遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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ぁあ~~~~……

さぁ~て、次にあずさが戦う刺客は?


……バレバレだろうから、ぶっちゃけて言うけど、天使っぽいの使ってた彼女ですわ。

そんなこんなで。

行ってらっしゃい。



    めっちゃ戦う者達

視点:アズサ

「……はい?」

 せっかく用意してくれたからってことで、星華姉さんが用意した朝ごはんを、ほとんどお昼ご飯の時間に食べ終わった後で、僕らは外に出た。

 さすがに時間も、日数も経ってるから、ブルー寮の周りに生徒は見かけない。プロ決闘者も。

 そんな寮から離れても、人の姿が見えない道なりに歩いていきながら、梓に聞いてみた。

『だからさ、梓って、チーズ嫌いだっけ?』

 梓がうなされてた時、どういうわけだか、しきりにチーズチーズ言ってた。まるで、第四部でのシエンの時みたく、えらく怨嗟のこもった声でね。

 だから、分かり切った質問だけど、そう聞いてみることにしたんだよね。

「チーズ……特に、嫌いだと思ったことはありませんが。チーズくらい、匂いが多少気になる程度で、食したことはありますし」

 だよねー……

 それが、なんであんなにうなされてたんだろう?

「そもそも、私が食べられないものなど、それこそシアン化カリウムくらいのものですよ」

 しあんか……ああ、青酸カリね。

「……いえ、他にもありますね。ヒ素、鉛、水銀、リン、テトロドトキシン、水酸化ナトリウム、アポトキシン……意外とたくさんありますが」

 食い物じゃないじゃん……

 まあ、最後の以外は全部、梓が水瀬家の養子になってしばらく後で、出された食事に混ぜられてたものばっかりだけど……

「……アズサ」

 と、呆れてると、梓は、僕の顔を真剣に見つめてきた。

「はっきり言っておきますが……」

『なに?』

 

「私の大好物は、納豆です」

 

「へぇ~。梓くん、納豆が好きなんだー」

 

 ……梓の、今更過ぎる告白を聞いた後で、そんな、のんびりした声が聞こえた。

 梓の顔を、一瞬で赤くした、その声の方を見てみたら。

「あ……お、おはようございます、あずささん……////」

「おはよ……て、もうお昼過ぎちゃってるけどね」

「あ……えっと、その……こ、こんにちわ……////////」

「あはは。こんにちは。梓くん」

 

『……』

 あの日から、二人の間にあった溝は完全に無くなって、今じゃ普通に会話もしてる。

 もっとも、未だに梓は、あずさちゃんを前にしたら、緊張しっぱなしだ。あずさちゃんの方は、普通にしてるんだけどね……

 

「えっと……あの、その……////」

「……そういえば、聞いた? 例の噂?」

「……え?」

「わたし達以外で、シンクロモンスターを使ってるって決闘者」

「ああ……」

 ターミナルシリーズを持った奴らのことかな? 梓達とは違って、相手が誰だろうとお構いなしに使ってるって話だったものね……

「それ、万丈目くんらしいよ」

「……準さんが?」

 最初は僕も、梓も驚いた。けど、梓はすぐに納得した。

「そうですか……つまり、準さんが、選ばれた人、というわけですか」

「選ばれたって?」

 聞き返された後で、梓は三日前、校長室で会長さんのペガサスと話したって内容を話しはじめた。

 僕も聞かされてなかったけど、まだモーメントも発見されてないこの時代でも、二枚だけ、シンクロモンスターを作ることができたってこと。その二枚を持ったデザイナーが大会に参加して、そのテストプレイヤーを探してたこと。で、それに選ばれたのが、準だろうってこと。

「へぇー。さすが万丈目くんだね」

「ええ……たとえ美白していようとも、彼は変わらず、偉大なまま、ということです……」

 梓が一番好きなのは、あずさちゃんだ。けど、相変わらず、準のことは尊敬して、憧れの気持ちも変わってないみたい。

「また、強敵が増えちゃったね」

「ええ……もっとも、ことシンクロモンスターの扱いでは、さすがに遅れを取るわけには参りませんが……」

「だよねー。わたし達の方が、シンクロモンスター使って長いもんね」

「はい」

 で、なんだかんだ、最初緊張しながらだったのが、普通に会話を楽しみだした。

 それで、さすがにジェネックスで出会ったからって、決闘しよう、とはならないみたいだ。

 まあ二人とも、過去に散々、かなり激しく闘って、やっと今みたいになれた仲だものね。

 もう、お互いのこと、敵だなんて、思いたくないよね……

 

「……じゃあ、もうそろそろいくよ。話せて楽しかった」

「あ……ええ。そうですね」

 終わりはあずさちゃんが切り出した。それに、梓は名残惜しそうにしてるけど、納得した声を出した。

 で、最後に簡単に挨拶を交わして、別れた……

 

「あの!」

 そんな、歩いていくあずさちゃんに向かって、声を上げる。あずさちゃんが振り向いたのを見て、すっごい言いづらそうにしながら、言った。

「……シエンは、今、おりますか?」

 それを聞いて、あずさちゃんは、周りを気にし出した。

 けど、シエンは姿を現さない。まあ、出会った時点で梓にも、僕にも姿は見えてないからね。まだ出てきてないってことだろうね。

「……シエンが現れたら、伝えていただきたい」

 シエンを見つけられずにいるあずさちゃんに向かって、梓は、シエンに伝えるべき言葉を送った。

 

「……水瀬梓は、もう、『真六武衆-シエン』を恨みません」

 

「……へ?」

 

「私は……あなたを赦します」

 それだけ言って、あずさちゃんの前から歩き出した。

 

『梓?』

 僕が名前を呼ぶと、梓は、すごく苦しそうで、哀しそうな顔をしてた。

 完全に許すことは難しいことだけど、それでも、それを言葉にして、苦しそうにしてる……

「シエンが苦しんできたことは、重々分かっております。それに……」

『それに?』

「……今言わなければ、もう、永遠にこのことを伝えることはできない。なぜかは分かりませんが、そう思ったから」

 

『……』

 さすがは梓ってとこかな……

 同じ精霊の僕ほど、異変とか様子とか、そういうのを明確には感じない。主のあずさちゃんだって、気付いてないみたいだった。

 それでも、元々、あずさちゃんや、僕よりずっと昔から一緒に戦ってきた、無二のパートナーで、親友だったものね。

 

 ……梓が今、感じた通りだ。

 シエンは……『真六武衆』達は、もう……

 

 

 

視点:外

 

「聞いてたよね。シエン」

 

『……』

 

「許されたかったのかは、分かんないけど……よかったね」

 シエンから、返事は聞こえない。それでも、梓の言葉は聞こえ、その気持ちは、伝わっている。それが、今の主であるあずさには分かっていた。

「さて……わたしの方も、探さないとね」

 ここでいつまでもこうしているわけにはいかない。

 

 昨日戦った、惑星(プラネット)の名を持つカードを使う決闘者。

 途中から明らかに、本人ではない誰かに変わっていた。

 ああいうのは大抵、どこかに隠れてるラスボスが、何人も決闘者を操ってる。そういうパターンはあずさでも分かる。

 そんな怪しい連中が、他でもない、大好きな梓くんを狙って動いてる。

「そんな奴ら、()がやっつけないと……」

 

「誰をやっつけるの?」

 

 と、あずさが気合いを入れている時に、その、聞き覚えのある綺麗な声は聞こえた。

 振り返り、その声がした方を見てみると。

「あなたは……プロ決闘者の、『(ひびき) みどり』さん?」

 青色のロングコートにミニスカート。背中まで伸ばした黒のロングヘアーをなびかせた、二十代後半の美女。

 響みどりは、上機嫌な笑みをあずさへ向けた。

「知ってくれてるとは嬉しいわね……あなた、私と決闘してもらうわ」

「いいよ~」

「あなた、名前は?」

「平家です……平家あずさ」

「平家あずさ……あなたの実力を見せてもらう」

「はーい!」

 

『決闘!!』

 

 

みどり

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

あずさ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「先行は私ね。ドロー」

 

みどり

手札:5→6

 

「……魔法カード『天使の施し』を発動。カードを三枚ドローして、二枚を捨てる。カードを四枚セット。ターンエンド」

 

 

みどり

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

    セット

 

 

「魔法・罠戦術……わたしのターン!」

 

あずさ

手札:5→6

 

「まずは速攻魔法『サイクロン』を発動します。この効果で、えっと……右端のカードを破壊します」

 『サイクロン』で巻き上がったのは、カウンター罠『昇天の黒角笛(ブラックホーン)』。

「永続魔法を二枚発動します。『六部の門』、『六武衆の結束』。魔法カード『紫炎の狼煙』発動。デッキからレベル3以下の『六部衆』……『六武衆-ヤイチ』を手札に加えます。このまま、『六部衆-ヤイチ』を召喚!」

 

『六部衆-ヤイチ』

 レベル3

 攻撃力1300

 

「六武衆の召喚、特殊召喚に成功したことで、門に二つ、結束に一つ、武士道カウンターを乗せます」

 

『六部の門』

 武士道カウンター:0→2

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

 

「続けて、場に六武衆が存在することで、手札の『六武衆の師範』を特殊召喚!」

 

『六武衆の師範』

 レベル5

 攻撃力2100

 

『六部の門』

 武士道カウンター:2→4

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

 

「『六武衆の結束』の効果! 最大二つまで武士道カウンターが乗ったこのカードを墓地へ送って、カードを武士道カウンターの数、二枚ドローします。ドロー」

 

あずさ

手札:1→3

 

「ここで、『六武衆-ヤイチ』の効果! 自分の場にヤイチ以外の六武衆が存在する時、このターンの攻撃を放棄する代わりに、フィールドの伏せカード一枚を破壊します。わたしは真ん中のカードを破壊します」

 続けて、ヤイチが弓矢を構え、指定のカードを狙い撃つ。

 が……

「さすがに、これ以上黙って破壊はさせないわ……伏せカード発動!」

 

 パチン……

 

 みどりが指を鳴らす。と同時に、矢が当たる寸前の伏せられたカードが表に変わる。

「罠カード『背徳の堕天使』! 一ターンに一枚だけ発動できるこのカードは、手札または自分フィールド上の『堕天使』一枚を墓地へ送ることで発動。フィールドのカード一枚を選んで破壊する。私は手札の『堕天使マスティマ』を捨てて、『六武衆-ヤイチ』を破壊するわ」

 

みどり

手札:2→1

 

 みどりの手札から、禍々しい天使のカードが捨てられる。と同時に、そこに描かれた天使はヤイチへ向かい、その身をあの世へと引きずり込んだ。

「うぅ……ここで『六部の門』の効果! このカードに乗った武士道カウンターを四つ取り除くことで、墓地、またはデッキから六武衆を一枚、手札に加えます。わたしは『六部の門』の武士道カウンターを四つ取り除いて……」

 

 パチン……

 

 再び指を鳴らす音。その瞬間、ついさっきみどりのフィールドに起こったつむじ風が、今度はあずさのフィールドに巻き起こった。

「速攻魔法『サイクロン』を発動させたわ。あなたのフィールドの『六部の門』を破壊する」

「えぇ……!?」

 言われた通り、あずさの場に建立していた巨大な門は、つむじ風に吹き飛び、破壊された。

「うぅ……カードを発動する度に指パッチン。格好いい……」

「ありがとう」

 あずさのデッキのキーカードが、効果を使う前に破壊されたことの悔しさはあった。

 だがそれ以上に、目の前のプロ決闘者が行う動作の方が、あずさにとっては印象的だった。

「何なら、真似してくれてもいいわよ」

「……」

 言われて、あずさもやってみる。

 中指と親指を重ねて、それをこすり合わせ、上下に思い切り動かし……

「鳴りません……」

「あらら……」

 哀しげな声を上げるあずさの指から鳴ったのは、ただ皮膚と皮膚がこすれ合っただけの、空しい摩擦音と、パッチン、というより、ベッチャ、という儚い音だけ。

 

「むぅ……続けます。このままバトル! 『六武衆の師範』で、直接攻撃です!」

 あずさが叫び、師範が走る。だが、白髪の武士の刀が届くより以前に……

 

 パチン……

 

「永続罠『リビングデッドの呼び声』! 墓地に眠るモンスター一体を攻撃表示で蘇生させる。私は墓地から、『堕天使スペルビア』を蘇生するわ!」

 みどりの目の前から、真っ黒の闇があふれ出る。そこからまるで、巨大な杯を象ったような、朱い翼を翻す、黒い天使が浮かび上がった。

 

『堕天使スペルビア』

 レベル8

 攻撃力2900

 

「なんかすごいのが出た!」

「すごいのは、まだこれからよ……スペルビアのモンスター効果! このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、墓地に眠るスペルビア以外の天使族モンスターを特殊召喚できる。私はこの効果で、墓地に眠る『堕天使マスティマ』を特殊召喚!」

 黒い杯から、また闇が漏れ出た。そこから今度は、直前に罠カードによって墓地へ捨てられた、白い体と、黒い獣の顔を持つ天使が這い出てきた。

 

『堕天使マスティマ』

 レベル7

 攻撃力2600

 

「レベル7と8のモンスターが一度に並ぶって……」

「ふふふ……攻撃を続ける?」

「当然、中断です! カードを一枚セット。これでターンエンドです」

 

 

あずさ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   魔法・罠

    セット

 

みどり

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『堕天使スペルビア』攻撃力2900

   『堕天使マスティマ』攻撃力2600

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「それにしても……四枚もあった伏せカードを、着実に破壊しつつ攻勢に出るなんて。魔法・罠戦術とは戦ったことがあるの?」

「はい……すごく強くて、すごく怖くて、そんな伏せカードの山を操る決闘者が、このアカデミアにもいて、前に闘いましたから」

「面白いわね……私のターン!」

 

みどり

手札:1→2

 

「畳みかけるわよ……魔法カード発動『埋葬されし生け贄』! このターン、二体の生贄が必要なモンスターを、私とあなたの墓地に眠るモンスターを一体ずつ除外することで生贄召喚できる」

「うそ! て、ことは……」

「私の墓地の『堕天使エデ・アーラエ』、あなたの墓地の『六武衆-ヤイチ』、二体のモンスターの魂を生贄にささげ……『堕天使アスモディウス』を召喚!」

 再び闇が広がった。闇の中から、漆黒の翼が広がった。

 背中の翼は漆黒なのに、頭に生やした小さな両翼は、天使の面影のような純白。

 おなじく、純白の衣に身を包みながら、その上に纏う鎧は黒く。

 純白と、漆黒が調和した、天より堕ちたる上級天使が君臨した。

 

『堕天使アスモディウス』

 レベル8

 攻撃力3000

 

「攻撃力3000……!」

「アスモディウスは特殊召喚できない堕天使。そして、『埋葬されし生け贄』の効果の発動後、私はターン終了時までモンスターの特殊召喚ができなくなる」

 これでみどりの手札もゼロ。少なくとも、このターンで新たにモンスターが増える心配はない。

 それでも……

 

『堕天使アスモディウス』

 攻撃力3000

『堕天使スペルビア』

 攻撃力2900

『堕天使マスティマ』

 攻撃力2600

 

 最上級のレベルと攻撃力を持つ、巨大なモンスターが一度に並ぶ様は、圧巻の一言。

 あずさにとって、開いた口が塞がらないとは、正にこのこと。

 

「さあ……バトルよ! 『堕天使マスティマ』で、『六武衆の師範』に、Attack!」

 

 バチィ……!

 

 みどりの指を合図に、角の生えた、白黒の獣の堕天使が、その巨体を存分に震わせ走る。その角が、師範を捕らえた。

「ダメージ計算時、手札の『紫炎の寄子』を墓地へ送って、効果発動! このターン、『六武衆の師範』は戦闘では破壊されません!」

 

あずさ

手札:2→1

 

 師範の前に、半透明の仔猿が立つ。それが、マスティマの角の直撃を防いだ。

「けど、ダメージは受けてもらうわ」

「うぅ……!」

 

あずさ

LP:4000→3500

 

「……私は『堕天使マスティマ』の効果を発動! 一ターンに一度、ライフを1000ポイント支払い、墓地の『堕天使』の名を持つ魔法・罠カードの効果を適用する」

 

みどり

LP:4000→3000

 

「私が選ぶのは、『背徳の堕天使』! この効果で、『六武衆の師範』を破壊するわ!」

 みどりのライフを喰らったマスティマが、今度は墓地から浮かび上がった罠カードに喰らいつく。その力を受けたマスティマが咆哮を上げた時、空間を震わせるエネルギーが師範に向かった。

「お断りします! カウンター罠『六尺瓊勾玉(むさかにのまがたま)』!」

 師範の前に現れた、翡翠色の勾玉が光り輝く。

「わたしの場に六武衆が存在する時、相手の発動した、『カードを破壊する効果』を無効にして、そのカードを破壊します!」

「なんですって!?」

 勾玉の光が、空間の揺らぎを打ち消し、同時に獣の堕天使を照らす。

 光に照らされた闇天使の身体が、その輝きの中で蒸発し、消えた。

「元々は罠カードの効果でも、適用して発動したのはモンスター効果の扱いです。なので、破壊されるのは『堕天使マスティマ』です」

「うぅ……この効果で適用した魔法・罠カードは、私のデッキに戻す効果があるけど……」

「当然、発動自体無効にしちゃったので、デッキには戻りません」

「……」

 アテが外れたうえ、モンスターまで消費した。

 それでも、今やるべき手は打つ。

「『堕天使スペルビア』、『堕天使アスモディウス』で、『六武衆の師範』に、Attack!」

 

 バチィ……!

 

 生き残った二体の堕天使が飛び出した。

 その闇の一撃が、傷つきはしない師範の身を抉る。

 代わりに抉られるのは、あずさの身。

 

あずさ

LP:3500→1800

 

「ターンエンド」

 

 

みどり

LP:3000

手札:0枚

場 :モンスター

   『堕天使アスモディウス』攻撃力3000

   『堕天使スペルビア』攻撃力2900

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

あずさ

LP:1800

手札:1枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   魔法・罠

    無し

 

 

「わたしのターン!」

 

あずさ

手札:1→2

 

「まだ勝負は分かりません……魔法カード『強欲な壺』! カードを二枚ドローします」

 

あずさ

手札:1→3

 

「……イケる!」

「……!」

「わたしは、二枚目の永続魔法『六武衆の結束』を発動!」

 師範の後ろに、先ほどと同じ魔法カードが表示された。

「『六武衆の露払い』を召喚」

 

『六武衆の露払い』

 レベル3

 攻撃力1600

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

 

「更に、わたしの場に六武衆がいる時、このカードは手札から特殊召喚できます。『真六武衆-キザン』を特殊召喚!」

 

『真六武衆-キザン』

 レベル4

 攻撃力1800+300

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

 

「結束を墓地へ送って、カードを二枚ドロー」

 

あずさ

手札:0→2

 

「場にキザン以外の六武衆が二体以上いる時、キザンの攻撃力は300ポイントアップします」

「それだけじゃ、私の堕天使達には届かないわよ?」

「届かなくてもいいんです……『六武衆の露払い』の効果! 自分フィールドの六武衆一体を生け贄に捧げて、フィールド上のモンスター一体を破壊します」

「え……!」

「『真六武衆-キザン』を生贄に捧げて、『堕天使スペルビア』を破壊!」

 キザンが光に変わり、同時に露払いが走りぬく。

 その先にいたスペルビアの眉間に、露払いの小太刀が突き立てられ、沈んだ。

 

「まだです。この効果は、一ターンに何度でも使えます。『六武衆の師範』を生贄に、『堕天使アスモディウス』を破壊します!」

 今度は師範が光と変わる。直後、その輝きを吸った小太刀を、アスモディウスの腹部へ突き立てたが……

「この瞬間、『堕天使アスモディウス』の効果! このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分フィールドに『アスモトークン』、『ディウストークン』の二体を特殊召喚するわ」

 傷を受けたアスモディウスが消えた直後、その身が、赤と青、二つに分裂した。

 姿かたちは、アスモディウスに瓜二つ。だが、体のサイズや、何より存在感が、生きていたころに比べてはるかに弱々しい、二人の堕天使……

 

『アスモトークン』トークン

 レベル5

 攻撃力1800

『ディウストークン』トークン

 レベル3

 攻撃力1200

 

「うぅ、モンスターを増やしちゃった……魔法カード『戦士の生還』。この効果で、墓地の『六武衆の師範』を手札に加えて、そのまま特殊召喚です」

 

『六武衆の師範』

 レベル5

 攻撃力2100

 

「バトルです! 師範で『アスモトークン』を、露払いで『ディウストークン』を攻撃!」

 二人の年齢を重ねた武士が走り、それぞれ目の前に立つ堕天使に刃を当てた。

「くぅ……!」

 

みどり

LP:3000→2300

 

「……あれ?」

 攻撃を終えた後で、その光景に、あずさは疑問の声を上げた。

「赤色は倒せたのに、なんで青色が残って……」

「……『アスモトークン』は効果で、『ディウストークン』は戦闘で、それぞれ破壊されない効果を持つわ」

「えぇ……!」

 守りに特化したそんな効果を聞いて、あずさはまた、考える。

 

(うぅ……露払いの効果を使えば、ディウストークンは倒せるけど、これ以上こっちのモンスター減らしたくないなぁ……相手にモンスター残すのもかなり不安だけど……)

 

「……カードを伏せます。ターンエンドです」

 

 

あずさ

LP:1800

手札:0枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   『六武衆の露払い』攻撃力1600

   魔法・罠

    セット

 

みどり

LP:2300

手札:0枚

場 :モンスター

   『ディウストークン』攻撃力1200

   魔法・罠

    無し

 

 

「……私の堕天使達をことごとく破壊するとは。やるわね」

「えへへ……どうも、ありがとうございます」

「正直、こっちもピンチだけど……プロとしての意地を見せないと! ドロー!」

 

みどり

手札:0→1

 

「私も魔法カード『強欲な壺』を発動。カードを二枚、ドローするわ」

 

みどり

手札:0→2

 

「……来た」

「……ん?」

「魔法カード『堕天使の戒壇(かいだん)』! 一ターンに一枚だけ発動が許されるこのカードは、墓地に眠る堕天使一体を守備表示で特殊召喚する」

「墓地から……て、ことは、まさか……!」

「お察しの通り……再び眷属を率いて甦れ『堕天使スペルビア』!」

 彼女の言った通り、再び杯を象った黒い天使が、闇の中から現れた。そして、そんな杯から、再び獣の堕天使が這い出てきた。

 

『堕天使スペルビア』

 レベル8

 守備力2400

『堕天使マスティマ』

 レベル7

 攻撃力2600

 

「堕天使が二体……て、まだ通常召喚もある!」

「その通り……あなた、すごく優秀じゃない」

 場に並んだ、三体の堕天使達。その三人を見やりながら、みどりは手札の、最後の一枚を天へと掲げる……

 

「特殊な召喚の許されない堕天使達の長は、二体の生贄を捧げることでのみ通常召喚できる……『ディウストークン』、『堕天使スペルビア』を生贄に捧げ……」

 

 空間が、世界が、一層暗い闇に包まれた。

 そんな闇の世界を、一条の光が照らしだした。

 

「現れなさい! 『堕天使ルシフェル』!!」

 

 雲の切れ間から伸びる、白く輝く陽の光。

 そんな光の世界から、地上へ堕天せし、闇の天使長……

 

『堕天使ルシフェル』

 レベル11

 攻撃力3000

 

「ルシフェル……大魔王サタン! とうとう来ちゃったよ、堕天使達の親玉……」

「ルシフェルのモンスター効果! このカードが生け贄召喚に成功した時、相手フィールドの効果モンスターの数だけ、手札・デッキから堕天使達を呼び出すことができる」

「うそぉ!?」

「あなたのフィールドの効果モンスターは二体。私はデッキから、『堕天使イシュタム』、『堕天使テスカトリポカ』を特殊召喚!」

 

 フィールドに君臨した堕天使達の長。それに続くように、その左右から湧き出した闇から、その二体もまた湧いて出てきた。

 褐色の肌をした、少女の姿の堕天使。世界の全てを魅了し、同時に見下し嘲笑している、そんな妖艶な笑みと視線を浮かべていた。

 漆黒の鎧に身を包む、騎士の姿の堕天使。敵対するもの全てを壊し尽くす、そんな力強さと狂気を鎧と共に纏っていた。

 

『堕天使イシュタム』

 レベル10

 攻撃力2500

『堕天使テスカトリポカ』

 レベル9

 攻撃力2800

 

「あわわわ……これ、マズいよね?」

「『堕天使ルシフェル』の更なる効果! 一ターンに一度、フィールドの堕天使の数だけ、デッキの上からカードを墓地へ送り、その中の堕天使の名を持つカード一枚につき、500ポイントのライフを回復する。フィールドの堕天使の数は、ルシフェル自身を含めて四体。四枚のカードを墓地へ……」

 

『堕天使ゼラート』

『神秘の中華なべ』

『攻撃の無力化』

『魅惑の堕天使』

 

「堕天使の名を持つカードは二枚。よって、ライフを1000ポイント回復するわ」

「回復まで……しかも、モンスターだけじゃなくて、魔法や罠まで対象なんだ……」

 

みどり

LP:2300→3300

 

「まだいくわ……『堕天使マスティマ』の効果! ライフを1000支払い、墓地の『背徳の堕天使』の効果を得る」

 

みどり

LP:3300→2300

 

 ここで、どのカードを破壊するべきか、考える。

 あずさのフィールドには、モンスターが二体。伏せカードが一枚。

(あの伏せカード……彼女の決闘を見るに、下級モンスターを展開して、その効果と合わせて優位に立つ、ある意味、私と似たタイプのデッキ。前のターンまで使っていたカードと合わせて考えると、あの伏せカードはおそらく、モンスター自身を守るものか、もしくはモンスターの展開を補うタイプの効果の可能性が高い。となると、ここで確実に破壊するべきは……)

 

「マスティマ自身を墓地へ送り、『六武衆の露払い』を破壊するわ!」

「うぅ……さっき無効にしたのがアダに……」

「そうでもないわよ。前のターンで、マスティマが破壊されたのは痛手だったんだから」

 そう言っている間に、スペルビアが消滅し、同時に露払いも消えた。

「テスカトリポカも、マスティマと同じ効果を持っている……『堕天使テスカトリポカ』の効果! ライフを1000ポイント支払って、墓地の『堕天使の戒壇』の効果を得る。『堕天使スペルビア』を、守備表示で特殊召喚!」

 

みどり

LP:2300→1300

 

『堕天使スペルビア』

 レベル8

 守備力2400

 

「『堕天使の戒壇』はデッキに戻す。そして、スペルビアの効果! 『堕天使ゼラート』を特殊召喚!」

 新たな堕天使が降臨した。

 深紅の翼をマントのように翻す、肌が黒く染まった男。

 異形の刀をあずさへ向け、その凶悪なる眼を向ける。

 

『堕天使ゼラート』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「……『大天使ゼラート』の身になにが……?」

「さあ……それは誰も分からない。決闘モンスターズにいくつもある謎の一つね」

 

『堕天使ルシフェル』

 攻撃力3000

『堕天使イシュタム』

 攻撃力2500

『堕天使テスカトリポカ』

 攻撃力2800

『堕天使スペルビア』

 守備力2400

『堕天使ゼラート』

 攻撃力2800

 

 一体だけ守備表示とは言え、フィールドを埋め尽くす闇の天使達。

 これだけのモンスターを前にして、あずさはもう、言葉も出ない。

 二体いたモンスターの、内一体は破壊され、残っているのは、『六武衆の師範』一人……

 

「さあ……バトル! 『堕天使ルシフェル』で、『六武衆の師範』に、Attack!」

 

 バチィ……!

 

 中心に立つ、堕天使達の長が翼を広げ、剣を構えた。

 たった一人、少女を護る、老いた武士を倒すために……

 

「罠発動!」

 そして、少女もまた、残された伏せカードを発動した。

 

「『聖なるバリア -ミラーフォース-』!」

 

「……え?」

 みどりが、思わず声を上げる。その間に、ルシフェルの振るった剣は、師範の前に現れた見えない壁に阻まれた。

「相手が攻撃してきた時、相手の場の攻撃表示モンスター全部を破壊します!」

 

「あ、ああ……!」

 あずさの決闘を見返し、デッキタイプを読んで、あの伏せカードがどんな系統か、読んだはずだった。

 彼女の性格も考えて、そんなカードは伏せていないだろう。そう、自分に言い聞かせてさえいた。

 それが、ふたを開けてみれば、こんな強力な罠カードが伏せられているなんて……

 

「くぅ……『堕天使イシュタム』の効果!」

 悔んでいても仕方がない。勝つために、今打つべき手は全て打たないと。

 そう判断したみどりは叫ぶ。

「イシュタムの効果も、マスティマやテスカトリポカと同じ! ライフを1000ポイント支払って、墓地の罠カード『魅惑の堕天使』の効果を得る!」

 

みどり

LP:1300→300

 

「手札または自分フィールドの堕天使、テスカトリポカを墓地へ送って、このターン、相手フィールド上のモンスター一体のコントロールを得る!」

 聖なるバリアからのエネルギーが降り注ぐ中、テスカトリポカの命と引き換えに、イシュタムは妖艶な舞いを舞った。

 そんな舞いに魅了された師範は、イシュタムの目の前まで移動した。

 やがて、そんな師範もろとも、聖なる光は堕天使達を飲み込んだ。

 

(『六武衆の師範』は相手の効果で破壊された時、墓地の六武衆一体を手札に加えられる。けど、元々の持ち主がわたしで、破壊したのもわたしだから、効果は発動されない……)

 

「……『魅惑の堕天使』はデッキに戻る。これでターンエンドよ」

 

 

みどり

LP:300

手札:0枚

場 :モンスター

   『堕天使スペルビア』守備力2400

   魔法・罠

    無し

 

あずさ

LP:1800

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

(『堕天使の戒壇』での特殊召喚が守備表示限定なことに、感謝したのは初めてだわ……)

 堕天使達を並べて、ライフも回復して、圧倒的に優位に立ったはずだった。

 それを、一枚の罠カードでほぼ全滅させられて、ライフもここまで減ってしまって。

 これだけのことが一ターンの間で起こる……決闘モンスターズの恐ろしさの一つだ。

(とは言え、ライフは減ったけど、モンスターがいないのは彼女も同じ。スペルビアの守備力は2400。簡単に破壊されることは……)

 

「わたしのターン、ドロー!」

 

あずさ

手札:0→1

 

「……(にやり)」

「……!」

「墓地の六武衆、『六武衆の露払い』と『六武衆の師範』の二体を除外……『紫炎の老中 エニシ』を特殊召喚!」

 

『紫炎の老中 エニシ』

 レベル6

 攻撃力2200

 

「エニシのモンスター効果! 一ターンに一度、表側表示のモンスター一体を破壊します」

 エニシが刀を抜き、それが強い光を放つ。

 現役時代なら、それでできるのは敵を退却させるくらいだった。だが、年月を重ね、力を持ったその光は、反撃する力を失った代わりに、敵を確実に仕留めることができる力を得た。

「スペルビアが……!」

「この効果を使ったターンは、エニシは攻撃することはできなくなります。ターンエンド」

 

 

あずさ

LP:1800

手札:0枚

場 :モンスター

   『紫炎の老中 エニシ』攻撃力2200

   魔法・罠

    無し

 

みどり

LP:300

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「く……!」

 正真正銘、フィールドはがら空きになった。

 彼女のモンスターは、攻撃力2200の上級モンスター。

「私も、やるしかないわね……」

 彼女も自分の守備力2400のモンスターを即座に倒せるモンスターを引き当てたのだ。次は、私の番だ。

「ドロー!」

 

みどり

手札:0→1

 

「……」

 ドローしたカードを見て、口元が吊り上がる。

(『堕天使アムドゥシアス』……)

 攻撃力1800。エニシには届かない。

 手札誘発の効果はあるが、他に堕天使のカードが無いと効果は使えない。

 何より……

「レベルは6。召喚することはできない……ターンエンド」

 

 

みどり

LP:300

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

あずさ

LP:1800

手札:0枚

場 :モンスター

   『紫炎の老中 エニシ』攻撃力2200

   魔法・罠

    無し

 

 

 みどりのデッキは、大型の天使族を並べることを目的としたデッキ。

 パターンにはまれば強力だし、今までもそれで一気に勝負を決めることができた。

 だが当然、上級モンスターばかり入っているのだから、事故率は高くなる。そのせいで敗けたことも一度や二度じゃない。

 それが今、また降りかかった。

(……違う。私の不運だけじゃない。幸運も、彼女に味方した、ということね……)

 

「わたしのターン!」

 

あずさ

手札:0→1

 

「『六武衆-イロウ』を召喚!」

 

『六武衆-イロウ』

 レベル4

 攻撃力1700

 

「バトル! イロウでダイレクトアタック!」

「……お見事」

 

みどり

手札:300→0

 

 

「はい」

 決闘を終えて、メダルを手渡すみどりの顔は、敗けた悔しさ以上の、満足感に満ち足りていた。

「あなた、カードに愛されてるわね」

「そう、ですか?」

「ええ……見ていたら分かるわ。あなたはそのデッキを愛して、信じてる。そして、そのデッキも、あなたのことを愛してる」

「えへへへ……」

 あずさははにかむだけだが、何の根拠も無く言っているわけじゃない。

 実際にプロとして、日常的にカードに触れ、決闘を続けていれば、相手の決闘者だけじゃない。カードの気持ちも見えてくる。

 そんなもの迷信だと言う人間も大勢いるが、少なくともみどりはそう思わない。

 そんなみどりから見て、あずさはデッキに、カード達に愛されている。そう見えた。

 

「……そう言えば、みどりさんが参加してるってことは……あの人も、参加してるんですか?」

 と、あずさが突然、別の話題を切り出した。

「あの人……ああ、あの子ね。なに? ひょっとして、私よりも彼女のファンなの?」

「そ、それは、その……」

 分かり易く視線を逸らし、体をもじもじとさせている。

 決闘中にも思ったが、何とも可愛らしい娘だ。

「どうかしら……参加してる可能性はあるけど、一ヵ月前くらいから急にプロの活動を休むなんて言い出して、その後は何の音沙汰も無いから。分からないわね」

「そう、ですか……」

 あまり表情は変えないようにしているが、それでも声色がガッカリしているのはよく分かる。

 

 みどり自身、ジェネックスに参加したのは招待されたからだが、同時に、彼女も参加しているんじゃないか……そんなふうに思ったのも理由の一つだった。

 同じ時期にプロになり、使っているデッキが似ていることもあって、お互い有名になり出したころには、ファンからはライバル同士と言われるようになって、実際本人達も意識していた。

 もっとも、それで仲が悪かったということも無く、むしろ仕事の時以外は、お互い相談に乗ったり、一緒に食事へ行ったりと仲良くしていた。

 だから、一ヵ月前に突然仕事を休むと言い出した時は驚いたし、以来何の連絡もつかないことには心配していた。

 自分と違ってのんびりしていて、生活でもズボラな部分はあるけど、何だかんだしっかりしている。何より、彼女も決闘が大好きで、何より、この娘と同じで、カード達に愛されている。

 そんな強い決闘者の彼女も、ひょっとしたら、この大会に出てくるんじゃないか……

 

 そう思って決闘しつつ探していたものの、見つけ出す前に敗退してしまった。

 未練は残ったが、その相手が、学生でもこれだけ強い娘だというなら、文句はない。

「じゃあ、頑張ってね」

 最後にそれだけ言って、あずさに背を向けた。

(あ~あ……初日で敗退なんて。昨日、復帰戦の初日で敗けて帰ってきた、紅葉のこと笑えないわね……)

 

 

「ふぅ~……危なかった。けど、何とか勝てた」

 シンクロが無いと戦えない。そんな得体の知れない奴らと戦うためにデッキに入れた、『聖なるバリア -ミラーフォース-』が無かったらどうなっていたことか……

 そう安堵しつつも、終わった決闘よりも、次の決闘のことを考え歩き出す。

「さぁ~て、今度の相手は……」

 

「ねえ、そこの君?」

 

 と、歩いている途中で、また女性の声が聞こえてきた。

 また、聞き覚えのある声だった。それも、直前に別れた声と一緒に、何度も聞いてきた声。

 そんな声に、振り返ってみると……

 

「あぁー!! あなたは!!」

 

 と、後で後悔したものの、それで止められないくらいに絶叫してしまった。

 そんな声に驚愕している彼女にも構わず、あずさは大興奮しながら迫っていった。

「サイン下さい!! 平家あずささんへって、書いてください!!」

「サイン……ていうか、私のこと、知ってるの?」

「知ってますとも!! 大ファンです!! わたし、あなたに憧れて決闘始めたんです!!」

 何度もテレビやビデオで見てきて、その姿を目に焼き付けてきたあずさが、間違うはずがない。

 輝く長い銀髪。実年齢を感じさせない、若く幼い顔つき。そんな顔と髪を際立たせる、褐色の肌。

 ついさっき決闘した、響みどりプロのライバルと言われる天使族使い……

 

「プロ決闘者の、『イシュ・キック・ゴドウィン』さん!!」

 

「あはは……憧れてくれて嬉しいわ」

 迫ってくるあずさに対して、丁寧に返事をしつつ、書き慣れたサインを色紙に書いてあげた。

 それを手渡すと、あずさは余計に興奮した。

「ありがとうございます! 家宝にします!」

「大げさな……あなた、名前は平家あずさっていうの?」

「はい!! 平家あずさです!!」

「そう……どう? これから私と決闘しない?」

「えぇええー!? 良いんですか!?」

「ええ……ただ、そろそろ落ち着いて、声ももう少し抑えましょうか」

「は……!! はい、ごめんなさい……」

 

(やだ……この子可愛い~////)

 キューン

 

 そんなこんなで、二人は向かい合った。

「よろしくお願いします。ゴドウィンさん」

「呼び辛いでしょう? イシュでいいわ。私もあなたのこと、あずさちゃんって呼ぶから」

「はい!」

 会話しながら、あずさは未だ、夢見心地でいた。

(信じられない……わたし本当に、これからイシュさんと闘えるんだ……)

 小学生のころから憧れてきた。決闘アカデミアへ入った切っ掛けは、学校ぐるみの虐めと、それへの報復による孤立が原因だが、それ以前の、決闘を始めようと思った切っ掛けが、彼女の雄姿を見てきたからだった。

(そんな人と決闘できるなんて、すっごい嬉しいです……本当に、嬉しいです……)

 

(なのに……なんで、ですか?)

 本当に嬉しいと、心から思っているからこそ、信じたくなかった。

(そんなにすごい決闘者のあなたが……どうして、ですか?)

 興奮し、我を忘れても、それでも……

 彼女が左耳に下げている、石ころの着いたイヤリングだけは、見逃すことができなかった。見逃すわけには、いかなかった。

 

 かつての憧れが、今は、愛しい彼の敵……

 そんな現実を信じたくない、そんなあずさの思いとは裏腹に、逃げることは許されない、決闘が始まる……

 

『決闘!』

 

 

 

 




お疲れ~。

自慢の弟がいて、デプレをデートに誘うような性格で、使ってたのが「天使っぽい」の……

ねぇ? モロバレでしょう?


にしても、堕天使が強すぎて、勝つ方法が底知れぬ絶望の淵へ沈んでもらう以外思いつかなんだ……
まあとりあえず、『堕天使マリー』他、下級を除いた堕天使は、名前だけも含めて全部出せたことだし、よかっ……




堕天使ディザイア(´・ω・`)




……

そんなこんなで、次も書いていきますわ。

ちょっと待ってて。






堕天使ディザイア(´;ω;`)






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