遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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うるぅぅぅうううぅぅぃぃ……

んじゃあ、決着いきまーす。

行ってらっしゃい。



    英雄の闇 ~bloody stream~

「『邪神イレイザー』召喚!!」

 

 現れたそれは、あまりにも巨大すぎた。巨大すぎて、その全体像を捉えるのに、星華は数秒の時間を要した。

 そして数秒後、その姿と、その存在を捉えたことに、後悔させられた。

「こいつは……なんだ、こいつは……」

 

 不自然に巨大で鋭利な頭が、小さな顔に無理やりくっ付いたような、禍々しい形の頭部。

 鋭利な爪の伸びた、巨大な手の平が伸びるか細い腕。

 アバラや背骨の浮き出たような、巨大だが弱々しく不気味な胴体。

 そして、そんな胴体から伸びる、長い長い尾。

 巨大なのに弱々しくて、無様なのに禍々しい

 

 それはまるで、自身をこんな、惨めな姿に生み出した世界を呪っているような……

 それはまるで、自身を除く、世界のあらゆる輝かしいモノを憎んでいるような……

 それはまるで、自身と今ある世界を見比べ、打ちのめされ悲しんでいるような……

 

 それはまるで、自身を除く、生まれてきたもの全て、破壊したいというような……

 

「……」

 それだけ巨大で禍々しいソレを見上げて、星華は声も出ず、震えるだけ。

 

「ククク……邪神の姿がそんなに恐ろしいか?」

 

 そんな星華の耳に届いたその声が、恐怖に呑まれた星華を現実に引き戻す。

 その声の主は、当然と言えば当然だが、目の前のキース。

 

「だが、恥じることは無い。君の反応は正しい。仮にも『神』を目の前にしているのだ。それも、闇より出でし邪神を。恐怖を感じるなという方が無理だろう」

 

 確かに、目の前で喋っているのはキース。口を動かし、声を出している。

 それなのに……

「……貴様、何者だ?」

 声や、姿がキースでも、喋り口調が全くの別人。

 そんな違和感に、未だ恐怖に震える身体に鞭を打ち、星華は尋ねた。

 

「ククク……ワタシはバンデット・キース。君の対戦相手の決闘者だ」

 

「そうか……」

 どうやら、聞き出すだけ無駄らしい。

「なら別のことを聞く。こ……こいつはなんだ?」

 姿を見上げると、また恐怖が込み上げる。

 それでも、震える指を持ち上げて、ソイツを指差し、尋ねてみる。

「この存在感……体を恐怖で支配される感覚……ただのモンスターとは思えない」

「ククク……」

 キースは薄ら笑いを漏らしながら、その質問に切り返した。

「ククク……こいつは、『邪神イレイザー』。伝説の『三幻神』と対を成す神のカード、『三邪神』の一柱だ」

「三邪神……三幻神と対を成す、だと? そんなカードが存在したのか!?」

 驚愕を叫ぶ星華に対して、キースはあくまで落ち着いて、質問に切り返していく。

「カードが存在していた……というのは、正確ではないな。三邪神は、存在はしていたが、カードとなったのはごく最近のことなのだから」

「どういう意味だ……?」

「……」

 

 かつて、決闘モンスターズの生みの親、ペガサスは、古代エジプトより発掘された石版を元に、決闘モンスターズを生み出した。そして、その石版に記されていた、三体の神。それらを元に生み出されたのが『三幻神』のカード。『オベリスクの巨神兵』、『オシリスの天空竜』、『ラーの翼神龍』。

 それら三枚のカードは、カードとしてあまりに強大過ぎる力を持ち、それらのカードを所有した者達には次々に災いが降り掛かり、死に追いやられた。後に三枚のカードを使いこなすことができた決闘者達が現れるまで、これらは正しく呪いのカードだった。

 その力を恐れたペガサスは、三枚の神のカードを回収し、自らの手で処分してしまおうと考えた。

 だが、自らが生み出した愛すべきカードを無に帰すことは叶わず、三幻神はそれぞれ、エジプトの古代遺跡へと厳重に保管されることとなった。

 

「ここまでは君も知っているな?」

「ああ……」

 この時代、決闘者であれば誰もが知る逸話。その三幻神が既に、この世に残っていないことも皆、分かっている。

「だが、この話しには続きがあったのだ」

「続き?」

「ペガサスは、いずれ三幻神が復活し、世界を再び闇の時代に落とすことを恐れていた。そこで、そんな三幻神の抑止とするために、独自に新たなカードをデザインしていたのだ」

「新たなカード……三幻神の、抑止とするために。では、それが……?」

「そう。それが三邪神のカード。そしてこれがその三枚のうちの一枚、『邪神イレイザー』というわけだ」

 再び目の前のモンスター……否、神を見上げながら、キースは言い放った。

「そんなカードが……ではなぜ、今の今まで姿を現さなかった? 三幻神はとうの昔に復活していたのに……」

「ペガサスは三邪神をデザインするのみにとどまり、カードとしての創造を行わなかった……カードとすることを躊躇わせたのだ。三幻神を凌駕する力を持って生まれた、邪悪なる神々を……」

「……!」

 その話だけで、目の前に君臨する邪神の一体の力がどれほどのものか、嫌と言うほど理解させられる。

「その邪神の力……君にも見せてあげよう」

 

『グオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

「……っっ!?」

 邪神の咆哮。それにまた、体が恐怖に打ち震える。

 世界を憎み、自らに嘆き、全てを壊す、そう言いたげな、世界を震わせる咆哮……

 

『THE DEVILS ERASER』

 レベル10

 攻撃力?

 守備力?

 

「攻撃力が決まっていない?」

「『邪神イレイザー』の攻撃力と守備力は、相手フィールドに存在するカード一枚につき、1000ポイントの数値になるぜ」

 口調が何者かから、キースに戻っている。だが今の星華に、それに気付くだけの余裕は無かった。

「そんなっ……私のフィールドに存在するカードは……」

 

『重爆撃禽 ボム・フェネクス』

『ジェネクス・パワー・プランナー』

 セット

 セット(発動不可)

 セット(発動不可)

 

『THE DEVILS ERASER』

 レベル10

 攻撃力1000×5

 守備力1000×5

 

「攻撃力5000だと……? ではまさか、そのために私のカードを縛りつけて……」

 未だ、鎖に縛られている二枚の伏せカードを見ながら、そんなことを思ったが……

(……いや、キースは明らかに、邪神のカードを見て動揺していた。邪神の存在を知らなかった上で、私の伏せカードを封じ、縛り付けるカードを使った)

「全ては偶然……まさか、『神』が全て仕組んだとでも……?」

 その答えは、誰にも分からない。

 分かるのは、今のイレイザーの攻撃を喰らえば、間違いなく星華の敗北だと言う現実のみ。

 

「さあいくぜ……バトルだ」

 その現実を実現させる宣言を、キースは行った。

「『邪神イレイザー』で、ボム・フェネクスを攻撃……」

 イレイザーの小さな顔の上。そこにある、巨大なクチバシが開かれる。

 そこに、闇の力が溜まっていき、巨大なエネルギーと化し……

 

「ダイジェスティブ・ブレス!!」

 

 その巨大なエネルギーが、ボム・フェネクス目掛け放たれた。

「り、伏せカード発動! 『融合解除』!」

 

『レアル・ジェネクス・クラッシャー』

 レベル2

 守備力800

『レアル・ジェネクス・マグナ』

 レベル3

 守備力200

 

 巨大な不死鳥を、星華ごと飲み込んでしまいそうな巨大なエネルギー。

 そのエネルギーを、ボム・フェネクスを分裂させることで防いだ。

「かわしたか……もっとも、枚数に変化は無ぇから、攻撃力は変わらねぇ。すぐに減ることになるがな……『レアル・ジェネクス・クラッシャー』を攻撃! ダイジェスティブ・ブレス!」

 再びエネルギーが放たれる。

 直前以上に巨大となったエネルギーが、守備表示となったクラッシャーを飲み込んだ。

 その力が、モンスターの後ろにいた星華にもぶつかった。

 

「相手の場のカードが数を減らしたことで、イレイザーの攻撃力も変化する。これでターンエンド」

 

 

キース

LP:5100

手札:0枚

場 :モンスター

   『THE DEVILS ERASER』攻撃力1000×4

   魔法・罠

    永続罠『エンジンチューナー』

 

星華

LP:200

手札:0枚

場 :モンスター

   『レアル・ジェネクス・マグナ』守備力200

   『ジェネクス・パワー・プランナー』守備力200

   魔法・罠

    セット(発動不可)

    セット(発動不可)

 

 

「……」

「どうした? 今の邪神の攻撃で参っちまったかよ?」

「……いいや」

 嘲笑するキースの問いに、星華は目を伏せたまま、声を返す。

「確かに……邪神は怖ろしい。姿も存在も、攻撃も、その威力もな……だが……」

 声にはドスを聞かせ、威力を持たせる。上げた顔からの視線は、鋭利に研ぎ澄まされていて。

「それ以上に、頭に来ただけだ。子供の頃からの憧れ。英雄との決闘に水を差した、貴様に対して……」

 目の前にいる、キースにではない。キースの向こう側にいる、何物かに対する怒りを露わにする。

「なにより、最も許せんのは、貴様のような得体の知れない存在が、私の梓を付け狙っているということだ!」

「……」

「貴様が何者かは知らん。だが、この怒りの責任は取ってもらうぞ……私のターン!」

 

星華

手札:0→1

 

「魔法発動『壺の中の魔術書』! 互いのプレイヤーは、カードを三枚ドローする」

 

星華

手札:0→3

キース

手札:0→3

 

「魔法カード『融合回収(フュージョン・リカバリー)』! 墓地の『融合』と、融合の素材となったモンスター一体を手札に加える。私は墓地の『融合』と、『レアル・ジェネクス・クラッシャー』を手札に加える」

 

星華

手札:2→4

 

「そして、『レアル・ジェネクス・クラッシャー』を召喚!」

 

『レアル・ジェネクス・クラッシャー』

 レベル2

 攻撃力1000

 

『THE DEVILS ERASER』

 攻撃力1000×5

 

「クラッシャーの効果。こいつの召喚に成功したことで、デッキからレベル4の『レアル・ジェネクス』を手札に加える。私は『レアル・ジェネクス・ターボ』を手札に加える」

 

星華

手札:3→4

 

「そしてもう一度。魔法カード『融合』。場の炎族『レアル・ジェネクス・マグナ』、手札の機械族『レアル・ジェネクス・ターボ』を融合! 来い『起爆獣ヴァルカノン』!」

 炎の翼を持った不死鳥とは全く別。機械の鎧と、火薬に彩られた身体。

 巨大な獣がフィールドに降り立ち、目の前の邪神を威嚇する。

「新たに呼び出したヴァルカノンは機械族。貴様の場の『エンジンチューナー』は、対象の無い状態で新たに機械族が召喚されれば、相手のモンスターであれ効果を発動させる。ヴァルカノンの守備力は1600。その半分の数値、800ポイントが攻撃力に加わる」

 

『起爆獣ヴァルカノン』融合

 レベル6

 攻撃力2300+800

 守備力1600

 

「もっとも、いくら攻撃力が上がろうが関係ないがな……ボム・フェネクスを知っていたんだ。こいつのことも当然知っているだろう」

「……」

「ヴァルカノンの効果! 融合召喚されたこいつを、相手フィールドのモンスター一体と共に破壊し、貴様にそのモンスターの攻撃力分のダメージを与える。私が破壊するのは、『邪神イレイザー』!」

 その宣言を聞いた起爆獣が、目の前の邪神に飛びかかった。

 決して逃すまいとその身をわしづかみ、爪を立てる。

 直後、背から飛び出た導火線に火が着いた。

 

「誘爆!」

 

 導火線が燃え尽き、火がその身に届いた瞬間……

 巨大な爆発がフィールドを飲み込み、その威力がイレイザーを飲み込んだ。

「イレイザーの攻撃力は5000、5000ポイントのダメージをその身に受けろ!」

「……」

 

キース

LP:5100→100

 

「残ったモンスターの攻撃で、貴様は終わりだ!」

 

「……く、ヒヒ……」

 

 邪神は起爆獣の攻撃を受け、身体の半分以上が爆発に吹き飛んだ。

 そんな無残な残骸と、減少したキースのライフポイントが、邪神の死を明確にしている。

 だというのに……

「ヒヒ……ヒヒ……」

「なんだ……なにがおかしい?」

 既に勝利を目の前にしていて、それでもその不自然さを前に、星華も怪訝を寄せる。

「ヒヒ……やりやがったな……」

 キースが言葉を発した、その時だった。

「な、なんだ?」

 既に命の無いはずの、イレイザーの残骸。その傷口から、どす黒い液体が漏れ出ている。

「イレイザーの、血?」

 その黒い血は止まることを知らず、フィールド一面に広がっていく。

 キースの場、そして、星華の場さえ覆い尽くす。

 

「こ、これは……!」

 その時、星華の場のモンスター、縛り付けられていた二枚の伏せカード、更には、キースの場に残っていた永続罠、その全てが、その血の中へ沈んでいった。

「なんだ、これは……なんなんだこれは!?」

「クク……ヒヒ……言うのを忘れちまったぜ。イレイザーはよぉ……その身を墓地に置く時、フィールドのカード全てを道連れにしちまうのよぉ……ヒヒ……」

「フィールドのカードを全て破壊するというわけか。悪あがきを……」

 そう言いつつ、残った手札のカードを見るが、

(ヤツの残りライフは100。あと一撃で勝てるというのに、これ以上のダメージを与えられんとは……)

「くそ……カードを二枚伏せ、ターンエン……え?」

 

 エンド宣言しようとした瞬間、再び言葉を失う光景。

 星華の足もとの血。それが、星華の脚を、腹を、胸を、肩を、首をつ帯、上へ上へと昇っていき、その身にまとわりついていく。

「なんだこれは……来るな! やめろ!」

「ヒヒ……どうやら、イレイザーはフィールドのカードだけでは飽き足らず……俺達、決闘者まで、道連れにする気らしい……ヒヒ……ヒ……」

 必死に血を振り払おうとする星華と同じく、キースの身にも、血は昇っていく。

 やがて、拭おうが振り払おうが間に合わなくなり、キースを、そして星華の身が、完全に血で包み込まれ……

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……こ、これは?」

 目が覚めた時、星華は、真っ暗な空間にいた。

 夜だから暗い、という次元ではない。空間そのものが黒く、光など、どこにも見当たらない。

 

「ヒヒ……ヒヒ……」

 

 そんな空間の向こうから、聞き覚えのある乾いた笑い声が聞こえた。

 そしてそこには、同じように、決闘者の姿がはっきりと見えた。

 

 

星華

LP:200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

 

キース

LP:100

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「ヒヒ……クク、ヒ……俺のターン、ドロー……」

 

キース

手札:3→4

 

「ぼ、墓地に、眠るMARSは……自身を除く、三体のモンスターを除外することで、特殊召喚できる……俺は、墓地の、モーターモンスター三体を除外……『The blazing MARS』特殊召喚……」

 

『The blazing MARS』

 レベル8

 攻撃力2600

 

「この効果を、使ったターン……クク……これ以上の、特殊召喚はできなくなる……ヒヒ、ク……バ、トル……」

 途切れ途切れに言葉を発しながら、決着をつけるための攻撃を仕掛けた。

「MARSの、ダイレクトアタック……Syrtis Major……!!」

 マーズの巨大な口に再び、巨大な熱エネルギーが溜まっていく。それが、星華目掛けて放出された。

「永続罠発動『深淵のスタングレイ』! こいつは発動後、レベル5のモンスターカードとなる」

 

『深淵のスタングレイ』罠モンスター

 レベル5

 守備力0

 

 雷から生まれたような、青白いエイの姿をしたモンスターが現れる。目前まで迫ってきた熱エネルギーを、その透き通った身体だけで消滅させた。

「このカードの効果で特殊召喚されたスタングレイは、戦闘では破壊されない」

「クク……ヒヒ……カードを伏せる。これで、ターンエンド……」

 

 

キース

LP:100

手札:3枚

場 :モンスター

   『The blazing MARS』攻撃力2600

   魔法・罠

    セット

 

星華

LP:200

手札:0枚

場 :モンスター

   『深淵のスタングレイ』守備力0

   魔法・罠

    永続罠『深淵のスタングレイ』

    セット

 

 

「クク……ヒヒ……ク……クヒ……」

 星華を仕留めることができず、更に強力な壁さえ生み出された。

 だと言うのに、キースの様子は、この空間に引きづり込まれた時と同じ。終始、不気味な引き笑いをもらし。仕舞いには、ひざさえ地面に着けて、ただニヤつくのみ。

 

 その様子は既に、目の前の星華も、決闘も、自分自身すら、見てはいない。

 ただ、自分達を飲み込む闇に。目の前のマーズに。身を委ねて、放棄してしまっている。

 自分自身を捨てて。惨めな過去も。暗い未来も。辛苦しかない現実も。

 自分の存在すら。自分の名前すら。自分自身すら。

 全てを放りこんで。ただ。闇の中へ……

 

 

「彼には期待していたのだが……所詮、彼もこの程度だったということか……」

 

 

「ヒヒ……ヒヒ、ヒ、クク、ヒ……」

 

「恐れるな」

 

 そんな男に向かって、闇の空間の中に、凛とした声が響いた。

 

「闇を恐れるな。向き合い、睨み据えろ。闇に身を委ねるな。抗い、戦ってみせろ。そして……私を見ろ」

 

 ただ笑っていただけの顔を、その声に従って、持ちげる。

 目の前に立つマーズ。そんなマーズの向こう側に立つ、対戦相手。

 

「そうだ……私を見ろ。闇の中だろうと、貴様と共に立つ、私の姿を見ろ……」

「……」

「そして、思い出せ。貴様はこんな、つまらん闇に呑まれ、朽ちるほど、弱い決闘者では決してない。決闘者達の憧れ。機械族の英雄。その名前を言ってみろ」

「……名前……」

「そうだ。貴様の名前だ」

「……」

 

 思い出す……

 闇に呑まれかけている、オレの名前……

 

「オレ……オレの、名は……」

「名乗れ……貴様の名を名乗れ。高らかに、誇らしく、闇に対して……このアカデミアの女帝、小日向星華に向かって!」

 

 まだ失っていない。まだ捨てていない。

 オレ自身に残された、オレを示す、オレだけの……

 

「オレ……俺は……!」

 

 オレを俺として、証明し、差し示す、その名前は……

 

「俺は、キース……!」

 

「俺様は、バンデット・キースだあああああ!!」

 

 

「これは……!」

 暗い部屋の中で、キースを通して決闘を見ていた者。

 部屋の中で確かに感じた。キースを支配していた感覚が今、完全とは言えないまでも、振り払われたことに……

 

 

「それでいい」

 立ち上がり、闇ではなく、自分を真っ直ぐ見つめるキース。

 その姿を見て、星華もまた、カードを引いた。

「私のターン!」

 

星華

手札:0→1

 

「永続罠『闇次元の解放』! ゲームから除外された自分の闇属性モンスター一体を特殊召喚する。私が呼び出すのは、『闇の誘惑』で除外されたモンスター……チューナーモンスター『A・O・J サイクロン・クリエイター』!」

 

『A・O・J サイクロン・クリエイター』チューナー

 レベル3

 攻撃力1400

 

「チュー、ナー……?」

「神のカードが生み出した、これだけの闇だ。どうせ、普通に決闘を終わらせた程度で脱出など叶うまい。ならば、普通ではない方法を取らせてもらうだけだ」

 自身の場に並ぶ、二体のモンスター。それを見つめながら、執行する。

 今日までひたすら隠し続けてきた、最強モンスターの召喚を……

 

「レベル5の『深淵のスタングレイ』に、レベル3のサイクロン・クリエイターをチューニング……」

 

 星華にとってはいつぶりだろうか。わざわざ覚えていられないくらいに久しぶりの行為でも、不思議とその召喚はその身になじむ。

 まるで、遠い遠い昔から、数えきれないだけの回数、行ってきたような。

 だがそんな感覚以上に、全てを破壊できる力を持った、このモンスターの力を借りるために。

 

「王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見るがいい」

「シンクロ召喚! 我が魂『琰魔竜 レッド・デーモン』!」

 

 闇を照らす炎が燃え上がる。火星の燃焼よりも遥かに巨大な炎の中から、悪魔の竜は姿を現した。

 

『琰魔竜 レッド・デーモン』シンクロ

 レベル8

 攻撃力3000

 

「シンクロ……?」

 

 

「ほう、シンクロ召喚……彼女もまた、選ばれし決闘者というわけか……」

 支配することは、既にできない。それでも、『プラネット』を通じて見える、彼女の姿。

 それの姿に、微笑みを浮かべた……

 

 

「レッド・デーモン、効果発動! 一ターンに一度、自分のメインフェイズ1のみに発動できる。このターン、こいつ以外の攻撃を放棄することを引き換えに、こいつを除く、フィールド上の攻撃表示のモンスター全てを破壊する」

 レッド・デーモンが飛び上がり、フィールドの中心に降り立った。

 両翼を広げた瞬間、闇から成るはずの暗い大地が、赤く、紅く、燃えていく……

 

真紅の地獄炎(クリムゾン・ヘル・バーン)!!」

 

 闇の底から、巨大な爆炎が噴き出した。

 それが、キースの場のマーズを飲み込んだ。

 だがそれだけでは終わらず、彼らを包み込み、閉じ込める闇の空間を照らし、その闇の全てを振り払うように、荒れ狂い、暴れ回る。

 それを繰り返すうち、タダの闇でしかないはずの空間に、亀裂が走った。

 亀裂は小さかったが、徐々に、徐々に、空間全てに広がり、闇は、その力を失っていき、そして……

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……」

 気が付いた時には、二人は決闘アカデミアの、元いた場所に立っていた。

 がら空きとなったキースのフィールドと、凶悪なる悪魔の竜を従える、星華のフィールドをそのままに。

 

「バトルだ! レッド・デーモンで、キースにダイレクトアタック!」

 レッド・デーモンの口に、炎が溜められていき。それが、戻ってきてから再び顔を伏せる、キース目掛けて、放たれる。

 

極獄の裁き(アブソリュート・ヘル・ジャッジ)!」

「……」

 

「罠発動『攻撃の無力化』……」

 だが、放たれた火炎も、一枚の伏せカードによって防がれた。

「くそ……ターンエンドだ」

 

 

星華

LP:200

手札:1枚

場 :モンスター

   『琰魔竜 レッド・デーモン』攻撃力3000

   魔法・罠

    永続罠『闇次元の解放』

 

キース

LP:100

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

(まずいぞ……今のターンで仕留められなかったのは、かなりまずい。キースの手札は三枚もあるというのに……)

 

「俺のターン……」

 

キース

手札:3→4

 

 星華の焦りなど知らず、キースは淡々と、カードをプレイしていく。

「魔法カード発動……『死者蘇生』」

「『死者蘇生』……!」

 

(確か、墓地に置かれた神のカードは、一ターンのみ『死者蘇生』で蘇ることができたはず。だが、確か、蘇生された神は攻撃することができない。第一、こちらのフィールドのカードは二枚。イレイザーを呼び出しても、攻撃力でレッド・デーモンは倒せない……)

(ならば、またマーズを呼び出すか? 奴の手札に下級モンスターがあれば、召喚して破壊すれば、500のダメージを私に与えられる。その効果を受けたら、残りライフ200の私は……!)

 

「ヘッ、バーカ……」

 一人、思考しながら慌てふためく星華に向かって、キースは、伏せていた顔を上げる。

 その目には、闇などどこにもない。欧米人らしい青い瞳が、星華を睨み据えている。

「俺が墓地から呼び出すのは……こいつだ!」

 外していたサングラスを掛け直しながら、叫び、フィールドに降り立ったモンスター。

 

 全身から放つ漆黒の光沢。

 全てを狙い澄ます銃口。

 研ぎ澄まされ、洗練された、一目で名銃と分かる武器を三つも構え、正面へ向ける。

 武骨ながら美しく、無機質ながらも生きている。

 そのモンスターの名は……

 

『リボルバー・ドラゴン』

 レベル7

 攻撃力2600

 

「『リボルバー・ドラゴン』!? 王国でも使った、バンデット・キースのエースモンスター……!」

「別に、エースってわけでも無ぇがな……」

「だが、そんなカードいつの間に……そうか。『天使の施し』で、『デモニック・モーター・Ω』と共に墓地へ送っていたのか」

「フ……俺のファンだってんなら、当然こいつの効果は知ってるよな。一ターンに一度、相手フィールドのモンスター一体を対象に発動。コイントスを三回行い、うち二回以上表が出ればそのモンスターを破壊できる。仮想立体映像(ソリッド・ビジョン)ではコインの代わりに、『リボルバー・ドラゴン』自身の弾倉が、確立二分の一のロシアン・ルーレットを行う」

 効果を説明しながら、レッド・デーモンへ向けられた銃口の弾倉が、回転を始めた。

 高速だった回転は徐々に勢いを無くしていき、やがて、止まる……

 

              当たり

         外れ         当たり

 

「二つのロシアン・ルーレットが的中。よって効果は成功!」

 成功した銃口が火を噴き、弾丸を吐き出した。

 

「ガン・キャノンショット!」

 

 攻撃力で勝る悪魔の竜も、必殺の銃弾を受けては防ぐすべなどない。

 銃弾を受けた悪魔竜は無残に吹き飛び、破壊されてしまった。

「バトルだ! 『リボルバー・ドラゴン』で、ダイレクトアタック!」

 破壊した悪魔の竜から、それを従える星華へ。

 狙いを変えた後も、その銃弾の威力が衰えるはずもなく。

「ガン・キャノンショット!」

 再び黒い銃口が火を噴き、星華に襲いかかった。

 

「……嬉しいぞ、バンデット・キース。本当のお前と闘うことができて……」

 

「手札の『速攻のカカシ』を墓地へ捨て、効果発動!」

 

星華

手札:1→0

 

 星華に向かっていった銃弾だったが、突然フィールドに現れたカカシが、それを受け止めた。

「相手のダイレクトアタック時、手札のこいつを捨てることで、攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する」

「……これ以上俺に手は無ぇ。これでターンエンド」

 

 

キース

LP:100

手札:3枚

場 :モンスター

   『リボルバー・ドラゴン』攻撃力2600

   魔法・罠

    無し

 

星華

LP:200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続罠『闇次元の解放』

 

 

「私のターン、ドロー」

 

星華

手札:0→1

 

「……私も使わせてもらう。魔法カード『死者蘇生』。蘇れ『琰魔竜 レッド・デーモン』!」

 

『琰魔竜 レッド・デーモン』シンクロ

 レベル8

 攻撃力3000

 

 互いのエースが向かい合う。互いに最強と認め、信じたモンスターが対峙する。その光景は、いつも美しい。

 まして相手は、幼い頃からずっと憧れてきた、伝説の決闘者。特別な存在。

 いつまでも見ていたい。そう思える光景ながら……

「バトル……」

 憧れだからこそ。戦ってみたいと思っていた決闘者だからこそ。

 乗り越えるため、今、決着をつける。

 

「レッド・デーモンの攻撃! 極獄の絶対独断(アブソリュート・ヘル・ドグマ)!!」

 

 熱く、炎が燃え上がった琰魔竜の拳が、拳銃から成る機械竜を。

 同時に、彼が左耳に下げた、イヤリングを粉砕した。

 

キース

LP:100→0

 

 

「……」

 最後の一撃を喰らったキースは、ひざを着いた。

「……くぅっ」

 星華もまた、ひざを着く。

 伝説の決闘者に、彼の使った謎のカード、そして、得体の知れない邪神。

 それらの相手に加え、一度は闇の中へ呑まれた。

 さしものアカデミアの女帝と言えど、体力の限界は否めない。

 

(さすがに、疲れた……早く帰って、梓に抱き着き匂いを嗅いで、ご褒美をもらい全力でイチャイチャせねば……)

(ご褒美……今日の、ご褒美……ドゥフフ//// デュフフフフ//// じゅるり……)

 

 こんな時でもいかがわしい妄想に浸っていられるのは、ある意味星華の強さと言うべきか。

 そうやって鼻の下を伸ばしていると……

 

「……うぅ……」

 目の前から、呻き声が聞こえる。

 見ると、キースはディスクから、カードを取り出していた。

「『邪神イレイザー』……」

 それが見えたと思った瞬間、キースはそれを見もせず、その場で破り捨ててしまった。

 

「うぅ……ここは……お前は?」

「……覚えていないのか?」

 キースの様子に、そう尋ねてみるが、キースはただ、首を傾げている。

「直前に私と決闘したことを、覚えていないのか?」

「決闘……俺が、お前とか……?」

 尋ねてみたが、本当に覚えていないらしい。

 見たことの無いマーズであったり、たった今破り捨てた邪神であったり、聞きたいことは山ほどあるのだが……

「……まあいい」

 これ以上は、聞くだけ無駄かもしれない。

 それはそれとして棚上げし、星華は別の、ある意味では最重要な要件を切り出すことにした。

「バンデット・キース。お前には一つ、やってもらいたいことがある」

「な、なんだ……?」

 いきなり目の前に現れた少女から、突然要求を突き付けられる。見ず知らずの、それも年下の学生ながら、その雰囲気は、断ることを許してくれる様子は無い。

 これだけ鬼気迫った様子で、一体なにを要求してくるのか……

「……」

「……」

 

「サイン、くれ」

 

「……は?」

 どこからか、サイン色紙を取り出すなり、そう言った。

「それと、一緒に写真も頼む」

 左手にサイン色紙を、右手にカメラを握り、鼻息をフンスと荒くしている。

 そんなアカデミアの女帝の姿に、キースは……

「お、おう……」

 その勢いに押され、苦笑しつつも了承してしまう。

 プライドの高い女帝だろうが、愛しい恋人が他にいようが。

 幼いころからの憧れを前にしての興奮は、星華にとってもまた、別の話しなのである。

 

(言っとくが、これは浮気じゃないからな。誤解するんじゃないぞ、梓……)

 

 

 

 




お疲れ~。

まだガキンチョだった時分、漫画で始めて『リボルバー・ドラゴン』を見た時、そのデザインには衝撃を受けましたわ……

そんじゃ、今回は原作効果のみね。ちゃちゃっと行こちゃちゃっと。



『THE DEVILS ERASER』
 レベル10
 神属性 邪神獣族
 攻撃力? 守備力?
 A god who erases another god.
 When Eraser is sent to the graveyard,all cards on the field go with it.
 Attack and defense points are 1000 times the cards on the opponent's field.

まあ、こういうこっちゃ……
全体破壊は破壊だけでなく、とにかく墓地へ送られた時に発動可能。
神属性で邪神獣族。
でもって、一ターン限定で『死者蘇生』で特殊召喚も可。
あと、今回は描写してないけど、『神』としての耐性も付けとります。大海自身、あんま把握できてないけれど……



ラーもそうだったんだけど、基本こんな感じで、神のカードは原作再現してく方針でいきまーす。
だって、そっちのが書いてて面白いんだもの。
読んでる方からすりゃ、どう感じるかは分からんが、いつもと同じ。楽しんでくれることを祈る他ねーやな。

そんなわけで、次話まで待ってて。

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