遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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『九尾の狐』OCG化やあああああああああああ……

この小説じゃあ、属性を地から炎に変更するくらいしかないかなぁ。

さ~てぇ、四日目だけ異様に長いが、まだもうちっとだけ続くんじゃ。
そんな四日目の決闘、始まるでよ~。
行ってらっしゃい。



    英雄の影 ~STAND PROUD~

視点:外

 

 その日の午後のこと。

 鮫島の座る校長室に、一人の来客があった。

「この度は、我が校の教師二人が、とんだ失礼を働いてしまい、申し訳ありませんでした」

「No、どうか気にしないで下サーイ。私も、久しぶりに決闘を楽しめました」

 ジェネックス大会中、二度目の来訪となる、ペガサスである。

 

 詳しい状況は省くものの、鮫島との重要な話しをするためにやってきたペガサスだったが、アカデミアへ到着し、校長室へ行こうとした際、クロノスとナポレオンに遭遇。

 アカデミアを解雇されたから、I(  2)社への中途採用を希望したいという二人と決闘を行い、辛くも勝利を納めた。

 その後、解雇の話しは二人の勘違いであったことが判明したことで、十代を含む、暖かな生徒達の笑顔に囲まれた二人を見送りつつ、やっとの思いで校長室に到着。

 

 そこで改めて、話し合いを開始したのだが……

 

「……では、今回のことも、そのことが関係していると?」

「少なくとも、私はそう睨んでおりマース」

 ペガサスの見せた映像と資料を見ながら、鮫島は怪訝な顔を浮かべていた。

 

 このジェネックス大会。表向きの開催の理由は、世界中からプロを含む強敵の決闘者を集め、決闘させることで、アカデミア生徒の向上心を刺激し、成長を促すため。

 だが、表があれば、ある意味当然として、裏の目的も存在する。

 それは、アカデミアの生徒の一人である、『エド・フェニックス』が探し求めるカード……『究極のDのカード』の捜索にあった。

 それについて、未だ詳しい情報等の進展は無い。だが、それを調査していくうち、とんでもないことが判明したと、ペガサスは慌てて鮫島に会いにきたのである。

 

 映像資料を見せたペガサスが言うには、数億年前に宇宙の彼方で『ホワイトホール』が発生、巨大なエネルギーが噴出した。

 『ブラックホール』とは真逆の存在であり、一説には、その黒い穴に吸収された巨大なエネルギーの出口であるとされ、そこから噴出したエネルギーは、この星の歴史においても、戦争や天災、独裁者の登場など、様々な影響を与えたらしい。

 仮にそれを『光の波動』とするならば、今から十年前、その光の波動がこの地球に降り注いだ可能性があると言う。それは丁度、エドの父親が殺害され、『究極のD』が消えた頃と一致していた。

 そしてそれは、『三幻神』や『三幻魔』さえ凌駕するだけの力を持ち得るという。

 

 そんな『究極のDのカード』。

 ペガサスは最初、それはエドが持っているものと睨んでいた。ジェネックスが始まって以降、エドはプロ決闘者を中心に、カード狩りめいた不審な行動を取っていたため、疑いの目を向けていた。

 しかしそれを、鮫島が否定した。

 仮にエドがそれを持っていたとしたら、そこまで躍起になってカードを探す意味が無い。何より、エドは殺人鬼に命を奪われた父親を乗り越えんがため、その殺人鬼を探しているのだ、と。

 ペガサスも、その話で完全に納得したわけではないが、少なくとも、エドが『究極のD』の所有者であるという疑いを棚上げすることにはなった。

 

「実はもう一つ、気になることがあるのデース」

 一通り、『究極のD』に関する話を終えたところで、ペガサスは全く別の話題を切り出した。

「ジェネックスが開催される数日前のことデース。我が社に所属するカードデザイナー三名が、突然失踪したのデース」

「カードデザイナー?」

「Yes。三人とも、決闘者としての腕前も一流でしたが、デザイナーとしての才能はそれ以上でした。三人のうちの一人、『ミスター・マッケンジー』は、年齢を重ねたことで一線を退き、チーフデザイナーの座をミスターフランツに譲りましたが、その後も我が社に残り、後進の育成に力を注いで下さいました。そんな彼が最も期待していたのが、双子の若き日本人デザイナーだったのデース」

「では、その三人が?」

「Yes。彼らの自宅ももちろん調査しましたが、三人はもちろん、ミスターマッケンジーの一人娘までも姿を消していました。失踪する際、誰にも行き先や目的を告げていなかった。彼らの私物は、ほとんどが自宅や会社に残されたままでしたが、彼らが独自にデザインしていたモンスターの資料は全て無くなっていました。しかも、後に調べてみると、我が社のデータバンクにあるブラックボックスから、あるデータを盗み見られた形跡が見つかったのデース」

 ブラックボックスという単語から、それがよほど見られては不味いデータだったことは想像に難くない。

 嫌な予感を抱きつつ、鮫島はそれを尋ねた。

「一体、どのようなデータだったのです?」

「……これは、我が社でもトップシークレットの情報デース。できれば他言無用でお願いしマース」

 ペガサスもまた、鮫島の感じた嫌な予感を肯定するように、険しい表情を浮かべた。

 

「かつて、私が三幻神の抑止としてデザインし、とうとうカード化すること無く忘れ去られるはずだった、新たな神のカード……『三邪神』のデータデース」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「はぁ……はぁ……」

 

 二人の会話から数時間後の夕刻、辺りが暗くなった頃。

 森の中では、数十という決闘者が倒れ伏していた。

「これだけ戦っても……」

 そんな死屍累々を作り出した張本人はと言えば、それだけのことをしたにも関わらず伴わない現実を前に、積み上げた勝利など帳消しにしてしまう、歯がゆさと、苛立ちと、焦りに身を震わせていた。

 ペガサスの言った通り、エド・フェニックスは、プロ決闘者を中心に、出会う決闘者を片っ端から倒しては、そのデッキを取り上げ、確かめては捨ててしまうという、ハタから見れば狂気の沙汰としか言いようの無い行為を繰り返していた。

「どこにある……『究極のD』……どこにいる……父さんを殺した奴は……」

 

「わぁ~……エドくんすごーい」

 

 そんな焦りの中にいるエドの耳に届いたのは、のんびりと間延びした、思わず力の抜ける声。

 そのくせそれは、目の前が見えなくなっているエドの目を覚ますのに、十分すぎる威力を持つ声。

 案の定、その声に反応しながら、声の方向へ振り返ってみたら。

「あずさ……」

 正真正銘、アカデミア最強の決闘者にして、エドの初恋の相手が立っている。

「なんか、急にプロ決闘者の姿が見えなくなったと思ってたら……探し物は見つかった?」

 目の前の決闘者達を見下ろした後で、エドに屈託ない笑顔を向ける。

 爽やかで可愛らしい笑顔に、エドは思わず視線を逸らしながら、答えた。

「……今の僕が、目的を果たしたふうに見えるのか?」

「そっか……世界中から決闘者が集まる大会だから、可能性はあったろうにね」

 笑顔から、エドと同じく、エドのための落胆の表情。

 エドにとって、あずさのそんな顔は見たくはなかった。だが同時に、自分のためにそんな顔をしてくれることに嬉しさを感じてしまっていた。

 

「……やっぱり、今でもお父さんの仇を討ちたいって気持ちは、変わんないんだね?」

 再び視線を向けられて、エドは内心どぎまぎとしながらも、その答えが分かりきった問いに対しては、すぐに返事を返した。

「当然だ。最初に言ったろう。僕は犯人を見つけ出す。そうしないと、僕は一生、父さんを失ったあの夜から進めはしないんだ……」

 

「……」

 あずさは、梓とは違う。

 その気持ちを直接知ってるわけじゃないから、梓とは違って、その気持ちを理解してあげられることは、永遠にない。

 暴走したなら、わたしが止める。そう宣言した。けど、できることはあの時と同じ、止めることだけだ。仮に今、エドを止めたとして、それでエドが救われることは無い。止めた後にどうするか決められるのは、止められた本人しかいないのだから。

 

 けど、止めること以外にも、してあげられることくらいある。

「一休みくらいなら、しても良いと思うよ」

 険しい表情を浮かべたままの、エドの硬く握った拳に、優しい手が触れる。

 驚いたエドが顔を向けると、あずさは、いつも見せる柔らかな笑顔を浮かべていた。

「これだけ頑張ったんだからさ、休憩くらいはしなよ。犯人が誰かは知らないけど、ちょっと休んだくらいですっごい遠くまで逃げちゃうなんてこと、無いだろうし。ずっと張りつめて、前ばっかり見てないでさ、息抜きして、後ろとか左右とか見てみた方が、色々と見えるんじゃないかな?」

「……」

「一人じゃ休んでられないっていうなら、わたしにいつでも言いなよ。ご飯くらいならご馳走してあげるから」

 それはかつての、ボロボロに傷つきながらも、絶対に立ち止まらず、ただ目の先にいる仇を追い続けて生きてきた、恋人のことを思い出しながらの言葉だった。

 ただ目の前を見つめ続け、周りにある者も、過去に置いてきた者すら目を背け、ただ仇だけを見て前へと進む。

 その姿は、その仇を討ち復讐を遂げるか、誰かが力づくで止めるかしなければ、死ぬまで進み続けるという執念が、それ以上の怨念が、全身からにじみ出ていた。

 そんな、梓くんと同じ姿に、エドくんまで変えてはいけない。

 その一心で、あずさは、エドに心からの言葉を送っていた。

 

「……」

 エドも、その言葉の裏の気持ちは分かっていた。

 どれだけ優しくしてくれようと、どれだけ愛情のこもった笑顔を向けられようと、その愛情の本命は、僕じゃない。

 その本命の、醜い姿を知っているからこそ、その本命と同じ境遇にある僕を、励ましてくれているのだから。

 それが、分かっていても……

 たとえ、本命が別にいる女性の真心でも、エドにとっては、ただ一人愛しいと思える人からの気持ちには違いない。そんな思いやりが、復讐に取り憑かれ荒んでいたエドの心には、あまりに心地良くて……

「あずさ……」

 

「君があずさかい……!」

 

 手を握り返し、あずさと目を合わせ、名前を呼んだ時だった。

 二人とは別の、若い男の声が二人の耳に届く。

 二人とも、とっさにその声の方向へ振り向くと。

 

「ようやく見つけた……探したよ」

 

 既に薄暗くなってきた時間ながら、それでも目に入る、派手な赤色だった。

 そんな派手な赤色のロングコートを羽織った青年は、二人に柔和で爽やかな笑顔を、同時に、鋭い視線を向けながら近づいてきた。

「お前は……」

「プロ決闘者、だよね? 確か、えっと……」

 エドは、その青年を見てすぐにピンときたようだった。あずさは、見覚えこそあるようだが、その名前を思い出すのに苦労している。

 そんなあずさの代わりに、エドが答えを呼んだ。

「『(ひびき) 紅葉(こうよう)』。かつて、僕や十代と同じ、『HERO』使いの決闘者として成功したプロ決闘者だ」

「……あー、思い出した。わたしが小学六年生くらいの時、周りの男子がみんな好きだって言ってた決闘者だ。人気者だったのに、急にテレビで見なくなって、気になってたんだよね」

「無理も無い。五年前だろう? 奴が病気で倒れたのはちょうどその時だ」

 過去を振り返りつつ、興味も関心も無いという様子で淡々と語った。

「かなり重い病だったらしいな。五年間の闘病生活のおかげでどうにか病は克服できたものの、入れ替わりや世代交代の激しいプロの世界で、スポンサーがいつまでも待っていられるわけがない。闘病中にスポンサーからも見限られ、今ではただの一決闘者というわけだ」

 

「はっきり言ってくれるねぇ……」

 エドらしい、遠慮も容赦もない言葉を受けながら、紅葉は特に傷ついたふうでも無く、現れてから変わらない、柔らかな笑みを崩さずにいる。

「けど、君の言う通りだ。病気とは言え、五年間も決闘をしなかったプロ決闘者を、相手にする人なんかいない」

 

「紅に染まったこの俺を?」

 

「慰める奴はもういない」

 唐突なあずさの発言に愛想よく切り返しつつ、話しを続ける。

「そんな僕にとって、このジェネックス大会は、プロに復帰するための足掛かりというわけさ。既にプロ決闘者は何人か倒したが、そのほとんどは君が倒していたというわけだな。エド・フェニックス」

 辺りに倒れているプロ決闘者を見下ろして、エドを見て、そして、あずさを見る。

「そんな彼らを辿っていたら、ここに辿り着いたわけだが……おかげで、この島に来た、もう一つの目的も果たせたことだし、良しとしよう」

 

 爽やかに笑いながらそんなことを言ったところで、エドが前に出た。

「お前の目的などどうでもいい。さあ、僕と決闘だ」

 前に出ながら、ディスクを展開させる。今までそうしてきたように、視線は目の前の決闘者に、そして、ディスクに納まったデッキに注がれる。

(HERO使いの決闘者……奴ならもしかしたら、『究極のD‐HERO』のカードを……)

 

「すまないが……用があるのは君じゃないんだ……」

 苦笑し、心底申し訳なさそうに言いながら、紅葉はエドではなく、あずさを見る。

「君が、あずさだろう?」

 

「はい……あずさですがなにか?」

 

「実は、君のことを探していたんだ。ここの学生だということと、名前しか分からなかったから探すのに苦労したよ。悪いが、僕と決闘してくれるかい?」

 

「ふざけるな! お前の相手はぼ……!」

「良いよー」

 なお叫ぼうとするエドを制しつつ、あずさは前に出た。

「おい、あずさ!」

「エドくんはいっぱいプロと闘ったんだから、交代。わたしにも決闘させてよ」

「そういう問題では……」

 

「こ・う・た・い」

 

「……分かった」

 最終的に、ズイッと迫られて、断ることができなくなった。

 

「ということで、わたしが相手です!」

「ああ。受けてくれて助かるよ」

 受け答えをしながら、ここに来るまで使っていたデッキを外し、島に来る前に手に入れていたデッキを取り出し、ディスクにセットする。

 あずさはそれに気付くことなく、別のことを考えていた。

(あずさって多分……梓くんのこと、だよね? 梓くんの強さを知ってて決闘したいっていうなら分かるけど……なんか、嫌な予感がする。梓くんじゃない。エドくんもダメ。この人は、わたしが倒さなきゃ)

 彼の左耳に飾られた、石ころがくっついたイヤリングを見ながら、闇の決闘ディスクを起動させた。

 

「さあ……楽しい決闘をしよう」

「おー……その決めゼリフなつかしい」

 

『決闘!』

 

 

あずさ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

紅葉

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「わたしの先行、ドロー」

 

あずさ

手札:5→6

 

「永続魔法『六武衆の結束』と、『紫炎の道場』発動」

 いつもの通り、あずさがカードを発動させたことで、ただの森だった景色が一変、カード名の通りの、広い屋外の道場に変わる。

「『真六武衆-カゲキ』を召喚」

 

『真六武衆-カゲキ』

 レベル3

 攻撃力200

 

「『真六武衆』……そんな『六武衆』いたかな?」

(わー、なんか今更な反応な気がするなー……)

「気にしないで下さい。カゲキが召喚に成功したことで、手札のレベル4以下の六武衆一体を特殊召喚できます。『六武衆-イロウ』を召喚」

 

『六武衆-イロウ』

 レベル4

 攻撃力1700

 

「場に自身を除く六武衆が存在することで、カゲキの攻撃力は1500アップします。そして、二枚の永続魔法には、六武衆が召喚、特殊召喚される度、武士道カウンターが一つ乗せられます」

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1→2

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:0→1→2

 

「『六武衆の結束』を墓地へ送ります。このカードに乗った武士道カウンターの数だけ、カードをドロー」

 

あずさ

手札:2→4

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンド」

 

 

あずさ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『真六武衆-カゲキ』攻撃力200+1500

   『六武衆-イロウ』攻撃力1700

   魔法・罠

    永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:2

    セット

    セット

 

 

「僕のターンだ。ドロー」

 

紅葉

手札:5→6

 

「よし、まずは……『E・HERO ブレイズマン』を召喚」

 紅葉がカードを掲げた時。

 フィールドの中央に、巨大な火炎が輝いた。やがて輝きと共にその火炎を散らした瞬間、その中心から紅に光る英雄が飛び出した。

 

『E・HERO ブレイズマン』

 レベル4

 攻撃力1200

 

「ブレイズマン……あれ? こんなHEROいたっけ? エドくん?」

「……いや、僕も知らないぞ、こんなHERO……」

「驚いてくれたかい? ブレイズマンの効果。こいつが召喚、特殊召喚に成功した時、デッキから『融合』のカードを手札に加えられる」

 

紅葉

手札:5→6

 

「やっぱ融合なんだ……」

「当然。じゃあ、早速……魔法カード『融合』発動! 手札の『E・HERO ザ・ヒート』と、『E・HERO レディ・オブ・ファイア』を融合! 来い、業火のヒーロー『E・HERO フレイム・ブラスト』!」

 

 ブレイズマンが現れた時以上の爆炎が、フィールドの中心で爆発した。

 その燃え盛る業火を押しのけるように、赤々と燃え、赤々と熱い巨体が現れた。

 

『E・HERO フレイム・ブラスト』融合

 レベル8

 攻撃力2300

 

「ふぇー……手札もフィールドも真っ赤っ赤」

「ちょうどそういう手札だったからねぇ」

「紅に染まったこの俺を?」

「慰める奴はもういない」

「紅だー!」

「いいや、紅葉だ」

 

『……』

 

『あははははははは!』

 

(むぅ……なぜそんなに息ピッタリなんだ……)

 決闘中だというのに、楽しい掛け合いを見せている二人を見て、エドは内心、フィールド以上に紅に染まった、嫉妬の炎を燃やしていた。

 

 と、エドがこっそり歯ぎしりをしている間に……

「バトルだ。『E・HERO フレイム・ブラスト』で、『六武衆-イロウ』を攻撃! バーニングファイア!」

 溶岩色に燃え盛る、フレイム・ブラストの胸から、その熱を体現したような爆炎が噴き出した。それは容赦なくイロウに襲い掛かり、その身を灰も残さず燃やし尽くした。

「うぅ……!」

 

あずさ

LP:4000→3400

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200

 

「続いて、ブレイズマンで、攻撃力が元に戻った『真六武衆-カゲキ』に攻撃! ブレイズダッシュ!」

 真っ赤に燃えたその身で、炎のワダチを作りながら走り出す。

 それは、進行方向で構えていたカゲキに衝突し、吹き飛ばした。

 

あずさ

LP:3400→2400

 

「二体とも全滅……けど、これで攻撃はおしまい……」

「速攻魔法『瞬間融合』! フィールドのモンスターを使い、融合召喚を行う」

「えぇ!?」

「場の『E・HERO ブレイズマン』と、炎属性『E・HERO フレイム・ブラスト』を融合! 来い、烈火のヒーロー『E・HERO ノヴァマスター』!」

 みたび、フィールドに爆炎が現れた。赤々と燃え盛るその爆炎が、徐々に、中心へと収束していく。

 それは小さな塊から、人型の炎へと変わり、その炎はやがて、実体となった。

 

『E・HERO ノヴァマスター』融合

 レベル8

 攻撃力2600

 

(……あれ? なんか、アブソルートZeroに似てる……?)

 

「バトル続行! ノヴァマスターで、あずさへダイレクトアタック!」

 全身を纏う紅の鎧が、激しく燃え盛る。その炎を散らしながら、目の前に立つあずさへと向かっていった。

 

「いかん! この攻撃を受けたら、あずさのライフはゼロ……!」

 

 無論、エドが言うような結末を許すあずさではない。

「罠発動『六武衆推参!』! 墓地の六武衆一体を特殊召喚する。『六武衆-イロウ』を守備表示で召喚!」

 

『六武衆-イロウ』

 レベル4

 守備力1200

 

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:2→3

 

「かわしたか。なら、今度はイロウに攻撃、激烈大噴火(バイオレント・イラプションズ)!」

 ノヴァマスターの燃え盛る炎が、イロウ目掛け放出された。その炎を受けたイロウは、成すすべなく焼き尽くされた。

「ノヴァマスターの効果。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、カードを一枚、ドローする」

 

紅葉

手札:2→3

 

「『瞬間融合』で融合召喚したモンスターは、ターンエンドと共に破壊される。そこで、魔法カード『アドバンスドロー』。自分フィールドのレベル8以上のモンスターを生贄に捧げ、カードを二枚ドローする。レベル8のノヴァマスターを生贄に捧げ、カードをドロー」

 

紅葉

手札:2→4

 

「カードを三枚伏せる。これでターンエンドだ」

 

 

紅葉

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

 

あずさ

LP:2400

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:3

    セット

 

 

「うぅ~、思ってた以上にライフが削られちゃったよ……」

 

「響紅葉……失敗したとはいえ、あずさをワンターンキル寸前まで追い込むとは。僕も知らないHEROを使っていることを差し引いても、入院する前より格段に強くなっている」

 互いにフィールドにモンスターは残っていない。それでもライフポイントはもちろん、精神的に優位に立っているのも紅葉の方だろう。

 

 もっとも、どれだけやられ、追い込まれても、あずさが折れることは無い

「わたしのターン、ドロー」

 

あずさ

手札:2→3

 

「永続魔法『六武の門』発動。ここで『紫炎の道場』の効果! このカードを墓地に送って、このカードに乗った武士道カウンターの数と同じレベルを持つ六武衆、または『紫炎』のカードを特殊召喚できる。わたしはデッキから、レベル3の『真六武衆-シナイ』を特殊召喚! 六武衆の召喚、特殊召喚で、『六武の門』に武士道カウンターが二つ乗る」

 フィールドに巨大な門が現れる代わりに、彼らの足もとに広がっていた道場が消える。

 そして、紫色の鎧をまとい、巨大な棍棒を構えた武士がフィールドに立った。

 

『真六武衆-シナイ』

 レベル3

 攻撃力1500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「続けて魔法カード『紫炎の狼煙』! デッキからレベル3以下の六武衆を手札に加える。わたしが手札に加えるのは、レベル3の『真六武衆-ミズホ』。場にシナイがいることで、このままミズホを特殊召喚!」

 

『真六武衆-ミズホ』

 レベル3

 攻撃力1600

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「『六武の門』の効果。このカードの武士道カウンターを四つ取り除くことで、デッキから六武衆一体を手札に加える。武士道カウンターを四つ取り除いて、『六武衆-ヤイチ』を手札に。そのまま召喚!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0→2

 

『六武衆-ヤイチ』

 レベル3

 攻撃力1300

 

「更に、フィールドに六武衆が存在することで、手札の『六武衆の師範』を特殊召喚」

 

『六武衆の師範』

 レベル5

 攻撃力2100

 

「もう一回、『六武の門』の効果! 武士道カウンターを四つ取り除いて、デッキから『真六武衆-キザン』を手札に」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0

 

あずさ

手札:1→2

 

「すごい展開力だね。手札がほとんど減ってないのに」

 

『六武衆の師範』

 攻撃力2100

『六武衆-ヤイチ』

 攻撃力1300

『真六武衆-ミズホ』

 攻撃力1600

『真六武衆-シナイ』

 攻撃力1500

 

「HEROにとっての融合と同じ、これが六武衆の取り柄ですから。ということで、『六武衆-ヤイチ』の効果! 場にヤイチ以外の六武衆がいる時、このカードの攻撃を放棄する代わりに、相手の場の伏せカード一枚を破壊できる。わたしは左のカードを破壊!」

 ヤイチが弓を構え、そこから矢が放たれる。フィールドに伏せられたカードへ飛んでいき、貫き、砕いた。

「続けてミズホの効果。フィールドの六武衆一体を生贄に捧げることで、フィールドのカード一枚を破壊できる。ヤイチを生贄に捧げて、そっちの右側の伏せカードを破壊」

 シナイが光に変わったと同時に、ミズホが片手の湾刀を投げる。それが、紅葉の場の伏せカードを切り裂いた。

「これで心配は減ったね……」

 

(キザンを特殊召喚できるけど……モンスターは十分足りてる。念のために取っておくべきかな……)

 

「バトル! シナイ、ミズホ、師範で、ダイレクトアタック!」

 三人の武士が、伏せカード一枚を残すのみとなった紅葉へと向かった。

 だが、紅葉の顔から、笑みが消えることは無い。

「罠発動『ピンポイント・ガード』! 相手モンスターの攻撃宣言時、墓地のレベル4以下のモンスター一体を守備表示で特殊召喚する。蘇れ、ブレイズマン!」

 

『E・HERO ブレイズマン』

 レベル4

 守備力1800

 

「ブレイズマンが特殊召喚に成功したことで、デッキから二枚目の『融合』を手札に」

 

紅葉

手札:1→2

 

「更に、『ピンポイント・ガード』の効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン、戦闘および効果では破壊されなくなる」

「うぅ……ターンエンド」

 

 

あずさ

LP:2400

手札:2枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   『真六武衆-ミズホ』攻撃力1600

   『真六武衆-シナイ』攻撃力1500

   魔法・罠

    永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:0

    セット

 

紅葉

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『E・HERO ブレイズマン』守備力1800

   魔法・罠

    無し

 

 

「危ないところだった……僕のターン」

 

紅葉

手札:2→3

 

 言葉とは裏腹に、紅葉の顔から笑顔は消えない。

 決闘の始まりから語っていた、『楽しい決闘』。それを表すかのような笑顔を絶やさぬまま、決闘を続けていく。

「僕の墓地には、レベル8のノヴァマスターと、フレイム・ブラストが眠っている。魔法カード『HEROの遺産』。墓地のレベル5以上のHEROが二体以上眠っている時、カードを三枚ドローできる」

 

紅葉

手札:2→5

 

「うわ! またえらく怖ろしいカードを……」

「ふふ……これで準備は整った……」

 紅葉の手札が増えた時……心なしか、爽やかだった紅葉の声が、低くなったようにあずさとエドは感じた。

 笑顔が輝いていた顔を伏せ、手札のカードに手を伸ばす。

「魔法カード『融合』発動。手札の『E・HERO フォレストマン』と、『E・HERO オーシャン』を融合……」

「……え? オーシャン?」

 紅葉がさり気なく宣言し、カードを発動させたとき。

 そこには何体目かの、あずさの記憶にないHEROと、あずさとエドにとって、見覚えのあり過ぎるモンスターが背中合わせに現れた。

 

「あれは!?」

 

「え、なんで……?」

 あずさの驚愕も構わず、海洋と森林の名を持つHEROは光と変わり、天へと昇る。

 

「母なる海よ、父なる森よ、地球の名のもとに一つと重なり、悪を滅ぼす英雄となれ」

「融合召喚! 『E・HERO ジ・アース』!」

 

 海洋と森林の消えた空中から、白き光が大地を照らした。

 そんな白の輝きと共に、『地球』の名を持つその英雄は、彼らの立つ大地へと降り立った。

 

『E・HERO ジ・アース』融合

 レベル8

 攻撃力2500

 

「オーシャン……?」

 だが、新たに現れた融合モンスター以上に、あずさの意識は、融合の素材となったモンスターにばかり奪われている。

 そんなあずさを無視して、紅葉のターンは続く。

「ブレイズマンを攻撃表示に変更。更に、ブレイズマンの第二の効果。一ターンに一度、デッキからブレイズマンを除くE・HEROを墓地へ送ることで、このターン、ブレイズマンはそのモンスターと同じ属性、攻撃力、守備力を得る。僕はデッキから、『E・HERO キャプテン・ゴールド』を墓地へ送る」

 

『E・HERO ブレイズマン』

 属性:炎→光

 攻撃力1200→2100

 守備力1800→800

 

「更にもう一体、こいつを召喚しておこう。『E・HERO アイスエッジ』を通常召喚」

 

『E・HERO アイスエッジ』

 レベル3

 守備力900

 

「オーシャンに続いて、アイスエッジまでも……」

 

「て、ことは、まさか……」

 二人の感じた戦慄を肯定するために、紅葉はまた、手札のカードを取った。

「ブレイズマンの第二の効果を使用したターン、僕は融合モンスター以外の特殊召喚ができなくなるが……それでいい。魔法カード『ミラクル・フュージョン』! 墓地からレディ・オブ・ファイア、そして、水属性であるオーシャンを除外することで、融合召喚を行う」

 カードを発動し、二体のモンスターが姿を消す。

 と同時に、フィールドを強烈な吹雪が包み込んだ。

「うそ……でしょ……?」

 

「やはり、そうなのか……?」

 

 融合素材の条件も、フィールドを包む猛吹雪も、二人にとっては聞き覚えも、見覚えも、あり過ぎた。

 その姿は、先程梓が思った通り、ノヴァマスターに酷似している。

 だが、今日初めて見たノヴァマスターの紅以上に、その冷たい純白の方が、遥かに馴染み深く、そして、遥かに凶悪で……

 

「来い、氷結のヒーロー『E・HERO アブソルートZero』……」

 

 その名前が、二人の衝撃に追い打ちを掛けた。

 

『E・HERO アブソルートZero』融合

 レベル8

 攻撃力2500+500×2

 

「梓くんの、最初のエース……!」

 

「水瀬梓の持つ、最強のHEROを……なぜあいつが……!」

 

「くくく……さあ、なぜだろうな……」

 思わず漏れ出た二人の呟きに、紅葉の声が応えた。

「だが正直、私も最初は驚いた。偶然とは言え、まさか異世界生まれのカード達が、私達のもとに流れ着いたのだから……」

 

「異世界生まれのカード……いや、それよりお前、何者だ? 響紅葉ではないな!」

 

 聞こえてきた薄ら笑いに対して、エドは紅葉に……紅葉である誰かに対して、声を上げた。

「くくく……私は正真正銘、響紅葉だとも」

 そんな言葉を返しながら、俯いていた顔を上げた時、

 

「あれは……!」

 

 あずさに向けられた目を見て、エドは思わず身を固めてしまう。

 本来なら、白と黒が光っていたはずの眼球が、真っ黒な球体と変わっていた。

 それはもはや、眼球というよりも、ただの深い闇。眼球のような形を持った、ただの黒。ただの闇。あずさが構えている、決闘ディスク以上に邪悪な闇が、あずさを、エドを見据えていた。

「アブソルートZeroのことを知っているとは……いずれにせよ、お前はどうやら、私達の探す『アズサ』ではないようだな」

 

「私、達? お前以外……響紅葉以外にも、まだいるということか?」

 

「さあ、どうだろうな……」

 

 紅葉は薄ら笑いのまま、フィールドに目を戻す。

 エドからあずさへ。あずさから、あずさの前の、モンスター達に対して。

「それにしても、真六武衆か……皮肉だな」

「……皮肉? どういうこと?」

「こういうことだ……『E・HERO ジ・アース』、効果発動!」

 紅葉ではない誰かしらから、紅葉本人へ。

 それでも、正気ではない様子をそのままに、紅葉は効果を発動させた。

「自分フィールドのE・HERO一体を生贄に捧げることで、こいつの攻撃力をこのターンの間、生贄に捧げたモンスターの攻撃力分アップさせる。アイスエッジを生贄に捧げる」

 アイスエッジが光に変わった時……

 ジ・アースの足もとが割れ、そこから熱が、蒸気が噴き出した。

 巨大な熱はジ・アースの中へと流れ込み、穢れを知らない純白の総身が、全てを焼き尽くす灼熱の赤へ変わっていく。

 

地球灼熱(ジ・アース マグマ)

 

『E・HERO ジ・アース』

 攻撃力2500+800

 

「……紅に染まったこの俺を……」

「……」

 思わず口に出た、出会ってからお決まりと化した合言葉にさえ返してくれなくなった。

 だが、あずさの目に写るものは、黒く変わり果てた紅でも、白から変化した紅でもなく……

「アブソルートZero……梓くんの、HERO……」

 

「バトルだ」

 

『E・HERO ジ・アース』

 攻撃力2500+800

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+500

『E・HERO ブレイズマン』

 攻撃力1200→2100

 

「おい、あずさ!」

 

「……んぇ?」

 

「アブソルートZeroで、『六武衆の師範』を攻撃、瞬間氷結(Freezing at moment)!」

 梓以外の口から聞いた、Zeroの攻撃名。

 それを受け入れるより先に、目の前に立つ師範は凍り付いていた。

「あぅ……!」

 

あずさ

LP:2400→1500

 

「ブレイズマンで、『真六武衆-ミズホ』を攻撃、ブレイズダッシュ!」

 体から火炎ではなく、黄金の光を発しながら、ミズホへと走る。

「……そ、速攻魔法『六武ノ書』! 場のシナイとミズホを生贄に、『大将軍 紫炎』をデッキから守備表示で特殊召喚!」

 光を発する炎の突進が、ミズホへぶつかる寸前。

 夫婦共に光と変わり、そこへ新たな紅、最強の武将が戦場に立った。

 

『大将軍 紫炎』

 レベル7

 守備力2400

 

「かわしたか。ブレイズマンの攻撃はキャンセル、更に場に他の水属性が一体もいなくなったことで、Zeroの攻撃力も元に戻る」

 

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500

 

「……まあいい。ジ・アース・マグマで、『大将軍 紫炎』を攻撃」

 紅に染まった地球の両手に、真っ赤に燃え盛るエネルギーの、灼熱の剣が現れる。

 それを握った地球が、最強の武将へ向かって走った。

地球灼熱斬(アース・マグナ・スラッシュ)!」

 灼熱の剣を、武将は受け止めようとした。だが、実態を持たぬ刃を鋼の刃で止めることは叶わず、刀を無視して切り裂かれ、灼熱の斬撃を受ける。

「ううあああぁぁ……!!」

 

「あずさ!!」

 

「ターンエンドだ。ジ・アース、そして、ブレイズマンの攻撃力は元に戻る」

 

 

紅葉

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『E・HERO ジ・アース』攻撃力2500

   『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500

   『E・HERO ブレイズマン』攻撃力1200

   魔法・罠

    無し

 

あずさ

LP:1500

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:0

 

 

「……」

 フィールドが全滅し、ひざをついている。

 だが、そんなあずさが見ているのは、フィールドではない。紅葉でも無い。

 現れてから終始、あずさがただ見つめている視線の先……

 

「梓、くん……」

 今まで、何度もこのモンスターを見てきた。

 決闘を見る観戦者として。時には、相対する敵として。

 このモンスターを見る時はいつも、ずっとずっと、今でも狂おしいほど愛おしいと感じる、男の子がそばにいた。

 

「あずさ! しっかりしろ! その男は、水瀬梓じゃない!」

 

 エドが言った、自分と同じ名前を持つ、男の子。

 シンクロを使い出す前から、ずっと彼を支えてきて、彼のピンチを救ってきて、時には、敵を徹底的に追い詰めるための凶悪な存在として。

 あずさにとって、今の彼のエースである『氷結界の龍』以上に、梓のエースとして認識させられたモンスター、『氷結の英雄』。

 それだけ強烈な存在感を持ったモンスターだからこそ、感じてしまった。

 

(わたし……わたしやっぱり……梓くんの、敵なんだ……)

 どんなに彼のことを好きだと思っても。どんなに彼がわたしを好きだと思ってくれても。

 彼のことを傷つけて。彼のそばにもいられない。

 以前、斎王にも言われたことがある。こんなわたしのことを、もう好きじゃないと彼が言った時。

 彼の気持ちは知っているから、それは無いという確信はあった。

 それでもずっと、漠然とした不安を感じていた。

 勇気を振り絞った告白の言葉を途中で遮って。一方的に遠ざけてきた。こんなわたしのこと、好きでもなんでもなくなって……

 

 目の前に立つ氷結の英雄は、梓のものではない、四枚目のカード。

 それでも、何度も戦ったからよく分かる。あれは偽物じゃない。正真正銘、本物のカード。本物の英雄。

 本物だからこそ、その攻撃は、あずさの身に響いてしまった。

 

(梓くん……わたし……わたし……)

 

 本物の、アブソルートZeroの一撃。それは、アカデミアでただ一人、本物を持っている、梓からの一撃でもあって……

 

 そんな梓からの一撃はまるで、お前はもう、水瀬梓の敵なんだと言っているようで……

 

(……ああ、そうだよ……)

 

 考えてみれば当然だ。彼のことを遠ざけたのは他でもない、わたしなんだから。

 理由は問題じゃない。友達のためだとかは関係ない。

 今回はもちろん、初めて会った時からずっと、わたしは彼にとって、倒すべき敵だった。

 そんなわたしが、彼にとってまた敵になったって、今までと同じだ。

 そのせいで、愛想を尽かされたって、仕方がない。

 そうだ。これはまるで……

 

「クレナイニソマッタコノオレヲ……ナグサメルヤツハモウイナイ……」

 

 

「どうやら、ここまでのようだな……」

 あずさらのいる、島ではないどこか。

 そこから、『プラネット』を通して見える光景に、彼は、息を吐いた。

「プラネットを出すまでもなかった……よほどアブソルートZeroを使ったことがショックだったか。いずれにせよ、放っておいても彼女はこのまま、デッキの上に手を……む?」

 

 

 今正に、ある男の考えた通りの行為をあずさが取ろうとした瞬間だった。

 

「僕はあずさのことが好きだ!」

 

 ずっと決闘を見ていたエドが、またあずさに声を上げた。

 そんな声を受けて、デッキに手を置こうとしていたアズサの手が、ピクリと震え、そこで止まる。

 

「僕は、平家あずさのことが好きだ!」

 

 再び同じ言葉が聞こえて。その言葉の内容に、思わず振り返る。

「エドくん……急に、なに?」

 

「あずさ……君がサレンダーするというなら、それは仕方がない。それを止める気はない。だがこれだけは言っておきたい」

 あずさと対するといつも舞い上がって、その思いと緊張のせいで視線を泳がせていた。

 そんな目を、真っ直ぐあずさに向け、言いたい言葉を声に出す。

「確かに、アブソルートZeroは、この島で水瀬梓だけが持つカードだ。あいつと闘ったという君からすれば、あいつから攻撃を受けたと、ショックを受けても仕方がないのかもしれない」

 図星を突かれ、目を伏せてしまう。そんなあずさに対して、またすぐ声を上げた。

「だが、もっと周りを見ろ。例え、水瀬梓が君にとっての敵になってしまったとしても、それで全員が君の敵に変わってしまったわけじゃない。君のことが好きな人間は大勢いる。僕がその一人だ」

 

「エドくん……」

 

「だから悲しむな。絶望するな。例え敗北して、立ち上がれなくなるだけ傷ついても、その時は……その時は僕が、君のことを守ってみせる! 一生君のそばで守ってみせる!」

 

「……」

 あの時と同じだ。正直で、真っ直ぐな気持ちを、わたしなんかに向けてくれている。

 今言ってくれた通り、きっと彼は、わたしのことを守ろうとするだろう。

 わたしや彼よりも、ずっとずっと弱いのに。それでも必死に強くあろうとして、小さな自分を必死に大きく見せて。そのために、大きな声で、自分の気持ちを叫んでくれた……

「……ありがと」

 それだけのことをしてくれたのが嬉しくて、少しだけ、重く沈んでいた気持ちが軽くなって、少なくとも、氷結の英雄以外を見る余裕ができた。

 

 冷たい純白の英雄を呼び出し、操るモノ。それは、青い着物の彼じゃない。

 そんな彼とは顔も姿もまるで違う、青とは真逆の紅だ。

 とっくに分かってた。何度も自分で言ってきたじゃないか。

 目の前にいる紅は、梓くんじゃない……

 

 

あずさ

LP:1500

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:0

 

紅葉

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『E・HERO ジ・アース』攻撃力2500

   『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500

   『E・HERO ブレイズマン』攻撃力1200

   魔法・罠

    無し

 

 

(……そうだよね。梓くんが使ってたカード、梓くん以外が使ってたって、おかしいわけないじゃん。なんで、こんな簡単なこと忘れてたんだろ……こんなんじゃ、あずさくんに笑われちゃうよね)

 

「わたしのターン」

 

あずさ

手札:2→3

 

 カードをドローした時、彼女の傍らに、他者には見えない武士が立った。

(キザン?)

『エドだけじゃない。私が……私達が、いつでもお前のそばにいる。それを忘れるな』

(……うん)

 

「魔法カード『強欲な壺』。カードを二枚ドロー」

 

あずさ

手札:2→4

 

「二枚目の永続魔法『六武衆の結束』発動。魔法カード『増援』。デッキから、レベル4以下の戦士族一体を手札に加える。わたしはデッキから、レベル3の『六武衆のご隠居』を手札に。相手の場にだけモンスターが存在する時、『六武衆のご隠居』を特殊召喚!」

 

『六武衆のご隠居』

 レベル3

 守備力0

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

 

「場に六武衆がいることで、『真六武衆-キザン』を特殊召喚!」

 

『真六武衆-キザン』

 レベル4

 攻撃力1800

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

 

「『六武衆の結束』を墓地へ送って、カードを二枚ドロー!」

 

あずさ

手札:1→3

 

「……更に、『六武の門』から武士道カウンターを四つ取り除いて、デッキから『真六武衆-エニシ』を手札に加える。そのままエニシを通常召喚! この時、場に自分以外の六武衆が二体以上いることで、キザンは300、エニシは500ポイント攻撃力がアップ!」

 

『真六武衆-エニシ』

 レベル4

 攻撃力1700+500

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800+300

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0→2

 

「相変わらず見事な展開力だが、それでも攻撃力は響紅葉が圧倒的……」

 

 そんなエドの心配などよそに、エニシは肩を回していた。

『さーて、たーっぷり仕返ししてやろうかぁ……』

「もっちろん! 速攻魔法発動『六武衆の荒行』! 自分フィールドの六武衆一体を選んで、そのモンスターと同じ攻撃力を持った、別の六武衆の名を持つモンスターを特殊召喚する」

『……ん? ちょっと待て。今のこのフィールドで、そのカードの発動条件を満たせるのって……』

 エニシがフィールドを見渡しながら、キザンもまさかと思いつつ、あずさを見た。

「誰だか知らないけど、真六武衆のこと知ってたっぽいし、もういいよ。それにどうせ、今使わないと勝てそうにないしさ」

『……マジか?』

「マジ」

『おいおい……とうとう呼んじまうのか? あいつを?』

 声こそ躊躇しているようで、それでも二人ともが楽しそうなご様子で。

 ずっと呼び出されることを心待ちにしていた彼と同じように、彼らもまた、彼と肩を並べることを心待ちにしていたのが見て取れる。

 それに答えるため、あずさは答えをプレイする。

「対象は、攻撃力400の『六武衆のご隠居』。デッキから、攻撃力400の、チューナーモンスター『六武衆の影武者』を特殊召喚!」

 

『六武衆の影武者』チューナー

 レベル2

 守備力1800

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

 真六武衆達とは違い、精霊がついているわけでもない、物言わぬ小さな侍。

 それでも、彼の召喚を御してきたことで、必然的に呼び出す機会も減っていた。

 だからだろうか。物言わず構えるだけなはずのその侍が、彼らと同じように歓喜しているように見えたのは。

「さあ、行くよ……」

 真六武衆達の、そして、久しぶりに真の役目を果たすことができる影武者の歓喜を実現させるため、あずさは、それを宣言した。

 

「レベル3の『六武衆のご隠居』に、レベル2の『六武衆の影武者』をチューニング……」

「紫の獄炎、戦場に立ちて(つるぎ)となる。武士(もののふ)の魂、天下に轟く凱歌を奏でよ」

「シンクロ召喚! 誇り高き炎刃『真六武衆-シエン』!!」

 

 二つの星へと変わった影武者と、その星と共に光り輝いたご隠居が一つとなった時。

 あずさの持つ、真の最強は降臨した。

 

『真六武衆-シエン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→6

 

「シエン……!!」

 決闘では本当に久しぶりとなった、赤い鎧の武将の名前を叫ぶ。

 彼のことだ。久々の登場に歓喜し、大声を上げるだろう。

 そう、あずさも、エニシにキザンさえ思っていたのだが……

「……シエン?」

 

『……』

 

 現れるなり、シエンは何も言わず、相手の決闘者を凝視している。

 いつもの陽気さはその表情からは消え、今にも射殺してしまえそうなほどの視線を、紅葉へ向けていた。

『……私を呼んだのは正解だぜ。あずさ……』

 そんな目と表情のまま、シエンはようやく声を出した。

『あの男……上手く説明はできねぇが、すっげぇ嫌な感じがする』

「いやな、感じ?」

『ただ決闘に勝つだけなら簡単だ。だが、それだけじゃあ、解放させてやれるかは分からねぇ。それほど得体の知れねぇ、やべぇもんが取り憑いてるのは間違いねぇ』

「やべーもんが……?」

『私の一撃で勝負を決めろ。正直、自身は無ぇが、あいつを正気に戻せる可能性があるのは、あずさの手持ちのカードじゃ私だけだ』

 今までにない、真剣な雰囲気。おふざけもお遊びも一切なく、そのうえで、相手の決闘者のことまで気遣った、そんな言葉。

 あずさは、そして、エニシとキザンは、それを信じることにした。

「大丈夫。逆転の手は揃ってるから……」

 

「まずは装備魔法『漆黒の名馬』! これを『真六武衆-シエン』に装備! 攻撃力と守備力を200アップする!」

 どこからか走ってきた、漆黒に光る黒馬がシエンの前に駆け寄る。

 シエンがその名馬にまたがった時、名馬は前脚を上げ、猛々しいいななきを震わせる。

 

『真六武衆-シエン』

 攻撃力2500+200

 

「そして、このカードを発動するよ……魔法カード『六武式三段衝』!!」

 今、フィールドに並んでいる者らと同じ、エニシ、キザン、シエンの三人が描かれたカードが発動される。

 その三人が、頭上に掲げた刀が触れ合った瞬間、三本の刃は光り輝いた。

「わたしの場に六武衆が三体以上いる時、三つの効果から一つを選んで発動する。相手の場で表側の魔法・罠カードを全部破壊する効果、相手の場の伏せカードを全部破壊する効果。そして……」

 説明しながら、三人の掲げた刀が、紅葉のフィールドへ向けられた。

 

「相手の場の、表側表示のモンスター全部を破壊する効果! わたしはこの効果で、そっちのHERO全部を破壊する!」

 

 三人の英雄へ向けられた輝きが、一直線に進んだ。それをもろに受けた英雄たちは、悲鳴を上げる暇さえ与えられず、消滅した。

 仲間と『融合』の力を操るヒーローも。地球のヒーローも。そして、氷結の英雄も……

「……アブソルートZero、効果発動!」

 消滅させられてもなお、ヒーローはその力を行使する。敵対し、悪と見なした者全てを罰し、根絶やしとするために。

「このカードがフィールドを離れた時、相手フィールドのモンスター全てを破壊する。氷結時代(Ice Age)!!」

 再びフィールドを、冷たい吹雪が包み込んだ。

 あずさのフィールド全てに吹き抜け、あらゆるものを凍らせる。

 その風を受けた、エニシとキザンは成すすべなく凍り付いた。凍りついたその身を、無残に砕かれた。

 当然、シエンも例外ではない。彼がまたがっていた名馬はその吹雪を受け、凍りついた……

 名馬だけが、凍り付き、砕けた。

「『漆黒の名馬』を装備したモンスターが破壊される時、装備された『漆黒の名馬』を身代りにできる」

「なん……だと……」

 絶句している紅葉には悪いが、梓を除けば、おそらくこのアカデミアで、あずさほど氷結の英雄の力を理解している決闘者はいない。

 誰よりその恐ろしさを知っているのだから、対策ができて当然だった。

 

『真六武衆-シエン』

 攻撃力2500

 

 そして、ただ一人生き残ったシエンを見て、あずさはトドメの一撃を放つ。

「『六武の門』、効果発動! 武士道カウンターを二つ取り除くごとに、六武衆一体の攻撃力を500ポイントアップさせる。今、門に乗ってる武士道カウンターは六個、私はこの効果を三回使う!」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:6→0

 

『真六武衆-シエン』

 攻撃力2500+500×3

 

「攻撃力4000、だと……?」

「シエン、準備は良い?」

『ああ』

 正気を失せながらも項垂れている、そんな紅葉に向かって、あずさは最後の宣言を行った。本当の彼を、信頼する相棒が連れ戻してくれることを信じて……

 

「バトル! 『真六武衆-シエン』で、ダイレクトアタック! 紫流獄炎斬!!」

 

 シエンが走り、刀を振り上げた。それを紅葉目掛け、振り下ろした時……

 彼の中の『闇』が、一層強さを増したのをあずさも感じた。

 彼が、左耳に下げているイヤリングを中心に、どす黒い力が湧き出てくる。

 それが、紅葉を包み込み、邪魔する物を跳ね返そうとして……

『この俺と、闇で勝負しようってのか? 上等だ!』

 同じ闇属性であるシエンもまた、『闇』を恐れるどころか歓喜した。

 たとえ得体の知れない『闇』だろうが、闇の力は俺が上だと誇示するように、その両手に力を籠める。

 闇と、炎を纏った刀で、紅葉の身を包む『闇』を押し返していき……

 

『生意気な『闇』だ……そのまま帰って、眠ってな!!』

 

 叫んだと同時に、今度こそ、刀を振り下ろす。

 闇の刃に切り裂かれた『闇』が、辺りに散っていったと同時に。

 紅葉のディスクから、『闇』と共にデッキが散らばり、左耳に下げていたイヤリングが、音を立てて砕けたのが見えた。

 

紅葉

LP:4000→0

 

『最強の紅はこの私だー!!』

 

「あんた紫でしょーが!?」

 

 

 最後の最後で、締まらない姿で決闘を終わらせて、そのまま姿を消した武将達。

 そんな彼らを放っておいて、決着と同時に倒れた紅葉に近づいた。

「大丈夫……だよね?」

 その声に、答える者は無い。紅葉はただ、木にもたれ掛け、安らかな寝息を立てているだけ。

 

 そんな二人を前に、エドは……

(……分かっていたことだが、このデッキにも、『究極のD-HERO』のカードは無いか……だが、これが異世界のHEROのカード……)

 倒れたと同時に、ディスクから散らばった紅葉のデッキ。

 それを拾い集め、中身を確認したものの、やはり、求めるカードは無い。

 

「エドくん」

 そんな、後ろに立つエドに対して、あずさは立ち上がりながら、声を掛けた。

「……さっきは本当、ありがとう」

 途中、エドの声が無ければ、あの時間違いなくサレンダーしていただろうから。

「……ここは僕が見ておくから、あずさは、ゆっくり休め」

 ついさっき叫んだ言葉を思い出して、そのうえ、あずさの顔を見ていると、やはり顔が熱くなる。だから、エドは目を逸らしながら、あずさのことを気遣った。

「……エドくん、優しいね」

 そんな優しい人だからこそ、あずさは、はっきりと言葉にした。

「……多分、梓くんがいなかったら、わたしはエドくんのこと、好きになってただろうね」

「……」

 考察の必要も、解釈の余地も無い、直接の返事だった。

 それを受けたエドの気持ちは、修学旅行の時と同じ。

 自分は今、目の前の女の子に、フラれたんだ……

 

「……じゃあ、いくね……」

 それ以上は言わず、二人の前を歩いていった。

(……ごめんね)

 心でそう思いつつ、それでも言葉にはしなかった。

 これ以上、エドに対して、失礼なことはしたくなかったから。

 

 森を抜け、木々が無くなり、直前よりは明るくなった空の下を歩きながら、あずさは、目の前を見つめていた。

「……ん?」

 

 

 

 




お疲れ~。

思ってた以上に紅に染まった決闘になっちまった……
でも、リンクスくらいでしか出番の無いフレイム・ブラストが出せて満足。
そんなところで、原作効果や~。



『HEROの遺産』
 通常魔法
 自分の墓地にレベル5以上の「HERO」と名のついたモンスターが2体以上存在する場合に発動する事ができる。
 自分のデッキからカードを3枚ドローする。

漫画版GXにて、十代が使用。
OCG版より圧倒手的に墓地に落としやすい上に、そもそもの回数制限が無いから、上手くいきゃドローし放題。
例によって強過ぎなんだぁなぁ……



以上。
そんなところで、まだ続くでよ。
次話まで待ってて。

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