遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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うぅぅぁぁ……

決着やゃゃゃぅぅ……

行ってらっしゃゃゃ……ぃ



    朝からのできごと

視点:外

 

(正直なところ、予想以上だ……)

 ポプラとの決闘の最中、梓はそう感じていた。

(ラスボスを自称するだけはある。一つのターン、一枚のカード、それら全てにおいて気が抜けない……)

 もちろん、梓自身、残った二つのデッキの強さから、それを使う相手を見くびっていたわけでも、侮っていたわけでも、まして、油断していたわけでもない。

 実際、実力的には圧倒的に自分に劣る、楓や椛の相手をした時も、全力を出し、容赦なく叩き潰した。

 それができてしまうだけの実力の差に、多少の落胆を感じたとしても、それが変わることはない。実際、亮との決闘でも、そうして全力を出したのだから。

 

 そして今、闘っている相手。

 亮と同等、もしくはそれ以上の実力と、運すら味方につけた本物の強さで、ターンを迎える度に梓のモンスターを全滅させ、モンスターを並べて優位に立っている。

 それは、本人も言った通り、デッキやカードだけの強さではない。

 そのデッキやカード達の全力を存分に引き出せる、彼女自身の実力の高さに違いない。

(しかも、精霊と言い争ったり、多少の文句を叫びながらも、それだけのプライドと、デッキに選ばれた誇りを胸に、決闘に全力を尽くし、あまつさえ楽しんでいるのが伝わってくる)

 それほどの決闘者と、自分は今、闘っている。

 

(大変……面白くなってきた)

 

 

ポプラ

LP:2200

手札:2枚

場 :モンスター

   『XX-セイバー ガトムズ』攻撃力3100

   『ナチュル・ランドオルス』攻撃力2350

   『XX-セイバー フォルトロール』攻撃力2400

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

LP:2200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

 

「君の手札はゼロ。モンスターも無し。このターンでどうする?」

 

「……私のターン」

 

手札:0→1

 

 確かに、今の状況は梓にとって思わしくない。だが、

(決闘は、劣勢なくらいが最も面白い)

 劣勢をいかにして覆すか。それこそが、決闘の醍醐味なのだから。

 そして、それをするためには……

「こうします。墓地に眠る『フィッシュボーグ-プランター』の効果! このカードが墓地にある時、一度だけデッキの一番上のカードを墓地へ送り、水属性モンスターだった場合、特殊召喚する」

(効果の成功は不確定だけど、彼のことだから、きっと成功させてくる。そうなると、『生還の宝札』の効果でドローされるうえ、墓地の『フィッシュボーグ-ガンナー』の特殊召喚の条件も満たすことになる……仕方ない)

「『ナチュル・ランドオルス』の効果! 手札の魔法カード『神剣-フェニックスブレード』を墓地へ送って、そのモンスター効果の発動を無効にする!」

 

ポプラ

手札:2→1

 

「……では、これはどうです? 私の場にモンスターが存在しない時、手札の水属性モンスター『氷結界の水影』をコストに、墓地のチューナーモンスター『フィッシュボーグ-アーチャー』を特殊召喚!」

 

手札:1→0

 

『フィッシュボーグ-アーチャー』チューナー

 レベル3

 守備力300

 

「な……!」

「その残りの手札一枚は、レイジグラの効果で手札に戻した『XX-セイバー フォルトロール』。これ以上効果は使えない。宝札の効果で一枚ドロー」

 

手札:0→1

 

「続けて墓地の『フィッシュボーグ-ドクター』の効果! 自分の場のモンスターが『フィッシュボーグ』のみの場合、メインフェイズに墓地のこのカードを特殊召喚できる」

 

『フィッシュボーグ-ドクター』

 レベル4

 守備力400

 

手札:1→2

 

「自分の場にフィッシュボーグ以外のモンスターが存在する時、『フィッシュボーグ-ドクター』は破壊されます。レベル4の『フィッシュボーグ-ドクター』に、レベル3の『フィッシュボーグ-アーチャー』をチューニング!」

 

「冷たき結界(ろうごく)にて研磨されし剣の汝。仇なす形の全てを砕く、冷刃災禍(れいじんさいか)の刃文龍」

「シンクロ召喚! 狩れ、『氷結界の龍 グングニール』!」

 

 大地が揺れ、亀裂が走る。

 そこから巨大な足を掛け、その巨体をフィールドに持ち上げ現れた。

 

『氷結界の龍 グングニール』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500

 

「自身の効果で特殊召喚した『フィッシュボーグ-ドクター』は、フィールドを離れたことで除外……バトルフェイズに入ります。この瞬間、特殊召喚されたアーチャーの効果で、水属性以外の私の場のモンスターが破壊される効果が発動しますが、水属性モンスターしかいないので不発となります。グングニールで、『ナチュル・ランドオルス』を攻撃! 崩落のブリザード・フォース!」

 グングニールの口から、冷たいエネルギーが飛んでいく。それを受けた神木の亀は、凍り付き、砕かれた。

 

ポプラ

LP:2200→2050

 

「メインフェイズ……」

 フィールド、手札を見て、すべきことを思考する。

(残りの手札は二枚……あの伏せカード、ここまで発動の機会が無いということは……)

 考えて、そして、結論が出た。

「グングニールの効果! 一ターンに一度、手札を二枚まで捨てることで、捨てた枚数だけ相手フィールドのカードを破壊できる。私は、手札一枚を捨て、『XX-セイバー ガトムズ』を破壊します!」

 

手札:2→1

 

 梓の手札一枚、それが光に代わり、グングニールの翼の一枚に吸収される。

 それを振い、飛んだ斬撃が、ポプラの場のガトムズを切り裂いた。

「チューナーモンスター『アンノウン・シンクロン』を召喚!」

 

『アンノウン・シンクロン』チューナー

 レベル1

 守備力0

 

「このタイミングで、チューナー?」

「私も、次のターンへの対策をさせていただく。レベル7のグングニールに、レベル1の闇属性『アンノウン・シンクロン』をチューニング!」

 いつもと同じ、シンクロ召喚の宣言。

 だが、その時の光景は、ポプラの知る物とは違っていた。

 星に変わった『アンノウン・シンクロン』が、グングニールの周囲を回る。

 それと同時に、グングニールの氷の体全体に、亀裂が走り、ひび割れ始めた。

 

「地獄と極楽、絶無を求めし時。無間へ轟く咆哮震わせ、狭間の界より羅刹(らせつ)は目覚める」

「シンクロ召喚! 現世(うつしよ)に無の裁きを……『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』!」

 

 冷たき龍の身が砕け散り、そこから闇が放出された。

 全てを飲み込み、包み込み、閉じ込める、それだけのことができるどす黒い闇を纏った、鬼の貌持つ闇の龍……

 

『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』シンクロ

 レベル8

 攻撃力3000

 

「これは……! これが、グングニールの、真の姿……?」

「私の手札はゼロ……『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』が場に存在する限り、私の手札がゼロである間、一ターンに一度だけ、相手の魔法・罠カードの発動を無効にし、破壊できます」

「そんな……!」

「これでターンエンドです」

 

 

LP:2200

手札:0枚

場 :モンスター

   『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

ポプラ

LP:2050

手札:1枚

場 :モンスター

   『XX-セイバー フォルトロール』攻撃力2400

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

 

「わたしのターン! ドロー!」

 

ポプラ

手札:1→2

 

「確かに厄介だけど、倒せない相手じゃない。フォルトロールの効果! 墓地の『X-セイバー パロムロ』を蘇生! 宝札の効果で一枚ドロー」

 

『X-セイバー パロムロ』チューナー

 レベル1

 守備力300

 

ポプラ

手札:2→3

 

「私の場にX-セイバー二体が存在することで、二体目のフォルトロールを特殊召喚!」

 

『XX-セイバー フォルトロール』

 レベル6

 攻撃力2400

 

「レベル6のフォルトロールに、レベル1のパロムロをチューニング!」

「シンクロ召喚! 冷徹なる七星将『X-セイバー ソウザ』!」

 

 二本の剣閃が走り抜け、その奥から、朽ちた赤色のマントと、今までに無い鈍い輝きが煌めいた。

 

『X-セイバー ソウザ』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500

 

「おわぁ! すごい顔……!」

「まだまだ! 二体目のフォルトロールの効果で、墓地のレイジグラを蘇生!」

 

『XX-セイバー レイジグラ』

 レベル1

 守備力1000

 

ポプラ

手札:2→3

 

「レイジグラの効果で、墓地のフォルトロールを手札に、そのまま特殊召喚!」

 

『XX-セイバー フォルトロール』

 レベル6

 攻撃力2400

 

「フォルトロールの効果! 再びパロムロを蘇生!」

 

『X-セイバー パロムロ』チューナー

 レベル1

 守備力300

 

ポプラ

手札:3→4

 

「レベル6のフォルトロールに、レベル1のパロムロをチューニング!」

「シンクロ召喚! 勇敢なる七星徒『X-セイバー ウルベルム』!」

 

 ソウザと同じく、鈍い煌めきと朽ちた赤いマント。だが、ソウザよりは細身な、兜を被った双剣士が現れた。

 

『X-セイバー ウルベルム』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2200

 

「二体のシンクロモンスターが……!」

「ここで、ソウザのモンスター効果! 自分フィールドのX-セイバー一体をリリースして、二つある効果のうち、一つを選んで適用する。レイジグラをリリース!」

 ソウザが両手に持つ、剣の一本で、レイジグラを貫いた。

 破壊され、降り注ぐレイジグラの光が、ソウザに力を与える。

「このターン、ソウザが戦闘を行うダメージステップ開始時、攻撃したモンスターを破壊する」

「……」

「バトル! 『X-セイバー ソウザ』で、『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』を攻撃! Xの剣閃-葬送の双斬刃!」

 ソウザが向かい、二本の剣を煉獄の龍に振う。

 攻撃力では敵わないはずのその龍を、冷徹なる剣閃で細切れとするために……

「墓地の『キラー・ラブカ』を除外、効果発動!」

 だがそこへ、梓の墓地から飛び出した黄色の何かが、ソウザの身を縛り付けた。

「これは……!」

「私のモンスターが攻撃された瞬間、墓地のこのカード除外することで、その攻撃を無効にし、次の私のターンまで攻撃力を500ポイント下げます」

 

『X-セイバー ソウザ』

 攻撃力2500-500

 

「そんなのまで墓地に……バトルは終了」

 思惑が外れたものの、もう一度、手札のカードを見て、すべきことを考えた。

(まずは、あの龍の効果を使わせる!)

「魔法カード発動『ライトニング・ボルテックス』!」

「それは!?」

「手札を一枚捨てて、相手フィールドの表側表示のモンスター、全てを破壊する」

 

ポプラ

手札:3→2

 

「く……やむを得ない。絶無裁(ゼロ・ジャッジメント)!」

 彼女が発動し、表示されたカードが、鬼の龍の鋭利な尾に貫かれ、破壊された。

「そうするしかないよね……罠発動『ガトムズの緊急指令』!」

 梓の思っていた通り、二枚目が発動された。

「復活して! 『XX-セイバー ヒュンレイ』! 『XX-セイバー ガトムズ』!」

 

『XX-セイバー ヒュンレイ』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2300

『XX-セイバー ガトムズ』シンクロ

 レベル9

 攻撃力3100

 

ポプラ

手札:2→3

 

「そして、『XX-セイバー フォルトロール』をリリース……全ての剣の力となれ『総剣司令 ガトムズ』!」

 彼らの中央に、再び黄金が輝いた。ガトムズよりも若く、だが力に溢れ、騎士道に生きる黄金の煌めきが、今までと同じ、紅きマントを躍らせながらそこに立った。

 

『総剣司令 ガトムズ』

 レベル6

 攻撃力2100

 

「『総剣司令 ガトムズ』の効果! このカードが存在する限り、私の場のセイバーの攻撃力は400ポイントアップする」

 

『X-セイバー ウルベルム』

 攻撃力2200+400

『X-セイバー ソウザ』

 攻撃力2500-500+400

『XX-セイバー ヒュンレイ』

 攻撃力2300+400

『XX-セイバー ガトムズ』

 攻撃力3100+400

 

「もう一枚、フィールド魔法『セイバー・ヴォールト』! X-セイバー達の攻撃力は、レベルの100倍アップして、守備力はレベルの100倍ダウンする!」

 ポプラの背後に、純白に輝く巨大な剣が突き刺さった。

 そこを中心に、自然豊かだった島の景色が、人工的に光り輝く、だが神聖な空間に変わっていく。

 剣を、剣の刺さる空間を、全てを崇めるために作り出されたその空間。

 その空間に満ちた光は、照らしだされた剣士たちの力を十二分に引き出した。

 

『X-セイバー ウルベルム』

 攻撃力2200+400+700

『X-セイバー ソウザ』

 攻撃力2500-500+400+700

『XX-セイバー ヒュンレイ』

 攻撃力2300+400+600

『XX-セイバー ガトムズ』

 攻撃力3100+400+900

 

「一気に攻撃力がアップした……!」

「どんなもんよ! その伏せカードが何か知らないけど、これだけの私の剣たち倒すことができるかな? ターンエンド」

 

 

ポプラ

LP:2050

手札:1枚

場 :モンスター

   『総剣司令 ガトムズ』攻撃力2100

   『X-セイバー ウルベルム』攻撃力2200+400+700

   『X-セイバー ソウザ』攻撃力2500-500+400+700

   『XX-セイバー ヒュンレイ』攻撃力2300+400+600

   『XX-セイバー ガトムズ』攻撃力3100+400+900

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    フィールド魔法『セイバー・ヴォールト』

 

LP:2200

手札:0枚

場 :モンスター

   『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

 

 

「……私のターン」

 

手札:0→1

 

(今ドローしたカード……フィールドのカード……これだけでは、少し足りんか)

 残されたカードでできることを考えて、出た結論がそれだった。

(彼女のフィールド……どのモンスターも、オーガ・ドラグーンを越えている。このターンでどうにかせねば、次のターンで確実にやられる。そうなれば……)

 

 ――もったいない……

 

 思考していた、それとは違う言葉が、心の奥底から聞こえてきた。

 

(もったいない?)

 

 

 

視点:梓

 

 ――私はまだまだやれる……もっともっと、決闘を楽しみたい。

 

 ……とは言え、この手札と残されたカードでは、限界がありますよ?

 

 ――大丈夫。私達なら、乗り越えられる。

 

 ……私、達……?

 

 ――私一人ではない。決闘を楽しんでいるのは……闘っているのは……そうでしょう?

 

 ……それは、そうでしょうが……

 

 ――そんな、私達が、こんな所で終わってしまうのは、実にもったいない。

 

 ……クス、確かに。

 

 ――私はまだまだ……

 

 ……そう。私はまだまだ……

 

 ――もっともっと……

 

 ……もっともっと……

 

 

 みんなと遊びたい。

 

 

 

視点:外

 

「な、なに……?」

 ポプラは、確かに目にした。

 見えないはずの、立ちはだかる決闘者の身から溢れ出る、直前とはまた違った、闇……

 

(修学旅行以来……いや、それより遥か以前から、忘れていたらしい。決闘とは本来、誰もが楽しく遊ぶために作られた、カードゲームだ。それが、復讐、使命、宿命、約束、それら背負ったもののために、いつからか、義務となり、責務となり、重荷となって、もっと単純で根本的な、楽しむという感情を、忘れていた)

 もちろん、梓としても、それが決して悪いことだとは思わない。

 復讐が、使命が、宿命が、約束が……

 それらを背負い、全うするために戦ってきたから、今の梓があり、こうして強い彼女とも戦うことができているのだから。

 だがそれでも、そんな複雑な物のために、あんなに大好きだった決闘を、楽しむことを忘れ、窮屈さを感じていたことは否めない。

 目の前の彼女は、あんなにも楽しそうに、全力の決闘をしてくれているのに……

 

(今までの決闘への思い、それを否定する気はない。だが今、この瞬間だけは……)

 

 楽しむために……

 彼女と一緒に、楽しく、遊ぶために……

 

「魔法カード『サルベージ』を発動。墓地に眠る攻撃力1500以下の水属性モンスター二体を手札に加えます。私が手札に加えるのは、『氷結界の水影』と『フィッシュボーグ-プランター』」

 

手札:0→2

 

「罠発動『戦線復帰』! 墓地に眠るモンスター一体を、守備表示で特殊召喚する。墓地より甦れ、『氷結界の龍 ブリューナク』! 宝札の効果で一枚ドロー!」

 

『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ

 レベル6

 守備力1400

 

手札:2→3

 

「ブリューナクの効果! 手札を任意の枚数墓地へ捨て、捨てた枚数だけフィールドのカードを手札に戻す。私は手札二枚を墓地へ捨て……」

「手札の『エフェクト・ヴェーラー』の効果! 相手ターンのメインフェイズ時にこのカードを墓地へ送って、このターン、ブリューナクの効果を無効にする!」

 

手札:3→1

 

ポプラ

手札:1→0

 

「おお、そんなカードを握っていましたか……少々予定は狂いましたが、まあ、良いでしょう。たった今墓地へ捨てた『フィッシュボーグ-プランター』の効果」

 つい今しがた、ブリューナクのコストとして墓地へ送ったモンスターの効果を宣言する。

「このカードが墓地にある限り一度だけ、デッキの一番上のカードを墓地へ送り、それが水属性モンスターであれば、墓地のこのカードを特殊召喚する」

 

『氷結界の水影』水属性モンスター

 

「効果は成功。よって、特殊召喚します」

 

『フィッシュボーグ-プランター』

 レベル2

 守備力200

 

「宝札の効果により、一枚ドロー」

 

手札:1→2

 

「私の場にレベル2の『フィッシュボーグ-プランター』が存在することで、手札を一枚墓地へ捨て、チューナーモンスター『フィッシュボーグ-ガンナー』を特殊召喚!」

 

『フィッシュボーグ-ガンナー』チューナー

 レベル1

 守備力200

 

手札:2→1→2

 

 梓がチューナーを呼び出した時……

 梓の身から、闇があふれ出すのが見えた。

 煉獄龍にも似ているが、それより更に透き通り、純粋で、無垢で……美しい。

 ただ黒く暗いはずの闇なのに、そんな感想が出てしまう。それほどの、ポプラでさえ見入ってしまうほどの、闇が……

 

「レベル6の『氷結界の龍 ブリューナク』に、レベル1の『フィッシュボーグ-ガンナー』をチューニング!」

 そしてまた、直前と似た光景が広がった。

 一つの星に変わる機械の魚。その星がブリューナクの周囲を回り、ブリューナクの氷の身に、亀裂が走り、ひび割れていく……

 

「真なる自由の闇、今交わりて、刹那の命となる……」

「シンクロ召喚! 降誕せよ『妖精竜 エンシェント』!」

 

 輝きを散らしながら溢れ出る闇と共に、氷の外皮が砕け飛び、そこから、更に長く伸びた身体が現れた。

 後ろ脚が失せた代わりに、長く、しなやかに伸びた前脚……否、それは、女性的な腕。

 そんな腕と、それが伸びる肩には、鎧以上の黄金と、鎧以上に赤く輝く宝石が散りばめられていた。

 頭部からは、緑色の長い髪。

 背の翼は、更に大きく、更に美しく、更に高く、更に自由に。そんな願いが込められた、妖精の名に相応しい巨大な羽。

 妖しげながらも優しげな、美しい瞳と表情を向けるその竜は、暗い闇の中から出でたはずなのに、何者よりも輝き、何者よりもその存在を主張しているよう。

 それはまさしく、闇夜に遊び、星空に舞う妖精のよう……

 

『妖精竜 エンシェント』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2100

 

「『妖精竜 エンシェント』……煉獄龍に似てる。けど、全然違うものを感じる。それに、すごく、きれい……」

「『妖精竜 エンシェント』の効果」

 ブリューナクより進化した、妖精竜の輝きに、しばし目と心奪われていたポプラの耳に、梓の声が届いたことで、決闘に目を戻した。

「一ターンに一度、フィールド魔法が存在する時、フィールド上に攻撃表示で存在するモンスター一体を破壊する」

「フィールド魔法……わ、わたしの『セイバー・ヴォールト』は、フィールド魔法!?」

 フィールドに広がる白き光が、闇から成る妖精竜を照らし出す。

 その光を吸収し、そして、反射された光が、ポプラの場の、『XX-セイバー ガトムズ』を照らし出した。

深葬の霊場(スピリット・ベリアル)!」

 光に照らされ、包まれたガトムズ。それは確かに彼に力を与えるはずの光だったのに、妖精竜の返したそれは、彼に力を与えることなく、どころかその身を焼き尽くし、消し去ってしまった。

「続いて、フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』発動!」

「うわぁ!?」

 ポプラが慌てふためくも、時すでに遅し。

 美しくも荘厳な、輝く大剣と厳粛な空間が、一気に海に沈んだ。

 海の底に沈み、空間は破壊され、その向こう側に、古代の岩石を掘り、削り、積み、作られた、失われた古代都市が、海中と化した空間の向こうに現れた。

 

『X-セイバー ウルベルム』

 攻撃力2200+400

『X-セイバー ソウザ』

 攻撃力2500-500+400

『XX-セイバー ヒュンレイ』

 攻撃力2300+400

 

『フィッシュボーグ-プランター』

 レベル2-1

 守備力200+200

 

「このカードが場に存在する限り、全ての手札、フィールド上の水属性モンスターのレベルを一つ下げ、攻撃力と守備力は200アップさせる。更に、エンシェントが場にある時、私のターンにフィールド魔法が発動されたことで、カードを一枚ドロー」

 

手札:1→2

 

「モンスターを裏守備表示でセット。更にカードを一枚伏せる。バトルです! 『妖精竜 エンシェント』で、『総剣司令 ガトムズ』を攻撃!」

 静かにたゆたっていた妖精竜が、その海中を自在に泳ぎだす。その見た目も相まって、まるで魚類のウナギにも見える素早い動きで、向こう側にいる総剣司令の元へ一気に泳く。

妖精靭尾(フェアリー・テイル・ウィップ)!」

 泳ぎ、彼の目の前に止まった瞬間。その体を上へと跳ね上げ、その長い靭尾を振う。

「総剣司令の攻撃力は、エンシェントと互角だよ!」

 魚類さながらの、優雅ながらも美しいその動きからの、強烈な鞭の一撃。

 両手に構える巨大な剣を、力の限り振い放たれた斬撃。

 それが、互いの身にぶつかり、致命傷となり、共倒れとなった。

「ですが、これで残ったモンスター達の攻撃力は元に戻る」

 

『X-セイバー ウルベルム』

 攻撃力2200

『X-セイバー ソウザ』

 攻撃力2500-500

『XX-セイバー ヒュンレイ』

 攻撃力2300

 

「オーガ・ドラグーンで、『X-セイバー ソウザ』を攻撃! 死滅の混沌業火(カオス・インフェルノ)!」

 鬼の貌持つ凶悪な龍の口から、死滅の火球が放たれた。

 直前と違い、力で遥かに劣るソウザは、他愛なく破壊された。

 

ポプラ

LP:2050→1050

 

「うぅ……!」

「これでターンエンド」

 

 

LP:2200

手札:0枚

場 :モンスター

   『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000

   『フィッシュボーグ-プランター』守備力200+200

    セット

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

    フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』

 

ポプラ

LP:1050

手札:0枚

場 :モンスター

   『X-セイバー ウルベルム』攻撃力2200

   『XX-セイバー ヒュンレイ』攻撃力2300

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

 

「……」

「さあ、あなたのターンだ」

 何度目になるか分からない、逆転されたこんな状況に、意気消沈してしまった。そんなポプラの耳に、その声が届く。

 その顔を、見つめてみた。

「……」

 その顔を見た時、ポプラの中で、芽生えつつあった諦めの気持ちが、溶けていく感覚を覚えた。

 こちらをジッと見つめる、梓の顔。

 それは、二日ほど前に初めて見た時。そして今日、決闘を始める時に見せた、使命感に溢れた、だがそれゆえに切羽詰まって余裕が無いような、そんな顔とは違っていた。

 その顔は、ただただ純粋に、この決闘を楽しんでいる。

 私はこれだけのことをした。これだけのことをあなたにして見せた。

 あなたももっとできるよね? まだまだ終わらないでしょう?

 

 もっと、もっと、決闘を続けよう?

 もっと、もっと、一緒に遊ぼう……

 

「ふふ……」

 口元が吊り上がり、笑みがこぼれてしまった。

 あんなに強い決闘者のくせに、それだけ決闘を楽しんで、これだけ期待されたんじゃ、応えないわけにはいかないじゃん……

「もちろん! わたしもまだまだ、見せてあげるよ! ラスボス、地場ポプラの決闘をね!」

 すでに、このデッキの主力モンスターの大半が墓地にあり、相手の場には、一ターンに一度こちらの魔法・罠の発動を無効にする煉獄龍。

 こんな状況をどうするかなんか、ポプラにも分からない。

 それでもなぜか、確信していた。この決闘、まだまだ終わることなく続く!

 

「わたしのターン!」

 

ポプラ

手札:0→1

 

「……最っ高のドローだ」

「ほう?」

「『サイバー・ジムナティクス』召喚!」

 

『サイバー・ジムナティクス』

 レベル4

 攻撃力800

 

「はは……あなたこそ、ちゃっかり旧式のカードを入れているではありませんか」

「えへへへ……」

 明日香もデッキに入れて使っていた、現在のカード。その登場と、先ほど言われた言葉に苦笑する梓に、ポプラも悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「『サイバー・ジムナティクス』は一ターンに一度、相手フィールドの表側攻撃表示のモンスター一体を破壊できる」

「ですが、その効果の発動には、手札を一枚捨てるコストが必要なはず。あなたの手札は現在ゼロ」

「それが大丈夫なんだなー……墓地の『神剣-フェニックスブレード』の効果!」

「そうか、『ナチュル・ランドオルス』の効果の時の……!」

「墓地の戦士族モンスター二体を除外することで、墓地のこのカードを手札に加える。私は墓地の、『X-セイバー アナペレラ』と、『XX-セイバー フラムナイト』を除外!」

 

『えぇー!? なんでー!?』

『ふざけんなー!?』

 

「ぅるさーい!! さっさと除外ゾーンにいけえええ!!」

 取り出したカードに向かって叫びながら、そのカードをポケットにしまい込むと、代わりに墓地からカードを一枚、宣言した装備魔法を手に加えた。

 

ポプラ

手札:0→1

 

「これで……『サイバー・ジムナティクス』の効果で、手札一枚を捨てて、そっちの『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』を破壊!」

 

ポプラ

手札:1→0

 

 白い仮面を被った、筋肉質な褐色の女の手に、神の剣が握られる。

 それを、煉獄龍に向かって投げた時。それは鬼の眉間に突き刺さり、消滅させた。

「さあ、バトル! 『サイバー・ジムナティクス』で、『フィッシュボーグ-プランター』を攻撃!」

 白い仮面の女が飛び上がり、守備表示の機械の魚に飛び蹴りを食らわす。

 ガラスが割れ、機械は砕け、魚も消滅した。

「続いて、『XX-セイバー ヒュンレイ』で、その伏せモンスターを攻撃!」

(これであのモンスターを破壊して、ウルベルムでのダイレクトアタックが決まったら、ジャストキルでわたしの勝ち!)

 ポプラが思考している間に、藍色の女剣士が、まるで中国武術を思わせる動きでセットモンスターを切り刻む。表示された、雪だるまの姿をしたモンスターは破壊された。

「『スノーマンイーター』の効果! このカードがリバースした時、フィールド上の表側表示のモンスター一体を破壊します」

「うそぉ!?」

「『X-セイバー ウルベルム』を破壊します」

 ポプラのフィールドを、突然の猛吹雪が襲った。

 それに見舞われ、もろに受けることとなったウルベルムは凍り付き、砕かれた。

「……ターンエンド」

 

 

ポプラ

LP:1050

手札:0枚

場 :モンスター

   『XX-セイバー ヒュンレイ』攻撃力2300

   『サイバー・ジムナティクス』攻撃力800

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

LP:2200

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

    フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』

 

 

「私のターン!」

 

手札:0→1

 

「墓地へ送られた『フィッシュボーグ-プランター』の効果! デッキの一番上のカードを墓地へ送り、それが水属性モンスターだった時、特殊召喚する」

 

『ADチェンジャー』光属性モンスター

 

「あら……光属性モンスター」

「そりゃあ、そう何度も効果成功されても困るよ」

「そうですね……ならば、墓地の水属性モンスター『氷結界の舞姫』と『ブリザード・プリンセス』の二体を除外します」

 

『えぇー!? どうしたの梓!? 僕なにかした?』

 

「彼女も、精霊の二人を敢えて切り離し、孤独の戦いを選んだのだ。私も、その覚悟に答える義務がある」

(いやー、別にそんな大げさなつもりであの二人除外したわけじゃ……)

「現れよ冷狼……『フェンリル』特殊召喚!」

 ポプラとアズサが苦笑している間に、そのモンスターはフィールドを駆け現れた。

 

『フェンリル』

 レベル4-1

 攻撃力1400+200

 

「『フェンリル』! 厄介なモンスターが……」

「続けて、墓地の『ADチェンジャー』の効果! 自分のメインフェイズにこのカードを除外することで、フィールド上のモンスター一体の表示形式を変更します」

 梓の墓地から、二枚の旗を両手に握る、小さな光の戦士が消える。と同時に、ポプラの場の藍色の女剣士は体制を変えた。

 

『XX-セイバー ヒュンレイ』

 守備力1300

 

「バトルです。『フェンリル』で、『XX-セイバー ヒュンレイ』を攻撃! 冷爪牙斬!」

 走り出した青き冷狼の爪に切り裂かれ、牙に噛みつかれる。

 藍色の女剣士は破壊され、同時にポプラ自身に変化をもたらす。

「『フェンリル』が相手モンスターを戦闘破壊した次のターン、あなたのドローフェイズをスキップします。これでターンエンド」

 

 

LP:2200

手札:0枚

場 :モンスター

   『フェンリル』攻撃力1400+200

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

    フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』

 

ポプラ

LP:1050

手札:0枚

場 :モンスター

   『サイバー・ジムナティクス』攻撃力800

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

 

「わたしのターン!」

 凍り付いたデッキを見て、苦い顔を見せるポプラだが、すぐにその表情を切り替えた。

「墓地の『神剣-フェニックスブレード』の効果! 墓地から戦士族モンスター『ヒーロー・キッズ』二体を除外して、手札に加える」

 

ポプラ

手札:0→1

 

「『サイバー・ジムナティクス』の効果で、このカードを墓地へ捨てて、君の『フェンリル』を破壊!」

 前のターンと同じ光景。女戦士の手から飛んできた神剣に貫かれた冷狼は破壊された。

「バトル! 『サイバー・ジムナティクス』で、ダイレクトアタック!」

 その筋肉に覆われた身体を飛び上がらせ、梓に向かっていく。

 その飛び蹴りが、梓の身にぶつかり、ライフを削った。

 

LP:2200→1400

 

「うぅ……っ」

「やった! 何気に初ダメージ!」

 梓のライフも削れてはいた。だが、それはあくまで梓自身のカードによる、ダメージなりコストなりの結果だった。

 それだけ強い梓のライフを削れたことに、ポプラは歓喜を顔に浮かべていた。

「これでターンエンド!」

 

 

ポプラ

LP:1050

手札:0枚

場 :モンスター

   『サイバー・ジムナティクス』攻撃力800

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

LP:1400

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

    フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』

 

 

「私のターン!」

 

手札:0→1

 

 梓がカードをドローした瞬間、梓のその手の上に、ギロチンが現れ、ドローしたカード『氷結界の水影』を真っ二つにした。

 

手札:1→0

 

「五ターン前に発動した『命削りの宝札』の効果により、全ての手札を墓地に送ります」

「よし! これでこのターンはなにもできないね」

「いいえ……伏せカード発動、速攻魔法『非常食』! 私の場の魔法・罠カード一枚を墓地へ送るごとに、ライフを1000回復します。『生還の宝札』、『伝説の都 アトランティス』を墓地に」

 発動された伏せカードにより、梓の場に残されたカード二枚が光と変わる。

 フィールドが元の島の風景に変わると同時に、それが梓の身を包み、その傷を回復させる。

 

LP:1400→3400

 

「これでターンエンド」

 

 

LP:3400

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

ポプラ

LP:1050

手札:0枚

場 :モンスター

   『サイバー・ジムナティクス』攻撃力800

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

 

「ライフは回復させちゃったけど、これで本当に打ち止めだね。わたしのターン!」

 

ポプラ

手札:0→1

 

「……ついでに、これもプレゼント。魔法カード『成金ゴブリン』! 相手のライフを1000回復して、わたしはカードを一枚ドロー」

 

LP:3400→4400

 

ポプラ

手札:0→1

 

「良いのですか? ライフが開始時点よりも増えてしまいましたが?」

「そのくらい、すぐに返してもらうよ。『X-セイバー ウルズ』を召喚!」

 これまでのX-セイバーのような、紅いマントではなく、闇のような漆黒のマントが揺らめいた。

 そこから赤の鎧を纏う、双剣握る暗殺者は素早い動きでフィールドに降り立った。

 

『X-セイバー ウルズ』

 レベル4

 攻撃力1600

 

「バトル! 『サイバー・ジムナティクス』、『X-セイバー ウルズ』で、ダイレクトアタック!」

 女戦士の飛び蹴りと、赤色の暗殺者の双剣が、梓の身を襲う。

 

LP:4400→2000

 

「ターンエンド」

 

 

ポプラ

LP:1050

手札:0枚

場 :モンスター

   『X-セイバー ウルズ』攻撃力1600

   『サイバー・ジムナティクス』攻撃力800

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

LP:2000

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「私のターン!」

 

手札:0→1

 

「私とて、まだまだ終わりはしない! 『グリズリーマザー』召喚!」

 

『グリズリーマザー』

 レベル4

 攻撃力1400

 

「『グリズリーマザー』で、『サイバー・ジムナティクス』を攻撃!」

 青色の巨熊がその太い腕の爪を振った。女戦士はその爪に倒れ、破壊される。

「なんの、これしき……!」

 

ポプラ

LP:1050→450

 

「ターンエンド」

 

 

LP:2000

手札:0枚

場 :モンスター

   『グリズリーマザー』攻撃力1400

   魔法・罠

    無し

 

ポプラ

LP:450

手札:0枚

場 :モンスター

   『X-セイバー ウルズ』攻撃力1600

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

 

「わたしのターン!」

 

ポプラ

手札:0→1

 

「『XX-セイバー ガルセム』を召喚!」

 紅色の揺らめきと共に現れたのは、その名の示す通り、光る鎧を纏い、後ろ脚の二本で直立するガゼルの剣士。

 両手には、自身の角と同形状の剣を握っている。

 

『XX-セイバー ガルセム』

 レベル4

 攻撃力1400

 

「ガルセムの攻撃力は、自分フィールドのX-セイバーの数×200ポイントアップする。わたしの場には、ガルセム自身とウルズの二体。攻撃力は400アップ!」

 

『XX-セイバー ガルセム』

 攻撃力1400+200×2

 

「バトル! ウルズで『グリズリーマザー』を攻撃!」

 赤い鎧の光が、青い巨熊の前を通り抜ける。

 その直後、巨熊の身は切り裂かれ、破壊された。

 

LP:2000→1800

 

「『グリズリーマザー』の効果! このカードが戦闘によって破壊され、墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の水属性モンスター一体を攻撃表示で特殊召喚できる。私はデッキから、『氷結界の番人ブリズド』を特殊召喚!」

 

『氷結界の番人ブリズド』

 レベル1

 攻撃力300

 

「攻撃力300……? ガルセムで、ブリズドを攻撃!」

「ぐぅ……!」

 

LP:1800→300

 

「く……ブリズドが戦闘破壊され墓地へ送られた時、私はカードを一枚ドローします」

 

手札:0→1

 

「それが目当てか……ターンエンド」

 

 

ポプラ

LP:450

手札:0枚

場 :モンスター

   『X-セイバー ウルズ』攻撃力1600

   『XX-セイバー ガルセム』攻撃力1400+200×2

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

LP:300

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「私のターン!」

 

手札:1→2

 

「『氷結界の武士』を召喚!」」

 

『氷結界の武士』

 レベル4

 攻撃力1800

 

「バトル! 『X-セイバー ウルズ』を攻撃! 絶体冷刀!!」

「うぅ……!」

 

ポプラ

LP:450→250

 

『XX-セイバー ガルセム』

 攻撃力1400+200

 

「カードを伏せます。ターンエンド」

 

 

LP:300

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の武士』攻撃力1800

   魔法・罠

    セット

 

ポプラ

LP:250

手札:0枚

場 :モンスター

   『X-セイバー ガルセム』攻撃力1400+200×2

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

 

「……ぷっ」

「ふふふ……」

 梓がターンを終えた時。突然ポプラが吹き出して、同時に梓も、笑みを浮かべた。

 やがて二人して、笑い声を上げてしまった。

「あははは……ごめんね、急に笑っちゃって」

「いいえ、こちらこそ……」

「シンクロモンスターや、未来のカードもたくさん使っておいて、これじゃあ今時の、普通の決闘と変わらないね」

「むしろ、段々と荒く雑く、旧式になっていく。そして、そんな決闘でさえ全く安心できない。強すぎます」

「ラスボスだもん。そりゃ強いよ」

「実に厄介なラスボスだ」

 そんなやり取りをして、また二人して笑いあう。

 そして、二人ともが感じた。

 

 なんて楽しい決闘なんだ。

 もっと続けていたい。

 このまま終わりが来なければいいのに……

 

 だが、どれだけ白熱した楽しい決闘も、終わりは必ずやってくる。

 それを、二人ともが分かっている。そして、その終わりが、目の前まで近づいてきていることも……

「じゃあ、続けるね……わたしのターン!」

 

ポプラ

手札:0→1

 

「……」

 ドローしたカードを見て、思わず苦笑した。

 せっかく、新たに出会ったカード達の力でここまで戦い抜いてきたのに……

 いや、彼ほどの決闘者とここまで戦えたからこそ、彼にとっての『ラスボス』として、このカードこそが、決着には相応しいのかもしれない。

 

「じゃあ、いくね。これこそが私の、本当の切り札!」

 自分がX-セイバー達に出会う以前から使っていたカード。

 このデッキでは出番が無いだろうと分かっていながら、それでもデッキに入れていた。

 そして今、その力を存分に振うことができる。

 それを確信したことで、ポプラはそのカードを、決闘ディスクに叩きつけた。

 

「世界の記憶、人間の意識、集い合わさり記憶となりて、在りし世界に今、その威光を示す時! 召喚! 『流星方界器デューザ』!」

 

 これまでとは明らかに違う空気が、フィールドを包み込む。

 怪しげな輝きと共に、徐々に徐々に、フィールドに浮かび上がったそれは、これまでのX-セイバー達よりも遥かに巨大な姿形。

 漆黒の丸い身体から、同じ漆黒の長い長い両腕を伸ばし、その中心にある胴体には、眼にも見える赤い紋章が光り輝く。

 胴体の上には、白い頭のような突起が飛び出して、足は無いが、胴体の下へ鋭利に伸びた部位は宙に浮いている。

 感情は見られず。体温は見られず。表情は見られず。意識は見られず。

 そんな黒く冷たい機械が、彼女のフィールドに降り立ち、浮遊していた。

 

『流星方界器デューザ』

 レベル4

 攻撃力1600

 

「方界……それは、まさか……!」

「デューザが召喚、特殊召喚に成功した時、デッキから『方界』カード一枚を墓地へ送る。わたしはデッキから、二枚目のデューザを墓地へ送る。バトル! ガルセムで、『氷結界の武士』を攻撃!」

 ポプラが声を上げた時、ガゼルの剣士は両手の武器を構えて、氷の武士へ走り出した。

「攻撃力は武士の方が上です!」

 その言葉の通り、ガゼルの双剣、武士の刀、しばらく鍔迫りあったものの、最終的に武士の反撃が、ガゼルの剣士を両断した。

 

ポプラ

LP:250→50

 

「これでいい……『流星方界器デューザ』の効果! 一ターンに一度、このカードが表側表示で存在する状態でモンスターが自分の墓地へ送られたターン、このカードの攻撃力を、自分の墓地のモンスターの種類の数の200倍、アップする!」

「墓地のモンスターの、種類の数の、200倍……!」

 その効果の説明の後、ポプラの墓地に眠るモンスター達が、目の前に表示される。

 そして、そんなカード達の表示が、デューザの身へ吸収されていき、ただでさえ巨大なデューザのその身が、更に巨大化していく……

 

『ヒーロー・キッズ』

『総剣司令 ガトムズ』

『ナチュル・パルキオン』

『ナチュル・ランドオルス』

『X-セイバー パロムロ』

『X-セイバー ウルズ』

『X-セイバー ウェイン』

『X-セイバー ウルベルム』

『X-セイバー ソウザ』

『XX-セイバー レイジグラ』

『XX-セイバー ガルセム』

『XX-セイバー ボガーナイト』

『XX-セイバー ガルドストライク』

『XX-セイバー フォルトロール』

『XX-セイバー ヒュンレイ』

『XX-セイバー ガトムズ』

『流星方界器デューザ』

 

dher karana PRANA(デェ・カーラナ・プラナ)

 

『流星方界器デューザ』

 攻撃力1600+200×17

 

「攻撃力5000……!?」

「この攻撃で本当に終わり! 『流星方界器デューザ』で、『氷結界の武士』を攻撃! 方界遠心拳(ほうかい・ジョーラ・ムーテェー)!!」

 巨体を回転させ、長い腕が振り回される。それが梓の場の、氷の武士の身を叩いた。

 拳に吹き飛ばされた武士のその身が、梓に向かって飛んでいき……

「罠発動『ガード・ブロック』! 戦闘ダメージを一度だけゼロにし、カードを一枚ドロー!」

 カードをドローし、それで飛んできた武士を受け止める。

 武士は破壊されたものの、梓は無傷に終わった。

 

手札:0→1

 

「……ターンエンド。デューザの攻撃力は元に戻るわ」

 

 

ポプラ

LP:50

手札:0枚

場 :モンスター

   『流星方界器デューザ』攻撃力1600

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

 

LP:300

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「私のターン」

 

手札:1→2

 

 そのドローフェイズが終わった時……梓は、そしてポプラも、同時に直感した。

 このターンが、この決闘の最後だということを……

「魔法カード『死者蘇生』! 墓地のモンスター一体を蘇生する。私が蘇生するのは……『妖精竜 エンシェント』!」

 梓の呼びかけに応じて、長い身を持つ妖精の竜は、再びフィールドを泳ぎ、舞い降りた。

 

『妖精竜 エンシェント』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2100

 

「もっと攻撃力の高い煉獄龍だっていたのに。あえてそれを召喚したってことは、その手札のカード……」

「そう……フィールド魔法『ウォーターワールド』発動!」

 フィールドがみたび、その姿を変える。

 青く美しく楽し気な、水と海でできた世界。

 もう楽しい時間は終わりだというのに、まだまだ遊び足りない、もっともっと遊んでいたい、そんな未練と心残りが、その海には宿っているようで……

「フィールド魔法が発動されたことで、エンシェントの効果により、カードを一枚ドロー」

 

手札:0→1

 

「そして、フィールド魔法が存在することで、一ターンに一度、フィールドの攻撃表示モンスター一体を破壊できる。『流星方界器デューザ』を破壊!」

 フィールドに舞う海水が、妖精竜の羽へ吸収される。

 それをデューザに向けた瞬間……

深葬の霊場(スピリット・ベリアル)!」

 放出された海水を受けて、デューザは成すすべなく破壊されてしまった。

「そして、これで最後です……バトル!」

 梓がバトルを宣言する。その瞬間、フィールドの空を泳いでいた妖精竜が、その海の上を渡り、まっすぐ、まっすぐ、ポプラのもとへ飛んでいった。

 

妖精靭尾(フェアリー・テイル・ウィップ)!!」

 

「……」

 

ポプラ

LP:50→0

 

 

「あー、終わっちゃったー……でも、楽しかったー。出し切ったって感じ」

 決闘を終えて、メダルを渡して、簡単な会話を済ませて。

 別れた後は、満ち足りた気持ちになりながら、港への道を歩いていた。

「これで『ナチュル』のみんなともお別れか……正直、あんまり活かしてあげられなかったけど、ちょっとは満足してくれたかな?」

 本来は別の決闘者のカード達である、ナチュル達がどう感じたかは分からない。ただ、自分は全てを出し切って、満足することができた。

 彼を付け狙っていた、変なカードを持った二人組を倒してあげた甲斐があった、終わってしまったのがもったいない、本当に楽しい時間だった。だから、またいつか決闘しようと約束もした。

 

 それでも一つ、心残りを挙げるとするなら……

「どーせなら、()の本名も、教えてあげるべきだったかな?」

 髪のゴム紐を取り去り、流してしまいながらそんなことを感じた。

 地場ポプラ……

 お気に入りの漫画から取って適当に付けた、大会に出るための偽名ではなく、自分が持っている、本当の名前。

「それとも、気付いてたのかな? 何だかんだ、一度もポプラって名前、呼ばなかったし」

 今となっては、それを確かめることはできない。

 漫画にならって、見た目も簡単に変えたりもした。

 そんな見た目や、地場ポプラという名前も存外、可愛くて気に入ってはいる。それでもなじみが強いのは、生まれた時から持つ本来の名前の方だ。

 それだけ好きな本名ではあるが、いかんせん、身内が有名人なものだから、騒がれては面倒だと偽名を名乗ることにしていた。

 そんな本名を、彼にだけは、話してもよかったかもしれない。そう、今更ながら後悔していた。

「私の名前……地場ポプラの、本当の名前は……」

 

「セラ!」

 

 呟こうとした瞬間、自分ではなく、誰かの口からその名が聞こえた。

 その声の方……前を見ると、彼女に向かって手を振る青年が一人。

「ディーヴァ!」

 彼女……セラもまた、彼の名前を呼んで近づいていった。

 普通の服の上に、民族衣装を重ね着したモダンな雰囲気。褐色の肌と、長く特徴的な藍い髪。

 手や髪には金色の飾りを着けているが、それ以上の黄金に輝く大きな瞳。

 そんな青年……尊敬する兄に、セラは走り近づいた。

「どうしたの? 今日はお仕事なんじゃ?」

「さっき終わったよ。時間も空いたし、せっかくだから、セラの応援をしようと思ってね」

「もー、兄さんが来ちゃったら、本名を隠した意味なくなるじゃない……さっき敗けたからいいけど」

「え? 敗けたの?」

「うん。けど、その人に敗けるまでには、何十人も倒したけどね」

「そっか。さすがだね、セラ」

「はぁ……このデッキのために、兄さんに送られた招待状とメダルで、無理して大会に参加したのに。プロ決闘者にして、最強の方界使い『ディーヴァ・藍神』の妹として、情けないわ」

 ため息を吐き、落ち込む妹に、兄、ディーヴァは優しく語りかける。

「まあ、どうせ僕はプロの仕事や子供たちの世話で参加は無理だったし。それに、楽しかったろう? そういう顔してるよ」

「うん! すごく楽しかった。悔いはないわ」

「なら良かった……じゃあ、帰ろう。僕たちの家に」

「そうね……私達の家、孤児院『プラナ』に」

「子供たちやマニにも、君の活躍の話を聞かせてあげなよ」

「良いわよ。その後は兄さん、私と決闘ね」

 そうして会話していきながら、褐色肌の兄妹は、アカデミアの連絡船へと乗り込んでいった。

 

「にしても、セラ?」

「なに? 兄さん」

「今日のソレは、いくら何でも盛りすぎなんじゃ……」

「ていっ」

「痛い……っ」

 

「……て、あれ? セラ? 一人だけ?」

「え? 何が? 私はずっと一人よ?」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「さすがに強敵だったね」

 決闘が終わって、ポプラと別れた後で、実体化したアズサが姿を現していた。

「……」

 だが、話しかけられた梓の方は、特に返事はしない。

 返事の声は上げなかったが……

「うわひゃあっ!!」

 その突然の感触に、アズサは驚愕の声を上げ、梓から飛びのいた。

「ど、ど、ど、どうしたの? 梓……////」

 今まで触れようともしなかった。そんな梓に、突然触れられたお尻をさすりつつ、赤面しながら尋ねてみる。

 尋ねられた梓はと言えば、

「はて……どうしたのでしょう?」

 と、本人も不思議そうに首を傾げていた。

「なぜだか分かりませんが……彼女との決闘をしているうち、無性にあなたの身体に触れたくなりました」

「えぇー////////」

 より赤面し、声を上げる。そんなアズサの声を無視して、梓は、アズサの身を、いつものように抱きしめた。

「あっ……////」

 今まで梓に抱きしめられたり、逆に抱きしめてあげたことは何度もある。

 だが、何度もやってきたことながら、その感触だけは、今日まで一度もなく、そして、今後も無いと思っていた。

 自分を抱きしめる梓の体温が、いつもよりも熱い。心臓の鼓動も早く、息も荒い……

(梓……発情してる? 僕に対して、興奮してるの……?)

 今日まで、アズサのことを愛し、思いやってくれてはいた。だがそれも、恋愛とは違って、特に、性欲なんて物は皆無だった。

 それが、星華姉さんともども寂しく感じることはあったものの、それだけ何の欲も下心もなく、無償で自分たちを愛してくれる気持ちは嬉しかった。

 

 そんな梓が、割と鈍感な方のアズサでさえ分かるほどに、発情し、興奮までしている。

 アズサという女を、梓という男が今、求めている。

(信じらんない……けど、すっごく嬉しい……////)

 お尻を触られ、いきなり抱きしめられた時は、飛び上がるくらい驚いて、固まった。

 今でも緊張で力がこもるが、それでも全てを梓に委ねたくなって、目を閉じた。

 このままこの男に、自分の女を捧げるために。

 アズサという女を、梓という男のものにしてほしくて……

 

「梓?」

 いくら待っても、何もしてこない。それを不思議に思い、もう一度呼びかけてみた、その時。

「ううぅぅ……!!」

 苦悶の声を上げたかと思えば、左手首を押さえて、その場にひざを着いた。

「梓! ちょ、それって……」

 梓が押さえる左手首。

 これまでも、そこから出血はしていたものの、せいぜいが多少切った程度の血量でしかなかった。

 それが今や、深々と切られたように、そこからドクドクと大量の血が溢れている。

「早く治して!」

「既にやっている……これが精いっぱいです」

 苦悶で返すその声は、これまで以上の痛みに耐えていることが分かる。

「梓、今日はもう無理だよ。保健室行こう?」

「バカをおっしゃい。相手は残り一人なのです……それに、確信しました。最後の一人も、既にこの島にいる」

「そうなの?」

「ええ。分かります……感じます。奴の気配を」

「奴って、まさか……!」

 アズサに答えながら、激痛走る左手を押さえて、立ち上がる。

「梓、ダメだって! もういいよ! 保健室行こうよ?」

「この傷が、医者の手に負えるケガでないことくらい、アズサも分かっているでしょう?」

「それは……」

「何より……保険教師(・・)になど、頼ってたまるか!!」

 最後の言葉を絶叫し、その相手がいる方へ歩こうとする。

 だが、左手だけの激痛は体中にまで広がり、歩きたい、動きたいという梓の意思を、全力で妨げているようで。

 

「……っ」

 今にも倒れ込み、その場にうずくまってしまいたい。

 そんな衝動と戦うために……

 梓が思い出したのは、ある三人の男たちの姿だった。

「か……かっ」

 どんなに辛く、苦しい目に遭うと分かっていても、決して逃げ出さず、実際にそんな目に遭ったとしても、耐えて、耐えて、最後まで耐え抜いて、抗い、戦い抜いてきた者達。

 テレビの中だけの存在なのは、梓自身も承知している。

 それでも、痛みにも苦しみにも、時に罵声や暴力を受けてもなお、全ての理不尽も不条理も受け入れ、受け止めて、必ず人々に笑顔を与えてみせる。

 そんな偉大な戦士たちが、戦いへと赴く前に唱える合言葉を、梓もまた、震える口で唱えつつ、立ち上がり、歩き出した。

 

「か……か、カッ……!」

 

 

「カットしないでね……カットしないでね……カットしないでね……カットしないでね……」

 

 

 

 




お疲れ~。

エンシェントが目覚めるまでの経緯が、我ながら強引すぎたかと反省してる、今日この頃……

にしても、終盤で二人がやったような、単純なモンスター同士の殴り合いって、アニメや漫画で最後にやったのっていつだったかなぁ?

つ~わけで、また次話に続きますでや。
それまで待ってて。

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