遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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やぁお~ぉ。

まだまだ四日目は続くでよ~。
行ってらっしゃい。



    その血の運命

視点:梓

「さて……今日はこのくらいか」

 空を見上げてみると、ちょうど夕方になりかけか、という時間。

 十代さんと明日香さんの決闘が終わったのはお昼前だったので、それからでも他の人達と決闘する時間は十分にあった。

 例によって、アカデミアの生徒は私の顔を見るなり逃げていったので、基本はプロ決闘者。

 そしたら偶然、あずささんが、三人掛かりの女子生徒に絡まれているのを見かけた。頭にきたので、氷結界の龍で血祭りにあげてくれようかと思ったものの、あずささんが決闘をしようと構えた瞬間、やっぱりやめると震えて逃げていった。

 何をそんなに恐れていたのだ? あずささんは、いつも通り可愛らしい笑顔を見せていただけだというのに……

 どちらにせよ、名前は覚えていませんが、あの三人とも、もう決闘者としてはやっていけないでしょうね。

 

(……あずささんと、タッグ決闘してみたかったな……)

「……ん?」

 と、今日のことを思い出していると、その三人とは全く別な、女子生徒が座っているのが見えた。

「ジュンコさん」

 声を掛けつつ近づいてみると、ジュンコさんは、見た時と同じ、ボーっとしてる顔で私の方を見た。

「梓さん……」

「どうしました、ジュンコさん? ボーっとして……決闘で、敗けてしまいました?」

「……ええ」

 短い返事を返されて、どう言った物か分からなくなる。

 敗けた人に掛けてあげられる言葉などない。

 ……しかし、私が何かを言う前に、ジュンコさんは、また私の顔を見てきた。

「梓さん」

「どうかしました?」

「……」

 言い辛そう……というより、なんというか、今から言うこと、伝えたいことが、自分でも信じられない。そう思っているふうに見える。

 それでもやはり、伝えなければ。そう思ったようで、言い辛そうな様子のまま、声を出した。

「……すごく強い、決闘者が、います……」

「……ええ。そりゃあ、プロも出場してる大会ですものね」

「……私が敗けたのは、中学生の男の子です」

「え?」

 

「……シンクロモンスターを使う、中学生の、男の子です……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 

 ジュンコが、梓に対して告白を行っている最中。

 二人の知らない場所で、それらは起こっていた。

 

原麗華

LP:1000→0

 

「敗けた……いや、それよりも、その、カードは……!」

 

 

取巻

LP:1500→0

 

慕谷

LP:600→0

 

「二対一で、こんな……いや、それよりもどうして……」

「……梓さんと同じ……」

 

 

『シンクロモンスターが……!!』

 

 ……

 …………

 ………………

 

 そして、彼らともまた、別の場所。

 港近くのヘリポートに、新たな挑戦者を乗せたヘリが着陸した。

 そこから現れたのは、三人の決闘者。

 

「スマンかったのぉ。便乗させてもろて」

「気にするな。この数日、ヘリの中でも、アカデミアに着く直前までのデッキ調整の相手、感謝している」

「ヒョヒョヒョ……それはお互い様さ。デッキの都合上、この三人でなきゃ調整のための決闘すらできないからね」

 わざわざ詳細に説明する必要もあるまい。会話の内容と、喋り口調だけで、これほど何者なのか分かり易い三人もそういない。

 変わった形の眼鏡を掛けた低身長の男と、赤いニット帽をかぶった男。その中心に、黒いコートを着た、まだ少年としての若さが残る凛々しい青年。

 姿もタイプもまるで違う、そんな三人だったが……

「だがこれで、全ての準備は整った。後は……」

「ああ。梓のことや。順調に勝ち進んどることやろう」

「誰が倒しても、お互い恨みっこなしだよ」

 彼らの言う通り、姿やデッキは違っても、彼らがこの大会で狙う者は同じだった。

 

「待っていたよ」

 

 早速、その狙う者に向かって歩き出そうとした時、声が掛けられる。

「……吹雪か」

 中心に立つ青年……亮が、声を掛けてきた少年と目を合わせた。

「見事に第一戦に復活してみせた、二人のプロ決闘者と同伴とは、さすがはヘルカイザーと言ったところかな……」

「復活、ねぇ……」

「……ま、素直に喜んどいたろうか」

 左右に立つ、インセクター羽蛾と、ダイナソー竜崎も、天上院吹雪を見ながら、やや照れ臭そうに苦笑していた。

「亮……君達の狙いが、水瀬梓君だということはよく分かっているよ。だがその前に、どうだい? 僕と闘う気はないかい?」

 はにかみながら、ポケットからメダルを取り出して見せる。

 その笑顔には、親友同士としての気安さはもちろんだが、それ以上に、断ることは許さぬという、静かな威圧感も含まれていた。

「……良いだろう」

 そんな威圧に屈したわけではないが、断る理由も無い。なにより……

「新たに生まれ変わったデッキを試すには、ちょうど良いかもな」

「今まで君が倒してきたプロ決闘者と同じ、僕は実験台というわけか……なら、実験台の意地を見せてあげるとしよう」

 そして、背中を向ける。ついてこい。言葉にせずそう語り掛けた。

「随分と面白そうなことになっとるようやな」

「急いで彼と闘う必要も無い。僕らも見物させてもらうとしようか」

 ほとんど蚊帳の外にいた二人も、ただならぬ挑戦者の雰囲気に興味を持ち、歩いていく二人の若者の背中を追った。

 

 

「ここか……」

「そう。ここだ」

 吹雪が歩き、辿り着いたのは、この決闘アカデミア本校のシンボルの一つである活火山の麓。赤茶色の山肌は、オレンジ色の夕日に染まり、より濃くその形を浮かび上がらせている。

 そんな場所に着くなり、吹雪は手に持っていたカバンを地面に置き、中身を取り出した。

「ここはかつて、遊城十代君が、ダークネスという名の闇の決闘者と闘った場所だ」

 そんな過去の話しを聞かせながら白の制服を脱ぎ捨て、カバンの中身、亮のそれと比べてグレーに近い、くすんだ黒のコートを羽織る。

「亮……君が今、闇の中にいるというのなら、僕も行こう」

 決闘ディスクを構え、コートの懐からデッキを取り出す。

 

「あのデッキ……」

「普通のデッキではなさそうやな……」

 

 普通の決闘者なら、まず気付くことは無いであろう、デッキから立ち昇るどす黒いオーラ。それを、後ろから見ている二人のプロ決闘者、そして、そのデッキと対峙する亮は、一目見て気付いた。

「君と同じ闇の中へ行き、君と共に、再び光の世界へと帰る」

 そんなどす黒いデッキを、決闘ディスクにセットした。

 

 

 数日前、ジェネックスが開催された日。鮫島校長が帰ってきたその日に、吹雪は校長から話を聞かされていた。

 亮がかつて、鮫島校長が師範を務めていた決闘流派『サイバー流』の門弟であったこと。そのサイバー流において、『リスペクト』の決闘を体現できた者に対して、『サイバー・エンド・ドラゴン』のカードが受け継がれてきたこと。

 しかし、そんなリスペクトの精神とは明らかに逸脱した、『裏サイバー流』のデッキが存在し、そして、それをつい先日、亮に奪われてしまったことを。

「私は闇の世界へ足を踏み入れてしまった亮を、連れ戻すことはできなかった。しかし、亮の親友である吹雪君、君の言葉なら、彼の心に届くかもしれない……」

 

 

 それを聞いて、吹雪もまた決意した。

 かつて、セブンスターズという闇の世界に囚われていた自分は、十代の決闘、明日香の思いやり、そして、亮との友情によって、今こうして光の世界へ引き戻された。

 そのすぐ後には、怒りと憎しみ、復讐心と自暴自棄から暴走した少年を、彼の恋人を始め、亮や十代ら、仲間達の叫びで、本来の心を取り戻させた。

 なら自分も同じように、親友である亮の心を取り戻したいと思った。

 しかし、今の亮は、梓から受け取ったデッキ、更には、鮫島校長から奪い取ったという『裏サイバー流』デッキを持っている。それらの得体の知れない力が彼の手にある以上、普通の決闘では絶対に勝てない。

 だから吹雪は、もう一度かつての闇を使うことに決めた。

 自分を捕らえ、別の心を植え付けた、諸悪の根源にして、吹雪自身の闇。それが染みついたデッキを。

 

「兄ちゃん。事情はよう知らんが、やめた方がエエで」

 

 いざ決闘を始めようと構える二人を制したのは、ギャラリーである二人である。

 

「そのデッキ、なんやよう分からんが、得体の知れん力を感じる。普通のデッキやないってこと、兄ちゃんも分かっとって使おうとしとんのやろう?」

「理由はどうあれ、ほんの一時の勝ちたいって欲求だけで、そんな力は使うもんじゃない。一生のトラウマになるか、最悪、二度と元に戻れなくなるかもしれないよ」

 

 彼らもかつて、ただ勝ちたい、復讐したいという欲求を満たしたいがために、邪悪な力に満ちたカードを使った。

 結果は惨敗。引き換えとして魂を奪われ、長い間眠っていた。

 やがて魂は戻り、目を覚ましたものの、ますます自分達を惨めにし、転落人生に拍車をかけることになっただけだった。

 目の前の少年達よりも遥かに若い時分だったとは言え、その恐ろしさと愚かしさを知っているからこそ、目の前の少年に、同じ道を歩ませたくないと思った。

 

「忠告感謝します。だが心配は無用だ。僕自身、このデッキに眠る闇の力は一度体験している。だからこそ、もう二度と、闇に囚われることはない」

 若者の無鉄砲さ。そう片付けるのは簡単だった。だが、いつもの軽い口調で語られる吹雪の目には、そんな物とは違う確かな確信と、決意と、覚悟が浮かんでいた。

 

「伊達や酔狂とは違うってわけか……」

「……分かった。そこまで言うんならもう止めん。好きにしぃや」

 

 心配をしてくれた二人に、吹雪は無言で笑顔を送った。

 そして今度こそ、亮と向かい合う。

 

「それにしても……亮が、闇に囚われてる、ね……」

「どういう間柄かは知らんが、亮のことをなんも分かっとらんな、あの兄ちゃん……」

 

「このデッキの切れ味……お前にも味わってもらうとしよう」

 

『決闘!!』

 

 

吹雪

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「先行はもらう。ドロー」

 

吹雪

手札:5→6

 

「僕は『軍隊竜(アーミー・ドラゴン)』を召喚。守備表示」

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)

 レベル2

 守備力800

 

「更にカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

吹雪

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『軍隊竜』守備力800

   魔法・罠

    セット

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

手札:5→6

 

「フィールド魔法『竜の渓谷』を発動」

 元々夕刻だった空が、より鮮やか且つ美しいオレンジ色に染まった。

 麓に広がっていた森は、新たに現れた森に覆い隠され、同時に、山肌が剥き出しの活火山から、いくつもの岩壁が天へと延びる。

「来たね。君の新たなフィールド……」

「……『竜の渓谷』の効果。手札を一枚、墓地へ捨てることで、一ターンに一度、二つの効果から一つを選択して発動する。俺は手札の『ドラグニティ-ファランクス』を捨てる……」

 

手札:5→4

 

「俺が使うのは第二の効果。デッキから、ドラゴン族モンスター『ドラグニティ-ブランディストック』を墓地へ送る。そして俺は、『サイバー・ダーク・ホーン』を召喚」

「これは……!」

 

「早速来たな。僕らの前に現れた時、手に入れていたカード……」

「種族も属性も合わんと思っとったが、まさかあそこまでシナジーするとはなぁ……」

 

 吹雪が驚き、二人が感心を示したカード。

 機械でできた、灰色の竜のデザイン。その頭は、禍々しい形をした、巨大な口でできているようだった。しかし、そんな口の中の、闇の中に、妖しい緑の目が光っているのが見えた。

 何より、目、口、そして、その周囲には、いくつもの牙……否、名前の通りであるなら、いくつもの鋭利な角が飛びだしていた。

 

『サイバー・ダーク・ホーン』

 レベル4

 攻撃力800

 

「『サイバー・ダーク・ホーン』のモンスター効果。このカードが召喚に成功した時、互いの墓地に眠る、レベル4以下のドラゴン族モンスター一体を装備できる。俺はたった今墓地へ送った『ドラグニティ-ブランディストック』を、『サイバー・ダーク・ホーン』に装備」

 今度は墓地から、三又の槍を象った、翡翠色の仔竜が現れる。

 そんな仔竜の上に、機械竜が降り立った時。機械竜の中心から伸びたいくつものケーブルが、仔竜の体に装着され、固定した。

 

「『サイバー・ダーク・ホーン』の攻撃力は、この効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。ブランディストックの攻撃力は600。よって、攻撃力は600ポイントアップ」

 

『サイバー・ダーク・ホーン』

 レベル4

 攻撃力800+600

 

「それでも攻撃力はわずか1400……」

「だが、お前のモンスターを倒すには十分な数値だ。『サイバー・ダーク・ホーン』は守備モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えた数値分、ダメージを与える効果がある」

「くっ……」

「バトルだ。『サイバー・ダーク・ホーン』で、『軍隊竜』を攻撃! ダーク・スピア!」

 機械竜の頭から跳びだした、鋭利な角。それが、緑色の竜兵に向かって伸び、貫いてしまった。

「永続罠『スピリットバリア』発動! 僕の場にモンスターが存在する限り、僕への戦闘ダメージは全てゼロとなる」

 竜兵の構えていた槍や盾が、吹雪に向かって飛んでいった。しかし、それは吹雪の横を素通りし、直撃することはなかった。

「更に『軍隊竜』の効果。このカードが戦闘で破壊された時、デッキから新たな『軍隊竜』を特殊召喚する」

 再び吹雪の前に、直前の竜と全く同じ姿形をした竜兵が鎮座した。

 

『軍隊竜』

 レベル2

 守備力800

 

「だが、装備カードとなったブランディストックの効果により、『サイバー・ダーク・ホーン』は二回の攻撃が可能。『サイバー・ダーク・ホーン』で、二体目の『軍隊竜』を攻撃!」「ぐぅ……最後の『軍隊竜』を、特殊召喚!」

 

『軍隊竜』

 レベル2

 守備力800

 

「俺はカードを一枚伏せる。これでターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『サイバー・ダーク・ホーン』攻撃力800+600

   魔法・罠

    効果モンスター『ドラグニティ-ブランディストック』

    セット

    フィールド魔法『竜の渓谷』

 

吹雪

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『軍隊竜』守備力800

   魔法・罠

    永続罠『スピリットバリア』

 

 

「ちなみに、『竜の渓谷』の効果は、発動した俺自身しか使用できない」

「ほぅ。フィールド魔法なのに発動者にしか適用されない効果とは、珍しいね……僕のターン!」

 

吹雪

手札:4→5

 

「……このターンで決めてあげよう」

「ほう……」

「『黒竜の雛』を召喚!」

 

『黒竜の雛』

 レベル1

 攻撃力800

 

「そして、『黒竜の雛』を生贄に、手札から『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』を特殊召喚!」

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)

 レベル7

 攻撃力2400

 

「ほぅ……あの兄ちゃん、レッドアイズ使いか……」

「プロにもあのドラゴンを使う奴は何人か見掛けるが、さて……」

 

「僕の場の『真紅眼の黒竜』を対象に、魔法カード『黒炎弾』を発動! 対象としたレッドアイズの元々の攻撃力分のダメージを、君に与える。喰らえ、黒炎弾!」

 吹雪の傍らに降り立った黒竜の口から、黒い炎の塊が飛び出した。

 それを、亮は顔色一つ変えることなく、静かに受けた。

 

LP:4000→1600

 

「このカードを発動したターン、『真紅眼の黒竜』は攻撃できなくなる。だから、代わりにこいつを呼び出す。『真紅眼の黒竜』を生贄に……ぐぅ……!」

 そのカードに手を伸ばした瞬間、明らかな変化が、吹雪の身に起きていた。

 デッキと同じ、どす黒い邪悪なオーラ。それが、吹雪の全身から漂い、目に見えるほど立ち上っていた。

 

「おい、兄ちゃん!」

「よせ、竜崎。彼の覚悟を無駄にする気か?」

 

 今にも飛びだそうとしていた竜崎を、羽蛾が制する。

 そんな二人にも気付かないまま、吹雪は、手に取ったカードをディスクにセットした。

 

「現れろ……『真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネスドラゴン)』!!」

 

 場に降り立っていた黒竜の全身を、より黒い闇が包み込んだ。

 そんな闇に全身が覆われた黒竜の表面には、血管を思わせるオレンジ色の筋がいくつも浮かび上がった。

 小さな腕が失せた代わりに、より鋭利と化した全身、より大きくなった翼、より凶悪となった形相。

 一切の無駄をそぎ落とし、代わりにより完成に近い体を手にいれた、黒竜を超えた、闇の竜……

 

真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネスドラゴン)

 レベル9

 攻撃力2400+300×4

 

「はぁ……はぁ……『真紅眼の闇竜』の攻撃力は、自分の墓地に眠るドラゴン族モンスター一体につき、300ポイントアップする」

 

「ダークネスドラゴン……! 初めて見るレッドアイズだ……!」

「驚くほどのことでも無いやろ。レッドアイズは可能性の竜。ワイらの知らん姿がいくつあってもおかしくないで」

 

「ぐぅ……『軍隊竜』を攻撃表示に変更」

 

『軍隊竜』

 攻撃力700

 

「バトルだ。まずは『軍隊竜』で、『サイバー・ダーク・ホーン』を攻撃!」

 槍を構えた緑の竜兵が、機械竜へと突撃する。

「この瞬間、速攻魔法『突進』発動! 『軍隊竜』の攻撃力は700アップする!」

 

『軍隊竜』

 攻撃力700+700

 

 攻撃力が互角となり、その鎧ごと全身を貫かれた竜兵の槍は、『サイバー・ダーク・ホーン』を貫いていた。だが……

 

「『サイバー・ダーク・ホーン』は、装備したドラゴン族モンスターを破壊することで、戦闘での破壊を免れる」

 

『サイバー・ダーク・ホーン』

 攻撃力800

 

「だがそれで十分だ。『真紅眼の闇竜』の攻撃力は更に300ポイントアップする」

 

『真紅眼の闇竜』

 攻撃力2400+300×5

 

「……」

「これで最後だ。『真紅眼の闇竜』で、『サイバー・ダーク・ホーン』を攻撃! ダークネス・ギガ・フレイム!」

 より大きく、より禍々しく、より熱くなった、巨大な黒い炎。

 その塊が、今度こそ無防備となった機械竜へと放たれた。

「与えるライフダメージは3100ポイント。これが通れば……」

 

「罠発動『パワー・ウォール』」

 

 吹雪の攻撃に対して、亮がカードを発動させたのと同時だった。

 亮が、そのデッキに手を添えて……

 

 バラァ……

 

「……え?」

 そんな、儚くもはっきりと聞き取れる、哀しい音と共に、その光景は繰り広げられた。

 あろうことか、亮はデッキのカードを全て、自身の周囲にばら撒いた。

「『パワー・ウォール』は戦闘ダメージを受けた時に発動できる罠カード。デッキの上からカードを一枚墓地へ送るごとに、ダメージを100ポイント軽減する。俺の捨てたカードは三十一枚。よって、3100ポイントのダメージは無効となった」

 そんな説明も、吹雪の耳には届いていなかった。

 ただ、直前の親友の行動を見て、信じられないと、ありえないと、あってはならないと……

 いくつもの言葉から成る思い。それは、『絶望』だった。

「亮……デッキを……カードをゴミクズのように……それほどまでに君は、闇の中に……」

 あまりの絶望に、吹雪が顔を伏せた時……

 闇竜の召喚と共に発生し、彼の全身を包み込み、蝕んでいた闇。

 それがより激しく、強く、吹雪の全身を包んだ。その結果……

 

「……我が名は『ダークネス』。闇より再び蘇らん」

 

 台詞と同時に顔を上げる。その顔には、今までは確かに着けていなかったはずの、黒い仮面が、彼の目元を包み隠していた。

 

「闇に呑まれたか……」

「絶望からの諦めか……それとも、自分の力ではこれ以上無理と思って、敢えて闇を受け入れたか……」

「なんにせよこの決闘……決着は早いな」

 

「貴様のデッキは残り二枚。バカな真似をしたものだ……私はこれでターンエンド」

 

 

ダークネス

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『真紅眼の闇竜』攻撃力2400+300×5

   魔法・罠

    永続罠『スピリットバリア』

 

デッキ:2枚

LP:1600

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    フィールド魔法『竜の渓谷』

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

デッキ:2→1

手札:2→3

 

「ふふ……ならば見せてやろう。このデッキの真の力を」

「笑わせる……我の場には、攻撃力が3900にまで上昇した『真紅眼の闇竜』に加え、モンスターがある限りダメージを受けない永続罠『スピリットバリア』がある。この状況を覆そうというのか?」

「貴様こそ、たかがその程度の布陣でよく得意になっているものだな」

「なに?」

 

「あ~あぁ……」

 

 シリアスに語り合う二人の間に、そんな、間の抜けた声が響く。

 後ろで観戦していたはずの二人のプロ決闘者が、いつの間にやら、亮の目の前に移動していた。

 彼らの両手には、それぞれカードの束が握られていた。

「そのカード発動させる度に、いちいちカードばら撒くなって、何度も言ったろう?」

「そうや。梓からもらった貴重なカード、失くしたらどないすんねん」

 文句を言いつつ、慣れた様子で全てのカードを一つにし、亮に手渡す。受け取り、握った感触だけで、一枚の抜け落ちも無いことが分かった。

「……いつも済まんな」

「良いよ。慣れたし。けど島に着いた以上、もう同じことしても拾ってあげないからね」

「……そう言っても、お前のことや。どうせまたやりそうやけどな……」

 言いたいことを言い終えた後で、二人は元の位置まで下がっていった。

 

「……いくぞ。魔法カード『サイバーダーク・インパクト!』! 手札、フィールド、墓地に存在する、『サイバー・ダーク・ホーン』、『サイバー・ダーク・エッジ』、『サイバー・ダーク・キール』を一枚ずつデッキに戻すことで、『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』の融合召喚を行う」

「それでデッキの枚数を増やし時間稼ぎをするつもりか? 無駄なことを……」

 亮の発動したカードに対しても、ダークネスはまるで動揺を見せない。

 その余裕が、すぐにまた凍り付くことになるとも知らずに……

 

「三体の『サイバー・ダーク』をデッキに戻し、現れよ! 『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』!」

 

デッキ:1→4

 

 いくつもの角を光らせる機械竜、刃でできたようないくつもの羽根を艶めかせる無機質な機械、長く青い体の蛇、そんな三体が、場に現れた。

 その次の瞬間、その三体が光の中へ消えていき、そこから更に巨大になった、機械の竜が姿を現した。

 現れた三体、それらの特徴全てを備えた、凶悪なる竜は、君臨すると同時に、機械的ながらも猛々しい雄叫びを轟かせた。

 

『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』融合

 レベル8

 攻撃力1000

 

「攻撃力1000のモンスターごときでは、我がダークネスドラゴンの攻撃力には及ばない」

「サイバー・ダーク・ドラゴンの特殊召喚に成功した時、互いの墓地に眠るドラゴン族モンスター一体を装備できる。レベルの制限は無い。俺は貴様の墓地から、『真紅眼の黒竜』をサイバー・ダーク・ドラゴンに装備する!」

 先程の仔竜がそうされたように、今度はダークネスの墓地から、黒竜が引きづり出される。

 それが、アバラ骨にも見える鉄の爪に捕まり、同時に、いくつものケーブルに繋がれた。

 

『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』

 攻撃力1000+2400

 

『真紅眼の闇竜』

 攻撃力2400+300×4

 

「ダークネスドラゴンの攻撃力を同時に下げるとは……それでも、ダークネスドラゴンには及ばない」

「サイバー・ダーク・ドラゴンの効果はまだある。こいつの攻撃力は、自分の墓地に眠るカード一枚につき、100ポイントアップする」

「何だと!?」

「俺の墓地に眠るカードは32枚。攻撃力は3200ポイントアップする」

 

『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』

 攻撃力1000+2400+100×32

 

「攻撃力6600……!?」

「まだ終わりではない。魔法カード『強欲な壺』発動! カードを二枚ドロー」

 

デッキ:4→2

手札:1→3

 

「『サイバー・ダーク・エッジ』を召喚!」

 

『サイバー・ダーク・エッジ』

 レベル3

 攻撃力800

 

「『サイバー・ダーク・エッジ』もまた、互いの墓地のレベル4以下のドラゴン族を装備できる。俺は墓地から、レベル3の『ドラグニティ-ブラックスピア』を装備。その攻撃力は1000」

 

『サイバー・ダーク・エッジ』

 攻撃力800+1000

 

「もっとも、こいつは生贄だ……『ドラグニティ』を装備したモンスター一体を除外することで、墓地に眠るこいつを特殊召喚する。墓地より甦れ『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』!」

 まるで、背景の夕焼けがそのまま姿を変えたような、鮮やかなオレンジ色だった。

 翼をはためかせ、羽根を散らし、大きな刃をきらめかせる。

 その姿は、夕暮れの世界に溶け込んでいた。

 

『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』

 レベル8

 攻撃力2600

 

「こいつが召喚、特殊召喚に成功したことで、墓地のドラゴン族モンスター一体を装備する。俺は墓地の、『ドラグニティ-ブランディストック』を装備。ブランディストックを装備したモンスターは、一ターンに二度の攻撃を行える」

「くぅ……!!」

 『スピリットバリア』によってライフダメージを守ることができるのは、自分の場にモンスターがいる場合の戦闘ダメージのみ。

 サイバー・ダーク・ドラゴンを破壊され、その後でレヴァテインの二回攻撃を受ければライフは一瞬でゼロとなる。

 ……だが、

 

「速攻魔法『速攻召喚』。手札の、『ドラグニティ-ドゥクス』を召喚」

 

『ドラグニティ-ドゥクス』

 レベル4

 攻撃力1500

 

「ドゥクスの召喚に成功したことで、自分の墓地の、レベル3以下のドラゴン族であるドラグニティ、『ドラグニティ-ファランクス』を装備。ドゥクスの攻撃力は、自分フィールドのドラグニティ一枚につき200ポイントアップする」

 

『ドラグニティ-ドゥクス』

 攻撃力1500+200×4

 

「『ドラグニティ-ファランクス』の効果。装備カードとなっているこいつは、フィールド上に特殊召喚することができる。さあ、フィールドに降り立て……チューナーモンスター『ドラグニティ-ファランクス』!」

「チューナー、だと!?」

 祭祀姿の鳥人の周囲を舞っていた、青色の仔竜。

 ダークネスの驚愕の声の中、ドゥクスの前から跳び上がり、ドゥクスの隣に並んだ。

 

『ドラグニティ-ファランクス』チューナー

 レベル2

 攻撃力500

 

「チューナーとそれ以外のモンスター……この意味が分かるか?」

「まさか……貴様が……!?」

 梓からデッキを受け取った日から、予感はしていた。

 しかし、それでも実際に行われない以上、予感は予感でしかない。

 そんな予感が今、目の前で現実となる……

 

「レベル4の『ドラグニティ-ドゥクス』に、レベル2の『ドラグニティ-ファランクス』をチューニング……」

 青色の仔竜が二つの光に変わり、祭祀姿の鳥人と共に飛び上がる。

 二つの星の光に包まれた鳥人は、透明な光と変わり、その姿を変化させる……

 

「風に舞いし竜鳥よ。魂の刃を一つに重ね、雷となりて世界を貫け……」

 

「シンクロ召喚! 『ドラグニティナイト-ヴァジュランダ』!!」

 

 一つ、強烈な風がダークネスの身を叩いた。

 かと思った次の瞬間、夕焼けに染まった空が、黒雲に覆われた。

 そんな黒雲からは、血管のような稲妻が、轟音と共に走り続けていた。

 そんな血管が集まる場所……そこから新たに姿を現した者。

 愛らしさに溢れた幼い仔竜は、そんな姿が見る影も無いほど、大きく、強い竜に姿を変えていた。

 竜にまたがる騎士も、ただ地に立つ以上の風格に満ち満ちていた。

 そんな竜騎士の全身を、赤銅色の鎧が包む。赤銅色の輝きと、彼らと共にある雷は正に、世界の全てを照らすと共に、世界の全てを貫かんとするように……

 

『ドラグニティナイト-ヴァジュランダ』シンクロ

 レベル6

 攻撃力1900

 

「ヴァジュランダのシンクロ召喚に成功したことで、墓地に眠る、レベル3以下のドラゴン族のドラグニティを装備する。墓地に眠る『ドラグニティ-コルセスカ』をヴァジュランダに装備。そして、ヴァジュランダの効果!」

 竜にまたがった鳥人が、その槍を天に掲げた瞬間。

 彼らの周囲を周っていた仔竜が、彼らの遥か上の、点を目指し上昇した。

 そんな仔竜が到達した雲の切れ間から、より大きな稲妻が走る。

 落雷は槍を、鳥人を、竜を貫き、彼らの総身の輝きを、より一層高ぶらせる。

「一ターンに一度、こいつに装備された装備カードを墓地へ送ることで、こいつの攻撃力はこのターン、倍となる」

「攻撃力が倍だと!?」

 

『ドラグニティナイト-ヴァジュランダ』

 攻撃力1900×2

 

「これが今の亮の……ヘルカイザー亮の全力だ……」

「とうに見慣れてはおるが、相変わらずえげつないフィールドやのぉ……」

 

『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』

 攻撃力1000+2400+100×33

『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』

 攻撃力2600

『ドラグニティナイト-ヴァジュランダ』

 攻撃力1900×2

 

「な……あぁ……」

 闇から生まれし者、ダークネス……

 肉体が吹雪であることを差し引いても、目の前に並ぶ凶悪なる闇の機械竜と、勇猛なる竜人、そして、強大なる竜騎士を前にしては、その身も心も、恐怖に染まるしかない。

「バトルだ!」

 そんな恐怖に震える闇に向け、亮は最後の鉄槌を下した。

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンで、『真紅眼の闇竜』を攻撃! フル・ダークネス・バースト!!」

 

 機械竜の頭に備わる、牙から溢れた光が闇竜を貫く。

 永続罠のおかげでライフダメージは無くとも、それはただ、真の恐怖の先延ばし以外の意味は無く……

 

「『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』で二回攻撃! そして、『ドラグニティナイト-ヴァジュランダ』の攻撃!」

 

 レヴァテインの身が、半透明な二人に別れた。

 ヴァジュランダの全身から、稲妻が放たれた。

 三人となったドラグニティが、一斉に、ダークネスへ攻撃を仕掛けた。

 

「ヘブンスフォール・ツインレーヴァテイン!!」

 

雷世隆輝(ライセイリュウキ)-ヴァジュランダ!!」

 

「ぐぅ……がああああああああああああ!!」

 

ダークネス

LP:4000→0

 

 

 ――離れろ!

 

 二体の刃を受け、ライフがゼロになった瞬間……

 その声は、吹雪の耳へ届いた。

 

 ――吹雪から離れろ!!

 

 吹雪ではなく、吹雪を支配する、ダークネスに対しての声。

 それを聞いた、吹雪の目に見えたのは、目の前に立つ親友の姿……

 

 ――吹雪……俺は闇に囚われてなどいない。

 

 その言葉の通り、目の前の親友は、自分のように、闇に堕ちた者の末路ではなく、今日まで見てきた、自分自身がよく知る姿だった。

 

 ――俺は、俺自身の意志で闇の中へ飛び込んだ。

 

 自らの意志……なぜそんなことを……?

 

 ――光すら届かぬ暗闇。その中からでしか見えないものもある。

 

 なんのためにそこまで……?

 

 ――ただ、勝利のために……

 

 ……

 

 

 決闘を終えた時、吹雪は自分の中から、ダークネスが完全に消えたことを理解した。

 聞こえてきた、最後の一言。そして、変わっていない親友の姿。

 変わり果てたと思っていた姿や決闘。しかし、それだけ変わっても、全く変わっていないもの。

 亮は吹雪を、そして、吹雪のデッキに対して、確かなリスペクトの心を向けていた。

 それに満足し、吹雪は微笑みを浮かべる。

 

「さすがだね、亮。このメダルは、君のものだ」

 いつもの調子でメダルを取り出し、それを量の前に投げ渡す。

 だが、地面に落ちたそれを、亮は踏みつけ、素通りした。

「亮……!」

「こんなものに興味は無い。俺はただ、より多くの勝利を得たいだけだ……」

 

「……やっぱ、僕らとは違うね」

「ああ。梓との決闘。それも目的の一つやろうが……」

「あいつはただ、一つでも多く、決闘に勝ちたい。考えてるのはただそれだけだ……」

 二人が語り合っている間に、亮は、二人の目の前に立っていた。

「今日まで世話になった。が、お前達二人ともここまでだ」

「ああ。分かってる。君達と僕らとは、ここへ来た目的が違う」

「ま、元々そのつもりやったんやろうが……それでも、この三人で鍛えた毎日は、楽しかったで」

「……」

 笑顔で語る二人に対して、亮もまた、微笑みを返した。

 

 ……穏やかな雰囲気と、別れの悲哀に包まれた、そんな空気を……

 

「見つけたぞぉ!!」

 

 平気でぶち壊す、下品な声が響いた。三人と、吹雪が振り向いた先には、二人組の男が立っていた。

「なんだ、あいつらか……」

「まさか、あいつらも大会に参加できたんか……?」

 羽蛾と竜崎は、そんな二人を見て、哀れみというか、嫌悪感というか、うんざりしたふうな表情を浮かべた。亮も同じように、不快感を露わにした。

「あれは、確か……」

 後ろの吹雪も、その二人を見て、思い出すと同時に顔をしかめた。

 

「インセクター羽蛾にダイナソー竜崎……なんの間違いでテメェら二人がこのジェネックスに参加してるんだぁ!?」

「今度はどんな汚ねぇ手使いやがった!? お得意の全財産か? それでメダルを譲ってもらったかぁ!?」

 

「下らん連中だ……」

「同感だね……」

 亮と、元の制服に着替えつつ隣に並び立った吹雪が呟いていた。

 

「それはむしろ、こっちが聞きたいくらいなんだけど?」

「とっくに引退したもんやと思っとったわ。もうお前らを相手にする(モン)はおらんやろう」

 

「う……うるせぇ!! 決闘辞めなきゃならねぇのはお前らだろう!!」

「羽蛾と竜崎のくせに……よりによって俺らのこと、バカにすんじゃねえよ!!」

 

 真っ赤になった顔に着いた目には、現実というものが映っていない。

 代わりに、現実からより良い逃避ができるものを必死に見つけようとしていて、いちいち上げる大声は、それをどうにか呼び寄せようという呼び掛けにも聞こえる。

 そんな、良い歳をした二人組の男達を見て、少年二人は溜め息を、ベテランのプロ二人は、完全に見下していた。

「そっちこそ、いい加減自分達の弱さ棚に上げて、僕らに八つ当たりするの辞めてくれないかな?」

「ストーカーと変わらんな。見下す相手探してそいつを徹底的に追い詰める。そんなことで目立ったとしてもすぐ飽きられて、嫌われる。そのくらい分かりきっとったことやろうに」

 

『~~~~~~~~~……』

 羽蛾と竜崎に諭されながら、二人は余計に、顔を真っ赤にしている。

 二人とも、羽蛾と竜崎よりも遥かに早い段階でプロ決闘者になっていながら、実力は伸び悩み、成績もパッとせず、人気も無く、加えて、本人達には向上心が欠片も無い。本来なら、とうの昔にプロの世界から姿を消していて然るべき二人だった。

 そこへ、同じように連戦連敗中である、羽蛾に竜崎との決闘が決まり、美味しい相手だと高を括って臨み、結果は敗北。

 それを受け入れられなかった二人は、結託して羽蛾と竜崎の決闘に対して、ありもしないイカサマをでっち上げ、こじつけた。

 もちろん、羽蛾と竜崎は否定し、見る者が観ればイカサマなどしていないと分かる物の、残酷な世間様はそっちの方が面白いからという理由で、彼らの言うイカサマを支持。

 羽蛾と竜崎は卑怯者のレッテルを貼られ、凶弾されると共に、プロの世界での転落のキッカケとなった。

 一方、イカサマをでっち上げたおかげで注目された二人は、その後も羽蛾と竜崎が決闘をする度に、何かとイチャモンをつけてはイカサマに仕立て上げた。正否はどうあれ、世間はそれを面白がり、羽蛾と竜崎は負け犬キャラとして落ちぶれていった。

 

 だが、羽蛾や竜崎も言った通り、そんな手段で得られる注目など、長く続くわけがない。

 案の定、すぐに飽きられ、二人組の記憶は世間からも、決闘界からも消えていった。

 一方で、羽蛾と竜崎は負け犬キャラを確立し、笑いを取ることで、本人らの意思はともかく、一発屋としてある意味での成功者となった。

 それすら飽きられ、四人仲良く引退かという矢先に、羽蛾と竜崎の二人は決闘の公式戦に復帰。今までにない強い意志でもっての、正々堂々とした、不正などこじつけようも無い見事な決闘で連戦連勝。

 更には、突然解禁した、誰も見たことの無いデッキ。それを華麗に使いこなし、勝ち進み、今では、プロ決闘の第一線にまで上り詰めている。

 

 そんな二人に比べて、強くなる努力はしないくせに、今でもプロの世界の最底辺で、振り落とされないよう手を離さないことだけには全力を尽くしている。

 そんな二人にとって、かつて、自分達がのし上がるために踏みつけ、踏み潰したと思っていた二人が、自分たちの遥か上、最上位にまで上り詰めている事実はさぞ面白くなかったろう。

 だから、よせば良いのにまた注目を浴びたいがために、二人の決闘にイチャモンをつけてイカサマをでっち上げようとした。だが、もはやそんなことに興味を示す者はいない。むしろ、新たに羽蛾と竜崎が獲得した大勢のファン達の怒りを買い、過去にしてきた不正のこじつけさえも蒸し返され、今ではプロ決闘世界の晒し物として注目を浴び、プロ資格のはく奪を宣告されていた。

 

「黙れ……」

 何もかも、のし上がるために、楽で、汚い手段を使い、だが落ちぶれた。そんな自分達が全て悪い。

 それを、認めず、受け入れようとしない二人組は……

「黙れ……黙れよ……二人とも、黙れ……」

 焦点の定まらない異常者の目を、二人に向けた。

「卑怯者のうじ虫野郎……イカサマし放題のトカゲ小僧……そんなふうにしか呼ばれてこなかったテメェらが、よりによって、この、俺達のことを見下してんじゃねえよ!!」

「お前らがのし上がったのが悪いんだ!! お前らが決闘するのが悪いんだ!! お前らが生まれてきたから悪いんだ!! お前らがいたせいで、俺達はこんな目に遭ってんだぁあ!!」

 絶叫し、歯を食い縛って、そんな醜い顔のまま、決闘ディスクを構える。

「決闘しろよテメェら……決闘でぶっ殺す……!」

「そんで、決闘が終わったら、テメェらの、見たことねぇデッキよこしやがれ……それさえありゃあ、俺らものし上がれるんだ……!」

 

 羽蛾も竜崎も、溜め息を吐きつつ、二人の前にやる気なく立った。

「アンティ決闘か……ちなみに、僕らが勝ったらなにくれるんだい?」

 

「はぁあ!? バカじゃねえのか!? 卑怯者にくれてやるもんなんか、あるわけねぇだろうがぁあ!!」

「決闘してやってることにまず感謝しやがれ!! それで勝とうが敗けようが、黙って俺らにデッキを渡して、そのまま死ねぇええ!!」

 

「……決闘が終わったらって、そういう意味かい。話しにならんでこいつら……」

 そう言いつつも、ここまで正気を失っていては、下手に断れば後ろに立つ少年二人が危ういだろう。

「どの道、その日の最初に挑まれた決闘は断れないんだ。やるしかないね……」

 また一つ。溜め息を吐く。その後で……

 

「条件は同じ。ワイらが勝ったらデッキを貰う。文句は言わせんで」

「この決闘で、お前らに引導を渡してやるよ」

 

 その、二人の放つ鋭い視線に、怒りしか無かった二人組が、初めて怯む顔を見せた。

 

「……それで、お前達、名前なんだっけ?」

「忘れたのかよ……俺はぁ!!」

「まあどうでも良えわ……」

「おいゴラァ!!」

「じゃあ竜崎、そっちのクズよろしく。僕は、こっちのバカの相手するから」

「誰がバカだ!? 俺の名前はぁあ!!」

 

「さあ……始めるよ、バカ」

「この野郎……」

 

「こっちもやるで。クズ」

「……ぶっ殺す……」

 

『ぶっ殺す!!』

 

『決闘!!』

 

『決闘!!』

 

 

 

 




お疲れ~。
最近、アニメ観てて思ったこと。

「『クラッキング・ドラゴン』……ヘルカイザーに使わせてぇ……」

時代が違いすぎて無理なんだがやぁ。

んじゃ今回は、原作効果のみ。



『サイバー・ダーク・ホーン』
『サイバー・ダーク・エッジ』
『サイバー・ダーク・キール』
 このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分または相手の墓地に存在するレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
 このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。

遊戯王GXにて、ヘルカイザーが使用。それぞれの固有効果は省略。
ご存知の方々も多いろうが、装備できる対象はレベル4以下で、相手の墓地も参照可。ついでに、さりげなく通常召喚以外でも装備可。
OCGよかだいぶ汎用性高くなっちょります。
レベル一つ上がればそら攻撃力は上がるけど、かと言ってOCGはだいぶ使い辛くなっちまったよなぁ……


『鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン』融合
 このカードが特殊召喚に成功した時、墓地に存在するドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
 このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
 また、このカードの攻撃力はフィールド上に存在する限り、自分の墓地のカードの数×100ポイントアップする。
 このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに装備したモンスターを破壊する。

無論、使用者はヘルカイザー。
こちらも装備対象は相手墓地参照可。
でもって、攻撃力の上昇は、モンスターだけでなく墓地のカード全部。
こちらもこのままじゃ強過ぎるから、弱体化は無難だぁな。
出し辛さには目をつむるとして、だけども……


『パワー・ウォール』
 通常罠
 モンスターからの戦闘ダメージを受けた時に発動できる。
 自分のデッキの上からカードを任意の枚数墓地へ送る。
 自分が受ける戦闘ダメージは墓地へ送ったカードの枚数×100ポイント少なくなる

ええ。ヘルカイザーださ。
墓地へ送るカードの枚数は任意。軽減は一枚につき100ポイント。
もはや説明不要な最強の墓地肥やしカードだぁな。
例によって、OCGじゃあ大幅弱体化。



以上。
そんじゃらこんなところで、次話まで待ってて。

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