるだけでこちらの身も引き締まりそうになる雰囲気。

 そんな、道場が作り出す特有の空間の中で、アカデミアから離れた鮫島校長は、ひざを着いていた。

「すごい……」

 その前では、寮が道場の奥にある祠を開き、そこに封印されていたのであろうデッキを手に、表情を歓喜に染めていた。

 エドに敗れて以来、本来の『サイバー流』と共に、ドラグニティデッキを使い続けた。

 決闘を繰り返すうち、デッキが求める力を理解していき、やがて、サイバー流ではもちろん、真の力を封じたドラグニティでさえ、相手を完膚なきまでに打ち倒すことができるようになった。

 卒業前にはあった、『リスペクト』という概念の一切が消えた、ただ勝利のみを貪欲に求める、強過ぎるその姿から、誰が最初に呼んだのか、『ヘルカイザー』という称号を冠し、怖れられるようになっていった。

 

 そして、そんな亮を止めようと立ちはだかった、かつての決闘の師匠である鮫島もまた、彼の前に手も足も出ず敗れることとなった。

「師範。『裏サイバー流デッキ』、確かに受け取りました」

 敗れた鮫島に背を向け、道場を出ようとする。

「待ってくれ、亮」

 その呼び掛けに振り向くと、鮫島は、亮の足もとへ何かを投げてよこした。

「今度、決闘アカデミアで、大規模な決闘大会が行われる。そこには、私が世界中から選び抜いた、最強の決闘者達が集まる。その大会に、お前も出場して欲しい」

 

「……今の俺には、名声など何の意味も無い。勝利こそ得られればそれでいい……が、多くの勝利を得るために、大会に出るのも悪くないかもしれないな。このデッキと共に……」

 

(ドラグニティ。梓君から受け取ったデッキ……亮だけではない。一体なんなのだ、この力は……)

 

 

 鮫島が、自身を完膚なきまでの敗北に追い込んだデッキを思っている頃……

 

「おい羽蛾」

「ああ。竜崎も出るんだろう? この『ジェネックス』って大会」

「おう。デッキの準備は整った。もう完璧に使いこなせる」

「これで、大手を振って梓君に会いに行けるな……そこが、真の決着を着ける時だ」

「ああ。リベンジはもちろんやが、このデッキが、梓との決闘を心底欲しとるのが分かる」

「……何かが起こりそうな気がするな。この大会……」

「何が起ころうが、ワシらは決闘をするだけや。それが、梓への何よりの恩返しやで」

「うん……行こう」

 

 

「……ジェネックス。そこに、答えがあるのか?」

 

「ジェネックス、ねぇ……そこに行けば、なにか分かるのかな……」

 

「ジェネックス……楽しみ。ね? 君達もだよね?」

 

「ジェネックス……ああ。分かったよ。そこに行けば、君達の求めるものがあるんだね……」

 

「さあ、どうなるかしら。私を退屈させないだけの、刺激に溢れているのかしらね……ジェネックスは……」

 

 

 世界中で、巨大な祭りへの思いが交錯する。

 そんな思いと共に、時間は過ぎていった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「世界中の、ジェネレーションネクストナンバーワンを決めるための決闘、名付けて、『ジェネックス第一回決闘大会』、開催を宣言する!」

 

「ジェネクス!?」

 鮫島校長が戻ってきた。

 そのニュースと共に、決闘会場へと集められた生徒達に、それが発表された。

 真っ先に反応したのは星華だった。

「星華さん? 落ち着いて下さい。『ジェネクス』ではなく、『ジェネックス』ですよ」

「む……? お、おお。分かっているとも……」

 梓が隣の席から星華に耳打ちをしている間に、鮫島の話しは続いた。

 

 アカデミア高等部の生徒達が全員参加となる、ジェネックス決闘大会のルールは、主に以下の通り。

 ・参加者達はそれぞれ、一人一つの資格メダルを手に大会に参加する。

 ・参加者は一日に一度、決闘を行う義務がある。

 ・一度目に挑戦された決闘を拒むことはできない。

 ・参加者はそのメダルを賭けて決闘を行い、敗者は手持ちのメダル全てを勝者に渡す。

 ・メダルを失った者、すなわち、一度でも敗けた者はその時点で失格。

 ・最終的に、メダルを持つ決闘者二人が決勝を戦う。

 ・優勝者には、とっておきの商品を用意してある。

 

 それらのルールを聞いたところで解散となり、生徒達は各々の場所で開催を待っていた。

 大会にはプロ決闘者達も参加する。

 獲得したメダルの数が成績にも影響する。

 そんな話もあり、多くの生徒達の表情は、穏やかとは言えないものだった。

 

「剣山、どうだ?」

「……一度メダルを失ったら、資格が無くなっちまうドン。初戦はもっと、軽いやつとやりたいザウルス……」

「軽い相手って……ん? ぼくのこと?」

 翔が疑問の声を上げた直後、その場の生徒全員が、翔を見ていた。

「なあ、どうドン?」

「……」

 そんな、剣山や生徒達の反応に、翔は眉間に皺を寄せた。

 

「そう思うなら並んでー!!」

 

 その後……

 

「うおおおおおおおお!!」

 

「きゃあああああああ!!」

 

『ああああああああああああああああああああ!!』

 

「……七人相手に六分。一人一分掛かってないザウルス……」

「ふん……次は誰?」

 鼻息を鳴らす翔を前に、集まっていた生徒達は、一目散に解散していった。

「ったく、一日目からもうメダル八個だよ……で、剣山君、君もやるの?」

「いや……最初はもっと、軽い奴を探すドン……」

 そう言うと、剣山は翔と十代のそばを離れていった。

「まったく……」

 

「さっすが翔君! 無敵の強さですわ~////」

『私を使いこなせるのは、翔さんだけです~////』

「ははは……ありがとう……」

 どこからか現れたももえと、常にそばにいたマナに抱き着かれながら、翔は、ここにはいない者のことを思った。

(先生達も出るって話しだけど、カミューラもやっぱ出るのかな? 先生じゃないけど……)

 

 

 その頃、ホワイト寮では……

 

「お前達! 斎王様のため、我ら白の結社が優勝を勝ち取るのだ!」

 

 万丈目の号令のもと、集まった生徒達が一斉に声を上げる。

 その号令の後で、彼らもまた、各々話し合っていた。

 

「相手はプロ決闘者……勝算はあるのでしょうか?」

「ええ……一筋縄ではいかないでしょうね。相手は私達よりも遥かに過酷な舞台で、多くの強敵達と戦い抜いてきた猛者達よ。少なくとも、学生でしかない私達とは実力も経験も全然違う。ぶつかれば、厳しい決闘になるでしょうね……」

 

「だが我がホワイト寮の決闘は世界一ィィィ! 勝てぬことはないイイィ――ッ!!」

             ビシッ

 

「……プロ決闘者はもちろんですが、アカデミアで警戒すべき相手は……」

「オシリスレッドの『遊城十代』。彼は毎回強敵相手に4000ポイントのライフを削る。ルックスもイケメンだ」

「二年生のラーイエローから『丸藤翔』は魔法使いデッキでの参戦! 『ブラック・マジシャン』をデッキに三枚も採用する!」

「女子ブルー寮から来た機械族の名手は『小日向星華』! 彼女はミス決闘アカデミアを二度制したアカデミアの女帝だ!」

「そして日本のゴミ捨て場出身だが日本名家に育てられ決闘アカデミアで認められた天才決闘者、『水瀬梓』通称、凶王! 防御の天才がこの大会で通用するのか……」

 

「規模がすごすぎます……もし大会終了まで、ホワイト寮が誰一人勝ち抜けない事態が起こったら、私達ホワイト寮は……」

「消されるかも……」

「……!」

「なんちゃって……」

「はは……」

 

「失敗というのは……いいかよく聞けッ! 真の『失敗』とはッ! 開拓の心を忘れ! 困難に挑戦する事に無縁のところ(・・・・・・)にいるものた(・・・・・・)ちのことを言うのだ(・・・・・・・・・)ッ!」

「この大会に失敗なんか存在しないッ! 存在するのは挑戦者だけだッ! この「ジェネックス決闘大会」は、世界中の誰もが体験したことのない競技大会となるだろうッ!!」

 

「……なんで、いきなりプロモーターみたいなこと言ってるんですか?」

 

「うむ。いよいよ出発のようだな…」

 

            バ ー ン

              行

              く

              ぞ

              !

 

(……なんだこのポーズ?)

(気にしない方がいいよ。いつものあれだからさ……)

(俺達はどこに視線を送っているんだ……)

 ホワイト寮を出た屋外の、向かって左から、三沢、あずさ、準、明日香の順に取った謎のポーズを最後に、彼らもまた、それぞれの相手を求め散らばっていった。

 

 

「あ、梓さん!」

 十代達とは離れた屋外で、星華と、精霊化しているアズサと共にいた梓は、一人の女子生徒に声を掛けられた。

「なにか?」

 例の出来事があってからというもの、ほとんどの生徒達は、梓に対して距離を置くようになっていた。

 星華や友人達以外から声を掛けられることはめっきり減っていたことから、かつては日常だった、女子からの声は、梓にとっても珍しいものと化していた。

 そんな声に振り向くと、顔を赤くする女子生徒が立っていた。

「どうしました?」

 梓が再び尋ねた後も、女子生徒は顔を真っ赤に、体をモジモジ揺らしている。

 だがやがて、目を固く閉じ、意を決したように、両手に拳を握り……

「も、もし、この大会で優勝したら……梓さんの、唇を下さい!!」

「なっ……!!」

『おー……』

 その声に、後ろで見ていた他の女子生徒達、そして、アズサは盛り上がった。だが、星華は、拳銃片手にその形相を一片させた。

「貴様……自分が何を言っているのか分かっているのだろうな……」

「だ、だだ、だって……」

 拳銃を向けながらの星華の形相に、ただでさえ緊張に震えていた女子生徒は、涙目になり更に縮こまった。

 そんな女子生徒に対して……

「唇……そんなものが欲しいのなら、今すぐでもさしあげますが……」

 そう、梓が言ったことで、それを聞いた女子達はまた驚愕した。

「ほ、本当ですか?」

「ええ。少々お待ちを……」

「……おい梓、なぜ刀を取り出す?」

 そんな星華の質問を無視しながら、刀を上部だけ抜いた。

「少々痛いでしょうが……それにしても、変わったものを欲しがりますね」

 呟きつつ、その切っ先を、自らの顔に寄せ……

「待て待て待て待て!! 唇が欲しいというのは、そういう意味ではない!!」

 梓のしようとしていることを瞬時に理解し、星華は急いで刀と顔を引き離した。

「……え? 違うのですか?」

「違うに決まっているだろう! 顔から唇だけ切り取ってそれをもらったところで……」

 そこで、なぜか言葉が止まった。

「もらったところで……唇だけもらっても……唇を……」

 

(『まんざらでもないのですか!? 星華お姉さま!!』)

 

 女子達の心の総ツッコミを受けながら、星華は頭を振った。

「とにかくだ! いいか? 唇が欲しいというのはだな、キスしてくれ、という意味だ」

「なんだ、接吻ですか……」

 笑顔で理解しながら、梓は刀をしまって女子生徒の前まで移動した。

「それならそうと、はっきり言って下されば良かったのに。それこそ今すぐにでも……」

 言いながら、女子生徒の顔に優しく手を添え……

「な!」

『ちょっ!』

 

 ズキュウウウン

 

 スタタタタタタタ……

「やっ やったッ!!」

「さすが梓! おれたちにできない事を平然とやってのける。そこにシビれる! あこがれるゥ!」

 スタコラサッサー……

 

「明日香様?」

 どこからともなく走ってきた明日香が再び走り去っていく間に、梓は顔を離していた。

「他にも希望者がいるなら、いくらでもしてさしあげますが?」

 唾液の糸を伸ばしながらのそんな言葉に、見ていた女子達全員が反応した。

「おい梓! お前……!」

『梓! 君ね、節操なさすぎでしょう、いくらなんでも!』

 星華とアズサからそう苦情を受けるも、梓は笑っていた。

「慣れたものですよ。望まぬ相手との接吻くらい」

 そう答えた時、星華にアズサ、接吻されて意識が飛んでいた女子生徒、そして他の女子生徒達は、それぞれの反応を示した。

「私自身、これが何百度目かの接吻なのかわざわざ覚えておりません。皆さんも既にご存知の通り、かつては汚らしいホームレスの男達と、毎日のように接吻やら、それ以上のことをしてきましたから」

 笑顔で語るも、それを聞いている女子生徒達の顔には、影が差していく。

「ホームレスの男達の、唇やら男性器やら肛門やら精液やら、時に戯れで掛けられた排泄物やら、加えて私にとっては貴重な食料であった、泥水や雑草やゴキブリやネズミ等々……そういったものに毎日のように触れてきた、こんな唇でよければ、どうぞいくらでも」

 

『……』

 

 淡々と語る、艶めく唇を見ながら、女子生徒全員が言葉を失い、その場に硬直してしまう。

 やがて、女子生徒全員が背を向け、唇を受け取った女子も含め、全員が顔を青くしながら離れていった。

「あらあら……」

 そんな女子生徒達の姿に、梓は不思議そうな声を上げていた。

「梓」

「はい? ……んっ」

 名前を呼ばれ、振り向いた時、星華にその口を、唇で押さえられた。

「……私はこの通り、そんな梓でも平気だ」

「僕もだよ」

 星華が顔を離した直後、いつの間にか実体化していたアズサも、その唇を重ねあわせる。

「……やっぱさ、梓のこと、本当の本気で好きでいられるのって……」

「私達だけ、ということだ」

「星華さん……アズサ……」

 左右に立つ二人に対して、梓は、穏やかな表情を浮かべていた。

 

(私と、舞姫と、そしてもう一人……)

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……」

 ホワイト寮を離れ、相手を探していたあずさの前に、現れた決闘者達。

 

「統焦、平家あずさ」

「お前はホワイト寮にふさわしくない」

「お前には、ここで散ってもらう」

 

「……」

 あずさを待ち伏せしていたのであろう、現れたホワイト寮の男子生徒三人を見て、あずさは溜め息を吐いていた。

(やっぱ、あれが全員じゃなかったわけか……ていうか、あいつらが特にひどかったってだけで、元々歓迎する人なんてほとんどいなかったしね……)

 そう思っている間に、決闘ディスクを展開する三人。

 あずさもまた、決闘ディスクを展開した。

「良いよ。三人まとめてかかっておいでよ」

 

 

 そして、各々の場所で、生徒達は決闘を開始していた。

 

「『ブラック・マジシャン・ガール』で、『人造人間-サイコ・ショッカー』を攻撃! 黒・魔・導・爆・裂・波(ブラック・バーニング)!」

「うわあああああああああ!!」

 

オシリスレッド一年

LP:500→0

 

 

「『ダーク・ティラノ』で、ダイレクトアタック!」

「ぐおおおおおおおおお!!」

 

ラーイエロー二年

LP:2300→0

 

 

「『プラズマ戦士エイトム』のモンスター効果! 攻撃力を半分にして、プレイヤーに直接攻撃する!」

「うわああああああああ!!」

 

オベリスクブルー三年

LP:1500→0

 

 

「お嬢ちゃん。俺と決闘してくれないか?」

 

「……」

 

 

 

 




お疲れ~。

実際、『遊戯王 ジェネックス』で検索したら、『ジェネクス』しか出てこないんだよなぁ……

あと、梓のドカ食いシーン書いてて、なんでか嬉しくなったわ……

まあそんな感じで、決闘は次話で書くから、それまで待ってて。

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