遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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日輪 月牙 上弦 下弦 

陽影 月影 吉影 水影

カードもキャラも結構出てるよな。忍者……


じゃ、行ってらっしゃい。



    その夜のできごと

視点:外

 

「……くぉおおおおおおおらああああああああああああああああ!!」

 

 地面に座り込んだ楓の手を、梓が取った瞬間のこと。

 月明りに光る、静かな夜の森に、そんな絶叫が轟いた。

 楓は当然、そっちを見た。と同時に、その夜の中から、地面の草を踏みしだきつつ何かが飛び出してきた。

 

「あわわわわわ……わぁあ!!」

 

 それを見て、それが何かを理解したと同時に、梓と握り合っていた手が引っ張り上げられる。

 梓が楓を引っ張り上げ、そこへ背中を向けた時……

 絶叫と共に飛び出してきたそれは、真っすぐに突き出した足をそのままに、草地の上を転げまわった。

 

「大丈夫ですか? 楓さん?」

「あ……はい、どうも……////」

『んー?』

 地面を派手に転がっていったそれを、梓は気にせず、アズサは、怪訝な表情で睨んでいた。

 だが、

「も、もみじちゃん……?」

 梓にお姫様抱っこされた状態の楓は、それに向かって、そんな風に呼びかけた。

 

「痛ってて……この野郎……」

 乱暴な声色を上げながら立ち上がった少女は、腰を痛そうにさすりつつ、制服の土を払いながら、二人を睨みつけている。

 

「楓ぇ……なに敗けたくせに嬉しそうにしてんだよぉ?」

「嬉しそうって……そりゃあ、敗けたのは悔しいけど、普通に敬意は払わないと……」

「てゆーかいつまでテメーは楓を抱っこしてやがる!? さっさと下ろしやがれー!」

「……」

『ぬぅ……っ』

 少女の言葉に従いつつ、梓もまた、その少女と向かい合う。

 

 歳の頃と、着崩した制服からして、楓と同じく中学生だろう。

 身長も楓と大差ない。梓と比べて少々低いくらいだろうが、迫力と勢いのおかげで心なしか大きく見える。

 炎のような赤とオレンジの髪を背中まで伸ばし、前髪を逆立てている。

 そんな髪の下に光る目は、彼女の行動と口調が表している通り、鋭く、威圧的な視線を梓へ向けている。

 

 そんな目つきの悪さと、袖を出してボタンの上部を外している服装を除けば、顔立ち自体は整っていて、美少女と言って差し支えない容姿をしている。

 それ以外で特徴があるとすれば……

『……』

 彼女と向き合ってから、終始アズサが不機嫌そうに呻いていると言えば、大方の検討はつくだろう。

 

「……楓さん? お知り合いですか?」

 普通なら、怯えそうな少女の睨みも、梓が堪えるわけもなく、楓に話を振った。

「ああ、はい……僕と一緒にアカデミアまで来ました、『炎城(えんじょう) (もみじ)』ちゃんです」

「ほぅ……」

 そんな受け答えをしている間に、『炎城 椛』は、梓の目の前までずいッと近づいていた。

「テメーだろう? 『氷結界』使いは?」

「いかにも……」

 

「だったら話は早ええ! テメーの氷結界と、オレ……アタシの『フレムベル』デッキ、どっちが強えーか勝負しやがれー!!」

 

 デッキを掲げながら、大きな声で言い放った。

(ふむ……感じた通り、彼女もまた、選ばれし人か……)

 

「ちょっと、椛ちゃん……!」

「黙って見てな、楓! オレ……アタシが仇を討ってやっから」

「いや、仇って……」

 終始、強く豪快な口調でしゃべり続ける椛に、楓は顔を引きつらせるしかない。

 

『馬鹿野郎! 少しは落ち着きやがれ! 梓が困ってんだろうが!』

 

 また別の声が響いた。明らかに、椛に対して怒りのこもった声だった。

 

「ぅるっせえぞマジカルジジィ! デッキにも入ってねぇ雑魚は引っ込んでろ!!」

『誰が雑魚だ!? テメェが使いこなせねーから俺がデッキから外れることになっちまったんだろうがよ!』

「テメーのどこに使いこなす要素があんだよ! デッキに入れてほしけりゃもっとマシな効果持って出直してきやがれ!!」

『なんだぁ?』

「やる気かコラぁ……?」

 

 絶叫と共に突然現れた、蒼白の肌に黒服を纏った、赤髪の男。

 そんな男と顔を突き合わせて、変わらぬ怒声を浴びせる少女。

 そんな二人の姿に、梓は楓の方を見てみる。

 楓もファルコンも、いつものことだと、苦笑を漏らしていた。

「えっと……そろそろ落ち着きなよ、椛ちゃん……」

『『フレムベル・マジカル』のおっさんも、その辺にしとけよ』

 ずっと顔を突き合わせていた二人とも、彼らの声にようやく顔を離した。

 

「えっと……私はあなたと決闘を行えば良いのですね?」

「おう。わざわざメダルを奪ってここまで来たんだからなぁ。ガッカリさせんじゃねえぞ」

「メダルを奪った?」

 思わず聞き返しつつ、楓の方を見た。

「まさか、楓さんも……?」

 

「……あ、いいえ。僕はちゃんと招待されて来たんですけど、僕がアカデミアへ行くっていったら、椛ちゃんもついていくって言ってくれて。で、あなたと決闘するだけが目的だったんですけど、僕が他の参加者達と決闘してるうちに、黙って見てられなくなっちゃったらしくて。誰かを倒して奪ってきちゃったみたいで……」

 

「……」

 ターミナルシリーズを持っている以上、いずれ出会うことは運命だったろう。

 とは言え、さすがにその話には言葉を失ってしまった。

「んなこたぁどうでもいいんだよ! これだけはハッキリ言っとくぞ」

「……?」

 いつの間にやら梓の目の前まで迫ってきた椛は、ハッキリと言いつつ、なぜか囁き声になっている。楓にも聞こえていない、梓にしか聞こえないだけの音量だった。

 そんな音量で、余計に梓に顔を近づけ、確かにハッキリした口調で、こう言った。

 

「……楓に変な色目使ったら、ぶっ殺すぞ……!」

 

「……」

(『デカ乳押し当てながら言うことかー!』)

 アズサは内心で絶叫し、梓は言葉を失った。

「色目って、あの……私、男子なんですけど……」

 

「えぇー!?」

「えー!?」

『えぇええええ!?』

 

 再び、三人分の悲鳴がコダマした。

「えーじゃないでしょう!? と言うか、椛さんはともかく楓さん、あなたもですか?」

「だって、どう見たって女性にしか……」

「ファルコンさんは前世で男子であると証明したでしょう!? なにあなたまで驚いているのです!?」

『伝統芸……いや、様式美? お約束だよ』

 ファルコンは、特に悪びれることもなく、そう返した。

 そんな三人の様子に、梓は息を一つ吐いて、着物の裾に手を添える。

「そんなに私が男子だと信じられませんか? そんなに私の男子が見たいですか?」

「あわわわわ! ちょ、落ち着いて……!」

「ダメだよ梓、ヤケになっちゃ……!」

 裾を持ち上げようとした梓の手を、楓と、実体化したアズサが制した。

(やめろ! 楓の以外見たくねー!////)

 椛は顔を背けつつ、内心で絶叫していた。

 

 

 そういったやり取りがしばらくあって、ようやく梓と椛は向かい合った。

 

「改めまして、水瀬梓です……」

「炎城椛だ! さあ……いくぜ!」

 

『決闘!!』

 

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「私の先行です。ドロー」

 

手札:5→6

 

「私は魔法カード『天使の施し』を発動。カードを三枚ドローし、その後二枚の手札を捨てます。続けて魔法カード『氷結界の紋章』。デッキから『氷結界』モンスター一枚を手札に加えます。私は『氷結界の伝道師』を手札に加えます」

 

手札:5→6

 

「『氷結界の軍師』を召喚」

 

『氷結界の軍師』

 レベル4

 攻撃力1600

 

「軍師の効果。手札の氷結界一枚を墓地へ送ることで、カードを一枚、ドローします。私は手札の『氷結界の大僧正』を捨て、カードを一枚ドロー。自分フィールドに氷結界が存在することで、手札の『氷結界の伝道師』を特殊召喚」

 

『氷結界の伝道師』

 レベル2

 守備力400

 

「この効果で伝道師を特殊召喚したターン、私はレベル5以上のモンスターを特殊召喚できなくなります。カードを三枚伏せ、ターンを終了」

 

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『氷結界の軍師』攻撃力1600

   『氷結界の伝道師』守備力400

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

 

 

(だいぶ墓地にカードを送った……要警戒だよ、椛ちゃん)

 

「オ……アタシのターン!」

 

手札:5→6

 

「いくぜ……フィールド魔法『バーニングブラッド』発動!」

 椛がカードをセットした時、夜の森はより暗く、だが、紅く変わった。

 周囲の木々も、足もとの雑草も枯れ果て、朽ち果て、消滅していき、後には黒い大地だけが残る。

 そんな大地の向こう側には、岩山がそびえたった。そこから、真っ赤なマグマが噴き出していた。

「こいつが場にある限り、炎属性モンスターの攻撃力は500アップする。守備力は400ダウンすっけどな。そしてこいつだ! 『フレムベル・ヘルドッグ』召喚!」

 

『フレムベル・ヘルドッグ』

 レベル4

 攻撃力1900+500

 

「バトルだ! 『フレムベル・ヘルドッグ』で、『氷結界の軍士』を攻撃だー!」

 マグマの大地の力を得た、溶岩の体の猟犬が奔る。

(ヘルドッグはモンスターを戦闘破壊した時、デッキから守備力200以下のモンスターを特殊召喚できる。こいつでテメーのモンスター、全滅させてやらぁ……)

 

 ヘルドッグの牙が、軍師の首へ伸びた時……

「……えっ?」

 突然現れた、黄色の長い胴体。

 それがヘルドッグの身体に巻き付き、縛り付けた。

「相手が攻撃してきた時、墓地の『キラー・ラブカ』を除外することで攻撃を無効にし、攻撃モンスターの攻撃力を500ダウンさせます」

 

『フレムベル・ヘルドッグ』

 攻撃力1900+500-500

 

「ちぃ……バトル終了だ。おい、テメーの墓地のカードは何枚だ?」

「『キラー・ラブカ』を除外したので、現在三枚です」

「三枚……おっしゃ! アタシの場にフレムベルが存在して、相手の墓地のカードが三枚以下の時、手札のチューナーモンスター『ネオフレムベル・オリジン』を特殊召喚だー!」

 

『ネオフレムベル・オリジン』チューナー

 レベル2

 攻撃力500+500

 

「ほぅ、チューナーモンスター……」

 

「レベル4の『フレムベル・ヘルドッグ』に、レベル2の『ネオフレムベル・オリジン』をチューニング!」

 猟犬に巻き付いていたサメが離れ、二体のフレムベルが飛び上がる。

 青白く光る炎の精が、二つの星に変わった。

 

「灼熱の星が集結する時、世界を照らす業火が燃え盛る!」

「シンクロ召喚! 来な『フレムベル・ウルキサス』!」

 

 燃える大地が、より激しく荒ぶった。そこからマグマと共に、烈しくも神聖な炎が空へと伸びた。

 その炎を突き破り、両の拳が燃え盛る、紅き闘将は姿を現した。

 

『フレムベル・ウルキサス』

 レベル6

 攻撃力2100+500

 

「よし! ちゃんと教えた通りにできてる……」

 

「へへ……」

「罠発動『激流葬』」

 シンクロモンスターを呼び出したことで、満悦している二人の耳に、無情の声が響いた。

「モンスターが召喚された時、フィールドのモンスター全てを破壊します」

「はぁ!? そんなことしたら、テメーの場のモンスターも……」

「永続罠『リビングデッドの呼び声』。墓地に眠る『氷結界の大僧正』を特殊召喚します」

 

『氷結界の大僧正』

 レベル6

 攻撃力1600

 

「大僧正が場に存在することで、私の場の氷結界達は魔法・罠カードの効果では破壊されなくなります」

「なにぃ!?」

「では、『激流葬』の処理です」

 梓の言葉の通り、大僧正が印を結んだ瞬間、梓の場のモンスターは激流から守られる。

 だが、その加護をうけることを許されない炎の闘将は、そのまま激流に飲み込まれた。

「ちくしょう……! カードを二枚セットして、ターンエンドだ」

「この瞬間、速攻魔法『サイクロン』。伏せカードの一枚を破壊します」

 

「うわぁ……梓さん、容赦ないな」

 

 楓が引きつっている間に、椛の伏せたカードが舞い上がる。

「『フレムベルカウンター』。自分墓地の守備力200の炎属性モンスターを除外することで、私の発動した魔法・罠カードを無効とし、破壊する……残念でしたね」

「くぅ……!」

 

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    フィールド魔法『バーニングブラッド』

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『氷結界の大僧正』攻撃力1600

   『氷結界の軍師』攻撃力1600

   『氷結界の伝道師』守備力400

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「私のターン」

 

手札:1→2

 

「魔法カード『マジック・プランター』発動。表側表示の永続罠カード、『リビングデッドの呼び声』を墓地へ送り、カードを二枚ドロー」

 

手札:1→3

 

「『リビングデッドの呼び声』がフィールドを離れた時、その効果で蘇生されたモンスターは破壊される。しかし、大僧正自身の効果で破壊はされません」

「ぐぅ……」

 

「カードの使い方にも無駄がない……本当に強いよ、あの人」

『ああ。おまけに容赦がない。ここまで来ると、もう笑うしかねぇな……』

「椛ちゃんにとっては、笑い事じゃないから……」

 

「永続魔法『生還の宝札』を発動。更に『氷結界の軍師』と大僧正をリリースし、『青氷の白夜龍』をアドバンス召喚します」

 

『青氷の白夜龍』

 レベル8

 攻撃力3000

 

「出た! ホワイトナイツ……!」

 

「続けて、伝道師の効果。このカードをリリースすることで、墓地に眠る氷結界一体を特殊召喚します。私は墓地より、『氷結界の虎将 ガンターラ』を特殊召喚します」

 

『氷結界の虎将 ガンターラ』

 レベル7

 攻撃力2700

 

「ちぃ……! 最初の『天使の施し』で捨てたやつか……」

「『生還の宝札』の効果により、私の墓地よりモンスターが蘇生される度、カードを一枚ドローします」

 

手札:1→2

 

「では、バトルです」

「罠発動『威嚇する咆哮』!」

 椛の場に残された、最後のカードが発動される。

 同時に、梓の場のモンスター全てが硬直した。

「テメーはこのターン、攻撃できねぇぜ!」

「確かに……カードをセット。ターンエンドと同時にガンターラの効果。墓地に眠る氷結界を一体、特殊召喚します。大僧正を蘇生」

 

『氷結界の大僧正』

 レベル6

 守備力2200

 

「ちっくしょう! これでまた魔法と罠じゃ破壊されねーってか?」

「宝札の効果で一枚ドロー。これで終了です」

 

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『青氷の白夜龍』攻撃力3000

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の大僧正』守備力2200

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    フィールド魔法『バーニングブラッド』

 

 

「なんだよ……シンクロモンスターは使わねーのか?」

「使うまでもなく、あなたは追い詰められているようですが?」

「ぐ……!」

「私のシンクロモンスターが見たいのなら……使わせてごらんなさいよ?」

「くぅ……」

 梓の言った通りの、フィールドの状況に歯噛みさせられる。

 相手の場には、三体の上級モンスター。それに比べて、自分の場には、フィールド魔法が一枚だけ……

 

「椛ちゃん! まだ手札にカードは残ってる! 諦めずにカードを引いて!」

 

「楓……おう! アタシのターン、ドロー!」

 

手札:1→2

 

「……よし。『強欲な壺』発動! カードを二枚ドロー!」

 

手札:1→3

 

「えっと、2+2で、4だから……おっしゃ! まずは魔法カード『おろかな埋葬』! デッキから『ネオフレムベル・シャーマン』を墓地へ送る。そして、『逆巻く炎の精霊』を召喚!」

 

『逆巻く炎の精霊』

 レベル2

 攻撃力200+500

 

「そして、これが必殺のカードだ! 魔法カード『真炎の爆発』発動!」

「『真炎の爆発』……!」

 梓の反応に笑みを浮かべつつ、椛は続けた。

「墓地から守備力200の炎属性モンスターを、可能な限り特殊召喚する。来い! 『フレムベル』ども!」

 椛の目の前の大地から、再び炎が吹きあがる。

 そこから、墓地に眠っていた炎の戦士たちがフィールドに現れた。

 

『フレムベル・ヘルドッグ』

 レベル4

 攻撃力1900+500

『ネオフレムベル・シャーマン』

 レベル3

 攻撃力1700+500

『ネオフレムベル・オリジン』チューナー

 レベル2

 攻撃力500+500

 

「レベル3の炎族『ネオフレムベル・シャーマン』と、レベル2の『逆巻く炎の精霊』に、レベル2の炎属性『ネオフレムベル・オリジン』をチューニング!」

 そしてまた、前のターンと同じ光景が繰り返された。

 

「灼熱の星が集結する時、大地を焼き尽くす炎神が降り立つ!」

「シンクロ召喚! 来い『エンシェント・ゴッド・フレムベル』!」

 

 みたび、地面から炎が吹きあがった。二度の炎とは比べ物にならない、巨大で、だが神聖な炎だった。

 その炎の柱の中から、それはゆっくりと顔を、体躯を現した。

 全身を燃え上がらせる、雄大で巨大なその姿は、正しく炎の神だった。

 

『エンシェント・ゴッド・フレムベル』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500+500

 

「こいつのシンクロ召喚に成功した時、相手の手札の枚数分、相手の墓地のカードを除外する。で、除外したカード一枚につき、こいつの攻撃力を200アップさせるぜ!」

 『エンシェント・ゴッド・フレムベル』が手の平を向け、同時に梓の手札に火が灯る。

 その火に照らされるように、墓地から光が発せられ、一枚のカードが飛び出した。

「テメーの墓地から『氷結界の伝道師』を除外するぜ!」

 言われた通り、梓は伝道師を懐に仕舞った。

 

『エンシェント・ゴッド・フレムベル』

 攻撃力2500+500+200

 

「……」

「ハハ! すっげーだろー!」

「……信じられない」

 梓のその返事。そして、さっきからの反応。椛は大いに勝ち誇った。

「『真炎の爆発』……フレムベルなら入っているとは思っていましたが、それを入れているくせに、『フレムベル・マジカル』さんのカードをデッキに入れていないだなんて」

「……あん?」

 梓の冷たい言葉が、椛には癇に障ったようだった。

 

「『逆巻く炎の精霊』……あまり強いカードとは言えません。それを、あなたは敢えて入れている。なぜですか?」

「なんでって……炎族だし、効果も『バーニングブラッド』と合わせりゃそこそこ使えるし、守備力200だから『真炎の爆発』にも使えるし……」

 言いながら、楓の方へ視線を向けた。

(……楓に、そう言われて薦められたから……)

「それだけカードを見ているくせに、同じく守備力が200でレベル4のチューナーである『フレムベル・マジカル』さんという有能なカードを、デッキから抜いたのですか?」

 椛の顔が固まった。その事実に初めて気付いた。そんな顔をしている。

 

「『逆巻く炎の精霊』は確かに相性は良い。単体で見てもあまり強くはないが、優秀でもある。しかし、マジカルさんであれば、少なくともシンクロ素材を三体も用意する必要などなかった。レベル3の『ネオフレムベル・シャーマン』と合わせ、二体だけでシンクロ召喚が行えたにも関わらず」

「……う、うるせえ! シンクロ召喚できたんだから構わねーだろうが! 『エンシェント・ゴッド・フレムベル』は、テメーの場のモンスター全部を倒せる攻撃力を持ったんだからな!」

 その言葉を示すように、巨大な炎神の身体は燃え上がった。

 

「バトルだ! 『エンシェント・ゴッド・フレムベル』で、『青氷に白夜龍』を攻撃だ!」

 炎神が両の手を上げ、そこにエネルギーがたまっていく。

 そのエネルギーは巨大な火球と化し、白夜の名を持つ氷の龍へ向けられた。

「伏せカード発動『月の書』」

 だがそれすらも、梓の一言で否定される。

「『エンシェント・ゴッド・フレムベル』を、裏守備表示にしていただく」

「な……!」

 今にも攻撃を放つ寸前だった炎神が姿を消した。

 後に残ったのは、横向きに伏せられたカードだけだった。

「そんな……くっそ! バトルは終了だ」

 

「えぇ!?」

 

 その宣言に、声を上げたのは楓。

 

「椛ちゃん、なんで? まだ『フレムベル・ヘルドッグ』がいる。『バーニングブラッド』で攻撃力が上がった今なら、守備表示の大僧正を倒せて、効果も使えたのに!」

 

「え……あ!」

「……残念ですが、一度宣言した以上、それを取り消すことはできません」

 起こしてしまった過ちに歯噛みしながら、彼女にはもはや、宣言するしかない。

「ターンエンド……」

 それと同時に、裏側のカードの隣に佇んでいたヘルドッグが姿を消した。

「あれ? なんで?」

「……あなた、自分が使うカードの効果も把握できていないのですか?」

「は?」

「『真炎の爆発』の効果で特殊召喚されたモンスターは、そのターンのエンドフェイズにゲームから除外される効果がある」

「……はぁ!?」

 今まで、このカードを使ったターンには決着をつけることができていた。

 だから、そんなデメリットがあることを、椛は知らなかった。

 

「強力な効果には、大抵何かしらリスクがあるって、教えたのに……」

 

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    セット(『エンシェント・ゴッド・フレムベル』守備力200-500)

   魔法・罠

    フィールド魔法『バーニングブラッド』

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『青氷の白夜龍』攻撃力3000

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の大僧正』守備力2200

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

 

「楓さんとは大違いですね。使うカードは楓さんより強力なくせに……話にならない」

「ぐぅ……!」

「ドロー」

 

手札:2→3

 

「ステータスは重視する癖に、効果の利点と結果しか見ていないからそんなことになるのです。『壺の中の魔術書』を発動。互いのプレイヤーは、カードを三枚ドローします」

 

手札:2→5

 

手札:0→3

 

「バトルです。ガンターラで、セットされた『エンシェント・ゴッド・フレムベル』を攻撃、凍撃輪舞!」

 ガンターラが走り、その拳を突き出す。巨大な炎の神も、非力なただのカードとなってしまっては抗うことも敵わず、あっさりと砕かれた。

「『青氷の白夜龍』で、椛さんに直接攻撃」

 楓との決闘の時と同じ。宙を舞う巨大な氷の龍の口に、冷たくも強大なエネルギーがたまっていき……

「冴白のブリザード・ストリーム!」

 その冷たい一撃が、椛目掛けて放たれた。

 

「ぐああああああああああ!!」

 

LP:4000→1000

 

「うぅぅ……」

 強力な一撃に、ひざを着いてしまう。

(楓も、こんな攻撃受けてたのかよ……こんなの、勝てるわけねぇじゃん……)

 

「……カードを一枚伏せ、ターン終了。同時にガンターラの効果。墓地に眠る『氷結界の軍師』を蘇生。『生還の宝札』の効果で一枚ドローします」

 

 

LP:4000

手札:5枚

場 :モンスター

   『青氷の白夜龍』攻撃力3000

   『氷結界の虎将 ガンターラ』攻撃力2700

   『氷結界の大僧正』守備力2200

   『氷結界の軍師』守備力1600

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

LP:1000

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    フィールド魔法『バーニングブラッド』

 

 

「……」

 梓のターン開始からここまで。

 白夜龍の一撃にひざを着き、うなだれたままの椛の姿に、梓はため息を一つ。

「あなたの決闘者としてのほどは、よく分かりました」

 そんな椛に近づいていき、声をかける。

「ハッキリ言わせていただきますが……」

 決闘を始める前の、椛と同じように。ハッキリとは言いながら、手札のカードで口元を隠しつつ、椛にしか聞こえない声量で……

 

「あなたは、フレムベルを持つに値しない……そして――」

 

 

「楓さんにふさわしくない」

 

 

「……っ!」

 一つ目は、まだどうでも良かった。

 だが二つ目は、椛にとって、最も聞きたくない一言だった。

 

「……椛ちゃん?」

 

 楓の声が聞こえた。だが、いつもは癒されるそんな声すら、今の椛には、残酷な仕打ちにしかならなくて……

 

 

(楓にふさわしくないとか……分かってんだよ、そんなこと……)

 

 

 

 




お疲れ~。

風と炎って相性良いんだよね……

今回も、長くなったから二つに分けるわ。

そういうわけだから、次話まで待ってて。

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