つ~わけで、対抗決闘編開始です~。
そんじゃ、行ってらっしゃい。
視点:十代
今俺達、全校生徒は港に立ってる。待ちに待った、ノース校との対抗決闘の日がきた。
うん。
そう、梓のこと。
俺だけじゃない。翔も明日香もカイザーも。そして、一番知りたがってるのが……
「来た!」
誰かが叫んだと思ったら、目の前の水がせり上がった。そこから現れたのは、潜水艦。
それが港に着いて、中から黒い学生服の生徒達と、教師らしい眼鏡のおっさんが。
「久しぶりだね、市ノ瀬校長」
「こちらこそ、鮫島校長。それで、今日はトメさんは元気でしょうな?」
「もちろん。対抗決闘で、トメさんの存在は欠かせないものですからな」
二人とも笑いながら、簡単に会話をしてる。
「あの!」
その最中、女子が一人叫びながら、二人の間に立った。
「な、何だ君は!?」
市ノ瀬って呼ばれてたおっさんは驚いてる。そりゃあ目の前にいきなり現れりゃ驚くよな。
「えっと、あの……」
「落ち着きたまえ平家君。私が尋ねる」
「あずさ、後ろにいようぜ」
「十代くん……」
俺も二人の間に立って、あずさを引っ張った。あずさは渋々黙ったけど、本当に聞きたそうにしてた。
「ほう、君が遊城十代君か」
「あ、ああ。それより、校長……」
「うむ。市ノ瀬校長、例の少年は、ノース校にはやってきたかね?」
その質問で、おっさんは、じゃなくて、市ノ瀬校長は表情を曇らせた。
「ああ、来たよ。詳しいことは、今日の対戦相手が話してくれる」
「そっか。そう言えば、俺の対戦相手って……」
「俺だ」
全部言い切る前に遮られて、声のした方を見た。そこに立ってたのは、
「ああ、万丈目」
「さんだ」
「久しぶりだな」
再会を喜びたいところだけど、今はそれどころじゃない。
「万丈目、俺の対戦相手って、誰か知らねーか?」
「万丈目さんだ」
『サンダー!』
すると、急に万丈目の前に、生徒達が立った。
「一年、さっきから黙って聞いてりゃ、サンダーさんを呼び捨てにしくさって」
「いっちょ締めてやろうか」
「構わん。放っておけ」
何か、よく分からねーけど、
「それで、俺の相手は?」
「だから俺だ」
「俺?」
「そうだ、俺だ」
「……」
……
「マジ?」
「マジだ」
「万丈目くん!!」
また、あずさが大声を上げた。そして、今まで隣にいたはずなのに、いつの間にか万丈目の前に。
視点:万丈目
「お、お前は平家あずさ……」
「梓くんは!?」
突然俺の前に立ったかと思えば、開口一番質問してきた。
だが当然だ。奴のことを最も知りたがっているのは、こいつのはずだからな。
「何だこいつは」
「サンダーさんに何の用だ?」
だが、江戸川達舎弟どもはそんな平家あずさを気に入らないようで、無理やり遠ざける。
「おい……」
よせ、そう言おうとしたら、
「よせ。お前らじゃその子には勝てないよ」
そう声が聞こえた。俺と平家あずさを含めた、全員がそちらを向いた。
「な、君!?」
「下がれ」
『はい! 佐倉さん!』
佐倉の命令で、舎弟達も下がった。
「お久しぶり。うちのバカ達がすまなかったな」
「……」
「だがこの場合、俺はどっちを助けたことになるのかな?」
まあもっともな疑問だ。あの制裁決闘の時から、俺も平家あずさの強さは知っている。あんな腕力で殴られたら、間違い無く人一人殺せるからな。
「何でお前がいるんだ!?」
そう叫んできたのは、十代?
「てめえ、退学になったと思ったら何しに来やがった!?」
「お呼びじゃねーぞ!! 帰れ!!」
「帰れ!! この屑野郎!!」
『帰れ!! 帰れ!! 帰れ!! 帰れ!! 帰れ!! 帰れ!!』
佐倉の登場で、一瞬で湧き上がった帰れコール。佐倉本人は楽しそうに笑って見ている。
こうなることも当然と言えよう。奴がしてきたことを考えればな。だから佐倉も笑っているのだろう。
「黙れてめえら!!」
「我がノース校ナンバー2の佐倉さんに向かって、ふざけたこと言ってんじゃねえ!!」
そんな本校の生徒達に、ノース校の生徒達は黙っていない。激怒しながら、生徒達に掴みかかった。
「けっ、どうせ金の力だろう。そいつからいくら貰ったんだ? いくらでナンバー2の座を売り渡したんだよ? いくらで決闘者のプライドを捨てたんだ!? そんな奴らと対抗決闘なんて、最悪だぜ!!」
「この野郎!!」
「黙って気いてりゃ好き放題言いやがって!!」
「やっちまえー!!」
まずい! 今にも暴動が起きそうだ!
そしてそんな光景を、佐倉本人は相変わらず笑って見ているだけだ。
「こ、こら、やめなさい!」
「落ち着くんだお前達!!」
二人の校長が制止しようと声を掛けるが、誰も聞く耳を持たない。
本校の生徒からすれば、親の力でカツアゲばかりをしてきて、退学になったはずの最悪の生徒。そいつが再び目の前に現れ、しかもまた大勢の舎弟に囲まれ、また親の力かと激怒している。
だがノース校の生徒からすれば、親どころか勘当されて一文無しの状態でノース校の門を叩き、俺が来るまでとは言え、実力でトップにのし上がった尊敬できる男。そいつが姿を現した途端、実力でなく金の力だとバカにされ、激怒している。
俺にはどちらの気持ちも分かる。だから一概にどちらが悪いかなど決められない。
何より、俺も立場的には似たようなものだ。止める権利など、無い……
ドゴォ!!
そんな俺をよそに、そんな轟音と共に、軽い地震が起きた。
音のした方を見ると、ずっと俺の前にいたはずの平家あずさがいつの間にか移動し、地面を全力で殴っていた。月一試験の時と同じように、地面は大きく凹んでいる。
「そんなに喧嘩したいならさ、わたしとしてよ。今ちょうど機嫌が悪いから」
『……』
誰もが沈黙した。実際、そんなことをされて、そんなことを言われれば、誰もが恐れて言葉を失うだろう。そう思ったが、
「なら、俺を殴ればその機嫌も治るか?」
佐倉が笑いながら、平家あずさの前に!
「おい、佐倉!」
呼び掛ける俺に対し、佐倉は、優しい笑顔を向けただけだった。そして、また平家あずさと向かい合う。
「この騒ぎの原因は俺だからな。何より君には、いや、本校にいる大勢の生徒が、俺を殴る権利くらいあるよ。そんなことで気が済むって言うのなら、好きに殴れば良いさ」
「……」
『……』
平家あずさも、ノース校と本校の生徒全員も、何も言えずにいる。
だが、そんな沈黙を破ったのが、
ババババババ……
空から聞こえてきたそんな音。俺も含め、全員が上を向く。
「あれは……」
黒いヘリ。そこに白く書かれた文字は、
「万丈目
まさか、兄さん達か!?
……
…………
………………
視点:あずさ
万丈目くんに話しを聞こうと思ったらみんなが喧嘩を始めちゃって、それを止めたと思ったら今度は万丈目くんのお兄さん達が現れて、そして、この対抗決闘を全国放送するって言い出した。
そのこと自体は別に構わない。というか、どうでも良い。わたしはただ、万丈目くんから話しを聞きたかっただけ。梓くんの話しを。それを邪魔しないなら、誰が何してたってどうだって構わないよ。
梓くん、元気してたのかな。やっぱり変わっちゃってるのかな。わたし達のこと、本当にどうでもよくなっちゃったのかな……
そんなことを考えながら、決闘前の時間に万丈目くんを探していると、男子トイレの前で、十代くんが壁にもたれてるのを見つけた。何だか耳を澄ましてる。中に誰かいるのかな?
「くそ!!」
て、この声は、万丈目くんの声!!
やっと見つけた。そう直感して、男子トイレに近づこうと思ったら、
「誰もが俺に勝てと言う! そうやって誰からも期待を込められ、周囲からは一方的に勝つことを強要される! 俺に負けることは許されない! 明日も明後日も、ずっと勝ち続けるしかないんだ、くそっ!!」
「……」
いつも傲慢だった万丈目くんの言葉とは思えなかった。話しを聞きたかったけど、それを聞いちゃって、聞けなくなっちゃった。今はそっとしておいた方が良さそう……
それで、決闘場に戻ろうと思ったんだけど、
「……」
誰かの声が聞こえた。
何だか揉めてるみたいに聞こえる。気になってそっちに行って見てみた。
すると、そこには四人のイエロー生徒と……
「よう、久しぶりだな佐倉さん」
「何か用か?」
「何か用?」
「分かってる癖に聞くんだなそれを」
「分からないな。お前達に呼び出される覚えも筋合いも思い当たらないが」
「うわ、信じらんねえ。まさか、ずっと取巻きでいてやった俺達のことを忘れたなんて言わないだろうな?」
「忘れる以前に知らないな。確か俺の取巻き達は、全員オベリスクブルーだった記憶があるんだが」
うわぁ……佐倉くんの言葉で、四人の顔が一気に渋く変わっちゃった。
「じゃあ、教えてやるよ」
「俺達はな、あんたが負けたせいで今までのことが全部ばれて、見ての通り、ブルーだったのにイエローに格下げだ」
「それがどれだけ最悪なことか、あんたにも分かるだろう?」
「……それだけか?」
「は? それだけ?」
「どういう意味だよ、それだけって?」
「カツアゲなんて行為に付き合ってた時点で、こうなることも覚悟してのことだと思ってた」
「はぁ? 何言ってんの?」
「何で俺達がそんな覚悟持たなきゃいけないんだよ?」
「……用がそれだけなら帰るぞ。時間が無い」
「まあ待てよ。決闘にはまだ時間があるだろう」
「言い方が悪かったか?」
「あ?」
「バカどもと話しをする無駄な時間は皆無だって言ってるんだよ」
「おい……あんまり調子乗るなよ」
「そう言えば、あんたさっき言ってたよな。この学園にいる生徒全員、あんたを殴る権利があるってさ。だったら当然、俺達にもあるってことだよなぁ?」
「おかしいな。『大勢』の生徒とは言ったが、『全員』とは言った覚えが無いが」
「言ったんだよ、全員だ!」
その言葉と一緒に、ずっと話してた男子が拳を振り上げた。
けど、それを佐倉くんは軽く避けた。
「今更、誰に殴られようが、それだけのことをしてきた以上覚悟はできてる。けどな、そんな俺と同じことをしてきたくせに、そんな覚悟も持たずに好き放題やってたバカ共にまで殴られてやるほど、俺は優しい性格じゃないぜ」
「黙れ!」
また殴りかかった。今度はそれを受け止めて引っ張る。そして、その男子はその勢いのまま壁に叩きつけられた。
「お前らじゃ俺には勝てないよ。平家あずさほどじゃないにしろ、俺の強さはお前らが一番知ってるだろう」
「この……」
「それとも決闘にするか? もっとも、レアカードを全部元の持ち主に戻した後のお前らじゃ、実力も高が知れてるがな」
「何だとぉ……」
「だってそうだろう。お前ら全員が全員、取り上げたレアカードでデッキを組んでたじゃないか。まあかく言う俺も、水瀬梓との時はたまたま取り上げた直後の『ホーリー・ナイト・ドラゴン』がデッキに混ざってたが、俺が使ったのはあれ一枚だけだ。あまり言いたくは無いが、レアカード頼みでしかなかったお前らとは違う」
「てめぇ……黙って聞いてりゃ!!」
「やってやるよ! レアカード抜きでもな、お前を倒すくらいわけねーぞ!!」
「面倒臭いから四人まとめて来い。勝てば大人しく殴られてやる。もし負けたら……いいや。四対一で負けたっていう時点で十分無様で惨めだし」
「うるせえ!!」
「その時は俺達全員のデッキをくれてやるよ。当然、お前が負けた時はお前のデッキを貰う」
「構わないよ。もっとも俺のデッキなんて、全部がまたすぐに集められるカードだけど」
「ぐぅ……」
「ほら、さっさと構えれば? ただし、先行は貰うぜ」
「好きにしやがれ!!」
『決闘!!』
視点:佐倉
佐倉
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
元子分
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
元下僕
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
元手下
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
元三下
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「名前適当すぎるだろう!!」
「どうした?」
「うるせえ!! 早く進めろ!!」
「……? じゃあ俺の先行」
佐倉
手札:5→6
「『大木炭
『大木炭18』
守備力2100
「カードを一枚伏せ、永続魔法『凡骨の意地』発動。ターンエンド」
佐倉
LP:4000
手札:3枚
場 :モンスター
『大木炭18』守備力2100
魔法・罠
永続魔法『凡骨の意地』
セット
「俺のターン!」
元子分
手札:5→6
「『ゴブリンエリート部隊』を召喚!」
『ゴブリンエリート部隊』
攻撃力2200
「バトルロイヤルルールにより、最初のターン全てのプレイヤーは攻撃できない。ターンエンド!」
元取巻き
LP:4000
手札:5枚
場 :モンスター
『ゴブリンエリート部隊』攻撃力2200
魔法・罠
無し
「俺のターン! 『アックス・ドラゴニュート』召喚!」
『アックス・ドラゴニュート』
攻撃力2000
「更に装備魔法『デーモンの斧』を『アックス・ドラゴニュート』に装備、ターンエンド!」
元下僕
LP:4000
手札:4枚
場 :モンスター
『アックス・ドラゴニュート』攻撃力2000+1000
魔法・罠
装備魔法『デーモンの斧』
「俺のターン! 永続魔法『前線基地』発動! 手札のユニオンモンスター一体を特殊召喚する! 『守護霊アイリン』を特殊召喚」
『守護霊アイリン』ユニオン
攻撃力0
「そして『不屈闘士レイレイ』召喚!」
『不屈闘士レイレイ』
攻撃力2300
「ユニオンモンスター『守護霊アイリン』を、レイレイに装備! ターンエンド!」
元手下
LP:4000
手札:3枚
場 :モンスター
『不屈闘士レイレイ』攻撃力2300
魔法・罠
永続魔法『前線基地』
ユニオン『守護霊アイリン』
「俺のターン!」
元三下
手札:5→6
「手札を一枚捨て、『THE トリッキー』を特殊召喚!」
『THE トリッキー』
攻撃力2000
「墓地へ送った風属性モンスターをゲームから除外し、『シルフィード』を特殊召喚!」
『シルフィード』
攻撃力1700
「そして『スピア・ドラゴン』を通常召喚!」
『スピア・ドラゴン』
攻撃力1900
「ターンエンド!」
元三下
LP:4000
手札:2枚
場 :モンスター
『THE トリッキー』攻撃力2000
『シルフィード』攻撃力1600
『スピア・ドラゴン』攻撃力1900
魔法・罠
無し
おぉおぉおぉおぉ、攻撃できないうちから似たようなのばかり展開しちゃってまぁ……
「俺のターン」
佐倉
手札:3→4
どうなっても知らね。
「引いたのは通常モンスター『ジェリービーンズマン』、よってもう一枚ドロー。『海皇の長槍兵』、『マッド・ロブスター』、『ハウンド・ドラゴン』、『
「終わりか?」
「いや、速攻魔法『リロード』発動。手札を全てデッキに戻し、戻した枚数分ドローする」
「なに!?」
佐倉
手札:9→8
「今ドローしたカードの中に一枚でも通常モンスターがあれば、それを公開することで更にドローできる。通常モンスター『海皇の長槍兵』を公開し、ドロー。『サイバティック・ワイバーン』、『フロストザウルス』、『スパイラルドラゴン』、……ここまでだな」
佐倉
手札:8→11
(一ターンで、手札が三枚から十一枚とか何それ……)
「罠発動『砂塵の大竜巻』。フィールド上の魔法・罠一枚を破壊する。レイレイに装備された『守護霊アイリン』を破壊」
「くぅ……」
「そして、魔法カード『ブラックホール』」
『げぇ!!』
「フィールド上のモンスターを全て破壊する。『大木炭18』には悪いが……」
『うぉおおおああああああ!!』
哀れな……
「魔法カード『魔の試着部屋』。ライフを800払い、以下略」
佐倉
LP:4000→3200
「……この四体を召喚」
『ジェリービーンズマン』
レベル3
攻撃力1750
『マッド・ロブスター』
レベル3
攻撃力1700
『ハウンド・ドラゴン』
レベル3
攻撃力1700
『音速ダック』
レベル3
攻撃力1700
「そして、装備魔法『魂喰らいの魔刀』を『ジェリービーンズマン』に装備。装備モンスター以外の通常モンスター全てを生贄に捧げ、一体につき1000ポイント、攻撃力をアップさせる」
『ジェリービーンズマン』
攻撃力1750+3000
「攻撃力が4750!?」
「まだまだ。儀式魔法『覚醒の証』発動。手札からレベル8の『スパイラルドラゴン』を墓地へ送り、『覚醒戦士クーフーリン』を儀式召喚」
『覚醒戦士クーフーリン』
レベル4
攻撃力500
「何だ? 儀式をした割にたかが攻撃力500かよ」
「装備魔法『リチュアル・ウェポン』を装備。レベル6以下の儀式モンスターの攻守を1500アップ」
『覚醒戦士クーフーリン』
攻撃力500+1500
守備力1000+1500
「そして、クーフーリンの効果。墓地の通常モンスター一体を除外し、次の俺のスタンバイフェイズまで除外したモンスターの攻撃力分、攻撃力をアップする。『スパイラルドラゴン』を除外」
『覚醒戦士クーフーリン』
攻撃力500+1500+2900
「げぇ!! 攻撃力4900!!」
「け、けど、この二体で攻撃しても二人は生き残る! 次のターン、生き残った奴が体制を立て直して……」
「悪いが次は無い。魔法カード『ダブルアタック』を二枚発動。手札のモンスターカードを墓地へ送り、それよりレベルの低いモンスター一体は、このターン二度の攻撃ができる。手札のレベル5『サイバティック・ワイバーン』、レベル6『フロストザウルス』の二枚を捨て、レベル3『ジェリービーンズマン』と、レベル4『覚醒戦士クーフーリン』を選択」
『な、なに~~~~!!』
(しかもちょうど手札全部使いきった!!)
「バトル。二体のモンスターで、それぞれ二回、ダイレクトアタック」
『ぎいゃあぁぁぁぁぁああああああああああああ!!』
元×4
LP:4000→0
『手を抜くなぁあああああああああああああああ!!』
「行数もったいないからな」
視点:あずさ
すっご……梓くんとの決闘の時よりかなり強くなってる。行数のことまで気に掛けてるし。
今の万丈目くん、あれ以上に強いってこと?
「約束通り、デッキは……やっぱいらね。お前らの使うカード、俺には合わないし」
一度デッキに手を伸ばしたけど、手を戻して四人に背中を向けた。
「……っ!」
四人のうちの一人が立ち上がって、静かに佐倉くんに近づいていった。その手には、ナイフが……
ドガッ
壁を殴ると、五人ともこっちを向いた。
「それ以上は、ちょっとまずいんじゃないかな」
笑顔を作って話し掛ける。佐倉くん以外の四人は縮みあがって、脅えて逃げていった。
にしても、軽く殴っただけなのにすごい音したな……
壁、壊れてる……
「……ありがとう」
壁を見てると、佐倉くんが話し掛けてきた。
ありがとうって……佐倉くんが!?
「近づいてたのは分かってたけど、刃物を持ってるのは気が付かなかった。お陰でお互い無傷でいられたよ」
「……」
何でだろう。感謝の気持ちを言ってくれてるのに、全然しっくりこないって言うか……
「それとも、俺を殴りにきた?」
「え?」
「ずっと決闘見てたろう。殴るタイミングを見定めてた?」
「ち、違うよ!」
そりゃ、まだ君のこと完全に許せてはいないけど、
「そんなこと考えてないよ」
「そっか。じゃあ……」
急に口ごもって、改めて喋り出した。
「……悪いが、君の彼氏のことなら、何も知らない」
「彼氏……」
……
////
「いや、梓くんは彼氏じゃ……////」
「え、違うの?」
「……////」
「……まあいいや。俺は、万丈目と、水瀬梓が決闘してる間、ずっと隠れてたから。水瀬梓のことは、何も知らない」
「隠れてたの?」
「ああ。怖くてな……笑ってもいいよ」
「……笑えないよ……」
梓くんのこと、怖いって思うのも当然だよ。わたしも、十代くん達だって、あの時怖かったんだもん。
「ごめん。役に立てなくて……」
「……うん。こっちこそ、ありがとう」
それ以上は、何だか気まずくて、話すことができなかった。
そろそろ時間だし、そのまま決闘場へ歩いていった。
お疲れ~。
次回はあの二人の決闘回ですじゃ。
楽しみにしていた人もそうでない人も、これだけは言いたい。
ちょっと待ってて。