遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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最近テレビ観てて思ったこと……

ウルル(エアーズロック)が、今年の10月から登頂全面禁止になると聞いて、隼人は何を思ったかな……

ちなみに本編には全く関係ない。

てなことで、決闘の方、行ってらっしゃい。



    最後の光 ~決闘~

視点:外

 

『決闘!!』

 

 

アズサ(氷結界の舞姫)

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

梓(魔轟神レイヴン)

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「僕から行くよ……僕のターン!」

 

アズサ

手札:5→6

 

「……魔法カード発動『融合』!」

 

「いきなり融合召喚か!」

 

「手札の『E・HERO オーシャン』と、『氷結界の虎将 ライホウ』を融合! 来い『E・HERO アブソルートZero』!」

 

『E・HERO アブソルートZero』融合

 レベル8

 攻撃力2500

 

「続けて、魔法カード『死者蘇生』! 墓地から『氷結界の虎将 ライホウ』を蘇生!」

 

『氷結界の虎将 ライホウ』

 レベル6

 攻撃力2100

 

「僕はカードを一枚伏せる。そして魔法カード『命削りの宝札』! デッキから、手札が五枚になるようカードをドローして、五ターン後、手札全部を墓地へ捨てる」

 

アズサ

手札:0→5

 

「通常召喚、チューナーモンスター『氷結界の守護陣』! 守備表示!」

 

『氷結界の守護陣』チューナー

 レベル3

 守備力1600

 

「アブソルートZeroの攻撃力は、Zero以外の水属性モンスター一体につき、500アップする。これでターンエンド」

 

 

アズサ

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500+500×2

   『氷結界の虎将 ライホウ』攻撃力2100

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   魔法・罠

    セット

 

 

「一ターン目からアブソルートZeroの召喚に加えて、相手モンスターの効果を制限するライホウと、攻撃をロックする守護陣。そして伏せカード……先行一ターン目ながら、ほぼ完璧に近い防御とロック、更には攻撃も可能な布陣だな」

「……アズサちゃん、そのデッキ、梓くんの?」

 

「そう……あいつに引っ張られる直前、とっさに僕に託してくれてたんだ。このデッキで、レイヴン、お前を倒して、梓を取り戻す!」

「ふふん……」

 三人のやり取りを聞きながら、レイヴンに憑りつかれた決闘者、梓は、鼻息を鳴らした。

「確かに、中々厄介な布陣だな……私のターン」

 

手札:5→6

 

「そのモンスターどもが存在するかぎり、私は自由に動けない……ならば、早々に排除させてもらうとしよう。魔法カード発動『サンダー・ボルト』!」

 その宣言に、あずさも星華も耳を疑った。

 だが、直後に表示されたカード、そして、すぐさま轟いた落雷により、アズサの場のモンスターが全滅したことで、空耳でも何でもないことを理解させられた。

 

「おい待て! それは禁止カードのはずだ!!」

 

「……私は更に、魔法カード『ハーピィの羽根箒』。お前の場の魔法・罠カード全てを破壊してもらう」

 星華の声を無視しながら、平然と新たなカードを発動する。

 新たに現れた純白の羽根箒が、アズサの場に残った伏せカードを掃きとってしまった。

「これでお前の場はがら空きだな」

 

「なに平然と言ってるのさ! 禁止カード二枚も使っておいて!?」

 

「まったく、さっきからごちゃごちゃと……何を勘違いしているのやら?」

 

「勘違い?」

 あずさが問いかけた瞬間……梓は身震いしそうなほどに、表情を歪め、三人を見下す態度を見せた。

 

「タカが下らんカードゲームとは言え、私は自らの命と存在意義を懸けてここに立っているのだ。それほどの戦いに、手段など選んでいられるものか? 禁止されていようがいまいが、勝つためなら利用できるものは利用するまで。何の問題があるというのだね?」

 

「そんなことは誰もが同じだ! 私も、平家あずさも、舞姫も、梓も、全ての決闘者がだ! それでも全員、決められたルールの内で戦っているのだ。貴様の勝手な理屈で、決闘者の矜持を汚すな!!」

 

「カードゲームごときに矜持だと? 随分と安っぽい矜持もあったものだ」

 

「何だと、貴様……!!」

 

「では、そんなご立派な矜持を持つ君に聞こう……君は、私が送り込んだ決闘者を破った後、プラネットシリーズを強奪し、あまつさえそれを自分自身で使っていたな?」

 

「な、それは……っ」

 

「人間の決まり事に興味は無いのだがね、これは決闘以前の犯罪……窃盗罪、というやつだろう? 加えて、マッケンジーが一生懸命作った三邪神のカード、それを燃やすか破りさえした。器物破損、だったか……カードの窃盗・破損と禁止カードの使用、どちらがより悪だと言うのだろうな? 決闘者として……人として?」

 

「ぐ、うぅ……!」

「屁理屈言わないで! 盗むか壊すかしなきゃ危ないカードをアンタが作ってみんなに持たせたんでしょう!? それ以前に、そのカードを作らせるためにその人に憑りついて、その家族や、イシュさん達のことまで、散々メチャクチャになるまで利用して……それこそ犯罪がどうとか以前の問題だよ!!」

 

「そうなのかね? それはそんなに悪いことなのかね? それは知らなかった。何せ、決闘者でも、人でもない私は、この世界の道徳など知ったことではないのでねー」

 あずさの決死の批判も馬耳東風。相手の行った悪行はネチネチと突いておいて、自らやったことに対しては罪悪感は皆無。むしろ、悪事だったのかと、ただ開き直る。

 そんな態度と、そんな言葉を、よりにもよって、梓の顔と姿で行っていることに、激怒している二人のことなど目もくれず……

「これ以上、タカが決闘者と話をしていても、時間の無駄だ……続けよう。魔法カード『強引な番兵』! 相手の手札を確認し、その中から一枚をデッキに戻す」

「……」

 三枚目の禁止カード。それを使われながらも、アズサは何も言わず、手札を見せる。

 

『フィッシュボーグ-ランチャー』

『バトルフェーダー』

『エネミーコントローラー』

『氷結界の交霊師』

 

「ほぅ……母親のカードを引き当てていたか」

「……」

「だが、面倒なカードは一枚だけだな。『バトルフェーダー』をデッキに戻してもらおう」

「……」

 

アズサ

手札:4→3

 

「くくく……手札は消費したが、残るこの三枚なら問題は無いな。さぁ……初陣といこう。チューナーモンスター『魔轟神レイヴン』を召喚!」

 梓がカードをセットした瞬間、すぐに、ソレはフィールドに現れる。

 異様なほど長い腕。不気味なほど白い肌。そんな腕や、背中、脚にさえ生える、赤色の入り混じった黒い翼。鎧を思わせる黒い装束と、顔を隠すメットの隙間からは、真っ赤な両眼を覗かせる。

 ついさっき、マッケンジーから出てきた存在。そして今、梓に憑りついている存在。

 全ての始まりにして、最後の敵……『魔轟神レイヴン』の、真の姿。

 

『魔轟神レイヴン』チューナー

 レベル2

 攻撃力1300

 

「チューナーモンスター……それが、貴様自身のカードか……!」

 

「そう。もっとも、正直なところ、必須カードと言えるかは微妙な性能だがね。それでも、この手札ならば、効果を遺憾なく発揮できそうだ……『魔轟神レイヴン』の効果! 一ターンに一度、手札を任意の枚数捨てることで、捨てた枚数だけレベルを上げ、加えて、このカード自身の攻撃力を400アップさせる。私は、二枚のカードを捨てる」

 

手札:2→0

 

『魔轟神レイヴン』

 レベル2+2

 攻撃力1300+400×2

 

「そして、今手札に捨てた二枚のカード効果が発動する。『魔轟神ルリー』、『魔轟神獣ガナシア』は、どちらも手札から墓地へ捨てられた時、墓地から特殊召喚できる効果を持つ。さあ、蘇るがいい!」

 梓の目の前、レイヴンの左右に、新たに二体のモンスターが復活する。

 悪魔を思わせる大きな翼を広げる、子供の『魔轟神』。レイヴンに比べれば遥かに小さいながら、それでも魔轟神の特徴をハッキリ備えている、そんな子供。

 そのすぐ後は、全身が紫色な皮膚の、二足歩行を行う像。それが、像の鳴き声を上げながら仁王立ちしていた。

 

『魔轟神ルリー』

 レベル1

 攻撃力200

『魔轟神獣ガナシア』

 レベル3

 攻撃力1600+200

 

「自身の効果で特殊召喚された『魔轟神獣ガナシア』は、攻撃力を200アップさせ、フィールドを離れた時ゲームから除外される」

 

「『魔轟神獣』……そんなモンスターもいるのか?」

 

「そうとも。我々『魔轟神』の忠実なしもべたちだ。カード以外に取り柄の無い駒どもより、遥かに価値ある命だよ」

 声を上げる度に決闘者を、人間を否定し、侮辱する。そんな梓の姿に不快になっている星華には目もくれず、フィールドを見渡す。

 

『魔轟神レイヴン』

 攻撃力1300+400×2

『魔轟神ルリー』

 攻撃力200

『魔轟神獣ガナシア』

 攻撃力1600+200

 

「うむ……攻撃力の合計は4100。どうやら、この三体の攻撃で終わりのようだ」

 平然と語られたその事実に、星華もあずさも戦慄した。

 アズサの場に、カードは一枚も残っておらず、加えて、手札にあった『バトルフェーダー』も、今はデッキに戻り、眠っている。

 

 (あずさ)の命と存在が賭かった決闘。それが、たったの一ターンで……

 

「では、バトルだ! レイヴン、ルリー、ガナシア、三体の魔轟神で、ダイレクトアタック!!」

 主人の命に従い、その主人を含めた、三体の光の神々が向かっていく。

 レイヴンのかぎ爪、ルリーの頭突き、ガナシアの突進、その全てが、アズサの身に……

「ハハハハハ!! 散々偉そうなことを語っていた割に、最後は実に呆気ないじゃないか!! ククク、傑作だ……傑作だなこれは! フハハハハハハハ!!」

 

「傑作はどっちだか」

 

 アズサの声が、工場に響く。それはすぐさま、梓の笑いを止ませ、笑い声をかき消した。

「なに?」

 そこで初めて、レイヴンは、アズサを護るようにそこに立つ、青い修道女たちの存在に気付いた。

 

アズサ

LP:4000

 

「バカな……ライフが減っていないだと!?」

「お前が『ハーピィの羽根箒』を使った瞬間、破壊される前に発動させといたんだよ。罠カード『和睦の使者』をね。このターン、僕への戦闘ダメージは、全てゼロになる」

「発動、していた、だと? 発動の宣言をしていないのか貴様!? 卑怯な!!」

「堂々と禁止カード使ってる奴に言われたくないね」

 

「アズサちゃん、やるー!」

「ふぅ……冷や冷やさせる」

 

「くぅ……バトルは終了だ!」

 自分のしたことなど棚上げにしながら、目の前で行われた不正には悪態をついて、すぐさま次の手を打った。

 

「メインフェイズだ。レベル1の『魔轟神ルリー』に、レベル4となった『魔轟神レイヴン』をチューニング」

 

「シンクロ召喚。従え、『魔轟神レイジオン』」

 

 何の飾り気もなく、感情もやる気も感じない。そんな事務的な口上と命令のもと、召喚と共に広がる翼。

 両翼の中心に光る、黒と、赤と、そして黄金。輝きと共に腰に携えた剣以て、堂々と立ち上がる魔神の騎士……

 

『魔轟神レイジオン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2300

 

「レイジオンのモンスター効果! 私の手札が1枚以下の時にこのカードをシンクロ召喚した時、手札が二枚になるよう、カードをドローする!」

 

手札:0→2

 

「手札を回復したか……」

 

「ふむ……カードを一枚伏せる。これでターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『魔轟神レイジオン』攻撃力2300

   『魔轟神獣ガナシア』攻撃力1600+200

   魔法・罠

    セット

 

アズサ

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「奴のフィールドは三枚……しっかり『氷結界の交霊師』の特殊召喚効果を警戒している」

「アズサちゃんの手札はバレちゃってる。次のドロー次第だよ……」

 

「ドロー」

 

アズサ

手札:3→4

 

「よし……魔法カード『天使の施し』! カードを三枚ドローして、二枚捨てる……魔法カード『クロス・ソウル』! このターン、バトルフェイズを放棄する代わりに、相手フィールドのモンスター一体をリリースできる。更に速攻魔法『エネミーコントローラー』! 第二の効果を選択して発動。お前の場の『魔轟神獣ガナシア』をリリースして、『魔轟神レイジオン』のコントロールを得る!」

「くぅ……!」

 アズサの宣言の通り、梓の前に立つ紫色の像が姿を消し、代わりに黄金の騎士がアズサの目の前まで移動した。

「ちぃっ、フィールドを離れたガナシアは、ゲームから除外される……」

「僕は更にチューナーモンスター『フィッシュボーグ-ランチャー』召喚!」

 

『フィッシュボーグ-ランチャー』チューナー

 レベル1

 守備力100

 

「『フィッシュボーグ-ランチャー』を素材にシンクロ召喚する時、水属性のシンクロモンスターの素材にしか使えない。レベル5の『魔轟神レイジオン』に、レベル1の『フィッシュボーグ-ランチャー』をチューニング!」

 いつもなら、ここでの口上は目の前に立っている少年が行うはずだった。

 だが、それは今、彼にはできそうにないから。だから今は、代わりに僕が……

 

「凍てつく結界(ろうごく)より昇天せし翼の汝。全ての時を零へと帰せし、凍結回帰(とうけつかいき)の螺旋龍」

「シンクロ召喚! 舞え、『氷結界の龍 ブリューナク』!」

 

 薄暗い工場内であろうと、その美しさは陰ることを知らず。

 工場の闇、荷物の陰、そこを縫うように現れ、輝き、氷を散らす氷龍は、その身をうねらせ螺旋を描き、真なる主と相対する。

 

『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2300

 

「出た! アズサちゃんもシンクロ召喚だ!」

「だが、モンスターは除去できたが、手札は残り一枚な上、『クロス・ソウル』の効果でこのターン攻撃はできない。となれば当然……」

 

「……カードを一枚伏せる。ターンエンド」

 

 

アズサ

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の龍 ブリューナク』攻撃力2300

   魔法・罠

    セット

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

(むぅ……相手の手札はゼロ。この局面で最もふさわしいモンスターがいるのだがな……)

 

「……私のターン!」

 

手札:1→2

 

「うむ……魔法カード『強欲な壺』! カードを二枚ドローする」

 

手札:1→3

 

「さすがに、そう易々とは引けんか……ではもう一度、『強欲な壺』発動!」

 

「な……おい!!」

 

手札:2→4

 

「『強欲な壺』はデッキに一枚しか入れられない制限カードのはずだぞ!! なぜ二枚も入っている!?」

 

「さっきからいちいち、うるさい娘だな……心配せずとも、ルールにのっとり三枚までしかデッキには入っていない」

 

「なっ……!!」

 

「星華姉さん。気持ちは分かるけど、もう黙っといた方がいいよ。こいつには、何言ったって無駄だからさ」

 星華の怒りも、レイヴンの開き直りも、もはや時間の無駄にしかならない。

 それを知っているアズサは、冷静に星華を落ち着かせ、決闘に目を戻す。

「さすが精霊、人間よりも物分かりが良いな……望みのカードも引くことができた。魔法カード『魔獣の懐柔』! 自分フィールドにモンスターが存在しない時、デッキからレベル2以下の、カード名が異なる獣族モンスターを三体、特殊召喚する。さあ、現れろ!」

 

『魔轟神獣キャシー』チューナー

 レベル1

 守備力600

『魔轟神獣ケルベラル』チューナー

 レベル2

 守備力400

『魔轟神獣ノズチ』

 レベル2

 守備力800

 

 昆虫のような尻尾を持つ黒猫。赤色の三つ首犬。青い冠を戴くツチノコ。

 呼び出され、懐柔される三体ともが、身体は小さく、力も弱い。

 そんな獣たちの使い道など、より巨大な獣を呼び出すための供物以外になく……

 

「『魔獣の懐柔』によって特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、このターンの終わりに破壊される……」

 

「レベル2のノズチに、レベル2のケルベラルをチューニング……」

「シンクロ召喚! 服従しろ、『魔轟神獣ユニコール』!」

 

 蹄の音が、遠くから響いてくる。

 フィールドを走り抜け、二人の間に止まった白い巨体。

 それは、純白の身に鎧を着こみ、頭に鋭利な角を伸ばした、雄々しくも飼い馴らされし、力強さに溢れた神なる戦場馬。

 悪魔の鎖を纏うと共に、そのいななきをフィールドに響かせた。

 

『魔轟神獣ユニコール』シンクロ

 レベル4

 攻撃力2300

 

「レベル4……新しいシンクロモンスター!」

 

「カードを二枚セット。『魔獣の懐柔』を発動したターン、私は獣族以外のモンスターは特殊召喚できない。だが、通常召喚は別だ。こいつは魔轟神一体をリリースしてアドバンス召喚できる。『魔轟神獣キャシー』をリリース……『魔轟神ディアネイラ』をアドバンス召喚!」

 再び巨大な翼が広がり、だがその翼に劣らない、巨体が現れた。

 体温が急上昇したかのように高揚した上半身と、それを包む鋼鉄の筋肉。それらを大いに強調しながらも、爪、腕、腰、脚には、黒と黄金から成る装飾に身を包み。

 顔さえも黄金の仮面で隠している様は、神というよりも、巨漢レスラーの様相を呈しているような。それは神なる巨人だった。

 

『魔轟神ディアネイラ』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「レベル8のモンスターを、リリース一体で!?」

「攻撃力2800だと……!」

 

「それだけではない。私の手札は、お前と同じ0枚……『魔轟神獣ユニコール』の効果! このカードが場にある限り、私と相手、お互いの手札の枚数が同じ枚数である限り、相手が発動した魔法・罠・モンスター効果の全ては無効化され、破壊される!」

 

「そんな……! じゃあ、アズサちゃんは、あいつと同じ手札が0枚でいる限り、一切のカード効果が使えないってこと!?」

「まずいぞ……カード効果も満足に使えない状態で、ブリューナクまでやられたら……!!」

 

「くくく……バトルだ! ディアネイラで、『氷結界の龍 ブリューナク』を攻撃!」

 赤色の巨体が翼を広げ、拳を握る。空中に浮遊し、螺旋描きし氷龍へと向かう……

 

「……墓地の『キラー・ラブカ』の効果、発動」

 

 アズサの墓地から、黄色の長いものが飛んでいった。それがディアネイラの身に巻き付き、動きを封じた。

「『天使の施し』で捨てておいた……このカードをゲームから除外することで、僕のモンスターへの攻撃を無効にして、次の僕のターンまで攻撃力を500下げる」

 

『魔轟神ディアネイラ』

 攻撃力2800-500

 

「なんだと……バカな! ユニコールの支配下で、なぜ効果が発動できる!?」

「学習しないね……ユニコールを見てご覧よ」

 アズサに言われ、ユニコールを見てみる。

 そこには、純白の体毛と、それとは対照的な、黒く輝く悪魔の鎖に縛られた、無力感しか感じられないユニコールの姿があった。

「ユニコールのシンクロ召喚時、永続罠『デモンズ・チェーン』を発動させといたんだ。これで、ユニコールは攻撃できず、効果も無効になる」

「また宣言もなく、勝手にカードの発動を……だが、ディアネイラが私の場に存在する限り、一ターンに一度、お前が発動した通常魔法カードの効果は全て、『相手は手札を1枚選んで捨てる』効果となる。この効果は、私の手札がゼロであろうが適用し続ける。ターンエンドだ!」

 

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『魔轟神獣ユニコール』攻撃力2300

   『魔轟獣ディアネイラ』攻撃力2800-500

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

 

アズサ

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の龍 ブリューナク』攻撃力2300

   魔法・罠

    永続罠『デモンズ・チェーン』

 

 

「奴の使う魔轟神……手札から捨てられることで力を発揮するカード達ということか」

「梓くんも、よくやってた戦術ですね。用途は全然違うけど」

 

「僕のターン!」

 

アズサ

手札:0→1

 

「……永続魔法『生還の宝札』発動。僕の墓地のモンスターが水属性のみの場合、墓地の『フィッシュボーグ-ランチャー』は特殊召喚できる!」

 

『フィッシュボーグ-ランチャー』チューナー

 レベル1

 守備力100

 

「『生還の宝札』の効果で、一枚ドロー」

 

アズサ

手札:0→1

 

「レベル6の水属性、ブリューナクに、レベル1の『フィッシュボーグ-ランチャー』をチューニング!」

 

「冷たき結界(ろうごく)にて研磨されし剣の汝。仇なす形の全てを砕く、冷刃災禍(れいじんさいか)の刃文龍」

「シンクロ召喚! 狩れ、『氷結界の龍 グングニール』!」

 

『氷結界の龍 グングニール』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500

 

「自身の効果で特殊召喚した『フィッシュボーグ-ランチャー』は、ゲームから除外する。そして……チューナーモンスター『アンノウン・シンクロン』召喚!」

 

『アンノウン・シンクロン』チューナー

 レベル1

 守備力0

 

「あれは……!」

「闇属性の、チューナーモンスター?」

 

「ふふふ……レベル7のグングニールに、レベル1の闇属性『アンノウン・シンクロン』をチューニング!」

 今までとは違うチューナー。加えて、二人の知るものとは違う光景が広がる。

 闇属性の小さなチューナーが一つの星となり、それを受け入れる刃の氷龍、その全身に亀裂が広がり……

 

「地獄と極楽、虚無を願いし時。無間に拡がる嘆きと共に狭間の界より羅刹(らせつ)は生まれる」

「シンクロ召喚! 現世(うつしよ)に無の裁きを……『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』!」

 

『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』シンクロ

 レベル8

 攻撃力3000

 

 氷龍の身を突き破り、現れたるは鬼の龍。その姿に、あずさも、星華も、目を奪われた。

「こいつは……! グングニールの、真の姿、ということか?」

「見たことのないドラゴン……梓くん、こんなカードいつの間に……!」

 

 二人が驚愕を露わにする中、アズサは、煉獄龍の力を振った。

「バトル! まずは『魔轟神ディアネイラ』を攻撃、死滅の混沌業火(カオス・インフェルノ)!」

 鬼の龍の口に、暗黒の炎がたまり、巨大化する。それが一気に放出され、巨神のもとへ飛んでいった。

「くくく……罠発動『聖なるバリア-ミラーフォース』! こいつの効果で、お前の煉獄龍は破壊だ!」

「無駄。虚無裁(ゼロ・ジャッジメント)

 平然と宣言される効果と、伸びる煉獄龍の尻尾。それが梓の発動させた罠カードを貫き、砕いた。

「なんだと? なにが起きた……!」

「……どうやら、他人を操ったり、体を奪ったりできるだけで、記憶までは共有できないっぽね。オーガ・ドラグーンは僕の手札がゼロである限り、一ターンに一度、相手の魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する効果がある」

「なんだと……!」

 カードは砕かれ、放たれた煉獄龍の獄炎は、問題なく巨神の身を焼き尽くした。

 

LP:4000→3300

 

「ちぃ……!!」

「ターンエンド」

 

 

アズサ

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    永続罠『デモンズ・チェーン』

 

LP:3300

手札:0枚

場 :モンスター

   『魔轟神獣ユニコール』攻撃力2300

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「まったく……正直、ガッカリだよ。アレコレ暗躍して壮大な計画を立てて、それを実行して、それをした全部の黒幕の実力が、こんな程度だなんてさ」

「なんだと?」

「まだ二ターンしかお前のプレイングは見てない。けど、二ターンで分かった。お前、とんでもない雑魚だよ」

「禁止カードを使っているからか? 強がりにしても見苦しいぞ」

「むしろ、禁止カード使わなきゃ勝てないのがよく分かるくらい、下手くそだって言ってんだよ」

 

「……確かにな。禁止カードや制限カードの三枚積みには驚かされたが……」

「それとシンクロモンスターが強いだけで、それ以外は、ねぇ……」

 

 星華にあずさすら、顔を引きつらせながらそんなことを言っている。

 アズサはそんな二人の、後ろを見た。

「佐倉君、教えてあげなよ。どこがどう悪いか」

 

「は? 俺? そうだな……最初のターン、『サンダー・ボルト』に、『ハーピィの羽根箒』の順に発動して彼女のフィールドを空にしたが、普通、羽根箒の方を最初に発動させるべきだ。今回は防がれなかったが、カウンター罠で無効にされる恐れもある。羽根箒を先に撃てば、それを除去できるし、仮に妨害札だったとしても、それを使わせることだってできる。今回はどっち道、一枚しか伏せられていなかったしな」

 

「うんうん……二ターン目は?」

 

「えっと……『魔轟神獣ユニコール』は、互いの手札の枚数が同じ時に、相手のカード効果の発動を無効にできるんだよな? だったら、手札の枚数が全然違うあんなタイミングじゃなくて、手札がゼロになるタイミング……一番最後に呼び出すべきだった。場に出た時点で効果が適用される永続効果な以上、召喚を無効にするくらいしか相手に防ぐすべは無い。そうせず中途半端なタイミングで呼び出してちゃ、手札が同じ枚数になるまでの間に対策されたって文句は言えない」

 

「大正解! さすが佐倉君」

 

「ハハハ、どうもありがとう……あと、俺の名前は――」

 

「まったく……梓の体奪っといて、梓の姿でこんなド下手な決闘してさ。こっちとしては、すっごいムカつくから、今すぐサレンダーしてほしいくらいなんだけど?」

「……ククク」

 佐倉の言葉を遮りながらの、アズサからの問いかけに、梓はほくそ笑んだ。

「確かに……私はあまり、このゲームが上手いとは言い難い。何せ、タカがカードゲームなどより、行うべき大事はいくつもあるのだからな。時間を無駄使いできる人間どもと違って、こんな下らんことに、貴重な時間を費やす余裕などないのだよ」

「その下らんことの精霊に生まれ変わっておいて、よく言うね」

「ああ……真に心外だ。このカードゲームに宿る不可思議な力、神秘的な力には十分な利用価値があった。だから使う分には抵抗が無かった。だが、自分が使われる側にされるとなれば話は別だ。虫唾が走る思いだよ、我がことながら」

「下手くその言い訳にしか聞こえないね。生まれ変わる前から、自力はちっとも鍛えないで、セコイことや卑怯なこと、他人を利用することばっか考えるから、そんなことになるんだよ……」

 呆れ口調でそう言った後……レイヴンから、倉庫の出口へ視線を移した。

「一つアドバイスするなら、あそこに座ってる、レジーって娘に決闘してもらった方が、まだマシだったと思うよ。彼女なら、卑怯なことしなくたって、お前たち魔轟神の力を最大限に発揮して――」

 

「黙れ」

 

 アズサの親切なアドバイスを、レイヴンは、怒りの形相で遮った。

「私が、人間に使われろだと? この私が、人間に従い闘えと……ふざけるな!!」

 

「私のターン!!」

 

レイヴン

手札:0→1

 

「伏せておいた魔法カード『天よりの宝札』を発動! 互いのプレイヤーは、手札が六枚になるよう、カードをドローする!」

「ちょっともったいないけど……オーガ・ドラグーン、虚無裁!」

 発動された魔法カードを、再び煉獄龍の尾が貫いた。

「では、次はこれだ。魔法カード『壺の中の魔術書』! 互いのプレイヤーは、カードを三枚ドローする」

「引き当てたのか……っ」

 

手札:0→3

アズサ

手札:0→3

 

「どちらを先に発動させるか迷ったのだがね、確実に効果を使わせるために、より強力な効果を持つ方を使った。これは、下手くそかね?」

「ふんっ……」

「続けてこれだ。ライフを800払い、伏せておいた装備魔法『早すぎた埋葬』を発動!」

 

LP:3300→2500

 

「私の墓地に眠るモンスター一体を蘇生させ、このカードを装備する。このカードが破壊された時、装備モンスターは破壊される。『魔轟神レイジオン』を特殊召喚!」

 

『魔轟神レイジオン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2300

 

「そして、魔法カード『ハリケーン』! フィールド上の魔法・罠カード全てを手札に戻す!」

 

「『ハリケーン』……あれも確か、今は禁止カードでしたよね?」

「ああ……」

 二人の言葉と同時に発生した巨大な風が、互いの場にある魔法・罠全てを巻き上げた。

 

アズサ

手札:3→5

手札:2→3

 

「これでユニコールの効果が復活する。今は使えんがな……更に、『早すぎた埋葬』は破壊ではなく、手札に戻ったことで、レイジオンは破壊されない」

「……」

「更に魔法カード『バラエティ・アウト』! 自分フィールドに存在するシンクロモンスター、レイジオンをエクストラデッキに戻し、そのレベルの合計が等しくなるよう、私の墓地に眠るチューナーモンスターを特殊召喚する。来い、我がチューナーモンスターども!」

 

『魔轟神獣キャシー』チューナー

 レベル1

 守備力600

『魔轟神獣ケルベラル』チューナー

 レベル2

 守備力400

『魔轟神レイヴン』チューナー

 レベル2

 守備力1000

 

「このカードを発動したターン、私はシンクロ召喚ができなくなるが、構わない。キャシー、ケルベラルの二体をリリース……」

 二体の獣が光に変わり、最後の手札を、梓は掲げた。

「忘れ去られし暗闇の星よ、存在を奪われし恨みを糧に、忌むべき敵の全てを奪いつくすがいい……アドバンス召喚! 『The suppression PLUTO(ザ・サプレッション・プルート)』!!」

 頭上に発生した暗闇の中から、星ではなく、赤い瞳がいくつも輝いた。

 その瞳を持つ眼の周囲に、太く、獰猛で、闇よりも暗い肢体が伸びた。

 太い両腕、太い両足、更には背中から、鎧にも、骨にも見える鋭利が飛び出し。

 更にはその背中から、先端に刃を備えし、長い触手が三本、揺らめいている。

 いくつもの眼で全てを見通し、全身の凶器で全てを壊し、暗闇として全てを奪う。

 宇宙の闇より降り立ったソレは、否定されしものの名を持つ悪魔……

 

The suppression PLUTO(ザ・サプレッション・プルート)

 レベル8

 攻撃力2600

 

「プルート……冥王星、だと?」

「そうだった……冥王星も、昨日までは惑星だったんだ。それに、さっきハッキリ言ってた。九枚の(・・・)プラネットって……」

 

「そう……私たち魔轟神と同じ、人間どもの勝手な都合で、存在を否定された悲劇の惑星(ほし)だ!」

「僕も梓も知らないカード……それが隠し玉?」

「そうだ……『The suppression PLUTO』! 一ターンに一度、カード名を一つ宣言し発動する。私は『生還の宝札』を宣言する」

「『生還の宝札』……たった今、『ハリケーン』の効果で手札に戻ったカード」

「その後、相手の手札を全て確認する」

「なっ! うぅ……」

 

『フィッシュボーグ-ガンナー』

『バトルフェーダー』

『月の書』

『生還の宝札』

『デモンズ・チェーン』

 

「そして、この効果で宣言したカードが相手の手札にあった場合、相手フィールドのカード一枚のコントロールを得る」

 

「なんだと!?」

「アズサちゃんの手札には、今宣言した『生還の宝札』。それに、アズサちゃんの場のカードは一枚、て、ことは……」

 

「レイジオンの仕返しだ。貴様の場の、『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』を貰うぞ!」

 冥王星の背中で揺らめく、三本の触手。先端の刃を向けながら、煉獄龍の身へ伸び、突き刺した。

 そこから邪悪な力を流し込み、煉獄龍を従わせた。

「カードを一枚伏せる……バトルだ! オーガ・ドラグーンで、ダイレクトアタック!!」

 前のターンと同じように、煉獄龍の口に炎が燃え上がる。

 前のターンとは違うのは、そのコントロールを奪われていること。

 本来の主が使っているようで、その主は体を奪われ、その攻撃を向けているのは、主にとっての最愛の一人であるという矛盾……

 ……だが、

 

「手札の『バトルフェーダー』の効果! こいつを特殊召喚して、バトルフェイズを終了させる!」

 

『バトルフェーダー』

 レベル1

 守備力0

 

 そんな矛盾になど負けはしない。それを報せるように鐘の音が鳴り、バトルは終了した。

「もちろん、分かっていたとも……ターンエンドだ」

 

 

LP:2500

手札:0枚

場 :モンスター

   『The suppression PLUTO』攻撃力2600

   『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000

   『魔轟神獣ユニコール』攻撃力2300

   『魔轟神レイヴン』守備力1000

   魔法・罠

    セット

 

アズサ

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『バトルフェーダー』守備力0

   魔法・罠

    無し

 

 

「まずいですよ、これ……手札は増えたけど、相手の場にはオーガ・ドラグーンがある。梓くん……レイヴンの手札はゼロ。一ターンに一度だけとは言っても、魔法も罠も無効化されちゃう」

「どうする? 舞姫……」

 

「……僕のターン!」

 

アズサ

手札:4→5

 

「……速攻魔法『月の書』! オーガ・ドラグーンを守備表示にする!」

「これは、無効にしても仕方がない……このドラゴンの守備力は、攻撃力と同じく3000か。ここは守りを固めるとしよう」

 

 セット(『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』守備力3000)

 

(この状況……次のターンには、煉獄龍は表側になって、また魔法も罠も防がれる。レベルを変えられるレイヴンだっているから、それを素材に新しくシンクロ召喚だって狙える。何より、あいつは昔の梓みたく、デッキに禁止カードや制限カードを何枚も採用してる。早く決着をつけなきゃ、大変なことになる……)

 今の目の前の状況。そして、それを打破するための対策を、考え……

「『強欲な壺』発動! カードを二枚、ドローする」

 カードの発動。そして、デッキの上に、指を置く……

(この状況を、一発で逆転するには……引き当てて、何とかして使うしかない。あのカードを……!)

 

「ドロー!」

 

 

 ――ん? 昔の、梓みたく……?

 

 

アズサ

手札:3→5

 

「……」

「……」

 

「……」

「……」

 

「……さすがに、梓みたく、都合よく引けないよね」

「……ククク、フフハハハハハ!!」

 アズサの独白に、レイヴンは高笑いを決め込み、星華とあずさは顔を青ざめた。

 この場で笑っているのは、レイヴン一人……

 

 では、ない――

「だったら、引くまで何度もドローする。魔法カード『魔法石の採掘』! 手札を二枚捨てて、墓地の魔法カード『命削りの宝札』を手札に加える」

 

アズサ

手札:4→2→3

 

「何だと……?」

「永続魔法『生還の宝札』! カードをセット。そして、魔法カード『命削りの宝札』! 手札が五枚になるまで、カードをドロー!」

 

アズサ

手札:0→5

 

「ちぃ……っ」

「続けて、たった今墓地に送った『フィッシュボーグ-プランター』の効果! このカードが墓地にある時、一度だけデッキの一番上のカードを墓地へ送る。そして、それが水属性モンスターだった時、墓地のこのカードを蘇生できる!」

 

『E・HERO アイスエッジ』

 水属性モンスター

 

「アイスエッジは水属性、よって、墓地から特殊召喚! 更に、『生還の宝札』の効果で、一枚ドロー!」

 

『フィッシュボーグ-プランター』

 レベル2

 守備力200

 

アズサ

手札:5→6

 

「更に、墓地の『フィッシュボーグ-ガンナー』の効果! 自分フィールドにレベル3以下の水属性モンスターがいる時、手札を一枚捨てることで、墓地から特殊召喚する!」

 

アズサ

手札:6→5

 

『フィッシュボーグ-ガンナー』チューナー

 レベル1

 守備力200

 

「当然、宝札の効果で、一枚ドロー!」

 

アズサ

手札:5→6

 

「すごい……墓地からのモンスター展開に合わせての連続ドロー」

「梓の決闘をそばで見てきたというだけはあるな。まるで梓を見ているようだ」

 

「……っ」

 後ろの少女二人とは対照的に、レイヴンは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 自身がこの世界へ来る前。最期に行った、娘との決闘。

 あの時も、目の前の少女と同じ姿で、一ターンの内に、計十枚ものカードをドローした。

 それで大逆転を許し、敗北を喫した。

 目の前の光景はまさに、自分が見た最期の光景と被る……

(もっとも、今回はどうあろうとも、あの時と同じにはなるまいがな……)

 

「『フィッシュボーグ-ガンナー』はチューナーモンスター。それでシンクロ召喚を狙うかね?」

「いいや。そんなことしたって逆転はできない……けど、たくさんドローしたおかげで、やっと来てくれたよ。フィールドの準備もできたしね」

「なに……?」

「僕は『バトルフェーダー』、『フィッシュボーグ-プランター』、『フィッシュボーグ-ガンナー』の三体をリリース……」

「三体のリリースだと!? だが、貴様が神のカードを持っているはずが――ハッ……!」

 そこまで言って、レイヴンは思い出す。

 神の複製。三邪神。レイヴンの知る限り、それ以外でこの島に存在している、召喚に三体のリリースを要求するモンスター。決闘の直前、アズサが後ろに立つ少女の一人から受け取っていたカードを……

 

「アドバンス召喚! 『The tripping MERCURY(ザ・トリッピング・マーキュリー)』!」

 

 頭上に拡がる一瞬の銀河の後、輝きを発したのは、鉤型の光から成る青白い二本の剣。

 それを握る、小さく、細身の女性的な、なのに力強さに溢れた蒼き両腕。

 両腕と同じく、白きマントを翻らせる肢体は、青く、藍く、どこまでも深い、蒼色の鎧。

 強さと美しさを兼ね備えし、水星の名を冠す輝誕の女騎士……

 

The tripping MERCURY(ザ・トリッピング・マーキュリー)

 レベル8

 攻撃力2000

 

「『The tripping MERCURY』の効果! このカードが召喚に成功した時、フィールド上のモンスター全てを表側攻撃表示に変える!」

 蒼き女騎士の君臨と共に、彼女を中心に大気が揺れる。それに煽られるように、横向きになっていたカードが全て、縦向きに変化した。

 

『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』

 攻撃力3000

『魔轟神レイヴン』

 攻撃力1300

 

「このカードが三体のリリースでアドバンス召喚に成功した時、相手フィールドのモンスターの攻撃力を、その元々の攻撃力分ダウンさせる。Atmospheric Disseverance(アトモスフェリク・ディサフェランス)!!」

 立ち上がったモンスター達に向かって、蒼い騎士の両肩の突起が飛び出した。

 瞬間、その突起に挟まれたフィールドに、風が起き……否、大気自体が躍動を始めた。

 巻き起こる急激な環境変化に対応できない、水星を除いた生物たちは、全てがその力を吸い取られる。

 

『The suppression PLUTO』

 攻撃力2600-2600

『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』

 攻撃力3000-3000

『魔轟神獣ユニコール』

 攻撃力2300-2300

『魔轟神レイヴン』

 攻撃力1300-1300

 

「すごい! これでどのモンスターも倒せる!」

 

「……星華姉さん?」

 

「む……なんだ?」

 

「この水星のカードさ、借りるだけのつもりだったけど、このまま貰っちゃダメかな? 気に入っちゃった」

 

「うむ……好きにしろ。元より私のカードではない。それに、お前……お前たちなら、信頼して託せる」

「あ……じゃあわたしも、木星のカード欲しいです」

「ああ、持っていけ。むしろ、最初からそのつもりでお前に渡したカードだ」

 

「ありがと。星華姉さん」

 会話を済ませ、決闘に目を戻す。

「バトル! 『The tripping MERCURY』は、一度のバトルフェイズ中に二回の攻撃ができる」

「ちぃ……っ!」

「『The tripping MERCURY』で、『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』を攻撃!」

 アズサが叫んだ瞬間、再び彼女を中心に、大気の流れが生じた。

 急激な気温の上昇、それに伴う上昇気流が、マントを纏いし騎士の身を空中へ押し上げる。

 頂点に達したと同時に、両の剣を構えしその身を急降下させ、鬼の龍へと突撃する……

Temperature Change(テンパランチャー・チェインジ)!!」

 十分すぎる高さ、速度に達した女騎士の斬撃を、力を奪われし煉獄龍には防ぐすべなどなく、真っ二つに切り裂かれることとなった。

「ぐぅ……くぅ……!」

 

LP:2500→500

 

「く……ここまでか」

 もはや、攻撃を防ぐすべは無い。それを悟った梓は、体から力が抜けた。

 

「よし! あと一撃だ!!」

「もう一体を攻撃したら、それで勝てるよ!!」

 そう。二人の言った通り。レイヴンも悟っている通り。

 あと一撃。それでアズサは、勝利を掴める。

 

 あと、一撃で、勝利を……

 

「……アズサちゃん?」

「どうした? 舞姫?」

 あと一撃。それで、何人もの人間を巻き込み、傷つけたあの精霊を倒すことができる。それで、あの男のバカげた計画も終わらせられる。

 だというのに、アズサはその一撃を、一向に放つ気配が無い……

 

「……レイヴン」

「なにかね?」

「この決闘ってさ……闇の決闘、だよね?」

「そうだ」

「敗けた方が消える、闇の決闘、だよね?」

「もちろん。敗けた決闘者が存在を抹消される、闇の決闘だ」

 

「敗けた、決闘者、がね……」

 

「……ッ!! お前ッッ!!」

 

「な、なんだ……?」

 二人の会話。そして、アズサの絶叫。叫んだ理由は、すぐに分かった。

 

「それじゃあ、最初から……自分が敗けた時の身代わりにするために、梓に憑りついたっての!? 敗けたら自分じゃなくて、梓を消滅させるために!?」

 

「え……えっ!?」

「なんだと!?」

 

「ククク……ハハハハハハハハ!!」

 返事はしない。だが、顔に手を当てながらの笑い声が、それが正しいことの何よりの証だった。

 

「……いや、だが待て。いくら敗けたと言っても、消滅だと? 私とて、普通でない決闘は何度か経験し、勝ってきたが、消滅した者など一人も……」

「その人たちは、禁止カードを使ってましたか?」

 星華の言葉を遮りながらの、あずさの問いかけに、星華は答えられなかった。

「わたしが決闘した時と同じです。梓くんもレイヴンみたいに、禁止カードを使ってきました。レイヴンと違って、最初から命を捨てるつもりで、何枚も。禁止カードを……決闘の禁を破った決闘者を、闇の決闘は絶対に許さない。ルールにのっとって必ず消滅させる。現に、梓くんは一度、わたしの手の中で消えました」

 そこまで梓を決闘に駆り立てた理由は、なぜか思い出せない。だが、その時の感触は、今でもハッキリ覚えている。

 確かにそこにいたはずなのに、重さが、温かさが、そして存在そのものが、手の中から完全に消え失せた、あの、絶望という以外にない、あの時の感触を……

「だ、だが、梓は今、あの通り生きて……」

 

「僕の話聞いてなかったの? 消滅した梓を救ったのは、グリムロの力。グリムロの生まれ変わりのあずさちゃんが僕を召喚して、僕の中の心と魂を引き換えにして、ようやく梓は生き返ったんだ。もう、グリムロはどこにもいない。力だって使えない」

 

「そんな……では、この決闘に舞姫が勝利したその瞬間、どう足掻いても、梓は……っ」

 あの時のあずさと同じ、絶望が、星華の表情に表れる。

 直後に表れた感情は、怒りだ。

「レイヴン……貴様!! そこまでしてっ、梓のことが憎いというのか!?」

 

「当たり前だろう」

 あっけらかんと、星華を、人間たちを小バカにした声を上げ、ふてぶてしい態度を隠そうともしない。

「私は、この男が憎くてたまらない。私から最愛の娘を奪ったから……いいや、それ以前の問題だ」

 それまでは、卑しい微笑の表情だった。それが急激に、今までにないほどの……星華やアズサにも負けないだけの、怒りに変化した。

「初めて見た時から……この男の顔、姿、存在を認識した瞬間から、私はこの男、水瀬梓のことが憎たらしくて仕方がないのだよ。人間であることは関係ない、同じ魔轟神と知ってからも変わらない――なぜこれほどまでに憎いのか、自分自身でさえ理解できんほどにな! 叶うものなら、私自らの手で八つ裂きにでもしてやりたい……そう思うほど、この男が許せない! この男が存在すること、それ自体が許せんのだ!!」

 隠すことのできない激情のままに叫びながら、梓の手で、梓の顔に爪を立て、深い傷を抉っていく。

 だが、いくら抉ったところで、内に眠る虎王の力で、すぐさま再生させられる。

 その再生した綺麗な顔を邪悪に染め、再びほくそ笑んだ。

「だが、それは私には叶いそうにない。だからこうして、闇の決闘を実行したのだ。この男には最も苦痛だろう。愛する者の手により、我が身を抹消させられること。その逆もまた然りだ」

 

「貴様ぁ……!!」

 

「話は終わりだ……さぁ、どうするね? 氷結界の舞姫?」

 

『The suppression PLUTO』

 攻撃力2600-2600

『魔轟神獣ユニコール』

 攻撃力2300-2300

『魔轟神レイヴン』

 攻撃力1300-1300

 

「『The tripping MERCURY』の効果で、私の場のモンスターは全て、攻撃力が0になっている。そして、MERCURYはあと一度、攻撃の権利が残っているぞ。さあ、攻撃するかね? 勝利を得るかね? 水瀬梓を犠牲にして」

「……メインフェイズ2に移行」

「そうだ! お前はそうするしかないのだ! この男が大切だからな! 愛する男を犠牲になどできないのだからな! フフ、フフフフ、フフハハハハハハハ!!」

 

「あの男、よくも……!」

「許せない……許せない!!」

 

「いい加減、ギャラリーは黙っていてくれないか? 特にお前だ。大切な我が娘の魂、傷つけたくはないからな。そこでジッとして、水瀬梓か舞姫か、どちらが消えるかジックリ見ておきたまえよ」

 

「く、ぅぅ……っ」

 最初から最後まで、卑劣なことしかしていない。

 それなのに、何もできないことで、拳を握る総身が震えた。

 あずさも星華も、とにかく、許せない。

 決闘している梓――その中に図々しく入り込んで、体を使って、好き勝手喋って、あげく人質、どころか身代わりにして……

 そんなことを、自分達の最愛の人に行っている、そんな存在が……

 

 魔轟神レイヴンが、許せない……

 

 もちろん、それは決闘中のアズサも同じ。

 今にもレイヴンへ殴りかかりたいほどの怒りに駆られ……

 敢えてそれを抑え込み、手札を、決闘を見る……

(こうなったら……どうにかして、梓自身の意志で、レイヴンを体から引きはがさせるしかない)

 弱りきっていたところを狙われて、おまけにあそこまで体も意識も浸食されてしまっては、梓へ呼びかけること自体が、もはや難しい。

 それでも、梓をこの決闘から解放する方法は、それ以外にない。

(そのために、必要なのは……)

 

「カードを二枚セットする。ターンエンド」

 

 

アズサ

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『The tripping MERCURY』攻撃力2000

   魔法・罠

    永続魔法『生還の宝札』

    セット

    セット

    セット

 

LP:500

手札:0枚

場 :モンスター

   『The suppression PLUTO』攻撃力2600-2600

   『魔轟神獣ユニコール』攻撃力2300-2300

   『魔轟神レイヴン』攻撃力1300-1300

   魔法・罠

    セット

 

 

(僕の場にMERCURYがある限り、少なくともあいつは攻撃できない。こいつで時間を稼いで、その間に何とかするしかない!)

 

「私のターン!!」

 

 

 

 




お疲れ~。

サンボルに羽根箒……
この小説を書いてた当初にゃあ、制限復帰するだなんて夢にも思わなんだわ。
だからせめて、サンボル解禁前に書きたかったな。インパクト的な問題で……


そんじゃあ、ラスボス戦恒例(?)、使用禁止カードを羅列。
ついでに、少ないからリミレギュ破りも書いときまさ。



禁止カード
『サンダー・ボルト』
『ハーピィの羽根帚』
『強引な番兵』
『ハリケーン』

制限カード
『強欲な壺』
『強欲な壺』



うーむ……枚数が少ないのもそうだが、ぶっちゃけ、一年目の梓に比べりゃ可愛く見える不思議。
まあ、作中の通り、レイヴン弱いからなぁ。だから敗ける前提で人質取ってるわけだし。
ただ、このころ『ハリケーン』て禁止だったっけ……?

つ~ことで、次で決闘は完結さす予定なんで、それまでどうか、ちょっと待ってて。

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