決着やゃゃゃぅぅ……
行ってらっしゃゃゃ……ぃ
視点:外
(正直なところ、予想以上だ……)
ポプラとの決闘の最中、梓はそう感じていた。
(ラスボスを自称するだけはある。一つのターン、一枚のカード、それら全てにおいて気が抜けない……)
もちろん、梓自身、残った二つのデッキの強さから、それを使う相手を見くびっていたわけでも、侮っていたわけでも、まして、油断していたわけでもない。
実際、実力的には圧倒的に自分に劣る、楓や椛の相手をした時も、全力を出し、容赦なく叩き潰した。
それができてしまうだけの実力の差に、多少の落胆を感じたとしても、それが変わることはない。実際、亮との決闘でも、そうして全力を出したのだから。
そして今、闘っている相手。
亮と同等、もしくはそれ以上の実力と、運すら味方につけた本物の強さで、ターンを迎える度に梓のモンスターを全滅させ、モンスターを並べて優位に立っている。
それは、本人も言った通り、デッキやカードだけの強さではない。
そのデッキやカード達の全力を存分に引き出せる、彼女自身の実力の高さに違いない。
(しかも、精霊と言い争ったり、多少の文句を叫びながらも、それだけのプライドと、デッキに選ばれた誇りを胸に、決闘に全力を尽くし、あまつさえ楽しんでいるのが伝わってくる)
それほどの決闘者と、自分は今、闘っている。
(大変……面白くなってきた)
ポプラ
LP:2200
手札:2枚
場 :モンスター
『XX-セイバー ガトムズ』攻撃力3100
『ナチュル・ランドオルス』攻撃力2350
『XX-セイバー フォルトロール』攻撃力2400
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
梓
LP:2200
手札:0枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
「君の手札はゼロ。モンスターも無し。このターンでどうする?」
「……私のターン」
梓
手札:0→1
確かに、今の状況は梓にとって思わしくない。だが、
(決闘は、劣勢なくらいが最も面白い)
劣勢をいかにして覆すか。それこそが、決闘の醍醐味なのだから。
そして、それをするためには……
「こうします。墓地に眠る『フィッシュボーグ-プランター』の効果! このカードが墓地にある時、一度だけデッキの一番上のカードを墓地へ送り、水属性モンスターだった場合、特殊召喚する」
(効果の成功は不確定だけど、彼のことだから、きっと成功させてくる。そうなると、『生還の宝札』の効果でドローされるうえ、墓地の『フィッシュボーグ-ガンナー』の特殊召喚の条件も満たすことになる……仕方ない)
「『ナチュル・ランドオルス』の効果! 手札の魔法カード『神剣-フェニックスブレード』を墓地へ送って、そのモンスター効果の発動を無効にする!」
ポプラ
手札:2→1
「……では、これはどうです? 私の場にモンスターが存在しない時、手札の水属性モンスター『氷結界の水影』をコストに、墓地のチューナーモンスター『フィッシュボーグ-アーチャー』を特殊召喚!」
梓
手札:1→0
『フィッシュボーグ-アーチャー』チューナー
レベル3
守備力300
「な……!」
「その残りの手札一枚は、レイジグラの効果で手札に戻した『XX-セイバー フォルトロール』。これ以上効果は使えない。宝札の効果で一枚ドロー」
梓
手札:0→1
「続けて墓地の『フィッシュボーグ-ドクター』の効果! 自分の場のモンスターが『フィッシュボーグ』のみの場合、メインフェイズに墓地のこのカードを特殊召喚できる」
『フィッシュボーグ-ドクター』
レベル4
守備力400
梓
手札:1→2
「自分の場にフィッシュボーグ以外のモンスターが存在する時、『フィッシュボーグ-ドクター』は破壊されます。レベル4の『フィッシュボーグ-ドクター』に、レベル3の『フィッシュボーグ-アーチャー』をチューニング!」
「冷たき
「シンクロ召喚! 狩れ、『氷結界の龍 グングニール』!」
大地が揺れ、亀裂が走る。
そこから巨大な足を掛け、その巨体をフィールドに持ち上げ現れた。
『氷結界の龍 グングニール』シンクロ
レベル7
攻撃力2500
「自身の効果で特殊召喚した『フィッシュボーグ-ドクター』は、フィールドを離れたことで除外……バトルフェイズに入ります。この瞬間、特殊召喚されたアーチャーの効果で、水属性以外の私の場のモンスターが破壊される効果が発動しますが、水属性モンスターしかいないので不発となります。グングニールで、『ナチュル・ランドオルス』を攻撃! 崩落のブリザード・フォース!」
グングニールの口から、冷たいエネルギーが飛んでいく。それを受けた神木の亀は、凍り付き、砕かれた。
ポプラ
LP:2200→2050
「メインフェイズ……」
フィールド、手札を見て、すべきことを思考する。
(残りの手札は二枚……あの伏せカード、ここまで発動の機会が無いということは……)
考えて、そして、結論が出た。
「グングニールの効果! 一ターンに一度、手札を二枚まで捨てることで、捨てた枚数だけ相手フィールドのカードを破壊できる。私は、手札一枚を捨て、『XX-セイバー ガトムズ』を破壊します!」
梓
手札:2→1
梓の手札一枚、それが光に代わり、グングニールの翼の一枚に吸収される。
それを振い、飛んだ斬撃が、ポプラの場のガトムズを切り裂いた。
「チューナーモンスター『アンノウン・シンクロン』を召喚!」
『アンノウン・シンクロン』チューナー
レベル1
守備力0
「このタイミングで、チューナー?」
「私も、次のターンへの対策をさせていただく。レベル7のグングニールに、レベル1の闇属性『アンノウン・シンクロン』をチューニング!」
いつもと同じ、シンクロ召喚の宣言。
だが、その時の光景は、ポプラの知る物とは違っていた。
星に変わった『アンノウン・シンクロン』が、グングニールの周囲を回る。
それと同時に、グングニールの氷の体全体に、亀裂が走り、ひび割れ始めた。
「地獄と極楽、絶無を求めし時。無間へ轟く咆哮震わせ、狭間の界より
「シンクロ召喚!
冷たき龍の身が砕け散り、そこから闇が放出された。
全てを飲み込み、包み込み、閉じ込める、それだけのことができるどす黒い闇を纏った、鬼の貌持つ闇の龍……
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』シンクロ
レベル8
攻撃力3000
「これは……! これが、グングニールの、真の姿……?」
「私の手札はゼロ……『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』が場に存在する限り、私の手札がゼロである間、一ターンに一度だけ、相手の魔法・罠カードの発動を無効にし、破壊できます」
「そんな……!」
「これでターンエンドです」
梓
LP:2200
手札:0枚
場 :モンスター
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
ポプラ
LP:2050
手札:1枚
場 :モンスター
『XX-セイバー フォルトロール』攻撃力2400
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
「わたしのターン! ドロー!」
ポプラ
手札:1→2
「確かに厄介だけど、倒せない相手じゃない。フォルトロールの効果! 墓地の『X-セイバー パロムロ』を蘇生! 宝札の効果で一枚ドロー」
『X-セイバー パロムロ』チューナー
レベル1
守備力300
ポプラ
手札:2→3
「私の場にX-セイバー二体が存在することで、二体目のフォルトロールを特殊召喚!」
『XX-セイバー フォルトロール』
レベル6
攻撃力2400
「レベル6のフォルトロールに、レベル1のパロムロをチューニング!」
「シンクロ召喚! 冷徹なる七星将『X-セイバー ソウザ』!」
二本の剣閃が走り抜け、その奥から、朽ちた赤色のマントと、今までに無い鈍い輝きが煌めいた。
『X-セイバー ソウザ』シンクロ
レベル7
攻撃力2500
「おわぁ! すごい顔……!」
「まだまだ! 二体目のフォルトロールの効果で、墓地のレイジグラを蘇生!」
『XX-セイバー レイジグラ』
レベル1
守備力1000
ポプラ
手札:2→3
「レイジグラの効果で、墓地のフォルトロールを手札に、そのまま特殊召喚!」
『XX-セイバー フォルトロール』
レベル6
攻撃力2400
「フォルトロールの効果! 再びパロムロを蘇生!」
『X-セイバー パロムロ』チューナー
レベル1
守備力300
ポプラ
手札:3→4
「レベル6のフォルトロールに、レベル1のパロムロをチューニング!」
「シンクロ召喚! 勇敢なる七星徒『X-セイバー ウルベルム』!」
ソウザと同じく、鈍い煌めきと朽ちた赤いマント。だが、ソウザよりは細身な、兜を被った双剣士が現れた。
『X-セイバー ウルベルム』シンクロ
レベル7
攻撃力2200
「二体のシンクロモンスターが……!」
「ここで、ソウザのモンスター効果! 自分フィールドのX-セイバー一体をリリースして、二つある効果のうち、一つを選んで適用する。レイジグラをリリース!」
ソウザが両手に持つ、剣の一本で、レイジグラを貫いた。
破壊され、降り注ぐレイジグラの光が、ソウザに力を与える。
「このターン、ソウザが戦闘を行うダメージステップ開始時、攻撃したモンスターを破壊する」
「……」
「バトル! 『X-セイバー ソウザ』で、『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』を攻撃! Xの剣閃-葬送の双斬刃!」
ソウザが向かい、二本の剣を煉獄の龍に振う。
攻撃力では敵わないはずのその龍を、冷徹なる剣閃で細切れとするために……
「墓地の『キラー・ラブカ』を除外、効果発動!」
だがそこへ、梓の墓地から飛び出した黄色の何かが、ソウザの身を縛り付けた。
「これは……!」
「私のモンスターが攻撃された瞬間、墓地のこのカード除外することで、その攻撃を無効にし、次の私のターンまで攻撃力を500ポイント下げます」
『X-セイバー ソウザ』
攻撃力2500-500
「そんなのまで墓地に……バトルは終了」
思惑が外れたものの、もう一度、手札のカードを見て、すべきことを考えた。
(まずは、あの龍の効果を使わせる!)
「魔法カード発動『ライトニング・ボルテックス』!」
「それは!?」
「手札を一枚捨てて、相手フィールドの表側表示のモンスター、全てを破壊する」
ポプラ
手札:3→2
「く……やむを得ない。
彼女が発動し、表示されたカードが、鬼の龍の鋭利な尾に貫かれ、破壊された。
「そうするしかないよね……罠発動『ガトムズの緊急指令』!」
梓の思っていた通り、二枚目が発動された。
「復活して! 『XX-セイバー ヒュンレイ』! 『XX-セイバー ガトムズ』!」
『XX-セイバー ヒュンレイ』シンクロ
レベル6
攻撃力2300
『XX-セイバー ガトムズ』シンクロ
レベル9
攻撃力3100
ポプラ
手札:2→3
「そして、『XX-セイバー フォルトロール』をリリース……全ての剣の力となれ『総剣司令 ガトムズ』!」
彼らの中央に、再び黄金が輝いた。ガトムズよりも若く、だが力に溢れ、騎士道に生きる黄金の煌めきが、今までと同じ、紅きマントを躍らせながらそこに立った。
『総剣司令 ガトムズ』
レベル6
攻撃力2100
「『総剣司令 ガトムズ』の効果! このカードが存在する限り、私の場のセイバーの攻撃力は400ポイントアップする」
『X-セイバー ウルベルム』
攻撃力2200+400
『X-セイバー ソウザ』
攻撃力2500-500+400
『XX-セイバー ヒュンレイ』
攻撃力2300+400
『XX-セイバー ガトムズ』
攻撃力3100+400
「もう一枚、フィールド魔法『セイバー・ヴォールト』! X-セイバー達の攻撃力は、レベルの100倍アップして、守備力はレベルの100倍ダウンする!」
ポプラの背後に、純白に輝く巨大な剣が突き刺さった。
そこを中心に、自然豊かだった島の景色が、人工的に光り輝く、だが神聖な空間に変わっていく。
剣を、剣の刺さる空間を、全てを崇めるために作り出されたその空間。
その空間に満ちた光は、照らしだされた剣士たちの力を十二分に引き出した。
『X-セイバー ウルベルム』
攻撃力2200+400+700
『X-セイバー ソウザ』
攻撃力2500-500+400+700
『XX-セイバー ヒュンレイ』
攻撃力2300+400+600
『XX-セイバー ガトムズ』
攻撃力3100+400+900
「一気に攻撃力がアップした……!」
「どんなもんよ! その伏せカードが何か知らないけど、これだけの私の剣たち倒すことができるかな? ターンエンド」
ポプラ
LP:2050
手札:1枚
場 :モンスター
『総剣司令 ガトムズ』攻撃力2100
『X-セイバー ウルベルム』攻撃力2200+400+700
『X-セイバー ソウザ』攻撃力2500-500+400+700
『XX-セイバー ヒュンレイ』攻撃力2300+400+600
『XX-セイバー ガトムズ』攻撃力3100+400+900
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
フィールド魔法『セイバー・ヴォールト』
梓
LP:2200
手札:0枚
場 :モンスター
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
「……私のターン」
梓
手札:0→1
(今ドローしたカード……フィールドのカード……これだけでは、少し足りんか)
残されたカードでできることを考えて、出た結論がそれだった。
(彼女のフィールド……どのモンスターも、オーガ・ドラグーンを越えている。このターンでどうにかせねば、次のターンで確実にやられる。そうなれば……)
――もったいない……
思考していた、それとは違う言葉が、心の奥底から聞こえてきた。
(もったいない?)
視点:梓
――私はまだまだやれる……もっともっと、決闘を楽しみたい。
……とは言え、この手札と残されたカードでは、限界がありますよ?
――大丈夫。私達なら、乗り越えられる。
……私、達……?
――私一人ではない。決闘を楽しんでいるのは……闘っているのは……そうでしょう?
……それは、そうでしょうが……
――そんな、私達が、こんな所で終わってしまうのは、実にもったいない。
……クス、確かに。
――私はまだまだ……
……そう。私はまだまだ……
――もっともっと……
……もっともっと……
みんなと遊びたい。
視点:外
「な、なに……?」
ポプラは、確かに目にした。
見えないはずの、立ちはだかる決闘者の身から溢れ出る、直前とはまた違った、闇……
(修学旅行以来……いや、それより遥か以前から、忘れていたらしい。決闘とは本来、誰もが楽しく遊ぶために作られた、カードゲームだ。それが、復讐、使命、宿命、約束、それら背負ったもののために、いつからか、義務となり、責務となり、重荷となって、もっと単純で根本的な、楽しむという感情を、忘れていた)
もちろん、梓としても、それが決して悪いことだとは思わない。
復讐が、使命が、宿命が、約束が……
それらを背負い、全うするために戦ってきたから、今の梓があり、こうして強い彼女とも戦うことができているのだから。
だがそれでも、そんな複雑な物のために、あんなに大好きだった決闘を、楽しむことを忘れ、窮屈さを感じていたことは否めない。
目の前の彼女は、あんなにも楽しそうに、全力の決闘をしてくれているのに……
(今までの決闘への思い、それを否定する気はない。だが今、この瞬間だけは……)
楽しむために……
彼女と一緒に、楽しく、遊ぶために……
「魔法カード『サルベージ』を発動。墓地に眠る攻撃力1500以下の水属性モンスター二体を手札に加えます。私が手札に加えるのは、『氷結界の水影』と『フィッシュボーグ-プランター』」
梓
手札:0→2
「罠発動『戦線復帰』! 墓地に眠るモンスター一体を、守備表示で特殊召喚する。墓地より甦れ、『氷結界の龍 ブリューナク』! 宝札の効果で一枚ドロー!」
『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ
レベル6
守備力1400
梓
手札:2→3
「ブリューナクの効果! 手札を任意の枚数墓地へ捨て、捨てた枚数だけフィールドのカードを手札に戻す。私は手札二枚を墓地へ捨て……」
「手札の『エフェクト・ヴェーラー』の効果! 相手ターンのメインフェイズ時にこのカードを墓地へ送って、このターン、ブリューナクの効果を無効にする!」
梓
手札:3→1
ポプラ
手札:1→0
「おお、そんなカードを握っていましたか……少々予定は狂いましたが、まあ、良いでしょう。たった今墓地へ捨てた『フィッシュボーグ-プランター』の効果」
つい今しがた、ブリューナクのコストとして墓地へ送ったモンスターの効果を宣言する。
「このカードが墓地にある限り一度だけ、デッキの一番上のカードを墓地へ送り、それが水属性モンスターであれば、墓地のこのカードを特殊召喚する」
『氷結界の水影』水属性モンスター
「効果は成功。よって、特殊召喚します」
『フィッシュボーグ-プランター』
レベル2
守備力200
「宝札の効果により、一枚ドロー」
梓
手札:1→2
「私の場にレベル2の『フィッシュボーグ-プランター』が存在することで、手札を一枚墓地へ捨て、チューナーモンスター『フィッシュボーグ-ガンナー』を特殊召喚!」
『フィッシュボーグ-ガンナー』チューナー
レベル1
守備力200
梓
手札:2→1→2
梓がチューナーを呼び出した時……
梓の身から、闇があふれ出すのが見えた。
煉獄龍にも似ているが、それより更に透き通り、純粋で、無垢で……美しい。
ただ黒く暗いはずの闇なのに、そんな感想が出てしまう。それほどの、ポプラでさえ見入ってしまうほどの、闇が……
「レベル6の『氷結界の龍 ブリューナク』に、レベル1の『フィッシュボーグ-ガンナー』をチューニング!」
そしてまた、直前と似た光景が広がった。
一つの星に変わる機械の魚。その星がブリューナクの周囲を回り、ブリューナクの氷の身に、亀裂が走り、ひび割れていく……
「真なる自由の闇、今交わりて、刹那の命となる……」
「シンクロ召喚! 降誕せよ『妖精竜 エンシェント』!」
輝きを散らしながら溢れ出る闇と共に、氷の外皮が砕け飛び、そこから、更に長く伸びた身体が現れた。
後ろ脚が失せた代わりに、長く、しなやかに伸びた前脚……否、それは、女性的な腕。
そんな腕と、それが伸びる肩には、鎧以上の黄金と、鎧以上に赤く輝く宝石が散りばめられていた。
頭部からは、緑色の長い髪。
背の翼は、更に大きく、更に美しく、更に高く、更に自由に。そんな願いが込められた、妖精の名に相応しい巨大な羽。
妖しげながらも優しげな、美しい瞳と表情を向けるその竜は、暗い闇の中から出でたはずなのに、何者よりも輝き、何者よりもその存在を主張しているよう。
それはまさしく、闇夜に遊び、星空に舞う妖精のよう……
『妖精竜 エンシェント』シンクロ
レベル7
攻撃力2100
「『妖精竜 エンシェント』……煉獄龍に似てる。けど、全然違うものを感じる。それに、すごく、きれい……」
「『妖精竜 エンシェント』の効果」
ブリューナクより進化した、妖精竜の輝きに、しばし目と心奪われていたポプラの耳に、梓の声が届いたことで、決闘に目を戻した。
「一ターンに一度、フィールド魔法が存在する時、フィールド上に攻撃表示で存在するモンスター一体を破壊する」
「フィールド魔法……わ、わたしの『セイバー・ヴォールト』は、フィールド魔法!?」
フィールドに広がる白き光が、闇から成る妖精竜を照らし出す。
その光を吸収し、そして、反射された光が、ポプラの場の、『XX-セイバー ガトムズ』を照らし出した。
「
光に照らされ、包まれたガトムズ。それは確かに彼に力を与えるはずの光だったのに、妖精竜の返したそれは、彼に力を与えることなく、どころかその身を焼き尽くし、消し去ってしまった。
「続いて、フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』発動!」
「うわぁ!?」
ポプラが慌てふためくも、時すでに遅し。
美しくも荘厳な、輝く大剣と厳粛な空間が、一気に海に沈んだ。
海の底に沈み、空間は破壊され、その向こう側に、古代の岩石を掘り、削り、積み、作られた、失われた古代都市が、海中と化した空間の向こうに現れた。
『X-セイバー ウルベルム』
攻撃力2200+400
『X-セイバー ソウザ』
攻撃力2500-500+400
『XX-セイバー ヒュンレイ』
攻撃力2300+400
『フィッシュボーグ-プランター』
レベル2-1
守備力200+200
「このカードが場に存在する限り、全ての手札、フィールド上の水属性モンスターのレベルを一つ下げ、攻撃力と守備力は200アップさせる。更に、エンシェントが場にある時、私のターンにフィールド魔法が発動されたことで、カードを一枚ドロー」
梓
手札:1→2
「モンスターを裏守備表示でセット。更にカードを一枚伏せる。バトルです! 『妖精竜 エンシェント』で、『総剣司令 ガトムズ』を攻撃!」
静かにたゆたっていた妖精竜が、その海中を自在に泳ぎだす。その見た目も相まって、まるで魚類のウナギにも見える素早い動きで、向こう側にいる総剣司令の元へ一気に泳く。
「
泳ぎ、彼の目の前に止まった瞬間。その体を上へと跳ね上げ、その長い靭尾を振う。
「総剣司令の攻撃力は、エンシェントと互角だよ!」
魚類さながらの、優雅ながらも美しいその動きからの、強烈な鞭の一撃。
両手に構える巨大な剣を、力の限り振い放たれた斬撃。
それが、互いの身にぶつかり、致命傷となり、共倒れとなった。
「ですが、これで残ったモンスター達の攻撃力は元に戻る」
『X-セイバー ウルベルム』
攻撃力2200
『X-セイバー ソウザ』
攻撃力2500-500
『XX-セイバー ヒュンレイ』
攻撃力2300
「オーガ・ドラグーンで、『X-セイバー ソウザ』を攻撃! 死滅の
鬼の貌持つ凶悪な龍の口から、死滅の火球が放たれた。
直前と違い、力で遥かに劣るソウザは、他愛なく破壊された。
ポプラ
LP:2050→1050
「うぅ……!」
「これでターンエンド」
梓
LP:2200
手札:0枚
場 :モンスター
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000
『フィッシュボーグ-プランター』守備力200+200
セット
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』
ポプラ
LP:1050
手札:0枚
場 :モンスター
『X-セイバー ウルベルム』攻撃力2200
『XX-セイバー ヒュンレイ』攻撃力2300
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
「……」
「さあ、あなたのターンだ」
何度目になるか分からない、逆転されたこんな状況に、意気消沈してしまった。そんなポプラの耳に、その声が届く。
その顔を、見つめてみた。
「……」
その顔を見た時、ポプラの中で、芽生えつつあった諦めの気持ちが、溶けていく感覚を覚えた。
こちらをジッと見つめる、梓の顔。
それは、二日ほど前に初めて見た時。そして今日、決闘を始める時に見せた、使命感に溢れた、だがそれゆえに切羽詰まって余裕が無いような、そんな顔とは違っていた。
その顔は、ただただ純粋に、この決闘を楽しんでいる。
私はこれだけのことをした。これだけのことをあなたにして見せた。
あなたももっとできるよね? まだまだ終わらないでしょう?
もっと、もっと、決闘を続けよう?
もっと、もっと、一緒に遊ぼう……
「ふふ……」
口元が吊り上がり、笑みがこぼれてしまった。
あんなに強い決闘者のくせに、それだけ決闘を楽しんで、これだけ期待されたんじゃ、応えないわけにはいかないじゃん……
「もちろん! わたしもまだまだ、見せてあげるよ! ラスボス、地場ポプラの決闘をね!」
すでに、このデッキの主力モンスターの大半が墓地にあり、相手の場には、一ターンに一度こちらの魔法・罠の発動を無効にする煉獄龍。
こんな状況をどうするかなんか、ポプラにも分からない。
それでもなぜか、確信していた。この決闘、まだまだ終わることなく続く!
「わたしのターン!」
ポプラ
手札:0→1
「……最っ高のドローだ」
「ほう?」
「『サイバー・ジムナティクス』召喚!」
『サイバー・ジムナティクス』
レベル4
攻撃力800
「はは……あなたこそ、ちゃっかり旧式のカードを入れているではありませんか」
「えへへへ……」
明日香もデッキに入れて使っていた、現在のカード。その登場と、先ほど言われた言葉に苦笑する梓に、ポプラも悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「『サイバー・ジムナティクス』は一ターンに一度、相手フィールドの表側攻撃表示のモンスター一体を破壊できる」
「ですが、その効果の発動には、手札を一枚捨てるコストが必要なはず。あなたの手札は現在ゼロ」
「それが大丈夫なんだなー……墓地の『神剣-フェニックスブレード』の効果!」
「そうか、『ナチュル・ランドオルス』の効果の時の……!」
「墓地の戦士族モンスター二体を除外することで、墓地のこのカードを手札に加える。私は墓地の、『X-セイバー アナペレラ』と、『XX-セイバー フラムナイト』を除外!」
『えぇー!? なんでー!?』
『ふざけんなー!?』
「ぅるさーい!! さっさと除外ゾーンにいけえええ!!」
取り出したカードに向かって叫びながら、そのカードをポケットにしまい込むと、代わりに墓地からカードを一枚、宣言した装備魔法を手に加えた。
ポプラ
手札:0→1
「これで……『サイバー・ジムナティクス』の効果で、手札一枚を捨てて、そっちの『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』を破壊!」
ポプラ
手札:1→0
白い仮面を被った、筋肉質な褐色の女の手に、神の剣が握られる。
それを、煉獄龍に向かって投げた時。それは鬼の眉間に突き刺さり、消滅させた。
「さあ、バトル! 『サイバー・ジムナティクス』で、『フィッシュボーグ-プランター』を攻撃!」
白い仮面の女が飛び上がり、守備表示の機械の魚に飛び蹴りを食らわす。
ガラスが割れ、機械は砕け、魚も消滅した。
「続いて、『XX-セイバー ヒュンレイ』で、その伏せモンスターを攻撃!」
(これであのモンスターを破壊して、ウルベルムでのダイレクトアタックが決まったら、ジャストキルでわたしの勝ち!)
ポプラが思考している間に、藍色の女剣士が、まるで中国武術を思わせる動きでセットモンスターを切り刻む。表示された、雪だるまの姿をしたモンスターは破壊された。
「『スノーマンイーター』の効果! このカードがリバースした時、フィールド上の表側表示のモンスター一体を破壊します」
「うそぉ!?」
「『X-セイバー ウルベルム』を破壊します」
ポプラのフィールドを、突然の猛吹雪が襲った。
それに見舞われ、もろに受けることとなったウルベルムは凍り付き、砕かれた。
「……ターンエンド」
ポプラ
LP:1050
手札:0枚
場 :モンスター
『XX-セイバー ヒュンレイ』攻撃力2300
『サイバー・ジムナティクス』攻撃力800
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
梓
LP:2200
手札:0枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』
「私のターン!」
梓
手札:0→1
「墓地へ送られた『フィッシュボーグ-プランター』の効果! デッキの一番上のカードを墓地へ送り、それが水属性モンスターだった時、特殊召喚する」
『ADチェンジャー』光属性モンスター
「あら……光属性モンスター」
「そりゃあ、そう何度も効果成功されても困るよ」
「そうですね……ならば、墓地の水属性モンスター『氷結界の舞姫』と『ブリザード・プリンセス』の二体を除外します」
『えぇー!? どうしたの梓!? 僕なにかした?』
「彼女も、精霊の二人を敢えて切り離し、孤独の戦いを選んだのだ。私も、その覚悟に答える義務がある」
(いやー、別にそんな大げさなつもりであの二人除外したわけじゃ……)
「現れよ冷狼……『フェンリル』特殊召喚!」
ポプラとアズサが苦笑している間に、そのモンスターはフィールドを駆け現れた。
『フェンリル』
レベル4-1
攻撃力1400+200
「『フェンリル』! 厄介なモンスターが……」
「続けて、墓地の『ADチェンジャー』の効果! 自分のメインフェイズにこのカードを除外することで、フィールド上のモンスター一体の表示形式を変更します」
梓の墓地から、二枚の旗を両手に握る、小さな光の戦士が消える。と同時に、ポプラの場の藍色の女剣士は体制を変えた。
『XX-セイバー ヒュンレイ』
守備力1300
「バトルです。『フェンリル』で、『XX-セイバー ヒュンレイ』を攻撃! 冷爪牙斬!」
走り出した青き冷狼の爪に切り裂かれ、牙に噛みつかれる。
藍色の女剣士は破壊され、同時にポプラ自身に変化をもたらす。
「『フェンリル』が相手モンスターを戦闘破壊した次のターン、あなたのドローフェイズをスキップします。これでターンエンド」
梓
LP:2200
手札:0枚
場 :モンスター
『フェンリル』攻撃力1400+200
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』
ポプラ
LP:1050
手札:0枚
場 :モンスター
『サイバー・ジムナティクス』攻撃力800
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
「わたしのターン!」
凍り付いたデッキを見て、苦い顔を見せるポプラだが、すぐにその表情を切り替えた。
「墓地の『神剣-フェニックスブレード』の効果! 墓地から戦士族モンスター『ヒーロー・キッズ』二体を除外して、手札に加える」
ポプラ
手札:0→1
「『サイバー・ジムナティクス』の効果で、このカードを墓地へ捨てて、君の『フェンリル』を破壊!」
前のターンと同じ光景。女戦士の手から飛んできた神剣に貫かれた冷狼は破壊された。
「バトル! 『サイバー・ジムナティクス』で、ダイレクトアタック!」
その筋肉に覆われた身体を飛び上がらせ、梓に向かっていく。
その飛び蹴りが、梓の身にぶつかり、ライフを削った。
梓
LP:2200→1400
「うぅ……っ」
「やった! 何気に初ダメージ!」
梓のライフも削れてはいた。だが、それはあくまで梓自身のカードによる、ダメージなりコストなりの結果だった。
それだけ強い梓のライフを削れたことに、ポプラは歓喜を顔に浮かべていた。
「これでターンエンド!」
ポプラ
LP:1050
手札:0枚
場 :モンスター
『サイバー・ジムナティクス』攻撃力800
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
梓
LP:1400
手札:0枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
セット
フィールド魔法『伝説の都 アトランティス』
「私のターン!」
梓
手札:0→1
梓がカードをドローした瞬間、梓のその手の上に、ギロチンが現れ、ドローしたカード『氷結界の水影』を真っ二つにした。
梓
手札:1→0
「五ターン前に発動した『命削りの宝札』の効果により、全ての手札を墓地に送ります」
「よし! これでこのターンはなにもできないね」
「いいえ……伏せカード発動、速攻魔法『非常食』! 私の場の魔法・罠カード一枚を墓地へ送るごとに、ライフを1000回復します。『生還の宝札』、『伝説の都 アトランティス』を墓地に」
発動された伏せカードにより、梓の場に残されたカード二枚が光と変わる。
フィールドが元の島の風景に変わると同時に、それが梓の身を包み、その傷を回復させる。
梓
LP:1400→3400
「これでターンエンド」
梓
LP:3400
手札:0枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
ポプラ
LP:1050
手札:0枚
場 :モンスター
『サイバー・ジムナティクス』攻撃力800
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
「ライフは回復させちゃったけど、これで本当に打ち止めだね。わたしのターン!」
ポプラ
手札:0→1
「……ついでに、これもプレゼント。魔法カード『成金ゴブリン』! 相手のライフを1000回復して、わたしはカードを一枚ドロー」
梓
LP:3400→4400
ポプラ
手札:0→1
「良いのですか? ライフが開始時点よりも増えてしまいましたが?」
「そのくらい、すぐに返してもらうよ。『X-セイバー ウルズ』を召喚!」
これまでのX-セイバーのような、紅いマントではなく、闇のような漆黒のマントが揺らめいた。
そこから赤の鎧を纏う、双剣握る暗殺者は素早い動きでフィールドに降り立った。
『X-セイバー ウルズ』
レベル4
攻撃力1600
「バトル! 『サイバー・ジムナティクス』、『X-セイバー ウルズ』で、ダイレクトアタック!」
女戦士の飛び蹴りと、赤色の暗殺者の双剣が、梓の身を襲う。
梓
LP:4400→2000
「ターンエンド」
ポプラ
LP:1050
手札:0枚
場 :モンスター
『X-セイバー ウルズ』攻撃力1600
『サイバー・ジムナティクス』攻撃力800
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
梓
LP:2000
手札:0枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「私のターン!」
梓
手札:0→1
「私とて、まだまだ終わりはしない! 『グリズリーマザー』召喚!」
『グリズリーマザー』
レベル4
攻撃力1400
「『グリズリーマザー』で、『サイバー・ジムナティクス』を攻撃!」
青色の巨熊がその太い腕の爪を振った。女戦士はその爪に倒れ、破壊される。
「なんの、これしき……!」
ポプラ
LP:1050→450
「ターンエンド」
梓
LP:2000
手札:0枚
場 :モンスター
『グリズリーマザー』攻撃力1400
魔法・罠
無し
ポプラ
LP:450
手札:0枚
場 :モンスター
『X-セイバー ウルズ』攻撃力1600
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
「わたしのターン!」
ポプラ
手札:0→1
「『XX-セイバー ガルセム』を召喚!」
紅色の揺らめきと共に現れたのは、その名の示す通り、光る鎧を纏い、後ろ脚の二本で直立するガゼルの剣士。
両手には、自身の角と同形状の剣を握っている。
『XX-セイバー ガルセム』
レベル4
攻撃力1400
「ガルセムの攻撃力は、自分フィールドのX-セイバーの数×200ポイントアップする。わたしの場には、ガルセム自身とウルズの二体。攻撃力は400アップ!」
『XX-セイバー ガルセム』
攻撃力1400+200×2
「バトル! ウルズで『グリズリーマザー』を攻撃!」
赤い鎧の光が、青い巨熊の前を通り抜ける。
その直後、巨熊の身は切り裂かれ、破壊された。
梓
LP:2000→1800
「『グリズリーマザー』の効果! このカードが戦闘によって破壊され、墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の水属性モンスター一体を攻撃表示で特殊召喚できる。私はデッキから、『氷結界の番人ブリズド』を特殊召喚!」
『氷結界の番人ブリズド』
レベル1
攻撃力300
「攻撃力300……? ガルセムで、ブリズドを攻撃!」
「ぐぅ……!」
梓
LP:1800→300
「く……ブリズドが戦闘破壊され墓地へ送られた時、私はカードを一枚ドローします」
梓
手札:0→1
「それが目当てか……ターンエンド」
ポプラ
LP:450
手札:0枚
場 :モンスター
『X-セイバー ウルズ』攻撃力1600
『XX-セイバー ガルセム』攻撃力1400+200×2
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
梓
LP:300
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「私のターン!」
梓
手札:1→2
「『氷結界の武士』を召喚!」」
『氷結界の武士』
レベル4
攻撃力1800
「バトル! 『X-セイバー ウルズ』を攻撃! 絶体冷刀!!」
「うぅ……!」
ポプラ
LP:450→250
『XX-セイバー ガルセム』
攻撃力1400+200
「カードを伏せます。ターンエンド」
梓
LP:300
手札:0枚
場 :モンスター
『氷結界の武士』攻撃力1800
魔法・罠
セット
ポプラ
LP:250
手札:0枚
場 :モンスター
『X-セイバー ガルセム』攻撃力1400+200×2
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
「……ぷっ」
「ふふふ……」
梓がターンを終えた時。突然ポプラが吹き出して、同時に梓も、笑みを浮かべた。
やがて二人して、笑い声を上げてしまった。
「あははは……ごめんね、急に笑っちゃって」
「いいえ、こちらこそ……」
「シンクロモンスターや、未来のカードもたくさん使っておいて、これじゃあ今時の、普通の決闘と変わらないね」
「むしろ、段々と荒く雑く、旧式になっていく。そして、そんな決闘でさえ全く安心できない。強すぎます」
「ラスボスだもん。そりゃ強いよ」
「実に厄介なラスボスだ」
そんなやり取りをして、また二人して笑いあう。
そして、二人ともが感じた。
なんて楽しい決闘なんだ。
もっと続けていたい。
このまま終わりが来なければいいのに……
だが、どれだけ白熱した楽しい決闘も、終わりは必ずやってくる。
それを、二人ともが分かっている。そして、その終わりが、目の前まで近づいてきていることも……
「じゃあ、続けるね……わたしのターン!」
ポプラ
手札:0→1
「……」
ドローしたカードを見て、思わず苦笑した。
せっかく、新たに出会ったカード達の力でここまで戦い抜いてきたのに……
いや、彼ほどの決闘者とここまで戦えたからこそ、彼にとっての『ラスボス』として、このカードこそが、決着には相応しいのかもしれない。
「じゃあ、いくね。これこそが私の、本当の切り札!」
自分がX-セイバー達に出会う以前から使っていたカード。
このデッキでは出番が無いだろうと分かっていながら、それでもデッキに入れていた。
そして今、その力を存分に振うことができる。
それを確信したことで、ポプラはそのカードを、決闘ディスクに叩きつけた。
「世界の記憶、人間の意識、集い合わさり記憶となりて、在りし世界に今、その威光を示す時! 召喚! 『流星方界器デューザ』!」
これまでとは明らかに違う空気が、フィールドを包み込む。
怪しげな輝きと共に、徐々に徐々に、フィールドに浮かび上がったそれは、これまでのX-セイバー達よりも遥かに巨大な姿形。
漆黒の丸い身体から、同じ漆黒の長い長い両腕を伸ばし、その中心にある胴体には、眼にも見える赤い紋章が光り輝く。
胴体の上には、白い頭のような突起が飛び出して、足は無いが、胴体の下へ鋭利に伸びた部位は宙に浮いている。
感情は見られず。体温は見られず。表情は見られず。意識は見られず。
そんな黒く冷たい機械が、彼女のフィールドに降り立ち、浮遊していた。
『流星方界器デューザ』
レベル4
攻撃力1600
「方界……それは、まさか……!」
「デューザが召喚、特殊召喚に成功した時、デッキから『方界』カード一枚を墓地へ送る。わたしはデッキから、二枚目のデューザを墓地へ送る。バトル! ガルセムで、『氷結界の武士』を攻撃!」
ポプラが声を上げた時、ガゼルの剣士は両手の武器を構えて、氷の武士へ走り出した。
「攻撃力は武士の方が上です!」
その言葉の通り、ガゼルの双剣、武士の刀、しばらく鍔迫りあったものの、最終的に武士の反撃が、ガゼルの剣士を両断した。
ポプラ
LP:250→50
「これでいい……『流星方界器デューザ』の効果! 一ターンに一度、このカードが表側表示で存在する状態でモンスターが自分の墓地へ送られたターン、このカードの攻撃力を、自分の墓地のモンスターの種類の数の200倍、アップする!」
「墓地のモンスターの、種類の数の、200倍……!」
その効果の説明の後、ポプラの墓地に眠るモンスター達が、目の前に表示される。
そして、そんなカード達の表示が、デューザの身へ吸収されていき、ただでさえ巨大なデューザのその身が、更に巨大化していく……
『ヒーロー・キッズ』
『総剣司令 ガトムズ』
『ナチュル・パルキオン』
『ナチュル・ランドオルス』
『X-セイバー パロムロ』
『X-セイバー ウルズ』
『X-セイバー ウェイン』
『X-セイバー ウルベルム』
『X-セイバー ソウザ』
『XX-セイバー レイジグラ』
『XX-セイバー ガルセム』
『XX-セイバー ボガーナイト』
『XX-セイバー ガルドストライク』
『XX-セイバー フォルトロール』
『XX-セイバー ヒュンレイ』
『XX-セイバー ガトムズ』
『流星方界器デューザ』
「
『流星方界器デューザ』
攻撃力1600+200×17
「攻撃力5000……!?」
「この攻撃で本当に終わり! 『流星方界器デューザ』で、『氷結界の武士』を攻撃!
巨体を回転させ、長い腕が振り回される。それが梓の場の、氷の武士の身を叩いた。
拳に吹き飛ばされた武士のその身が、梓に向かって飛んでいき……
「罠発動『ガード・ブロック』! 戦闘ダメージを一度だけゼロにし、カードを一枚ドロー!」
カードをドローし、それで飛んできた武士を受け止める。
武士は破壊されたものの、梓は無傷に終わった。
梓
手札:0→1
「……ターンエンド。デューザの攻撃力は元に戻るわ」
ポプラ
LP:50
手札:0枚
場 :モンスター
『流星方界器デューザ』攻撃力1600
魔法・罠
永続魔法『生還の宝札』
梓
LP:300
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「私のターン」
梓
手札:1→2
そのドローフェイズが終わった時……梓は、そしてポプラも、同時に直感した。
このターンが、この決闘の最後だということを……
「魔法カード『死者蘇生』! 墓地のモンスター一体を蘇生する。私が蘇生するのは……『妖精竜 エンシェント』!」
梓の呼びかけに応じて、長い身を持つ妖精の竜は、再びフィールドを泳ぎ、舞い降りた。
『妖精竜 エンシェント』シンクロ
レベル7
攻撃力2100
「もっと攻撃力の高い煉獄龍だっていたのに。あえてそれを召喚したってことは、その手札のカード……」
「そう……フィールド魔法『ウォーターワールド』発動!」
フィールドがみたび、その姿を変える。
青く美しく楽し気な、水と海でできた世界。
もう楽しい時間は終わりだというのに、まだまだ遊び足りない、もっともっと遊んでいたい、そんな未練と心残りが、その海には宿っているようで……
「フィールド魔法が発動されたことで、エンシェントの効果により、カードを一枚ドロー」
梓
手札:0→1
「そして、フィールド魔法が存在することで、一ターンに一度、フィールドの攻撃表示モンスター一体を破壊できる。『流星方界器デューザ』を破壊!」
フィールドに舞う海水が、妖精竜の羽へ吸収される。
それをデューザに向けた瞬間……
「
放出された海水を受けて、デューザは成すすべなく破壊されてしまった。
「そして、これで最後です……バトル!」
梓がバトルを宣言する。その瞬間、フィールドの空を泳いでいた妖精竜が、その海の上を渡り、まっすぐ、まっすぐ、ポプラのもとへ飛んでいった。
「
「……」
ポプラ
LP:50→0
「あー、終わっちゃったー……でも、楽しかったー。出し切ったって感じ」
決闘を終えて、メダルを渡して、簡単な会話を済ませて。
別れた後は、満ち足りた気持ちになりながら、港への道を歩いていた。
「これで『ナチュル』のみんなともお別れか……正直、あんまり活かしてあげられなかったけど、ちょっとは満足してくれたかな?」
本来は別の決闘者のカード達である、ナチュル達がどう感じたかは分からない。ただ、自分は全てを出し切って、満足することができた。
彼を付け狙っていた、変なカードを持った二人組を倒してあげた甲斐があった、終わってしまったのがもったいない、本当に楽しい時間だった。だから、またいつか決闘しようと約束もした。
それでも一つ、心残りを挙げるとするなら……
「どーせなら、
髪のゴム紐を取り去り、流してしまいながらそんなことを感じた。
地場ポプラ……
お気に入りの漫画から取って適当に付けた、大会に出るための偽名ではなく、自分が持っている、本当の名前。
「それとも、気付いてたのかな? 何だかんだ、一度もポプラって名前、呼ばなかったし」
今となっては、それを確かめることはできない。
漫画にならって、見た目も簡単に変えたりもした。
そんな見た目や、地場ポプラという名前も存外、可愛くて気に入ってはいる。それでもなじみが強いのは、生まれた時から持つ本来の名前の方だ。
それだけ好きな本名ではあるが、いかんせん、身内が有名人なものだから、騒がれては面倒だと偽名を名乗ることにしていた。
そんな本名を、彼にだけは、話してもよかったかもしれない。そう、今更ながら後悔していた。
「私の名前……地場ポプラの、本当の名前は……」
「セラ!」
呟こうとした瞬間、自分ではなく、誰かの口からその名が聞こえた。
その声の方……前を見ると、彼女に向かって手を振る青年が一人。
「ディーヴァ!」
彼女……セラもまた、彼の名前を呼んで近づいていった。
普通の服の上に、民族衣装を重ね着したモダンな雰囲気。褐色の肌と、長く特徴的な藍い髪。
手や髪には金色の飾りを着けているが、それ以上の黄金に輝く大きな瞳。
そんな青年……尊敬する兄に、セラは走り近づいた。
「どうしたの? 今日はお仕事なんじゃ?」
「さっき終わったよ。時間も空いたし、せっかくだから、セラの応援をしようと思ってね」
「もー、兄さんが来ちゃったら、本名を隠した意味なくなるじゃない……さっき敗けたからいいけど」
「え? 敗けたの?」
「うん。けど、その人に敗けるまでには、何十人も倒したけどね」
「そっか。さすがだね、セラ」
「はぁ……このデッキのために、兄さんに送られた招待状とメダルで、無理して大会に参加したのに。プロ決闘者にして、最強の方界使い『ディーヴァ・藍神』の妹として、情けないわ」
ため息を吐き、落ち込む妹に、兄、ディーヴァは優しく語りかける。
「まあ、どうせ僕はプロの仕事や子供たちの世話で参加は無理だったし。それに、楽しかったろう? そういう顔してるよ」
「うん! すごく楽しかった。悔いはないわ」
「なら良かった……じゃあ、帰ろう。僕たちの家に」
「そうね……私達の家、孤児院『プラナ』に」
「子供たちやマニにも、君の活躍の話を聞かせてあげなよ」
「良いわよ。その後は兄さん、私と決闘ね」
そうして会話していきながら、褐色肌の兄妹は、アカデミアの連絡船へと乗り込んでいった。
「にしても、セラ?」
「なに? 兄さん」
「今日のソレは、いくら何でも盛りすぎなんじゃ……」
「ていっ」
「痛い……っ」
「……て、あれ? セラ? 一人だけ?」
「え? 何が? 私はずっと一人よ?」
……
…………
………………
「さすがに強敵だったね」
決闘が終わって、ポプラと別れた後で、実体化したアズサが姿を現していた。
「……」
だが、話しかけられた梓の方は、特に返事はしない。
返事の声は上げなかったが……
「うわひゃあっ!!」
その突然の感触に、アズサは驚愕の声を上げ、梓から飛びのいた。
「ど、ど、ど、どうしたの? 梓……////」
今まで触れようともしなかった。そんな梓に、突然触れられたお尻をさすりつつ、赤面しながら尋ねてみる。
尋ねられた梓はと言えば、
「はて……どうしたのでしょう?」
と、本人も不思議そうに首を傾げていた。
「なぜだか分かりませんが……彼女との決闘をしているうち、無性にあなたの身体に触れたくなりました」
「えぇー////////」
より赤面し、声を上げる。そんなアズサの声を無視して、梓は、アズサの身を、いつものように抱きしめた。
「あっ……////」
今まで梓に抱きしめられたり、逆に抱きしめてあげたことは何度もある。
だが、何度もやってきたことながら、その感触だけは、今日まで一度もなく、そして、今後も無いと思っていた。
自分を抱きしめる梓の体温が、いつもよりも熱い。心臓の鼓動も早く、息も荒い……
(梓……発情してる? 僕に対して、興奮してるの……?)
今日まで、アズサのことを愛し、思いやってくれてはいた。だがそれも、恋愛とは違って、特に、性欲なんて物は皆無だった。
それが、星華姉さんともども寂しく感じることはあったものの、それだけ何の欲も下心もなく、無償で自分たちを愛してくれる気持ちは嬉しかった。
そんな梓が、割と鈍感な方のアズサでさえ分かるほどに、発情し、興奮までしている。
アズサという女を、梓という男が今、求めている。
(信じらんない……けど、すっごく嬉しい……////)
お尻を触られ、いきなり抱きしめられた時は、飛び上がるくらい驚いて、固まった。
今でも緊張で力がこもるが、それでも全てを梓に委ねたくなって、目を閉じた。
このままこの男に、自分の女を捧げるために。
アズサという女を、梓という男のものにしてほしくて……
「梓?」
いくら待っても、何もしてこない。それを不思議に思い、もう一度呼びかけてみた、その時。
「ううぅぅ……!!」
苦悶の声を上げたかと思えば、左手首を押さえて、その場にひざを着いた。
「梓! ちょ、それって……」
梓が押さえる左手首。
これまでも、そこから出血はしていたものの、せいぜいが多少切った程度の血量でしかなかった。
それが今や、深々と切られたように、そこからドクドクと大量の血が溢れている。
「早く治して!」
「既にやっている……これが精いっぱいです」
苦悶で返すその声は、これまで以上の痛みに耐えていることが分かる。
「梓、今日はもう無理だよ。保健室行こう?」
「バカをおっしゃい。相手は残り一人なのです……それに、確信しました。最後の一人も、既にこの島にいる」
「そうなの?」
「ええ。分かります……感じます。奴の気配を」
「奴って、まさか……!」
アズサに答えながら、激痛走る左手を押さえて、立ち上がる。
「梓、ダメだって! もういいよ! 保健室行こうよ?」
「この傷が、医者の手に負えるケガでないことくらい、アズサも分かっているでしょう?」
「それは……」
「何より……保険
最後の言葉を絶叫し、その相手がいる方へ歩こうとする。
だが、左手だけの激痛は体中にまで広がり、歩きたい、動きたいという梓の意思を、全力で妨げているようで。
「……っ」
今にも倒れ込み、その場にうずくまってしまいたい。
そんな衝動と戦うために……
梓が思い出したのは、ある三人の男たちの姿だった。
「か……かっ」
どんなに辛く、苦しい目に遭うと分かっていても、決して逃げ出さず、実際にそんな目に遭ったとしても、耐えて、耐えて、最後まで耐え抜いて、抗い、戦い抜いてきた者達。
テレビの中だけの存在なのは、梓自身も承知している。
それでも、痛みにも苦しみにも、時に罵声や暴力を受けてもなお、全ての理不尽も不条理も受け入れ、受け止めて、必ず人々に笑顔を与えてみせる。
そんな偉大な戦士たちが、戦いへと赴く前に唱える合言葉を、梓もまた、震える口で唱えつつ、立ち上がり、歩き出した。
「か……か、カッ……!」
「カットしないでね……カットしないでね……カットしないでね……カットしないでね……」
お疲れ~。
エンシェントが目覚めるまでの経緯が、我ながら強引すぎたかと反省してる、今日この頃……
にしても、終盤で二人がやったような、単純なモンスター同士の殴り合いって、アニメや漫画で最後にやったのっていつだったかなぁ?
つ~わけで、また次話に続きますでや。
それまで待ってて。