んじゃ、二日目ラストのお話しですじゃ~。
行ってらっしゃい。
視点:外
「失礼します」
放送を聞いたももえとカミューラの二人は、校長室のドアを開け、入ってきた。
「……あら、十代達までいるの?」
「ははは。なんか、成り行きで……」
十代が苦笑しながら答えつつ、机に座っている鮫島と、その前に立つペガサスを見る。
「これで後は、ショウ子ちゃん本人と、撮影演出のmanaさん……」
「manaはここには来ないわ。人前に姿を出さない子だから」
今も翔にくっついている精霊を睨みつつ、カミューラが答える。
「そうですか……では、あとは衣装の水瀬梓さんですね」
その名前を出したと同時に、部屋の空気が、直前以上に重いものに変わった。
「来るのかな、あいつ……」
「シンクロモンスターのこと蒸し返されたくないだろうし、ここには来ないんじゃ……」
十代と剣山は、そんな無難な答えをやり取りしていた。
だが、そんな二人の間に立つ翔は……
「……多分、来るんじゃないかな?」
そう、二人に言った。
翔が語った直後だった。不意に、鮫島校長は、後ろからの音を聞いた。
彼の後ろにあるものは、島の景色が一望できる巨大なガラス窓。
そんな巨大なガラスが叩かれる音。鳥でもやってきたのだろうか? そう思いつつ、振り返ると……
「うわあああああああああああ!?」
鮫島が悲鳴を上げ、座っていた椅子から転げ落ちる。
その悲鳴を聞いた、ペガサスや十代達も、そちらを見ると、
「うおわああ!?」
「What!?」
「ひいぃいいい!?」
翔、そして、ショウ子ちゃん応援団以外の男達は、同じように声を上げた。
窓の外には、ショウ子ちゃん応援団の最後の一人がこちらを覗いていた。
まるでヤモリのように、逆さまな姿勢でガラス窓にへばり付いたその身から、長い黒髪は全て、下に向かって垂れ下がっていた。
そんな髪の下、ではなく、上にある大きな目は、カッと見開かれ、血走らせ、まるで、部屋の中にいる者全てを呪い殺してしまいそうなほどの視線を飛ばす、とてつもない形相を浮かべていた。
「SADAKO!? いや、JUON!? この中の誰がCHAKUSHIN ARIデース!?」
窓の外の青い着物に対して、ペガサスは大声を上げていた。
そんなペガサスにも構わず、青い着物はガラスに張り付く両手により力を込め、その部分から亀裂が広がり……
「ままま、待ってください梓君! 今窓を開けます! 危険なので窓を割らないで下さい!!」
「梓?」
鮫島が、大慌てで窓を開ける。梓はそれを見て、その身を移動させ、開いた場所から中へと入っていった。
「Oh……梓ボーイ。正直、来てくれないのではと思っていたので嬉しく思いマース」
先程までの恐怖が嘘のように、梓を歓迎する。
そんなペガサスに、梓は冷たい視線を向けつつも、ももえとカミューラのもとまで歩いた。
「……相手が誰であれ、どんな苦難が待ち受けていようとも、ショウ子ちゃんの御為ならばどこにでもはせ参じる。それが私達、『ショウ子ちゃん応援団』です」
梓を中心に、ももえとカミューラが左右に立つ。そこに、ペガサスの目には見えないマナも加わった、『ショウ子ちゃん応援団』の宣言だった。
「おお、格好良い……」
(どこがじゃ!?)
とうのショウ子ちゃん本人は、そんな三人、ではなく四人を見ながら感想を漏らす十代に対して、そう心で叫んでいた。
「これが『ショウ子ちゃん応援団』……絆は固いのですね……」
「……で、わざわざ彼女達や、ショウ子ちゃんの名を出してまで、私達を呼び出した理由は?」
梓は、部屋に入った時と同じ、冷たい目を向けながら、ペガサスへ歩いていく。
「念のためはっきり言っておきますが……」
「What?」
ペガサスに近づく梓の右手には、いつの間にやら刀が握られていた。
「もし、仮に、万が一……私からシンクロモンスターのことを聞き出すがために、彼女達やショウ子ちゃんを人質に取る気なら……」
そして、ペガサスの目の前に立ち、その首筋に、いつの間にやら抜かれた刃をあてがう。
「この部屋から、生きて出られると思うなよ……」
「O、Oh……」
「こら! やめなさい梓くん!」
そんな梓の凶行に、さすがの鮫島も声を上げた。
「梓さん、落ちついて! 殺しちゃダメだドン!」
「やめろ! その人まだ、お前らや翔、子ちゃんに何かしたわけじゃないだろう!」
「梓君! 今日まで決闘モンスターズが発展してきたのは、誰のおかげだと思っているのかね?」
「『高橋和希』大先生でしょう?」
「だからそれだれ?」
「Who is that?」
「この男のおかげだと言いたいのでしょう。あいにく、私達のショウ子ちゃんを危険に晒そうと考える男に、慈悲も敬意も持ち合わせる気などないので……」
その目には、ハッタリや冗談は全く無い。
目の前の男を、確かに殺してやろう。そんな殺気を、この部屋の誰もが感じた。
「ふぅん……随分と血気盛んなことだ」
誰もが梓とペガサスに注目している中、校長室の扉から、そんな声が響く。
低音ながら力強く、若くも厳格な声。
「……え? あの人って……」
「マジかドン……!」
十代に剣山も、翔も、ショウ子ちゃん応援団の二人(三人)も、鮫島まで、その声の主を見て、唖然としていた。
「Oh、海馬ボーイ! 来て下さいましたか」
「ふぅん……新カード開発のための新情報となれば、この俺とて断る理由は無い。ついでに、この部屋の前にたむろしていたうるさい生徒どもも追い返しておいた」
「部屋の前にたむろ? なんで?」
「ショウ子ちゃんのファンの方々でしょう。ここで待っていれば、ショウ子ちゃんの正体を突き止められると思ったのでしょうね……」
十代の疑問に答えつつ、梓は刀を鞘にしまった。
「貴様か。水瀬梓……アカデミアの凶王とかいう男は?」
「いかにも、私の名は水瀬梓ですが、それがなにか? 『海馬 瀬人』さん?」
梓は名乗りながら、部屋の中へ入ってきた、白いコートをなびかせる、長身で茶髪の青年と、目を突き合わせる。
並び立ってみると、二人の身長差はかなりのものだった。
海馬瀬人は、自身の胸元の高さにある顔を見下ろしながら、声を掛けた。
「ここへ来たのは、我が海馬コーポレーションがペガサスと共同開発し、最近になってようやくカード化にこぎつけたシンクロモンスターを、決闘アカデミアに通う一生徒が、既に何枚も使いこなしているという連絡を受けたからだ」
「ええ。その一生徒が私というわけです」
そんな海馬の顔を見上げながら、梓は物怖じすることなく、声を返していた。
「分かっているならば話は早い。お前の持つシンクロモンスターのカード。潔く渡すなら良し。嫌だというなら……」
「渡せと言われて、はいそうですかと決闘者の命を簡単に渡す決闘者がいるとお思いか?」
そんな二人の放つ空気に、部屋に集まっている者達は、戦慄し、固まっていく。
「それとも、私を追い詰めて力づくで奪い取りますか? あなたが、今ではあなたの魂のカードと呼ばれる、三枚の『
梓は海馬を相手に一切臆すことなく、言葉を紡いでいった。
「一部では有名な逸話ですからねぇ。世界に四枚しか存在しないブルーアイズのうち、三枚を手に入れるために、所有者三人の人生を破滅させ、一人は自殺に追い込んだとか?」
「ふぅん……貴様はそこまでせずとも、既にこのアカデミアにいられなくなる程度のことをしてきたようだがな」
海馬はほくそ笑みながら、梓へ言葉を返す。
「校内施設及び備品の破壊。生徒への恫喝及び暴力。長期に渡る授業の無断欠席……」
「それらについては既に許しを得ている。賠償がお望みなら一向に構いませんが?」
「更に、ここ一ヶ月の間に二十人以上のオベリスクブルーが辞めていった。表向きは自主退学ということになっているが、十人ほど適当な生徒に尋ねてみれば、皆一様に真実を答えたわ。二十人全員、お前に脅されたから辞めていったとな。そして脅した理由が、たかが小娘一人に対して行われた、その二十人によるイジメときた」
「たかが小娘一人に対するイジメを、止めることもせず放置してきた無能どもを教師として雇っていた男に、とやかく文句を言われる筋合いはありませんね……」
「……」
そんな言葉には、鮫島は思わず目を閉じ、心を痛めた。
「理由はどうあれ、少なくとも貴様を退学にするだけの材料は十分にある。なんなら今ここで、貴様が守ったとかいうその小娘ともども、仲良く退学処分にしてやろうか?」
「私だけでなく、彼女も……あなたがそういう態度で来るなら致し方ない。私としても、あなたの大切な弟ぎみを誘拐するより仕方がありませんね」
「……」
「……」
「面白いことを言う……たかが一学生が、我が海馬コーポレーションから、モクバをどうやって連れ去ろうと言うのだ?」
梓は答える代わりに背中を向け、走った。
コンマ二秒と掛からず部屋を一周し、元の位置に戻った瞬間、校長室に飾られている絵画、花瓶、鮫島の隣に置かれている観葉植物、机の上の置物、それらが全て、真っ二つに切り裂かれた。
「貴様……本気で我が海馬コーポレーションを敵に回そうというのだな?」
「それはあなた次第だ。お望みとあらば、今すぐあなたの会社に出向いて、従業員の方々全員の生首を社長室に飾ってさしあげようか?」
「……」
「……」
海馬が見下ろし、梓が見上げる。そんな二人が交わす強烈な視線と、強烈な空気に、誰もが息を呑み、声を失い、身構えてしまう。
最初はカードやアイドルの話だったはずなのに、それがいつの間にか、たった一人の少年が、国家規模の大企業を相手に戦争を仕掛けようかという話になってしまった。
そんな会話を平然と行う二人が放つのは、下手な口出しや、ちょっとした息遣いすらためらわせる、強烈な敵対心だった。
「……」
「……」
そんな二人の放つ空気を破ったのは……
「ハーイ! 殺伐とした話しはそのくらいにネー」
そんな、陽気なアメリカンの掛け声だった。
「海馬ボーイ。私は力づくでカードを奪うためにあなたを呼び出したわけではありまセーン。クールにネ。落ち着いて」
「……ちっ」
「梓ボーイも。暴力を振いたいわけではないでしょう? 私達はただ、平和的に話し合いがしたいだけなのデース」
「……ふん」
梓はそっぽを向きながら、一枚のカードを取り出した。
「欲しければ持っていきなさい。どの道、今日のようなことになるので、大会の間は使うことができないカードです」
「……」
「もっとも、それ一枚だけでどうにかできるとも思えませんが……」
「……」
海馬は怪訝な表情を見せながらも、そのカードを受け取った。
「『神海竜ギシルノドン』……シンクロモンスターに間違いないな」
「確かに……しかし、これは私の前で召喚したものとは違いマース。あなたはこのカード以外に、何枚も持っているのですか?」
「持っていますが……少なくとも、あなたに見せた、三枚の龍だけは、間違っても絶対に他人に渡せるカードではない」
「OK、OK。そう怖い顔をしないで下サーイ。このカードも解析が済み次第、速やかに返却すると約束しマース」
ペガサスが相変わらず陽気に返事をしている間に、海馬はそのカードに目を通した。
「レベルは5、召喚に必要なのはチューナーと、チューナー以外のレベル3モンスター……随分限定的だが、なるほどそれに見合った強力な効果を有しているな」
「お望みなら、チューナーモンスターも持っていきますか?」
「いらん。チューナーは既に開発は完了している」
そう言うと、海馬は梓とペガサスに背中を向けた。
「早速こいつを解析させてもらうぞ」
「おや……私を退学にするのではなかったのですか?」
帰ろうとしている海馬に、梓はそんな挑発的な声を発した。ペガサスのおかげで弛緩されていた空気が再び凍り付き、生徒の誰もが目を見開いた。
「ふぅん……俺をあまり見くびらんことだ。退学していった二十人が、その小娘を追い出すために女子寮を燃やしたという話も既に調べはついている。貴様が追い出さなければ、そんな連中は俺自らがアカデミアから叩き出している所だ。それほど深刻な事態になるまでイジメを放置してきた、無能教師ども全員と共にな」
鮫島校長を睨み据えながら、そう言い放つ。
鮫島が息を呑むのを無視しながら、再び梓に言った。
「まあ、教師どもの無能さに免じて今回は大目に見てやろう。それでもこの俺を敵に回そうと言うのなら、いつでも掛かって来るがいい。俺は相手が誰であろうが逃げも隠れもしない」
そして今度こそ、校長室を後にしていった。
『……はぁ~……』
海馬の退室と共に、そんな声が部屋中から聞こえ、梓とペガサスを除く全員が座り込んだ。
「皆さん、どうかしました?」
「どうしたじゃねー!!」
一人ピンピンしている梓に向かって、十代が絶叫した。
「お前なぁ! 相手は海馬社長だぞ! 伝説の決闘者の一人! しかもこの学校の持ち主! そんな人がここに来たってだけでめちゃめちゃ緊張したのに、そんな人に向かってなに普通に喧嘩売ってんだよお前!」
「喧嘩? バカをおっしゃい。そんなことするわけが無いでしょう」
そんな梓の答えに、十代や他のメンバー達も、胸を撫で下ろす。
「今の会話だけで、何十回細切れにできる瞬間があったことか。喧嘩をするまでも無く殺してそれで終わりです」
「そういうことじゃねえ! つーか本気であの人殺す気だったのかよ!?」
「十代さんは、あんな男に私が敗けるとでも思ったのですか?」
「そりゃ少なくとも殺し合いでお前に勝てる奴なんていねーよ! けど戦う戦わないってそういうことじゃねーだろう!!」
「トップや要人を真っ先に殺すことは戦争においての常識です」
「だからマジの殺し合いの話してるんじゃねえよ!!」
「まあまあ、兄貴……」
「落ち着いて。これ以上は水掛け論だドン……」
興奮している十代を、翔と剣山が押さえた。
「梓さんも、その話はその辺にしましょう」
「元々、ここへはショウ子ちゃん応援団の招集のために呼ばれたんだし」
『私達はもう用済みなのかもしれませんが、取り敢えず、役目を果たしましょう』
梓も、三人の仲間達によって諭された。
「……結局、一番傷ついたのは私ですね……」
会話の中で、何度も無能と呼ばれた鮫島は、そう一人ごちる。
「何をおっしゃりますか? 校長先生」
そんな鮫島に、梓の優しい声が掛けられる。机の前に立った梓は、優しく笑っていた。
「誰よりも傷ついたのは、陰湿なイジメを受け続けてきた平家あずささんに決まっているでしょう? 私が全員追い出すまで、何もしなかった貴様ら教師どもの無能さの恨み……平家あずささんは赦しても、水瀬梓は生涯赦さないからな……」
「……」
「返事」
「はい……!」
満面の笑みなのに、そんな笑顔に似合わぬドスの効いた声。
鮫島は返事を返しながら固まった。後ろにいる者達も同じだった。
(……その少女、彼にとって本当に大切な人のようですね)
(ああ……梓は友達のことになると容赦しないけど、そいつのことになると特に見境が無くなるくらい怒るんだ)
(ふむ……正直なところ、海馬ボーイを前にしても一切怯むことなく、むしろ少女のために本気で彼を亡き者にしようとするとは……止めはしましたが、私自身戦慄しました)
(ええ……おそらく彼女のためならば、本気で大企業だろうが国一つだろうが滅ぼしかねませんわ。彼はそれだけの力を持っておいでです)
(だから、社長さんも、極力あいつを怒らせない方が良いわよ。私も今でこそ仲間で仲良くしてるけど、昔、あいつの友達にちょっかい出して、怒ったあいつに後ろから刺されて危うく死にかけたんだから)
(Wow……)
(まあ、友達や仲間が関わらなければ、普段は本当に優しいんだけどね。それだけ怒るのも、それだけ純粋で優しいって証拠だし……)
(なるほど……)
「どうかしましたか?」
「いいや! なんでもない!」
部屋の中心に集まり、ヒソヒソ声で話し合っていたメンバーに、鮫島から振り返った梓は尋ねた。そして、十代が笑顔を見せながら答えた。
「そう言えば会長さん、社長さんも言ってたけど、シンクロモンスター、とっくに開発されて完成してるんだって?」
話題を変えるため、ペガサスに対してそう話しを振る。
だが、ペガサスは首を横に振った。
「No……確かにカード化は実現していますが、それを量産し、一般に流通させることができて初めてカードとして完成するのデース。先程も言いましたが、シンクロモンスターを仮想立体映像として安定させるには莫大なエネルギーが必要デース。現在の技術力では、エネルギーの生産と消費の効率が非常に悪く、ただカードとして作ったところで機能しない状態となりマース。実際、現段階では、二枚のカードを使用可能にするのが限界でした」
「……よく分からないけど、つまり、その二枚しかシンクロモンスターは開発できなかったってわけか」
「Yes。彼から受け取ったカードを解析し、使用されているエネルギーが何かを突きとめることができれば、真の意味でカードを完成させることができるのデスが……」
「じゃあ、上手くいけば来年には俺達もシンクロモンスターが使えるかもしれないってことだな!」
「断言はできませんが、解析結果によってはそうなる可能性は大いにありマース」
(……無理でしょうね)
ペガサスの話しに盛り上がる十代達を眺めながら、梓は一人、そう冷めた言葉を思談した。
(仮に、解析が上手くいったとしても、その莫大なエネルギーの源……『モーメント』が、この時代にはまだ発見されていないのだから……)
「けどさ、少なくとも、二枚のシンクロモンスターはカード化してるってことだよな?」
「Yes。その通り。実はそのテストプレイのために、鮫島校長に許可を貰い、そのスタッフを大会に参加させているところデース」
「マジ!? てことは、シンクロモンスターを使う奴が他にもいるってことか?」
「ええ。もっとも、本人はあくまで開発スタッフの一員でしかないので、決闘者ではない自分には使いこなせないと嘆いておりましたが。なので、決闘で相手を見定め、真にそのカード達を使うにふさわしい者を探し出すと言っておりました」
「じゃあさじゃあさ! もしかしたら俺が選ばれるかも知れねーってこと?」
「あなたと出会い、見極められればそれもあり得るかも知れまセーン」
「すげー!」
大はしゃぎしている十代を見ながら、ペガサスは、窓へ視線を移した。
「既に今も、この島のどこかにいるはずデース」
窓の外を眺めながら、自ら開発したカードのことと、これからの決闘の可能性を、決闘モンスターズの生みの親は願っていた。
「それはそうと、早くショウ子ガールに会いたいのデース」
「え? あ、ああ……」
「それは、その……」
……
…………
………………
視点:外
「……」
十代達が、校長室でそんな会話をした数時間後。
太陽はすっかり沈み、代わりに月光に照らされている。そんな島の波打ち際を、男が一人歩いていた。
「確かこの辺で……お?」
男は、探していたものを見つけだし、そちらへ向かって歩き出した。
『いやぁ~~~~~ん!!』
『助けてくれー!!』
『俺達は、食っても美味しく無いぞー!!』
そこには、半透明な生き物が三人、プカプカと浮いていた。
そして、そんな三人の生き物がそのまま描かれたカードが、カニの群れの中にあった。
男は、そんな三枚のカードをカニから救出した。
「どうしたお前ら? ご主人様に捨てられちまったか?」
男には、そんな三人の姿が見えているようで、陽気に話しかけていた。
「……まあ、こんな見た目にステータスじゃあ、捨てられても文句は言えねえか……」
『違うのよー!! オイラ達のアニキは、操られちゃってるのよー!!』
『おジャマ・イエロー』は、そう号泣しながら叫んでいた。
『悪い奴に操られて、オレ達の姿が見えなくされちまったんだ!!』
『帰りたいよー! 万丈目のアニキー!!』
『おジャマ・グリーン』、『おジャマ・ブラック』も、そう悲鳴を上げた。
「そうなのか……じゃあ、俺がそいつの所へ連れていってやる」
『本当?』
「任せとけ」
男は、三人に優しく語り掛けながら、三枚のカードをポケットにしまった。
『いや~ん! お兄さんありがと~!』
「ウィラーでいいぞ」
「『ウィラー・メット』。俺の名前だ」
……
…………
………………
そして、別の場所には、当然別の女がいた。
「この島か……」
島を、自身を照らす月光を見上げながら、短い金髪の輝くその女は、呟いていた。
「すぐに会いに行くからね……」
そんな女の周囲には、数匹のコウモリ達が羽ばたいていた。
そんなコウモリの羽ばたきと共に、女は姿を消した。
お疲れ~。
な、なにものなんだ、さいごのふたりわー……
さ~て、何とか年内に二日目を完結させましたわい。
まあ、次話もいつになるか分からねえんだがよぉ……
待っててくれる人には言っておきたい。
良いお年をー。
ほんでもって、ちょっと待ってて。