遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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あのさぁ……
今更だけど年も明けたし、ちょこっと叫びたい気分だからこの場で叫ぶねー……



おかえりいいいい!! ブリュゥゥナァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアエエエアアアアアアアアアアアアアァァァァ……



あースッキリした……

三日目いくでよ~。
さぁてぇ、今日の決闘は誰かなぁ~。
行ってらっしゃい。




三日目:可能性の竜

視点:外

 

「この天上院明日香が! 金やチヤホヤされるために決闘をやっていると思っていたのかァ――――――ッ!!」

 

 

 ジェネックス三日目。

 二日目だけでも既に、大量の学生、プロ決闘者達が脱落していった。

 それでも、残った人数はまだまだ多い。

 そんな盛り上がりを見せる島内で、ここでまた一つ、決闘が行われようとしていた。

 

「僕と決闘しないかい?」

 淡い緑色の髪の青年が、青い着物を着た長髪の少年に対して、声を掛けていた。

(プロランキング六位、『青山(あおやま) 翔吾(しょうご)』さん。プロでも随一の、そして、少々独特なドラゴン使い……)

「良いでしょう。大会が始まって三日……私もいい加減、プロ決闘者と闘ってみたいと思っていたところです」

 

『決闘!!』

 

 

翔吾

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「先行は僕だ。ドロー」

 

翔吾

手札:5→6

 

「僕は『黒竜の(ひな)』を召喚」

 

『黒竜の雛』

 レベル1

 攻撃力800

 

「更に、このカードを墓地へ送ることで、手札の『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』を特殊召喚!」

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)

 レベル7

 攻撃力2400

 

(早速来ましたか。翔吾さんの代名詞。それも、今では絶対に手に入らない、『バンダイ版』のデザイン……)

 

 レッドアイズもまた、『ブラック・マジシャン』以上に入手困難なレアカードではあったが、伝説の決闘者の一人であり、決闘王(キング・オブ・デュエリスト)の称号を冠する『武藤遊戯』が決闘街(バトルシティ)準決勝にて使用したことで、人気に火が点き量産されたカードだった。

 もっとも、それもまた『ブラック・マジシャン』と同じように、元来流通していた物とはデザインがかなり変更されたレプリカのカード。公式決闘での使用には何ら問題ないが、元のデザインのそれとでは、その価値は天と地ほど差がある。

 彼が召喚したのは、そんな初期のデザインの『レッドアイズ』の中でも、そのデザインの美しさと希少さから、通称『万代(バンダイ)版』と呼ばれる特に希少なもの。

 最初期にデザインされた物ながら、構図等による印刷不良の問題が起きたことで、登場して間もなく武藤遊戯が使用していたデザインに変更されることとった。結果世に十枚と流通することはなく、現代ではマニアが喉から手を出したところで絶対に手に入らない幻のカードとなった。

 

「決闘者の間では有名ですが、そんな希少なカードを持っているとは。かなりの幸運ですね」

「まあね。小学生の頃、お婆さんが経営してる小さなお店で偶然手に入れたものさ。当時からプレイヤーの間でも伝説のレアカードと言われていたが、パックを買えば誰にも手に入れられる可能性はあったからね。小学生の頃からの、特別なカードさ」

「……とは言え、いくら希少なレアカードであろうが、所詮はタカが攻撃力2400の通常モンスター。それだけでプロの世界を生き抜くことはできないでしょう?」

 そんな挑発めいた梓の言葉にも、翔吾は笑顔で返した。

「まあね。当時と違って、今じゃ強いカードもたくさん増えて、このカードだけじゃ絶対に勝てない。真に思い入れのあるカードがあるなら、その力を最大限に発揮できるデッキを考えるのが勝利の秘訣さ」

 持論を語りながら、手札のカードに手を伸ばした。

「カードを二枚伏せる。これでターンを終了しよう」

 

 

翔吾

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『真紅眼の黒竜』攻撃力2400

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「私のターン」

 

手札:5→6

 

「永続魔法『ウォーターハザード』発動。相手フィールドにのみモンスターが存在する時、手札のレベル4以下の水属性モンスター一体を特殊召喚します。私は『ライオ・アリゲーター』を特殊召喚」

 

『ライオ・アリゲーター』

 レベル4

 攻撃力1900

 

「更に、『氷結界の武士』を召喚」

 

『氷結界の武士』

 レベル4

 攻撃力1800

 

「更に、フィールド魔法『ウォーターワールド』。これにより、フィールドの水属性モンスターの攻撃力は500アップし、守備力は400ダウンします」

 

『ライオ・アリゲーター』

 攻撃力1900+500

『氷結界の武士』

 攻撃力1800+500

 

「バトルです。『ライオ・アリゲーター』で、『真紅眼の黒竜』を攻撃します」

「攻撃力は同じ。相打ち狙いか……」

 タテガミのワニはその大きな顎を開いて突撃し、黒竜は火球で迎撃する。連射される火球を、ワニは『ウォーターワールド』の海を泳いで避けていった。

 やがて、二人は目の前に対峙し……

「ならば、罠発動『メタル化・魔法反射装甲』!」

 ワニが黒竜の身に食らいついた瞬間、その身が硬い鋼鉄に変化する。

 そんなものをワニの顎で噛み砕けるはずもなく、逆にワニの歯全てが砕かれた。

「このカードは発動後装備カードとなり、装備モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせる」

 

『真紅眼の黒竜』

 攻撃力2400+300

 

「迎え撃て! 『真紅眼の黒竜』、黒炎弾(こくえんだん)!」

 鋼を纏った黒竜が火炎を放ち、ワニはその火球をまともに浴びたことで燃え尽きた。

 

LP:4000→3700

 

「これ以上の攻撃は不可能ですね……私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

LP:3700

手札:1枚

場 :モンスター

   『氷結界の武士』攻撃力1800+500

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    セット

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

翔吾

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『真紅眼の黒竜』攻撃力2400+300

   魔法・罠

    通常罠『メタル化・魔法反射装甲』

    セット

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

翔吾

手札:2→3

 

「魔法カード『天使の施し』。カードを三枚ドローし、二枚を捨てる。更にこの瞬間、罠カード『堕天使の施し』。魔法カードの効果で捨てたカードを手札に加える」

 

翔吾

手札:3→5

 

「……僕は魔法カード『黒炎弾』を発動する。自分フィールドの『真紅眼の黒竜』一体の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える」

 黒竜の口から、再び巨大な火球が飛び、それが梓を襲った。

「ぐぅ……!」

 

LP:3700→1300

 

「このカードを発動したターン、『真紅眼の黒竜』は攻撃できない。そこでだ……」

「まさか……あのカードが、デッキに入っているのですか?」

「あはは……僕も入れるべきか迷ったんだけどね。単体じゃ役に立たないし、普通に攻撃した方が強いから。けど、こんな時は便利だ。何より……」

 苦笑から、不敵な笑みになり、デッキから一枚のカードを取り出す。

「せっかくメタル化を使ったんだ。入っていた方が、見てる人達も楽しめるだろう? メタル化を装備したレッドアイズを生贄に、デッキから、『レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン』を特殊召喚する!」

 直前までフィールドにいた黒竜よりも、遥かに硬く、強い輝きを放つ鋼の竜。

 それが彼の前に現れ、梓を見下ろした。

 

『レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「さすがはプロ、考えられている。ただ特殊召喚するだけで喜んでいた誰かさんとは違うわけだ……」

 

 

 同じ頃、決闘アカデミアノース校では……

「……ハックシュ!」

「江戸川さん、風邪ですか?」

「いや……誰か俺の噂でもしてるのか?」

 

 

「ただ、このカードは機械族なんだよねぇ……僕は更に、『竜の尖兵』を召喚」

 

『竜の尖兵』

 レベル4

 攻撃力1700

 

「バトルだ! 『レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン』で、『氷結界の武士』を攻撃。黒炎弾(ダーク・メガ・フレア)!」

 鋼の竜の口から、更に強力になった火球が放たれる。それが氷の武士にぶつかり、燃やし尽くした。

 

LP:1300→800

 

「続けて、『竜の尖兵』で直接攻撃」

「それは止めます。罠発動『ガードブロック』! 戦闘ダメージを一度だけ無効とし、カードを一枚ドローします」

 梓がカードをドローし、前に掲げ、突撃してきた竜の槍を受け止めた。

 

手札:1→2

 

「手札を増やしたか……一枚セット。これでターンを終了する」

 

 

翔吾

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン』攻撃力2800

   『竜の尖兵』攻撃力1700

   魔法・罠

    セット

 

LP:800

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

 

「少々ピンチですね……私のターン」

 

手札:2→3

 

「……『ウォーターハザード』の効果により、手札の『ヒゲアンコウ』を特殊召喚」

 

『ヒゲアンコウ』

 レベル4

 守備力1600-500

 

「それは、ダブルコストモンスターか!」

「そう。水属性モンスターを生贄召喚する際、このカードは二体分の生贄に使用できる。『ヒゲアンコウ』を生贄に捧げ、『氷結界の虎将 ガンターラ』を召喚」

 

『氷結界の虎将 ガンターラ』

 レベル7

 攻撃力2700+500

 

「上級モンスターが来たか……」

「バトルです。ガンターラで、『レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン』を攻撃! 『凍撃輪舞』!」

 ガンターラが、鋼の竜に向かって回し蹴りを放つ。硬い鋼鉄が蹴り砕かれ、墓地へ送られた。

 

翔吾

LP:4000→3600

 

「私は更に、永続魔法『生還の宝札』を発動。カードを一枚伏せターンエンド。そしてこの瞬間、ガンターラの効果により、ターン終了と共に墓地の『氷結界』を特殊召喚します。武士を召喚。そして、墓地のモンスターが特殊召喚されたことで、カードを一枚ドロー」

 

『氷結界の武士』

 レベル4

 攻撃力1800+500

 

手札:0→1

 

 

LP:800

手札:1枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700+500

   『氷結界の武士』攻撃力1800+500

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

翔吾

LP:3600

手札:2枚

場 :モンスター

   『竜の尖兵』攻撃力1700

   魔法・罠

    セット

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

翔吾

手札:2→3

 

「ここでこれか……儀式魔法『レッドアイズ・トランスマイグレーション』発動!」

「儀式魔法……!」

「レベルの合計が8になるよう、手札かフィールドのモンスターを生贄、または墓地に眠る『レッドアイズ』モンスターを除外することで、儀式召喚を行う」

「墓地のレッドアイズ……まさか!」

「そう。僕は墓地に眠る、レベル8の『レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン』を除外し、儀式召喚! 『ロード・オブ・ザ・レッド』!」

 カードが発動され、墓地に眠るブラックメタルが闇に消える。

 その瞬間、青い海のフィールドを真っ赤な炎が包み込み、やがてそれが一箇所に集まる。

 それが消えた時、そこにはレッドアイズを彷彿とさせる、巨大な翼を持った漆黒の鎧の戦士が立っていた。

 

『ロード・オブ・ザ・レッド』儀式

 レベル8

 攻撃力2400

 

「レッドアイズの、儀式モンスター……ですが、そのモンスターでは、ガンターラの攻撃力に届きません」

「罠発動『竜の転生』。『竜の尖兵』を除外することで、墓地の『真紅眼の黒竜』を特殊召喚する」

 

『真紅眼の黒竜』

 レベル7

 攻撃力2400

 

「そしてこの瞬間、『ロード・オブ・ザ・レッド』の第一の効果。一ターンに一度、自分または相手が『ロード・オブ・ザ・レッド』以外のモンスター、魔法、罠の効果を発動した時、フィールドのモンスター一体を破壊できる。僕はこの効果で、ガンターラを破壊する!」

 『ロード・オブ・ザ・レッド』が、広げた翼を翻す。そこから炎の風が起こり、ガンターラを燃やし尽くした。

「バトルだ。『ロード・オブ・ザ・レッド』で、武士を攻撃!」

 再び背中の翼を広げ、天へ舞い上がる。天高く舞い上がったその身は真っ赤な業火に包まれ、その身で武士に向かって急降下した。

「ぐぅ……!」

 

LP:800→700

 

「そして、レッドアイズの攻撃!」

「させない! 相手のダイレクトアタック時、手札の『バトルフェーダー』を特殊召喚! バトルフェイズを終了します」

 

『バトルフェーダー』

 レベル1

 守備力0

 

「あちゃあ……けど、こちらも『ロード・オブ・ザ・レッド』の第二の効果を発動。一ターンに一度、自分または相手が『ロード・オブ・ザ・レッド』以外のモンスター、魔法、罠の効果を発動した時、フィールドの魔法・罠一枚を破壊できる。破壊するのは、フィールド魔法『ウォーターワールド』だ」

 再び『ロード・オブ・ザ・レッド』の翼から、炎の風が巻き起こる。

 それが、フィールド全体を包んでいた青い海を蒸発させ、フィールド魔法を破壊した。

「カードをセット。これでターンエンドだ」

 

 

翔吾

LP:3600

手札:0枚

場 :モンスター

   『ロード・オブ・ザ・レッド』攻撃力2400

   『真紅眼の黒竜』攻撃力2400

   魔法・罠

    セット

 

LP:700

手札:0枚

場 :モンスター

   『バトルフェーダー』守備力0

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

 

「私のターン!」

 

手札:0→1

 

「……私は『バトルフェーダー』を生贄に、『氷結界の虎将 ライホウ』を召喚」

 

『氷結界の虎将 ライホウ』

 レベル6

 攻撃力2100

 

「自身の効果で特殊召喚された『バトルフェーダー』は、フィールドを離れた時除外される。更に、永続罠『リビングデッドの呼び声』! 墓地に眠る『氷結界の虎将 ガンターラ』を特殊召喚」

 

『氷結界の虎将 ガンターラ』

 レベル7

 攻撃力2700

 

「この瞬間、『ロード・オブ・ザ・レッド』の効果発動!」

「無駄です。ライホウが場にある限り、相手は手札を一枚捨てなければ、発動したモンスター効果は無効になります」

「なに……! 僕の手札はゼロ……」

「よって、『ロード・オブ・ザ・レッド』の効果は無効」

 効果の発動によって、翼から放たれた『ロード・オブ・ザ・レッド』の炎は、ライホウの振う扇子の吹雪に掻き消された。

「更に、『生還の宝札』の効果でカードをドローします」

 

手札:0→1

 

「……魔法カード『壺の中の魔術書』発動。互いのプレイヤーは、カードを三枚ドローします」

 

手札:0→3

 

翔吾

手札:0→3

 

「バトルです。『氷結界の虎将 ガンターラ』で、『ロード・オブ・ザ・レッド』で攻撃。凍撃輪舞」

 鎧戦士の燃える拳と、虎将の凍てつく拳。ぶつかり合い、押し合いとなり、勝利したのは氷の一撃だった。

 

翔吾

LP:3600→3300

 

「ライホウで、『真紅眼の黒竜』を攻撃」

「攻撃力はこちらが上……何かあるわけだね」

「当然です。速攻魔法『月の書』! モンスター一体を裏守備表示にします。対象は当然、『真紅眼の黒竜』」

 

 セット(『真紅眼の黒竜』守備力2000)

 

「冷奏演舞」

 巨大な黒竜が裏側のカードに変わる。そこに向かった扇子からの冷気が、黒竜の放った黒炎を掻き消しながら、黒竜を凍りつかせた。

「カードを伏せます。ターンエンドと同時に、ガンターラの効果で再び武士を蘇生。同時に、宝札の効果でカードをドロー」

 

『氷結界の武士』

 レベル4

 攻撃力1800

 

手札:1→2

 

「ならこの瞬間、僕も使うよ。永続罠『リビングデッドの呼び声』!」

 

『真紅眼の黒竜』

 レベル7

 攻撃力2400

 

 

LP:700

手札:2枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100

   『氷結界の武士』攻撃力1800

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    永続魔法『生還の宝札』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

 

翔吾

LP:3300

手札:3枚

場 :モンスター

   『真紅眼の黒竜』攻撃力2400

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「また蘇った……徹底してレッドアイズにこだわったその戦略。見事です」

「ありがとう。僕のターン」

 

翔吾

手札:3→4

 

「『強欲な壺』。カードを二枚ドローする」

 

翔吾

手札:3→5

 

「……こんな言葉を知ってるかな?」

「何ですか?」

「蒼き龍は勝利をもたらす。しかし、紅き竜がもたらすものは勝利に非ず、可能性なり」

「……ただし、戦う勇気がある者だけに」

「へぇ? 知ってるんだね。もっとも、これはレッドアイズに限った話じゃない。決闘はどんな局面に立たされようとも、諦めない限り必ず希望はある。僕は昔、ある人からそのことを教わった」

「ええ。そして、その希望を見出し引き出すことができるかどうか。それもまた、勝負を諦めない勇気を持ち続けた者のみに届く力だ」

「そう。だから僕は、最後の瞬間まで勇気を捨てない。ライフがゼロにならない限り。なにより……」

 言葉を切りながら、自らのフィールドに立つ、最愛の竜を一瞥した。

「今日まで僕と共に闘ってきてくれた、レッドアイズが共にある限り」

 笑顔のまま宣言し、手札のカードを取った。

「これが、レッドアイズの可能性の一つ……魔法カード『融合』発動!」

「『融合』……!」

「場のレッドアイズと、手札の『融合呪印生物-闇』を融合!」

 場のレッドアイズ、そして、禍々しい黒岩のモンスターが交じりあう。

 そこからこれまで以上に激しい炎が燃え上がり、爆発し、その中から誕生したものがフィールドに降り立つ。

「融合召喚! 『メテオ・ブラック・ドラゴン』!」

 

『メテオ・ブラック・ドラゴン』融合

 レベル8

 攻撃力3500

 

「これは……!」

「まだだ。更に魔法カード『龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)』! 墓地またはフィールドのモンスターを除外することで、ドラゴン族モンスターの融合召喚を行う。墓地に眠るレッドアイズ、『融合呪印生物-闇』を除外!」

 これまでとは打って変わった、激しく巨大ではあるが、世界の全てを闇に落とすような、漆黒の炎が場を包んだ。

「融合召喚! 『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』!」

 その炎が晴れると共に、その不気味な炎を体現したような、悪魔的な外骨格に覆われた、禍々しくも強大な竜が現れた。

 

『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』融合

 レベル9

 攻撃力3200

 

「レッドアイズの融合体が二体も……!」

「『融合呪印生物』は融合素材代用モンスターだ。正規の素材より分面白みに欠けるかもだけど、連続融合には不可欠な力だからね」

「……これが、レッドアイズの可能性……」

「バトルだ。『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』で、ライホウを攻撃! メテオ・フレア! 『メテオ・ブラック・ドラゴン』で、ガンターラを攻撃! メテオ・ダイブ!」

 遥かに熱く、大きく、強くなった炎。その火球がライホウを燃やし、その炎を纏った巨竜の突進が、ガンターラを粉砕した。

「ぐぅあああ……!」

 

LP:700→800

 

「……あれ? なぜライフがゼロになってないんだい?」

「ふぅ……私は攻撃される直前、速攻魔法『非常食』を発動させていました。私の場の『ウォーターハザード』と『生還の宝札』を墓地へ送り、ライフを2000ポイント回復していたのです」

「なるほど……僕はカードを一枚セット。これでターンエンドだ」

 

 

翔吾

LP:3300

手札:1枚

場 :モンスター

   『メテオ・ブラック・ドラゴン』攻撃力3500

   『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』攻撃力3200

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

 

LP:800

手札:2枚

場 :モンスター

   『氷結界の武士』攻撃力1800

   魔法・罠

    無し

 

 

「私のターン!」

 

手札:2→3

 

「希望を捨てていないのは、あなただけではない。魔法カード『天使の施し』発動。カードを三枚ドローし、二枚を捨てます。更に『強欲な壺』発動。カードを更に二枚ドロー」

 

手札:2→4

 

「墓地へ捨てた『フィッシュボーグ-プランター』の効果。デッキの一番上のカードを墓地へ送り、それが水属性モンスターだった場合、墓地より特殊召喚できる。ドロー」

 

『E・HERO アイスエッジ』

 水属性モンスター

 

「効果は成立です。よって、このカードは特殊召喚されます」

 

『フィッシュボーグ-プランター』

 レベル2

 守備力200

 

「そして、魔法カード『ミラクル・フュージョン』! 墓地へ送ったアイスエッジ、そして水属性モンスター『ライオ・アリゲーター』を融合」

 

「融合召喚! 氷結の英雄『E・HERO アブソルートZero』!」

 

『E・HERO アブソルートZero』融合

 レベル8

 攻撃力2500+500×2

 

「攻撃力3500!? メテオ・ブラックと並んだ……!」

「アブソルートZeroはフィールドのZeroを除く水属性モンスターの数だけ、攻撃力を500アップさせる効果があります」

「なるほど。しかも君は、まだ通常召喚が残っている」

「そう……『フィッシュボーグ-プランター』、そして、アブソルートZeroを生贄に捧げ、『氷結界の虎将 グルナード』を召喚!」

「え!?」

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「そんな……わざわざ融合召喚したモンスターを生贄に、攻撃力の低い上級モンスターを生贄召喚なんて、なんのために……」

「あなたのフィールドをごらんなさい」

「ん? ……これは!?」

 そこで、翔吾はようやく気付いた。

 彼のフィールドに吹き荒れる猛吹雪。それに包まれる二体の黒竜。二体ともに包まれ、凍り付き、破壊された。

氷結時代(アイス・エイジ)……Zeroがフィールドを離れた瞬間、相手フィールドのモンスター全てを破壊する効果が発動しました」

「そんな効果が……!」

「これであなたを守るモンスターはいない。更にグルナードが場にある限り、私は通常召喚に加えて氷結界を召喚できる。さあ、出番です……『氷結界の舞姫』!」

 

『氷結界の舞姫』

 レベル4

 攻撃力1700

 

「バトルです。グルナードで、翔吾さんにダイレクトアタック!」

 グルナードの周囲に、無数の氷の剣が円状に現れる。円を描き周ったそれは、やがて停止し、その切っ先を翔吾に向けた。

「数多氷妖刀乱舞!」

 しかし、氷の剣が届く前に、翔吾はカードを発動させた。

「永続罠『闇次元の解放』! ゲームから除外された闇属性モンスター一体を特殊召喚する。来い! レッドアイズ!」

 

『真紅眼の黒竜』

 レベル7

 守備力2000

 

「ブラックドラゴン……? 攻撃は続行です。グルナードで、レッドアイズを攻撃します!」

 翔吾を貫くはずだった氷の剣は向きを変え、彼の盾として現れた黒竜の身を貫いた。

(しかし、なぜより攻撃力の高いブラックメタルを呼び出さなかった? 蘇生制限は満たしていたはず……)

「……そして、『氷結界の舞姫』で……なに!?」

 梓が再び攻撃を開始しようとした瞬間、彼のフィールドに、新たな変化が現れる。

「そのドラゴンは……?」

「自分フィールドのレベル7以下のレッドアイズが破壊され墓地へ送られた瞬間、手札の『真紅眼の遡刻竜(レッドアイズ・トレーサードラゴン)』は守備表示で特殊召喚できる」

 

真紅眼の遡刻竜(レッドアイズ・トレーサードラゴン)

 レベル4

 守備力1600

 

「レッドアイズ、トレーサードラゴン……?」

「そして、このカードの特殊召喚と同時に、破壊されたモンスターは可能な限り特殊召喚する」

 

『真紅眼の黒竜』

 レベル7

 攻撃力2400

 

「確実にレッドアイズを蘇生させ、且つ戦闘ダメージをも防ぐための選択ですか……やむを得ない。『氷結界の舞姫』で、『真紅眼の遡刻竜』を攻撃! 雪斬舞踏宴!」

 青髪の美少女が舞い、両手の輪刀が振るわれる。それが、黒竜よりも小さな体の遡刻竜を切り刻んだ。

「残った武士の攻撃力では、レッドアイズに届かない……カードをセット。ターンエンド」

 

 

LP:800

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 グルナード』攻撃力2800

   『氷結界の舞姫』攻撃力1700

   『氷結界の武士』攻撃力1800

   魔法・罠

    セット

 

翔吾

LP:3300

手札:0枚

場 :モンスター

   『真紅眼の黒竜』攻撃力2400

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「君は本当に凄い。今日まで色々な決闘者と闘ってきたけど、ここまでの決闘は初めてかもしれない」

「お褒めの言葉、光栄です」

「ああ。けど、まだ僕も終わらない。僕とレッドアイズの力はここからだ。ドロー」

 

翔吾

手札:0→1

 

「……僕は魔法カード『馬の骨の対価』を発動。自分フィールドの効果モンスター以外のモンスター一体を墓地へ送り、カードを二枚、ドローする」

 レッドアイズが光に包まれる。それと同時に、彼はデッキに指を置いた。

 

(レッドアイズ……可能性の竜、僕のデッキの象徴、最愛のパートナー……そんな君の魂は、無駄にはしない!)

 

翔吾

手札:0→2

 

「……よし、揃った!」

「む……!」

「僕は魔法カード『魂の解放』を発動! 互いの墓地に眠るモンスターを五枚まで除外できる。僕は墓地から、この四枚を除外」

 

『真紅眼の黒竜』

『ロード・オブ・ザ・レッド』

『メテオ・ブラック・ドラゴン』

『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』

 

「除外……まさか!」

「さすがに知っているね。更に僕は、ライフ2000ポイントをコストに、魔法カード『次元融合』を発動! 互いにゲームから除外されているモンスターを、可能な限り特殊召喚する!」

 

翔吾

LP:3300→1300

 

「来い、僕のモンスター達!」

 

『真紅眼の黒竜』

 レベル7

 攻撃力2400

『レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン』

 レベル8

 攻撃力2800

『ロード・オブ・ザ・レッド』儀式

 レベル8

 攻撃力2400

『メテオ・ブラック・ドラゴン』融合

 レベル8

 攻撃力3500

『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』融合

 レベル9

 攻撃力3200

 

「く……来なさい、私のモンスター達!」

 

『E・HERO アイスエッジ』

 レベル3

 守備力900

『ライオ・アリゲーター』

 レベル4

 守備力200

 

「互いのフィールドは埋まったけど、攻撃力はこちらが圧倒的だよ」

「ぬぅ……」

「さあ、バトルだ! 『メテオ・ブラック・ドラゴン』で、グルナードを攻撃! メテオ・ダイブ!」

 最も巨大な黒竜が、その身に再び爆炎を纏う。それが、グルナードへと突撃していく。

「罠発動『和睦の使者』! このターン、私の場のモンスターは戦闘では破壊されず、ダメージもゼロとなる!」

 グルナードの目の前に、青い衣の修道女が現れる。それが突撃してきた黒竜の攻撃を、優しく受け止めた。

「防がれたか……けど、君が罠を発動したことで、『ロード・オブ・ザ・レッド』の効果が発動。グルナードを破壊する」

 黒竜の突撃からは守られたグルナードだったが、直後の竜戦士の放った炎には、成すすべなく燃やされてしまった。

「これ以上の攻撃は意味が無い。僕はこれでターンエンドだ」

 

 

翔吾

LP:1300

手札:0枚

場 :モンスター

   『真紅眼の黒竜』攻撃力2400

   『レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン』攻撃力2800

   『ロード・オブ・ザ・レッド』攻撃力2400

   『メテオ・ブラック・ドラゴン』攻撃力3500

   『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』攻撃力3200

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

LP:800

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の舞姫』攻撃力1700

   『氷結界の武士』攻撃力1800

   『E・HERO アイスエッジ』守備力900

   『ライオ・アリゲーター』守備力200

   魔法・罠

    無し

 

 

「私の……ターン!」

 

手札:0→1

 

「私は、『氷結界の武士』を守備表示に変更」

 

『氷結界の武士』

 守備力1500

 

「この瞬間、武士の効果発動。武士自身を破壊し、カードを一枚、ドローする」

 

手札:1→2

 

「……だが同時に、『ロード・オブ・ザ・レッド』の効果も発動。僕は君の場の、アイスエッジを破壊する」

(く……手札を一枚捨てることで発動する直接攻撃を読まれたか。それとも、再びアブソルートZeroの融合素材となることを警戒されたか……)

「いずれにせよ、このターンが勝負ですね。『氷結界の舞姫』を守備表示に変更」

 

『氷結界の舞姫』

 守備力900

 

「『氷結界の伝道師』を召喚」

 

『氷結界の伝道師』

 レベル2

 守備力400

 

「『氷結界の伝道師』の効果。このカードを生贄に捧げることで、墓地に眠る氷結界を特殊召喚できる。私が呼び出すのは、『氷結界の虎将 ガンターラ』」

 

『氷結界の虎将 ガンターラ』

 レベル7

 攻撃力2700

 

「バトルです。ガンターラで、『ロード・オブ・ザ・レッド』を攻撃! 凍撃輪舞!」

「ぐぅ……!」

 

翔吾

LP:1300→1000

 

「カードを伏せます。そしてこのエンドフェイズ、ガンターラのモンスター効果。墓地に眠る氷結界一体を特殊召喚できる。私が特殊召喚するのは、『氷結界の守護陣』」

 

『氷結界の守護陣』チューナー

 レベル3

 守備力1600

 

「守護陣がフィールドに他の氷結界と共に存在する限り、あなたは守護陣の守備力を超える攻撃力を持つモンスターで攻撃できなくなります」

「なに? そんなモンスターいつの間に……そうか。『天使の施し』の時か」

「これでターンエンドです」

 

 

LP:800

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   『氷結界の舞姫』守備力900

   『ライオ・アリゲーター』守備力200

   魔法・罠

    セット

 

翔吾

LP:1000

手札:0枚

場 :モンスター

   『真紅眼の黒竜』攻撃力2400

   『レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン』攻撃力2800

   『メテオ・ブラック・ドラゴン』攻撃力3500

   『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』攻撃力3200

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「お互い、思うように攻めきれない。ライフはほぼ互角だけど、下手をすれば一撃で決まる数値。相手の布陣を突破するカードをどちらが先に引くかの勝負だね」

「……」

「いくよ。僕のターン!」

 

翔吾

手札:0→1

 

「魔法カード『マジック・プランター』。『リビングデッドの呼び声』を墓地へ送り、ドロー」

 

翔吾

手札:0→2

 

「……一枚セットする。レッドアイズに装備魔法『ファイティング・スピリッツ』を装備。相手フィールドのモンスターの数だけ、攻撃力を300ポイントアップする」

 

『真紅眼の黒竜』

 攻撃力2400+300×4

 

「これでガンターラでの突破は不可能になった。ターンエンド」

 

 

翔吾

LP:1000

手札:0枚

場 :モンスター

   『真紅眼の黒竜』攻撃力2400+300×4

   『レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン』攻撃力2800

   『メテオ・ブラック・ドラゴン』攻撃力3500

   『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』攻撃力3200

   魔法・罠

    装備魔法『ファイティング・スピリッツ』

    セット

 

LP:800

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   『氷結界の舞姫』守備力900

   『ライオ・アリゲーター』守備力200

   魔法・罠

    セット

 

 

(あの伏せカードの正体は不明。いずれにせよ、これ以上時間を与えるわけにはいかない)

「このターンで決めます……ドロー!」

 

手札:0→1

 

「……速攻魔法『エネミーコントローラー』発動! 『ライオ・アリゲーター』を生贄に捧げ、このターン、相手フィールドのモンスター一体のコントロールを得る」

「そうきたか……けどそうはいかない。カウンター罠『王者の看破』! 自分フィールドにレベル7以上の通常モンスターがいる時、相手の発動した、魔法、罠カードの発動、モンスターの召喚、反転召喚、特殊召喚のどれかを無効にし破壊する。レッドアイズ!」

 レベル7の通常モンスター、レッドアイズが咆哮し、火球を放つ。

 直後、その火球が梓の発動したカードにぶつかり、消滅させた。

 

『真紅眼の黒竜』

 攻撃力2400+300×3

 

「万策尽きた、かな?」

「……いいえ、逆です。『エネミーコントローラー』を無効にして下さったおかげで、私の可能性が繋がりました」

「え……?」

「『氷結界の舞姫』を、攻撃表示に変更」

 

『氷結界の舞姫』

 攻撃力1700

 

「そして、伏せカード発動。魔法カード『受け継がれる力』!」

「そのカードは……!」

「自分フィールドのモンスター一体を墓地へ送り、このターン、その攻撃力を私の場のモンスターに与える。私はガンターラを墓地へ送り、その攻撃力を『氷結界の舞姫』に与えます」

 

『氷結界の舞姫』

 攻撃力1700+2700

 

『真紅眼の黒竜』

 攻撃力2400+300×2

 

「攻撃力、4400……! けど、それなら舞姫を墓地へ送っても同じだったはずだ。なぜわざわざ強力な攻撃力と効果を持つガンターラの方を墓地へ?」

「あなたのレッドアイズとの強い絆を見ていて、思ったのです。あなたの最も信頼するカード、レッドアイズ。ならば私も、私の最も信頼するモンスターで倒したいと」

「……」

 

『梓……』

 

「そっか……楽しかったよ。この決闘」

「私もです……」

 

「バトルです! 『氷結界の舞姫』で、『真紅眼の黒竜』を攻撃!」

 

「迎え撃て! 僕の……」

 今なおフィールドに立ち続ける、レッドアイズの背中を見て思い出す。

 弱虫で臆病だった、ちっぽけな自分。

 そんな自分に、戦う勇気を示してくれた、のちの伝説の決闘者達。

 彼らがいてくれたから、叫ぶことができた、最愛のカードの名。

 まともにカードの名前も言えなかったあの頃とは違う。決闘を続け、プロになっても、何度も呼び続けたその名を、目の前に立ちはだかる最高の決闘者に向けて……

 

「僕のレッドアイズ・ブラックドラゴン!」

 

 青髪の美少女が、自身よりも巨大な黒竜へと走り出す。

 黒竜は、そんな少女を倒そうと火球を撃ち続けた。しかし、それが少女にぶつかることは無かった。

 やがて、少女は黒竜の目の前に立ち、両手の輪刀を掲げ……

 

「雪斬舞踏宴!」

 

 美しくも激しく舞う様は、まるで吹きすさぶ粉雪だった。

 そんな舞いから振るわれた斬撃が、全て黒竜にぶつかった。

 だが、それが黒竜を傷つけることはなかった。

「『ファイティング・スピリッツ』を装備したモンスターが戦闘破壊される時、このカードを墓地へ送ることで破壊を免れる。もっとも、戦闘ダメージは受けちゃうけどね」

 

翔吾

LP:1000→0

 

 主人のライフが尽きてもなお、『真紅眼の黒竜』は、フィールドに君臨し続けていた。

 

 

「はい」

 青山翔吾は満足げに微笑みながら、自身の手持ちのメダルを差し出す。

 梓も、笑顔でそれを受け取った。

「とても楽しめたよ。強いんだね、君」

「こちらこそ。良き決闘を、感謝いたします」

「……じゃあね。お互い、パートナーを大事にしよう」

 その一言を最後に、彼は去っていった。

 

(彼にも、精霊が見えていたのだろうか……)

 そんな疑問を感じつつも、再びデッキケースから、一枚のカードを取り出した。

「プロ決闘者であり、ドラゴン使いである彼でもなかった……まあ、あそこまでレッドアイズとの強い繋がりを見せられては、あなたの立ち入る隙などなさそうですがね……」

 優しく語り掛けながら、『光と闇の竜』のカードを、再びケースにしまった。

 

『……』

「どうしました? アズサ」

 決闘が終わってからというもの、アズサはジッと梓のことを見つめていた。

 そのことを問い掛けると、アズサは梓を見つめたまま、語り出した。

『……なんか、らしくなかったね。今日の決闘』

「らしくなかった?」

 その一言に、首を傾げる梓に、感じたことを言う。

『最初の方からそうだったけど、梓って、あんなに力押しで勝ちに行くタイプじゃなかったのに、最初の方から攻撃力を並べて、相打ち覚悟で無理に攻撃仕掛けてさ。ちょっといつもと違うなって思って』

「手札によっては、そんな決闘にならざるを得ないこともあります」

『そうだけど……やっぱ、昨日校長室でなにかったの? 帰ってきてからずっと機嫌悪かったしさ』

「そんなことはありません。既にお話ししたでしょう? ペガサスさんとも、ショウ子ちゃんのことですっかり打ち解けて仲良くなることができたと」

『本当に?』

「本当です」

『……』

「ただ……」

『ただ?』

 アズサから視線を逸らし、手近にあった木にもたれながら、梓は昨日感じたことを、正直に言葉にした。

「この世の中で、『先生』と呼ばれる人間ほど、信用できない人間はない。そう思っただけです」

「……えらく極論だね」

 表情を沈めながら、そんな言葉を吐いた梓を、実体化したアズサは優しく抱き締めた。

 

「……」

 梓の肩に顔を埋めながら、思っていた。

(梓は僕のこと、心から信じてくれてる。決闘中でもそう言ってくれた。僕のこと信じて、あいつの一番強いカードを倒した……そんな僕は、梓の役に立ててる……?)

 恋人として、パートナーとして。

 それはともかく、カードとしての自分はどうか?

 通常召喚できるレベル4だが、攻撃力はたかが1700。低くは無いが、それも氷結界の中では強い、という程度。それより強いモンスターはいくらでもいる。

 効果は手札の氷結界を見せて、相手の場の伏せカードを手札に戻す。それだけ。まともに使われた例しがない微妙な効果。

 攻撃要因としても、効果モンスターとしても、何もかもが中途半端なせいで、実際の決闘でも、呼び出されることはあまりない。

 そんな自分だから、思うのだった。

(もっと、梓の力になりたい……梓に勝ってもらうために、もっともっと強くなりたいよ……)

 

 苦しみ、心を痛める梓を抱き締めながら、アズサもまた、カードとしての自身の弱さに心を痛めていた。

 

 

「この腑抜け野郎がッ!」

 

『え?』

 突然、海の方角から絶叫が聞こえた。

 アズサはカードに戻り、梓は声に向かって走った。

 

 

 

 




お疲れ~。
レッドアイズ……色々とデザインあるが、皆さまはどのデザインが好きやろうか?
大海的には、『バンダイ版』も最高だけど、原作のカードに描かれてる初期版の青眼っぽい構図が至高じゃね? とか思ってます。青眼と違ってカード化してないけど……
アニメでもそうだけど、漫画の方でもOCGよりも良いデザインなカードって結構あるよね。
何かしらの特別パックとかで出ねえかな、そういう原作版やアニメ版デザインを収録したの。
原作版のレッドアイズ、ぶっちゃけ今でも欲しいんだよね……

ごめん。長くなったね。
とりあえずオリカ~。



『堕天使の施し』
 通常罠
 このターンお互いのプレイヤーは魔法カードの効果によって墓地に捨てたカードを手札に戻すことができる。

遊戯王DMにて、遊戯が使用。
『手札抹殺』や『天使の施し』と一緒に使われるのが定番。
でもこれ、よく読んだらどこから捨てられたカード、とは書かれてないんだよね。
まあ『捨てる』自体手札以外でできる魔法も見当たらないから心配は無いろうけど。
それでもアドの塊なのは間違いないわな……


んじゃそういうことで、また続きも書いてくよ。
それまで待ってて。

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