遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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十一話目完結編。
ちょこっと短めだが、まあ読んでやって下さいな。
じゃ、行ってらっしゃい。



第十一話 盗まれたデッキと花の思い出 ~決闘後~

視点:翔

 

「いっけー!! スカイスクレイパーシュート!!」

 

「ぐあー!!」

 

 

 兄貴が……兄貴が勝った!!

 

「兄貴ー!!」

「セニョール十代ー!!」

 

 僕とクロノス先生は、思わず大声を上げて兄貴のもとへ走った。

「凄過ぎるっスよ! 兄貴!!」

「まさかあのデッキに勝つナンーテ、信じられないノーネ!!」

 僕も先生も興奮してる。三沢君に隼人君も。兄貴も笑っていた。

 けど、ここにいるメンバーの中で、一人だけそんな感情じゃない人が一人。

 

「くそ! これだけ強いデッキを使っても勝てなかった。やっぱり俺には、才能がまるで無いのか!?」

 

 神楽坂君がひざを着きながら、そう悲鳴のように言った。確かに、デッキは強かったけど、負けちゃった。けど、実際に決闘した僕には分かる。神楽坂君、それは違うよ……

 

「そんなことは無いと思うぞ」

 

 僕が言う前に、そんな声が聞こえた。そっちを見ると、

「お兄さん!」

 いや、お兄さんだけじゃない。

 その後ろには明日香さん、そして、たくさんの生徒達が陰から出てきた。

 そして、お兄さんは神楽坂君の前に立ち、十代の兄貴と一緒に決闘者に必要なものについて話して聞かせた。

 何度も試行錯誤して、ずっと一緒に戦って、そして今あるデッキ。そうやってずっと一緒に戦っていくから、デッキとの絆が生まれて、デッキは応えてくれる。だからこそ決闘者は、デッキと共に強くなれるって。

 そうだ。だからみんながデッキを愛することができて、やがてはデッキに、そして、決闘に愛されることができるんだ。

 僕が二人の兄と同じくらい尊敬してる、あの人みたいに。

 

「翔」

 お兄さんの声。反射的にそっちを向いた。

「見事な決闘だった」

「え? 見てたの?」

「ああ」

「いつから?」

「お前が、神楽坂にタッグで挑戦を持ち掛けたところからだ」

 そんなところから見てたんだ。

「お兄さん以外も?」

「いや。俺と明日香以外は、全員が十代との決闘からだ」

 そっか。まあ、別に見られたかったわけじゃなかったからどうでもいいんだけど。

「だが……」

 急に、お兄さんの顔から笑顔が消えた。

「決闘中の、あの態度と顔は頂けない」

「あ……」

 そうだ。ついテンションが上がって、勝手に口から出ちゃったんだよね。でも確かに、今思えば、あの態度はまずかったか……

 

 ……ん?

 

「顔?」

 失礼な言葉は確かに言ったけど、顔?

「僕の顔がどうかしたの?」

 そう聞くと、お兄さんは顔をしかめた。

「……自覚が無いのならいい」

「え?」

 さすがにその答えじゃ納得できない。だから、神楽坂君と話してる兄貴に聞くことにした。

「兄貴、僕、決闘中どんな顔してたの?」

「え……」

 兄貴はお兄さんと同じように顔をしかめる。

「いや、どんなって……別に、普通だけど……」

 兄貴、分かりやすいっスよ……

「隼人君」

「いや、別に何も……」

「三沢君」

「気にする必要は無い……」

「明日香さん」

「あはは……」

「クロノス先生?」

「ニョホホ……」

「神楽坂君!」

「決闘に夢中で覚えていない」

 

 もー!! どういうことっスか!?

 

 

 

視点:万丈目

 アカデミアから出航して、何日経ったことか。

 現在、俺は船の上にいる。もっとも、その船は今や全体の八割が沈んでいて、海面にわずかに船頭が顔を出しているだけだ。

 そんな狭い空間にしがみつきながら、俺は考えていた。

 

 俺は、何のために、決闘をしているのか。

 

 理由ははっきりしている。決闘で強くなり、決闘界の頂点に立つ。

 だがそれも、元々は俺の夢ではなく、二人の兄さん達の夢だった。

 長男の長作兄さんと次男の正司兄さん。長作兄さんが政界、正司兄さんが財界、そしてこの俺、準が決闘界に君臨し、世界に万丈目帝国を築くという、壮大かつ突拍子も無い、そして訳の分からない夢のために。

 

 そもそも二人がそれなりの業界なのに対し、なぜ俺一人がそういった、ジャンルが明らかに違う世界に君臨することになったのか。それは、俺が子供の頃から決闘の才能があり、周囲でも負け無しで、そして、決闘が世界でも十分注目されているスポーツとして確立されているから。

 そう言えば聞こえは良い。だが本当のことを言えば、他に取り柄が無かったからだ。

 勉強もスポーツも人並み以上にはこなせた。だが、二人の兄に比べれば、その差は歴然としていた。おまけに俺は要領が悪い部分もあり、いつも肝心なところでつまらないミスをするようなこともあった。それゆえ、兄弟の間ではずっと落ちこぼれとして扱われてきた。

 だから兄さん達は、俺が唯一力を発揮できる物、『決闘モンスターズ』をやらせるに至った。

 結果、その目論見は上手くいき、俺は中等部でトップに上り詰め、高等部へはオベリスクブルーに入学。このままトップの座を守りつつ駆け抜けると、誰もが考えただろう。

 

 だが、月一試験で遊城十代に敗れたことで、その勢いも、周囲からの信頼も、全てを一気に失った。教師からも、取巻きであった二人からも、その他大勢の生徒達からも扱いは代わり、酷い扱いや、時には嫌がらせを受けることが増えた。

 だがそれも苦ではなかった。酷い扱いは、子供の頃からずっと受けてきたからな。今更苦痛のうちにも入らない。屈辱は感じるが、それだけだ。俺が何もしなくなる理由にはならない。

 

 何より、俺にはずっと、俺のことを見てくれている存在があった。

 

 そいつは、授業で俺が決闘をする度、ほとんどの生徒が嫌な目を見せる中、一人だけ敬愛のまなざしを向けてくれていた。

 そいつは、ほとんどのブルー生徒が俺を無視する中、同じブルーであるにも関わらず、向こうから話し掛け、笑顔を向けてくれた。

 そいつは、時に俺が自分勝手な理由で怒鳴り散らした時も、何も言わず俺の話を聞き、最後には笑顔で応えてくれた。

 そしてそいつは、俺の陰口を叩き、バカにしていた奴らを、端から殴り飛ばしていった。

 その時、俺はたまたま隠れて見ていたが、その時のそいつの言った言葉は忘れることができない。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「私の前で、もう一度でも彼の陰口を叩いてみろ。絶対に許しはしない……」

「な、なんで、そこまで万丈目なんかを……梓さんだって、時々あいつに八つ当たりされてるじゃないか……」

 

 ガバッ

 

「ひっ!」

「私が卑下されることは構わない。だが、準さんの偉大さを知らない貴様らに、あの人を笑い、蔑む資格は無い……」

「これ以上のあの人への暴言は私が許さない!」

 

「私の生涯の目標と決めたあの人への失言は、私が絶対に許さない!!」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 梓にあんな一面があったことには驚いたが、何より感じたのが、感謝の気持ちだった。

 たかが陰口などというつまらん理由で暴れる。それほどまでに純粋な心で、あいつは俺のことを尊敬し、そして、俺のことを目指してくれていた。あいつは間違いなく俺よりも強い。なのにあいつは、こんな俺のことをそんな風に見てくれる。

 

 そしてその時、流しそうになった涙を飲み込み、決意したんだ。

 なら俺は、強くなってみせる。お前以上に強く、お前が憧れ、目指すにふさわしい存在、そんな決闘者になると。

 どれだけ周囲が俺を認めまいと、お前一人だけでも認めてくれるなら、苦しいなどとは思わない。

 お前が目指している俺。そんな、俺自身がなりたいと思っている俺になる。

 そう決意を新たにし、俺はもう一度、一から這い上がる決心をしたんだ。

 

 

 だがその直後、そいつはアカデミアから消えた。

 あの様子からして、あの時の平家あずさの対戦相手に対し、よほどの恨みを抱いていたのだろう。我を忘れ、それまで重んじていた慈しみの心が壊れてしまうほどの怒り。

 それに駆られ、あれだけの行動を取ったんだろう。

 あの行動のせいで、そいつのファンだった連中はほとんどがそいつへの思いを捨てた。今残っているのは、根強いファンと、十代達のような元々仲の良かった連中だけ。

 そして、俺もだ。

 だが、あいつがいなくなった時点で、俺はあそこにいる意味を失ったような気がした。

 当然、強くなるのも最終的には自分のためだ。俺自身のためにも、俺は強くなると決意した。

 だが、それは分かっているのに、梓が消えたという時点で決意は半減し、目指すことへの気力は日に日に失せていった。それではダメだ、気持ちを切り替えろ、何度そう自分に言い聞かせても、結局最後には、同じ言葉に辿り着いてしまう。

 

 俺は、何のために、決闘をしているのか。

 

 結局その答えは見つからず、気持ちも新たにできぬまま、俺は三沢との決闘に負け、そして今に至っている。

 こんな状態では家に帰ることもできない。どの道、船はあと数分もしないうちに沈んでしまうだろう。特に海や天気は荒れてはいないものの、こんな海のど真ん中で投げ出されれば、命の保証など望む方がどうかしている。

 

 だが、まあ良い。こんな最後も悪くはない。

 

 

(なに諦めてんだよ!!)

 

 ……この声は、十代?

(諦めんなよ!! いつまでも意地張ってないで、アカデミアへ戻ればいいだろう!!)

 お前に言われる筋合いは無い。俺にはもう戻る気は無い。

(万丈目!!)

 

「うるさい!! さっさと消えろ!!」

 

 ザッパァ!!

 

 

 

 




お疲れ~。
てなわけで次話の主役は彼だ。
なるべく早く投稿できるよう頑張るわ~。
待っててね。

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