とりあえず長くは語らん。読みたいと思ったら読んでやって下さいな。
は~じま~るよ~。
行ってらっしゃい。
視点:万丈目
さて、船から投げ出され、溺れ死んだはずの俺の前にいたのは、何やら怪しい格好をした、……昆布お化けでいいか。
「お前さんのカードは、海水で全てダメになってしまった」
そう言いながら、俺のカードを見せる。
どの道決闘を続ける意味も無くしていた俺にはどうでもいいことだ。
だが、昆布お化けは俺に一枚のカードを押しつけ、決闘をする気があるのなら、ここから北へ歩けと言った。
やる気など無かったが、どの道他に行く宛てなど無い。だから歩くことにした。
……
…………
………………
そこにあったのは、辺りを氷に囲まれ、そんな氷のような建造物に囲まれた巨大な建物。
その入口の前でうなだれていたジジイに話を聞くと、ここは『決闘アカデミア・ノース校』。ここに入るには、ここの周囲に散らばったカードをかき集め、四十枚のデッキにせねばならない。それがここの入学試験でもあるのだと言う。
そしてこのジジイ、市ノ瀬は、三十九枚まで見つけはしたが、残りの一枚を見つけることができず、ずっとここにいるらしい。
どの道こんな所でジッとしているわけにもいかない。何かしていないと、また思い出してしまう。ただでさえ周囲に大量にある氷が、あいつを連想させてしまう。氷を司るカード達を巧みに操り、華麗な決闘を見せるあいつの姿を。
だから気晴らしのためにも、俺はカードを探しに歩いた。
……
…………
………………
……何なんだこの島は。
そりゃあ、カードが散らばっているというのだからそこかしこに落ちているのは予想できてはいたが、ただ何となく体を動かしたいがために登った断崖絶壁の上や、間近で見られるという貴重な体験のために近づいた白熊の近くに、誰がカードを置いたのだ。
どうやら良いカードになるほど険しい場所に置いてあるらしい。だが、いくら険しいとはいえ、あんな場所にまでカードを置くこだわりっぷりはそれだけで尊敬に値するぞ。
だが、まあいい。まる一日掛かったが、努力の甲斐あって集まったカードは四十枚。構築やバランスはめちゃくちゃだが、とりあえずデッキにはなった。
「おぉ!! 集めることができたのか!?」
「ふふん。まあな」
そういえばこいつがいたな。こいつは三十九枚だったな。
仕方が無いから、昆布お化けから貰った屑カード、『おジャマ・イエロー』を渡そうと思ったのだが、
「うお!」
「ぬお!」
(兄貴~、オイラを渡さないでおくれよ~)
「何だ? くれるんじゃないのか?」
あ~、くそ!!
「ほら、これを持っていけ!!」
仕方が無く別のカードを渡す。まあ、どれも似たようなカードだし、構わん。構わんが、お陰で三十九枚になってしまった。仕方が無い。また探しに行くとするか……
ん?
どうにも都合良く足元に一枚だけ落ちていて、ちょうど四十枚にすることができた。
さて、入るとするか。
そう思った時、ふと感じた。
なぜ俺はこんなことを?
昨日まで、決闘に対して興味も持てなかった。だというのに、今では必死でカードを集め、デッキを作り、新たな場所へ足を踏み入れようとしている。
なぜだ? なぜ……
考えても分からん。ここに入れば、全ての答えが分かる気がする。
そう思い、足を踏み入れた。
まず目に飛び込んだのが、大勢の生徒らしき男達に囲まれた市ノ瀬。話を聞くと、この中で一番弱い生徒に負け、必然的に市ノ瀬は最下位の烙印を押されたらしい。
そして、ここはある意味アカデミア本校以上の完全な実力主義。先輩後輩関係無く、強い者が上になり、弱い者は下位へと落ちるという。
……ふむ。面白い。
「さあ、今度はお前だぜ。新人君」
呼ばれたので前に出る。
さあ、決闘だ!!
……
…………
………………
拾い集め、即興で作り上げたデッキであるというのに、このデッキは俺に応えてくれている。相手は全部で五十人。まずは最下位ランクの生徒を下し、その後も順調に勝ち進み、やがてノース校四天王と呼ばれる五位から二位の四人も一度に下した。
そして、最後の相手は、五十人中最強の男。
江戸川
LP:4000
手札:2枚
場 :モンスター
『メタル・デビルゾア』攻撃力3000
『デビルゾア』攻撃力2600
魔法・罠
永続罠『リビングデッドの呼び声』
万丈目
LP:1000
手札:2枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
「俺のターン!」
万丈目
手札:2→3
「魔法カード『カオス・エンド』発動! 自分のカードが七枚以上除外されている場合、フィールド上のモンスター全てを破壊する!」
「なに!?」
発生した大嵐により、二種類の『デビルゾア』が破壊される。
「そして、罠発動! 『異次元からの帰還』! ライフを半分払い、ゲームから除外されたモンスターを、可能な限り特殊召喚する!」
万丈目
LP:1000→500
『KA-2 デス・シザース』
攻撃力1000
『ヂェミナイ・デビル』
攻撃力1000
『円盤闘士ディスクファイター』
攻撃力1000
『スカル・ナイト』
攻撃力1000
『おジャマ・イエロー』
攻撃力0
……なぜか一枚おかしなカードが混じっているが、まあいい!
「五体のモンスターで、江戸川に攻撃! 万丈目サンダースペシャル!!」
「ぐあー!!」
江戸川
LP:4000→0
決闘が終わった後、俺の前に、昆布お化けが再び現れた。そして、その覆面を取った時、現れた顔は……
「市ノ瀬!?」
どういうことだ!?
「改めて挨拶しよう。私がこの、アカデミア・ノース校校長、市ノ瀬だ」
話を聞くと、今度の決闘アカデミア本校との友好決闘で、最強の生徒を送り込むために俺に目を付け、始めから俺がこうなることを予想した上で俺に試練を与えていたらしい。
「そして、こちらの代表が一年生になりそうだと連絡した時、向こうも一年生を代表に添えた」
「まさか……」
その一年生とは……
「オシリスレッド、遊城十代だ」
遊城十代……
面白い。今こそ俺は、あいつにリベンジを果たす時だ!!
「だが、実は君以外にも、代表候補がいる」
……なに?
「どういうことだ? まさか、江戸川はキングではなかったのか?」
江戸川を見ながらそう言うと、頷きながら答えた。
「俺は既に、ある男に敗れている。だから、今日はその男の代わりにキングを名乗っていただけなんだ」
「なるほどな。じゃあ、その本当のキングとは一体……」
それを尋ねようとした時、
「俺だ」
そう声が聞こえた。
そちらを向くと、
「お前は……!」
そいつはつい最近まで、俺と同じ、アカデミア本校の生徒であり、同じオベリスクブルーに所属していたが、急にアカデミアを退学した男。
「佐倉……」
「久しいな。万丈目」
「なぜお前がここにいる?」
その質問に、佐倉は過去を振り返る表情を見せた。
「アカデミアを退学した後、一応家には帰ったんだが、俺が退学したと見るや勘当させられてな。ずっと俺を追い出す口実を探していた家の連中にはちょうど良かったんだろうな。それで、行く宛ても無く行き倒れていた所をここの校長に拾われたってわけだ」
「ちょっと待て。追い出されたのは分かるが、口実を探していたとはどういう意味だ?」
「うちには俺より遥かに出来の良い弟がいてな、家族も使用人も、全員がそいつばかりを可愛がって、普通の能力しか持ち合わせていない俺はずっと邪魔者扱いされてたんだよ。それで、ほとんど追い出される形で決闘アカデミアに送られて、そこを退学したとなれば家の恥だから帰ってくるな。そういう話だ」
「何だそれは、それが家族に対してすることか!?」
「お前も金持ちの生まれなら分かるだろう。金持ちってのは大抵、家族以上に名前を大きくしてくれる存在の方が大切なんだよ」
く……
……確かに、あいつの言うことも一理ある。
俺の二人の兄もそうだった。二人はいつでも、万丈目という名を大きくすることにこだわっていた。そのために俺は決闘アカデミアへ送られた。今思えば、兄弟の愛情などという物を受けた覚えが無い。
だが、それでも俺は、二人を尊敬している。理由はともかく、二人がそれぞれの舞台で躍進していく姿には憧れていた。だから俺自身も、自分が最も得意とする物、決闘で二人のような存在になりたくて、アカデミアに来たんだ。
なのに、それがいつの間にか……
「まあいい。とにかくお前を倒せば、俺がこのノース校のキングというわけだな」
そう言いながらディスクを構える。だが、
「そのデッキでやる気か?」
そう質問された。
「お前の決闘は全部見ちまった。勘だが、もうそのデッキで出せる物は全部出したろう」
う……確かに、このデッキの力は全て出し尽くしてしまった。
「心配はいらん」
市ノ瀬?
「これを。君が持っていたのと同じカードを用意した」
そう言って俺にカードを手渡してきた。見てみると、確かに、俺がここへ来る以前に持っていたカードが一通り揃っている。
だが、
「俺はここまでこのデッキで戦ってきた。だからこのままでいく」
そう言ったのだが、市ノ瀬は首を横に振る。
「佐倉君も、君と同じようにデッキを組み、江戸川を倒してキングになった。そして今では自分の最も得意とするデッキで戦っている。君も、自分の最も得意とするデッキを使い、お互いに全力で戦って欲しい。でなければ、二人のうちどちらかを選ぶ意味がないからな」
……なるほどな。
「良いだろう」
結局最終的に重要なのは、最も得意な戦術で本気を出すことで、どれだけの決闘を行うことができるか、ということか。
それが分かり、俺は市ノ瀬から受け取ったカードで、俺が使っていたデッキを新たに組み直した。
……しかし、デッキを組んでいくと思い出す。
俺が、決闘アカデミアにいた時のことを。
何を目指し、何を
そして、その全ての根本となった存在である、あいつの姿を。
デッキが完成し、改めて佐倉と向かい合った。
「お前との決闘も久しぶりだ。中等部の卒業決闘で、一位と二位を争った時以来か?」
語り掛けると、過去を懐かしむように微笑みを見せた。
「そうだったな。あの時はお前が勝った」
「そして、今回も勝たせて貰う」
「……好きにしろ。勝とうが負けようが、今となってはどうでもいい」
何だと?
「……そう言えば、お前が退学した理由も聞いていなかったな」
「何だ、知りたいのか?」
「いや。お前のことだ。どうせカツアゲしていた所を見つかったんだろう」
「正解」
「ふん……」
そこまで会話し、互いに同時にディスクを展開させる。
『決闘!』
万丈目
LP:4000
手札:5枚
場:無し
佐倉
LP:4000
手札:5枚
場:無し
「先行は俺か。ドロー」
万丈目
手札:5→6
「『X-ヘッド・キャノン』を召喚」
『X-ヘッド・キャノン』
攻撃力:1800
「魔法カード『前線基地』発動。手札のユニオンモンスターを一体、特殊召喚できる。『Z-メタル・キャタピラー』を特殊召喚」
『Z-メタル・キャタピラー』
攻撃力1500
「『Z-メタル・キャタピラー』を、『X-ヘッド・キャノン』に装備。攻守を600ポイントアップさせる」
『X-ヘッド・キャノン』
攻撃力1800+600
「カードを二枚伏せ、ターンエンド」
万丈目
LP:4000
手札:1枚
場:モンスター
『X-ヘッド・キャノン』攻撃力1800+600
魔法・罠
永続魔法『前線基地』
ユニオン『Z-メタル・キャタピラー』
セット
セット
「……随分淡々としたプレイだな。今までのような覇気が無い」
「気にするな。時が経てば人は変わる。それが分からんお前ではないだろう」
「確かにな……俺のターン」
佐倉
手札:5→6
「魔法カード『魔の試着部屋』発動。ライフを800払い、デッキの上から四枚めくる。その中のレベル3以下の通常モンスターを特殊召喚する」
佐倉
LP:4000→3200
(やはり、『ローレベル通常モンスター』デッキか)
「……俺はこの三体を特殊召喚」
『マッド・ロブスター』
攻撃力1700
『深海の長槍兵』
攻撃力1400
『深海の長槍兵』
攻撃力1400
「残りはデッキに戻しシャッフル。更に、『ジェリービーンズマン』を召喚」
『ジェリービーンズマン』
攻撃力1750
「そして、装備魔法『魂喰いの魔刀』を『ジェリービーンズマン』に装備。発動時、フィールド上の通常モンスター全てを生贄に捧げ、一体につき1000ポイント、装備モンスターの攻撃力をアップさせる」
『ジェリービーンズマン』
攻撃力1750+3000
「いきなり、攻撃力が4750だと!!」
「バトル。『ジェリービーンズマン』、『X-ヘッド・キャノン』に攻撃」
「ぬおおお!!」
万丈目
LP:4000→1650
ぐぅ……何の!
「『X-ヘッド・キャノン』に装備された、『Z-メタル・キャタピラー』を破壊!」
「そりゃそうだ」
『X-ヘッド・キャノン』
攻撃力1800
「永続魔法『凡骨の意地』。更にカードを伏せる。これで終了」
佐倉
LP:3200
手札:1枚
場:モンスター
『ジェリービーンズマン』攻撃力1750+3000
魔法・罠
装備魔法『魂喰らいの魔刀』
永続魔法『凡骨の意地』
セット
万丈目
LP:1650
手札:1枚
場:モンスター
『X-ヘッド・キャノン』攻撃力1800
魔法・罠
永続魔法『前線基地』
セット
セット
さすがだ。相変わらず、低レベルモンスターの扱いが上手い。
「俺のターン!」
万丈目
手札:1→2
「永続罠『リビングデッドの呼び声』! 墓地の『Z-メタル・キャタピラー』を特殊召喚!」
『Z-メタル・キャタピラー』
攻撃力1500
「更に『前線基地』の効果! 手札の『Y-ドラゴン・ヘッド』を特殊召喚!」
『Y-ドラゴン・ヘッド』
攻撃力1500
「X、Y、Z、変形合体! 『XYZ-ドラゴン・キャノン』、合体召喚!」
『XYZ-ドラゴン・キャノン』
攻撃力2800
「更に、魔法カード『マジック・プランター』を発動! フィールド上の永続罠を一枚墓地へ送り、カードを二枚ドロー! フィールドに残った『リビングデッドの呼び声』を墓地へ! カードを二枚ドロー!」
万丈目
手札:0→2
よし、手札は揃った!
「『XYZ-ドラゴン・キャノン』の効果! 手札を一枚捨てることで、相手フィールド上のカード一枚を破壊する! 俺が破壊するのは、『ジェリービーンズマン』!」
「ちぃ……」
『ジェリービーンズマン』が破壊され、必然的に『魂喰らいの魔刀』も破壊される。
「罠発動『ゲットライド!』! 墓地のユニオンモンスター一体を、フィールド上のモンスターに装備!」
「墓地……今墓地に送ったカードか」
「そう。墓地の『強化支援メカ・ヘビーウェポン』を、『XYZ-ドラゴン・キャノン』に装備! 攻撃力、守備力を、500ポイントアップ!」
『XYZ-ドラゴン・キャノン』
攻撃力2800+500
「バトル! 佐倉にダイレクトアタック! XYZハイパーディストラクション!」
こいつが通れば俺の勝ちだ!
「罠発動『攻撃の無力化』。その攻撃は無効」
く、防がれたか。
「ターンエンド!」
万丈目
LP:1650
手札:1枚
場:モンスター
『XYZ-ドラゴン・キャノン』攻撃力2800+500
魔法・罠
永続魔法『前線基地』
ユニオン『強化支援メカ・ヘビーウェポン』
佐倉
LP:3200
手札:1枚
場:モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『凡骨の意地』
「やっとお前らしくなってきた」
……なに?
「前のターンまで、お前はついさっきまで持っていたはずの、決闘に対する熱意ってやつがまるで無かった。ただ何の意味も無く、カードをめくってプレイするだけ。まるで、俺のようにな」
……確かにな。
このデッキを組み、プレイした時点で、俺は決闘する意味を見いだせずにいた。
「だが、俺が攻撃し、ダメージを与えたことで、どうやらお前の中の熱が戻ったらしいな」
……そうだ。ピンチに陥り、それを何とか打開しようとカードをプレイする。そうすることで、俺の中の何かが熱くなり、プレイングにも表れた。
そうだ。さっきまでの五十人抜きもそうだ。ここに入る前は、決闘をする意味を全く見いだせなかったというのに、俺は今、その決闘に燃えている。
「お前はどうやら、少なくとも俺ほど腐っちゃいないらしいな」
「腐って……?」
どういう意味だ? 腐っているだと? 自分自身が、腐っているというのか?
「さっきも言ったが、俺がアカデミアに送られたのは、親が俺を家に置きたくなかったからだ。それでも決闘は好きだった。だから例え追い出す口実だとしても、決闘することが嬉しかった」
「……」
「なのに、結局俺の佐倉って名前を聞いた奴は、全員俺ではなく、俺の名前ばかりを見るようになった。誰も頼んでいないのに、こびを売られ、持ち上げられ持てはやされて、追い出されたはずなのに、結局俺は佐倉のために決闘をすることになる。いつからかそう言う奴らを、ゴミだと感じるようになった。本当のゴミは、そんなことを感じて、腐りきって、カツアゲしかすることの無くなった俺だっていうのにな」
「なるほどな。それでローレベルモンスターを……」
「ああ。お前も含めて、ブルー生徒のほとんどは、今俺の使っているモンスター達をゴミ扱いする。このデッキのモンスターのほとんどが、捨てられていたのを拾ったカードだ。俺もこいつらと同じだ。だったらゴミはゴミらしく、ゴミとして捨てられたカードで戦ってやる。それが、このデッキを組んだきっかけだった」
デッキを見ながら話すその顔は、無表情ながら、かなり苦しんでいる顔に感じられる。いつでもポーカーフェイスを崩さなかったお前が、よほど辛かったんだな。
「アカデミアを退学して、改めて家から追い出されて、それこそ決闘が嫌になったっていうのに、なぜかこのデッキを手離すことはできなかった。そして、気が付けばここにいて、望みもしないのに勝っていた。まるで訳が分からない。決闘は、俺に何をさせたいのか……」
……その答えは、
「俺なら分かる」
「ん?」
「お前はそのデッキに愛されている」
「……バカな。続けるぞ。俺のターンだ」
佐倉
手札:1→2
「通常モンスター『サイバティック・ワイバーン』。こいつを見せ、更にドロー。『スパイラルドラゴン』、『フロストザウルス』、『
佐倉
手札:2→6
「『強欲な壺』を発動。カードを二枚ドロー」
佐倉
手札:5→7
「『天使の施し』発動。カードを三枚ドローし、二枚を捨てる」
まさか、ここまで一気に手札を補充するとは。
「『音速ダック』を召喚」
『音速ダック』
攻撃力1700
「そして装備魔法『下克上の首飾り』を装備。装備モンスターが戦闘を行う時、レベル差掛ける500ポイント攻撃力を上げる」
「なに!?」
「バトルだ。『音速ダック』、『XYZ-ドラゴン・キャノン』攻撃」
「ぐあ!!」
『音速ダック』
攻撃力1700+2500
「ぐぅ……だが、装備されたユニオンモンスター、『強化支援メカ・ヘビーウェポン』を破壊することで、このカードの破壊を防ぐ!」
万丈目
LP:1650→750
「まあいい。カードを二枚伏せる。ターンエンド」
佐倉
LP:3200
手札:3枚
場:モンスター
『音速ダック』攻撃力1700
魔法・罠
装備魔法『下克上の首飾り』
セット
セット
万丈目
LP:750
手札:1枚
場:モンスター
『XYZ-ドラゴン・キャノン』攻撃力2800
魔法・罠
永続魔法『前線基地』
「す、すげえ……」
「さっきから、超攻撃力の連続だ……」
「お互い、一撃で相手を仕留められるだけの力を出してる……」
やはり、間違い無い。
「こんな逆転をしてのけるとはな。思った通りだ。佐倉、お前はデッキに愛されている」
「まだ言うか。こんな俺が、このデッキに愛されてる? どうしてそんなことが……」
「分かるんだよ俺には。お前と同じく、デッキに、そして決闘に愛された人間を、ずっと見てきた俺にはな」
「なに?」
「俺のターン!」
万丈目
手札:1→2
「『強欲な壺』! カードを二枚ドロー!」
万丈目
手札:1→3
「手札から、『V-タイガー・ジェット』を召喚!」
『V-タイガー・ジェット』
攻撃力1600
「そして『前線基地』の効果発動! 手札のユニオンモンスターを特殊召喚する! 『W-ウィング・カタパルト』を特殊召喚!」
『W-ウィング・カタパルト』
攻撃力1300
「この二体を合体! 『VW-タイガー・カタパルト』を合体召喚!」
『VW-タイガー・カタパルト』
攻撃力2000
「まだだ! 『VW-タイガー・カタパルト』と、『XYZ-ドラゴン・キャノン』を合体! 『
『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』
攻撃力3000
「くっ……」
「『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』の効果! 一ターンに一度、相手フィールド上のカード一枚を除外できる! 『音速ダック』を除外!」
「ちっ……」
「『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』、ダイレクトアタックだ!!」
全銃口が佐倉に向けられる。
「永続罠発動! 『蘇りし魂』! 墓地の通常モンスターを、守備表示で特殊召喚する! 墓地の『マッド・ロブスター』を、守備表示で特殊召喚!」
『マッド・ロブスター』
守備力1000
「守りを固めてきたか。だが攻撃力はこちらの方が上だ! 更に、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』が戦闘を行う時、相手モンスターの表示形式を変更できる! 『マッド・ロブスター』を、攻撃表示に変更!」
『マッド・ロブスター』
攻撃力1700
「いけ、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!!」
「罠発動『窮鼠の進撃』!」
「な、なんだ!?」
奴の罠発動と同時に、大量のネズミが現れ、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』にまとわりついた!
「レベル3以下の通常モンスターが戦闘を行う時、ダメージステップ時にライフを100の倍数支払うことで、このターンのエンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力を払った数値分ダウンさせる。俺は2000ポイントのライフを支払い、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』の攻撃力をダウンさせる」
佐倉
LP3200→1200
『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』
攻撃力:3000-2000
狙いは同じか!
「ならば、速攻魔法『収縮』発動! 相手モンスター一体の攻撃力、守備力を半分にする!」
「な……! 最後の手札がそれだと……!?」
『マッド・ロブスター』
攻撃力1700÷2
『マッド・ロブスター』のサイズが、一気に直前までの半分になった! そして、最終的には『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』の攻撃により、倒された。
佐倉
LP:1200→1050
「ターンエンドだ!」
万丈目
LP:750
手札:0枚
場:モンスター
『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』攻撃力3000
魔法・罠
永続魔法『前線基地』
佐倉
LP:1050
手札:3枚
場:モンスター
無し
魔法・罠
無し
「……」
「どうかしたのか?」
随分うなだれているが。
「……分からない」
それは俺の質問に答えたというより、ほとんど独り言のようだった。
「俺にも分からない……もう、どうでも良いはずなのに……嫌になったはずなのに……ずっと、意味が分からなかったはずなのに……俺は、どうしてここまでの決闘ができる? なぜこんなに熱くなる? 何が俺に、こんな思いを芽生えさせる……?」
うむ。決闘をしながら感じた。佐倉。お前も俺と同じなんだな。
「俺も同じだ。アカデミアを出てから……いや、それよりもずっと以前から、決闘をする意味を見いだせなかった」
うつむいていた佐倉が、俺の顔を見た。
「俺はオシリスレッドの遊城十代に負けた後も、ずっと心の支えになっていた存在があった。だから負けた後もやってこれた。だが、今度はそれを失った。それ以来、自分が何のために決闘をしているのか分からなくなって、そんな時、退学になった」
「だが、ここに来て、決闘をするうち、思い出した。そうだ。これが決闘なんだ。戦う意味など、続ける意味など考えるだけ無意味だ。ただ決闘することで、胸が高鳴り、体が熱くなり、そして、やがてカード達と一体となり、そして、本能が叫ぶ。俺は決闘が楽しいと。俺は決闘が好きなんだと。そして切に思う! 俺は、お前に勝ちたいと!!」
「……!」
「決闘をする意味など、それだけで十分のはずだ。そうじゃないのか?」
「……俺のターン」
佐倉
手札:3→4
「……たった今気付いた……俺は今……お前に、勝ちたい。儀式魔法『覚醒の証』を発動!」
「儀式魔法!? バカな、そんなカードは今まで使わなかったはずだ!!」
「ここに来て手に入れた、俺の新しい相棒だ。手札の『フロストザウルス』を墓地へ送り、儀式召喚! 『覚醒戦士 クーフーリン』!」
『覚醒戦士 クーフーリン』
レベル4
攻撃力500
……何だ? 勇んで召喚した割に、攻撃力500?
「こいつをあまり侮らない方が良い。クーフーリンの効果発動! 墓地の通常モンスター一体を除外し、次の自分のスタンバイフェイズまで、除外したモンスターの攻撃力分、攻撃力をアップさせる。『スパイラルドラゴン』を除外」
「なに!?」
さっきの『天使の施し』か!? ということは……
『覚醒戦士 クーフーリン』
攻撃力500+2900
奴が『スパイラルドラゴン』を除外した瞬間、クーフーリンの纏う雷がより輝きを増した。
「攻撃力3400……」
さっきから、その数値を遥かに超える攻撃力を打ち出しているというのに、俺はクーフーリンから、今までのモンスターには無かった、オーラのようなものを感じた。それはまさに、最も信頼されているカードに宿る、決闘者の魂そのもの。
間違い無い。こいつが、今の佐倉のエースモンスターか。
「バトル! 『覚醒戦士 クーフーリン』で、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』を攻撃! 覚醒の
クーフーリンの槍が、『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』を貫いた!
万丈目
LP:750→350
「何て決闘だ……」
「ライフの差はついたが……」
「だが、戦っているのがあの二人だ。まだ分からないぞ!!」
「ターンエンド」
佐倉
LP:1050
手札:2枚
場:モンスター
『覚醒戦士 クーフーリン』攻撃力500+2900
魔法・罠
無し
万丈目
LP:350
手札:0枚
場:モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『前線基地』
くぅ……
「やっと分かった。これが、デッキに愛される、ということか……」
ほう。分かったのか。
「どうやらお互いに、決闘は離れてはくれないらしいな」
「それでもいい。こいつらが、こんなゴミである俺を求めてくれると言うのなら、そのために生きるのも悪くない」
「そうか……だが、俺も負ける気は無い! ドロー!!」
万丈目
手札:0→1
「……」
『……』
……
ふ……
「魔法カード『死者蘇生』発動! 墓地の『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』を蘇生!」
「な!?」
『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』
攻撃力3000
「『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』、効果発動! 『覚醒戦士 クーフーリン』を除外!」
「クーフーリン……!」
「『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』で、ダイレクトアタック! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!!」
「……ふ……」
(負けか……)
佐倉
LP:1050→0
『うおぉーーーーーーー!!』
決闘を見ていた生徒全員からの歓声。だがそれ以上に、俺に決闘を思い出させてくれた存在。そいつに手を差し出す。
「良い決闘だった」
「……ありがとう」
佐倉のこんな顔を見たのは初めてだ。だが、不思議だな。初めて見たのに、こいつには笑顔がよく似合う。
そして握手をしたと同時に歓声は更に大きくなり、そして同時にそれは、このノース校の新たなキングの誕生を意味した。
……
…………
………………
視点:外
ノース校での決闘から、少しさかのぼる。
……
…………
………………
~決闘アカデミア・ウエスト校~
「バ、バカな……俺が、1ポイントのダメージも与えられなかっただと……」
「つまらん。その程度の炎、蝋燭すら燃やせない」
「くぅ……」
……
…………
………………
~決闘アカデミア・サウス校~
「な、何なんだ、彼の決闘は……何もできなかった……」
「所詮は命の無い、作られただけの古き力よ」
「くそ……この次は負けないぞ! ナデシコボーイ!!」
……
…………
………………
~決闘アカデミア・イースト校~
「……強過ぎる……勝てない……」
「形の無い、ゆえに痛みも苦しみも、よって決意も覚悟も無い。そんな貴様の決闘など、私に勝てる道理は無い」
「……」
……
…………
………………
~決闘アカデミア・アークティック校~
「ぐぅ……こんなことが……」
「未完成のデッキとは。戦う価値も無かったな」
「なにぃ!! こいつらを、俺の家族をバカにするな!!」
「……どの道、ここにもう用は無い」
「待てよ!! 名前くらい名乗ったらどうなんだ!!」
「……」
「……」
「……梓」
「私の名は、水瀬梓」
「ミナセ……アズサ……」
「その名前、忘れないぞ! 絶対に、次は負けないからな!!」
「……」
……
…………
………………
(……残るは一つ……アカデミア……ノース校か……)
お疲れ~。
会話以外かなり単純な殴り合いになってしまった。でも、たまには良いよね。
んじゃ、次話まで待っててね。