遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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ムシャクシャして書いた。
後悔はしていない……

何かはまあ、読んでくれりゃあ分かると思うべ。
加えて、今回は各キャラの黒い部分が全面に出ちゃってるから、そういうの苦手って人はちと注意した方がいいかもね。
そんだらところで、五日目ラスト、行ってらっしゃい。



    まだいるんだよな戦う者達

視点:外

「……へ? 今日は帰らない?」

 生徒手帳からの着信を受け、それに出た梓が耳にした言葉がそれである。

「そのままご自身のお部屋に泊まる、ですか。分かりました。夕飯をお届けしましょうか? ……そうですか。分かりました」

 電話越しの相手に向かって、会話と質問をしたのち、言いたいことを言っておく。

「ちゃんとお風呂に入って下さい? 食事した後はちゃんと後片づけするのですよ? お風呂上りにはちゃんと体を拭いて、髪の毛も乾かすように。どこか汚したらすぐにふき取ってください。早食いはせずよく噛んで、食後にすぐ寝ては体に悪いですからね。カップラーメンも食べ過ぎないようにしてください。遅くまでテレビゲームばかりしてはいけませんからね。寝る時にお腹を出してはいけませんよ。朝はちゃんと起きてください。私もあまり人のことは言えませんが……」

 そんなことを延々と言ってくる梓に対して、電話越しの相手も、さすがにげんなりとしている様子だった。

 いくら愛しい梓であろうとも、彼女とてそこまで子供ではない。とは言え、正論である以上、言い返すこともできないのだが……

「では、お気をつけて。何かあったらすぐに私を呼んでください。何時であろうと必ず駆けつけますから……はい。では、お休みなさい」

 その言葉を最後に、学生手帳の通話ボタンを切る。

「星華さん……大丈夫でしょうか?」

『いやいや、さすがに心配しすぎじゃないかな?』

「そうですか? ……ああ、けど、確かに色々言い過ぎましたかね? 鬱陶しい男だと嫌われてしまったでしょうか……?」

『そこは心配ないと思うよ。僕もそうだけど、星華姉さんが梓を嫌いになることなんてないって』

「だといいのですが……」

 不要な心配を浮かべる梓の背中を、アズサは手だけ触れるようにして押し出す。

『ほらほら、電話が終わったなら、早く戻んなよ。始まっちゃうよ?』

「そうでした……」

 まだ、星華に対する心配を浮かべつつ、それでも別の楽しみのために、その問題をとりあえず棚上げとした。

 

「おお、梓。電話終わったか?」

「ええ。間に合って良かったです」

「まだ時間はあるわよ。慌てなくても大丈夫」

「ドン」

 部屋に入り、十代、明日香、剣山と並んでソファに座る。そんな梓の肩に半透明のアズサが抱き着いて、五人で目の前のテレビに注目した。

「それにしても、『DD』って、なんだかカード群としてありそうな名前ですね」

「確かに。どっかの王様が使ってたりしてな。デデデ大王とかもいるし」

「いやぁ、現代だし、王様っていうよりは社長さんザウルス」

「眼鏡を掛けて、頭が白い社長さんかしら?」

「寒がりでいっつもマフラー巻いてたりしてさ」

「そのくせ、きっと靴下が嫌いで、普段から履いていないのですよ」

 

『アハハハハハ!!!』

 

「……というか、なぜアナタがたーは、校長室のテレビを観ているノーね?」

「自分の部屋のテレビを使うのでアール」

「だって、せっかくだからデカいテレビで観たいじゃん!」

 怪訝な顔を浮かべるクロノスとナポレオンに向かって、十代は笑顔でそう返した。

「そうそう……生徒一人を守ることに比べたら、一時の間、生徒にお部屋とテレビを提供することなど、楽な仕事でしょうに」

 梓は十代とは違い、不快感と敵意をむき出しにした冷たい声色で、そう二人に語りかけた。

「そ、それは……」

「あと、私がここにいる間、極力お静かに願います。特にハゲチャビン教頭は、息遣いさえ不快ですので呼吸も控えていただくとありがたい」

「わ、吾輩の名は……」

「喋るな」

「……」

「本当は、あなた方と同じ部屋にいること自体、不快で仕方ないのですがね」

 

『……』

 梓の物言いに、和気あいあいとしていた空気が一変、重苦しいものに変わってしまう。

 例の事件以降、引きこもることをやめた梓は、真面目に授業に出ているし、課題や宿題が出れば欠かさず提出はしている。テストの成績も、これまでと同じでトップクラス。

 だが、授業以外では、この二人に限らず全員の教師に対して、こんな態度を取るようになってしまっていた。

 元々、梓自身を含む『先生』と呼ばれる存在に不信感を抱いていたことに加え、あずさに対するイジメを放置してきたことに激怒して以降、梓の抱く『教師不信』の感情は決定的なものとなってしまった。

 そのため、かつては親しくしていたクロノスさえも敵視し、十代らや他の生徒の前であろうと構わず、こんな冷たい態度をとるようになってしまったのである。

 

(これではいけませんーノ! ここは一つ、どうにかして教師としての威厳を示すべきなノーね)

 

「……お! 始まるぜ!」

 そんな冷え切った空気の部屋の中で、十代が声を上げる。

 空気の重さに沈んでいた者らも、始まったその放送に集中した。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「まったく、梓ときたら、子供扱いしすぎだ……そこが、たまらなく愛おしいのだがな////」

 

「もう済んだか?」

 夕焼け以上に顔を赤く染める星華に向かって、男が話しかけた。

 星華より歳はだいぶ上らしいが、肌艶は若々しく、二十代前半から半ばといったところだろう。

 しかし、鋭い目つきに、それを際立たせる目の下の赤いメイク、何より高身長の大きな体格から、実年齢以上の逞しさと熟練を感じさせる。

 そんな、白く多量の髪の全てを逆立てた、胸丈のコートを着込んだ男。

 星華は、学生手帳をしまいながら男と向き合った。

「ああ……待たせてすまんな。まったく、必死に泣きついてきて、困った男だ」

「は! あの弱虫のチビに、そんな健気な男ができるなんてな。傑作だ」

「ああ……その弱虫のチビだった女に、無様に敗北したのが、貴様の相棒、デプレ・スコットだ。リッチー・マーセッド」

 そんな事実に、男――リッチーも表情を歪ませる。

「それにしても、その『ブラック決闘ディスク』……今は貴様が、カードプロフェッサーのトップというわけだな。さすがだと褒めておこうか?」

「けっ……」

 リッチーが左手に下げる、決闘ディスクを見ながら語り掛けた。

 型は一世代前の古い仕様に見えるが、本来白かったはずのそのディスクは、全体が真っ黒に染まっている。

 今時、多少金を積めば、好みのデザインの決闘ディスクをオーダーメイドすることは難しくなく、特に珍しいことではない。だが、彼が着けているそれは、そんな陳腐な物とは打って変わった厳粛さを感じさせた。

「そうだ。テメェが、施設のオーナーと一緒に消えちまった後も、俺は決闘の裏世界で闘い続けた。そこでいくつもの勝利を奪い、手にいれたもの。それが、このブラック決闘ディスク! カードプロフェッサーギルドランキング一位の証だ!」

「……確かに、お前の実力は、あの頃からデプレと共に抜きんでていた。落ちこぼれの私はもちろん、大人さえも勝てる者は少なかったな。そんな貴様と、今の私、どちらが上なのだろうな?」

 挑発めいた口調と視線でそう言ってのける。

 その態度が、リッチーの気に障ったらしい。

「ムカつく女になったな……まあ、ムカつくのはあの頃からだがな。毎日毎日、特訓中の俺らの前に現れちゃあ、俺やデプレ、格上の決闘者に挑んじゃあ必ず敗けてベソ掻いてた。他の奴らは笑ってたし、デプレは決闘だけして無視してたが、俺はハッキリ言って邪魔にしか感じなかったよ。こっちは親のいるテメェと違って、生きていくために強くなるしかなかったってのによぉ……」

「これでも、施設を出た後は、歳の近いガキどもには負けなしだったのだぞ」

「知るか! ……だが、ちょうどいい。ここできっちり引導を渡してやる。テメェは俺には勝てねぇ。テメェは、俺達に張り合おうとする資格さえ無ぇってことを教えてやる!!」

「ならば貴様にも教えてやろう。もう、昔の私ではないということを。そして、貴様ごときでは、今の私には決して勝てんということをな!」

 

「抜かせ! さっさと倒されろ! 泣き虫!」

「こっちの台詞だ! 木偶の棒!」

 

『決闘!!』

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「あー……えくすきゅーずみー?」

「……分かるよ。日本語は」

「あ、良かったー……」

 白の制服と、金髪の上に白の軍帽を被った長身の少年の言葉を聞いて、あずさは安堵の息を漏らした。

「……Youが、あずさ平家? コーヨー響に、イシュ・キック・ゴドウィンを倒した決闘者……」

「そうだよ」

「……こんな小娘に遅れを取るようでは、彼らのレベルもタカが知れるな」

「同じ学生のくせに、相手を見た目で判断する人のレベルもタカが知れてるけどね」

 

「……」

「……」

 

「……まあいい。どうせ、倒すことは決まっている。せいぜい、本命の前の肩慣らし程度には役立ってくれよ?」

「肩だけじゃなくて、体全身、慣れさせてあげるよ。敗北にさ」

 

『決闘!!』

 

 

デイビット・ラブ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

あずさ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「Meの先行……」

(何だ、この手札は?)

 

「ドロー」

 

デイビット・ラブ

手札:5→6

 

(そしてプラネット……おいおいこれじゃあ、Meの勝ちじゃないか……)

 

「魔法カード発動『天使の施し』。カードを三枚ドローし、二枚を捨てる」

「手札の入れ替え……」

「そして、今手札に加えた『ゴールド・ガジェット』を召喚」

 

『ゴールド・ガジェット』

 レベル4

 攻撃力1700

 

「ガジェット……!」

「更に、『ゴールド・ガジェット』が召喚・特殊召喚に成功した時、手札の機械族・レベル4のモンスターを特殊召喚できる。手札のレベル4の機械族『シルバー・ガジェット』を特殊召喚。こいつは守備表示にしておく」

 

『シルバー・ガジェット』

 レベル4

 守備力1000

 

「おお……一気に二体」

「驚くのはまだ早い。これで終わるわけがないだろう? 魔法カード『プロトタイプ・チェンジ』! 場の機械と、墓地の機械をチェンジする。『ゴールド・ガジェット』を生贄に……」

 

「Meの屈辱を一掃しろ! 現れろ!! 『The big SATURN(ザ・ビッグ・サターン))!!」

 

 あずさにとって、既に見知った光景が広がる。

 彼の左耳の石ころから、漏れ出る闇。

 空には一瞬の宇宙が広がり、そこから降りてくる巨大な鉄塊。

 丸みを帯びた真っ黒なデザインに加え、中心には、まるで土星の輪のような輪っかが光る。

 独立した両腕をぷかぷか浮かべた、メカメカしくも丸っこい巨大な機械。

 

The big SATURN(ザ・ビッグ・サターン)

 レベル8

 攻撃力2800

 

土星(サターン)……これが、君の惑星のカード」

「くくく……そう、これがMeの手に入れた力だ……」

「なんか、どせいさんみたい……」

「ドセイサン……? そりゃあ、このカードのモチーフは土星だが、それがなんだ?」

「……知らないならいいや。ごめんね、続けて」

 

「……まあいい。Meは二枚のカードを伏せる。ターンエンドだ」

 

 

デイビット・ラブ

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『The big SATURN』攻撃力2800

   『シルバー・ガジェット』守備力1000

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「わたしのターン、ドロー!」

 

あずさ

手札:5→6

 

「……永続魔法『六部の門』、『六武衆の結束』、『紫炎の道場』発動!」

「一度に三枚……!?」

「自分フィールドに『六武衆』の召喚、特殊召喚に成功する度、それぞれ武士道カウンターを乗せる。わたしは『真六武衆-カゲキ』を召喚!」

 

『真六武衆-カゲキ』

 レベル3

 攻撃力200

 

「ほぅ……これが、ジャパニーズサムライ……」

「カゲキの召喚に成功したことで、門に二つ、結束と道場に一つずつ、武士道カウンターが乗る」

 

『六部の門』

 武士道カウンター:0→2

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:0→1

 

「更に、カゲキの効果! このカードの召喚に成功したことで、手札の六武衆一体を特殊召喚できる。わたしは手札の『六武衆の露払い』を特殊召喚! この時、場に他の六武衆がいることで、カゲキの攻撃力は1500アップ!」

 

『六武衆の露払い』

 レベル3

 攻撃力1600

 

『六部の門』

 武士道カウンター:2→4

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2(MAX)

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:1→2

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500

 

「ここで、『六武衆の結束』を墓地へ送って、効果発動! このカードに乗った武士道カウンターの数までカードをドローする。カードを二枚ドロー!」

 

あずさ

手札:1→3

 

「更に、『六部の門』の効果! このカードから武士道カウンターを四つ取り除いて、デッキまたは墓地から六武衆一体を手札に加える。わたしはデッキから『真六武衆-キザン』を手札に加える」

 

『六部の門』

 武士道カウンター:4→0

 

あずさ

手札:3→4

 

「『真六武衆-キザン』は場に自身以外の六武衆がいる時、特殊召喚できる。更にキザンは場にキザン以外の六武衆が二体以上いる時、攻撃力を300アップする」

 

『真六武衆-キザン』

 レベル4

 攻撃力1800+300

 

『六部の門』

 武士道カウンター:0→2

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:2→3

 

「く、一度に三体も並べるとは……だが、そのモンスター達では、MeのSATURNには勝てないぞ」

「だったら破壊する。『六武衆の露払い』の効果! 自分の場の六武衆、『真六武衆-カゲキ』を生贄に捧げて、『The big SATURN』を破壊!」

 露払いの隣に立つ、カゲキの姿が光と消えた。

 同時に,走り出した露払いの小太刀が、巨大な土星の頭に突き刺さる。

 小さな傷だが、そこからショートを起こし、その電流が土星の全体に広がっていく。

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800

 

「ハハハハハハ!! かかった!!」

「……ん?」

「『The big SATURN』の効果! このカードが相手のカード効果によって破壊され墓地へ送られた時、互いにこのカードの攻撃力分のダメージを受ける!」

「……」

(それだけではない。この罠カードを発動すれば、ワンターンキルが成立する……)

 

「そんなことだろうと思った……その効果にチェーンして、手札の『ハネワタ』を捨てて、効果発動。このターン、わたしが受ける効果ダメージはゼロになる」

 

あずさ

手札:3→2

 

「……What’s?」

「その伏せカード、どうせ一枚は『地獄の扉越し銃』でしょう? でも、先に『ハネワタ』の効果を発動させてチェーンブロックに乗せちゃったから、もうそのカードは使えないよ」

「な……!?」

 デイビットが驚く中で、すでに土星の破壊は止められない。

 ショートを起こした全身はやがて限界を迎え、爆発を起こす。

 その爆風に、あずさは巨大な『ハネワタ』に守られ無傷でいた。

 だが、デイビットは……

「ぐああああああああああ!?」

 

デイビット・ラブ

LP:4000→1200

 

「そんな……バカな……」

「そんなバカな、はこっちの台詞だよ。態度とか顔でバレバレだよ、そっちの狙いなんて」

「なに……?」

「正直、決闘以前に、演技の練習からした方が良いんじゃないの?」

「くぅ……黙れ! Meをバカにするな!!」

「バカになんかしないよ。バカじゃん。実際」

「な……貴様ぁ……!!」

「惑星のカードも、アッサリ破壊できたし、もう終わらせるよ。『紫炎の道場』の効果! このカードを墓地に送って、このカードに乗った武士道カウンターの数以下のレベルを持つ六武衆、または紫炎と名のついたモンスターをデッキから特殊召喚できる。わたしはデッキから、レベル3の『六武衆-ヤイチ』を特殊召喚。キザンの攻撃力をアップする」

 

『六武衆-ヤイチ』

 レベル3

 攻撃力1300

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800+300

 

『六部の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「ヤイチのモンスター効果! 自分の場にヤイチ以外の六武衆がいる時、一ターンに一度、フィールド上の伏せカード一枚を破壊できる。わたしが破壊するのは……そっちのカード」

 あずさが指さしたカードに向かって、ヤイチの矢が放たれる。

 その矢は真っすぐ飛んでいき、伏せられたカードを貫き、表に向ける。

「やっぱり、自分への効果ダメージを相手に跳ね返す、カウンター罠『地獄の扉越し銃』だった……本当に分かりやすいね、君」

「くぅ……!」

「なにが面白くてそんな連中の仲間になったのかは知らないけどさ、そんなあからさまな態度とバレバレな戦術しか取れないんじゃ、どんなカード手に入れたって同じだよ。ハッキリ言って、君じゃあ、わたしにはもちろん、他の誰にも勝てない」

「なんだとぉ……?」

「サレンダーすれば? 正直、決闘を続けるのもバカらしくなってきたからさ」

 

「黙れ! 黙れ黙れ黙れぇ!!」

 

「……はいはい、そうですか。まあ、このターンで終わるからどうでもいいけど。『六部の門』から四つの武士道カウンターを取り除く。デッキから『六武衆の師範』を手札に加える」

 

『六部の門』

 武士道カウンター:4→0

 

あずさ

手札:2→3

 

「師範もキザンと同じ、自分の場に師範以外の六武衆がいる時、手札から特殊召喚できる」

 

『六武衆の師範』

 レベル5

 攻撃力2100

 

『六部の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「ここで『強欲な壺』発動。カードを二枚ドロー」

 

あずさ

手札:1→3

 

『六武衆の師範』

 攻撃力2100

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800+300

『六武衆の露払い』

 攻撃力1600

『六武衆-ヤイチ』

 攻撃力1300

 

「さあ、バトル! 『六武衆の師範』で、『シルバー・ガジェット』を攻撃!」

 黒い鎧の白髪の武士が走り出した。両手に愛用の刀を構え、銀色に輝く歯車へと走る。

「壮鎧の剣勢!」

 その太刀筋は、銀色の歯車を真っ二つに切り裂いた。

「く……! だが! 『シルバー・ガジェット』が戦闘または効果で破壊された時、一ターンに一度、デッキからシルバー以外のレベル4の『ガジェット』を特殊召喚できる。来い『ゴールド・ガジェット』!」

 

『ゴールド・ガジェット』

 レベル4

 守備力800

 

「へぇー……『六武衆-ヤイチ』で、『ゴールド・ガジェット』を攻撃! 瞬軌(またたき)!」

「くぅ……ゴールドの効果もシルバーと同じ! デッキからシルバーを特殊召喚する!」

 

『シルバー・ガジェット』

 レベル4

 守備力1000

 

「けど、それももう限界でしょ? 『六武衆の露払い』で攻撃、疾切華(とうせっか)!」

 露払いが走り、脇刺しで銀色を貫く。あずさの言った通り、今度は金色も、銀色も現れる様子は無い。

「これでおしまい。『真六武衆-キザン』で直接攻撃、漆鎧の剣勢!」

 そして、最後に残った、黒き武士が走る。その手の刀で、この決闘を終らせるために……

「終わるものか!! 相手モンスターの攻撃宣言時、罠カード『バックアタック・アンブッシュ』発動!! バトルフェイズを終了し、貴様の場の攻撃表示モンスターと同じ数だけMeのフィールドに『アンブッシュ・トークン』を特殊召喚する!」

 

『アンブッシュ・トークン』トークン

 レベル1

 守備力0

『アンブッシュ・トークン』トークン

 レベル1

 守備力0

『アンブッシュ・トークン』トークン

 レベル1

 守備力0

『アンブッシュ・トークン』トークン

 レベル1

 守備力0

 

「むお! 一度に四体……」

「更に、このバトルフェイズ終了後のメインフェイズ2開始時、『アンブッシュ・トークン』を任意の数生贄に捧げることで、一体につき500ポイントのダメージを与えることができる。だが、今回は発動しないでおく」

「うーん……カードを一枚セット。これでターンエンド」

 

 

あずさ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800+300

   『六武衆の露払い』攻撃力1600

   『六武衆-ヤイチ』攻撃力1300

   魔法・罠

   『六部の門』武士道カウンター:2

    セット

 

デイビット・ラブ

LP:1200

手札:1枚

場 :モンスター

   『アンブッシュ・トークン』守備力0

   『アンブッシュ・トークン』守備力0

   『アンブッシュ・トークン』守備力0

   『アンブッシュ・トークン』守備力0

   魔法・罠

    無し

 

 

「……」

 圧倒的に不利なフィールドを見ながら、デイビットは歯噛みする。

 アメリカの決闘アカデミア中等部では、学年トップとして君臨していた。しかし、高等部に上がってみれば、その実力は全く通じなくなった。

 アカデミア自体のレベルも確かに高かった。だから、もっと強くなろうと、デッキを見直し、戦術を見直し、特訓もしてきたというのに、全体から見たレベルは、せいぜい並みよりは上といったところ。

 次第に、期待してくれていた教師や、親しくしていたはずの友人からも相手にされなくなっていった。

 

 自分が弱いからか……カードが弱いせいか……

 

 そうして悩んでいるところに、同じ学校に通う女生徒『レジー・マッケンジー』に、自分達に協力しないかと誘われた。

 見るからに怪しい団体だったが、そこへ仲間入りするだけで手に入るカードは強く、魅力的だった。

 このカードがあれば、自分は強くなり、今度こそ成り上がる。

 誰にも敗けない、最強の決闘者になることができる……

 

 そう思っていたのに、目の前に現れた少女は、そんな自分の戦術をことごとく封じて、圧倒的な布陣を敷いてみせた。

 おまけに、こっちをバカにし、侮辱し、挑発までして……

 

(許さない……この女だけは許さん! この女だけは、必ず葬る!!)

 

「オレのターン!!」

 

デイビット・ラブ

手札:1→2

 

「……来た」

 デイビットのイヤリングから、より濃密な闇があふれ出した。

 土星だけでも強烈だったそれが、一気に暗く、重苦しいものとなる。デイビットの緑色の瞳を黒く染めながら、デイビットを、そして、フィールドを呑み込んでいく……

「さあ……オレは三体の『アンブッシュ・トークン』を生贄に……!」

「罠発動『高速詠唱』!」

「な……な、に……!?」

「手札の通常魔法カード一枚を墓地へ送って発動。このカードの効果は、墓地へ送った通常魔法カードと同じになる。わたしが発動するのは、魔法カード『エクスチェンジ』!」

「な、なんだとぉ!?」

「お互いの手札を見て、一枚ずつ交換する。わたしの手札は残り一枚。さあ、そっちの手札も見せてよ」

「貴様……貴様ぁああ……!!」

 今にも襲い掛かりそうな形相ながら、手札を公開する。それを見て、あずさは息を吐いた。

「やっぱり引いてた。『THE DEVILS ERASER』……『邪神イレイザー』かな? それをもらうね」

「……!?!!??」

 有無を言わさずカードを奪い取り、自分も手札の一枚を渡す。

 デイビットが暴れ出さないうちに、元いた場所まで離れた。

「わー……分かってはいたけど、やっぱ英語なんだ。読めないよ、英語……慣れない挑発までして怒らせて、デッキから引きずり出したのにな……」

 文句を垂れつつ、ポケットからデジタルカメラを取り出して、そのままカードを何枚か撮影する。

「後で、井守くんか佐倉くんでも見つけて、読んでもらおうっと……他にも入ってるの? 神のカード」

「……入っていない……」

 怒りに震える声で、そう返してくる。

「そう……」

 三邪神。あいつはそう言っていたから、少なくともこれと、昨日のと、あと一枚あるはず。

 そのカードも知っておきたったが、さすがにそう都合よくはいかないらしい。

「じゃあ、もう君に用は無いや」

 そう、投げやりな言葉を掛けた直後……

「……な、おい!!」

 

 ビリ ビリ ビリ……

 

 デイビットの声も無視して、受け取ったカードをビリビリに破いてしまった。

「何をしている!?!?」

「なにって、破ってるんだよ。見て分からない?」

「ふざけるな貴様ああああああああああああ!!」

「むしろ、感謝してほしいくらいなんだけどな……体に悪いよ。このカード」

 悪びれもせず嘲笑しながら、細かくなるまで破いた後は、燃やしてしまった。

 

「……ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 ここまで積み重ねられてきた怒りと屈辱が、とうとう臨界点を超えたらしい。

 無意味な絶叫をした後で、フィールドを見た。

「覚悟しろよ貴様!! ここから生きて帰れると思うな!! 貴様はこれから、貴様自身のカードで葬る!! 魔法カード発動『死者蘇生』!!」

「うぅ……他に無かったとは言え、やっぱ、ちょっともったいなかったな……」

 『エクスチェンジ』の効果で渡したカードを発動されて、そう苦笑してしまった。

 そんな苦笑と同時に、デイビットの墓地からソレは蘇る。

 

「全てを破壊しろ!! そしてこのオレに勝利をもたらせ!! 『The big SATURN』!!」

 

『The big SATURN』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「『The big SATURN』の効果! 手札を一枚捨て、ライフを1000支払うことで、このターン、『The big SATURN』の攻撃力は1000アップする!!」

 

デイビット

LP:1200→200

手札:1→0

 

SATURN(サターン) FINAL(ファイナル)!!」

 土星の身から、土星の輪が消える。と同時に、その下に隠れていた大砲が顔を出した。

 同時に、胴体の下左右には、胸と同じ大砲が、上左右の両肩には、四連装のミサイルポットが出現する。

 彼の言葉通り、全てを破壊するための、正しく最終形態(ファイナル)の姿。

 

『The big SATURN』

 攻撃力2800+1000

 

「わー、派手だなー……」

「バトルだ!! 『The big SATURN』、『六武衆の露払い』を攻撃!!」

 土星の両肩から、ミサイルが全弾飛んでいく。同時に、胸、両足にある三つの大砲が、一斉に砲撃を行う。更に、自在に浮遊する巨大な両腕が飛んでいく。

 

end(エンド) of(オブ) COSMOS(コスモス)!!」

 

 それらの一斉の攻撃が、あずさの場に佇む、『六武衆の露払い』を跡形もなく消し飛ばした。

 

あずさ

LP:4000→1800

 

「ハハハハハハ!! ターンエンドだ!! SATURNの攻撃力は元に戻る!!」

 

 

デイビット・ラブ

LP:200

手札:0枚

場 :モンスター

   『The big SATURN』攻撃力2800

   『アンブッシュ・トークン』守備力0

   『アンブッシュ・トークン』守備力0

   『アンブッシュ・トークン』守備力0

   『アンブッシュ・トークン』守備力0

   魔法・罠

    無し

 

あずさ

LP:1800

手札:0枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800+300

   『六武衆-ヤイチ』攻撃力1300

   魔法・罠

   『六部の門』武士道カウンター:2

    無し

 

 

「さあ、どうする? 『高速詠唱』を使用した次のターン、貴様は魔法カードを発動できない。『六武衆の露払い』も消えた今、こちらのSATURNを倒す手段があるか?」

「……ドロー」

 

あずさ

手札:0→1

 

「……まあ、最後の負けん気だけは、認めてあげる」

「は?」

「それだけ負けず嫌いで、今まで努力してきたのなら、そんな得体の知れない奴らのカードに頼んなくたって、強くなれるよ」

「……」

 

「チューナーモンスター『ブライ・シンクロン』召喚!」

 

『ブライ・シンクロン』チューナー

 レベル4

 攻撃力1500

 

「正直、君とは縁もゆかりも無いし、態度も偉そうだしで、邪神の効果さえ分かれば、後はどうでもいいって思ってたけど……ちょうどいいモンスターも引けたし、ここで見捨てるのも可哀そうだから、助けてあげる」

「……」

 

「レベル4の『真六武衆-キザン』に、レベル4の『ブライ・シンクロン』をチューニング!」

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる。光さす道となれ!」

「シンクロ召喚! 飛翔せよ『閃珖竜(せんこうりゅう) スターダスト』!!」

 

閃珖竜(せんこうりゅう) スターダスト』シンクロ

 レベル8

 攻撃力2500

 

「シンクロ、召喚?」

「シンクロ素材になった『ブライ・シンクロン』の効果! このターンのエンドフェイズ時まで、スターダストの効果を無効にして、代わりに攻撃力を600アップする」

 

『閃珖竜 スターダスト』

 攻撃力2500+600

 

「バトル! 『閃珖竜 スターダスト』で、『The big SATURN』を攻撃!」

 緑色のジェット機の戦士の力を受けた、純白に輝く閃珖の竜。

 その口に光のエネルギーを貯めていき、それを、一気に放出した。

 

流星閃撃(シューティング・ブラスト)!!」

 

「……」

 

デイビット・ラブ

LP:200→0

 

 

 ライフがゼロになったと同時に石ころが砕け、その場にひざまずき、うな垂れている。

 デッキを確認した後は、そんな少年に向かって、言葉を送った。

「リベンジがしたいなら、いつでもおいで。さっき言った通り、君なら、あんなカード無くたって、もっともっと強くなれる。そうなるの、待ってるからさ!」

「……」

 満面の笑みでのあずさの言葉に、デイビットが返すことはない。

 その言葉が届いたかどうか。あずさに確かめるすべはない。

 だからただ、歩き始めた。

 

(機械族使いの男の子……星華さんの方が、ずっと強かったな)

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「ちぃ……っ!」

「ターンエンド」

 

 

星華

LP:7200

手札:4枚

場 :モンスター

   『マシンナーズ・メガフォーム』攻撃力2600

   魔法・罠

    永続魔法『機甲部隊の最前線』

    セット

 

リッチー・マーセッド

LP:1500

手札:2枚

場 :モンスター

   『ツイン・ガンファイター』攻撃力1600

   魔法・罠

    無し

 

 

「これが、現カードプロフェッサーギルドのランク一位だと? ガッカリだ。昨日闘ったデプレの方がまだ歯ごたえがあった」

「ぐぅ……!」

 星華の言葉に歯噛みしながらも、事実である以上否定もできない。

「貴様のデッキ、レベルや攻撃力が低い代わりに、強力な効果を持つ下級モンスターで攻め、魔法・罠で守る、テクニカル型のデッキ。私のデッキとの相性もあるだろうが、攻めの要であるはずのモンスターは単体の効果に頼りきりだ。モンスター間のシナジーも薄く、魔法・罠もマンパワー頼み。そんなもの、そこいらの大会の雑魚には通じても、私には通じん!」

「雑魚……雑魚、だと?」

「私のライフを削れもせず、どころかここまで回復させる始末。今の貴様が、雑魚でなければなんだ?」

 リッチーのデッキ。そのタイプを口にしながら、思い出した。

 下級モンスターを中心に、圧倒的な物量とテクで勝利してみせる決闘者。

(まあ、平家あずさと比べてしまえば、大抵の決闘者は雑魚となってしまうが……)

 

 そんな星華の言葉を受けて、リッチーの身が、ワナワナと震え出した。

「俺が、雑魚……泣き虫星華の分際で、俺を……この、カードプロフェッサーギルドランク一位の俺様を、雑魚……」

 しばらく震えた後で、上げた顔は、強烈な形相を浮かべていた。

 

「調子に乗ってんじゃねえ!! ドロー!!」

 

リッチー・マーセッド

手札:2→3

 

「来た……魔法カード『簡易融合(インスタントフュージョン)』! ライフを1000払い、融合デッキからレベル5以下の融合モンスター一体を特殊召喚する! 俺が呼び出すのは、レベル1の『LL(リリカル・ルスキニア)-インディペンデント・ナイチンゲール』!!」

 

リッチー・マーセッド

LP:1900→900

 

 リッチーのフィールドに、いくつもの羽毛が舞う。

 そんな羽毛を散らしながら、青い翼はためかせ、黄色と赤のドレスに身を包んだ青い肌の鳥人は、フィールドに舞いながら地上に降り立った。

 

LL(リリカル・ルスキニア)-インディペンデント・ナイチンゲール』融合

 レベル1

 攻撃力1000

 

「リリカル……なんだ? 聞いたことが無いモンスターだ……」

「『簡易融合』の効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊される……インディペンデント・ナイチンゲールは、こいつ自身のレベルの500倍、攻撃力をアップし、更に他のカードの効果を受けねぇ」

 

『LL-インディペンデント・ナイチンゲール』

 攻撃力1000+500

 

「更に、一ターンに一度、自分のメインフェイズ、こいつ自身のレベルの500倍のダメージを与える。こいつのレベルは1、500のダメージを喰らいな!」

 青色のその身で舞い踊り、再び羽毛をまき散らす。その羽毛を星華めがけて飛ばした。

 

星華

LP:7200→6700

 

「……ショボいダメージだな。わざわざエンドフェイズに破壊されてまで呼び出す価値のあるモンスターなのか?」

「ああ、あるぜ。破壊される前に使っちまうんだからな」

「なに?」

 

「インディペンデント・ナイチンゲールを生贄に捧げ……現れな! 『The tyrant NEPTUNE(ザ・タイラント・ネプチューン)』!!」

 まるで幽鬼のように、影でできた、ワニの頭が顔を出す。

 その頭の下は、頑強なる鎧を着こんだ、屈強な肉体を備えていた。

 太っとい両腕には、巨大な死神の鎌を構えているが、腰から下、下半身は、ワニらしい四足と、硬いウロコ、そして長い長い胴体と尾。

 幽霊にも、死神にも見えてしまう存在だが、それは間切れも無い凶悪なるワニだった。

 

The tyrant NEPTUNE(ザ・タイラント・ネプチューン)

 レベル10

 攻撃力0

 

「レベル10のモンスターを、生贄一体で召喚だと!?」

「こいつは生贄一体で生贄召喚ができるんだよ」

「……だが、攻撃力が0だと? 一体、何があるというのだ……?」

「まずは、『The tyrant NEPTUNE』、召喚時の効果だ。こいつの攻守は、生贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力と守備力を合計した数値となる」

 

『The tyrant NEPTUNE』

 攻撃力0+1000

 守備力0+0

 

「だが、生贄一体ではその数値もタカが知れている。たったのそれだけでは、呼び出す価値があるとは思えんが?」

「当然だ。こいつの恐ろしさはここからだぜ。NEPTUNEの効果! こいつの生贄召喚に成功した時、墓地に存在する生贄に捧げたモンスター一体を選択、そいつと同名モンスターとして扱い、同じ効果を得る」

「……ん?」

 そこで星華は、思い出す。

「待て、今生贄に捧げたモンスターって……まさか!」

「星華のくせに、察しが良いじゃねーか。そうだ! 対象にするのは、『LL-インディペンデント・ナイチンゲール』!!」

 ワニの暴君の前に、半透明の青い鳥が浮かび上がる。影でできたワニの頭は、それに喰らい付き、粉々に噛み砕いた。

 

『LL-インディペンデント・ナイチンゲール(『The tyrant NEPTUNE』)』

 攻撃力0+1000

 

「インディペンデント・ナイチンゲールの効果! こいつの攻撃力は、こいつ自身のレベルの500倍アップする!」

「NEPTUNE自身のレベルは、10……!」

 驚愕する星華の前で、ワニの暴君が全身に力を込める。

 それは十個のエネルギーとして表面に現れ、そのエネルギーが、暴君へと吸い込まれていく

 

『The tyrant NEPTUNE』

 攻撃力0+1000+500×10

 

「攻撃力6000だと!?」

「まだだ。こいつは他のカード効果を受けなくなる。そして、覚えてるか? 一ターンに一度、こいつのレベルの500倍のダメージを相手に与える。レベル10、5000ポイントのダメージを喰らいな!!」

 巨大なワニの身から、半透明の鳥が浮かび上がる。美しい青色の鳥だった。

 そんな青い鳥が全身を震わせ、羽毛を辺りにまき散らす。

 羽毛はしばらく、無造作に空間を漂っていた。そこへ、暴君たるワニが咆哮を上げる。

 星華に向かって吠えた瞬間、無数の羽毛は星華へ向かって飛んでいった。

「ぐおおおおおお……!!」

 

星華

LP:6700→1700

 

「形成逆転だな……もう一つ、こいつをプレゼントしてやるぜ。装備魔法『魔界の足枷』を『マシンナーズ・メガフォーム』に装備!」

 星華の前に仁王立ちする、巨大な機械の巨人の脚に、不気味な顔の掘られた黒い鉄球が繋がれた。と同時に、力強く立っていた巨人が突然、力が抜けたように傾いてしまう。

「こいつを装備したモンスターの攻撃力と守備力は100になる」

「なんだと!?」

 

『マシンナーズ・メガフォーム』

 攻撃力2600→100

 守備力1500→100

 

「完膚なきまでにぶっ潰す……バトルだ! 『The tyrant NEPTUNE』で、『マシンナーズ・メガフォーム』に攻撃! Sickle of ruin(シクル・オブ・ルーイン)!!」

 暴君たるワニが両手の大鎌を振り上げ、青い羽根を散らしながらその巨体で走り抜ける……

「罠発動『和睦の使者』! このターン、私のモンスターは戦闘では破壊されず、私への戦闘ダメージはゼロとなる!」

 全力で振り下ろされた大鎌を、はじき返される。暴君の前には、いつの間にやら青い衣の修道女達が並んでいた。

「ほぉ……だが、関係無ぇ。『ツイン・ガンファイター』で、『マシンナーズ・メガフォーム』を攻撃! ダブルファイア!」

 暴君の隣に立つ、ガンマンの二丁拳銃が火を噴く。

 一発は、青色の修道女達によって阻まれたが……

「ぐぁ……!!」

 

星華

LP:1700→100

 

「『ツイン・ガンファイター』がモンスターを攻撃した時、戦闘ダメージとは別にこいつ自身の攻撃力分の効果ダメージを相手に与える。二丁拳銃の一つは、常に貴様の胸に照準されているってわけだ。むははははは!! ターンエンドだ!」

 

 

リッチー・マーセッド

LP:900

手札:0枚

場 :モンスター

   『The tyrant NEPTUNE』攻撃力0+1000+500×10

   『ツイン・ガンファイター』攻撃力1600

   魔法・罠

    装備魔法『魔界の足枷』

 

星華

LP:100

手札:4枚

場 :モンスター

   『マシンナーズ・メガフォーム』攻撃力100

   魔法・罠

    永続魔法『機甲部隊の最前線』

 

 

「ちなみに、『魔界の足枷』が装備されている限り、俺のスタンバイフェイズが来る度、お前のライフに500ポイントのダメージを与える効果がある」

「……」

「さあ、どうするんだ? こっちは攻撃力6000、カード効果も受けず、おまけに毎ターン5000のダメージを与えられる『The tyrant NEPTUNE』がいる。守りを固めたところで、戦闘さえ仕掛ければ必ずダメージを与える『ツイン・ガンファイター』に、俺のターンで毎回500のダメージを与える『魔界の足枷』もある。せっかく増えてたテメェのライフも、たった一ターンで僅か100」

「……」

「分かったかよ! これが俺とお前の差だ! 俺達を置いて逃げ出した挙げ句、ぬるま湯みてーな平和な島国でヌクヌクと生きてきたテメーと、生きるか死ぬかの裏の世界で、闘い続けてきた俺との実力の差だ! 少しは身の程とやらが分かったかよ!! お嬢ちゃんよぉ!?」

「……」

「帰ったらテメェの親父に報告しとけ。テメェが捨てたカードプロフェッサーは、わたしでは勝てないくらい強くなってましたーってなぁ!」

 

「……父なら死んだ」

 

「……ああん?」

「……ドロー」

 

星華

手札:4→5

 

「……知っているか?」

「あ?」

「カードの効果を受けない。だがそれは、決闘のルールを無視できるわけではない、ということだ」

「んなこたぁ知ってる。決闘の常識だ。何が言いたい?」

「私からもプレゼントだ」

 手札の一枚を、星華はリッチーに投げてよこした。

「お前の場の『The tyrant NEPTUNE』を生贄に捧げ、『サタンクロース』を貴様の場に守備表示で特殊召喚する」

「なんだと!?」

 ワニの暴君が、青い羽根を散らしながら光と消える。そこへ、白い袋を背負った赤色の悪魔が、ふてぶてしく胡坐をかいた。

 

『サタンクロース』

 レベル6

 守備力2500

 

「この生贄はコストとして扱われる。コストは効果として無視することはできない」

「て、テメェ……!」

「加えて、『魔界の足枷』だったな……『マシンナーズ・メガフォーム』を生贄に捧げることで、手札、デッキからメガフォームを除く『マシンナーズ』一体を特殊召喚する。少し勿体ないが……私はデッキから、『マシンナーズ・ギアフレーム』を特殊召喚する」

 

『マシンナーズ・ギアフレーム』

 レベル4

 攻撃力1800

 

「特殊召喚だから効果は使えんがな……更に、ユニオンモンスター『強化支援メカ・ヘビーウェポン』を召喚」

 

『強化支援メカ・ヘビーウェポン』ユニオン

 レベル3

 攻撃力500

 

「こいつを、機械族のギアフレームに装備。好守を500アップする」

 

『マシンナーズ・ギアフレーム』

 攻撃力1800+500

 守備力0+500

 

「くぅ……!」

「バトルだ! 『マシンナーズ・ギアフレーム』で、『ツイン・ガンファイター』を攻撃!」

 ヘビーウェポンと合体したオレンジ色の機械人。その鉄拳が、二丁拳銃のガンマンをぶっ飛ばし、破壊した。

 

リッチー・マーセッド

LP:900→200

 

「一枚カードを伏せ、ターンエンド。この瞬間、自身の効果で特殊召喚された『サタンクロース』の効果で、お前はカードを一枚ドローできる」

「……」

 

リッチー・マーセッド

手札:0→1

 

 

星華

LP:100

手札:2枚

場 :モンスター

   『マシンナーズ・ギアフレーム』攻撃力1800+500

   魔法・罠

    永続魔法『機甲部隊の最前線』

    ユニオン『強化支援メカ・ヘビーウェポン』

    セット

 

リッチー・マーセッド

LP:200

手札:1枚

場 :モンスター

   『サタンクロース』守備力2500

   魔法・罠

    無し

 

 

「……」

 ターンを迎えたというのに、リッチーは動かない。

 だが、星華は既に気付いている。

 リッチーの左耳のイヤリングから、暴君を召喚した時以上の、どす黒い闇が漏れ出ていることに。

「……ドロー」

 

リッチー

手札:1→2

 

「……このスタンバイフェイズ、俺の場に魔法・罠カードが無いことで、墓地に眠る『黄泉ガエル』を特殊召喚する」

 

『黄泉ガエル』

 レベル1

 守備力100

 

「ほぅ……いつのまにそんなカードが?」

 星華の呼びかけには、答えない。ただ淡々と、カードをプレイするだけ。

「魔法カード『デビルズ・サンクチュアリ』……『メタルデビル・トークン』を特殊召喚する」

 

『メタルデビル・トークン』トークン

 レベル1

 攻撃力0

 

「やはりな……」

 入っていなければ、決闘自体は楽に勝てる。だが、持っていてもらわなければ、星華としては困る。

(しかし、惑星だけで意識を奪われていない辺り、デプレに比べれば強い部分、と言うべきなのだろうな……)

 

「『黄泉ガエル』、メタルデビル、『サタンクロース』の三体を生贄に捧げる!」

 リッチーの前の三体のモンスターが消えていく。

 と同時に、彼にまとわりつく闇が大きく、力強く変わっていく。

 

「現れな! 『邪神ドレッド・ルート』!!」

 その闇を払い、現れる。闇より更に暗く、全てを踏みしだく遥かなる巨神……

 

「こいつは……これが、二体目の邪神……一体、どんな効果が……?」

「こいつが場に存在する限り、こいつを除く全てのモンスターの攻撃力を半分にする」

「攻撃力が半分だと!? 他には?」

「ククク……安心しな。こいつの効果はそれ一つだけだ」

「そうか。分かった……ならもういい」

「あん?」

 

「カウンター罠『神の宣告』! ライフを半分払い、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を無効にし、破壊する」

「な……に……?」

 

星華

LP:100→50

 

 リッチーが闇に呑まれる前に、決闘ディスクから邪神のカードが飛び出す。現れていた緑色の巨体が、闇と共に呆気なく消えていった。

「ば、バカな……!!」

「たとえ神であろうが、フィールドに召喚されなければ、ただのカードということだな……」

 語りながら、拳銃を取り出した。

 と同時に、ディスクから飛び出した、『THE DEVILS DREAD-ROOT』のカードを撃ち抜いた。

「まだなにかあるか?」

「……ターン、エンド……」

 

 

リッチー・マーセッド

LP:200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

星華

LP:50

手札:2枚

場 :モンスター

   『マシンナーズ・ギアフレーム』攻撃力1800+500

   魔法・罠

    永続魔法『機甲部隊の最前線』

    ユニオン『強化支援メカ・ヘビーウェポン』

 

 

「ドロー」

 

星華

手札:2→3

 

「さて……正直、お前など、どうなろうが知ったことでは無いのだがな……昔のよしみだ。解放してやる。チューナーモンスター『リサイクル・ジェネクス』を召喚」

 

『リサイクル・ジェネクス』チューナー

 レベル1

 守備力400

 

「ギアフレームに装備された、ヘビーウェポンの装備を解除。特殊召喚する」

 

『強化支援メカ・ヘビーウェポン』ユニオン

 レベル3

 守備力500

 

「レベル4のギアフレームと、レベル3のヘビーウェポンに、レベル1の『リサイクル・ジェネクス』をチューニング!」

「……」

 

「王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見るがいい」

「シンクロ召喚! 我が魂『琰魔竜 レッド・デーモン』!」

 

『琰魔竜 レッド・デーモン』シンクロ

 レベル8

 攻撃力3000

 

 燃え上がる闇の炎。その炎を振り払い、咆哮を上げる琰魔の竜。

「バトルだ! レッド・デーモンの攻撃、極獄の絶対独断(アブソリュート・ヘル・ドグマ)!」

 無言でたたずむのみのリッチーに、その巨大な黒き炎の拳は叩き込まれ、イヤリングを粉々にした。

 

リッチー・マーセッド

LP:200→0

 

 

「ふむ……確かに、効果はさっき言っていた一つだけのようだな」

 撃ち抜いた邪神のカードを拾い上げ、テキストを読み上げる。

 デザイン部分には穴が空き、焦げているものの、テキストは問題なく読める。それを解読した結果、リッチーの言っていたことが真実だったと理解した。

「これで三邪神のうち、二枚が分かった。三枚目は、どうやら持っていないらしいな」

 解読した邪神のカードを破り捨てつつ、去っていく。

 当然、リッチーのデッキも確認し、他に神のカードが無いことは確認済み。惑星のカード、『The tyrant NEPTUNE』もしっかり回収した。

 これで本当に、この男に一切の用は無くなった。

 

 

「奴らを操っている、黒幕は一体どいつだ……いつ現れる? そして、邪神の最後の一枚の力は一体……」

 

 

「分かんないことばっかり……けど、関係ない。あいつらが、梓くんのこと、狙ってるのは間違いないんだから……」

 

 

「梓は……」

 

「梓くんは……」

 

(わたし)が守る!』

 

 ……

 …………

 ………………

 

『……』

 二人の少女が、同じ決意を言葉にしているのと同じ時。

 梓らが見ていたテレビの、決闘の決着がついていた。

「なんだ? 一体……」

「何が、起こったの?」

 だがそれは、決着がついた、とは違う。

 チャンピオンと挑戦者、二人の決闘の最中、突然何も映らなくなった。

 それは、チャンピオンが、何やらモンスターを呼びだした瞬間だったように見えた。

 

『梓、今のって……』

(ええ……私も何か、得体の知れない、不吉なものを感じた……)

 

「どういうことなノーね?」

「何が起きたのでアール?」

 

「喋るな」

 

『……』

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「さあ行くぞ。夜行……」

「ああ……二人が到着するまでに、終わらせてみせるぞ。月行……」

 

 暗躍する者達……

 

 

「オージーンよ。遊城十代から鍵を取り戻すのだ」

「は! 私にお任せを。斎王様……」

 

 動き出す黒幕……

 

 

「DD? DD?」

 

「来たか……エド」

 

 変貌した決闘者……

 

 

 彼らの運命は回り出し、もはや、終着まで止まることは決してない……

 

 

 

 




お疲れ~。

はっきり言う……
KONAMIが悪い……
少なくとも、暴君は何も悪いことしてない。
君が罪に問われる謂れなんぞ、何も無いんぜ……
解放されるには、リリカルの方を正規融合素材必須にするか、リリース不可の効果を付けるくらいしか無いかなぁ……


すったらところで、オリカ行こ~。



『プロトタイプ・チェンジ』
 通常魔法
 自分フィールド上に存在する機械族モンスター1体を生け贄に捧げて発動する。
 自分の墓地から機械族モンスター1体を特殊召喚する。

漫画版GXにて、デイビットが使用。
通常魔法で機械族限定の『戦線復活の代償』。
機械族でならそら色々使い道あろうけど、コスト払わんとも蘇生できるカードも多いから微妙な所よな。
まあそれでも、代償と違って通常魔法ゆえの完全蘇生な点は魅力的じゃなかろうか?


『バックアタック・アンブッシュ』
 通常罠
 相手モンスターが攻撃してきた時に発動できる。
 バトルフェイズを終了し、自分フィールド上に「アンブッシュ・トークン」(戦士族・地・星1・攻/守100)を、相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターの数だけ特殊召喚する。
 バトルフェイズ終了後のメインフェイズ2開始時、「アンブッシュ・トークン」を任意の数生け贄に捧げる事で、生け贄に捧げた数×500ポイントダメージを相手に与えることができる。

遊戯王5D'sにて、ロットンが使用。
罠だから伏せにゃならんし状況にもよるけど、完全に『バトルフェーダー』の上位互換。
オマケにトークンリリースしてバーンするかは任意で決められるから、終盤で相手にトドメ刺すもよし、アドバンス召喚にシンクロ召喚、今ならリンク召喚で悪さし放題。
アニメ放映当時からも言われちゃいたが、強すぎだ。


『高速詠唱』
 通常罠
 手札の通常魔法カード1枚を墓地へ送って発動できる。
 このカードの効果は、その通常魔法カード発動時の効果と同じになる。
 次の自分のターン、自分は魔法カードを発動できない。

劇場版『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』にて、海場が使用。
普通は発動できない通常魔法を相手ターンでも使えるのは単純に強力。
ブラホとか地砕きはもちろんだし、装備やらペンデュラムで強化してるなら攻撃時に羽箒とか。
次のターンに魔法は使えなくなるが、場面によってはその価値は十分あろうね。


『ツイン・ガンファイター』
 レベル4
 地属性 戦士族
 攻撃力1600 守備力1000
 このカードが相手モンスターに攻撃した時、このカードの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

遊戯王Rにて、リッチー・マーセッドが使用。
戦闘を介す必要はあるけど、戦闘さえすりゃあ必ず相手に1600、強化してりゃあそれ以上のダメージを与えられる。
装備やらなにやらで強化しつつ、攻撃表示で弱体化させた相手モンスターを攻撃すりゃあワンキルとて夢じゃない。
これもかなり凶悪なモンスターと言えような。



以上。
つ~ことで、どうにか年内に五日目終了。
まあ、話はまだまだ続くんだがよ。
完結できるんかね、これ……

それでも書いてはいくからよ。
次話まで待ってて。

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