今回はね、みんな大好き、あのキャラが出るでよ~。
それなりに白熱させた結果だいぶ長くなっちまったけど……
それでもいい? そんじゃ行こ~。
行ってらっしゃい。
視点:外
ジェネックス二日目。
一日目で実力の低い決闘者は早々に脱落していき、更には外部からの参加者の到着も増えたことで、大会はより激しさを増していった。
「いけー! 『E・HERO ネオス』!」
「ぐああああああああああ!!」
「『ブラック・マジシャン』で攻撃!」
「ま、敗けた……!」
「やれ! アームド・ドラゴン!」
「あああああああああああ!!」
「な、なんだ……!? 俺は、攻撃を、確かに!」
「無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄」
「ぐうぅ……!」
「エイイッ 貧弱 貧弱ゥ!!」
そんな、各地で激闘が繰り広げられている中で、静かな時を過ごす者もいる……
「あつく~ にえたぎる なべ~ それは~ おれの こころ~お~ ふたつ~の いくら それは きみと おれさ まわる まわる」
「あら、絵描き歌ね」
「おわあああああああああああああ!!」
木にもたれ掛けながら、拾った枝で地面に絵を書いていたあずさに、そんな優しい声が掛けられた。
あずさは派手に飛び上がり、声を掛けた張本人は、楽しそうに笑っていた。
「ほほほ……可愛らしい声が聞こえてきたから、どんな子がいるのかと思ったら……」
「あ、あははは……」
朗らかな笑顔のまま会話をしてくる、そんな相手に、あずさは思った。
(うわぁ……綺麗なお婆ちゃんだなぁ……)
帽子の下の、ショートボブの白髪に、眼鏡を掛けたその顔には、重ねた年齢を示す、深い皺が刻まれている。
だが、そんな皺も含めて整った顔立ちは、老齢を感じさせない美貌を備え、いつまでもその顔を見ていられる魅力がある。
そんな、車椅子に乗った老婆は、あずさが見惚れていることも気にせず、地面を見ていた。
「それにしても、たくさん描いたわね」
地面に描かれた、いくつもの顔を見ながら、老婆は感心しているような、呆れているような、そんな声を上げた。
「今は確か、決闘の大会が行われているのではなかった?」
「あ、あはは……」
あずさは頭に手をやりながら、恥じらいつつ笑っていた。
「決闘したいんだけど、こう見えてわたし、生徒の間じゃ強い方だから、前を歩いてたらみんな逃げちゃうんだよね。それに、みんなからは嫌われちゃってるし……」
決闘ができないのでは仕方がないと、森の中に入り、座りながら、過去に梓に教えてもらった絵描き歌で十七人目の顔を描いたところで、目の前の老婆に驚かされた、というわけだった。
(……ていうか、誰だろ、このお婆ちゃん。外部の人……?)
そう、あずさが疑問を感じていると、老婆は表情を曇らせた。
「あらあら……強い子と決闘ができるのに逃げられてるの。それじゃあ、この学校の決闘者の実力は、あまり高くないみたいね」
「お婆ちゃん、決闘知ってるの?」
意外な言葉に、あずさは驚きながら声を上げた。
「あまり年寄り扱いするんじゃないよ。孫たちは決闘モンスターズが大好きでね。たまに相手してあげてるのよ」
「へぇー」
「子供っていうのは上達するのが早くてねぇ。その子のレベルに合わせて決闘してあげないと、拗ねたり怒ったり泣いたり……」
「ありゃー、大変なんだねぇ……」
「けど、みんなが逃げるくらい強い子なら、そんな気遣いは必要なさそうね」
と、突然、老婆の目が変わった。
と同時に、乗っていた車椅子の手摺りが変形し、そこから、あずさもよく知る形の板が現れた。
「え……え? え?」
あずさが目をパチクリさせている間に、老婆は懐から、銀色に光る、メダルを取り出した。
「改めまして、『ミセス・マイコ・カトウ』よ」
「お婆ちゃん、ジェネックスの参加者だったのー!?」
「あら、変かしらねぇ?」
「……」
「全然変じゃないよ! やろうやろう!」
満面の笑顔で声を上げながら、あずさも決闘ディスクを構えた。
『決闘!!』
ミセス・マイコ
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
あずさ
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「私の先行ね。ドロー」
ミセス・マイコ
手札:5→6
「そうね……まずはこのモンスターを召喚するわ。恵みの獣『極星獣タングリスニ』」
『極星獣タングリスニ』
レベル3
攻撃力1200
「カードを三枚伏せて、ターンを終了するわね」
ミセス・マイコ
LP:4000
手札:2枚
場 :モンスター
『極星獣タングリスニ』攻撃力1200
魔法・罠
セット
セット
セット
「わたしのターン。ドロー」
あずさ
手札:5→6
「永続魔法、『六武の門』、『紫炎の道場』発動。そして、『六武衆の影武者』を守備表示。この時、二枚の永続魔法にそれぞれ武士道カウンターが乗る」
『六武衆の影武者』チューナー
レベル2
守備力1800
『六武の門』
武士道カウンター:0→2
『紫炎の道場』
武士道カウンター:0→1
「もう一枚。場に六武衆がいることで、『六武衆の師範』を特殊召喚」
『六武衆の師範』
レベル5
攻撃力2100
『六武の門』
武士道カウンター:2→4
『紫炎の道場』
武士道カウンター:1→2
「門から武士道カウンターを四つ取り除いて、効果発動。デッキから六武衆一枚を手札に加えられる。わたしはこの効果で……」
「はい、伏せカードオープン。速攻魔法『サイクロン』で、『六武の門』を破壊するわ」
「えぇ……!?」
武士道カウンターを取り除こうとしたタイミングで、建立していた門は発生したつむじ風に消えていった。
「うぅ……」
六武衆デッキの要の一枚をあっさり破壊され、つい顔をしかめてしまう。
その様子を見てか、ミセス・マイコは相変わらず楽しそうに笑っていた。
「……仕方ない。予定は狂っちゃったけどこのままバトル! 『六武衆の師範』で、『極星獣タングリスニ』を攻撃! 壮鎧の剣勢!」
師範が刀を構え、白色のヤギに向かう。
「それなら、罠カード『極星宝ブリージンガ・メン』。私の場のタングリスニと、あなたの『六武衆の師範』を選んで発動。タングリスニの攻撃力はこのターン、師範の元々の攻撃力と同じになるわ」
「えぇ!?」
カードが発動された瞬間、白ヤギの頭上に、緑色の宝石の、怪しく輝く首飾りが現れる。
そこから妖しい影が発生した時、向かってきた師範と同じ形となった。
そして、同じ攻撃力がぶつかり合い、互いに消滅した。
「師範が……!」
「そしてこの瞬間、戦闘破壊されたタングリスニの効果。二体の『極星獣トークン』を特殊召喚するわ」
直前に破壊された、艶やかな体毛に覆われたふくよかな白ヤギとは対照的に、毛色も血色も相当に悪い、ガリガリに痩せ細った灰色のヤギが二体、そこに立った。
『極星獣トークン』
レベル3
守備力0
『極星獣トークン』
レベル3
守備力0
「トークンが二体……!」
「まだよ。私のモンスターが戦闘破壊されて墓地へ送られたこの瞬間、手札の『極星獣タングニョースト』を特殊召喚するわ」
『極星獣タングニョースト』
レベル3
守備力1100
「またモンスターが……! わたしはこれでターンエンド」
あずさ
LP:4000
手札:2枚
場 :モンスター
『六武衆の影武者』守備力1800
魔法・罠
永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:2
ミセス・マイコ
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『極星獣タングニョースト』守備力1100
『極星獣トークン』守備力0
『極星獣トークン』守備力0
魔法・罠
セット
「私のターン、ドロー」
ミセス・マイコ
手札:1→2
「……どうやら展開が得意みたいね。けど、展開ならこちらも負けないのよ。『極星獣タングニョースト』を攻撃表示に変更」
『極星獣タングニョースト』
攻撃力800
「守備表示のタングニョーストが攻撃表示に変更されたことで、デッキからタングニョースト以外の極星獣一体を特殊召喚できる。私は二体目のタングリスニを特殊召喚」
タングリスニをそのまま黒くしたようなヤギが、上下合わせた歯を擦り合わせ、音を鳴らす。その音に導かれるように、再び白ヤギがフィールドに立った。
『極星獣タングリスニ』
レベル3
攻撃力1200
「そして、『極星將テュール』を通常召喚」
これまで召喚してきた獣とは打って変わった、右腕の隠れた美形の剣士が、青色のマントをなびかせフィールドに現れた。
『極星將テュール』
レベル4
攻撃力2000
「レベル4で、攻撃力2000!?」
「場にこのカード以外の極星モンスターが存在しなければ、このカードは破壊される。ただし、テュールが場に存在する限り、あなたはテュール以外の極星モンスターを攻撃対象にはできないわ」
「うぅ……」
「永続魔法『ポイズン・ファング』を発動。さあ、バトルよ。まずは『極星蔣テュール』で、『六武衆の影武者』を攻撃」
マントをなびかせ、左手に持った剣を振うことで、手に持つ槍ごと影武者を切り裂いた。
「そして、タングリスニ、タングニョーストでダイレクトアタック」
白黒のヤギが同時にあずさに向かい、その硬い頭をぶつけた。
「ぐぅ……!」
あずさ
LP:4000→2000
「そしてこの瞬間、『ポイズン・ファング』の効果が発動。獣族モンスターが相手に戦闘ダメージを与える度、相手ライフに500ポイントのダメージを与えるわ。二体分、1000ポイントのダメージよ」
「えぇ……! うぅ……」
説明を終えたと同時に、あずさの身を毒々しい紫色が包み込み、ライフポイントを奪う。
あずさ
LP:2000→1000
「ほほほ……私はこれでターンを終了するわ」
ミセス・マイコ
LP:4000
手札:0枚
場 :モンスター
『極星蔣テュール』攻撃力2000
『極星獣タングリスニ』攻撃力1200
『極星獣タングニョースト』攻撃力800
『極星獣トークン』守備力0
『極星獣トークン』守備力0
魔法・罠
永続魔法『ポイズン・ファング』
セット
あずさ
LP:1000
手札:2枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:2
「この大会で優勝したら、孫たちにどんなお土産を買ってあげようかしらね」
「……まだまだ、わたしのターン!」
あずさ
手札:2→3
「……魔法カード『増援』。この効果でデッキから、『真六武衆-キザン』を手札に加える。永続魔法『六武衆の結束』を発動。更に『六武衆-ザンジ』召喚」
『六武衆-ザンジ』
レベル4
攻撃力1800
『紫炎の道場』
武士道カウンター:2→3
『六武衆の結束』
武士道カウンター:0→1
「そして、場に六武衆がいることで、『真六武衆-キザン』特殊召喚」
『真六武衆-キザン』
レベル4
攻撃力1800
『紫炎の道場』
武士道カウンター:3→4
『六武衆の結束』
武士道カウンター:1→2
「更にわたしは……」
「ここで永続罠『サモンリミッター』を発動するわね」
「……え?」
新たに発動されたカード。その瞬間、あずさの空いているモンスターゾーン全てに、円形の魔法陣と、それに被せる形で六角錐型の光が発生した。
「え……どういうこと?」
「このカードが場に存在する限り、お互いのターンに行える全ての召喚は二回までになるの」
「二回まで!? じゃあ……」
「ザンジとキザン、二回の召喚を行っているあなたは、このターン、これ以上の召喚は不可能ということね」
「……結束の効果。このカードを墓地へ送って、武士道カウンターの数、カードをドロー」
あずさ
手札:0→2
「……バトル。『六武衆-ザンジ』で、『極星蔣テュール』を攻撃! 照刃閃!」
「あら……攻撃力はテュールの方が上よ」
ザンジが光の薙刀を振う。しかしそれを、テュールはあっさりと受け止めてしまった。
「このダメージ計算時、手札から『紫炎の寄子』を捨てて、効果発動。このターン、ザンジは戦闘では破壊されない」
あずさ
手札:2→1
「けどダメージは受けるわね……」
テュールが反撃した瞬間、飛び出した足軽姿の小猿が盾となり、代わりに攻撃を受けた。
あずさ
LP:1000→800
「……この瞬間、ザンジの効果発動。自分の場にザンジ以外の六武衆がいる時、このカードと戦闘したモンスターをダメージ計算後に破壊する」
「あら……」
ザンジがテュールから下がった時、既にテュールの胸を薙刀が貫いていた。
そして、テュールの消滅と共に、薙刀はザンジの手元へ戻ってきた。
「これで安心して攻撃できる。キザンでタングニョーストを攻撃! 漆鎧の剣勢!」
キザンが刀を振るい、歯ぎしりする黒ヤギは真っ二つに切り裂かれた。
ミセス・マイコ
LP:4000→3000
「カードを一枚伏せて、ターンエンド」
あずさ
LP:800
手札:0枚
場 :モンスター
『真六武衆-キザン』攻撃力1800
『六武衆-ザンジ』攻撃力1800
魔法・罠
永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:4
セット
ミセス・マイコ
LP:3000
手札:0枚
場 :モンスター
『極星獣タングリスニ』攻撃力1200
『極星獣トークン』守備力0
『極星獣トークン』守備力0
魔法・罠
永続魔法『ポイズン・ファング』
永続罠『サモンリミッター』
「ほほほほ……みんなが逃げ出すくらい強い理由がよく分かったわ」
「え?」
「展開だけじゃない。ライフを一気に削られて、得意の展開を封じられても、諦めず柔軟に、その時の最良のプレイをする。咄嗟に戦術を切り替えられる機転や判断力と言い、とても厳しい闘いを勝ち抜いてきたんでしょうね」
「いやぁ、まあ……」
「それだけ強いあなたに、私も本気で勝ちたくなったわ。私のターン」
ミセス・マイコ
手札:0→1
「装備魔法『極星宝ドラウプニル』をタングリスニに装備。極星モンスターの攻撃力を800ポイントアップ」
新たにカードが発動された瞬間、白ヤギの両前脚に、赤色の具足が装備された。
『極星獣タングリスニ』
攻撃力1200+800
「バトルよ。タングリスニで、『六武衆-ザンジ』を攻撃!」
タングリスニが突進し、ザンジは咄嗟に薙刀を構えた物の、攻撃を受け切れず破壊されてしまった。
あずさ
LP:800→600
「ザンジの効果は自分から攻撃してきた時のみ発動する効果。タングリスニは破壊されない。そしてこの瞬間、『ポイズン・ファング』の効果で500ポイントのダメージよ」
「ぐうぅ……」
あずさ
LP:600→100
「私はこれでターンエンドよ」
ミセス・マイコ
LP:3000
手札:0枚
場 :モンスター
『極星獣タングリスニ』攻撃力1200+800
『極星獣トークン』守備力0
『極星獣トークン』守備力0
魔法・罠
永続魔法『ポイズン・ファング』
永続罠『サモンリミッター』
装備魔法『極星宝ドラウプニル』
あずさ
LP:100
手札:0枚
場 :モンスター
『真六武衆-キザン』攻撃力1800
魔法・罠
永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:4
セット
「さあ、これで終わりかしら?」
「まさか。ライフが100も残ってれば十分です。カードが引けるなら、逆転だってできます」
「ええ。見せてちょうだい。あなたの全力を」
「わたしのターン!」
あずさ
手札:0→1
「……逆転の手は揃いました」
「……」
「罠発動『諸刃の活人剣術』。墓地の六武衆二体を特殊召喚できる。『六武衆-ザンジ』、『六武衆の師範』を特殊召喚。この時、キザンは自身の効果で300ポイント攻撃力を上げます」
『六武衆-ザンジ』
レベル4
攻撃力1800
『六武衆の師範』
レベル5
攻撃力2100
『真六武衆-キザン』
攻撃力1800+300
『紫炎の道場』
武士道カウンター:4→5
「この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターンの終了時に破壊されて、わたしはその攻撃力分のダメージを受けます」
「あら、大変。ならこのターンに、二体の極星獣トークンと、戦闘破壊されたらまた極星獣トークンを呼び出すタングリスニをどうにかしてわたしを倒さないといけないわね……」
「ええ。そうします」
そしてあずさは、最後の手札のカードを使った。
「魔法カード発動! 『六武式三段衝』! 自分の場に六武衆が三体以上いる時、三つある効果のうちの一つを発動できる。わたしは一つ目の効果を使って、あなたの場のモンスター全部を破壊します!」
「なんと……!」
その凄まじい効果に、ここまで平静を保っていたミセス・マイコもさすがに目を見開いた。
三人の六武衆が刀を合わせる。
次の瞬間、三人が同時に刀を振るった。そこから飛んできた斬撃が、彼女のフィールドに並ぶ獣達を一掃してしまった。
「タングリスニの効果は戦闘破壊時だけ。これは効果破壊だから、トークンは生まれません」
「……」
そしてその直後、三人の六武衆達は、ミセス・マイコの目の前に立っていた。
「あなたと決闘できて、よかった」
「……ええ。私も、楽しかったわ」
「三人の六武衆達で、ダイレクトアタックです」
「……」
優しい瞳を向ける、か弱くも強い老婆。三人の武将達は、振り上げた自らの刀の峰を、彼女に優しく振り下ろした。
ミセス・マイコ
LP:3000→0
メダルを受け取りながら、あずさは歓喜の笑みを浮かべていた。
メダルを渡すミセス・マイコも、満足げな笑みを浮かべていた。
「孫たちに良い土産話ができたわ」
「そうですか」
そして、そのあと二言三言の会話をして、マイコはあずさの前から去っていった。
(それにしても、あの娘の使ったカード……と言うより、デッキそのものがそうね。私のデッキと似たような力を感じたわ。死んだ夫が言ってた、一族に古くから伝わる、神の伝説に関係があるのかしら? お友達のセバスチャンに聞けば何か分かるかもしれないわね……)
(まあいいわ。せっかく日本に来たんだもの。孫たちに美味しいお土産を買って帰らなくちゃ。もうすぐ一歳になるドラガンには何がいいかしらね……)
ミセス・マイコが立ち去った直後のこと……
「……あれ?」
……
…………
………………
「じゆうを もとめて な~べのっ なっか~ しおとこしょうで レツゴー せいしゅん おれのきもちが ま・う・ぜ~」
ガチャリ
「オオーウ……ッ」
一本の木にもたれ掛けながら、星華は梓から教えてもらった絵描き歌で遊んでいた。
しかしその途中、銃を取り出し、それを自身の真後ろへ向ける。
そこに立っていた青年は、驚きの声を上げつつ両手を上げていた。
「何の用だ? レイプが目的ならこのまま引き金を引く」
「こらこら、そのセリフは18禁だよ。とにかくそんな物騒なのしまって。神に誓って触ったりしないから……」
「……」
「僕は『ピート・コパーマイン』。ジェネックスの参加者だよ」
「……」
目の前に立つ、黒髪に黒のタンクトップ、目の下を黒く、まぶたを青白くメイクしている。胸元には、首に掛かった金色の十字架が輝いている。そんな、両手を上げている青年を怪訝に思いながらも、銃を下げた。
「やれやれ……日本じゃそんなの見ることないと油断してたよ。どう見たって本物だし」
「……で? 足音も立てず近づいて、お前は私をどうする気だった?」
「どうもこうも……対戦相手はいないかと歩いてて、可愛い歌声が聞こえてきたから、ちょっと脅かそうかと思ったんだよ。いやぁ~、人を驚かすのが大好きでねぇ」
「……それでそのメイクか?」
「そうだよー。暗い部屋で見たら卒倒ものでしょー? ニャハハハハハ……」
笑いながら、彼は決闘ディスクを取り出し、デッキをセットしていた。
「お兄さんと決闘しない? それとももう誰かと決闘したからしたくない?」
「まさか……私もいい加減、三十二人も同じ顔を描き続けて飽きていたところだ」
「描き過ぎでしょう……」
『決闘!!』
星華
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
ピート・コパーマイン
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「私の先行、ドロー」
星華
手札:5→6
「私は『A・ジェネクス・チェンジャー』を守備表示」
『A・ジェネクス・チェンジャー』
レベル3
守備力1800
「カードを二枚伏せる。これでターンを終了だ」
星華
LP:4000
手札:3枚
場 :モンスター
『A・ジェネクス・チェンジャー』守備力1800
魔法・罠
セット
セット
「ふむふむ……僕のターン」
ピート・コパーマイン
手札:5→6
「……よし。まずは下準備だ。カードをセット。魔法カード『手札抹殺』。この効果でお互いの手札を全て捨てて、捨てた枚数ドローする」
「……いきなり四枚の手札を捨てるとはな。下準備と言いつつ、ただの手札事故ではないのか?」
「それは後のお楽しみ」
「……」
話している間に、星華は三枚、ピートは四枚の手札を総入れ替えした。
「続いてこのカード『沈黙のサイコウィザード』を召喚」
『沈黙のサイコウィザード』
レベル4
攻撃力1900
「そのカード……『サイキック族』?」
「そう。日本じゃまだ知られてないかな。アメリカで最近出たばっかのカードだから」
「そのくらいなら知っているさ。これでも決闘の情報には敏感な方でな。発売して早々制作者がスキャンダルを起こして、それによる権利関係やら商標登録やらのごたごたのせいで、日本を始め、アメリカ以外の国々で発売されるのは、五年先か六年先か、いずれにせよ見通しがまるで立っていないらしいな」
「……そこまでは僕も知らなかったよ……『沈黙のサイコウィザード』には召喚に成功した時に発動する効果がある。墓地からサイキック族モンスター一体を除外できる。僕はこの効果で、そうだな……よし。『サイコ・エンペラー』を除外しよう」
効果の説明をし、その処理として、墓地から取り出したモンスターカードをポケットにしまった。
「バトル。『沈黙のサイコウィザード』で、『A・ジェネクス・チェンジャー』を攻撃。サイレント・テレキネシス」
マントをなびかせる騎士風なサイキッカーが、手元の杖を星華に向ける。
そして、それを星華は良しとしなかった。
「罠発動『
サイコウィザードの杖から飛び出したエネルギーが、フィールドの筒に入っていく。
やがて、もう一つある、ピートの方へ向いている筒の口が光り、そこからサイコウィザードのエネルギーが吐き出された。
「ぐぅ……!」
ピート・コパーマイン
LP:4000→2100
「くぅ、やるねぇ……速攻魔法『神秘の中華なべ』。この効果でサイコウィザードを墓地へ送って、攻撃力分のライフを回復するよ」
ピート・コパーマイン
LP:2100→4000
「瞬時にライフを取り戻したか……だが、そのためにお前のフィールドはがら空きになったぞ」
「ならないよ。『沈黙のサイコウィザード』は墓地へ送られた時、このカードの効果で除外されたサイキック族モンスターを呼び出す効果があるんだ」
「なに? ということは……」
「そういうこと。僕はこの効果で、さっき除外した『サイコ・エンペラー』を特殊召喚」
まるで、悟りきったような厳かな佇まいで、板状の何かに腰を下ろす、緑色の肌の仙人がフィールドに降り立った。
『サイコ・エンペラー』
レベル6
攻撃力2400
「レベル6……」
「『サイコ・エンペラー』が召喚、特殊召喚に成功した時、自分の墓地にいるサイキック族モンスターの数×500のライフを回復できる。今、僕の墓地のサイキック族は四体。よって、2000のライフを回復するよ」
ピート・コパーマイン
LP:4000→6000
「しかもこれはバトルフェイズ中の特殊召喚だから、まだ攻撃ができる。『サイコ・エンペラー』で、『A・ジェネクス・チェンジャー』に攻撃」
「ちぃ……!」
二度目を防ぐ手段はなく、緑色の人型機械は破壊された。
「ターンエンド」
ピート・コパーマイン
LP:6000
手札:2枚
場 :モンスター
『サイコ・エンペラー』攻撃力2400
魔法・罠
セット
星華
LP:4000
手札:3枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
「く……私のターン」
星華
手札:3→4
「……『A・O・J コアデストロイ』を召喚」
『A・O・J コアデストロイ』
レベル3
攻撃力1200
「バトルだ。『A・O・J コアデストロイ』で、『サイコ・エンペラー』を攻撃」
「……へ?」
彼の間抜けな声が響く中、小さな機械は進んでいった。
そして、その顔に当たる部分にある、丸穴が光り、そこから光線が飛ぶ。それは、緑色の老人の眉間を正確に撃ち抜いた。
「……へ? なに? どういうこと?」
「コアデストロイの効果だ。こいつは光属性モンスターと戦闘を行う場合、相手モンスターはダメージ計算を行わず破壊される」
「うそぉ……!」
自身の上級モンスターをあっさり処理されて、分かり易く気を落としていた。
「驚くのはまだ早い。永続罠『リビングデッドの呼び声』。こいつで墓地の『マシンナーズ・メガフォーム』を特殊召喚する」
『マシンナーズ・メガフォーム』
レベル8
攻撃力2600
「おうふっ……そんなの墓地に落ちてたの?」
「貴様が最初に発動した『手札抹殺』のおかげでな。感謝するぞ」
「おおー、神よー、あなたはこれほどの試練を私に与えたもうか……」
「決闘中に神に祈ってどうする? バトルだ。『マシンナーズ・メガフォーム』でダイレクトアタック」
胸の十字架を握るピートに向けて、メガフォームは肩の大砲を構えた。
「うわぁあぁあぁあぁ! 永続罠『リビングデッドの呼び声』!」
「って貴様もか!?」
『静寂のサイコウィッチ』
レベル3
攻撃力1400
「く……なにを呼んだか知らんが、攻撃するしかあるまい。『マシンナーズ・メガフォーム』、『静寂のサイコウィッチ』を攻撃だ!」
水色を基本とした、ゴツイ人型機械が、墓地から蘇生された桃色の少女を破壊する。
ピート・コパーマイン
LP:6000→4800
「うぅ……『静寂のサイコウィッチ』の効果。この子が破壊されて墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力2000以下のサイキック族モンスターを除外できる。僕はデッキから、『寡黙なるサイコプリースト』を除外」
「また面倒な予感がするな……ここでメガフォームの効果。こいつを生贄に捧げ、手札、デッキからメガフォームを除く『マシンナーズ』を特殊召喚できる。この効果で、私のエースを召喚しよう。『マシンナーズ・フォートレス』!」
巨大でゴツイメガフォームの、下半身の足が胴体に納められる。代わりに、肩のキャタピラが地に着いた。
『マシンナーズ・フォートレス』
レベル7
攻撃力2500
「永続魔法『
星華
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『マシンナーズ・フォートレス』攻撃力2500
『A・O・J コアデストロイ』攻撃力1200
魔法・罠
永続魔法『機甲部隊の最前線』
永続罠『リビングデッドの呼び声』
セット
ピート・コパーマイン
LP:4800
手札:2枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「ちなみにコアデストロイの効果は、相手から攻撃された場合も発動する。サイキック族の光属性の比率はどうかまでは知らんが、攻撃するなら気を付けることだ」
「……僕のターン!」
ピート・コパーマイン
手札:2→3
「そしてこのスタンバイフェイズ、『静寂のサイコウィッチ』の効果で除外された『寡黙なるサイコプリースト』を特殊召喚」
いくつもの球体や、コードの装飾が散りばめられた、白服の司祭がフィールドに現れる。
『寡黙なるサイコプリースト』
レベル3
守備力2100
「『強欲な壺』発動。カードを二枚ドロー」
ピート・コパーマイン
手札:2→4
「……『寡黙なるサイコプリースト』の効果。一ターンに一度、手札を一枚墓地へ送って、墓地のサイキック族モンスター一体を除外できる。僕はこの効果で、もう一度『サイコ・エンペラー』を除外する」
ピート・コパーマイン
手札:4→3
「神に感謝します……『寡黙なるサイコプリースト』を生贄に、『マックス・テレポーター』を召喚!」
彼がカードをセットする。そこに、緑のバイザーに白のコートをはためかせる青年が立った。
『マックス・テレポーター』
レベル6
攻撃力2100
「『寡黙なるサイコプリースト』が墓地へ送られたことで、除外された『サイコ・エンペラー』が再び特殊召喚される」
『サイコ・エンペラー』
レベル6
攻撃力2400
再び、緑色の仙人が現れる。そしてまた、墓地が光り輝いた。
「今僕の墓地にあるサイキック族モンスターは、五体。一体につき500ポイント、2500ポイントのライフを回復するよ」
ピート・コパーマイン
LP:4800→7300
「また一気にライフの回復! いくら削ってもキリが無いな……」
「まだまだだよー。『マックス・テレポーター』の効果。このカードは特殊召喚できないけど、代わりにライフを2000支払うことで、一度だけデッキからレベル3のサイキック族モンスターを二体、特殊召喚できる」
「二体だと!?」
「僕はこの効果で、デッキから『異怪の妖精 エルフォビア』、『エレキック・ファイター』の二体を特殊召喚」
ピート・コパーマイン
LP:7300→5300
白コートの青年の両手の平が、緑色に輝く。
その時、彼のフィールドに、新たにモンスターが降り立つ。
長い白髪を揺らす黒服の妖精と、全身から電気を放つ白い皮膚の筋肉質な男と言う、かなり対照的な二人だった。
『異怪の妖精 エルフォビア』
レベル3
攻撃力900
『エレキック・ファイター』
レベル3
攻撃力1500
「特殊召喚された『エレキック・ファイター』の効果。彼が召喚、特殊召喚に成功した時、相手の墓地のカードを一枚選んで、デッキの一番上か下に戻す」
「く……」
「君の墓地から、『A・ジェネクス・チェンジャー』をデッキの一番上に置いてもらうよ」
「……」
苦々しげな顔を見せながら、星華は指定されたカードをデッキの上に置いた。
「そして、『異怪の妖精 エルフォビア』の効果。この子は手札の風属性モンスター一体を見せることで、次の相手ターンのメインフェイズ1の終了時まで、僕らはそのモンスターよりレベルの高いモンスターの効果を発動できない。僕は手札にある、風属性、レベル2の『ライフ・コーディネイター』を見せる。これで僕らは、次のキミのターンのメインフェイズ1終了時まで、レベル3以上のモンスター効果を使えなくなるからね」
「エグイ真似を……」
「エグイのはこれからだよ。装備魔法『サイコ・ブレイド』を『マックス・テレポーター』に装備!」
白コートの青年の右手に、青白く輝く剣が握られた。
「このカードは、最大2000ポイントのライフを支払うことで、支払った数値分装備モンスターの攻撃力をアップさせる」
「そんなカードが……」
「この効果で、そうだな……よし。900ポイント支払おう」
「えらく半端な数値だな」
ピート・コパーマイン
LP:5300→4400
『マックス・テレポーター』
攻撃力2100+900
「攻撃力の数値は綺麗さ。バトル! 『マックス・テレポーター』で、『マシンナーズ・フォートレス』を攻撃!」
(く……『マシンナーズ・フォートレス』には、戦闘破壊された瞬間相手フィールドのカード一枚を破壊できる効果がある。だが、『異怪の妖精 エルフォビア』の効果で、レベル3以上のモンスター効果の発動は封じられている……)
星華が思考する中、『マックス・テレポーター』の振るった『サイコ・ブレイド』が、星華の場の巨大要塞を一刀両断にした。
「ぐあああああああ!!」
星華
LP:4000→3500
「……なんだ、今のは……この瞬間、『機甲部隊の最前線』の効果! 一ターンに一度、機械族モンスターが戦闘によって破壊された時、破壊されたモンスターより攻撃力の低い、同じ属性のモンスターをデッキから特殊召喚できる。『マシンナーズ・フォートレス』は地属性。デッキから、地属性の『アーミー・ジェネクス』を特殊召喚」
『アーミー・ジェネクス』
レベル6
攻撃力2300
「上級モンスターを呼ばれちゃったか。おまけにデッキをシャッフルしたから、ロックのつもりで使った『エレキック・ファイター』の効果まで無意味になっちゃった……『サイコ・エンペラー』で、『アーミー・ジェネクス』を攻撃!」
緑色の仙人が印を結ぶ。その瞬間、彼の総身からあふれ出たエネルギーが、緑色の機械巨人を粉砕した。
「うおおおお……!」
星華
LP:3500→3400
「また……まさか、これは……」
「まだだよ。『エレキック・ファイター』で、『A・O・J コアデストロイ』を攻撃!」
白い肌の男が、白の機械へ向けて電撃を放った。それを受けたコアデストロイは、自身の効果の発動もできず、黒こげになり砕ける。
「ぐぅぅ……!」
星華
LP:3400→3100
「最後だよ! 『異怪の妖精 エルフォビア』で、君にダイレクトアタック!」
命を受けた黒衣の妖精が、星華に向かって飛んでいく。
彼女は手に持った杖を振り、星華の腹部に当てた。
「かは……っ!!」
星華
LP:3100→2200
「え……ちょ、君、大丈夫!?」
エルフォビアの攻撃を受けた途端、星華は打たれた腹を押さえ、その場にひざを着いた。
「これは……現実のダメージ……!」
「ウソだ! ああ、また、また僕が、ああ……!」
ピートは声を上げながら、酷く狼狽していた。
そんな彼の様子に、星華は自身の経験したものとは違うことを悟った。
「どうした?」
「違うんだよ……僕自身どうしてか分からないんだよ。気が付いたら、決闘してる相手の人を、本当にケガさせちゃうようになっちゃって。今までも、何度も対戦相手に大けがさせちゃって……今まではどうにか押さえてたのに、興奮したら今でも出ちゃうみたいで……!」
終始陽気で楽しそうな顔をしていたのがウソのように、メイクをしたその顔には、狼狽と焦躁、そして恐怖が宿っていた。
今まで、多くの辛い経験をしてきたに違いない。
再び胸の十字架を握り、天を仰ぎながら叫んでいた。
「神よ! あなたはなぜ、私にこんな力を与えたのですか!? 私はただ、決闘がしたかっただけなのに!! それほど罪深い行いを犯したというのですか!?」
決闘をしたい。そう願うだけで罪になる。
そんな話を、星華は恋人から聞いたことがあったばかりだった。
「……ごめんよ。本当、悪気は無かったんだ。けど、こんなことになっちゃったら、もう、決闘なんて……」
陽気さが消えたまま、彼は、自らのデッキの上に、手を添えようと……
「そこまでだ!!」
いきなりの絶叫に、思わず手が止まる。目の前を見ると、星華は立ち上がり、ピートを睨み据えていた。
「まだ、決闘は終わっていない。劣勢だというならともかく、今のお前は圧倒的に有利なはずだろう。そんな状態で、サレンダーなど冗談ではない……」
「そんな……でも、君は……」
「これでも痛みには慣れている。たかが900の直接ダメージなど、どうということはない……決闘はまだ終わっていない! 続けるぞ!」
「けど、またダメージを受けたら……」
「ならば、ダメージを受けることなく、次のターンで貴様を倒せばいいだけのことだ」
「次のターンで……無理だよ、そんなこと。僕の場には、攻撃力3000の『マックス・テレポーター』を含めた四体のモンスターが並んでるんだよ。それに、僕のライフは積もり積もって4400だ。しかも、エルフォビアの効果でレベル3以上のモンスター効果も封じられてるこの状況で、勝てるわけ……!」
「今の状況などどうでも良い! カードを引いた瞬間、それだけで可能性が広がる。それが決闘だ。まだ、諦める時ではない! もっとも、私は最後まで諦めはせんがな」
「……どうして? 痛い目に遭ったのに、どうしてそこまで、真っ直ぐ勝利を目指せるの?」
「どうして、か……決闘者なら、そんな疑問を持つこと自体ナンセンスだとは思うが……」
「……」
「だが、それでも敢えて答えるとしたら、その理由は一つ」
右手の人差し指を立て、天高く掲げる。そして、天を指差しながら、宣言した。
「私が、決闘アカデミアの女帝、小日向星華だからだ!」
「……」
雄々しくも美しく、華麗ながら誇り高い。そんな彼女の姿に、ピートは一瞬、目を奪われる。
「さあ! 続けろ!」
叫びながら、星華は再び、腰の銃を抜いた。
「……!」
「もし手加減を感じたら、その瞬間引き金を引く。無論、私が仕留めきれずターンを終え、勝てるにも関わらずサレンダーしたとしてもだ。貴様の全力を、私は必ず超えて見せよう」
「……」
目を閉じ、迷った。
決闘を続けるべきか。彼女を傷つけないために、殺されてでもサレンダーするべきじゃないのか。
そんな簡単な解決策がいくつもある。それでも……
「……分かったよ」
それでも、彼女の言葉を、ピートは信じたくなった。
「僕はこれでターンエンド。『マックス・テレポーター』の攻撃力は元に戻る」
ピート・コパーマイン
LP:4400
手札:1枚
場 :モンスター
『マックス・テレポーター』攻撃力2100+900
『サイコ・エンペラー』攻撃力2400
『エレキック・ファイター』攻撃力1500
『異怪の妖精 エルフォビア』攻撃力900
魔法・罠
装備魔法『サイコ・ブレイド』
星華
LP:2200
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『機甲部隊の最前線』
永続罠『リビングデッドの呼び声』
セット
「私のターン、ドロー!」
星華
手札:1→2
「永続罠『リミット・リバース』! 墓地に眠る攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚する。私は墓地から『A・ジェネクス・ソリッド』を特殊召喚」
『A・ジェネクス・ソリッド』
レベル2
攻撃力500
「魔法カード『機械複製術』。自分の場の攻撃力500以下の機械族を選び、同名モンスターをデッキから二体まで特殊召喚する。更に二体の『A・ジェネクス・ソリッド』を特殊召喚」
『A・ジェネクス・ソリッド』
レベル2
攻撃力500
『A・ジェネクス・ソリッド』
レベル2
攻撃力500
「更に、魔法カード『エレメント・チェンジ』。このターン、フィールド上のモンスターは私が選択した属性となる。私は水属性を選択」
「属性なんて変えてどうするのさ……?」
「こうする。『A・ジェネクス・ソリッド』は、フィールド上の水属性のジェネクスを墓地へ送ることで、カードを二枚ドローできる。そしてこの効果は、自身を対象に選ぶことも可能だ」
「カードを二枚ドロー!? しかも、『A・ジェネクス・ソリッド』のレベルは2……」
「エルフォビアに縛られず、問題なく効果を発動できる。私は三体のソリッドを墓地へ送り、カードを六枚ドロー!」
星華
手札:0→6
「……このカードは、相手フィールドに光属性を含む二体以上のモンスターがいる時、特殊召喚できる。『A・O・J コズミック・クローザー』特殊召喚!」
『A・O・J コズミック・クローザー』
レベル8
攻撃力2400
「レベル8のモンスター!?」
「これは召喚ルール効果。エルフォビアの効果の外だ。もっとも、発動する効果でも無いから意味はないがな」
「フムフム……」
「更に、『ジェネクス・パワー・プランナー』を召喚」
『ジェネクス・パワー・プランナー』
レベル1
守備力200
「レベルは1。こいつも問題なく効果を発動できる。『ジェネクス・パワー・プランナー』の通常召喚に成功した時、デッキからレベル3の『レアル・ジェネクス』を手札に加えられる。私はこの効果で、レベル3の『レアル・ジェネクス・マグナ』を手札に加える」
星華
手札:4→5
「そして、このカードだ。魔法カード『融合』! 私は場の機械族『ジェネクス・パワー・プランナー』と、手札の炎族『レアル・ジェネクス・マグナ』を融合! 融合召喚! 炎の翼で舞い上がれ、『
二種類のジェネクスが交わり合った空間が、真っ赤に燃え上がった。
突然発生した炎は空間を裂き、その炎が中心に集まる。
そこに、凶悪な悪魔の顔が浮かび上がった。
かと思えば、その顔を中心に、炎の大翼が、流麗な尾びれが、鮮やかな鳥の頭が炎として伸びる。
それは紛れもない、不死鳥だった。
『
レベル8
攻撃力2800
「おおー……一気にレベル8のモンスターが二体……」
「バトルだ。『A・O・J コズミック・クローザー』で、『異怪の妖精 エルフォビア』を攻撃する!」
巨大な円状の扉が開かれる。そこから発生した吸引の風が、黒衣の妖精を吸い込んだ。
ピート・コパーマイン
LP:4400→2900
「そして、ボム・フェネクスで、『エレキック・ファイター』を攻撃!
不死鳥が天高く舞い上がる。その直後、妖精に向かって急降下を開始した。
その急降下を受けた妖精は、その炎に焼かれてしまった。
「うわああああああ!!」
ピート・コパーマイン
LP:2900→1600
「バトルを終了。メインフェイズだ。私は魔法カード『
星華
手札:2→4
「そして再び『融合』発動! 手札の機械族『レアル・ジェネクス・クラッシャー』と、場の炎族、ボム・ジェネクスを融合! 融合召喚! 『重爆撃禽 ボム・フェネクス』!」
『重爆撃禽 ボム・フェネクス』融合
レベル8
攻撃力2800
「二体目……え? 回収できるカードがあったなら、どうしてわざわざこのタイミングで……?」
「ボム・フェネクスには、バトルを放棄しなければ使えない効果がある。そして、メインフェイズ1は既に終了していることで、私はこいつの効果を使用できる。ボム・フェネクスは一ターンに一度、フィールド上のカード一枚につき、300ポイントのライフダメージを相手に与える」
「うそ!?」
「今、私とお前のフィールドのカードは……」
『重爆撃禽 ボム・フェネクス』
『A・O・J コズミック・クローザー』
『機甲部隊の最前線』
『リビングデッドの呼び声』
『リミット・リバース』
『マックス・テレポーター』
『サイコ・エンペラー』
『サイコ・ブレイド』
「八枚。2400ポイントのダメージを喰らえ!」
ボム・フェネクスが、その翼を広げた時、フィールド全体が火炎に包まれる。
そんな焼け野原に存在するカード達から力を吸収し、炎の翼を巨大化させた。
「
その翼をはためかせる。そこから放たれた八つの火炎弾が、ピートへと降りそそいだ。
「ギニャアアアアアアアアアアアアアアァァァァ……なんてね」
「む?」
「手札の『ライフ・コーディネイター』の効果発動!」
ピート・コパーマイン
手札:1→0
「相手がライフダメージを与える効果を発動した時、このカードを墓地へ捨てて、その効果を無効にして破壊できる!」
「なっ!?」
彼の前に、スライム状のモンスターが現れた。と同時に、それがピートの全身を包み込み、襲い来る爆風から守った。
「ダメージは防いだ。このままボム・フェネクスは破壊される。そして次のターン、コズミック・クローザーを破壊して、フィールドががら空きになった君へのダイレクトアタックで、僕の勝ちだ!」
叫んだと同時に、彼を包んでいた青緑色のスライムが、ボム・フェネクスへと向かう。
巨大な炎の不死鳥に合わせ、スライムもまた巨大化した。
「いけー!!」
巨大化し、不気味で無機質な笑みを浮かべる『ライフ・コーディネイター』が、不死鳥を包み飲み込もうと覆いかぶさった……
その瞬間だった。
「……へ?」
不死鳥を包み込んだスライムが、内側から爆発し、四散した。
そこには、変わらず雄大で流麗な炎の翼をはためかせる、巨大な不死鳥の姿があった。
「不死鳥は、何度でも天高く舞い上がる」
「……え? なに? どういうこと?」
「二体目のボム・フェネクスが破壊される直前、私は速攻魔法『瞬間融合』を発動させた。自分フィールドのモンスターを使い融合召喚を行う。場の機械族『コズミック・クローザー』と、ボム・フェネクスを素材に、三体目のボム・フェネクスの融合召喚をな」
自らの顕在を示すように、悪魔の胴体を持つ不死鳥は、広げた炎の大翼で空を覆った。
『重爆撃禽 ボム・フェネクス』融合
レベル8
攻撃力2800
「ボム・フェネクスの効果。互いのフィールドのカードは、コズミック・クローザーが消えたことで七枚。ダメージの合計は、2100ポイントだ」
その説明を受け、ボム・フェネクスは再び飛翔する。
天高く舞い上がった先で、太陽を背に、広げた大翼と雄々しき尾びれ、そして見上げる頭による、巨大な炎の十字架を形作る。
「神よ……」
ピートが呟くこと。そして……
「
ボム・フェネクスの翼から、火炎弾が降り注ぐのは、同時のことだった。
ピート・コパーマイン
LP:1600→0
「君との出会いを、神に感謝しなくちゃね」
「何の神にだ?」
「もちろん、決闘の神にさ」
話しながら、ピートはポケットから取り出したメダルを手渡した。
「あーあ。君がこんなに良い女の子だったなら、撃たれてもいいからレイプしとくんだったかなぁ……ねえ、せっかく出会えたんだし、この後どう?」
「お断りだ。仮にも私は学生だぞ。その辺りの節度はわきまえている。何より、私には既に、心に決めた男がいる。そいつは、怒らせると私の百倍はおっかないぞ」
「うへぇー、こわいこわい……じゃあ、縁があったら、また会おうね」
互いに微笑み合い、ピートは手を振りながら、星華のもとを去った。
「僕の力を見て、怖がらなかった人なんていつぶりだろう……やっぱ、決闘はすごいや。この力、これからは世のため人のために使わないとね」
満たされた心で、これからの人生に対する、新たな決意を口にした。
……そんな彼を、影から覗く者達がいた。
「……ターゲット補足。これより捕獲作戦を開始する」
『良し。決して殺すな。生け捕りにしろ』
「
彼らがそう会話した直後、ピートの周囲に、いくつもの空き缶のような金属が投げ込まれる。
そこからガスが発生し、ピートは涙を流しながら目を閉じてしまった。
その直後に現れた、黒い武装をした男達に、両手足を押さえつけられ、布で口を縛られ、運ばれていく。
その間、十秒も掛からなかった。
「ターゲット捕獲!」
『OK。そのまま基地へ運べ。そこで、じっくり調べてやる。そして我々の役に立ってもらう……兵器としてな』
「
「ンー!! ンー!!」
視界が効かない中で、そんな会話をはっきり聞き取った。
その怖ろしい内容に、ピートは暴れ出したが、
「うるせえ! 黙ってろ化け物小僧!!」
その怒声と、腹部を襲った激痛が、彼から暴れる力を奪った。
「黙って俺達の道具になってろ。化け物ども」
「……」
痛みで朦朧とした意識のせいで、何も答えられないピートに対して、男達の一人が掛けた言葉は、どこまでも暗い、醜悪な声だった。
「……」
(神よ……どうか、お救い下さい……)
……
…………
………………
その後、捕らえられたピート・コパーマインは、某国の研究施設に運び込まれ、そこで十年以上に渡り、大よそ人権を無視した、過酷な研究や実験を繰り返された。
そこには、ピート以外にも、彼と同じ力を持つ者達が大勢運ばれた。
研究者たちは、彼らを『サイコ決闘者』と呼び、その力を軍事利用するための研究を続けた。
おおよそ、常人なら簡単に壊れるであろう実験や、得体の知れない薬剤の投与、戯れで振るわれる警備や研究者たちからの暴力。女や、ピートを始め若い男達は慰み物にまでされた。
そんな仕打ちを受け続け、肉体的にも精神的にも疲弊していきながら、ピートは毎日祈り続けた。
(神よ……神よ……)
そして十数年後、彼は一瞬の隙を突き、その力を振って研究所を破壊、同時に自分達を苦しめ続けてきた研究所員たちを皆殺しにすることで、見事に脱出を果たした。
彼一人を除いた、大勢のサイコ決闘者全員の命と引き換えにして……
「……神なんかどこにもいない」
毎日、神に祈り続けた。だが、自分達に与えられたのは救いではなく、痛みと苦しみ、そして、激しい憎悪と怒り。
自慢のメイクなどとうの昔に剥がれ落ち、多くの過酷な実験や薬剤投与のせいで髪の色まで変色し、仮に今、星華と再開したとして、絶対に彼だと気付くことはない。
心も体も、全てが変わり果てた彼が求めるのは……
「壊してやる……こんな世界……」
自分を苦しめ、仲間達を殺した。
そんな仕打ちを長くその身に与え続けてきた、この世界への復讐心を燃え上がらせる。
今彼が見たいのは、かつては好きだった、自分を見て驚く人達の顔ではなく、自分が世界に復讐し、それを目の当たりにした人間達の、絶望と恐怖に染まった死に顔。
「心の深淵に燃え上がる我が憎しみの炎よ、黒き怒涛となりて、この世界を蹂躙せよ!」
研究所で奪った決闘ディスクに、一枚のカードをセットする。
現れたのは、一人の少女から託されたモンスターカードだった。
ピートと同じように無理やり攫われ、連れてこられて、意気投合した彼女と、閉じ込められながらも将来を誓い合うようになった。
そんな二人の関係を面白がった警備達によって、ピートの目の前で、ピートの反応を楽しむためだけに、毎日毎日、気が狂うまで何度も何度も弄ばれ、挙句実験の過程で命を落とした少女だった。
そんな少女から受け取った、少女が研究所員達に取り上げられぬよう隠し通してきた、一番のお気に入りだったモンスター。
『マジカル・アンドロイド』の攻撃は、研究所や研究所員全員をそうしたように、彼が今日まで身に着けてきた十字架を粉々に粉砕し、爆炎を上げさせた。
「壊してやる……どんなことをしてでも……何を犠牲にしようと……全部壊して……この僕が……」
「私が! この世界の
この瞬間、後のこの世界に混乱をもたらすことになる
……
…………
………………
「……む?」
ピートと別れた直後、星華は、空を見上げた。
「あれは……」
お疲れ~。
つ~ことで、タイトル通り、神の決闘と誕生秘話でした~。
こんな感じでね、登場キャラの何人かは使用デッキを変えていきます。
理由は、そっちのが面白そうだし、原作カードばっか出してもマンネリになると思ったからです。
決して、後書きでいちいちオリカ紹介すんのが面倒くさくなったから、なんて理由じゃあないんだからね。
そんなこんなで、次話に続きま~す。
次話まで待ってて。