遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

128 / 175
ひっさびさの後編パートだべさ~。
それ以外に、書くこたぁ無ぇや。
てなことで、行ってらっしゃい。



    襲撃の侵略者 ~継続~

視点:外

 

「……」

 

 目の前に現れた美女に、英人少年は困惑していた。

 ある日気が付いたら持っていたデッキが、自分に対していつも語り掛けていた。

 会うべき相手がいる。闘うべき相手がいる。

 それを求めて、世界中の決闘者が集まる、この大会に出場した。

 そして、デッキの声に従い、とうとう見つけ出すことができた。

 ところがどうだ。性格は最悪、態度も最悪、カードプレイまで最悪。

 こんな奴が、自分が、カード達がずっと探していた相手だったのかと思うと、自分もデッキも失望に染まって、裏切られた感覚しかなくなった。

 だから、その裏切られた腹いせに、相手の痛みや命も知らずとどめを刺そうとした。

 

 だが、その瞬間に現れた、青い着物を着た美女。

 彼女は最悪の相手を庇い、現実の攻撃を受けながらもピンピンしていた。

 

「……コウ。あなたですか?」

 

 美女は、自身に攻撃をした、巨大な『ワーム・キング』を見上げながら、語り掛けていた。

「……なにも言わずとも、今の一撃は知っている。間違いない。あなたはコウですね?」

 話しかけられた『ワーム・キング』は、普段の仮想立体映像通り、そこに立っているだけ。

 だが、語り掛けてくる少女を見ながら、何かを思っている。そんなふうにも見えた。

「……いずれにせよ、まだ決闘は途中のようですね。宝山さん」

 コウ、と呼んだ『ワーム・キング』の次に、木にもたれ掛かっていた少年に目を向ける。

「決闘はまだ、終わっていませんよ」

 そんなことを言いながら、少女は少年の手を取り、立ち上がらせた。

 

 

英人

LP:4000

手札:6枚

場 :モンスター

   『ワーム・ゼロ』攻撃力500×6

   『ワーム・キング』攻撃力2700

   『ワーム・リンクス』攻撃力300

   『ワーム・リンクス』攻撃力300

    セット

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン』:0ターン

    永続魔法『ワーム・コール』

    セット

 

五階堂

LP:100

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「……そうか……お前か……」

 

 失望に染まっていた英人少年の顔に、笑みが浮かび、歓喜の染まった声を呟く。

 それに気付かず、五階堂は、ジッと梓の顔を見るばかりだった。

「梓、さん……こ、これは……」

 冷静になった途端、すぐに今の状況を思い出した。

 決闘ディスクにセットされているのは、水瀬梓の愛用するデッキ。

 手札は今三枚だが、その三枚だけで、それが彼のデッキであると分かってしまうだろう。

 梓を怒らせることでの末路は、よく知っている。そのせいで、自分はこんな目に遭っているのだから。

 少し前に大量に辞めていったホワイト寮達も、梓を怒らせたことで退学し、全てを失ったと聞いた。

 そんな梓が、デッキを盗まれた状態で、デッキを盗んだ犯人である自分の前に立っている。

 たかが落ちこぼれを侮辱した程度であれだけ怒ったのに、今回はどんな酷い目に遭わされるか分かった物じゃない。

 デッキを捨てて、逃げるべきか……

 デッキを拾った時に感じていた衝動も綺麗に消え去り、五階堂は、ただ逃げることしか考えられなくなった。

 

「宝山さん……」

 そんな、焦燥の最高潮にある五階堂に、梓の声が掛けられる。

 逃げる暇など、もはや無い。

 五階堂は、したくもない覚悟を決めるしか無かった……

「感謝します」

「……へ?」

 聞こえてきた言葉は、五階堂の予想とは全く違った。

「私が落としたデッキを、あなたが拾って下さったのでしょう?」

「……は? ……へ?」

「そして、そんなあなたが、そのデッキの持ち主と間違われ、この決闘を行うことになってしまった。そうなのでしょう?」

「ああ……」

 梓の優しい声と笑顔。五階堂は、混乱するばかりだった。

『梓さあ……ちょっとお人好し過ぎじゃないの?』

 五階堂のそばに立っていたアズサは、梓にそう皮肉めいた声を掛けた。

 

「……どうでもいい」

 そんな三人の会話を邪魔するように、英人少年は声を上げた。

「お前が本物なのは分かった……なら、そこにいるクズに用は無い。今すぐ代われ。僕の相手は、お前だ……」

 途中からそうだったが、言葉遣いはぞんざいで、声も、随分暗く、重い。

(ふむ……この少年も、あの二人と同じか……)

「そ、そうだよ……」

 梓が、左手首の出血を押さえつつ、いつかの双子を思い浮かべているところに、五階堂が弱々しい声を上げた。

「僕には、こんな決闘無理だ。このデッキだって、僕には無理だったんだ。そうだ。だから今すぐ、今すぐ決闘を代わって……」

「そうはいかない」

 五階堂の台詞を遮った梓の台詞は、冷たくも真剣なものだった。

「ライフはまだ100残っている。0になる瞬間まで、何が起こるか分からないのが決闘です。あなた方には、互いのライフが残っている限り、決闘を続ける義務があるはず」

「……」

「そ、そんな……」

 梓のそんな言葉を聞いて、五階堂は苦悶の声を出し、英人少年は目を閉じた。

「ならすぐに終わらせてやる……カードを二枚伏せ、ターンエンド。そしてこのエンドフェイズ、二体の『ワーム・リンクス』の効果でカードをドロー」

 

英人

手札:4→6

 

 

英人

LP:4000

手札:6枚

場 :モンスター

   『ワーム・ゼロ』攻撃力500×6

   『ワーム・キング』攻撃力2700

   『ワーム・リンクス』攻撃力300

   『ワーム・リンクス』攻撃力300

    セット

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン』:2ターン

    永続魔法『ワーム・コール』

    セット

    セット

    セット

 

五階堂

LP:100

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「……」

 ライフも、フィールドも、手札も、全てが圧倒的不利な状況。

 すでに敗けたも同然なのに、まだ決闘を続けろと言う。

 やはりこの人は、デッキを盗んだことを怒っているんだ……

「宝山さん」

 そう考える彼に、再び掛けられる優しい声。

「……」

 梓の顔は、やはり、いつも見せる優しい笑顔だった。

「私はたった今ここへ来たばかりなので、どういった状況にあってこんな有様なのかは分かりませんが……随分な差を付けられたものですね」

「……」

 言い返すことはできず、俯くしかなかった。

「……ですが、それでも諦めず、サレンダーだけはしなかったのは、さすがエリートさんですね」

「……へ?」

 エリートさん、という言葉には、また皮肉かと感じた。だが、それ以上に、五階堂は感じた。

(そうだよ……なんで、敗けたと思ったなら、サレンダーしなかったんだろう……?)

 前のターン、『氷結界の守護陣』を守備に出した時点で、敗けたものだと思った。

 だが、だからと言ってサレンダーすることもせず、ライフが100になるまで決闘を続けた。

 あの少年が、サレンダーなどさせろと言って許したかは分からないが、梓に言われるまで、その発想すら無かった。

(どうして、だ……?)

「いずれにせよ、初めてのデッキでは、使いこなせないのも無理はありません。ここからは、私もお手伝いしましょう」

「お、手伝い……?」

 そう言うと、梓は五階堂の隣に立った。

「あまり褒められた行為ではありませんが、今回ばかりは非常事態です」

「えっと……」

「あなたのターンですよ」

「あ……ど、ドロー!」

 

五階堂

手札:3→4

 

 混乱しつつも、新たにカードをドローし、ターンを開始した。

「ふむ……宝山さん、あの伏せられたモンスターはなにか分かりますか?」

「えっと……」

 先程、『ワーム・ゼロ』の効果で特殊召喚された、モンスターの記憶を辿る。

「確か……あ、あ……アポカリプス、だったと……」

(『ワーム・アポカリプス』……あまり強いカードではないが、厄介ではある……)

 伏せカードのことを聞き、梓は手札と墓地、全てを見て、取るべき行動を考えた。

「いずれにせよ、まずは『ワーム・リンクス』をどうにかしましょうか。宝山さん、『サルベージ』のカードを」

「え……ま、魔法カード『サルベージ』。墓地から攻撃力1500以下の水属性モンスターを二体、手札に加える」

「対象は、『キラー・ラブカ』と『氷結界の守護陣』です」

「……」

 

五階堂

手札:3→5

 

「続いて、その永続魔法です」

「え、永続魔法『ウォーターハザード』。このカードの効果で、手札のレベル4以下の水属性モンスターを特殊召喚できる」

「……さあ、宝山さん。ここからどうするのが最適でしょうか?」

「はあ? どうするって……あんたが考えるんじゃないのか?」

「デッキは私のものでも、決闘をしているのはあなただ」

「……」

 手札を見ながら、梓の要求を考える。

(『ワーム・リンクス』……確かに、エンドフェイズとは言え、毎ターンドローされるのは厄介だ。それを片付けるには……)

「……手札から、『キラー・ラブカ』を特殊召喚。攻撃表示」

 

『キラー・ラブカ』

 レベル3

 攻撃力700

 

「……そして、『氷結界の番人ブリズド』召喚」

 

『氷結界の番人ブリズド』

 レベル1

 攻撃力300

 

「バトルだ! 『キラー・ラブカ』で、『ワーム・リンクス』を攻撃!」

 黄色く長い胴体を持つサメが、その体を赤い生物に巻きつける。そのまま締め付け、墓地へ送った。

「く……」

 

英人

LP:4000→3600

 

「次だ。『氷結界の番人ブリズド』で、二体目のリンクスも攻撃!」

 青色の鳥が、勇ましく赤色の生物へ襲い掛かる。

 二体は激しく争ったが、最終的に共倒れとなった。

「ここで、ブリズドの効果が発動される」

「えっと……ブリズドの効果! このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、カードを一枚ドロー」

 

五階堂

手札:2→3

 

「それも使いましょうか?」

「……『強欲な壺』! カードを二枚、ドロー」

 

五階堂

手札:2→4

 

「……カードを二枚伏せる。これでターンエンド」

 五階堂がエンド宣言をした瞬間、

 

 ――ズドンッ!!

 

「また!?」

 フィールドの中心に、巨大隕石が降ってきた。

「『W星雲隕石』の効果により、フィールドの裏守備表示モンスター全てを表側にする」

 

『ワーム・アポカリプス』

 レベル1

 守備力200

 

「『ワーム・アポカリプス』のリバース効果! フィールド上の魔法、罠カード一枚を破壊する。そのカードを破壊」

「ぐぅ……!」

 指差されたカードを、五階堂は憎々しげに墓地へ送った。

「『攻撃の無力化』か。これで次のターン、守ることはできなくなったな。そしてこのエンドフェイズ、全て爬虫類族、光属性モンスターを裏守備表示に変えて、その枚数分、デッキからカードをドローする」

 

英人

手札:6→10

 

「その後、デッキからレベル7以上の光属性、爬虫類族を特殊召喚する。『ワーム・クィーン』! 特殊召喚!」

 キングとは対照的な、細く女性的な肢体と、白銀の輝き。

 それが、裏側となったモンスター達の群れの前に現れた。

 

『ワーム・クィーン』

 レベル7

 攻撃力2700

 

 

五階堂

LP:100

手札:2枚

場 :モンスター

   『キラー・ラブカ』攻撃力700

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    セット

 

英人

LP:3400

手札:10枚

場 :モンスター

   『ワーム・クィーン』攻撃力2700

    セット

    セット

    セット

    セット

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン』

    永続魔法『ワーム・コール』

    セット

    セット

 

 

「ちくしょう……どうすればいいんだよ。手札もフィールドも、全然途切れることがない……」

「ですが、大量に得た代わりに、失われたものもあります」

「失われたもの?」

「『ワーム・ゼロ』は、融合召喚した後に、その種類によって強力な効果と攻撃力を得る。しかし、ひとたび裏側にされてしまえば、それらはリセットされ効果も攻撃力も失われてしまうのです」

「え? じゃあ……」

「無論、彼もそれは承知でしょうが……」

 

「僕のターン」

 

英人

手札:10→11

 

「何を伏せたか知らないが、このターンでお終いだ! 『ワーム・アポカリプス』を反転召喚!」

 

『ワーム・アポカリプス』

 レベル1

 攻撃力300

 

「こいつの効果で、その伏せカードを破壊だ!」

「そうはいきません。ねえ、宝山さん」

「え? あ、ああ……反転召喚にチェーンして、罠発動『激流葬』!」

「え?」

 アポカリプスが表になった瞬間、表になった罠カードから、大量の水が流れ込む。それが、五階堂及び、少年のフィールドのモンスター全てを飲み込んでしまった。

「ああ……僕の、ワーム達が……くそ! 『ワーム・ゼクス』召喚!」

 空になったフィールドに、緑色の、X印型のモンスターが浮き出てきた。

「こいつが召喚に成功した時、デッキから、ワーム一体を墓地へ送る。『ワーム・ウォーロード』を墓地へ。そして、墓地の『ワーム・ヤガン』は、自分フィールドのモンスターが『ワーム・ゼクス』一体のみの場合、裏守備表示で特殊召喚できる」

 

 セット(『ワーム・ヤガン』守備力1800)

 

「これで本当に終わりだぁ!! 『ワーム・ゼクス』で、ダイレクトアタック!!」

 緑色のX印が、体を横に回転させる。それはまるで手裏剣のように軌跡を描き、五階堂へ飛んでいく。

「うわあ! もうフィールドにカードが無い!」

「落ち着いて。手札をよく見て下さい」

「ええ? ……あ、これか! 『バトルフェーダー』特殊召喚!」

 

『バトルフェーダー』

 レベル1

 守備力0

 

 小さな悪魔が鐘を鳴らす。その瞬間、飛んできたゼクスは少年のフィールドへと戻っていった。

「チクショウ……『ヴァイパー・リボーン』発動! 墓地のモンスターが爬虫類族のみの場合、チューナー以外のモンスター一体を特殊召喚できる!」

「……え? 今、なんて……」

(やはり、未来のカードも使うか……)

「『ワーム・クィーン』特殊召喚!」

 

『ワーム・クィーン』

 レベル8

 攻撃力2700

 

「『ヴァイパー・リボーン』の効果で特殊召喚されたモンスターは、エンドフェイズに破壊される」

「そんなの、バトルも終わってるこの状態で何のために?」

「それだけの価値がある、ということですよ。デメリットばかりに目を向けて安直な答えを導き出すその悪癖、いい加減に直しなさい」

「ぐぅ……」

 厳しい言葉を投げかけられ、怯む五階堂を尻目に、少年は続けた。

「『ワーム・クィーン』は一ターンに一度、フィールド上のワーム一体をリリースすることで、デッキからリリース以下のレベルを持つワームを特殊召喚できる。『ワーム・クィーン』自身をリリース!」

「リリース?」

「生贄のことです」

 白銀の女王が光と変わり、そこから赤銅色の巨体が現れた。

「『ワーム・プリンス』、特殊召喚!」

 

『ワーム・プリンス』

 レベル6

 攻撃力2200

 

「更に永続罠『リビングデッドの呼び声』! こいつで墓地の『ワーム・キング』を特殊召喚!」

 

『ワーム・キング』

 レベル8

 攻撃力2700

 

「そして、『浅すぎた墓穴』! 互いの墓地からモンスター一体を裏守備表示で特殊召喚する! こっちは『ワーム・アポカリプス』だ!」

 

 セット(『ワーム・アポカリプス』守備力200)

 

「何を呼びますか?」

「えっと、えっと……こいつだ! 『氷結界の交霊師』!」

 

 セット(『氷結界の交霊師』守備力1600)

 

「無駄だ! 『ワーム・キング』はフィールド上のワームをリリースするごとに、相手フィールドのカードを破壊できる。『ワーム・ゼクス』をリリースして、セットされた『氷結界の交霊師』を破壊!」

 キングの太い腕に、緑色のゼクスが掴まれる。それを力いっぱい振るわれ、セットされた交霊師を砕いた。

「もう一度だ! セットされた『ワーム・ヤガン』をリリース! 『バトルフェーダー』を破壊!!」

 今度は裏側にあったヤガンが掴まれる。Y字型の赤い生物は力の限りブン投げられ、小さな悪魔を砕いた。

「自身の効果で特殊召喚された『バトルフェーダー』は、フィールドを離れた時除外されます」

「……」

 その言葉を聞き、『バトルフェーダー』のカードはポケットにしまった。

「ターンエンド! 手札調整で二枚を捨てる」

 

英人

手札:8→6

 

 

英人

LP:3400

手札:6枚

場 :モンスター

   『ワーム・キング』攻撃力2700

   『ワーム・プリンス』攻撃力2200

    セット

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン』

    永続魔法『ワーム・コール』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

 

五階堂

LP:100

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

 

 

「うぅ……どうすればいいんだよ……」

 手札もフィールドも常に埋まっている相手に比べ、手札は一枚、フィールドは空っぽ。ライフの差も歴然。

 勝ち目は無いと、既に五階堂の心は折れかけていた。

「どうするもこうするも……」

 そんな五階堂に、梓は変わらない、厳しい声を掛けた。

「カードを引く。決闘者がすることなど、それしか無いでしょうに」

「……」

 横から見ている男の声に、五階堂は、

「うるさい……」

 そう、返した。

「うるさいんだよ!! なんなんだよ偉そうに!! 横からしゃしゃり出て偉そうなことばっか言いやがって!! 僕はお前とは違うんだよ!! お前みたいに、何でもできる強い決闘者じゃないんだよ!! バカ野郎!!」

 言いながら、梓への恐怖は再燃していくが、既に口を止めることはできなくなっていた。

「大体お前が悪いんだ!! お前に無理やり引き分けられたせいで、僕のエリート人生はめちゃくちゃなんだよ!! 誰も彼も、決闘しただけでバカにしてきて、勝っても負けても、いちいちアンタの名前を出されて!! 僕がどれだけ辛い思いしてきたか!! アンタに分かるのかよ!!」

「分かりませんね。一切、僅かも理解できません」

 喚き散らす五階堂に、梓は直前以上に、冷たい声を返した。

「バカにしてくる? 辛い思い? そんなもの知ったことではない。決闘をしている以上、形はどうあれそんなものに晒されることなど覚悟の上のはずでしょう。それとも、あなたはただ、エリートさんと、もてはやされたいがためだけに決闘をしてきたと言うのですか?」

 そんな疑問に、一瞬言葉が詰まる。だが、

「……ああ、そうだよ。決闘で勝って、良い成績取ってれば、周りからチヤホヤされてきたんだよ。そんな姿が眩しいし、格好良いって思ったから僕は頑張ってきたんだ。それを! アンタがあんな決闘したせいで、何もかも狂っちまったんだ!! それがムカついたからデッキだって盗んでやったんだ!! 僕は勝てるから決闘してきたんだ!! もう敗けが分かってるこんな決闘、いつまでもやってられるか!! 続けたいならアンタが勝手にやってろよ!!」

 今日まで、梓に対して溜まりに溜まり続けた怒りと、この決闘へのハッキリした拒絶。

 それを、力いっぱい言葉にして、肩で息をするほど喚き散らした。

 そんな五階堂に対して、梓は、

「なら、もう一度チヤホヤされるよう、頑張れば良いだけのことではありませんか」

 そう、あっさりとした答えを返した。

「はぁ?」

「一度はそこまで頑張って、エリートさんという地位を確立したのでしょう。それを失ったと言うのなら、それをもう一度得るまで同じことをすればいい。ただそれだけのことでしょう」

「ただそれだけって……そんな簡単に……!!」

「少なくとも、私はそうやって這い上がって見事復活を成し遂げた人を、一人知っております」

「……」

 その人物は、五階堂自身もよく知る人間だった。

「敗けて全てを失った? 当たり前でしょう。決闘モンスターズもまた勝負事の一つですよ。一つの敗北で百の勝利が失われる。そんなこと、決闘に限らずよくある話だ。時に、一つの敗北で全てを、命すら落とすことさえある。それが勝負の世界です。決闘とて例外ではない」

「……」

「そして、そんな勝負の世界に、あなたは自ら足を踏み入れた。その目的が、チヤホヤされることが目的だと言うならそれも大いに結構です。ならそのために、たとえ一度全てを失ったとしても、もう一度ゼロから……いや、いっそのこと、マイナスから這い上がるくらいの心意気を持ってはいかがか?」

「だから……そんな簡単に……」

「なら、それだけ文句を言いつつ諦めていながら、なぜ未だサレンダーもせず決闘を続けているのですか?」

「……!」

 先程も言われたことを、再び聞かれた。

「決闘が嫌になったと言うなら、早くサレンダーして交代すればそれで済む。決闘は最初からとなりますが、彼のデッキは大方把握しましたし、あなたの酷いプレイの後で再開するよりはよほど勝ち目があるでしょうね。止めはしません。さあ……」

「……」

 言われて、デッキに右手を伸ばそうとする。

 ここに手を置けば、楽になれる。

「……くぅ!」

 それを分かっているのに、なぜかできなかった。

「一般論ですが……」

 そんな五階堂い、梓はまた言葉を掛けた。

「いきなり他人のデッキを、簡単に使いこなすことなどできるはずがない。まして、デッキを盗むような人間になど、カードも心を許すことなどあり得ないでしょう」

「……」

「ですが、少なくとも、カードが応えてくれるのは、どれだけの逆境に立たされようと、ライフがゼロになるまで諦めず、勝利への執念を持ち続けた者。そんな人だと思いますがね」

「……くぅ」

 既に、勝ち目は無い。何を引いても、無駄かもしれない。

 それを、分かっているのに……

「僕だって……敗けたくなんか、ない!!」

 梓の言う一般論に、五階堂の中の、僅かに残っていたプライドが火を点けた。

 

「ドロー!!」

 

五階堂

手札:1→2

 

「こ、これは……!」

 引いたカードに、五階堂は目を見開いた。

「……どうやら、あなたの執念に答えて下さったようですね」

 梓もそれを見て、微笑みかけた。

「……『ウォーターハザード』の効果で、手札の『氷結界の守護陣』を特殊召喚!」

 

『氷結界の守護陣』チューナー

 レベル3

 守備力1600

 

「そして、魔法カード『命削りの宝札』発動!!」

「なにぃ!?」

 そのカードには、黙っていた英人少年も驚愕の声を上げた。

「手札が五枚になるよう、カードをドローして、五ターン後、全ての手札を墓地へ捨てる。カードドロー!」

 

五階堂

手札:0→5

 

「……速攻魔法『サイクロン』発動! その伏せカードを破壊する!」

「うぅ……」

 カードから発生したつむじ風により、彼の伏せていたカード『月の書』が吹き飛ばされた。

 ゼロだった手札が五枚に増え、可能性は広がった。しかし、

「……えっと……」

 自分との決闘の時でさえ、かなり複雑な動きをしていたデッキを前に、何をどうすべきかの判断がつかない。

「まずは、そのカードを」

 そこへ、梓が助け船をよこした。

「あ……『天使の施し』発動。カードを三枚ドローして、二枚を捨てる」

「どのカードを捨てるか、分かりますか?」

「……はい!」

 捨てるべきカードを墓地へ送り、そして、続くプレイを考えた。

「えっと……永続魔法『生還の宝札』発動。墓地のモンスターが特殊召喚される度、僕はカードを一枚、ドローできる。そして、自分フィールドにレベル3以下の水属性モンスターが存在する時、手札を一枚捨てることで、墓地の『フィッシュボーグ-ガンナー』を特殊召喚する!」

 

五階堂

手札:3→2

 

『フィッシュボーグ-ガンナー』チューナー

 レベル1

 守備力200

 

「そして、『生還の宝札』の効果で、一枚ドロー!」

 

五階堂

手札:2→3

 

「えっと、それから……これか! 二体のモンスターを生贄に、『氷結界の虎将 グルナード』を召喚!」

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「そして、グルナードが場にある限り、氷結界モンスターを続けて召喚できる。えっと……『氷結界の伝道師』を、通常召喚!」

 

『氷結界の伝道師』

 レベル2

 攻撃力1000

 

「伝道師の効果。こいつを生贄に捧げることで、墓地の氷結界を特殊召喚できる。僕はこの効果で、『氷結界の虎将 ガンターラ』を特殊召喚! そして、宝札の効果も発動!」

 

『氷結界の虎将 ガンターラ』

 レベル7

 攻撃力2700

 

五階堂

手札:1→2

 

「ぐぅ……っ」

「バトルだ! グルナードで『ワーム・キング』を、ガンターラで『ワーム・プリンス』を、それぞれ攻撃だぁ!」

 五階堂の命に従い、二人の虎将は走り出した。

 

『……』

 

 彼らに攻撃される直前、『ワーム・キング』が、胴体の上にある顔と、下半身にある顔、両方の目を、梓に向けた。

「コウ……」

 

『……』

 

 その表情が、かつて自分を倒し、愛し、そして、大勢の同胞たちと共に殺した、そんな存在に対する、恨みか愛か……

 どちらか分かる前に、グルナードの無数の氷剣に貫かれた。

 そして赤銅色のプリンスも、ガンターラの回し蹴りに砕かれた。

 

英人

LP:3400→2800

 

「一枚伏せて、ターンエンド。そしてこの瞬間、ガンターラの効果により、エンドフェイズに墓地の氷結界一体を蘇生できる。『氷結界の守護陣』を、守備表示!」

 

『氷結界の守護陣』チューナー

 レベル3

 守備力1600

 

五階堂

手札:1→2

 

 

五階堂

LP:100

手札:2枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 グルナード』攻撃力2800

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

英人

LP:2800

手札:6枚

場 :モンスター

    セット

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン』

    永続魔法『ワーム・コール』

 

 

「……すっげぇ……」

 前のターンまで、自分は確かに、追い詰められていた。

 相手の圧倒的なアドバンテージとパワーに押され、勝てないと、諦めていた。

 それなのに、いざ自分のターンを迎え、終えてみれば、逆に、相手を追い詰めている。

 手札の数は、相手の方が圧倒的に多い。だが、それでもモンスターの数はこっちが上だ。

(勝てる……このまま行けば、勝てる……)

 そこまで思った時、ハッと気付いた。

(そうか……勝ちたかったのか、僕は……)

 梓に無理やり引き分けられて以来、勝っても敗けても、バカにされ続ける毎日だった。

 それでも、決闘が嫌になれど、一度始めた決闘は、絶対に途中で投げ出したことはない。

 その理由は、さっきまでは分からなかった。だが、今なら分かる。

 単純明快な、ただ一つの理由。

(僕は決闘でだけは、誰にも敗けたくなかったからだ)

 そして、その理由も、今なら答えられる。

(僕は、嫌になった決闘が、今でも好きなんだ。人のデッキを使ってでも勝ちたいって思うくらい、決闘が大好きだから、僕はこうして勝ちたいんだ……!)

 そして、そんな勝利への執念があったから、このデッキは、今だけ応えてくれたのか。

(決闘は好きだ。だから、勝ちたい……いいや、勝てる。この決闘、僕は、必ず……!)

 

「……僕のターン!!」

 

英人

手札:6→7

 

「まだだ……まだ僕は、全てを出しきっちゃいない。魔法発動『天使の施し』! 三枚ドローし、二枚を捨てる! 更に、『ワーム・アポカリプス』を反転召喚!」

 

『ワーム・アポカリプス』

 レベル1

 攻撃力300

 

「リバース効果! お前の場の『生還の宝札』を破壊する!」

「くぅ……!」

(そっちを狙われましたか……)

 

「魔法カード『コストダウン』! 手札を一枚捨てて、手札のモンスターのレベルを二つ下げる」

 

英人

手札:6→5

 

「レベルを下げた、ということは……」

「最上級モンスターが来る、ということ……」

 

「僕は『ワーム・アポカリプス』をリリース! モンスターをセット!」

 

「……て、セットかよ」

「……いや、『コストダウン』の効果で捨てたカード。あれは……」

 

「そう。墓地へ送った『ADチェンジャー』を除外し、フィールド上のモンスター一体の表示形式を変更できる! 僕はこの効果で、裏側表示の『ワーム・ヴィクトリー』を表側攻撃表示に!!」

 裏側だったカードが表になり、そこから、暗く赤い、巨大な赤色が姿を現した。

 プリンスよりも、クィーンよりも、キングよりも。

 ゼロには遥かに及ばないまでも、十分な巨体のモンスター。それが、六本ある腕にVの形を作りながら、二本の足で地を蹴った。

 

『ワーム・ヴィクトリー』

 レベル7→5

 攻撃力0

 

「……て、攻撃力0……?」

「『ワーム・ヴィクトリー』は墓地のワームの数の500倍アップする」

「500倍!?」

「墓地に眠るワームは十八体。よって、攻撃力は……」

 

『ワーム・ヴィクトリー』

 攻撃力0+500×18

 

「攻撃力9000!? ……いや、けど大丈夫だ。僕の場には『氷結界の守護陣』がいる。こいつと氷結界モンスターがいる時、相手は守護陣の守備力以上の攻撃力のモンスターじゃ攻撃できないんだ」

「『ワーム・ヴィクトリー』のリバース効果! こいつがリバースした瞬間、フィールド上のワーム以外の表側表示のモンスター全てを破壊する!」

「なんだってぇ!?」

 表になった『ワーム・ヴィクトリー』が、六本の腕の、Vの文字を一つに合わせる。

 計六本の指は、赤色に開花した花を連想させた。

 そして、そこから発されたエネルギーが、五階堂のフィールド全体に降り注いだ。

「ぐうああああああああああ!!」

 その巨大なエネルギーが、モンスターを破壊すると共に、五階堂にもぶつかる。

 それを、梓が再び抱き締め、その衝撃から守った。

「梓、さん……」

「……痛みは私が引き受けます。あなたは、あなたの決闘を……」

「は、はい……」

 

「バトルだ!!」

 そして、少年が絶叫する。

 ヴィクトリーは、指のVサインを握り拳に変えた。

「『ワーム・ヴィクトリー』で、ダイレクトアタック!!」

 そして、キング以上に巨大な拳を振りかざし、キング以上に俊敏な動作で、五階堂に向かっていった。

「永続罠『リビングデッドの呼び声』! 墓地から『氷結界の虎将 グルナード』を特殊召喚!」

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「構わない!! やれ! 『ワーム・ヴィクトリー』!!」

 構わず向かってくる赤色の巨体。だが、今度は間違わなかった。

「今度こそ……墓地の『キラー・ラブカ』の効果!」

 その宣言で、墓地から黄色く長いモンスターが飛びだす。

 それが、ヴィクトリーの巨体に巻きつき、締め上げる。

「自軍のモンスターに攻撃してきた時、墓地のこのカードを除外して、相手モンスター一体の攻撃を無効にし、攻撃力を500ポイント、次の自分のエンドフェイズまで下げる」

 

『ワーム・ヴィクトリー』

 攻撃力0+500×18-500

 

「おのれぇ……ターンエンドだ!」

 

『ワーム・ヴィクトリー』

 レベル5→7

 

 

英人

LP:2800

手札:4枚

場 :モンスター

   『ワーム・ヴィクトリー』攻撃力0+500×18-500

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン』

    永続魔法『ワーム・コール』

 

五階堂

LP:100

手札:2枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 グルナード』攻撃力2800

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「くそ……けどまだだ。僕はまだ、敗けてない! ドロー!」

 

五階堂

手札:2→3

 

「これは……」

「……ほう、そのカードですか」

 新たに引いたカードを凝視する。

「構いません。それをお使いなさい」

「え、でも……」

「大丈夫。むしろこの状況なら、そのカードは大いに威力を発揮してくれます」

「……魔法カード『壺の中の魔術書』発動! 互いにカードを三枚ドローする」

「な……!」 

 そのカードの発動に、英人は顔を歪めた。だが、その効果には従うしかなかった。

 

五階堂

手札:2→5

 

英人

手札:4→7

 

 二人同時に、新たにカードを三枚ドローした、その結果……

「……て、デッキのカードが、残り一枚……!」

「最初の未来融合に始まり、『ワーム・リンクス』や『W星雲隕石』による高速ドローやデッキからの特殊召喚で、早い段階からデッキのカードを消費していったんだ。四十枚のデッキなら、早いうちにこうなることは目に見えていることです」

「梓さん、そこまで分かってて……」

「さあ、続けなさい」

「あ、はい。えっと……ん? これは……! 僕はスピリットモンスター『氷結界の神精霊』を召喚!」

 

『氷結界の神精霊』スピリット

 レベル4

 攻撃力1600

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド。そしてこの瞬間、『氷結界の神精霊』のスピリット効果で、このカードは手札に戻る」

「何だそれは……何の意味があるって言うんだ……?」

「フィールドにこのカード以外の氷結界が存在する時、その効果は『相手フィールドのモンスター一体を手札に戻す』効果になる!」

「なっ……!」

 神精霊の体から、聖なる輝きが発せられた。と同時に、『ワーム・ヴィクトリー』の体は透明に変わっていき、消滅した。

 

英人

手札:7→8

 

 

五階堂

LP:100

手札:3枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 グルナード』攻撃力2800

   『氷結界の神精霊』攻撃力1600

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

 

英人

デッキ:1

LP:2800

手札:8枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン』

    永続魔法『ワーム・コール』

 

 

「……ふふふ……ふふ……」

「な、なんだ……?」

 場にモンスターは無く、デッキのカードは残り一枚。

 なのに英人は、笑っていた。

「本人じゃない。そのうえデッキを使ってるのは、タダのバカ……途中から全然期待してなかった決闘だったのに……ここまで楽しめるなんて思ってなかった」

 そして、俯いていた顔が、五階堂に向けられる。

「その強さに敬意を表してあげる。そして、このターンで決めてあげる! 僕のターン!」

 

英人

デッキ:1→0

手札:8→9

 

「『ワーム・コール』の効果。自分フィールドにモンスターが無く、相手フィールドにモンスターがいる時、手札のワーム一体を裏守備表示で特殊召喚できる。『ワーム・ヴィクトリー』をセット」

 

 セット(『ワーム・ヴィクトリー』守備力2500)

 

「それは……! またリバース効果を使う気か?」

「それも面白そうだけど、この手札でそれは今できないから……僕は更に、『ワーム・ファルコ』を通常召喚」

 

『ワーム・ファルコ』

 レベル2

 攻撃力500

 

「……このカードは、自分フィールド及び、墓地に眠る爬虫類族モンスター全てを除外することでのみ、特殊召喚できる」

「まずい!!」

「……え?」

 

「特殊召喚! 『邪竜アナンタ』!!」

 

 墓地に眠る、ワーム達の悲鳴が聞こえたようだった。それら全ての魂を、無数の蛇の頭が喰らっていた。

 そんな頭と共に、太い胴体が姿を現した。その姿と禍々しさは、最恐の蛇であることを、向き合う者達の本能に刻み付けた。

 

『邪竜アナンタ』

 レベル8

 攻撃力?

 守備力?

 

「攻守不明?」

「このカードの攻撃力は、除外した爬虫類族モンスターの数の600倍の数値だ」

「600倍!?」

「除外した爬虫類族の数は二十体。つまり、攻撃力と守備力は……」

 

『邪竜アナンタ』

 レベル8

 攻撃力600×20

 守備力600×20

 

「攻撃力、12000……」

「バトルだ。『蛇龍アナンタ』で、『氷結界の虎将 グルナード』を攻撃!!」

 アナンタの無数の頭が、グルナードに向かっていった。

「宝山さん!」

「……あ! カウンター罠『攻撃の無力化』! 攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了する!」

 アナンタの首は、グルナードの目の前まで迫っていた。しかし、それを止めて、攻撃を止めた。

「命拾いしたな……なら、ダメ押しだ。魔法カード『次元融合』! ライフを2000支払い、効果発動!」

 

英人

LP:2800→800

 

「互いにゲームから除外されているモンスターを、可能な限り特殊召喚する」

「なんだって!?」

「この瞬間、速攻魔法『異次元からの埋葬』! 互いの除外されているモンスターを、合計三体まで墓地に戻す。僕はこの効果で、僕の『ワーム・ゼクス』と『ワーム・ヤガン』、そしてお前の『バトルフェーダー』を墓地に戻す!」

「くぅ、こっちのモンスターを増やすことまで防いだのか……」

 そして、五階堂が『バトルフェーダー』を、英人少年が『ワーム・ゼクス』と『ワーム・ヤガン』を墓地へ置いた、その直後。

 フィールドに新たな、怪しげな四つの穴が開き、そこから、何匹ものワームがこちらを覗き見ていた。

 そして、そんなワーム達を押しのけるように、選ばれたワーム達は歩いていき、フィールドに降り立った。

 

『ワーム・キング』

 レベル8

 攻撃力2700

『ワーム・クィーン』

 レベル8

 攻撃力2700

『ワーム・プリンス』

 レベル6

 攻撃力2200

『ワーム・ヴィクトリー』

 レベル7

 守備力2500

 

「カードを伏せる。ターンエンド。そしてこの自分のエンドフェイズ、『邪龍アナンタ』の効果でフィールド上のカード一枚を破壊できる」

 『邪龍アナンタ』が、口から怪しげな毒液を飛ばす。それは、五階堂のフィールドの『リビングデッドの呼び声』にぶつかり、溶かしてしまった。

 同時に、その効果を受けていたグルナードをも消滅させてしまった。

 

英人

デッキ:0枚

LP:800

手札:3枚

場 :モンスター

   『邪龍アナンタ』攻撃力600×18

   『ワーム・キング』攻撃力2700

   『ワーム・クィーン』攻撃力2700

   『ワーム・プリンス』攻撃力2200

   『ワーム・ヴィクトリー』守備力2500

   魔法・罠

    永続魔法『未来融合-フューチャー・フュージョン』

    永続魔法『ワーム・コール』

    セット

 

五階堂

LP:100

手札:3枚

場 :モンスター

   『氷結界の神精霊』攻撃力1600

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

 

 

「くぅ……このターン、何もせずにターンエンドしても、次のターンにはデッキ切れを起こすけど……」

「あの様子では、それは期待できませんね。そして、おそらくは除外されているカードに対して発動するカードも握っているはずです」

「……」

 梓と意見が一致し、どうするかを思案する。

「……ドロー」

 

五階堂

手札:3→4

 

「罠発動『転生の予言』! 互いの墓地から、合計二枚になるようカードを選び、それぞれのデッキに戻す。僕は墓地の、『月の書』と『太陽の書』をデッキに戻す!」

 

英人

デッキ:0→2

 

「……」

 ドローしたカードを見つめ、考える。

「……既に、勝ち筋は一つしか残されていない。それは、あなたも分かっているはずだ」

「……」

 それは、重々理解している。だが、それは自分がやっていいことなのか、判断しかねた。

「大丈夫です」

 迷い続ける五階堂に対して、梓は、優しく語り掛けた。

「今のあなたなら、きっと、彼らも答えてくれるはずです」

「梓さん……」

「あなたが行うのです。勝利するために……シンクロ召喚を」

「……」

 勝つために、五階堂は決意を固めた。

 

「……行きます」

「呼び出すレベルは?」

「6! チューナーモンスター『氷結界の水影』召喚!」

 

『氷結界の水影』チューナー

 レベル2

 攻撃力1200

 

「レベル4の『氷結界の神精霊』に、レベル2の『氷結界の水影』をチューニング!!」

 赤紫色の忍者が、二つの星に変わり、青色の老人の周囲を周る。

 ここで呼び出すのは、かつて、五階堂自身を破滅へと追いやった存在……

 

「凍てつく結界(ろうごく)より昇天せし翼の汝……」

「全ての時を零へと帰せし、凍結回帰(とうけつかいき)の螺旋龍」

 

「シンクロ召喚!」

「シンクロ召喚! 舞え、『氷結界の龍 ブリューナク』!」

 

 梓と五階堂。二人の声が重なり合い、そして現れる。

 美しくも憎むべき、天空を舞う氷結の龍……

 

『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2300

 

「できた……僕が、シンクロ召喚を……」

「素晴らしいです。宝山さん」

「梓さん……」

「ですが、ただ呼び出すだけなら誰でもできる。重要なのは、ブリューナクの力を如何に引き出すか、ですよ」

「はい!」

 その問い掛けに対する答えも、既に五階堂は理解していた。

「魔法カード『魔法石の採掘』! 手札二枚を捨てることで、墓地の魔法カード一枚を手札に加える。僕は手札二枚を捨て、『命削りの宝札』を手札に」

 

五階堂

手札:2→0→1

 

「そしてもう一度、『命削りの宝札』! 手札が五枚になるよう、カードをドロー!」

 

五階堂

手札:0→5

 

「ブリューナクの効果!」

「手札のカード一枚を捨てるごとに、フィールド上のカード一枚を持ち主の手札に戻すことができる」

 梓の解説の通り、手札のカード一枚を墓地へ捨てた。

 

五階堂

手札:5→4

 

『凍結回帰!』

 再び二人の声が重なる。と同時に、ブリューナクの全身から霧が発生した。

 その霧が、『邪龍アナンタ』を包み込み、消滅させた。

「ああ……」

 

英人

手札:3→4

 

「更に、一枚捨てる」

 

五階堂

手札:4→3

 

「凍結回帰!」

 今度は、『ワーム・ヴィクトリー』が霧に包まれる。

 

英人

手札:4→5

 

「まだまだ!」

 

五階堂

手札:3→2

 

 続いて、『ワーム・プリンス』。

 

英人

手札:5→6

 

「あと二体……」

 

五階堂

手札:2→1

 

 『ワーム・クィーン』……

 

英人

手札:6→7

 

「これで最後……」

「待って下さい」

「へ?」

 残り一枚の手札を捨てようとした瞬間、梓が制止した。

 五階堂の前に出て、残った最後の一体、『ワーム・キング』と顔を合わせる。

「……」

 

『……』

 

『……』

 

「……」

 しばらく見つめ合って、何かを理解したように、梓は微笑みを浮かべた。

「……もう十分です。宝山さん」

「……良いんですか?」

「ええ。彼の気持ちは、理解することができました」

「……分かりました」

 何があったかは知らない。だが、二人の雰囲気だけで、何かがあったことは五階堂も察した。

 そして、その梓が良いと言ったから、五階堂もまた、続けた。

「最後の一枚を墓地に」

 

五階堂

手札:1→0

 

「凍結回帰!」

「凍結回帰!」

 

 再び二人の声が重なったことで、『ワーム・キング』もまた消滅する。

 その顔は、まるで思い残すことが無いように、微笑んでいるようにも見えた。

 

英人

手札:7→8

 

「……」

 最初、呆然とし、苦悶に満ちていた英人の表情が、満足したように晴れ渡っているようだった。

 

「お前の場はがら空きだ! バトル! 『氷結界の龍 ブリューナク』で、ダイレクトアタック!!」

 五階堂が叫び、ブリューナクの口に、冷たいエネルギーが貯まっていく。

 そして、それを英人少年に向けた。

 

「静寂のブリザード・ストーム!」

「静寂のブリザード・フォース!」

 

英人

LP:800→0

 

「ブリューナクの攻撃名はブリザード・『ストーム』です。『フォース』はグングニールですよ」

「えっと……すいません」

 

 

「……あ、あれ?」

 決闘が終わった瞬間、英人少年は始まった時と同じような、気弱な表情を浮かばせた。

「僕……あれ? 決闘を……?」

「覚えておりませんか?」

 そんな優しい声に、少年は顔を向ける。とても綺麗な顔が目の前にあり、思わず顔を赤らめた。

「覚えてって……あ、僕、そうだ。決闘、したんだ……」

「覚えておいでですか?」

「……うん。何となく、覚えてる。敗けたんですよね? 僕……」

「ええ……」

 起きた事実を知り、彼はポケットからメダルを取り出し、梓に差し出した。

「私ではなく、彼です」

「……」

 指示された少年に、改めてメダルを渡す。五階堂は無言でそれを受け取った。

「もしよろしければ、あなたのそのデッキ、どうやって手に入れたのか教えていただけませんか?」

「……」

 少年は自身のデッキを握りながら、曖昧に答えた。

「このデッキは……気が付いたら、持ってたんです。僕も、どうして持ってたのか、覚えてません……」

(やはり……この子も、私や双子と同じ。と言うことは、他にも……)

 梓が確信を得ている間にも、彼は話を続けた。

「みんなは、そんなこと話しても信じないし、ワーム達を見て、変なモンスターだって言って笑うけど、僕は、ワーム達のこと、好きなんです……決闘は弱っちくて、友達もいなくて、そんな僕と、なんでか一緒にいてくれた。そんなワーム達のこと、みんなに強いんだぞってとこ見せたくて、この大会に出たんです。それに、はっきりとは分からないけど……彼が、会いたい人がいるって言うから……」

 デッキの中の、『ワーム・キング』のカードを取り出しながら、そう言った。

「でも、みんなに、ワーム達は強いんだぞってとこ見せたかったのに、敗けちゃって、終わっちゃって……せめて、彼は、会いたい人に会えたのかな?」

「……ええ。彼は満足していました」

 優しく微笑みかけ、言葉を掛けると、英人少年もまた、ホッとしたように微笑んだ。

「良かった……決闘のこと、あんまり覚えません。けど、すごく、楽しかった。何となく、それは覚えてます」

「……」

「僕、ワームのみんなと一緒に、ちゃんと戦えてました? これからも、ワーム達と一緒に戦って、いいんでしょうか?」

「もちろん」

 不安げな声と表情の少年に、梓は語り続けた。

「あなたが、ワーム達を思うのと同じように、ワーム達も、あなたのことを思っている。それは、決闘を見ていた者として分かります。あなたが彼らを愛する限り、彼らもまた、あなたのことを、ずっと愛しております。その思いと、彼らのことを、大切にしてあげて下さい」

「……はい!」

 

 そのやり取りを最後に、英人少年は満面の笑みを残し、去っていった。

 そんな、小さな少年の傍らに、キング……コウを始めとした、多くのワーム達の姿が見えた。

 突然見知らぬ場所で目覚め、住処を探し求める内に侵略者となっていた。そんな過去とは違い、必要とされ、受け入れられて、楽しげに、嬉しげに、少年に寄り添い歩いていく。

 そんなワーム達の姿が、梓にははっきり見えていた。

 

「……」

 そんな二人のやり取りを、五階堂は無言で眺めていた。

「闘う理由は、人それぞれです。誰もが勝利に歓喜し、敗北に恐怖しながら、それでも闘う理由があるから、闘い続ける。目的を成し遂げ、自分が願い続けてきた理由が正しかったことを証明したいから。それは、私とて同じです」

「……」

 闘う理由。その言葉を、五階堂は自身に問い掛けてみる。

 導き出した答えは、梓や、あの少年に比べれば、皆無に等しいかもしれない。

 それでも、五階堂は感じていた。

(僕だって……)

 

「さあ、私のデッキを、返していただけますか?」

「……」

 優しく言い、手を差し出した。

「……嫌だ」

 五階堂は、短く答えた。

「嫌だ?」

 聞き返す梓に対して、五階堂は、梓にデッキを投げてよこした。

「返してほしかったら! 僕を倒して奪い返してみろよ!!」

 叫びながら、自身のデッキを手に、決闘ディスクを構えた。

「……良いでしょう」

 梓も、投げ渡された、今はまだ、五階堂の物であるデッキをセットし、構える。

 

『決闘!!』

 

 

 決着はすぐに着いた。

 結果は、五階堂の惨敗だった。

 何もさせてくれなかったあの時とは違い、考えうる限りの、デッキの、自分の持つ全力を出した。

 そのことごとくをかわされ、封じられ、シンクロ召喚を使われるまでもなく、何もできないままあっさり倒されてしまった。

 

「……」

 草地に大の字に倒れながら、空を見上げる。

 二度も叩きのめされ、メダルも奪われ、敗けが許されなかった大会さえ敗退し、悔しさはもちろんあった。

 しかし、それ以上に五階堂の胸を満たしていたのは、清々しさと、思い出すことができた決闘の楽しさだった。

「もう一度、ゼロから……いや、マイナスから……」

 呟きながら、二度も梓にボコボコにされた、自身のデッキを見上げる。

「何度も酷い目に遭わせちまった。けど、また、這い上がるまで……付き合ってくれるか? 僕のデッキ……」

 当然、デッキが答えるわけはない。だが、最前列にある、彼のエースモンスターである『ギルフォード・ザ・レジェンド』は、まるで頷いたように見えた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

『決闘者の皆さん。只今より、大会を一時中断します。参加者の皆さんは、速やかに最寄りの建物に入り、外出しないようお願いします。繰り返します……』

 

 決闘でデッキを取り戻し、メダルを受け取った後で五階堂と別れた直後、梓が聞いたのは、そんな鮫島校長の声だった。

 

 

 

 




お疲れ~。
決闘考えるのはシンドイが、いちいち墓地やらの枚数を数えるのは更にシンドイ……
まあ、面白かったら良いんだけどや。

つ~ことで、次話ではお待ちかね? 神のご登場。
間違っても紙じゃねえぜ。
お待ちかねしてる人がいてくれてるんなら言わせてもらう。
ちょっと待ってて。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。