遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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シェーン……

つ~わけで、後半戦いくよ~。
あとついでに言っておくと、タイトルは適当です。
そんな感じで、行ってらっしゃい。



    その血の運命 ~徐々~

視点:外

 

「なるほど……話は分かりました」

 陽が沈もうかという時間。

 ジュンコに加えて、オベリスクブルーの原麗華、取巻、慕谷の四人と顔を合わせながら、梓は頷いていた。

「皆さん、もはや意味は無いかもしれませんが……このことはどうか、内密に願います。特に、星華さんと、あずささんの耳には入らぬよう……」

 四人とも、疑問の顔を見せたものの、それでも最後には納得し、梓の前から去っていった。

 

『梓……』

「ええ……とうとう、来るべき時が来た。と、いうことですね……」

 アズサに答えながら、左手首を押さえる。

 掴んだ右手の内側からは、ドクドクと、痛々しく血が流れていた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 アカデミアのシンボル。山肌が剥き出しの活火山。

 そこで対峙するのは、二組の決闘者。

 どん底から足掻き続け、見事に復活を果たした有名決闘者と、どん底のどん底で、楽と嫉妬と逆恨み以外、何もしてこなかった最底辺決闘者の、決闘が幕を開けた。

 

『決闘!!』

 

『決闘!!』

 

 

インセクター羽蛾

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

バカ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「先行は僕だね。ドロ……」

 

「バカかよぉ!! 卑怯者の虫野郎に先行なんざ回ってくるわけねぇだろうが!! なにもするな!! ジッとしてろぉお!!」

 

バカ

手札:5→6

 

「マジか、こいつ……」

 決闘開始時の先行後攻は、事前に取り決めておいて手動で操作をしない限り、向かい合った二つの決闘ディスクが互いに干渉し、完全ランダムで選ばれる。

 そういう機能が付いているため、誤操作を防ぐ意味でも、本来後攻の者が動作を行えば、ディスクからエラー音が鳴り、それ以上の決闘の進行を防ぐようカードを読み込まない仕組みになっているのだが……

「そんなの、とっくに細工済みなんだろうなぁ……」

 決闘ディスクのメンテナンスも、プロに限らず決闘者にとっては必須技能の一つである。

 そのため、よほど専門的か致命的な故障でもない限り、機械いじりに慣れていない素人でも、マニュアルを見ればある程度簡単に調整できる構造にはなっている。

 加えて、少し機械いじりができる人間なら、自分にとって都合の良い細工を施すことも難しくは無い。

(分かっていたことだけど……もうとっくに決闘者じゃないね、こいつら)

 

「オラオラいくぞコラァ!! まずはこいつだぁ!! 『地雷蜘蛛』召喚!!」

 

『地雷蜘蛛』

 レベル4

 攻撃力2200

 

「まだまだぁ!! 『二重召喚(デュアルサモン)』発動!! それで『電動刃虫(チェーンソー・インセクト)』召喚だぁああ!!」

 

電動刃虫(チェーンソー・インセクト)

 レベル4

 攻撃力2400

 

「フィールド魔法『ガイアパワー』だあ!! 地属性モンスターの攻撃力を500アップ! カードを伏せてターンエンド。オラオラァ、さっさとターンエンドしてカードよこしやがれぇ!!」

 

 

バカ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『電動刃虫』攻撃力2400+500

   『地雷蜘蛛』攻撃力2200+500

   魔法・罠

    セット

    フィールド魔法『ガイアパワー』

 

 

「……なんかもう、決闘するだけバカバカしくなってくるな」

「ああん……?」

 

 

クズ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

ダイナソー竜崎

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「ハハハハ!! 先行は俺だぜ!! やっぱ卑怯が売りのクズ野郎に、先行なんか回ってこねえよなあ!!」

(決闘ディスクが決めただけやろうが……もっとも、あっちのバカを見た限り、それも怪しいもんやで……)

「ドロー!!」

 

クズ

手札:5→6

 

「『ブラッド・ヴォルス』召喚!!」

 

『ブラッド・ヴォルス』

 レベル4

 攻撃力1900

 

「装備魔法『デーモンの斧』、『悪魔のくちづけ』、『団結の力』装備!」

 

『ブラッド・ヴォルス』

 攻撃力1900+1000+700+800

 

「そしてぇ!! 装備魔法『ミスト・ボディ』!! これでこいつは戦闘では破壊されない!! カードを伏せてターンエンドだぁああ!!」

 

 

クズ

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラッド・ヴォルス』攻撃力1900+1000+700+800

   魔法・罠

    装備魔法『デーモンの斧』

    装備魔法『悪魔のくちづけ』

    装備魔法『団結の力』

    装備魔法『ミスト・ボディ』

    セット

 

 

「……変わる気無いんは知っとるが、いくら何でも酷すぎるやろう……」

「……はぁ?」

 

 羽蛾も竜崎も、相手の初手の動きの、そのあまりの酷さとバカらしさに、溜め息を漏らしやる気を無くしていた。

 

「彼ら本当にプロ決闘者かい? あれが本気なら洒落にもなってないよ……」

「あれで通じた時代もあったということだろう。それを踏まえても酷過ぎるが……」

 

「おい!! なんだなんださっきからぁあああ!!」

 羽蛾と竜崎に加え、後ろに並ぶ二人の若者に向かって、バカとクズは声を上げた。

「プロでもねぇ素人のガキが、偉そうにプロの決闘にケチつけんじゃねええ!!」

 

「プロの決闘……小学生以下の間違いではないのか?」

 亮のそんな返答に、二人はなお更憤慨しそうになった。そうなる前に、吹雪に話を振った。

「吹雪。どこがどう悪いのか教えてやれ」

「そうだねぇ……まず、そっちの人。高攻撃力のデメリットアタッカーで攻めるデッキみたいだけど、攻撃できない先行一ターン目から、魔法カードを使ってまで二体並べる意味なんてあったのかな? それに、並べたモンスター。『地雷蜘蛛』は、コイントスで裏が出ればライフ半分を失って、『電動刃虫』は攻撃後に相手にドローさせる。いくらなんでもデメリットが大きすぎるでしょう。昆虫族にこだわってるのかとも思ったけど、『ガイアパワー』なんて使う辺り、属性はともかく種族は関係無さそうだし。まあ、守備力0で、攻撃したら守備表示になるようなモンスターに比べれば場保ちは良いかもしれないけど、どうせフィールド魔法を使うくらいなら、多少攻撃力は落ちるけど、同じ地属性でデメリットの無い通常モンスターの、『暗黒の狂犬(マッドドッグ)』とか、種族を統一したいなら、デメリットはあるけど戦闘自体は問題なく行える『怒れる類人猿(バーサークゴリラ)』なんかの方が良いんじゃないかな?」

 

「……は?」

 

「そっちの人も、モンスターが一体しか手札に無かったのは仕方ないとして、だとしても、いきなり手札の装備魔法全部をたった一体のモンスターに装備するのはどうかと思うな。次にモンスターが来たらそのモンスターに装備することだってできるわけだし。何より、それだけ攻撃力が上がっているなら戦闘で破壊される心配なんてほぼ無いだろうに、戦闘破壊耐性を与える『ミスト・ボディ』まで装備してる。何かしらの効果で守備表示にされたことを考えたにしても、僕なら装備魔法はどれか一枚、多くても二枚に留めて、残りは手札に温存しておくかな」

 

「……」

 

「まあ、二人の決闘はあまり見たことが無いから断言はできないけど、プレイングはもちろん、デッキ構築能力も、総じて低すぎだ。デッキを一から組むことからやり直した方が……」

 

「避けろ兄ちゃん!!」

 

 話しに夢中になっている吹雪の耳に、突然竜崎の声が響いた。

 かと思ったら、隣に立っていた亮に引っ張られ、立っていた場所をずらされる。

 その直後、今まで自分が立っていた場所の、ちょうど顔の高さに、それなりの大きさの石が飛んできた。

 

「テメェはそこで黙って突っ立ってやがれ!! この二人の後でぶっ殺す!!」

「二度と決闘ができねぇ体にしてやるからな!! 逃げるんじゃねえぞぉ!!」

 

 そんなことを叫ぶ二人組の顔は、既に、決闘者の顔ではない。

 吹雪を睨みつけ、必ず殺す。異常者の……それ以上の、犯罪者の顔をしていた。

 

「……とことん救いようがないね」

「まあ、最初っから救う気も無い。さっさと終わらせる」

 もはや普通に生きていくこともできない。それを理解したところで、ようやく羽蛾と竜崎が動いた。

 

 

バカ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『電動刃虫』攻撃力2400+500

   『地雷蜘蛛』攻撃力2200+500

   魔法・罠

    セット

    フィールド魔法『ガイアパワー』

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

羽蛾

手札:5→6

 

「僕は……」

「おい!! なに手札のカードに触ってんだ!! 何もするなって言っただろうが卑怯者がぁ!! さっさと俺にターン回せ!! 言ったことも理解できねぇほどバカなのかよ卑怯者の大バカ虫野郎!!」

 その後も、汚い暴言はずっと続いていた物の、羽蛾は無視し、プレイを再開した。

「まずは速攻魔法『サイクロン』。その伏せカードを破壊」

 破壊されたのは、フィールド上のモンスターの効果、全てを無効にする永続罠『スキルドレイン』……かもしれないと、このバカのことをよく知らない吹雪は密かに思っていたのだが、このバカがそんな戦略的なことを考えるわけもなく、伏せてあったのは通常罠『落とし穴』。

 今時、プロであればなお更、珍しくも何ともない妨害札の破壊はもちろん、ただカードに触れただけでギャースカキャッキャと文句を叫ぶ。

 わざわざ聞く価値の無い、汚い言葉の嵐の中で、羽蛾は次の手を打った。

 

「僕は『ナチュル・パンプキン』を召喚」

 羽蛾がまず召喚したモンスター。

 名前の通り、カボチャの姿をしていた。緑色だが、上の部分が取れ、そこから鮮やかな黄色の中身が見えている。

 のんびりとした可愛らしい顔が着いたカボチャに、短い手足がくっついた、まるで絵本の世界から飛びだしたような、愛らしいモンスターだった。

 

『ナチュル・パンプキン』

 レベル4

 攻撃力1400

 

「……それ……それだよ……」

 羽蛾がモンスターを召喚した途端、突然罵詈雑言を止める。だが、その顔つきは変わることなく、狂った目は、目の前のモンスターに注がれていた。

「見たことも、聞いたこともねぇモンスター……テメェみてぇな卑怯者にはもったいねえ! 今すぐ俺によこしやがれ!! 大体なんだって『インセクター』羽蛾のくせに植物族なんか使ってやがる!! おかしいだろうが!! 頭湧いてんのかてめぇえ!!」

「君にだけは言われたくないな……」

 羽蛾自身、最初にナチュルを見た時は、『インセクター羽蛾』としての迷いもあった。

 昆虫族も多いが、そもそも名前からして植物がモチーフであり、現に主力モンスターのほとんどは植物族や岩石族。切り札に至っては獣族やドラゴン族だった。

 それでも、彼らが自分を選び、求めてくれたことが嬉しくて……何より、自分もまた、このカード達と共に闘いたい。そう思ったから、今日まで共に闘ってきた。

 今更名前を変える気は無い。自分はただ、今日まで研鑽し、積み上げてきた『インセクター羽蛾』として、そんな自分を選んでくれたこのデッキと共に闘う。ただ、それだけだ。

 

「『ナチュル』モンスターは地属性。君の発動した『ガイアパワー』の効果で、攻撃力は500アップする」

 

『ナチュル・パンプキン』

 攻撃力1400+500

 

「更に、『ナチュル・パンプキン』の効果。相手の場にモンスターが存在する時にこいつの召喚に成功したことで、手札のナチュルモンスターを特殊召喚できる。僕は手札から『ナチュル・フライトフライ』を特殊召喚」

 

『ナチュル・フライトフライ』

 レベル3

 攻撃力800+500

 

「『ナチュル・フライトフライ』のモンスター効果。こいつが場にある限り、相手フィールドのモンスターの攻撃力と守備力は、自分フィールドのナチュル一体につき300ポイントダウンする」

「ああん!?」

 

『電動刃虫』

 攻撃力2400+500-300×2

 守備力0-400-300×2

『地雷蜘蛛』

 攻撃力2200+500-300×2

 守備力0-400-300×2

 

「こんのぉ……卑怯者の虫野郎おおおおお!!」

 また喚き散らし、叫び散らす。そしてまた、その声を無視してプレイを続ける。

「ナチュルの効果が発動したターン、手札の『ナチュル・ハイドランジー』は特殊召喚できる」

 

『ナチュル・ハイドランジー』

 レベル5

 攻撃力1900+500

 

『電動刃虫』

 攻撃力2400+500-300×3

 守備力0-400-300×3

『地雷蜘蛛』

 攻撃力2200+500-300×3

 守備力0-400-300×3

 

「ここで、『ナチュル・フライトフライ』の効果! 一ターンに一度、相手フィールド上の、守備力0のモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。僕はこの効果で、『電動刃虫』のコントロールを得る」

「ふざけるなあああああああああああああ!!」

 また石を投げつけるが、羽蛾はあっさり避けてしまった。そんなことをしている間に、眠そうな目をした『ナチュル・フライトフライ』が『電動刃虫』の目の前まで飛び、まるで踊るようにその場で飛び回った。

 かと思えば、それに釣られたように『電動刃虫』も踊りだし、二匹揃って、嬉しそうに羽蛾のフィールドに並び立つ。その時の、『電動刃虫』の様子はまるで、愛想の尽きた救いようのない主から離れ、自由になったことに歓喜しているように見えた。

 

『電動刃虫』

 攻撃力2400+500

 守備力0-400

 

「……せっかくだ。速攻魔法『速攻召喚』発動! 手札のチューナーモンスター『ナチュル・チェリー』を召喚!」

 羽蛾が最後に召喚したのは、頭に着けた桜の髪飾りが可愛らしい、二人で一組のさくらんぼだった。

 

『ナチュル・チェリー』チューナー

 レベル1

 攻撃力200+500

 

『ナチュル・ハイドランジー』

 攻撃力1900+500

『ナチュル・パンプキン』

 攻撃力1400+500

『ナチュル・フライトフライ』

 攻撃力800+500

『ナチュル・チェリー』

 攻撃力200+500

『電動刃虫』

 攻撃力2400+500

 

 

 羽蛾が、後攻一ターン目でフィールドを埋め尽くしているのと同じ頃……

 

 

クズ

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『ブラッド・ヴォルス』攻撃力1900+1000+700+800

   魔法・罠

    装備魔法『デーモンの斧』

    装備魔法『悪魔のくちづけ』

    装備魔法『団結の力』

    装備魔法『ミスト・ボディ』

    セット

 

 

「ワイのターン、ドロー」

 

ダイナソー竜崎

手札:5→6

 

「この瞬間!! 速攻魔法『スケープ・ゴート』!! 『羊トークン』四体特殊召喚!!」

 

『羊トークン』トークン

 レベル1

 守備力0

『羊トークン』トークン

 レベル1

 守備力0

『羊トークン』トークン

 レベル1

 守備力0

『羊トークン』トークン

 レベル1

 守備力0

 

「この意味が分かるかよぉ? 『団結の力』の効果で、モンスター一体につき800、四体だから3200ポイント、攻撃力をアップだあ!!」

 

『ブラッド・ヴォルス』

 攻撃力1900+1000+700+800×5

 

「これで『ブラッド・ヴォルス』の攻撃力は7600! 戦闘破壊もされない! オマケに『羊トークン』で守りも万全だぁ!! 分かったらさっさとサレンダーしろ!! 俺を待たせるなぁ!!」

 自身のプレイをやたら誇張し、偉業だと信じて相手にも押し付ける。相手のプレイ自体を許さないバカとはやや違うものの、どの道こちらのクズも、同じように大声を上げ、罵っていた。

 

「ワイは速攻魔法『月の書』発動。『ブラッド・ヴォルス』を裏守備表示に変える」

「……え?」

 クズの口が閉じ、同時に『ブラッド・ヴォルス』がタダの裏側のカードに変わる。

 結果、彼に装備された装備魔法全て、対象を失い破壊される。

「なにしやがるコラァアアアアアアアアア!!」

「考え無しに装備しまくった、お前が悪い……ワイは魔法カード『手札抹殺』を発動。互いに手札を全て捨て、捨てた枚数カードをドローする。そっちの手札はゼロ。ワイは四枚捨てて、四枚ドロー。そして、魔法カード『真炎の爆発』発動。自分の墓地の、守備力200の炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚する。ワイはこの効果で、守備力200の『ジュラック・アウロ』二体を特殊召喚」

 

『ジュラック・アウロ』チューナー

 レベル1

 攻撃力200

『ジュラック・アウロ』チューナー

 レベル1

 攻撃力200

 

「よこせえええええええええええええええ!!」

 竜崎が、新たに召喚した二体のモンスター。

 卵から産まれたばかりの、火を吐く小さな恐竜二体を見た途端、クズがまた声を上げた。

「俺に今すぐそいつらをよこせええ!! そいつらだって、お前のような卑怯者のクズより、この俺に使われる方が嬉しいに決まってるんだ!! さあ!! 今すぐ俺にそのデッキをよこせ!! よこせえええええええええええ!!」

 両手を差しだし、地団太を踏んで要求する姿は、まるで駄々っ子だった。

 いい歳をしている分、駄々っ子よりも遥かに無様で見苦しかった。

 もちろん、竜崎はそんな駄々男(だだだん)の相手をする気は無かった。

「『ジュラック・アウロ』のモンスター効果。こいつをリリース……いや、生贄に捧げることで、墓地に眠るレベル4以下の『ジュラック』を特殊召喚できる。ワイはこの二体を生贄に、甦れ『ジュラック・グアイバ』、『ジュラック・プティラ』!」

 それぞれ赤色を基調とした、カラフルな体色と、全身から噴き出る激しい炎。

 姿は違えど、そんな炎と、鋭い牙と爪を煌めかせる恐竜達が、竜崎の前に並んだ。

 

『ジュラック・グアイバ』

 レベル4

 攻撃力1700

『ジュラック・プティラ』

 レベル3

 攻撃力800

 

「そして手札から、『ジュラック・モノロフ』を通常召喚!」

 

『ジュラック・モノロフ』チューナー

 レベル3

 攻撃力1500

 

「『ジュラック・モノロフ』は相手モンスター全てに一回ずつ攻撃ができる。この意味分かるか?」

 そう問い掛けてみるが、目の前のクズは、新たに現れた燃える恐竜達に興奮し、なお更よこせと要求するばかり。竜崎の声など、まるで耳に届いていない。

「まあ、この際どうでも良えわ。更に永続魔法『一族の結束』! こいつが場にある限り、自分フィールドと墓地のモンスター全ての元々の種族が同じ場合、自分フィールドのその種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。ワイのフィールドと墓地のモンスターは全て恐竜族!」

 

『ジュラック・グアイバ』

 攻撃力1700+800

『ジュラック・プティラ』

 攻撃力800+800

『ジュラック・モノロフ』

 攻撃力1500+800

 

「これで終いや……」

 

「なあ、竜崎」

 

 今まさに、竜崎がとどめを刺そうとした時。隣で決闘している羽蛾の声が聞こえた。

「どうした、羽蛾?」

 

「……この際だ。僕らも使わないか?」

 

 一枚のカードを取り出しながらの、そんな提案に、竜崎の表情が曇った。

「本気で言うとんのか?」

「ああ。本気だ」

「誰かに見られたらどないすんねん? 第一、こいつらはパンピーやぞ?」

「確かにそうだが、周りに人の姿はない。多分見てる奴はいないよ。それに、こいつらが何を見たとしても、こいつらの言葉を信じる奴なんていない。何より……」

 羽蛾は、ここで一度言葉を切った。そして、続けた。

「これ以上隠しておくことに意味は無い。そのことに気付いてるんじゃないのか? 竜崎……亮もさ」

 後ろに立つ亮にも、同じく語り掛ける。竜崎も亮も、羽蛾の言いたいことが分かった。

「誰かは知らないが、少なくとも水瀬梓君とは別に、シンクロモンスターを使ってる奴がいる。それも、一人や二人じゃない」

 

「本当かい!?」

 

 亮の隣に立つ吹雪が声を上げた。それに答える意味でも、羽蛾は続けた。

「そいつらはおそらく、僕らと違って好き勝手にシンクロモンスターを使ってる。多分、アカデミアの生徒、外部のプロ決闘者、そんなことはお構いなしなはずだ」

「……確かにな」

 

「……ああ。この島に着いた時点で、気配は感じていた」

 

「だったら僕らも、いい加減解放してやっても良いころだと思う。まあその相手が、こんな奴らなのもどうかとは思うけどさ」

「……」

 

「なにごちゃごちゃくっちゃべってんだぁ!! 終わりならさっさと終われ!! これ以上俺を待たせるなあああ!!」

「お前は今すぐ敗けろ!! 死ね!! さっさと俺にカードをよこせええええええ!!」

 

「……良えやろう」

 羽蛾の提案に、竜崎も乗ることにした。

「確かに、良い加減こいつらも暴れたいとこやろうしなぁ……」

 

「決まりだね……」

 羽蛾は微笑みながら、改めて、相手を睨みつけた。

 

『ナチュル・ハイドランジー』

 レベル5

 攻撃力1900+500

『ナチュル・パンプキン』

 レベル4

 攻撃力1400+500

『ナチュル・フライトフライ』

 レベル3

 攻撃力800+500

『ナチュル・チェリー』チューナー

 レベル1

 攻撃力200+500

『電動刃虫』

 レベル4

 攻撃力2400+500

 

「さあ、いくよ……レベル4の地属性『ナチュル・パンプキン』と、『電動刃虫』に、レベル1の地属性『ナチュル・チェリー』をチューニング!」

 ずっと喚いていたバカだったが、初めて目にするその光景には、さすがに口を閉ざした。

 無言でその光景を見上げ、これから起こることに言葉を失う。

 

「神聖なる大自然より、咆哮と共にここに来たれ。相対するもの全てを踏みしだく、純粋なる力の申し子……」

「シンクロ召喚! 走れ『ナチュル・ガオドレイク』!!」

 

 まず目に飛び込んだのは、眩いほどに輝くオレンジ色の、花びらか、紅葉か。だがその中心には、目の前の敵を睨み、威嚇する、勇猛なる獅子の顔があった。

 緑の葉から成る体毛と、その下から伸びるオレンジ色の四肢。

 今まで召喚されてきたナチュル達と同じ雰囲気ながら、その姿は雄々しき獣の王だった。

 

『ナチュル・ガオドレイク』シンクロ

 レベル9

 攻撃力3000+500

 

「シンクロ……? シンクロ?」

 

『地雷蜘蛛』

 攻撃力2200+500-300×3

 守備力0-400-300×3

 

「バトル」

 呆然としているバカに向かって、羽蛾はバトルを宣言した。

「まずは『ナチュル・ハイドランジー』で、『地雷蜘蛛』を攻撃!」

 静かに咲いていた紫陽花が、その頭を激しく振った。そこから飛んでいった花びらが、『ナチュル・フライトフライ』の効果で攻撃力が1800にまで下がった『地雷蜘蛛』を細切れにした。

 

バカ

LP:4000→3400

 

「『ナチュル・フライトフライ』で直接攻撃」

 今度は跳び回っていた紫のハエが、その小さな体で体当たりをする。あまり強くない攻撃ながら、その攻撃は、ただでさえ呆然としていたバカに尻餅を着かせた。

 

バカ

LP:3400→2100

 

「とどめだ……『ナチュル・ガオドレイク』で、ダイレクトアタック!」

 羽蛾が叫び、ガオドレイクが走り出す。そこでようやく、バカは我に返った。

「おいやめろ!! お前は俺のもんだ!! 卑怯者の虫野郎なんかじゃねえ!! 俺のカードなんだ!! 主人に攻撃なんて!! この俺に向かって、攻撃なんて今すぐやめろ!! 俺はお前の主人だぞ!! やめろおおおおおおおお!!」

 そんな言葉など聞く気も無く、何より、受け入れるはずも無い。

 『ナチュル・ガオドレイク』は、振り上げた前足を、バカに向かって振り下ろしていた。

 

バカ

LP:2100→0

 

 

『ジュラック・グアイバ』

 レベル4

 攻撃力1700+800

『ジュラック・プティラ』

 レベル3

 攻撃力800+800

『ジュラック・モノロフ』チューナー

 レベル3

 攻撃力1500+800

 

「いくで! レベル4の恐竜族『ジュラック・グアイバ』と、レベル3恐竜族『ジュラック・プティラ』に、レベル3の『ジュラック・モノロフ』をチューニング!」

 バカと同じくこちらのクズも、その光景に言葉を失った。

 

「燃え上がれ! 誇り高き竜の魂! 熱き魂は一つとなりて、全てを焼き尽くす流星となる……」

「シンクロ召喚! 現れろ『ジュラック・メテオ』!!」

 

 炎がより一層、激しく燃え上がる。と同時に、その炎でできた火柱の中から現れた。

 巨大な前脚と後ろ足。全てを噛み砕いてしまいそうな強靭なる顎。

 だが、そんな恐竜の身には、硬く、熱く、燃え上がるいくつもの岩石を纏っていた。

 その姿は名前の通り、隕石だった。

 

『ジュラック・メテオ』シンクロ

 レベル10

 攻撃力2800+800

 

「『ジュラック・メテオ』、効果発動!」

 現れた瞬間、『ジュラック・メテオ』を燃やしていた火柱が再び激しく燃え上がる。と同時に、その火柱によってメテオの体は上空へと飛ばされた。

「このカードのシンクロ召喚に成功した時、フィールド上のカード全てを破壊する」

 そして、メテオは飛び上がった遥か上空から、フィールドへ向かって振り注ぐ。

 と同時に、竜崎の場の永続魔法、クズのフィールドの守備モンスター達、全てを焼き尽くし、破壊した。

「……バカなのかよお前。俺だけでなく、自分の場までがら空きにしやがって!! やっぱりテメェなんか、タダの卑怯者のクズだ!! お前みたいな奴が、そのカード使う資格なんてねぇんだ!! 早くサレンダーして俺によこせ!! よこせええええええええ!!」

「……『ジュラック・メテオ』の効果には続きがある。フィールド上の全てのカードを破壊した後、墓地のチューナーモンスター一体を特殊召喚できる。ワイが呼ぶのは、『ジュラック・モノロフ』や」

 

『ジュラック・モノロフ』チューナー

 レベル3

 攻撃力1500

 

「そして、手札の最後の一枚……『死者蘇生』。こいつで墓地の、『ジュラック・メテオ』を蘇生」

 

『ジュラック・メテオ』シンクロ

 レベル10

 攻撃力2800

 

「バトル!」

 二体の炎の恐竜が、攻撃の態勢を作る。

「『ジュラック・モノロフ』で、クズに直接攻撃!」

 青色の身と、黄色の頭を持つ恐竜が走り、その尾を振う。クズもまた、その攻撃で尻餅を着いた。

 

クズ

LP:4000→2500

 

「そしてとどめや……『ジュラック・メテオ』で、クズにダイレクトアタック!」

 クズもまた、バカと同じように、自身を正当化し、自分こそがジュラックの使い手なのだと、向かってくる『ジュラック・メテオ』に向かって声高に叫んだ。

 だが、同じように聞き入れられるはずもなく、巨大隕石の体当たりは直撃し、クズの身をぶっ飛ばした。

 

クズ

LP:2500→0

 

 

「すごい……」

 二人の決闘を見ていた吹雪が、思わず声を漏らしていた。

「あの二人なら、このくらいは当然だ」

 亮はただ、冷静に納得していた。

 

「さてと……こいつらどうする?」

 シンクロモンスターによるとどめの一撃で、気絶してしまったバカとクズ。

 しっかりアンティのデッキを回収しつつ、このまま放っておいて、目を覚ましたらまた暴れ出すとも限らない。何より……

「……思った通りだ。こいつら、ジェネックスの参加者じゃない。単に僕らのこと、追い掛けてきただけみたいだ」

「ホンマ、とことんストーカーやな……」

 デッキを頂きつつ、ポケットから懐から、何かを隠せそうな場所は粗方探ってみた。探ってみた結果、半ば予想した通り、ジェネックスの参加資格であるメダルなど、どこにも持っていない。

 プロ決闘者も多い大規模大会の舞台まで、二人のことを追い掛けてきた行動力はある意味すごいが、はっきり言って、誰がどう見ても、ストーカー以外の何物でもない。

「この二人は、アカデミアの警備に引き渡しましょう。僕が連絡しておきますよ」

 そんな二人に向かって、吹雪はそう提案した。

「そっか……ほな、頼んでも良えか?」

「ええ。あなた方は、僕と違ってまだ生き残った決闘者だ。こんなバカとクズに時間を取られることはありません」

 言葉の残酷さとは裏腹に、笑顔で語るその顔は、とても爽やかなものだった。

 そんな笑顔に二人が癒されるのを見ながら、吹雪は突然その表情を硬くした。

「ただ、これだけは聞いておきたいのですが……」

 硬く、しかし真剣な表情で、二人に、そして、後ろの亮に、問い掛ける。

「水瀬梓君……彼と決闘することが目的だと言っていましたよね? 決闘をして、その後は、どうする気ですか?」

 

『……』

 

 単刀直入な質問に、三人とも言葉に詰まる。

「……どうだろうね」

 しばらく黙った後で、口火を切ったのは羽蛾だった。

「水瀬梓君を倒して、その後どうするか……それは、このデッキに聞いてみないと分からない」

「ワイらはただ、ワイらの使うこのデッキが、梓の持つ『氷結界』との闘いを望んどる。その望みを叶えるためにここに来た。それだけや。それ以上の望みは知らん」

「そういうことだ」

 羽蛾と竜崎に続いて、亮も、吹雪に声を掛けた。

「このデッキが、梓との決闘を望んでいる。だから決闘する。それ以上の目的は無い。その目的を成した時どうするか。それは、こいつらが決めることだ」

「そんな……」

 納得できない顔をする吹雪に背中を向け、三人とも歩き出した。

 

 目的も、願いも知らない。ただ、決闘がしたいと望むから、決闘をするため探し出す。

 そして、その相手が水瀬梓だから、三人とも、水瀬梓を求めて、歩き出した。

 

(待っていろ。水瀬梓……)

 

(このデッキのために……そして何より、君への恩返しのために……)

 

(強くなったワイらの姿。それを見てもらうために……決闘やで、梓!)

 

 歩き出した……

 

 

 その時。

 

『……ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああっっっ!!』

 

 吹雪が目を離した隙に、目を覚ましたバカとクズが奇声を上げる。

 吹雪を突き飛ばしたかと思えば、二人とも、それぞれの相手の決闘者へ、その手に刃物を光らせて……

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「……っ! なんです……?」

『どうしたの?』

「今なにか……酷く不吉なものを感じた。『A・O・J』、『ジェネクス』……彼らに匹敵する、怒りと憎悪と、殺意と……」

 

 左手首からの出血が、ますます激しくなっていく。それを握りしめながら振り返った、梓の視線の先には、活火山があった。

 

『……! うん、僕も今分かった。この、最悪な感じ……』

「羽蛾さん……竜崎さん……まさか、そんな……!」

 

 

 

 




お疲れ~。

う~ん、なんつーか……
ゲスキャラとなると似たようなのしか書けない、非力な大海を許してくれ……

そんなこんなで、とうとう使い手たちが集結しちゃいました。
次の梓の相手は誰だろう?
バレバレとは思うが、これだけは言っておく。
ちょっと待ってて。

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