遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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七話完結話。

何だかんだでこれも長かったね。

でもまあこれで終わりだ。

じゃ、行ってらっしゃい。



第七話 ボクと遊ぼう ~凄楚~

視点:あずさ

 決闘が終わった後、わたし達は梓くんを十代くんの部屋へ運んだ。気絶してた人達が目を覚ましたのはその直後だった。ブルーの四人だけはまた気絶させて、その間にレッドのみんなに取られたカードを回収させた。

 佐倉くんもすぐに目を覚ましたけど、気絶させる必要は無くて、あっさり取り上げたカードを全部返してた。最悪な奴だと思ってたのに、決闘中に人質を取られた時と言い、どうしてだか、どこか憎めない人だった。

 けど、彼は約束通り、あの後すぐに退学届を出して、アカデミアを出ていった。本人いわく、「もうカードを見るのも嫌だ」って。

 あんな梓くんの相手をして、あんな終わり方をしたのなら、当然だよ。そしてあの場を去る前に、わたし達に謝ってくれた。

 

 

 梓くんは、ベッドに寝かせてからまだ目を覚まさない。とっくに陽は落ちて、みんなで交代してご飯を食べにいってる。

 けど、わたしを含めて、何人かはいらないって言ってた。あんな梓くんを見ちゃって、食欲が湧かないんだろうな。

 

 けど、わたしは違った。

 梓くんがこんなことになってるのに、食事なんて喉を通らないよ。

 みんな、梓くんを見て何も言えずにいた。だって、本当に怖くて、今も混乱してるから。さっきの梓くん、本当に今までの、とても優しかった梓くんと同じ人なの?

 

 でも、そんなことどうでもいい。お願いだから、せめて目を覚まして。

 負けたら退学するって言った時と言い、人が変わった時と言い、眠ってる今と言いずっと、梓くんがどこか遠くへ行っちゃうっていう不安に襲われて、それは今も変わらない。

 

 いや……

 梓くんがどこかへ行っちゃうなんて、考えただけで……

 

 梓くんがいなかったら、わたし……

 

「……うぅ」

 

 !!

 確かに聞こえた! 梓くんが、声を出した!!

 みんなも聞こえたみたいで、一斉に梓くんの顔を見た。

 

「うぅ……ん……?」

 

「梓くん!」

 目を覚ました!!

「梓、大丈夫なのか?」

「気分は? 体は何とも無いっスか?」

「どこかおかしい所は何も無いか?」

 十代くん達が順に聞いた。

「ここは……私は……」

 あ、今『私』って!

「俺達の部屋だ」

 十代くんが答えた。

「なぜこんなことに……佐倉さんとの決闘は?」

 梓くんはそう聞きながら、体を起こした。

 いつもの梓くんだ。

 いつもと同じ……梓くんだ……

 

「!? あずささん、どうかしたのですか?」

 聞かれたけど、答えられない。目を覚ましたのが、戻ってきてくれたのが嬉しくて、わたしは何も考えずに、梓くんの胸に飛び込んだ。

「梓くん! う、うぅ……」

 涙が止まらない。安心と緊張の解けた気持ちがいっぱい湧いて、それが涙になって流れてく……

 

「あ、あずささん、一体……!/////」

「今はそのままにしてあげて」

「え?」

「あなたが気絶してる間、あなたのことを一番心配してたのは、あずさだから」

「……」

 

 不意に、わたしの頭に人の手の感触がした。一度手を握られたことがあるから、それが梓くんの手だってすぐ分かった。

 梓くんが、わたしの頭をなでてくれてる。それが、心地よくて、嬉しくて、いつの間にか涙は止まって、自然と笑顔が浮かんできた。

 

 

 

視点:十代

「……そうでしたか」

 あずさが落ち着いたところで、俺達は梓に事のいきさつを説明した。

 不思議なことに、梓は決闘してる途中、佐倉に『ホーリー・ナイト・ドラゴン』を呼び出された後、つまり、口調とかが変わった後のことを一つも覚えていなかったんだ。

「……決闘には、勝てたのですね」

 ツインテールに縛ってた髪をポニーテールに戻しながら、暗い口調でそう聞いてきた。

「ああ。けど、あの時の梓、何ていうか、凄く怖かったぜ……」

「……私がですか? それとも、私の決闘がですか?」

「それは……両方、だな……」

「今までのあなたは、相手の戦術を封じて、動けなくしながら、その力を利用して戦う、とてもスマートな決闘をしてた。そして何より、勝利しながら、相手を思いやる心を忘れていなかった。なのに、あの時のあなたは、相手を動けなくしたのは同じだけど、その後も、その姿を時間を掛けていたぶりながら楽しんで、その上で相手の心を壊すための言葉を繰り返した。おまけに、最後は必要の無い過剰な力でのオーバーキル。見ていてとても怖くて、とても嫌な決闘だった」

 明日香が、俺達が思っていたことを言葉にしてくれた。

 

 そう。明日香の言った通りだ。怖かった。

 初めて梓のE・HERO、アブソルートZeroを見た時は、とても綺麗で、その姿に感動したのは今でも覚えてる。

 けど、見るのはこれで二回目だったけど、あの時のZeroほど怖いと思ったモンスターも無かった。あずさの時みたいな、梓を守るためじゃない。佐倉を、殺すため。そんな殺意がめちゃくちゃ伝わってきたんだ。

 俺はHEROデッキ使いだけど、あんなにHEROを怖いと思ったことは無かった。

 

「……そうですか……そうでしたか……」

 梓はそう呟いた。そして、溜め息を一つ吐いて、俺達の方を向いた。

「それは、私の中にいるもう一人の私……ボクです」

 ボク!!

 その言葉に一瞬背筋が凍る。元に戻ってるって分かってるけど、その一人称だけでさっきまでの梓を思い出して、震えちまった。

「えっと……どういうこと?」

 あずさが聞き返した。

「……まだ幼かった頃のお話です。男の人が、私に対して罵倒し、暴力を振るいました。その時私は意識を失いかけましたが、そう思った直後に目を覚ましました。そして気が付くと、その男の人は目の前で血まみれになって倒れ、『殺して欲しい』、そう懇願していたのです。そして同時に、うわ言のように呟いていました。……ボクと」

 またボク! くそ、それだけでいちいちビビっちまう。みんなもそうみたいだ。

 ……いや、あずさだけは普通だ。

「その時はわけが分からず、怖くてすぐその場を離れました。しかし、その人の一人称はボクではなかった。その後、成長しながら段々その意味を知り、そして今、あなた方の話を聞いて、確信しました。ボクというのは、私だったのだと。そして、ボクとなった私が、その人を血まみれにしたのだと」

 まさか、梓がそんなことを……

 けど、さっきの姿を見れば、納得するしかない。

「……佐倉さん……佐倉さんは、無事なのですか!?」

 急に慌てた口調になって、俺達に聞いてきた。

「大丈夫。もう退学しちゃったけど、生きてるよ」

 あずさが慌てる梓を抑えて、佐倉について説明した。

「……辞めてしまわれましたか」

 どうしたんだ? そんなに気を落として。

「梓くん、佐倉くんのこと、助けようと思ってたんだね……」

 助けるって、どういう意味だ?

「……佐倉さんは、確かに非道な行いを繰り返してきました。決して許されないことを。しかし、決闘をしていて、感じました。彼は、本当はそんなことをして楽しむ人間ではない。むしろ、そんな自分を誰かに止めて欲しくて、そんな人に出会うために、あんなことをし続けていたと」

「誰かに止めて欲しかった?」

 明日香が聞き返した。確かに、おかしな話だ。

「……いえ、気にしないで下さい。佐倉さんがいなくなってしまった今、既に確かめるすべは無いのですから」

 そう言って目を閉じる。本当に、がっかりしてる。

 

「……皆さん、本日は、ご迷惑をお掛けしまして、申し訳ありませんでした」

 また俺達を見て、そう言って頭を下げてきた。

「あ、いや、気にするなって。話しを聞いたらお前のせいじゃないだろう。誰だって怒るのは当然なんだ。今回はそれが少し大げさだっただけだって」

「……そうね。実際に被害は無かったわけだから。そんなに気にする必要も無いわよ」

 実際、ボクが出てきた後は、何人か倒れたりしてたけどな。

 あずさなんて……

 ////

 けど、それは知らない方がいいかもな。梓が覚えてないのなら、何も言わない方がいいかもしれない。

「……もう遅いようなので、私はこれで失礼させて頂きます」

「何なら泊まっていくか?」

「いえ。もう大丈夫です」

「そっか。それなら明日香達も、もう帰った方がいいぜ」

「そうね。帰りましょうか」

 明日香があずさ達三人に話し掛けて、三人も頷いた。

「できれば、レッド寮の皆さんに謝罪したいのですが……」

「いや、もう何人かは寝てる奴もいるだろうし、明日の方がいいかもしれないな」

 それに、梓が部屋に来たら、みんなビビるだろうからな。

「それもそうですね。では、このまま帰らせて頂きます」

「ああ」

 そして、梓は三人の女子達と一緒に、ブルー寮へ帰っていった。

 

 

 

視点:あずさ

 女子寮に着くまで、梓くんが送ってくれた。わたしがいるんだから大丈夫だよって言ったんだけど、女子だけじゃ危ないからって、無理やりついてきた。わたしは平気だけど、みんなは、動揺してる?

「もうここまでで大丈夫だから」

 明日香ちゃんが、梓くんに向かってそう話し掛けた。

「ええ。ではまた明日」

 梓くんも返事をして、わたしも、三人とも梓くんに背を向けた。

 

「あの!」

 

 何歩か歩いた時、急に梓くんが話し掛けてきて、わたし達はまた梓くんを見た。

「あの……あずささん」

「はい?」

「……少し、お話したいことがあるのですが……」

 何だか凄く深刻な顔してる。どうしたのかな?

「……うん。いいよ」

 そんな梓くんが放っておけなくて、わたしは明日香ちゃん達に先に帰るよう促して、梓くんのもとへ向かった。

 

 

 どうにも人に聞かれたくない内容みたいで、わたし達は近くの森の中にいます。

「それで、お話って?」

「その……」

 相変わらず、言い難そうで苦しそう。

「梓くん、本当にどうしたの?」

 とても深刻な顔してるよ。そんなに辛いことなの?

「……実は、お聞きしたいことが……」

 やっと話してくれた。聞きたいことって?

「……私は、ボクに変わっていた時、あなたに何かしませんでしたか?」

「え?」

 何かって……

 

 /////////

 

 お、思い出したら顔が……////

 でも、幸運にも梓くんはそっぽを向いてた。

「……過去にボクになった時、記憶は全く残っていなかったのに、なぜか鮮明に覚えているのです。私は、あなたと、刀と手甲を交えていた。まさか、私は佐倉さんだけでは飽き足らず、あずささんまで手に掛けようとしたのでは!?」

「ち、違うよ!!」

 誤解してるよ梓くん!

「逆だって! わたしが、佐倉くんを斬ろうとした梓くんを止めるために、とっさに梓くんに殴りかかったんだよ! 梓くんはそれを受け止めたけど、それ以上は何もしてないよ!!」

 本当だよ。むしろあの時、梓くんは……

 ……

 

 ////////////

 

「本当ですか? 私は、あずささんを傷つけてはいないのですか?」

 わたしの顔が赤くなってるのは気にしてないみたい。

「うん。ほら見て、どこもケガしてないよ。わたしは梓くんに、何もされてなんかないよ」

 その場で体をクルクル回しながら、必死に無傷アピールをした。その度に、梓くんの顔から段々不安が無くなってくみたい。それが何だか、不謹慎だけど、可愛い。

 

「良かった……」

 そう呟いたと思うと、梓くんはその場にひざを着いた。そして、

「な! 何で泣いてるの!?」

 わたし、何かしたかな!?

「……怖かった……もし、またあずささんを傷つけてしまったら、私は……二度と……立ち直ることはできない……」

「え……?」

「……すみません。私がこんなことを考えるのはおこがましいことです……しかし、あなただけは……何があっても、絶対に傷つけたくない……例えボクでも、あなたを傷つけることだけは許せない……私は……あなたを……」

「梓くん……」

 そこまでわたしのこと……

 

 わたしも梓くんに合わせてひざを着いた。そして、頭を両手で持ってあげて、抱き締めた。

「……」

「大丈夫だよ~。わたしの強さは、梓くんが一番知ってるじゃん」

「……はい……」

「ね。もしまた梓くんが変わって、襲われたとしても、そんな簡単にやられたりしないよ」

「……はい……」

「だから泣かないで。わたしはいつだって、梓くんの味方だよ」

「……ありがとう……」

 とぼけた口調で話したり、頭をなでなでしたりしたけど、梓くんはずっと泣いてる。

 さっきわたしが泣いてた時、梓くんになでなでされて涙が止まったから、わたしもそうすれば泣き止んでくれるかと思ったけど、やっぱり個人差なのかな。

 

「……もう少しだけ、こうさせて頂けますか……?」

「うん」

 泣きたいだけ泣いてもいいよ。涙が止まるまで付き合うよ。さっき言った通り、わたしは梓くんの味方だから。

 

 だから……

 

 

 ……どこにも行かないでね。

 

 

 

視点:十代

 次の日、梓は授業の合間に、レッドの生徒一人一人に頭を下げていった。全員、やっぱり梓を見てビビってたけど、反省した梓を見て、ていうか、そもそもほとんどが梓のファンだったし、すぐに許すことにしたらしい。

 そして、この時の梓……ボクの存在は、俺達だけの秘密になった。理由は、言ったって誰も信じないってことは分かってるし、全員、そんな梓の姿を否定したかったからかもしれない。

 

 

 

 




お疲れ様です。

さすがにそろそろ本編エピソードをやれって声が出そうな気がする。

次の話はそうするから文句があっても許してね。

ほんじゃあ待ってて。

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