遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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ああああああああああ……

ちと、本編がシンドくなってきたから、ここらで箸休めの回入れますら。
本当は第三部完! してから書こうと思ってたけど、終わりが見えんので……

時系列的には、ジェネックス終了後のいつぞやです。

内容はまあ、タイトルで察しておくれ……

そんじゃ、行ってらっしゃい。


※なお、作中の文章は、大海が彼女から語られた体験談を元に文章化したフィクションである。



特別編 天上院は動かない

 私の名は天上院明日香。

 決闘者をやっている……と言っても、今はまだ、決闘アカデミアの学生。年齢としては、世間一般で言う高校二年生。職業はまだ検討段階といったところだ。

 

 自慢じゃあないが、生徒の中では実力者として位置づけられている。

 成績も決闘の実力も上位なのに加え、自分で言うのも何だが、容姿にも恵まれ、男子から、その上女子からすらもててしまっている。

 友人にも恵まれているし、最近になって恋人もできた。既に二回セックスしている。

 ……まあ、さすがにセックスはウソだが……

 それでも毎日が充実しているし、平凡ながら幸せな日々を過ごしていると自分でも満足している。

 

 それだけの幸福を私に与えてくれた決闘モンスターズだが……

 当たり前だが、私も最初から決闘をやっていたわけじゃあない。

 今日に至るまでの、決闘モンスターズを始めることとなった、きっかけというものがある。

 

 そう。きっかけだ。

 

 スポーツを始めることを思い立った……習い事にかよおうと決めた……

 職業に興味を持った……夢を持つこととなった……

 

 内容や動機はどうあれ、何かを始めてみようと思い立つ時は、何事にも始まりとなる、『きっかけ』があるものだ。

 きっかけとは時に、一個人の日常はもちろん、生き方、人生さえも大きく左右する。

 何の自慢も取り柄も無い、読書と空想遊びが好きだった高校生のガキが、初めて自分で長めの小説を書いてみたら褒められたことから今に至るのは、偶然見つけて軽い気持ちで観た深夜アニメに感動したのをきっかけに、自分でも物語を考え、形にしてみたいと思ったから……というようにな。

 

 そんなふうに、私が決闘モンスターズを始めるに至ったきっかけ……

 

 今日君たちに話すのはそんな、きっかけの話だ。

 

 

 

episode1. 『きっかけ』

 

 

 

 話は今から八年ほど昔……小学校三年生。九つのころにさかのぼる。

 この歳にもなれば、男子は基本バカなままだが、女子は早い奴なら理性というものが芽生えだし、お洒落とか大人っぽさだとかを意識しだす奴なんかも現れ始めていた。

 そしてこの時には、二つ年上の兄と幼馴染は、とっくの昔に決闘モンスターズを始め、結構な才能と実力を発揮していた。

 

 だが当時の私は、決闘モンスターズには触れてすらいなかった。

 興味がなかったわけじゃあない。私のクラスにも、男子生徒の間では流行していた。

 だが、あるだろう? 特段手を出す理由も無いことに加えて、あまりに周囲がソレに対して熱狂し騒いでいたら、自分まで手を出そうとは思わなくなる、そんなことが。

 別に、私は他の奴らとは違うだとか流行りに興味は無いだとか、そんなふうに気取っていたかったわけじゃあない。

 ただ手を出したいとは思えなかった。それだけだ。

 

 私に限った話じゃあない。クラスの他の女子たちを見てみれば、理由は同じかは知らないが、男子達とは違い決闘には興味を示さず、むしろ、たかがカードゲームではしゃいじゃってと見下し、ダサいとバカにし嘲笑う奴もいたくらいだ。

 私は特にそんなことはしなかったものの、その気持ちは今でも分かる。言葉にせずとも、内心ではダサいと見下していたんだろう。九歳のガキの思考なんてそんなもんだ。

 もしかしたら、女子の中にはそんな空気のせいで、決闘で遊ぶに遊べない子達もいたかもしれない。そのくらい、男子と女子の間では、決闘モンスターズに対する感情には温度差があった。

 だから、兄や幼馴染がいくら私に決闘を勧めようと、やってみようとは思わず寂しい顔をさせたものだ。

 どの道、当時の私はそんなカードゲームよりも、高校生の主人公たちが、殺人鬼とかマフィアのボス、吸血鬼なんかと戦いを繰り広げる漫画に熱中していた……

 

 

 このころには既に、兄と幼馴染の二人は、まだ一年半は通う小学校の卒業後は、全寮制の決闘アカデミアへ入学することを決めていた。

 既に進路も夢もハッキリさせている年上二人のことをちょっと格好いいと思いつつ、私はと言えば、将来は普通に無難に、周りや近所の奴らと同じく、家から歩いて通える距離にある、地元の公立中学校にでも入学するんだろうなぁ……

 ヤツと出会ったのは、そうぼんやりと将来について考えていた、そんな時期のことだ。

 

 学校の帰り道、いつも通っている場所とは別の道に興味を示し、そっちを通ろうと思ったことはないか?

 既に見知っていて、別に近道ってわけでもない、何もないことが分かっている道でも、何となくそっちへ行きたいと感じる、そんなことってなかったかい?

 私もあった。その日も、特に理由とか、見たいものがあったわけじゃあないが、ただ何となく、そっちの道を通りたい気分だった。

 その道は裏路地の、周りをビルに囲まれた、開けた場所に続いていた。

 少し薄暗くて不気味な雰囲気もあり、普段はあまり人がやってこない場所だったが、開けていてそれなりに広いし、特に危険な物が落ちていることも無いから、隠れて遊んだり、決闘をしたりするには絶好の場所だった。

 

 そんな場所で、ソイツは決闘をしていた。

 当時としても、公園とか道端で決闘しているのを見かけることは珍しいことじゃあない。だから、最初は私も無視してさっさと帰ろうとした。

 だというのに、なぜか、ソイツの決闘には惹かれた。

 相手をしていた男達は、いかにもモブキャラ臭い雑魚集団だったものの、ソイツは何というか、佇まいというか、雰囲気というか、そういうのが、相手している雑魚や、兄や幼馴染、テレビでチラ見した程度しかないプロ決闘者とも、明らかに違っていた。

 身長は、今思えば普通だった気もするが、当時の私から見れば、スラリと背の高い、格好いい人だという印象だった。

 赤い服を着て、顔や頭は、目深にかぶった赤色の帽子で隠している。

 そんな、おそらく男の決闘者だ。

 

 

 ここで、おそらく、としたのには理由がある。

 服装も振る舞いも、わずかに見える顔立ちも、小さくはあったが聞こえてくる声も、明らかに男のそれだった。幼い私も、一目見て、コイツは男だと確信したくらいだ。

 それでもあえて、おそらくとした、その理由の説明は後でさせてもらう。

 

 

 そんな赤色帽子の少年の決闘は、圧巻、の一言に尽きた。

 ソイツには、集まっていた決闘者が次々に挑んでいったものの、全てを始まって五ターン以内、短ければ一ターンで決着を着けていた。

 私自身素人ながら、決闘のおおよその流れや良し悪しというものを理解はできる。兄や幼馴染の決闘をそばで見たりしていたからな。そんな程度なド素人の目から見ても、とにかくソイツの決闘と来たら、強かで鮮やかで、そのくせ圧倒的で容赦がない、なのに、素晴らしい決闘だった。

 

 結局、集まっていた全員を蹴散らして、ソイツ以外が全員逃げ帰っていった。

 一人残ったソイツに近づいて、私は尋ねた。

 

「あなたの名前は?」

 

「………………コナミ…………」

 

 

 こうして、私の小学生時代での、奇妙な日々が始まった。

 学校が終わったら、学校が無いなら朝っぱらから、必ずコナミを探し、その決闘を見学する。そんな日課が続いた。

 別に、年上の男に惚れただとか恋しただとか、そういった感情を持ち合わせていたわけじゃあない。ただ、いくら興味が無い事柄であれ、あまりに見事で鮮やかな様を見せられちゃあ、人間て奴は否が応にも興味をそそる。

 私がコナミの決闘を見たいと思った、ごく単純で下らない理由がそれだ。

 惹きつけられるその決闘を、何度でも見たいと思ってしまったわけだ。

 

 ヤツを見つけ出すことはそう難しいことじゃあない。

 ヤツはいつでも、あの路地裏で決闘していたし、そこにいなくとも、人目につかない、だが決闘するには十分な、開けた場所に当たりを付けて探せば、簡単に見つけることができた。

 そして、少なくとも私が見ていた決闘で、ソイツが敗けたことは一度も無かった。

 今思えば、本当にそんなカードがあったのかと、私自身の正気と記憶力を疑うような、あり得ないカードを使っていた覚えもあるが、リベンジに燃えてやってきた、あるいは噂を聞きつけ集まってきた荒くれ者たちを、ソイツは片っ端から圧倒していった。

 

 全員を倒し、一人になった後は、必ずしばらくその場に残り、デッキの編集やら調整やらを行っていた。

 それに、私も付き添っていた。

 と言っても、カードのことを何も知らない私にできることがあるわけもない。まして、人様のカードに触ろうだなんて思うわけがない。ただ、ヤツがカードを弄る様をジッと見ている。それだけだ。

 特に何かを話したことはない。ソイツも何も言わなかったし、私も、何も言わず、コナミが帰るまでそこでジッとしていた。

 

 一度だけ、名前を聞く以外で、ソイツと言葉を交わしたことがある。

 それは小学生のガキの考えそうな、素朴でバカな疑問だった。

 

「ねえ? 勝てる人しかいないのに、どうして、決闘ばっかしてるの?」

「…………」

 話しかけても、何も答えない。ソイツが誰かと話す時は、決まってこんなふうだ。

 

「勝てる人しかいなくなっても、決闘って、する意味あるの?」

「…………その時は、他へ行く……」

 そんな質問には、そう、短く静かに答えてくれた。

 

 それを聞いた時は、まあ、それはそうだよなぁ……そう感じた。

 そもそも、コイツが誰で、どこから来たかは誰も知らないんだ。この町に住んでるわけじゃあないなら、また別の町へ旅立つってことは十分にあり得る。

 だが同時に、ああ、とうとう、いなくなっちゃうんだなぁ……そう、寂しい気持ちにもなった。

 自覚は無かったが、コナミという決闘者の、少なくともこの町でのファン第一号になっちまった身として、ヤツにはこの町にずっといてほしい。そんなことを無意識のうちに願ってしまっていたんだろうな。

 そして、いつ出発するだとか聞いたわけじゃあないのに、それを聞いた私は、まるで明日にもコナミがこの町からいなくなっちまうんじゃあないか……そんなバカな考えに駆られてしまった。

 

 

 だからだ。あんなバカげた行動に走ることを考え付いたのは……

 

 

 コナミがいなくなっちまうっていうなら、それは仕方がない。引き留めることはできないし、それをする権利は私にはない。

 だが一つだけ、どうしても未練があった。

 大体予想できるだろう?

 そう。あの帽子の下は、どうなっているのか?

 いつも、端正ではあるが口元と鼻しか見えず、それより上。目とか、髪型とか、それはどうなっているのか、ずっと気になっていた。

 私以外にも、相手する決闘者には、帽子の下はどうなっているのかと聞きだそうとする奴もいた。中には無理くり引き剥がそうとした奴もいた。

 だがヤツは、頑なに帽子だけは死守していた。いつも無口で物静かで落ち着いた、そんな奴だったのに、帽子の下を見られそうになった時だけは慌てだして、決闘で蹴散らし頑として見せないようにしていた。

 

 そんな、ヤツの帽子の下は、一体どうなっているんだ……

 

 そんな好奇心と、もうすぐいなくなるという焦燥に駆られた私は、その日もコナミの決闘を見にいった。

 だが、いつもは近くに寄って見ていたものの、その日は隠れて陰から見ていた。

 相変わらず、圧倒的で鮮やかな、目を奪われる決闘だった。

 そしていつも通り、集まっていた決闘者を蹴散らして逃げ帰らせて、一人になった。

 コナミはいつも、一人になったら地べたに座り込んでカードを弄り出す。

 目の前に私がいようと、夢中でな。この時は、ちょっとやそっと声をかけた程度じゃあ気付かれないくらい集中していた。

 

 そんな、集中しているコナミに、ゆっくり、抜き足差し足で、息を殺し、物音を立てないようにじり寄り……

 

 

    ド

       ド

          ド

            ド

             ド

              ド

 

 

 バッ――

 

 

「……」

 それを見た瞬間、声が出なかった。声も出ず、体も動かせなくなった。

 見間違いかと思った。だからもう一度目をこすって、その部分を見てみたが……

 

 何度見ても結果は同じ。

 帽子を取ったその下には、髪型も、目も、なにも無かった(・・・・・・・)

 帽子の下に隠れていた部分。頭と後頭部と、顔の、鼻より上の部分。

 そこがまるで、帽子の形に合わせて輪切りにでもしたかのように、綺麗さっぱり消えていた。

 消えている部分の断面にすら何もなく、中身の無い虚空が広がっているだけ。

 まるで、帽子の下のそんな部分、最初から作られて(・・・・・・・・)などいなかった(・・・・・・・)かのように……

「あ……あ……」

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!??!!!!??!!!!」

 

 

「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!??!!!!??!!!!」

 

 

「あぁがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!??!!!!??!!!!」

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!??!!!!??!!!!」

 

 

「見られた!! 見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた!! 見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた!!!!!!!!」

 

 

「見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた観られた観られた観られた観られた観られた観られた観られた観られた観られた観られた観られた観られた観られた観られた観られたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタ!!!!??!!!!??!!!!」

 

 

「なんで俺がこの世界(・・・・)にいたのかは分からない!! だが、決闘に勝ち続けることと、この帽子の下だけは絶対に見られちゃあならないって、そんなルールだけはなぜだか知ってるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!??!!!!??!!!!」

 

 

 

 私が叫ぶよりも前に、いつも無口で冷静だったのがウソのように、両手で顔を隠しながら、裏路地の向こうの向こうまで聞こえてしまいそうな、そんな絶叫をした。

 ただでさえ帽子の下に衝撃を受けていた所に、そんな声と姿にビビっちまって涙が出たし、チビりそうにもなった。今すぐにでも逃げ出したかった。だが、それでも、震える身体を奮い立たせて、コナミに近づいた。

「こ、コナミ、落ち着いて……ほら、ここには、わたし以外誰もいない。わたししか、コナミの帽子の下は見てないし、誰にも言わないから。これ、帽子……」

 

 バシッ!!

 

「無駄だ!! 人数の問題じゃあない!! 見られちゃあならなかったんだ……見られた時点で、一人だろうが終わりなんだ……!!」

 

 

 

俺のコナミは(・・・・・・)!! ここで終わった(・・・・・・・)んだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

 

 

「コナミ――――――――――ッ!!」

 

 

 裏路地から走り去っていったコナミをすぐ追いかけたものの、既にどこにも姿は無かった。

 地面に落としていったはずの赤色帽子も、いつの間にやら消えていた。

 翌日からしばらく、ヤツのいそうな場所を片っ端から周ってみたものの、ヤツの姿を見ることは、二度と無かった……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 こんな不気味で奇妙な出来事と、私が決闘を始めるに至ったきっかけに、どんな関係があるんだって顔をしているな?

 だが、これがそのきっかけだ。私は、このコナミとの出会いをきっかけに、決闘を始めたんだ。

 わけが分からないって反応だが、きっかけって奴に内容は関係ない。デカい事件なこともあれば、些細だったり、どうってことのない、一見まるで関連性の見えない出来事なことだってあり得る。それが『きっかけ』だ。

 

 あの日からずっと、見てしまったコナミの帽子の下が頭から離れなかった。思い出すたびに怖くなり、震えもした。

 あんなに恐ろしいものを見たんだ。普通なら、余裕でトラウマになって、そのコナミがやっていた決闘なんて、もう見たくもないって思う所だろうな。だが私の場合、そんなもの以上に、消えたコナミに対する、罪悪感とか後悔なんかをずっと強く感じていた。

 もう二度と会うことは無いと、幼心に確信してはいたが、それでも、一目会って、一言謝りたい。帽子の下のことなんか関係なく、そう思っていた。

 決闘をしていれば、またヤツに会えるんじゃあないか?

 会えないにしても、ヤツのことが少しは分かるんじゃあないか?

 そう考えて、正直、恐怖や衝撃は消えないが、それでも私は、決闘モンスターズに手を伸ばした。

 

 理由や動機はどうあれ、兼ねてから私を決闘に誘いたがっていた兄は狂喜していたし、幼馴染も喜んでくれた。

 クラスの女どもから笑われたりもしたが無視したし、バカにしてくる奴がいれば、適当に一括してやったら何も言わなくなった。

 その結果、決闘の楽しさと奥深さ、そして生き甲斐に気付き、才能にも恵まれ、私も兄たちと同じく、決闘アカデミアへの入学を決め、そして今に至る。そういうわけだ。

 

 

 決闘を始めてから、コナミのことの代わりに、分かったことがある。

 それは、コナミのような決闘者の噂は、私のいた町に限らず、世界中で語り継がれている、という事実だ。

 せいぜい、物好きしか知らないような、都市伝説レベルの噂でしかないが、世界中でコナミと同じ、奇妙な決闘者は目撃されているらしい。

 共通していることは、赤い衣装に、赤い帽子で顔を隠した少年であること。無敗を誇るかなりの実力者だということ。そして、ある日突然、この世界から消滅してしまったかのように、跡形もなく姿を消してしまった、ということ。

 真偽のほどはどうあれ、そんな奴が、最も古い記録では、決闘者王国(デュエリストキングダム)の前後の時代から目撃されているらしい。

 

 ここからは私の勝手な推測だから、読み飛ばしてもらっても構わないが……

 『コナミ』という存在は、実は一人じゃないんじゃあないか、という推測だ。

 消える直前、ヤツはこう叫んでいた。

 

「なぜこの世界にいたのか分からない」

 

 かなり単純ではあるが、ヤツはこの、今私達のいる世界とは、別の世界からやってきたんじゃあないか。そう思った。

 そして、過去にもそんな奴が大勢いて、ソイツらは全員、赤い衣装に赤い帽子をかぶった少年の姿で、決闘者としてこの世界に生まれ変わったんじゃあないか。

 そして、ソイツらがこの世界で生きていく条件が、決闘に勝ち続けること。そして、決して帽子の下を他人に見られないこと。

 私が出会ったコナミは、私に帽子の下を見られた。だから叫んだんだ。「俺のコナミはここで終わったんだ」と。

 そんなふうに、二つのルールの内どちらかを守れなかったから、奴らは突然姿を消し、そして、消えればまた、新たなコナミが生まれて決闘をする……

 

 信じてもらえるなんて思っちゃいない。

 自分でもバカみたいな考えだと思っている。仮にこんなシステムが実際にあったとして、そもそも何のためにあるのか理解不能だ。

 だがこのシステムに当てはめて考えれば、いくつもの疑問や矛盾点はあるにせよ、コナミの言動と消えた理由には説明がつく。

 帽子の下の顔は、無くなってたんじゃあない。ただ無かった。同じ姿と同じ見た目で生まれてくる。そんなシステムの都合上、帽子の下など最初から用意され(・・・・・・・・)ていなかったんだ(・・・・・・・・)

 男か女か。それが分からないと言った理由がこれだ。全員が例外なく少年の姿に生まれ変わる上、顔が無いとあっては、本当の性別を、安易に男だとは決めつけられない。

 生まれ変わる前の性別なんて、たとえ腕を組もうが確かめるすべは無いんだからな……

 

 

 

 なぜ今になって、ずっと忘れていたそんな話を思い出し、君たちに語ろうと思い立ったかは、正直、私自身にも分からない。

 だが少なくとも、私は今、決闘をすることで幸福を感じている。

 

 だからこそ、誰かに知ってほしかったのかもしれない。

 

 私が決闘を始める代わりに消えていった、一人の決闘者の話……

 私が決闘を始めるに至った、そのきっかけとなる、罪と後悔の話……

 

 過去から今の私に至る、その『きっかけ』の話を……

 

 

「おーい! 明日香! 何やってんだー?」

 

「あ! 十代//// 今行くわ~~~~~~~~~♪////////」

 

 

 チャン♪ チャン♪

 

 

 

 




お疲れ~。

帽子の下、最初は普通にしようかと思ったけど、こっちの方がコナミらしいと思ったので顔失くした……

つ~ことで、次話から本編書いてくでな。
それまで待ってて。

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