遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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前回の続き~。

最初の方、若干注意ね。

今回の決闘は、プレイよりも会話っつーか、回想がメインになってるから、そこんとこよろしく~。

……え? いつものこと?

良いじゃん。行ってらっしゃい。



    すさまじく戦う者達

視点:あずさ

 

 誰にでもあると思う。

 思い出したくもない……なのに、忘れたくても忘れられない、そんな記憶……

 

 

「……ぐすっ……うぅ……」

 

 小学校四年生。九歳か十歳。小さい子供が、善悪とか、物の分別とか、そういうのを身に着け始めて、幼稚だったのが、段々理性的になってく……そんな年代。

 この頃にはもう、お洒落を覚えたり、大人びた態度になったりって子も結構いた。

 わたしの胸が他の娘より大っきくなってきたのも、このころからだったり……

 

 けど、いくら成長するっていったって、全員が全員、正しい成長だとは限らない。

 むしろ中には、間違った方向……人として、絶対にしちゃいけない方向に成長する子っていうのも出てくる。成長しきってない周りの子は、そんなふうに成長しちゃった子を真似て、それが正しくないことだって気付かない子も出てくる。

 将来、不良になったり、犯罪者になって捕まっちゃうような子達がそれだ。

 

 わたしの周りにいたのは、そんな子達だった。子供だけじゃない、先生たちも……

「うぅ……うう……」

 この頃が一番辛い時期だった。

 わたしの方から何かした覚えなんかない。ただ、いつも通り過ごしてて、時々いじられても、笑って許してた。一緒に話す友達だっていた。

 それが気付いた時には、友達は一人もいなくなって、周りからは、いじられる、なんて範疇を超えてた。

 

 みんなは多分、今まで通りにいじる感覚で、イジメてきたんだと思う。

 話しかけても無視したり、廊下や教室ですれ違う度、本気で殴ってきたり、壁に頭を叩きつけられたり、体育の時間で走ってたら思い切り背中を押されて転ばされたり。

 給食を食べようとした途端、美味しいおかずは全部取り上げて、残ったおかずを全部混ぜた上に牛乳を掛けて台無しにして、それを無理やり押さえつけて食べさせたり。

 教科書を隠したり。筆箱が無くなったり。やってきた宿題を取り上げてやってないことにさせられたり。

 トイレに入ってたら上から水を掛けられたり。掃除の時間にゴミ箱やバケツの水に顔を押しつけられたり。

 わたしだけ電話連絡網が回って来なくて、台風が直撃してる中、誰もいない学校に登校したり。

 昼休みに引っ張り出されて、いくらやめてって頼んでも殴る蹴るをやめなかったり。

 学校に来たら上履きが無くなってたり。

 逆に帰ろうと思ったら靴が無くなってたり……

 

「うぅ……ぐすっ、うぅ……」

 いくら靴を探しても見つけられなくて、素足で帰ることになったのも、何度目になるか分からない。

 そんなわたしを見かけた誰かが心配して、学校に連絡したこともあったらしい。

 それをわたしが知ったのは、担任の先生が教えてくれたからだ。

 

「今すぐ余分の靴を持ってこい! アンタが素足で下校なんかするせいで、近隣住民から電話が来たって、アタシが校長に怒られたじゃない!! なんでアタシがアンタなんかのために叱られなきゃなんないのよ!? どこまでキチガイなのよアンタだけは!?」

 小学生にはよく理解できない……理解したくもないお説教を、顔も目も真っ赤にして、わたしの髪の毛を引っ張りながら、長々と続けた。

 理解できたのは、靴が無くなる原因を、解決してくれる気なんかないこと。それに、校長先生も……学校も全員、わたしのことを見捨ててること。それだけだった。

「なにキチガイのくせに泣いてんだよ!? 泣けば許されるって思ってんの!? 泣きたいのはこっちの方よ!! 毎日毎日、アタシの仕事の邪魔ばっかりしやがって!! アタシの邪魔以外なにもできないなら、今すぐ自殺しろよ!! キチガイ女! キチガイ女!! キチガイ女ああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

「うぅ……う……」

 

 ガチャ……

 

 この頃で唯一よかったことがあったとしたら、それは、わたしが家に帰った時は、大抵家には誰もいなかったことだ。

 両親は、お仕事もあるけど、よく二人っきりのラブラブ旅行に出かけて、家を空けることが多かった。

 当時、高校生だったお姉ちゃんは、全寮制の女子高にかよって、長期休みの時以外は、ほとんど家にいなかった。

 だから、帰りに靴屋さんで、何足目になるか分からない靴や、捨てられた筆記用具の代わりを買ってきたとしても怪しまれなかったし、水浸しのボロボロに汚れた服は、すぐに洗濯に出せた。

 電話くらいはしてくるけど、必死に明るい声出して、普通に話してたし、この頃には家事もそれなりにこなせてたから、一人にしても大丈夫って、信頼されてた。

 もしかしたら、みんなはそのこと知ってたから、わたしをイジメてたのかもしれない。けどおかげで、一番辛くて、生傷だらけで泣いてばかりいた時期の間、わたしのことを良くしてくれる家族に、余計な心配を掛けずに済んだ。

 

「……」

 いくら大好きな家族に心配掛けずに済んでるからって、それは何の解決にもならない。

 家に帰って、服を洗濯に出して、顔や腕以外の体中に着けられた生傷の痛みを我慢しながらお風呂に入って。その後の楽しみは、プロの決闘のビデオを見ることだった。

 特に、一番のお気に入りの決闘のビデオは、ビデオテープが擦り切れちゃうまで繰り返し見てた。

 

『私は二体の堕天使を生贄に……現れよ『堕天使ディザイア』!!』

 闇属性、天使族のデッキで闘うプロ決闘者、響みどり。

 

『『神の居城-ヴァルハラ』の効果で……現れなさい『天空騎士(エンジェルナイト)パーシアス』!』

 光属性、天使族のデッキで闘うプロ決闘者、イシュ・キック・ゴドウィン。

 

 同じ天使族使いで、美人で格好いいライバル同士の女性決闘者。

 男子たちは、格好良いHERO使いの響紅葉が好きだったけど、女子たちの間で一番人気だったのが、この二人だった。

 みどりさんとイシュさん。どっち派かっていう話題を教室で聞かない日は無いくらいだったし、この二人の話をする時は、いつも盛り上がってた。

 わたしも、そんな会話に参加できた例しはなかったけど、他人が話してるのを聞いてても楽しいくらい、憧れてた。

 

 わたしの、決闘者としての憧れ……イシュ・キック・ゴドウィンさん。

 みどりさんが召喚する堕天使達に比べれば、派手なモンスターは少ない。けど、派手でパワフルなパワータイプのみどりさんに対して、テクニカルで多彩なコンボで手札を増やしながら、自由自在に光の天使達を並べる。

 まるで、手足みたいにカードを操るそんな姿が、わたしの目には、すごく格好良く映った。

 ライバル同士だけじゃない。イシュさんの決闘を見てる時だけは、嫌なことを忘れられた。

 テレビで、イシュさんの決闘が流れるって聞いた時は、必ずビデオに標準録画した。

 勿体ないから、せめて3倍録画にしなさいって言われたこともあったけど、なんだかんだ許してもらえた。

 学校でどれだけひどい目に遭って、明日また同じ目に遭うって分かってても、それでも、イシュさんの決闘を観た後は、また、明日もがんばろうって気になれた。

 一人の味方もいない中でも、それでも、イシュさんが頑張ってる姿を思い出したら、何とか耐えることができた。

 

 この頃から半年後くらい、小学五年生に上がる少し前に、仕返しを実行した日まで、くじけそうになってたわたしの心を支えてくれたもの。それが、イシュさんだった……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 クラスメイトのイジメっ子達。担任の先生。別のクラスで、自分は大丈夫だって高を括ってたイジメっ子達。せっかく学校ぐるみでイジメも仕返しも隠してくれてたのに、イジメを止めるよりずっと楽な正義感のために、わたしのこと嗅ぎまわってた別のクラスの先生。

 全員、病院送りにしてやった。

 校長先生にも同じことしてやろうと思った。けど、良い歳して、泣きながら土下座して謝ってきたから、脚の一本と、次やったら、今度は娘さん夫婦とお孫さん全員の両手足もらうからね? そんな冗談だけで許してあげた。

 

 それだけのことして、ようやく学校生活は静かになった。

 代わりに、何だかんだ、事情を知ってる生徒達には怖がられた。

 おまけに、隠ぺいしてくれてたはずが、どこから漏れたのやら(……まあ、今思えば、都合よく隠し通すには無理あるくらい、派手に暴れちゃったんだけど……)ご近所にもバレた。当然、家族にも。

 小学校も、わたしが暴れたのをキッカケに、色んな悪いことしてたのがバレたらしくて、わたしが卒業してすぐ廃校になった。

 

 家族に全部バレた後は、怒られるって思った。追い出されるんじゃないかとも思った。

 けど、お父さんもお母さんも、怒るどころか、一人ぼっちにしてごめんねって、謝ってきた。

 お姉ちゃんは、気付いてあげられなくてごめんねって、泣きながら、生傷だらけの体を優しく抱きしめてくれた。

 

 周りからは怖がられて、学校も無くなった。家族も結局悲しませて、迷惑を掛けた。そんな実家にもいづらくなって、アカデミアに逃げることになった。

 色々なことがあったけど、それでも、一つだけ言えること。

 それは、わたしがしたこと自体には、未だになんの後悔も、罪悪感さえ感じないってことだ。

 

 あの子達と同じだ。

 動かなくなるまでボコボコにした後、ちょっとは反省したのかって、顔を見てみた。けど全員、男子も女子も、先生も、退学していったホワイト寮たちと同じ顔してた。

 後悔も、罪悪感も、反省も無い。

 顔に浮かべてたのは……

 

 自分が、何でこんな目に遭ってるんだ……?

 自分が、一体何をしたんだ……?

 自分は、何も悪いことなんかしてないのに……

 

 そんな、何も知らない、分からないっていう、疑問だけだった。

 わたしが手を出さなかった子達だって、反省して、見て見ぬフリしてきてごめんなさいって、後で全員、怖がりながらだけど、謝りにきてくれたっていうのに。

 わたしが病院送りにした全員、ごめんなさいの一言も無しにアッサリ転校するか、引きこもるか退職するかして、わたしが卒業するまで、二度と学校には来なかった。

 

 その子達と同じ。わたしはちっとも、悪かっただなんて思わない。

 わたしをイジメてきた全員が全員、悪いなんてちっとも思わずに、わたしをイジメて楽しく遊んでた。殺人の一歩手前、どころか完全に殺人未遂なことをされたことだってある。

 仕返しがもう少し遅かったら、家まで押しかて、家の中までめちゃくちゃにされてたかもしれない。それか本当に、遊びで殺されてたかも……

 わたしは、それから身を守っただけだもん。誰にも文句を言われる筋合いなんかない。

 やり方が間違ってたとか、結局暴力はよくないって、理屈は分かるしどうとでも言える。

 理屈や正論が通じない相手だった。だから、間違った手段以外に、正しい方法が残ってなかったんだから。

 

 そんな、間違った手段に頼る覚悟を持つこと、そのための力を蓄えるために、イジメも、辛くて苦しいトレーニングも、ひたすらガマンすること。

 それができたのも、今、目の前にいるプロ決闘者のおかげだ。

 どんなにピンチになっても、絶対に諦めずに目の前のフィールドを見て、最後には大逆転。

 比べちゃダメなんだろうけど、そんな格好いい姿に支えられたから、わたしも、最後に大逆転することができた。

 

 そんなふうに、わたしの心を支えてくれた人。

 

 わたしの、一番の憧れ。

 

 その人と今、わたしは……

 

 

 

視点:外

 

「くぅ……っ」

 

「ターンエンド」

 

 

あずさ

LP:3200

手札:3枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   『六武衆-ザンジ』攻撃力1800

   『六武衆-イロウ』攻撃力1700

   『六武衆-ニサシ』攻撃力1400

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:3

    セット

    セット

 

イシュ

LP:1400

手札:4枚

場 :モンスター

   『光神テテュス』攻撃力2400+400

   『天空騎士パーシアス』攻撃力1900+400

   『勝利の導き手フレイヤ』守備力100+400

   魔法・罠

    永続魔法『コート・オブ・ジャスティス』

    フィールド魔法『天空の聖域』

 

 

 冷静な表情で、相手を油断なく、だが余裕を持って睨んでいる、あずさ。

 焦りの表情で、相手の実力から、苦悶と焦りをにじませている、イシュ。

(嘗めてたつもりも、油断してたつもりもない……私のファンなうえに、可愛いとは思ったけど、ここまで圧倒されるなんて……)

 今更ながら、目の前の少女の可愛らしさにキュンとした時点で、彼女を見くびっていたところはあったのかもしれない。実際、決闘が始まる直前までははしゃいでくれていたし、決闘中も、静かにしていながら大喜びしてる様子もうかがえた。

 だがいざターンが進めば、自分以上に圧倒的な展開力とモンスター効果、永続魔法とのコンボ、更には速攻魔法や罠カードによる絶対的な防御。

 気が付けば、無傷の彼女とのライフポイントの差は歴然になった。テテュスやパーシアスのおかげで手札に余裕はあるし、攻撃力だけならこっちが上だ。だがまだライフがゼロになっていないのは、フィールド魔法『天空の聖域』に守られているおかげだ。

(強い……本当に強い。なのに、どうしてかしら? 彼女が私のファンなのは本当だし、私の決闘に、心から喜んでくれてるのは伝わった。そのうえでこれだけ有利に立ててる。なのに……どうしてそこまで、哀しそうに決闘するの……?)

 

「……」

 あずさ自身、いくらジェネックスとは言え、小学生のころからの憧れと決闘できるだなんて思ってもみなかったから、最初出会った時は、心から興奮して、感動して、歓喜した。

 イシュのデッキのマスコット『勝利の導き手フレイヤ』が召喚されて、それを対象に発動した永続魔法『コート・オブ・ジャスティス』の効果で、イシュのデッキの切り込み隊長である『天空騎士パーシアス』や、潤滑油役の『光神テテュス』を呼び出す。

 幼いころからずっと見てきた流れには興奮して、彼女が何かする度に、叫びながら小躍りしたくなったくらいだ。

 それでも、しなかった……というより、できなかった。

 

「……」

 イシュが、左耳に着けたイヤリング。何の変哲もなく、飾り気もない、その辺に落ちていそうな石ころのカケラ。

 それが、ただのお洒落だっていうなら、あずさも心からこの決闘を楽しめた。

 だが、そんな淡い期待も、すぐに否定された。

 

「私のターン!」

 

イシュ

手札:4→5

 

「……私がドローしたのは、天使族モンスター『コーリング・ノヴァ』。『光神テテュス』の効果でこのカードを見せて、更に一枚ドロー。天使族『緑光の宣告者(グリーン・デクレアラー)』、更に一枚ドロー……ここまでね」

 

イシュ

手札:5→7

 

「……魔法カード発動『死者蘇生』! 墓地に眠るモンスター一体を特殊召喚するわ。私が呼び出すのは……『The splendid VENUS(ザ・スプレンディッド・ヴィーナス)』!」

 天空にそびえ立つ聖域の頭上に、宇宙が広がったと思った次の瞬間、地面の下から発した輝き。

 この世の全ての輝きを凝縮したような黄金の衣装。純白に広がる四枚の翼。

 妖しくも輝かしく、無機質ながらも神々しい。

 冷たい貌を浮かべ佇む、黄金色の大天使。

 

The splendid VENUS(ザ・スプレンディッド・ヴィーナス)

 レベル8

 攻撃力2800+400

 

「『勝利の導き手フレイヤ』の効果で、自分フィールドの全ての天使族モンスターの攻撃力と守備力は400アップするわ」

「……」

 昨日闘った、響紅葉が召喚したのと同じ、惑星(プラネット)の名を持つモンスター。

 そして、それが召喚されたと同時に、彼女のイヤリングから漏れ出た闇。

 これだけの証拠が並べられて、もう、あずさも自分自身をごまかすことはできない。

 あずさにとっては、下手をすれば昔のイジメ以上に、残酷で、理不尽で、ムゴイ現実……

 

 わたしが一番憧れた、最高のプロ決闘者が、私が一番大好きな、最愛の人を……

 梓くんを、狙ってる……

 

「『The splendid VENUS』が場にある限り、天使族以外の全てのモンスターの攻撃力は500ダウンする」

 

『六武衆の師範』

 攻撃力2100-500

『六武衆-ザンジ』

 攻撃力1800-500

『六武衆-イロウ』

 攻撃力1700-500

『六武衆-ニサシ』

 攻撃力1400-500

 

「更に、手札のこのカードは、自分フィールドの『天空騎士パーシアス』一体を生け贄に捧げることで、手札から特殊召喚できる。パーシアスを生贄に……光の世界へ降臨せよ! 『天空勇士(エンジェルブレイブ)ネオパーシアス』!」

 『天空騎士パーシアス』の身が、まばゆい光に包まれる。

 すると、白馬だった下半身は失われ、代わりにその身が、輝く白結晶へと変わった。

 身体の上下に、鎧に包まれた天使の輪が現れ、そこから新たな翼が伸びる。

 騎士から、更に勇ましく、神々しく生まれ変わった、正しく勇士の名が相応しい天使。

 

天空勇士(エンジェルブレイブ)ネオパーシアス』

 レベル7

 攻撃力2300+400

 

(……あれ? 『コート・オブ・ジャスティス』の効果を使っても呼び出せたはずなのに、どうしてわざわざパーシアスを生贄に?)

 自身の特殊召喚効果はあるが、それは召喚条件とは違う。蘇生制限もない。

 それを知っているあずさの顔を見つつ、イシュはただ微笑んだ。

 

『The splendid VENUS』

 攻撃力2800+400

『天空勇士ネオパーシアス』

 攻撃力2300+400

『光神テテュス』

 攻撃力2400+400

『勝利の導き手フレイヤ』

 守備力100+400

 

「バトルよ! 『天空勇士ネオパーシアス』で、『六武衆-ザンジ』に攻撃!」

 ネオパーシアスが、右手に握る武器を構え翔び上がった。

 遥か天空、世界を照らす太陽の中から、聖なる領域に足を踏み入れた愚かな武士を裁くため、一気にその身を降下させた……

「罠発動『聖なるバリア -ミラーフォース-』!」

 そんな天使の一撃をも否定するために、あずさは罠を発動させる。

 だが、それを許さないのはイシュも同じ。

「手札の『紫光の宣告者(バイオレット・デクレアラー)』の効果! 手札のこのカードと天使族モンスター一体を墓地へ送って、相手の罠カードの発動を無効にして破壊するわ!」

 

イシュ

手札:5→3

 

 イシュの頭上に、『デュナミス・ヴァルキリア』が姿を現した。と思ったら、今度はその手の中に、紫色の光を発する、羽の生えた球体が現れる。

 二人がより強い光を発したと同時に、あずさが発動した罠は焼き尽くされる……

 はずだったろう。

「カウンター罠『六尺瓊勾玉』! わたしの場に六武衆がいる時、相手が発動した、カードを破壊する魔法、罠、モンスター効果の発動を無効にして、破壊します!」

「な……!」

 宣言したことで、聖なるバリアの前に勾玉が現れた。それが新たな輝きを発した時、紫光の球体を抱く戦いの天使は、苦しみもがきながら、消滅していった。

「これでミラーフォースの効果は適用されます!」

 その宣言の通り、天空勇士の攻撃を受け止めていたバリアは力を取り戻した。結果、天空勇士の攻撃を跳ね返し、そのエネルギーは、イシュの天使達を、守備表示の一人を残して全滅させた。

 

「……メインフェイズ2」

 攻撃モンスターは全滅し、バトルを終了させる。だが、イシュの表情にはまだ余裕がある。

「さっき、ネオパーシアスを呼び出す時、『コート・オブ・ジャスティス』の効果を使わなかったこと、不思議がってたでしょう?」

「……」

「パーシアスを生贄にしたのは、ネオパーシアス以外に呼び出したいモンスターがいたからよ」

 言いながら、手札のカードを取った。

「『コート・オブ・ジャスティス』の効果! 私の場にレベル1の天使族『勝利の導き手フレイヤ』が存在することで、一ターンに一度、手札の天使族モンスター一体を特殊召喚する。手札より現れなさい……『アテナ』!」

 天空に輝く光輪が輝き、そこから新たに現れる。

 天使の輪に光を与える条件となる、小さき天使、フレイヤ。彼女と同じく、人間らしい見た目をしていた。

 長く伸びた美しい銀髪。天になびく純白の聖衣。そんな女神の両手には、一見場違いにも見える、だが彼女にふさわしい、巨大な盾と、巨大な武器が握られていた。

 立ちはだかる敵をせん滅せんと、同時に、仲間たちを守護せんと、美しくも強い決意を浮かべた、戦女神の名を持つ女戦士。

 

『アテナ』

 レベル7

 攻撃力2600+400

 

「『アテナ』……そんなモンスターが手札に……!」

「伏せカードが場にある以上、ただ並べて無策で突っ込む勇気はなかったからね。続けて、『コーリング・ノヴァ』を通常召喚」

 

『コーリング・ノヴァ』

 レベル4

 攻撃力1400+400

 

「『アテナ』のモンスター効果! このカードが既に場にある状態で、このカード以外の天使族モンスターの召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時、相手ライフに600ポイントのダメージを与える」

 アテナが右手の巨大な武器を掲げた。すると、その中心に光る、紅い宝石が更なる輝きを発した。その光が、あずさの身を貫いた。

 

あずさ

LP:3200→2600

 

「『アテナ』の更なる効果! 自分フィールドの『アテナ』を除く天使族一体を生け贄に捧げることで、墓地に眠る『アテナ』以外の天使族モンスターを特殊召喚できる。『コーリング・ノヴァ』を生贄に、甦りなさい『The splendid VENUS』!」

 

『The splendid VENUS』

 レベル8

 攻撃力2800+400

 

「『アテナ』の効果で、更に600ポイントのダメージよ!」

「うぅ……!」

 

あずさ

LP:2600→2000

 

「……わたしの伏せカードを警戒して、永続魔法の効果とモンスターを温存して、すぐに態勢を整えながらライフまで削るなんて……やっぱ、イシュさんはすごい」

「……ありがと」

 褒めてくれている。尊敬もしてくれている。それはよく分かる。

 よく分かるのに、そんな声は、変わらず哀し気なまま……

「私との決闘、楽しくない?」

「……」

 そんな顔が気になったから、決闘中ながら、つい聞いてしまった。

「……イシュさんに会えて、その上決闘できること、すごく嬉しいです」

 そう、顔は変わらないまま答えてくれた。そして、すぐにまた……

「……でも、今のイシュさんとの決闘は、楽しくないです」

「……そっか」

 

 ああ、そっか……

 自分の場の『The splendid VENUS』を見ながら、ようやくイシュは理解した。

 この娘は、私がここに来た理由と、その意味を、分かっているんだ。

 考えてみたら当然だ。自分より先にこの島に来た二人。どっちと闘ったかは知らないけど、そのどっちかと闘って、勝った。

 その二人が使っていたのと同じ、惑星(プラネット)のカード。

 いくら種類が違うと言っても、これだけ特徴のあるモンスターを使っているんだ。勘の良い決闘者なら、すぐにピンとくるに決まってる。私達がどういう集団かも、具体性はともかく、把握しちゃったんだろう。

 せっかくファンでいてくれたのに。わたしはこの娘に、楽しくない決闘をさせちゃったんだな……

 

「……でも、楽しいだけが、決闘とは限らない。それは、分かってるよね?」

「……はい」

「なら、続けましょう。私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 

イシュ

LP:1400

手札:2枚

場 :モンスター

   『The splendid VENUS』攻撃力2800+400

   『アテナ』攻撃力2600+400

   『勝利の導き手フレイヤ』守備力100+400

   魔法・罠

    永続魔法『コート・オブ・ジャスティス』

    フィールド魔法『天空の聖域』

    セット

 

あずさ

LP:2000

手札:3枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100-500

   『六武衆-ザンジ』攻撃力1800-500

   『六武衆-イロウ』攻撃力1700-500

   『六武衆-ニサシ』攻撃力1400-500

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:3

 

 

(もっとも、偉そうなこと言っても、私の方がピンチなのは変わらないのよね……)

 

「わたしのターン!」

 

あずさ

手札:3→4

 

「魔法カード『六部式三段衝』! わたしの場に『六武衆』が三体以上存在する時、三つの効果から一つを選択して発動できる。わたしは、相手の場の表側表示のモンスター、全部を破壊する効果を選択します!」

「くぅ……!」

 あずさの場に並ぶ四体の六武衆、うち、ザンジ、イロウ、ニサシの三人が刃を重ねた。

 そこからの光が、イシュの前に並ぶ天使達に向かって放たれた。

「手札より、『緑光の宣告者(グリーン・デクレアラー)』の効果! このカードと天使族モンスター一枚を捨てて、魔法カードの発動を無効にして破壊!」

 

イシュ

手札:2→0

 

 前のターンと同じように、今度は『シャインエンジェル』が緑の球体を抱きしめ、現れる。

 その緑色の光は、今度は何物の邪魔もなく、魔法カードを消滅させた。

「そう来るって分かってました……魔法カード『地砕き』! 相手の場の、守備力が一番高いモンスター一体を破壊します。破壊するのは、守備力が2800に上がってる『The splendid VENUS』!」

「くぅ、単体除去も握ってたんだ……」

 金星の天使の足もとが、大きく砕ける。その上に佇んでいた金星は、そのまま大地の奥へと飲み込まれた。

 

『六武衆の師範』

 攻撃力2100

『六武衆-ザンジ』

 攻撃力1800

『六武衆-イロウ』

 攻撃力1700

『六武衆-ニサシ』

 攻撃力1400

 

「攻撃力が戻ったか……けど、残った『アテナ』の攻撃力は、フレイヤの効果と合わせて3000になってる。そしてフレイヤは、場にフレイヤ以外の天使族が存在するかぎり、攻撃対象には選択できないわ」

「関係ないです。速攻魔法『月の書』! フィールドのモンスター一体、『アテナ』を裏守備表示に変えます」

「うそぉん……!」

 

 セット(アテナ『守備力800』)

 

「これで守備力は、フレイヤの効果があっても1200止まりです」

「うぅ……」

「バトルです! 『六武衆-イロウ』で、『アテナ』を攻撃!」

 イロウが走り、裏側に変わった天使へと走る。

「罠発動『ドレインシールド』! 攻撃を無効にして、その攻撃力分のライフを回復するわ!」

 そのカードにより、イロウの刀は、見えない壁に阻まれる。そんな壁に集まったエネルギーが、イシュの身を包んだ。

 

イシュ

LP:1400→3100

 

「ああっ! 苦労して削ったライフが……!」

「ふふふ……」

「でも、まだモンスターは残ってます。『六武衆-ニサシ』で、『アテナ』を攻撃!」

「墓地の『超電磁タートル』をゲームから除外! このターンのバトルを終了するわ」

 見えない壁の次は、強力な磁力が刀を止める。そしてそれは、ニサシ以外の全ての動きを縛り付けた。

「そんなカードが墓地に……メインフェイズ、『紫炎の道場』の効果! このカードを墓地へ送って、このカードに乗った武士道カウンターの数と同じレベルの六武衆を特殊召喚します。デッキから、レベル3の『六武衆の露払い』を特殊召喚!」

 

『六武衆の露払い』

 レベル3

 攻撃力1600

 

『六部の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「露払いの効果! 自分フィールドの六武衆一体を生贄に捧げるごとに、フィールド上のモンスター一体を破壊します。ニサシを生贄に、『アテナ』を破壊!」

 ニサシが姿を消すと同時に、露払いが走る。その小太刀が、『アテナ』の身を貫いた。

「もう一度! 露払い自身を生贄に、残ったフレイヤを破壊です!」

 今度は他の仲間を消すことなく、露払い自身が直々に走り出した。

「墓地の罠カード『スキル・プリズナー』を除外して、効果発動!」

「墓地から罠カード!?」

「自分フィールドのカード、『勝利の導き手フレイヤ』を選択して発動! このターン、このカードを対象に発動したモンスター効果を無効にする!」

 墓地からの光が、一人残ったフレイヤの身を包む。それに守られたことで、フレイヤに小太刀が届くことなく、そのまま露払いは光となり、消えた。

「ふぅ……どうにか全滅は免れたわ。『地砕き』は対象に取らない効果だから、このカードじゃ守れないし」

「……」

「でも、バトルを封じられても、こちらのモンスターを全滅させる手を残しておくなんて。君も中々やるじゃない」

「……////」

 

 イシュに褒められたことは嬉しかった。

 だがそれ以上に、あずさは疑問を感じていた。

(変だ……あんなカードが墓地にあったなら、『アテナ』を守ることだってできたはずなのに。『コート・オブ・ジャスティス』のため? でも、手札はゼロだし、そもそもモンスターを引けるかどうかなんて確実じゃない。イシュさんが、そんなことに気付かないとも思えないし……)

 

「……『六部の門』の効果」

 考えても分からない。だから、まずは勝つために、やるべきことをやることにした。

「武士道カウンターを四つ取り除いて、デッキから、レベル4以下の六武衆一体を手札に加える。わたしはデッキから、『真六武衆-エニシ』を手札に加えます」

 

『六部の門』

 武士道カウンター:4→0

 

あずさ

手札:1→2

 

「カードをセット。ターンエンド」

 

 

あずさ

LP:2000

手札:1枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   『六武衆-ザンジ』攻撃力1800

   『六武衆-イロウ』攻撃力1700

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

    セット

 

イシュ

LP:3100

手札:0枚

場 :モンスター

   『勝利の導き手フレイヤ』守備力100+400

   魔法・罠

    永続魔法『コート・オブ・ジャスティス』

    フィールド魔法『天空の聖域』

 

 

(さてと……これで本当に手は無くなっちゃったわ)

 ライフは回復したものの、フィールドに残ったのは、レベル1、攻守500のフレイヤだけ。墓地に貯まっていたカードも使いつくした。

 このターンにどうにかしないとまずいものの、相手の場にはモンスターが三体に、伏せカードもある。彼女のことだ。こちらの動きを封じるか、迎撃してくるカードをちゃんと伏せていることだろう。

(彼女ほどの決闘者に敗れるなら、それはそれで、悔いはない。けど……)

 決闘者としては、ここで敗けても未練はない。だが、決闘者以前のことを考えると……

 

(……ここで諦めたりしたら、あの子達に笑われちゃうわね)

 まだ高校生の、二人の弟の顔を思い出しながら思った。

 二人とも、自分よりだいぶ年下のくせに、自分には全然できなかった勉強がよくできた。

 それだけ頭がよかったから、決闘しか取り柄の無い自分のことを、尊敬してはくれつつ、よくバカにしてくれた。

 決闘以外で、二人に敵うものなんかなにもない。背だってとっくに追い抜かれたし、頭が良いくせに、身体までマッチョになるまで鍛えてるもんで、昔は二人よりも強かった腕力でも敵わなくなった。

 そんな二人に、唯一格好いいところを見せられるのが、決闘だけなんだから。

 決闘に勝って、生意気で可愛いくて、おまけに優秀な、愛する自慢の弟たちに、姉の威厳を示さなくては。

(それに、ここで諦めたんじゃ、せっかくの私のファンにも失礼だしね)

 目の前に立つ、最高に強くて、最高に可愛い女の子を見ながら思う。

 ファンの前で、格好悪い姿を見せるわけにはいかない。プロとして、なにより、彼女ほどの決闘者に憧れられた身として、最高の姿を見せなくちゃ……

 

「いくわよ! 私のターン、ドロ……っ!?」

 笑顔でカードをドローしようとした瞬間、イシュは、それを感じた。

「……ど、ドロー!」

 

イシュ

手札:0→1

 

「……ま、魔法カード発動『壺の中の魔術書』! お互いに、カードを三枚ドローする」

「……」

 

あずさ

手札:1→4

 

(何だったの? 今の……私のデッキから何か、黒くて、不気味な何かが漏れて……)

 疑問に思いながらも、あずさがカードを引いたのを見て、プレイを再開した。

「カードを三枚、ドロー!」

 

イシュ

手札:0→3

 

「……っ!? こ、これって……!」

 

「……イシュさん?」

 その異変に、あずさも気付いた。

 昨日闘った、紅葉の時と同じ。金星を召喚したと同時に、イヤリングから闇が漏れていた。それでも紅葉と違って平然としていたから、彼女は大丈夫か、そう思った。

 なのに、新しくカードを引いた瞬間、闇が余計に強く、濃く出てきて、それは、イシュの身を、すっかり隠してしまえるほどの面積になった。

「なに? なんで、私のデッキに、こんなカード……私の場に、残ったのはフレイヤ? まさか……まさかっ、あ、ああ……っ」

 独り言を発しながら、彼女の様子が変化していく。

 白かったはずの目が、黒く変わり、代わりに黒かった瞳が白く変わる。

 美しく艶めく褐色の肌、その頬が、まるで、ウロコでも浮かぶように、ひび割れていく……

 

「あああああ……あああああああああああああああ!!」

 

 美しく、勇ましかった笑顔は消えて、代わりに、醜く絶叫しながら、手札のカードを取った。

 

「魔法カード『増殖』! 自分フィールドの攻撃力500以下のモンスターを増殖させる!」

 

『勝利の導き手フレイヤ』トークン

 レベル1

 守備力100+400

『勝利の導き手フレイヤ』トークン

 レベル1

 守備力100+400

 

「フレイヤが三体……!」

 三人に増えた天使の乙女が心配を向けるのも構わず、イシュは、残った手札のカードを手に取った。

「三体のフレイヤを生贄に捧げる!!」

「三体の生贄!?」

 消える直前、フレイヤは何かを叫んでいた。

 それはイシュの耳に届くことなく、フレイヤ達は姿を消し、光に包まれていたはずの『天空の聖域』に、真っ暗な闇が広がる。

 そんな闇に包まれた空間で、イシュは、カードをセットした。

 

「降臨せよ! 『邪神ドレッド・ルート』!!」

 

 

 

 




お疲れ~。

これが、童実野町における教育現場の実情である(現実とそう変わらん……)


にしても、実際にいたら現実でも分かれそうよね。みどり派とイシュ派……

そんじゃ、原作効果いこ~。



『増殖』
 自分フィールドに表側表示で存在する攻撃力500以下のモンスターを選択して発動する。
 選択したモンスターを増殖させる。


やっぱ、神と言ったら『増殖』だろ!(偏見)
数は、無数だったり十体だったり三体だったり、色々あるけどキリ良く三体ってことで。
『クリボートークン』と違って生贄にできるんだから、かなり強えーべな。
にしても、五体どころか無数に増えたクリボートークンでリンク召喚していったら、先行一ターンであっちゅう間にエクストラリンク完成するね。
自分で言っといて、想像したら何と恐ろしや……



さ~て、後半は一体どうなることか。
続きは次話ね。
それまで待ってて。

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