遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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十一話や~。
梓の存在で色々と変化した原作キャラは二人。しばらくその二人の話となります。誰かは、まあ読めば分かるさ。
んじゃ、行ってらっしゃい。



第十一話 盗まれたデッキと花の思い出

視点:あずさ

 梓くんがいなくなって、色々あった。

 まず、万丈目くんが学校を出ていった。

 理由は、十代くんに負けたことで一気に寮での信頼を失ったこと。そして、三沢くんの昇格を賭けた決闘をして、負けちゃった。

 でも、その時の万丈目くんは、どこか上の空だったのが印象的だった……いや、ずっと上の空だった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 その日、万丈目くんはいつもと同じように、教室中央の席に座った。けど、いつもなら偉そうに命令しながらふんぞり返ってたのが、その時は静かに座って、物思いにふけってた。

 

「おい」

 

 そこに、別のブルー生徒が今の万丈目くんの席を教えた。

「……そうか。いつの間にか変わっていたんだな」

 それだけ言って、無言で移動する。隅の席に追いやられたっていうのに、怒りもしないし反論も無い。本当に、いつもの万丈目くんとは違ってた。

 

 そして、その数日後の三沢くんとの決闘の時、クロノス先生が、万丈目くんの最近の態度を見かねて、負けたら退学だって言いだした。そんなのやり過ぎだって十代くんは抗議してたけど、本人は構わないって言った。

 そしてその決闘はっていうと、さっき言った通り真剣にやってるようで、どこか上の空だった。最後には『炎獄魔人 ヘル・バーナー』を呼び出したけど、返しのターンでの『ウォーター・ドラゴン』で逆転された。

 

「これで俺は退学か。世話になったな」

 そう冷めた口調で言って、そのまま出ていっちゃった。そして、姿をくらませた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 万丈目くんだけじゃない。

 梓くんがいなくなって、ほとんどの生徒は変わった。梓くんのファンだった人は、あの時の凶王化のせいでほとんどがファンじゃなくなっちゃった。変わらずファンな人は落ち込んだり、ショックを受けたりしていた。それでも数日もすれば、みんな梓くんのことなんか忘れたみたいに元通りになって、普通どおりの学園生活に戻る。

 でも、私は……

 

 

 私は今、制裁決闘の前に梓くんと約束した、滝壺に来てる。時間は早朝。

 何度目かな。この時間にここに来たのって。

 今まで時々しかできなかった早起きができるようになって、それからは毎日トレーニングをした。トレーニングして、必ずここに来た。

 だって、梓くんと約束したから。わたしが勝ったら、ここに来てくれるって。

 それに、あの時みたいに、ここにいればまた梓くんに会えるって思ったから。

 もちろん、都合の良い思い込みだってことくらい分かってる。でも、他に、梓くんがいそうな場所なんて無いんだもん。

 

 ……梓くんに会いたい。

 

 梓くん、約束したじゃん。

 

(いなくならないで下さい。お願いだから……)

 

 わたしも、十代くんも翔くんも、約束は守ったよ。

 なのに、その梓くんがいなくなっちゃって、わたしとの約束を破るなんて、そんなのって無いよ。

 

「……嘘つき……」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

「『六武衆-イロウ』でセットモンスターを攻撃。効果で裏側のまま破壊、影断(えいだん)

「ぐっ!」

「二体の六武衆でダイレクトアタック。『六武衆-カモン』、爆煉撃(ばくれんげき)。『六武衆-ヤイチ』、瞬軌(またたき)

「ぐあぁああああああ!!」

 

相手

LP:2000→0

 

「しょ、勝者、セニョーラ平家!!」

 

 クロノス先生の勝者宣言。わたしはここの所、ずっと勝ち続けてる。前にあれだけ負けてたのが嘘みたいだ。

 

「すげーな、平家のやつ」

「急に勝ちだして、ずっと負け無しよね」

「しかも今回もノーダメージ」

「何かあったのかな」

 

 周りからはそんな声が聞こえる。けど、誰も話し掛けてはこない。

 この間のことがあって、みんなわたしを怖がるようになっちゃった。これだけは、慣れてもらえるまで時間が掛かりそうだな。

 

 でも、そんなのどうでもいいよ。

 

 わたし、頑張ってるよ。梓くんがいなくなった後も、梓くんが帰ってきた日、わたしのこと見て、褒めてくれるって思って、今も頑張ってるよ。

 もしまた前みたいな日がきても大丈夫なよう、頑張ってるから。だから……

 

 帰ってきてよ……

 

 君の声が聞きたいよ……

 

 君のご飯が食べたいよ……

 

 君がいないと、頑張れないよ……

 

 

 

視点:翔

「魔法カード『大嵐』を発動するノーネ!!」

 目の前の生徒、ラーイエローの神楽坂君が叫んだ瞬間、『大嵐』がフィールド上の魔法・罠を全部破壊する。

「そして、破壊された二枚の『黄金の邪神像』の効果により、『邪神トークン』を二体特殊召喚するノーネ!」

 

『邪神トークン』

 攻撃力1000

『邪神トークン』

 攻撃力1000

 

「この二体を生贄に……」

 

「ちょっと待った! この瞬間、僕の罠カードも発動!」

 

「んにょ!?」

「『呪われた棺』! このカードが破壊され墓地に送られた時、相手は次のうちどちらかの効果を選択する。一つは自分の手札を一枚、ランダムに捨てる効果。そしてもう一つは、自分フィールド上のモンスター一体を破壊する効果」

「んなぁ!?」

(わ、私の手札には『古代の機械巨人(アンティーク・ギア・ゴーレム)』の一枚のみ。フィールドのモンスターは、二体の『邪神トークン』だけ。どちらを選んでも、機械巨人は呼べなくなるーノ……くそ!!)

「俺は、手札のこの一枚を墓地へ!! ターンエンド!!」

 

 

神楽坂

LP:3000

手札:0枚

場 :モンスター

   『邪神トークン』攻撃力1000

   『邪神トークン』攻撃力1000

   魔法・罠

    無し

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『ジェットロイド』攻撃力1400

   魔法・罠

    無し

 

 

 守りを固めてきたか……

「僕のターン、ドロー! 『スチームロイド』を召喚!」

 

『スチームロイド』

 攻撃力1800

 

「バトル! 『ジェットロイド』、『スチームロイド』の二体で、邪神トークンを攻撃!」

「だが、この二体がやられてもまだライフは……」

「ダメージステップに速攻魔法『リミッター解除』! 自分フィールド上の機械族の攻撃力を倍にする!」

 

『ジェットロイド』

 攻撃力1400×2

『スチームロイド』

 攻撃力(1800+500)×2

 

「なに!? ぐあああああああああああああ!!」

 

神楽坂

LP:3000→0

 

「約束通り、残り一枚の整理券は貰っていくよ」

 

 

「やったな翔!」

「見事な決闘だったんだな!」

「ありがとう。兄貴、隼人君」

 決闘が終わって、いつもの二人と話していると、

 

「翔くーん!!」

 

 そんな声が聞こえて、そっちを向くと、ももえさんが抱き付いてきた。

「見てましたわ。とても凛々しいお姿でした////」

「あ、ありがとう……」

 どうしてこんなに僕に構うのか分からないけど、まあ別に悪い気はしないし、慣れちゃった。

「にしてもすげーなお前。ここの所授業でも負け無しじゃねーか!」

 兄貴が褒めてくれた。そりゃそうだよ。だって、

「……梓さんのお陰っス」

 その僕の言葉で、兄貴も、隼人君にももえさんも表情を曇らせる。そうなるって分かってたけど、言わずにはいられなかった。僕が強くなれたのは、本当に、梓さんがいたから。

 

 梓さんの話しを聞いて、僕は今まで甘えてばかりだった自分を変えようと決めた。そのために、今までほとんどしてこなかった勉強もするようになった。ちょっとでも、梓さんの友達としても恥ずかしくないよう、頑張ってきたんだ。

 さっき使った『呪われた棺』。あれも、『サイクロン』をよく使う梓さんを意識して入れてみたカード。お陰で『大嵐』を使って油断した相手を倒すことができた。もっとも、手札には『魔法の筒(マジック・シリンダー)』があったから、上級モンスターを呼ばれて攻撃されても、『ジェットロイド』の効果で手札から発動できてたんだけど。

 

 けど、その梓さんがいなくなった。

 

 約束したのに。僕は絶対、いなくならないって。

 けど、その梓さんがいなくなったんじゃ、意味無いじゃないか。

 

「……気を落としても仕方ないんだな。今日は早く帰って明日に備えよう」

 隼人君がそう言った。

「……ああ、そうだな。明日は楽しみだぜ」

 兄貴もそう言って笑顔を見せる。自然とももえさんも、そして僕も、笑顔になった。

 明日は伝説の決闘者、『武藤 遊戯』のレプリカデッキが展示される。そしてさっきの決闘は、実はその整理券の最後の一枚を賭けた決闘だったんだ。

 兄貴の言った通り、明日がとても楽しみだよ。

 

 

 

視点:あずさ

 放課後、やることも無くて、学校の中をうろうろしてた。目的も無くただ歩いてるから、正直、今どこを歩いてるのかも分かんない。

 と、歩いていると、前の方から声が聞こえてきた。ていうか、いつの間に校長室まで来てんだろう?

 で、校長室のドアが開いて、出てきたのは校長先生と……だれ?

 

「では、よろしくお願いします」

 

 着物だ。赤色と黒色、二色の……羽織袴って言うのかな? そんな服装をしてる男の人。

 

「こちらこそ」

 

 袴の人の言葉に、校長先生も絵役する。二人とも何だか深刻な顔してるや。どうしたのかな?

「おお、平家君」

 校長先生に呼ばれた。すると、男の人もわたしを見た。

「こんにちは」

 まあ普通に挨拶をしたら、男の人も笑った。

「もしかして、君が平家あずささん?」

「へ? ええ」

 て、何でわたしの名前知ってるの?

 そう思ったら、校長先生が前に出てきた。

「紹介しよう。こちらは『水瀬 (はるか)』さんだ」

「水瀬!?」

 その名前を聞いた瞬間、衝撃が走った。

「初めまして。水瀬梓の兄の、遼です」

 梓くんの、お兄さん……

「梓くんがいなくなったので、今後の彼のことで話し合うために呼び寄せたのですよ」

「今後って……まさか、退学とか!?」

「いえ、そういうことではありません。いなくなったので捜索願を出すべきかと話し合っていた所なのです」

「そ、そうですか……え? じゃあ梓くん、家にも帰ってきてないってことですか?」

「そうなんだ」

 梓くんのお兄さん、遼さんがそう返事をする。当たり前だけど、とても心配そう。

「まあ、あいつのことだから。気が済んだらすぐに戻ってくるとは思うんだが、さすがに心配なんだよな……」

 心配はしてるけど、信頼もしてるんだ。ちょっとしか話してないけど、いいお兄さんだっていうことは分かった。

「……そうだ。良かったらちょっと話さないか? 今、時間あるかな?」

「へ?」

 まあ、特に予定なんかもないし……

「別に良いですけど」

「ありがとう。あまり長くならないよう努力するよ」

 な、何を話す気なんだろう……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 わたし達二人は、全員が帰って空っぽになった教室に来た。時間は夕方前くらいで、教室がうっすら赤く染まってる。

「悪かったね。手間取らせちゃって」

「全然いいですよ」

 謝ってくる遼さんに、そう話し掛けながら、改めて遼さんの顔を見てみた。

 梓くんはとても綺麗な顔してたけど、この人はどちらかと言えば凛々しい顔つきで、格好良いんだけど、『イケメン』ていうよりは『男前』って感じの顔してる。髪は首までしか伸びてないし、背も高くて、体つきはたくましい感じだ。

 梓くんとは似てないなぁ……

 て、当然だよね。

「君は梓とは友達だろう。学校じゃどんなふうだったか聞かせてもらっていいか?」

 あ、でも笑顔は似合う。そこだけは何だか似てる。

「梓くんは、えっと……」

 

 遥さんの願い通り、わたしは梓くんについて色々お話しした。お兄さんが相手だから遠慮するのは良くないかなって思って、良かったことも悪かったことも、全部話した。

 入学試験を成績トップで通過。その後も首席をキープ。お茶会や決闘。凶王化した時の喧嘩。トレーニングした時の反応。

 そして……

 

「いなくなる前の日、梓くん、自分のことを……ゴミだって……」

 それを話すと、遼さんは顔を伏せた。

「そうか。あいつ、まだ自分のことをそう思ってたのか……」

「……じゃあ、本当だったんだ」

「ん?」

「梓くん、拾われた子供だったって」

 正直な話、現実味が無くてはっきりとは信じられなかった。

 すると、わたしの言葉に遼さんは驚いた顔を見せた。

「あいつ、そのことも話したのか?」

「え、ええ……」

「そうか……そっか」

 あれ? 何だか嬉しそう?

「あいつにも、やっとそんなことまで話せる友達ができたんだな」

「え? やっと?」

 やっとってなに?

「あいつ、ずっと友達なんてできなかったからな」

「え、うそ?」

 梓くんのことだから、友達はむしろたくさんいるって思ってた。

「あいつを俺が見つけて、両親が引き取ったっていうのは聞いたか?」

「あ、はい」

「あいつはさ、拾われてから今日までの五年間、今は六年かな、とにかく頑張ってきたんだ。最初の二年で、文字の読み書き、計算、一般常識その他諸々。全部が普通にできるようになるまで、毎日毎日、寝る間も惜しんで頑張ってきた。お陰で三年目には中学に入ることができたんだ。おまけに体は元々丈夫だったらしくて、体も強く成長した。三年目に中学に入ってからは、水瀬のこととか、そのための礼儀作法とか、あいつが望んでた決闘も習い始めたんだ」

「はぁ……」

 梓くんから聞いてはいたけど、梓くん以外の口から聞いて、なお更わたしの中で現実味が増していった。

「けどな、その努力の邪魔をする人間は大勢いたんだ。聞いたとは思うが、俺や両親以外の親戚や使用人達は、梓のことを快く思ってなかった。古臭い考えだが、格式高い名家にとって、どこの馬の骨とも分からない梓は有害でしかなかったんだ」

「だから何かと言えば、俺や両親がいない時とか、とにかく隙を見つけては、勉強中平気で間違ったことを教えたり、勉強道具をこっそり捨てたり、酷い時は暴力とか、とても子供が歩いていけない距離まで連れていって置き去りにしたりな」

「あいつにだけ飯を与えなかったり、与えた飯に毒を混ぜたり、なんてのは日常的だった。中には俺や両親が、サンドバック変わりにする目的で梓を引き取ったって思い込んだ連中も少なくなかった」

「ひどい……」

 思ってたことを、思わず言葉にした。本当に、ひどい話だったから。

「けど、あいつはくじけなかった。弱音一つ吐かなかった。だってさ、それまでもたくさん、いつ死ぬとも分からない辛い目に遭ってきたんだ。それに比べたら、家内での虐待なんて大したことじゃねーよ。何より、どんな嫌がらせを受けても助けを求めようはとしなかった。誰かに助けてもらうなんてこと、考える以前に知らなかったろうからな。そもそもあいつはうちに来た時点で、水瀬の誰も信じてなんかなかったんだ。親戚や使用人はもちろん、両親や、俺のことさえな」

「……」

「ずっとそんな感じだったからさ、中学に入れた後も、一人も友達なんてできなかった。勉強もスポーツも、人並み以上にできるようになってたけど、誰とも打ち解けようとはしなかった。誰かに仲良くされても、一方的にそれをはねのけて、それが生意気だってちょっかいを出されたら、そいつらは片っ端からぶっ飛ばしていった」

「家では相変わらず、俺と両親以外の人間からは酷い扱いを受けてきた。それだけのことされてきたんじゃ、むしろ、友達を作ろうと思う方が不思議だっていう生き方をしてきてたんだ。正直なことを言うと、この決闘アカデミアに入学させたのは、あいつがこれ以上、うちにいるせいで辛い目に遭わないで欲しいって思いもあったからなんだ」

「……」

 さっきから何度そう思ったか分からない。ひどいって。信じられないって。

 とても綺麗で優しくて、たくさんの人と笑い合って、友達になって、何より、わたし達のために泣いてくれた。そんな梓くんが、そんな、他人を絶対に信じない、そんな人だったなんて。

 

「……でも、今の梓くんは、全然違う……」

「ああ。あいつは変わったんだ」

 今まで以上に暗い声。顔も、とても辛そうな顔をした。

「あいつは確かに弱音も吐かなかったし、怒ったこともほとんど無かった。けど、一度だけ激怒したことがあったんだ。それは……」

「……自分以外の、大事な人が傷つけられた時、ですか?」

 そう言うと、遼さんは驚いた顔を向けた。

「……そうか。君にも分かったか」

「だって、梓くんが凶王化するのって、そういう時だけだったから」

「凶王化?」

「ああ、ごめんなさい! えっと、梓くんの性格が変わるのって、そういう時だったから」

「なるほど。そりゃ分かるか」

 そんな笑顔の言葉で、こっちも自然と笑った。

「うちの時もそうだった。あいつがもうすぐ中学三年になるっていう日な、うちに強盗が入った時があったんだ。警備が休みだった時を狙われてな。俺も両親も腕っ節の方はからきしだし、梓は強かったけど、向こうは拳銃まで持ってたから、泥棒には好き放題させてたんだ。それで、金とか高価な物を盗まれるだけなら良かったかもしれなかったが、その後が悪かった。犯人達の道楽で、俺と両親、三人ともボコボコにされたんだ。その時、一緒にいた梓がキレた」

 その言葉と同時に、遼さんの顔から一気に血の気が引いた。

「あの時の梓は本当に、君の言った凶王って言葉が似合ってた。拳銃持った犯人四人に、十四歳の子供が一人突っ込んで、一分もしないうちに四人とも血まみれにした。しかも、とどめに拳銃を奪って撃とうとまでしてさ。さすがにそれは止めたけど……怖かったぞ、あの時の梓は」

 普通なら怖いって思う話し。けど、凶王化を何度か見た私には、あまり怖いとは感じられなかった。

「……けど、その時、俺も両親も初めて分かったんだ。梓は、俺達のことを大切に思ってくれてたんだって」

 また急に顔が変わる。今度は嬉しそうな顔。

「あいつを止めた後、どうしてあんなことをしたか聞いたら、言ったんだ。『自分が傷つけられるのは良かった。なのに、俺や、父さん、母さんが傷つけられるのだけは我慢できなかった』って。梓は俺達のことを信じてなかった。けど変わりに、俺達のことを本当に大切に思ってくれてた。家族だって思ってくれてたんだ。梓自身もその時初めて知ったらしい。誰かを思いやるって気持ちを。あの時感じた怒り。それが、あいつがずっと持てなかった、人への思いやりなんだって」

「それから梓は変わった。学校でも家でも、随分と笑うようになったんだ。けど、中学ではいい加減、梓を受け入れてくれる人間はいなくなってたし、家での扱いも相変わらずだった。それでも、あいつは笑顔で、人に優しくした。いつでも笑って、自分よりも相手のことを優先する。そうやって、中学最後の冬頃には、今みたいな性格になったんだ」

 とても嬉しそうに話す。私も、聞いててとても嬉しくなった。

 そっか。梓くんはそうやって、今みたいになれたんだ。

 

「けど、どうしてそのことをわたしに?」

 さすがにあまり人に話せることじゃないと思ったから、疑問に感じて聞いてみた。そしたら、何だか変な笑顔を浮かべた。

 

「そりゃあ君なら話して良いって思ったからさ。梓が恋した女の子なんて初めてだったし」

 

「え!?」

 ちょ!! 直前までシリアスな話ししておいて何その不意打ち!?

「時々うちと電話で話すんだけど、その度にあずささんは、あずささんはって、学校のこと聞いてるのに二言目には君のことばかり話すんだ。今まで俺達でさえ聞いたことのない、幸せそうな声でさ」

「……えっと、ちなみにどんな話しを?」

 赤くなりそうな顔を何とか普通にしながら聞いてみた。

「今日は君とあんな話しをして楽しかったとか、君にご飯を作ったら褒められて、顔から火が出そうな思いしたとか、君の着物の着付けを手伝いながら興奮を抑えるのは苛烈を極めたとか、あずささんと触れ合うことができる今の時間が幸福の絶頂だとか、他にもあずささんは素晴らしいだの綺麗だの可愛いだの美しいだのお嫁に欲しいだのお嫁にして欲しいだの……」

「わー!!//// わぁー!!////////」

 最後が何か変だった気がしたけどそれ以上は言わないで!!//// 死ぬほど恥ずかしい!!////////

「もっとも、結局は振られてるから一生友達なんだけどな」

 そのことまで話してるんだ。

「その、わたしまだ、振ったわけじゃ……////」

「え?」

 聞き返してきた。あぅ、改めて話すとなると恥ずかしい////

「その……あの夜はお互いに出会ったばかりだったし、梓くんの方はともかく、わたしは梓くんのことどう思ってるかなんて分からなかったから、返事をする前に、梓くんが一方的に振られたって勘違いしちゃっただけで、その……////」

「なるほどな。あのバカのしそうなことだ」

 納得してる。梓くんがそういう人だって分かってるんだ。

「じゃあ、梓の前に聞くのは気が引けるけど、君は梓をどう思ってる?」

「えぇ!?////」

 また何を言いだすの!?

 て、最初は思った。けど、その顔を見ると、その気持ちは無くなった。顔は笑ってるけど、目はとても純粋で真剣な目だ。

 だから、何となくごまかしちゃいけない気になった。だから、言うことに決めた。わたしの、本当の気持ち。

「その……本当言うと、ずっと、振られたと思われたままで良いかなって考えてました。それで毎日梓くんと一緒にいるのが、すごく楽しくて、ずっとこんな日が続いたらなって感じてました」

「けど本当は、いつまでたっても梓くんへの気持ちがはっきりしなかったのをごまかしたかっただけだったんだと思います。証拠に、梓くんが、わたしやみんなのことをどれだけ大切に思ってくれてるのかを知った時、分かったんです。わたし達のために、こんなに悲しんで、苦しんで、涙まで流してくれる。その気持ちがすごく嬉しかった。どうしてこんなに嬉しいのかって考えたら、答えはすぐ分かりました」

 わたしは……

「わたしは梓くんのこと、大好きみたいです。友達以上に、すごく、大好きです」

 すごく恥ずかしいって思ったのに、顔は全然熱くならなかった。

 わたしの感じた正直な気持ち。それを言葉にすることって、難しいけど、こんなに簡単で、こんなに気持ちの良いことだったんだ。

「けど、そのこと伝えようって思ったすぐ後にいなくなっちゃって……」

 

「よし分かった!」

 

 急に、遼さんが大声を上げた。

 

「梓を君にやろう!」

 

 ……

 

「……はい?」

「梓の嫁になれ!」

「……へ?」

「梓と一緒にうちに来い!」

 ……

 …………

 ………………

 !!

「えぇ~えぇー!!」

 い、いきなり何を言い出すんですかこの人は!? ちょっ! そんな微笑ましそうな目で見られても困るよ~!!/////////

「ちょ、ちょっと待って下さい!//// いきなり、そんなこと言われても……////」

「大丈夫。梓と一緒になるからって決闘者を辞めろとは言わん。君は君の好きなことをすればいいんだ」

 そういう意味じゃなくて!!////

「そもそも告白した日からだいぶ時間がたってるのに!//// 梓くんがどう思ってるか分からないじゃないですか!!////////」

「大丈夫。電話での会話の感じから察するに、梓は君にべた惚れ継続中だ」

「はいぃ!?////」

 そ、それが本当ならそれ以上嬉しいことは無いけれども!!////

「君は梓が好きなんだろう?」

 うぅ~~~~~~~~~……////////

「……大好き////」

「じゃ決定~」

「良いんですか!? こんな簡単に決めちゃうんですか!? 梓くんが不在なのにですか!?」

「あいつは適応力もあるから大丈夫だ」

「何の適応力!? というか適応力の問題!? ひいては一生を左右する大事の最終的な決定要因は適応力なんですか!?」

「結婚式はどうしよう……和風かな? けど(あずさ)のウェディングドレス姿も見てみたいものなぁ……」

「早過ぎるでしょう!! あとその(あずさ)ってわたしのことですよね!? 念のため確かめておきたいんですけど梓くんのウェディングドレス姿を想像してないでしょうね!?」

「……え? ダメ?」

「ダメですよ!! 仮にも梓くんは男子です!!」

「君は見たくないか? 梓のウェディングドレス姿」

「すんごく見たいです!! ただでさえ綺麗な梓くんが和服じゃなくてウェディングドレスを着るなんて、想像しただけでかなりそそられます!! 興奮します!! 欲情しちゃいます!! けど倫理的に間違ってます!! 警察に捕まります!!」

「良かった」

「何が!?」

「君も乗り気みたいでさ」

「あ……」

 あんまり興奮しちゃって、気付かなかった。

 わたし、こんなに……

「ああ……梓が帰ってきて君が梓に告白したら、梓はどんな顔するかな」

 笑顔での遼さんの言葉。

 ……確かに、想像すると笑えちゃうな。

 

「ただまあ、ちょっと真剣な話しになるけどさ」

 その言葉の通り、明るい調子と口調をそのままに、態度は真剣なものに変わった。

「梓がもし帰ってきたら、暖かく迎えてやってくれ。君が迎えてくれるのが、梓は一番喜ぶだろうからさ。他にも友達はいるのは知ってるけど、やっぱり君が一番だろうから。これは、あいつの兄貴としても、ぜひ頼みたい」

 今まで姿が嘘みたい。本当に真剣な言葉だ。

 ……うん。

「もちろんです。きっと、梓くんは戻ってきます。その時は、わたしが迎えます」

「ありがとう」

 

 その後、二言三言会話した後で、遼さんは帰っていった。

 

 梓くん。君のことを思ってくれてる人はこんなにいるんだよ。君が何に怒って、苦しんでるのかは分からないけど、でもわたしは、そしてわたし達は、君が帰ってくるって信じてるから。

 だから、いつでも帰ってきて。わたしはずっと、ここで君の帰りを待ってるから。

 

 そして、その時はきっと……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:神楽坂

 凄い! 本当に凄い!!

 これが伝説の決闘者、武藤遊戯のデッキか!! 今まで様々なデッキを研究し、実際に構築しては使ってきたが、ここまで凄いデッキは見たことが無い!!

 だが、凄いデッキであると同時にかなり難しいデッキでもある。これだけのデッキを使いこなすには、かなりの決闘戦略(デュエルタクティクス)を要するだろう。

 だが! 俺なら使いこなせる!! さっきも言ったように、俺は今までも多くの決闘者のデッキ、決闘及び戦略(タクティクス)を研究してきた。武藤遊戯はもちろん、海馬瀬人、城之内克也、マリク・イシュタール、ペガサス・J・クロフォード、更にはクロノスにカイザーもだ。

 それだけの決闘者を研究してきた俺になら、間違い無く使いこなすことができる。

 そして、これで俺は、最強の決闘者になれる!!

 

「神楽坂君?」

 

 ん? この声は……

 

 

 

 




お疲れ~。
『約束』をむげにする行為と、『守られた約束』をむげにする行為って、どっちのがより悪かな。
その答えは、皆さんに委ねるとしよう。
次話、決闘ね。待っててね。

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