遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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いぇあ~。
決闘の後半だべさ~。

あと、いるのか知らんが、イシュのファンの方々は一応キャラ崩壊に注意してくれ。

んじゃ、行ってらっしゃい。



    これでもかと戦う者達

視点:イシュ

 

 突然、目の前が真っ暗になった。その時、最初に思い出した人がいた……

 

 

 どうしてそんなことしようと思ったのか、なぜかは思い出せない。

 ある日の仕事終わり、知らないいおじさんに声を掛けられて、それで気付いた時には、耳に変なイヤリングを着けて、どこだか分からないビルの中の、よく分からない集団の一人になってた。

 そんな集団で、報酬の代わりにやることは一つ。

 決闘アカデミア本校で開催される、ジェネックス決闘大会に参加して、標的と決闘すること。

 約束事は、決闘で必ず『プラネットシリーズ』のカードを使うこと。

 そんなわけで、ほとんど押しつけられる形で、私を誘ったおじさん『マッケンジー』と、おじさんにくっついてる双子『ゲッコー』と『ヤコー』が作ったっていう、『プラネットシリーズ』の一枚を渡された。

 

 まあ、元々、招待さえされれれば出たいって思ってた大会だし、その参加資格とメダルを用意してくれるっていうのは、ありがたい話ではあった。

 もらったカードも、私のデッキと同じ、天使族で、普通に強くて便利なカード。正直、見た目と合わせて、結構気に入った。

 仕事は休む羽目になったとは言え、ビルから出ないこと以外で、特に束縛されることも無く、個室や娯楽も用意されてて、ビルの中で買い物もできた。前払いで結構な額の報酬も受け取ったし、待遇はむしろ良かったって言っていい。

 実際、中には喜んで集団になじんでる人もいた。

 バンデット・キースみたいな、表の世界じゃ生きていけなくなっちゃったチンピラや、みどりの弟の紅葉みたいに、重い病気を克服したは良いけど、闘病してる間にプロの世界から見捨てられてて、復帰したくてもできない。

 そんな、決闘の世界で、つまはじきにされちゃった人や、単純に強くなりたくてカード目当てに加わった子、報酬のための仕事と割り切ってた人もいたし、面白そうだから加わっただけっていううのもいた。共通点は、全員が結構な実力者だってことくらいだ。

 

 けど、私は違う。

 いくら良くしてくれてるっていっても、私は、私の意思でこんなところにいるんじゃない。キース達みたいに、決闘の世界でつまはじきにもされてないし、私自身、今の生活には満足してて、不満も何もない。むしろ、こんな所にいるせいで、プロの仕事まで休むなんて、冗談じゃない。お金は欲しくないとは言わないけど、報酬に目が眩むほど困ってるわけでもない。

 報酬と、もらったカード、『The splendid VENUS』をつ突き返して、早いとこ弟たちのもとへ帰りたかった。みどりにも、弟さんがおかしな集団にいるって教えてあげたかった。

 なのに、それができなかった。理由は、分からない。

 帰ろうと思ったら、頭の中が変な感じになって、どうしてか、ここにいなきゃ。そう思って、結局、抜け出したくても抜け出せない、そんな状態でいた。

 

 そんなことが続いて、自分が本当はどうしたいのかわけが分からなくなって、それで悩んだ時に、部屋の隅っこで見かけた人。

 ガラが悪い連中や、そんな連中とも何だかんだ仲良くしてる。そんな連中になじめる気がしなかった時、同じように、みんなになじもうとしなかったその男。

 話しかけてみたら、こっちを一度見た後は、不愛想に目を背けた。

 仮に街中でで出会ったなら、この時点で関わりたくない人って印象で終わってた。

 けど、こんなところにいるせいか、他の連中とは違って、なぜだか気になった。

 

 いたくもないそんな集団の中にいながら、暇つぶし程度に、その男、『デプレ・スコット』のことを観察してみた。

 無口で、不愛想で、無表情。誰とも話そうとしない中、唯一心を開いてるのは、どうやら友達らしい、派手な白髪の男、『リッチー・マーセッド』一人だけ。

 それで、遠巻きに話を聞いてみると、どうやら、リッチー・マーセッドと一緒にあの双子に誘われて、デプレは嫌がってたらしいけど、一人乗り気なリッチーのこと心配して、この集団に加わる気になったそうだ。

 

(へぇー……眉毛が無いわりに優しいんだ……)

 

 それを知った後は、今まで以上に話しかけてみることにした。

 最初のころは、特に何か言い返すことはなかったけど、さすがに嫌がってるのは分かった。毎日話しかけてるうちに、嫌がってるのが態度に出てたし、一度ははっきり拒否された時もある。それでも私は、話しかけるのをやめなかった。

 

 依存、てほどじゃないと思うけど、多分それに近い状態だったと思う。

 双子やマッケンジーはもちろん、他の誰も信用できない。

 信じられるのは、自分と同じように、この集団になじめない、なじみたくないって考えててて、本当の性格が優しい人。デプレだけだった。

 

 だから、拒否されたのも構わず声を掛け続けた。

 毎日繰り返すうち、ようやく、嫌々ながら話しをしてくれるようになった。

 簡単なことや、決闘やデッキのこと、身の上話なんかも話すようになった。

 私の父は炭鉱掘りで、一人、『クラッシュタウン』ていう町の炭鉱に行って、私たち家族のために必死に働いてくれたこと。おかげで、私はプロ決闘者になったけど、勉強が誰よりできた弟たちは有名な学校に入って、将来、科学者を目指して勉強することができてること、とか。

 デプレも、仲間のリッチー・マーセッドも、元々孤児だったのをある施設に拾われて、そこで賞金稼ぎの決闘者『カード・プロフェッサー』として育てられたこと。のちにその施設がオーナーと一緒に消えた後も、二人は決闘の裏の世界で闘い続けて、カード・プロフェッサーの二強にまで上り詰めたこと、とか。

 弟たちは可愛いけど生意気だとか。リッチーの俺様な性格に振り回されるのには疲れるとか。上の弟の左手には、生まれつき恐竜の頭みたいな痣があるとか。自分は滅多に笑わないけど、笑うとなぜかおかしな目で見られる、とか。

 そんなふうに会話していって、嫌々いるだけのこのこのこの集団の、このビルの中で、デプレと二人でいる時だけは、安心できて、楽しいと思えた。

 

 ジェネックスが始まっても、最初は様子見してたのが、三日目からようやく参戦することが許された。

 デプレがまだ行かないって言ったから、デッキの調整だとか、適当な理由をつけて、私も行かなかなかった。

 それで、ほとんどやる意味の無い調整を終えたところに、デプレがやってきた。

 

「アカデミアから連絡だ……」

「あ、デプレ!」

「キース……そして、響紅葉が敗れた」

 それを聞いて、驚いたのは本当だ。

 キースは、既に過去の人ではあるけど、この集団では間違いなく最強クラスの実力者だった。最強は誰か? 私に決まってるでしょう?

 紅葉も、よくみどりが自慢するに足る実力を備えてた。私自身が最後に決闘した、入院する前より遥かに強く、今じゃ、一度も勝てなかったみどりにも勝てるんじゃないかってくらいに。

 それで、その二人を倒したのが、標的じゃなくて別の決闘者。それも、アカデミアの学生の、女の子だって聞いて、なお更驚いた。

 

「まあ良いわ。ちょうどデッキもできあがったところだし。私も行こうっと」

「せいぜい返り討ちにされんようにな……」

「なに言ってんの。あんたも行くのよ」

「な……私も?」

 動揺するのも無視しして、手を握った。何気に、彼に触れたのはこれが初めてだった。

 それでちょっとドキドキしたけど、年上としとして、それを悟られないよう声を出した。

「今から行けば、明日の朝にはアカデミアに到着するだろうし」

「なぜ私も……?」

 行くなら、デプレと一緒がいい。二人で、このビルからさっさと抜け出しましょう?

 そんな本音を言うわけにもいかず、言えたのはた建前だだけけ。

「ターゲット以外に、その二人とも闘う必要があるっていうなら、こっちも二人いた方が確実でしょう。せっかくだから、競争しましょ」

「競争……勝てば褒美でももらえるのか?」

 そう聞かれたから、ここから出たら、真っ先にしたいと思ってたこと。それを言うことにした。

「そうね……じゃあ、君が私より先に、ターゲットの梓を倒したら、デートしてあげる」

「……」

 伝わるわけがない、遠回しにもほどがある、けど、精いっぱいの告白。

 案の定、デプレは無反応だった。せいせいぜい、いつも明るくて図々しいおばさ……おねえさんの、冗談か悪ふざけてい程度にしか感じてなかったでしょうね。

 それでも、告白したら恥ずかしくなって、これ以上顔を見られられないうちに前を向いた。

 

「ほーら! いつまでも気取ってないで、急いだ急いだ」

「おい……分かったから、手を引っ張るな……」

 

 デプレの手を引きながら、あれれだけ出たいと思ってた、ビルの外へ。

 その瞬間、ようやく自由になったったったっていう実感と、振り返れば、デプレがいるっていう事実が、私に、人生で一番の幸せを感じさせさささせせてくれた。

 

 このまま、デプレと二人で遠くまで逃げられれば……

 

 それができないのは分かってる。ビルからは出られててても、私達は、アイツらから逃げられたわけじゃわけじゃないんだから。

 

 それでも……

 私のそば、そばには、デプレがデプレいる。一緒に闘っててててくれてる。

 そうおもおも思ったら、たとえ、変な集団の一人とりとりとしても、闘おうって気になららられられれられた。

 契約はさせられさせさせられた以上、ししし仕事はちゃんちゃんとすすするるる。

 

 仕事をして、仕事をして、仕事を終わらせて、全部がおわわわ終わ終わった時。

 その時は今度こそ今度今度今度今度今度、遠回しじゃなくてて、ハッキリ言うんだ。

 変な集団のしゅうだんのしゅーだんの中でも、私を安ああああん心させてくれた人。私に勇ゆうゆう気をくれた人人人。

 

 いつも……これからも……ずっとずっと、そばにいたいって思わせてくれた人。

 そんな、デプレに感じた、私の確かな気持ちを……

 

 気持ち……

 

 きもち……

 

 きもちきもちきもちきもち……

 

 キ……モチ……キモチ……キモチキモチ……

 

 キキ……モモモモ………………チチチチチチチチチ…………………………

 

 

 ――さあ……邪神を召喚するがいい。そして、全てを私に捧げてもらうぞ。イシュ・キック・ゴドウィン……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「降臨せよ!! 『邪神ドレッド・ルート』!!」

 

 光の一切が消え、代わりに天空に広がる暗闇。

 そんな闇を押しのけるように、それは徐々に、輪郭を露わにしていく。

 あまりに巨大すぎるそれの全体像を、あずさはしばし、捉えることができなかった。

 しばしの後で、ようやく全体像をつかむことができた。

 

 骨と、緑と、黒い翼の怪物。

 一目見て、真っ先に思い浮かんだ言葉がそれだ。見た目だけなら、かなりデカいが、普通のモンスターと大差ない、ただの最上級モンスターで済んだし、そう思いたかった。

 だが、召喚されて、向かい合って、見ているだけで、違うと体が理解する。

 真上から体を押さえつけられるような……

 全身が突然縛り付けられたような……

 今までにないくらいの、恐怖と、圧迫感。

 惑星のカードなんか目じゃない、圧倒的なプレッシャー。

 それが、目の前の怪物からは感じられた。

「……」

 

「くくく……やはり、邪神のカードは恐ろしいだろうな」

 無言で顔を伏せた、あずさに対して、イシュの口が、そう語りかけた。

「神のカード『邪神ドレッド・ルート』。三幻神の対となる三邪神の一柱。そんなものを前にしては、恐怖におびえることなど当然だ。恥に思うことはない」

「……」

「どうするかね? 今ならサレンダーを許してやってもいい。望むなら、君も我々の仲間に迎え入れることを約束しよう。邪神のカードが欲しいというのなら、喜んで贈呈するよ。君ほどの決闘者なら、邪神を使いこなすことも、わけないだろうからな……」

 

「やかましい」

 

 意気揚々と、語りかけるイシュの声に、あずさは、どすの効いた声で返した。

 その時、イシュの向こう側にいる者は気付いた。

 邪神を見上げ、その後うつむいた、あずさの顔。

 その顔に、恐怖という感情は微塵も無い。

 あるのは、イシュに対する……イシュの向こう側にいる何者かへの、ただひたすらな怒りだけ。

「さんじゃしん? 神のカード? 知らないよ、あんたが何を呼び出したかなんか。こっちは、神様なんかよりよっぽど怖い王様と殺し合ったことだってあるんだから。今更、神のカードくらいでビビるわけないでしょうが」

 イシュをキュンとさせた、愛らしい仕草が一転。

 烈しく険しく、凄まじい形相で、相手を、憎悪に睨みつける。

「イシュさんは平気だって思ってた……昨日闘った、響紅葉とは違って、金星のカード出しても普通にしてたし。ただ決闘に勝てば、あんな闇から解放できるんじゃないかって……それを!」

 全てを委縮させ、押し潰してしまえそうなほどの巨神。

 だが、あずさから見れば、偉そうに人様を見下ろす、失礼なデカ物にしか見えない。

「こんなわけの分かんないカード持たせて、イシュさんの綺麗で可愛い顔も台無しにして、せっかくのイシュさんとの決闘も滅茶苦茶にしちゃって……」

 話していきながら、拳を震わせる身体から、陽炎が揺らめき、足もとから、体全体から、赤く、熱いものが広がっていき……

 

「絶対に許さない……アンタ達が、梓くんのこと狙ってるのも許さない。けど、今はそれ以上に、わたしの憧れのプロ決闘者をこんなにしたこと、絶対に許さない!」

 

「そのデカ物ごと、あんたは()がぶっ潰してやる!!」

 

 絶叫。そして爆発。あずさの身から弾けた炎が、辺りの木々に燃え移る。

 直後に振るわれた拳の拳圧が、炎が燃え広がるより早く、全て鎮火させた。

 

「……面白い。では、み……みみミミミセテもラらららうわわわ……」

 何者かから、イシュの口調に戻っていく。

 だが、呂律は回らず、吃音を交え、途切れ途切れでマトモな言葉になっていないのは、まるで壊れかけのRadioのよう。

 紅葉とは違う。彼女は、アレに抵抗してる。あずさはそう感じた。

 

『THE DEVILS DREAD-ROOT』

 レベル10

 攻撃力4000

 

「じゃ、ジャジャ、じゃ、ジャシン、『邪神ドレッド・ルート』ととトトが場にににある限りりりりりりり……どれ、ドレ、ドレッドどルート以外がいがいがいのモンスターの攻ぅ守しゅしゅしゅしゅははわ半んん分ぶんぶんぶんにににななななるるるるる……」

「攻守が半分……!?」

 途切れ途切れな言葉から、どうにか聞こえた効果を解読した直後。

 あずさの場に並ぶ三人の六武衆達。全員が脱力し、体勢を眩ませた。

 込めるべき力を込めることができず、無理やり脱力させられた姿は正に、力が半減した状態。

 

『六武衆の師範』

 攻撃力2100/2

『六武衆-ザンジ』

 攻撃力1800/2

『六武衆-イロウ』

 攻撃力1700/2

 

「ばばばバ、トル! ドレッドるるるルートォ……ろろろろ『六武衆の師範』に攻撃、ききききき……フィアーズ・ノックダウンッッッ!!」

 途切れ途切れな宣言にも、邪神は従った……いやむしろ、邪神がイシュの、動かしたくもない口を無理やり動かしているのかもしれない。

 宣言を受け、『天空の聖域』を覆い隠してしまえるほどの巨体から、これまた大きく、長い右腕を伸ばす。

 そのまま振り上げた右の拳を、脱力した師範へ向かって突き出した。

「罠発動『重力解除』! フィールドの全ての表側表示モンスターの表示形式を変更する。モンスターは全部攻撃表示、全部守備表示に変更!」

 変動した重力の影響で、出すべき力を出すことができなかった武将たちが、ようやくひざを着くことを許された。

 

『六武衆の師範』

 守備力800/2

『六武衆-ザンジ』

 守備力1300/2

『六武衆-イロウ』

 攻撃力1200/2

 

 だがそれは、望まぬ安息、無用の停滞に他ならない。

 戦いたいのに、戦うことができない。そんな恨めしさが、表情から拭いきれていない。

 

 そして、武将たちのひざを着かせた重力の影響は、当然相手の場にも現れる。現れているだろうが……

「むっ、だっ、むだ、無駄、無駄無駄ム、ダむむだ……かか、神に、そんな罠は、つ、つ、つ、通じ、ないないないナイナイ!!」

 重力の影響など無視しながら、巨大な拳は師範を跡形もなく打ち砕いた。

「ぐぅ……!!」

 守備表示であったおかげでダメージはない。しかし、その威力は武将一人の献身では死ぬことなく、後ろに立つあずさの身を叩く。

 

 圧倒的力。圧倒的プレッシャー。

 だが、あずさは思う。

(こんなの……梓くんに比べたら、ちっとも怖くない!)

 邪神さまなんかよりずっと怖い、凶王からの、圧倒的殺意、圧倒的憎悪に比べれば、こんな一撃、屁でもない。

 あずさの戦意は、恐怖の根源(ドレッド・ルート)を前にしたところで折れることはない。

 

「か! かカっ、カカかカ……カード、伏せて、た、た、たたたたたた、タタ、た……」

 壊れた人形のような動きで伏せカードを出して、今にも倒れそうなほどに揺れ、震わせる身体。

 そんな身体の、真上を向く顔、その口は、ターンエンドを宣言しようとしているのは分かる。

 分かるが……

「タ……タた、た……たす……たす……」

 彼女が宣言しようと……宣言どころか、ただ口から漏れているのは、エンド宣言とは違う。

「た……す……たす……たす、けて……」

 宣言ではなく、それは、懇願。

「たす……けて……デ、プレ……デプレ、たすけて……」

 震わせる口。見開かれた目。そんな目の淵に光るもの……

 

「イシュさん……」

 ある意味、梓以上に憧れ続けてきた、勇ましくて格好いい、憧れのプロ決闘者。

 それを、想像すらしたことのない、こんな姿にさせた存在を、改めて憎悪し、そして、改めて決意する。

「絶対に、助けますから……」

 

 

イシュ

LP:3100

手札:0枚

場 :モンスター

   『THE DEVILS DREAD-ROOT』攻撃力4000

   魔法・罠

    永続魔法『コート・オブ・ジャスティス』

    フィールド魔法『天空の聖域』

    セット

 

あずさ

LP:2000

手札:4枚

場 :モンスター

   『六武衆-ザンジ』守備力1300/2

   『六武衆-イロウ』守備力1200/2

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

 

 

「わたしのターン!」

 

あずさ

手札:4→5

 

「来た……魔法カード『戦士の生還』! 墓地に眠る戦士族モンスター一体を手札に加える。わたしは墓地から、『真六武衆-カゲキ』を手札に。そして召喚!」

 

『真六武衆-カゲキ』

 レベル3

 攻撃力200/2+1500

 

『六部の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「半分になるのは、元々の攻撃力か……カゲキが召喚に成功した時、手札の六武衆一体を特殊召喚できる。わたしが召喚するのは……チューナーモンスター『六武衆の影武者』!」

 

『六武衆の影武者』チューナー

 レベル2

 守備力1800/2

 

『六部の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「更に、『六部の門』の効果! 武士道カウンターを四つ取り除いて、デッキから、『真六武衆-キザン』を手札に加える」

 

『六部の門』

 武士道カウンター:4→0

 

あずさ

手札:3→4

 

「場に六武衆が存在する時、キザンは手札から特殊召喚できる。『真六武衆-キザン』を守備表示で特殊召喚、場にキザン以外の六武衆がいることで、攻撃力と守備力は300ポイントアップ!」

 

『真六武衆-キザン』

 レベル4

 守備力500/2+500

 

『六部の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「……いくよ。シエン」

 

『……』

 

 シエンの声は聞こえない。だが、彼もまた、その意味を噛みしめていた。

 

「レベル3の『真六部衆-カゲキ』に、レベル2の『六武衆の影武者』をチューニング!」

 飛び上がる四腕の武将。星に変わる影武者。

 光り輝き、周る星の数は五つ。

 

「紫の獄炎、戦場に立ちて(つるぎ)となる。武士(もののふ)の魂、天下に轟く凱歌を奏でよ」

「シンクロ召喚! 誇り高き炎刃『真六武衆-シエン』!!」

 

 炎が燃え上がった。その炎の中から、炎よりも遥かに赤い、鎧が歩み出てきた。

 

『真六武衆-シエン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2500/2

 

『六部の門』

 武士道カウンター:2→4

 

『……ハハ』

 現れるなり、無言だった昨日とは違って、小さく笑い声を上げた。

『やっべぇな、これ……昨日の地球や、さっきの金星なんざ目じゃねぇ。邪悪さも闇の濃さもけた違いじゃねーか。神のカードってのは、ハッタリじゃなくてマジってことかよ』

「……本当に、神のカードなんだ」

 あずさ自身、圧倒的なプレッシャーや存在感は感じていたものの、それでも、神のカードと言われて、信じられない気持ちは残っていた。

 だが、他でもない、カードの精霊が言っているんだ。間違いないだろう。

「怖い?」

『すっげー怖い』

「逃げたい?」

『帰りてー』

「とっても可愛いあずさちゃん、サレンダーして下さいお願いします。て、お願いして」

『とっても可愛いあずさちゃん、サレンダーして下さいお願いします』

 

「だが断る」

 

『ですよねー』

 あずさとのやり取りを最後に、ビビりあがっていた体に力を込めて、シエンは、刀を構えた。

『あずさ……』

 直後、今度は隣に立つキザンが、あずさに話しかけた。

『私達は、どこにも行かない……いつもお前と共にある……お前を信じて、最後まで闘う』

「あははは……そう真剣に言われると、なんか照れるけど……ありがとう、キザン。わたしもキザンのこと、頼りにしてるよ。ぶっちゃけ、シエンよりよっぽど」

 

『えぇー!?』

 

 あずさが言った途端、構えていたシエンは振り返って、大声を上げた。

『そりゃねーだろう! 私、真六武衆の長だぞ! 六武衆デッキのエースだぞ! それをお前、俺よりキザンが頼りになるって、そりゃあーねーぞあずさ!』

「うるさい! 滅多に出せないんだからしょうがないでしょう! このジェネックス決闘大会で一番頑張ってくれてたのはキザンなんだから、信頼するのなんて当然だよ!」

『召喚しなかったのはお前の都合じゃねーか! それで役立たず扱いされたところでこっちはたまんねーよ!』

 

『……』

 すぐ隣でシエンが、後ろのあずさと言い合いをしている。

 そんないつもの二人の陰で、キザンは一人、震えていた。

 頼りにしてる。シエンよりよっぽど。

 モンスターとしても、パートナーとしても、何もかもがシエンに比べて遥かに劣っている。そんな自分のことを、あずさは、シエン以上に頼ってくれていた。

 ただの社交辞令かもしれない。

 それでも、密かに思ってきた、愛する人からの何よりの言葉は、普段から物言わぬ武将の身を、歓喜に震わせるには十分すぎて……

 

「なぁーもう! 分かったから、さっさとあの神様やっつけて、イシュさん助けるよ」

『分ぁーったよ! まかせとけってんだあずさちゃん様! で、大見得切ったからには、倒す手段用意してんだろうな?』

「手札に揃ってるから、あんたを呼んだんだよ。お膳立てはするから、後はあんたの頑張り次第だよ。いいね?」

『はっ! 私を誰だと思ってんだ? 余計な心配する前に、せいぜい真六武衆の長、こき使ってみやがれ!』

 

 シエンの準備も万端らしい。それが分かったあずさは、手札の、邪神を倒すためのカードを取った。

「魔法カード発動『ユニオン・アタック』!」

 フィールドに立つ四人の武将。全員が、それぞれの刀を掲げ、重ね合わせる。

 刀の金属音が鳴り響くと同時に、他三人の武将の力が、シエンの身に注がれていく。

「このターン、シエン以外のモンスターの攻撃は封じられて、シエンが相手に与える戦闘ダメージもゼロになる。けど、このターンのバトルフェイズ開始時、シエンの攻撃力は、他の六武衆達の攻撃力の合計分アップする」

 

『真六武衆-シエン』

 攻撃力1250+1200+900+850

 

「邪神の効果で元々の攻撃力は半分になってるけど、これで攻撃力の合計は4200。ドレッド・ルートを上回った」

 この『ユニオン・アタック』や、前のターンに使った『地砕き』、『聖なるバリア -ミラーフォース-』他。どれも、昨日までは入っていなかったカードだった。

 だが、元々のデッキでは、強敵相手に敗けそうになることが増えて、デッキの改造が必要だと考えた。

 幸い、図らずもほんの数日前に大量のカードが手に入ったおかげで、新しいカードには不自由しなかった。

 おかげで、あのみどりさんに勝利して、イシュさんを追い詰めて、そして今、イシュさんを救うことができる……

 

「今、助けます……バトル!」

 攻撃力が上昇したシエンが構え、同時に、自身の中の、残った力を刀に込める……

(最後まで、もってくれよ。私の中の力……)

 昨日闘ったプラネットとは違う。その数倍、数十倍の邪悪な力を払うには、昨日使った程度では足りない。もう、力の出し惜しみはできない。

 目の前の決闘者を救うため、なによりあずさのために、精霊として、残った力全てを……

 

「『真六武衆-シエン』の攻撃! 紫流獄炎斬!!」

 武将たちの力、精霊の力の全て、それらを宿した刀が、巨大な邪神へと走り出す……

 

「りり、りりり、リバースかかかカードオープン! 速っこここ攻魔法『神の進化』かかかカカか!」

 シエンが走った瞬間、イシュの場に伏せられたカードが表になった。

「じじ、ジジ、自分フィールドのモモモモンスター一体の、攻撃りょく守備りょ、力をを、1000ポイント、上しょ、上しょ、上昇、これは、神に対しても、有効!!」

「シエンの効果! 一ターンに一度、魔法・罠カードの発動を無効にして……」

「かかかか、『神の進化』カカかか、あらゆる、こコこ、効果で、で、で、で、無効に、ならないぃぃいいい!!」

「うそ!?」

 二本の脚に支えられた、邪神の下半身。その脚が一つとなった。

 関節が消え、代わりにしなやかさを得た、巨大なる竜へと変貌した。

 加えて、ただでさえ巨大だったその身が、更なる厚み、重量を得る。

 より強く、より禍々しく、より高みへと到達した、神の進化。

 

『THE DEVILS DREAD-ROOT』

 攻撃力4000+1000

 

「げげ、ゲ、ゲゲ、げいげ、げーげ、げーげ、げきげきげきげききき!!」

 迎撃、という言葉すらまともに言えない。それでも邪神は止まらない。

 進化した邪神の拳が、シエンを刀ごと殴り返した。

『ぐおおおおおおおおおお!!』

「うわあああああああああ!!」

 

あずさ

LP:2000→1200

 

「ぐぅ……シエンの効果! このカードが破壊される時、代わりに他の六武衆を破壊できる。わたしは、イロウを選択!」

 吹き飛ばされたシエンの身を、ひざを着いていたイロウが走り、受け止めた。

 シエンは無傷な代わりに、受け止めたイロウは破壊された。

(くぅ……武士道カウンターは四つ貯まってた。それでもう1000ポイント攻撃力を上げておけば……)

 

「カードを一枚伏せる。これでターンエンド」

 

 

あずさ

LP:1200

手札:1枚

場 :モンスター

   『真六武衆-シエン』攻撃力2500/2

   『真六武衆-キザン』守備力500/2+300

   『六武衆-ザンジ』守備力1300/2

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:4

 

イシュ

LP:3100

手札:0枚

場 :モンスター

   『THE DEVILS DREAD-ROOT』攻撃力4000+1000

   魔法・罠

    永続魔法『コート・オブ・ジャスティス』

    フィールド魔法『天空の聖域』

 

 

(えっと……神のカードは確か、上級スペルの効果だけ一ターンの間受け付けるんだっけ? どれが上級スペルだか分かんないけど、下手な魔法とか罠とか、多分、エニシの効果も通じない。それに、何より……)

 

「シエン……シエンの攻撃でアレを倒さなきゃ、イシュさん、元に戻せないんだよね?」

『……』

「シエン?」

 話しかけているが、シエンは、返事を返さず、無言で刀を構えている。

「シエン、どうかした?」

『……すまん』

 倒せなかったことに対する謝罪かと思った。だが、すぐに違うと分かった。

 

『あれはもう、私にもどうしようもない』

 

「……え?」

 心底申し訳なさそうに、哀し気な声を上げていた。

『精霊としての全ての力を込めて攻撃した。それでモンスターは倒せないにしても、その力で、あの女に憑りついた闇を払うことはできるはずだった。だが、結果は見ての通りだ。仮に邪神を倒せたとしても同じだ。あの女に憑りついた闇は、もう、私の力では手に負えないレベルにまでデカくなっちまってる』

「……て、ことは……」

『この決闘、勝つにしろ敗けるにしろ、あの女を元に戻すことは、もうできない』

「ウソでしょう……!?」

 

「どどど、ドド、どドドドどど、ドロオオオ!」

 

イシュ

手札:0→1

 

「はつ、はつはつはつ、はつどぅ……『強欲な壺』……」

 

イシュ

手札:0→2

 

「……」

 

 ス……

 

「え?」

 震える手で、イシュはカードをドローした。直後、そのカードをあずさに投げ渡した。

「おおおおおおおお、おおおまえののの、『真六武衆-シエン』えんえんえんえん、『六武衆-ザンジ』ざんじざんじざんじ、いけ、いけ、いけ、生贄に、しょうかかかかかかかか! 『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』れむれむれムレムレムれむ!!」

「なっ!!」

 あずさが反応するよりも早く、目の前のシエン、そしてザンジが、溶岩でできた、巨大な両手に掴まれる。

 それを握りつぶした直後、あずさの身が浮遊した。それは、突然現れた、巨大な檻に囚われたから。そして、それをぶら下げた、灼熱の巨人が体を持ち上げたから。

 

『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』

 レベル8

 攻撃力3000/2

 

『真六武衆-キザン』

 守備力500/2

 

「ばばばババババ、バトル! ドレッドルルるるルートぉ、ラヴァご、ゴゴゴ、ゴーレムに、フィアーズノックダウウウウウウウウウウン!!」

 再び持ち上がる、巨大な拳。それが、あずさを捕らえた檻目掛けて、放たれる。

『あずさ!』

「……あっ」

 唯一フィールドに残った六武衆、キザンの声を受けて、防ぐための手を打つ。

「ぼ、墓地の『ネクロ・ガードナー』の効果発動! 一度だけ相手モンスターの攻撃を無効にできる! ……よね?」

 ハッキリ言って、神を前に自信はない。だが、直後に墓地より現れた『ネクロ・ガードナー』が、そんな怯える少女を安心させるように、邪神の拳を弾いて見せた。

「カード、ふせ伏せフセ、たたタタタたタ、ターンエンドどどどドドドドドド……」

 

 

イシュ

LP:3100

手札:0枚

場 :モンスター

   『THE DEVILS DREAD-ROOT』攻撃力4000+1000

   魔法・罠

    永続魔法『コート・オブ・ジャスティス』

    フィールド魔法『天空の聖域』

    セット

 

あずさ

LP:1200

手札:1枚

場 :モンスター

   『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』攻撃力3000/2

   『真六武衆-キザン』守備力500/2+300

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:4

    セット

 

 

「……わたしのターン」

 

あずさ

手札:1→2

 

「こ、こ、このスタンバイフェイズ、おおお、お前は、1000ポイントの、だ、ダだ、ダメージ」

 溶岩魔神の身が溶け出して、檻へと流れだしていく。その熱があずさの身を包んだ。

「くぅぅぅ……」

 

あずさ

LP:1200→200

 

「……」

 溶岩の熱さは大したことはない。問題なのは……

(イシュさんはもう、助けられない。だったら……だったら……っ)

 すぐさま、頭を切り替えようとした。

 既に不可能なことを、切り捨てて、すべきことを、考える……

(この決闘にだけは、勝たないと……勝って、梓くんを守らなきゃ……!)

 そう、最愛の人という大前提のために、憧れを切り捨てるよう、頭を切り替える。

 

「わたしも、魔法カード『強欲な壺』! カードを二枚ドロー!」

 

あずさ

手札:1→3

 

「魔法カード『天使の施し』! カードを三枚ドローして、二枚を捨てる。それから……それから……」

 

『あずさ……』

 立ち上がって、檻の中にいる主を見上げた。

 歯を食いしばって、手札のカードを凝視し、握りしめて。

 

(このカードを使えば、この決闘には、勝てる……この決闘に勝って、アイツから、梓くんのこと、守れる……でも……でも……)

 何度も頭を切り替えようとした。助けるべき憧れよりも、守るべき最愛のために。

 それが正しいことなんだって。それが正しい行動なんだって。

 そう何度も、自分に言い聞かせているのに、それでも……

 

(やだ……やだぁ……っ)

 小学生からの憧れ。わたしの心の支え。

 もちろん、イシュからしてみれば、わたしなんて、山ほどいるファンの中の一人でしかない。実際、今日出会うまで、縁もゆかりも何もなかったのだから。それにあんな状態だ。この決闘が終わったら、わたしのことなんか、覚えてるわけないんだから。

 そんな彼女のことを見捨てたところで、誰に文句を言われる筋合いもない。何より他でもない、梓くんのために……

 

 それでも……

「やだぁ……わたし、イシュさんのこと、助けたいよぉ……」

 

『あずさ……くっ』

 こんな時、自身の弱さにほとほと嫌気がさす。

(この役立たずが……なにが、真六武衆のナンバー2……)

 シエンがいなければ、この世界に存在することさえできない。こんな場面でさえ、主に何もしてやれない。

 今でも思い出す。未来(かこ)の主。最愛の親友。水瀬梓が、大谷という秘書を亡くした日のことを。

(あの時と同じか……あの時と同じように、私は、何もできないのか……)

 悲しみ、苦しみにくれる、守るべき主。それを、ただ見ているだけで、何もしなかった。

 今回も同じか……なにもできないのか……

(少なくとも私は、シエンが持つ力の、欠片程度も持っていない。逆転させる効果も無い。それでも……)

 あの時は何もできなかった。何もできることは無いと思っていた。それで諦め、何もせず、後から死ぬほど後悔した。

 もう、あんな後悔などしたくない。だから、せめて……

 

「平家あずさ!」

 

「……! キザン……?」

 声のした方、下を見た。守備表示で座っていたはずのキザンが、立ち上がってこちらを見上げていた。しかも、決闘中なのに、わざわざ実体化までして。

 

「私は……『真六武衆-キザン』は、お前を信じている!」

 

「え?」

 今までずっと、無口で物静かで、声も小さかった。それが、こっちを見上げながら、今まで聞いたことが無いくらいに、声を張り上げ、叫んでいた。

 

「お前がどんな選択をしても、私はお前の選択を信じる。私はいつでも、お前と共にある! お前は、お前が最もしたいと願う、お前自身の思いに従え!!」

 

「わたしが、したい、こと……?」

 そう言われて、もう一度、考えてみた。

「わたしがしたいことは……梓くんを、守ること……」

 そんなことは分かりきっている。

「わたしは……」

 

 

 

視点:あずさ

 

「梓くんを守る……」

 

 ――助けたい……

 

「一番大切な、梓くんを……」

 

 ――助けたい!

 

 ……誰を助けたいの?

 

 ――イシュさん……

 

 ……なんで助けたいの?

 

 ――わたしにとって、大事な憧れだから。大事な人だから。

 

 ……そのために敗けちゃって、梓くんはどうなってもいいの?

 

 ――いいわけない! 梓くんのことは守る! そして、イシュさんだって助ける!

 

 ……そんなこと、シエンでもダメだったのに、どうやって……?

 

 ――関係ない! 方法が無いなら見つけ出す! 憧れ一人助けられないで、大切な人を守れるわけない!

 

 ……わたしは……

 

 ――わたしは!

 

 助けたい!!

 

 

 

視点:外

 

「あずさ……?」

 その時、キザンは確かに見た。あずさの全身から立ち上る、眩いほどの光の輝きを……

 

「わたしは……」

 自分が本当にしたいこと。それに気付いたから、あずさは、握っていたカードから手を離して、別のカードを手に取った。

 

「チューナーモンスター『ジャンク・シンクロン』召喚!」

 

『ジャンク・シンクロン』チューナー

 レベル3

 攻撃力1300/2

 

「『ジャンク・シンクロン』のモンスター効果! このカードの召喚に成功した時、墓地のレベル2以下のモンスター一体を、効果を無効にして特殊召喚できる。わたしが召喚するのは、レベル2のチューナーモンスター『六武衆の影武者』!」

 

『六武衆の影武者』チューナー

 レベル2

 守備力1800/2

 

『六部の門』

 武士道カウンター:4→6

 

「『六部の門』の効果! 武士道カウンターを四つ取り除いて、墓地の『六武衆の師範』を手札に加える。場にキザンがいることで、『六武衆の師範』、特殊召喚!」

 

『六武衆の師範』

 レベル5

 攻撃力2100

 

『六部の門』

 武士道カウンター:6→2→4

 

「……イシュさん」

 

「……か……か……か……か……」

 

「今、助けます!」

 

「レベル5の『六武衆の師範』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!」

 年老いた未来のキザン。その周囲を、三つの星が回り、輝く。

 何度も見てきた光景なのに、キザンは、それがこれまでとはまるで違う、神聖な儀式のように感じた。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる。光さす道となれ!」

 

「シンクロ召喚! 飛翔せよ『閃珖竜(せんこうりゅう) スターダスト』!!」

 

 名前の通り、いくつもの星屑が瞬いた。

 それが地面に降り注いだ直後、キザン、ラヴァ・ゴーレム、二体の頭上に、それは飛翔した。

 周囲を、空間を照らすほどの輝きに満ちた星屑。それを鱗粉のように纏い、散りばめながら、白く、そして、緑色に輝く光。

 白く、輝かしく、美しく、触れがたく……

 どんな言葉で形容しようが足りない、まさしく星の世界から降り立ったかのような、光に満ちた閃珖の竜……

 

閃珖竜(せんこうりゅう) スターダスト』シンクロ

 レベル8

 攻撃力2500/2

 

「あずさが持っていないはずの、シンクロモンスターだと……? だが、なんと、神々しい輝きだ……」

 

 

「ほぅ……だが、邪神の効果で攻撃力は半分。何より、遥かに攻撃力は及ばない。それでどうしようというのかな……?」

 

 

「『真六武衆-キザン』を攻撃表示に変更。更に『六部の門』の効果、武士道カウンターを二つ取り除くごとに、キザンの攻撃力を500アップ。残った四つの武士道カウンター、全部取り除く」

 

『六部の門』

 武士道カウンター:4→0

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800/2+500×2

 

「そして、魔法カード発動『受け継がれる力』! 自分フィールドのモンスター一体を墓地に送って、別のモンスターの攻撃力を、その元々の攻撃力分だけアップする。わたしは、『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』を墓地へ送る」

 あずさを捕らえた檻、そして、そんな檻をぶら下げた溶岩魔神、全てが光と変わった。

 やがて、それが完全に消え、あずさもようやく、地面に降り立つことができた。

「あずさ……!」

「うん」

 心配してくれていた、キザンに微笑みかける。

 そんなあずさの思い、そして、イシュの願いを、閃珖の竜は確かに受け取った。

 

『閃珖竜 スターダスト』

 攻撃力2500/2+3000

 

「バトル!」

「……!?」

 その宣言に、イシュは耳を疑った。

 攻撃力は3000アップしたが、それでも4250。『神の進化』で上昇した邪神の攻撃力5000には及ばない。

 それでも、力を受けた星屑は、圧倒的に巨大な闇へと飛翔する。

「げげげ!! げいげげいげげいげげいげききききききぃいいいいい!!」

 当然、そんなちっぽけな星屑に、邪神が怖けるはずもない。振り上げた拳を、再び振り下ろす。それが、星屑にぶつかった。

 

「あああああああ!! ああああああああああああああ!!」

 

「大丈夫……」

 悲鳴を上げ続ける、イシュ。そして、それに優しく返す、あずさ。

 心配はいらないから……

 安心していいから……

 そのために、フィールドの伏せカードに、手を伸ばした。

 

「リバースカードオープン! 罠発動『ライジング・エナジー』!!」

 カードの発動と同時に、あずさは手札の最後の一枚……『六武衆-ヤリザ』を取った。

「手札を一枚捨てて、スターダストを対象に発動! このターン、スターダストの攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

 たった今捨てた『六武衆-ヤリザ』。

 『ジャンク・シンクロン』でなく、このカードを召喚すれば、当然攻撃力は半分に下がるものの、今発動した『ライジング・エナジー』や『受け告がれる力』、更には『六部の門』の効果ですぐさま攻撃力を上げられる。場にはキザンもいて、自身の効果で直接攻撃が可能となり、決闘には勝利できた。

 けど、イシュさんを助けることはできない。

 イシュさんを助ける。そのために、たった今目覚めた光の竜、『閃珖竜 スターダスト』を呼び出した。

 それが今、ようやく、邪神を倒すことができる力を得た。

 

『閃珖竜 スターダスト』

 攻撃力2500/2+3000+1500

 

「攻撃力5750……」

 巨大な拳と、それとぶつかり合ったスターダスト。その身が、より強い輝きに満ちた。

 

「ああああああああああああ!! とらととトラ罠!! 『串刺しの落とし穴』!!」

 イシュが罠を発動させた。直後、スターダストの背後で、その空間は口を開けた。中には、無数の巨大な針の山がスターダストへ向いている。

 そんな穴の中へ、スターダストを吸い込もうと、穴は、近づいていった。

「このターンに召喚、特殊召喚したモンスターが攻撃してきた時に破壊して、その攻撃力の半分のダメージを相手に与えるカード……」

 もし、ヤリザを召喚していれば、この罠の餌食になって終わっていた。

 けど、今場にいるのはヤリザじゃない。スターダストだ……

 

波動音壁(ソニック・バリア)!」

 

 スターダストが咆哮を上げた時……真後ろまで接近していた針穴は、突然動きを止めた。

 それは、咆哮を合図に、現れた音波の壁に阻まれたから。

 音の波による振動を伴った壁にぶつかったことで、針も穴も、やがて振動に耐えきれず、消滅した。

「ああ? ……ああ?」

「スターダストは一ターンに一度だけ、自分の場の表側表示のカード一枚を、どんな破壊からも護ってくれる。この効果で、スターダスト自身を『串刺しの落とし穴』の破壊から守りました」

「ああ……ああああああああああああ!?」

 

 恐怖も、罠も、あらゆる邪魔を許さない、邪神と星屑のぶつかり合い。

 質量でも重量でも、圧倒的に勝るはずの拳が、徐々に、徐々に、ひび割れていく。

 亀裂は拳にとどまらず、手首へ、腕へ、そして邪神の全身へ。

 ボロボロに朽ちていく邪神の身へ、光り輝く星屑は、その身を前進させる。

 

流星突撃(シューティング・アサルト)!!」

 

 輝く流星の突撃は、もはや進化した邪神にさえ止められない。

 伸ばした右腕ごとあっさりその身を貫かれ、砕け散った。

 

イシュ

LP:3100→2350

 

「が、ぁ……!」

「イシュさん!」

 イシュの身が傾く。と同時に、イシュの耳に着いた、石ころもまた、粉々に砕けた。

 更に、決闘ディスクから、邪神のカードが飛び出した。

 石ころと同じく、邪悪な闇が集まっているのがはっきり見える、忌むべきカード。

「……!」

 そんなカードを取ったのは、突然イシュの前に飛び出した、青い衣装を着た銀髪の少女。

 その少女はカードを掴むや否や、すぐさまビリビリに破いてしまった。

 

「あ……あぁ……」

「まだ決闘は続いてる……キザン! 終わらせて!」

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800+500×2

 

『任せろ! あずさ!』

 未だ、ふらつきながらも立っている。そんなイシュに、キザンは走る。

 

 もう、戦わなくていい……

 もう、楽になっていい……

 

 そんな思いが込められた、静かな武将の、静かな刃。

 

「漆鎧の剣勢!」

 

 それが、抜け殻と化してもなお戦いから逃げぬ、真の強敵へ、引導を渡した。

 

イシュ

LP:2350→0

 

 

 

 




お疲れ~。

イシュ×デプレ

あると思います(二度目)。


とりあえず、今回の話書いてて、大海はドレッド・ルートよか、イレイザーのが好きだったんだなぁ……と気付きましたわ。
だってさぁ、効果はどうあれ、見た目が人型って時点で大体のイメージ固定されちゃうから、雰囲気以外に描写のし甲斐ないんだもの(風評被害)。
まあ、単に大海が異形型よりも人型が苦手ってだけかも分からんが。
そんなことを思いつつ、オリカ行くで~。



『神の進化』
 速攻魔法
 自分フィールドのモンスター1体の攻撃力を1000アップする。
 このカードの発動と効果は無効にならない。

遊戯王Rにて、月光と遊戯が使用。
多分、通常魔法だとは思うんだが、バトルフェイズにも使ってたし、速攻魔法でいくね? と思ってそうした(ゴリ押し)。
けど、これだけだと完全に『突進』とか他の強化系魔法の上位互換なんだよね。
名前からして神オンリーな効果なのかも知らんが、とりあえずこれで行きますわ。また出すかは知らんが……



ほんでもって、原作効果。



『THE DEVILS DREAD-ROOT』
 レベル10
 神属性 邪神獣族
 Fear dominates the whole field.
 Both attack and defense points of all the monsters will halve.

まあこういうこったら……
攻守半減の効果は、攻守変動後の最後の攻撃力でなく、元々の攻撃力。
OCGとどっちにしようか迷ったけど、六武衆が攻守変動効果だらけでややこしいし、OCG効果じゃどうやっても勝ち目無さそうだから原作効果にしましたわい。
処理しきれない非力な大海を許しとくれ……



ちなみに、本当のこと言うと、本来の予定ではみどり先生が邪神を使う予定でした。
けど、キースはともかく、みどりに邪神て……?
そう思い至って、より相応しい人に持たせるべきと考えて、でも誰かいたっけ? 邪神と言ったら……そうだ。アイツだ。
てわけで、イシュを出した次第ですわい。

そったらことで、次話まで待ってて。

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