遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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決闘入りま~す。ただあまり長くはありませんが。
まあここでグダグダと話していても仕方ないし。
とにかく楽しんで下さいな。
行ってらっしゃい。



第二話 アカデミアへ ~決闘~

視点:万丈目

 歓迎パーティーの間、ほとんどの生徒は梓の周りに集まっていた。いつも俺の左右に立っていた取巻きも、今では少しでも奴の近くに寄ろうとしている。さっきも天上院君から連絡を受けた時、どちらが迎えに行くか本気で揉めていたからな。結局決闘で決めようとしたのを引き止め、ジャンケンで決まったが。

 それにしても、俺もそれなりにカリスマはあるつもりだが、梓の場合はカリスマというより、人気アイドルの放つそれだ。それもカリスマと呼べるのか? よく分からん。

 だがそれはともかく、あの梓という男、着物で分かり辛いが、顔が女子なら体も女子並みにかなり細いぞ。せっかくの料理も先程からほとんど手を付けていない。普段から小食なのか?

 

 まあいい。俺にはこの後するべきことがある。そのための準備をしておかなければ。

 

 

 

視点:梓

 歓迎会が終わった後で部屋に戻り、私は改めてこれからお世話になる部屋を見渡します。

 広くて良いお部屋ですが、ふむ……もう少し私好みに改装しても罰は当たらないでしょう。

 そう考えた時、

 

 ピーピー……

 

 私の学生手帳が鳴ります。差出人は、『天上院 明日香』。先程の金色の髪をした女子生徒の方ですか。

 慣れない手つきで開いてみると……なるほど。

 私は急いでお部屋を出ました。

 

 

 

視点:十代

「行くぜ! 万丈目!」

「万丈目さんだ!」

 

「待ちなさい!」

 

 これから決闘を始めようという時に、そんな止めに入った声。

「明日香」

「時間外の決闘は禁止よ。それにアンティルールもね」

「何だよ、邪魔するなよ明日香」

 

「待って下さい!」

 

 また声が聞こえた。今度は誰だ?

 そいつは急いだ様子で走ってきた。

「あ、梓さん!」

「どうしてここに!?」

 取巻きの二人が梓に聞いた。俺も同じ疑問を感じてる。

「お二人が決闘をすると明日香さんから連絡を受けたので……」

 それで、明日香と一緒に止めにきたってのかよ?

「これは私も参加しないわけには行かないと」

 て、そっちか!?

「ちょっと梓、どういうこと!?」

「これから生徒同士の初決闘が行われるのです。これは勉強になるでしょう」

「えぇー……」

 明日香が頭を押さえてる。どうやら思ってたこととは別のことが起きてるみたいだな。

「そういうことでしたら……」

 笑顔で喋ってた梓に、万丈目と一緒にいた内の一人が話し掛けた。

「俺と決闘しましょう!」

「『取巻(とりまき) 太陽(たいよう)』さん」

「いや、俺とぜひ!」

「『慕谷(したいたに) 雷蔵(らいぞう)』さん」

『お願いします!!』

 そして二人は手を差し出す。おいおい、まるで愛の告白じゃねえか。ていうか、あの二人ってそういう名前だったんだ。

「そうですね……では」

 そう言いながら梓が取った手は……

 両方?

 

「三人で、私とあなた達、二対一のバトルロイヤルルールで行いましょう」

 

 

 

視点:明日香

 な、何を言っているの!?

 一緒に万丈目君達を止めるために、梓の力を借りようと彼を呼んだのだけど、梓は何を勘違いしたのか自分も決闘をしたいと言う。しかもそんな彼の前には万丈目君の取巻きの二人。挙句、二人の手を取って、二対一のバトルロイヤルルールですって!?

「その、良いんですか? 二対一って……」

 彼の疑問ももっともだわ。彼らも一応はブルー生徒。そんな二人に、入学したての生徒が一人で挑むなんて、言っては悪いけど、無謀でしかない。

「もちろん、厳しい戦いになることは分かっています。しかし、私はブルーに残り、強くなることを選びました。強くなるためには、自ら進んで過酷な道を進むことも必要です。例え敗北がほぼ確定してしまっている決闘であっても、その敗北が私を強くしてくれます。だから、ぜひお二人に協力をお願いしたい。お二人でなければダメなのです」

 ああ……梓の最後の一言で、二人は完全に堕ちたわ。

「分かりました! やりましょう!」

「いや、ぜひ二対一でやらせて下さい!」

 ……水瀬梓、恐ろしい男だわ。しかも厄介なのが、彼自身が無自覚にそういう言葉を使っているということね。一応自分の外見に関しての自覚はあるみたいだけど、こういうことは分かってないのね。

 

「……何か、向こうは向こうで盛り上がってるな」

「……さっさと始めるぞ」

 

『決闘!』

 

 十代と万丈目君も、三人に呆れながら決闘を始めた。

 はあ……もう全員、勝手にしてちょうだい。

 そう思いながら、私と同じで呆れてる翔くんの隣に立った。

 けど、これはある意味好機かもしれない。実を言えば、梓にはずっと興味があった。

 入学試験、あの時梓は試験官を相手にワンターンキルを行った。使ったカードは全部で六枚。『サイクロン』、『ウォーター・ハザード』、『地獄の暴走召喚』、そして、『氷結界の水影』が三枚。

 そのうち三枚の魔法カードは私も知ってる。けど、唯一のモンスターである『氷結界の水影』、あれは私も知らないカードだった。

 他にもあるのかしら。それを確かめる意味でも、これは見届ける価値がある。

 

「では、始めましょう」

『はい!!』

 

『決闘!』

 

 

取巻

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

慕谷

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

 始まった。

「まずは俺の先行! ドロー!」

 

取巻

手札:5→6

 

 一巡目、最初は確か、取巻君だっけ?

「俺は『岩石の巨兵』を守備表示で召喚!」

 

『岩石の巨兵』

 守備力2000

 

「そしてカードを二枚セット。ターンエンド!」

 

 

取巻

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『岩石の巨兵』守備力2000

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

慕谷

手札:5→6

 

 今度は慕谷君。言っては悪いけど、二人とも名前が覚え難いわね。

「俺は『怒れる類人猿(バーサークゴリラ)』を攻撃表示で召喚!」

 

『怒れる類人猿』

 攻撃力2000

 

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

慕谷

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『怒れる類人猿』攻撃力2000

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

 そして、遂に回ってきた、梓のターン。

「参ります。私のターン、ドロー!」

 

手札:5→6

 

 引いたカードは?

「速攻魔法『サイクロン』! これで……取巻さん、あなたのリバースカードを破壊!」

「はっ!」

 発生した竜巻は取巻君のフィールドへ向かい、セットされたカードを破壊する。

「くぅ!」

 破壊されたのは『万能地雷 グレイモヤ』。攻撃時にしか発動しないカードだけど、一応は当たりのようね。

「更に私は、手札より『氷結界の交霊師』を特殊召喚!」

 

『氷結界の交霊師』

 レベル7

 攻撃力2200

 

「なに! レベル7のモンスターをいきなり特殊召喚!?」

「『氷結界の交霊師』は、相手の場のカードが自分の場のカードよりも四枚以上多い時、手札から特殊召喚できるのです」

 なるほど、バトルロイヤルルールだから二人のカード全てが対象になるわけね。

「更に、『氷結界の守護陣』を守備表示で召喚!」

 

『氷結界の守護陣』

 守備力1600

 

 思った通り、氷結界というのはシリーズ名のようね。

「バトルロイヤルルールにより、最初のターン全てのプレイヤーは攻撃できません。カードを三枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

LP:4000

手札:0

場 :モンスター

   『氷結界の交霊師』攻撃力2200

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

 

取巻

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『岩石の巨兵』守備力2000

   魔法・罠

    セット

 

慕谷

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『怒れる類人猿』攻撃力2000

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

 これで一巡目は終了。次からは攻撃が可能になる。さあ、どうなるか……

 

「梓さん、遠慮はしませんよ! 俺のターン、ドロー!」

 

取巻

手札:3→4

 

「俺は『岩石の巨兵』を生贄に捧げ、『守護者(ガーディアン)スフィンクス』を召喚!」

 

『守護者スフィンクス』

 攻撃力1700

 

 取巻君の前に、金色に光るスフィンクスが現れる。ステータスはそれほどでもないけど、中々強力な効果を持っているわ。

「更に、生贄に捧げた墓地の『岩石の巨兵』を除外! 『ギガンテス』を特殊召喚!」

 

『ギガンテス』

 攻撃力1900

 

 どうやら彼のデッキは『岩石族』のようね。

 岩石族は一見地味な存在だけど、探してみると強力な効果を持つカードが多い。取巻君のフィールドに立つカードがその例よ。

「最後に魔法カード『エネミーコントローラー』! 二つある効果のうち一つを選択して発動! 俺は一つ目の効果を選択! 梓さんのフィールドの『氷結界の交霊師』を守備表示に変更!」

 

『氷結界の交霊師』

 守備力1600

 

 中々やるわね。今梓のフィールドに、この二体の攻撃に耐えられるモンスターはいないわ。

「バトルフェイズに移行! まずは『ギガンテス』で、『氷結界の守護陣』を攻撃だ!」

 

 ……

 

 ……あら?

「……なぜだ? なぜ『ギガンテス』は動かない?」

「……『氷結界の守護陣』の効果です。自分フィールド上にこのカード以外の氷結界モンスターが存在する時、あなた方は守護陣の守備力以上の攻撃力を持つモンスターでは攻撃できなくなります」

「そんな!」

 フィールドに二体以上モンスターを出さないとダメとはいえ、中々強力な効果ね。

「カード効果は確認しなければダメですよ。公開情報なのですから。言ってくれればお教え致しましたのに」

「……」

 困ってるわね、取巻君。

 梓、あなたの言うことももっともだけど、実際それだけお互いに離れて立っていると、そういうことは確認し辛いのよ。想像してみたら凄く間抜けな光景だし。

 まあ、私もそうやって効果が分からなかったせいで、失敗したことが何度かあるのだけれど。はあ……

「……仕方が無い。このままメインフェイズに移行。『守護者スフィンクス』を自身の効果で裏守備表示に変更。カードを一枚セットし、ターンエンド」

 

 

取巻

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    セット(『守護者スフィンクス』守備力2400)

   『ギガンテス』攻撃力1900

   魔法・罠

    セット

    セット

 

慕谷

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『怒れる類人猿』攻撃力2000

   魔法・罠

    セット

    セット

 

LP:4000

手札:無し

場 :モンスター

   『氷結界の交霊師』守備力1600

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

慕谷

手札:3→4

 

「ドローフェイズにリバースカードオープン! 罠カード、『サンダー・ブレイク』!」

 手札一枚をコストに、フィールド上のカード一枚を破壊できるカード。当然狙いは……

「梓さん、『氷結界の守護陣』は破壊させてもらいます!」

 その言葉の直後、守護陣の頭上から落雷が落ち、破壊された。

「そして、『激昂(げきこう)のミノタウルス』を召喚!」

 

『激昂のミノタウルス』

 攻撃力1700

 

「そして、『怒れる類人猿』を守備表示に変更!」

 

『怒れる類人猿』

 守備力1000

 

「え、どうして!?」

「え? どうかしました? 明日香さん」

 隣に立つ翔君は理解していないみたいね。

「『怒れる類人猿』は、守備表示になった時破壊される効果があるの」

「え? てことは、あの人はわざとゴリラを? プレイミスっすか?」

 そう会話してる間に破壊される『怒れる類人猿』。私もミスかと思ったけど……

 

「『サンダー・ブレイク』のコストに捨てたカード……」

 

 え? 梓、今何て……?

「さっすが梓さん! 良い読みですね。その通り! このカードは自分フィールド上の獣族が戦闘以外で破壊された瞬間、1000ポイントのライフを払い、手札か墓地から特殊召喚できる! 『森の番人グリーン・バブーン』を特殊召喚!!」

 

慕谷

LP:4000→3000

 

 慕谷君の叫びと共に、地面が砕け、そこから巨大な手が、顔が、そして胴体と足が順に現れる。その手には巨大な棍棒を持った、緑色の怪物。

 

『森の番人グリーン・バブーン』

 攻撃力2600

 

 まさかそんな方法で上級モンスターを呼び出すなんて、さすが伊達にブルーに所属しているわけではないわね。

 それにしても、場と状況を見てこうなることを瞬時に読み取った梓も凄いわね。彼もまた、伊達にブルーに選ばれたというわけではないということか。

「まだまだあ! 罠発動! 『リビングデッドの呼び声』!」

 勢いよく叫びながらディスクのボタンを押すけど、

 ……また?

「え? 何だ? また?」

「……『氷結界の交霊師』が場にある限り、相手は一ターンに一度しか、魔法・罠を発動できません。あなたは既に、ターンの始めに『サンダー・ブレイク』を使用しています」

「そんな!!」

 後悔した顔を見せる慕谷君。まあ、効果を確認しておくべきだったかもね。

 

「すみません!」

 

 そんな慕谷君、そして取巻君に対して、梓は急に頭を下げた。

「さっきの守護陣の効果と言い、私が召喚した時に効果を説明するべきだったのです。それを、分かったふうに公開情報などと……本当に申し訳ありませんでした!!」

 そう言ってなお更頭を深く下げる。

「あ、いえ、良いんです、気にしないでください!」

「確認しなかった俺達も悪かったですから!」

 直前まで悔しそうにしてたのに、梓の顔を見た途端完全に緩みきってるわ。

「……本当に、すみませんでした」

 何だか今にも泣きだしそう。それだけ純粋ということなのね。とてもいい子だわ。

「まあそれはもう良しとしましょう。『激昂のミノタウルス』がフィールドに存在する時、俺の場の全ての獣族、獣戦士族、鳥獣族は、守備モンスターの守備力を攻撃力が越えていた時、その分のダメージを与える貫通効果を得る!」

「バトル! 『激昂のミノタウルス』で交霊師を攻撃!」

 武骨な牛の巨人が女性である交霊師に向かっていく。そして斧を大きく振り上げた瞬間、ミノタウルスは突然動きを止めた。

「な、なぜだ!? どうして攻撃を止めた!?」

 私も同じ疑問を感じていたけれど、フィールドを見て納得した。なぜなら、梓のフィールドには……

 

『氷結界の守護陣』

 攻撃力200

 

「申し訳ありませんが、バトル前に発動していました。『リビングデッドの呼び声』です」

 よりによってそのカードを……

「ぐぅ……」

 今まで以上に悔しそうな顔だわ。まあ、使おうと思ったのを止められて、それと同じカードを使われたのだから、当然でしょうね。

「俺はこれでターンエンド!」

 

 

慕谷

LP:3000

手札:2枚

場 :モンスター

   『森の番人グリーン・バブーン』攻撃力2600

   『激昂のミノタウルス』攻撃力1700

   魔法・罠

    セット(リビングデッドの呼び声)

 

LP:4000

手札:無し

場 :モンスター

   『氷結界の交霊師』攻撃力2200

   『氷結界の守護陣』攻撃力200

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

    セット

    セット

 

 

 そして梓のターン。

 氷結界。どうやらほとんどのカードが相手の行動を制限させる効果を持っているみたいね。あの二人はタイプこそ違うけど、どちらも攻撃型の速攻デッキ。そんなデッキの攻撃をことごとく妨害するなんて、相当な防御力だわ。

「私のターン、ドロー!」

 

手札:0→1

 

「私は『強欲な壺』を発動! カードを二枚ドロー!」

 

手札:0→2

 

「まずは魔法カード、『精神操作』を発動します! 対象は、取巻さんのフィールドの『守護者スフィンクス』!」

 梓の叫んだ瞬間、取巻君のフィールドにセットされたカードが移動した。

「『精神操作』で奪ったカードは攻撃できず、生贄にもできない。しかし、表示形式の変更と、効果の使用は可能!」

「そんな!」

「あなたがスフィンクスの効果発動を狙っていたのは分かっていました。おそらくそのリバースカードは、スフィンクスを守るための、戦闘を回避するカード、そうですね」

 取巻君の顔が歪む。どうやら図星のようね。梓も中々性格が悪い所があるわ。

「私は『守護者スフィンクス』を反転召喚! そしてこのカードが反転召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスターは全て手札に戻る!」

 表になり、実体化したスフィンクスの目が光った。その光が取巻君と慕谷君のフィールドを包み、彼らのモンスターが全員姿を消した。

「くそ!」

「こんなことが!」

 そりゃ信じられないでしょうね。私だって、同じ立場なら同じ反応をしてるわ。

「さて、どの道スフィンクスでは攻撃できませんし、このまま戻すのも危険でしょう。ですので、スフィンクスを自身の効果で裏守備表示に変更。これで『精神操作』との関係は切れ、あなたのフィールドに戻ることも無くなりました」

「なぁ!」

 アフターフォローも忘れてない。何度も使えるスフィンクスの効果を逆手に取られたわね。

「く……永続罠『光の護封壁』を発動!」

 取巻君が顔を引きつらせたまま、カードを発動させた。

「1000ポイント単位のライフを支払うことで、その数値以下の攻撃力を持つ相手モンスターの攻撃を封じる! 俺は3000ポイントのライフを支払う!」

 

取巻

LP:4000→1000

 

「そして、バトルロイヤルルールであるこの場合、二人は俺に対する攻撃のみ封じられる!」

「ちょ、ずりぃ!」

 

「えっと……つまり、どういうことっスか?」

「要するに、梓の場には攻撃力3000以上のモンスターがいないから、『光の護封壁』で守られてる取巻君には攻撃できないけど、慕谷君には攻撃できるってこと」

 

「いずれにせよ、取巻さんに攻撃できないことは分かっていました。なので……慕谷さん!」

「は!」

「『氷結界の交霊師』を攻撃表示に変更」

 

『氷結界の交霊師』

 攻撃力2200

 

「慕谷さんに、直接攻撃!」

 向かっていく交霊師。けど梓、彼のリバースカードを忘れていないかしら?

「罠発動! 『リビングデッドの呼び声』! 対象は『怒れる類人猿』だ!」

 彼の場に召喚される『怒れる類人猿』。わざとダメージを受けて次に繋ぐこともできたでしょうに、どうやら取巻君とは逆に、ダメージを最小限にとどめることを選んだようね。

 

「それを待っていました!」

 

「え?」

 え?

「手札から速攻魔法、『エネミーコントローラー』! 選択は二つ目の効果! 『氷結界の守護陣』を生贄に捧げ、『怒れる類人猿』のコントロールを得ます!」

「そんな!」

 凄い! まさか最後の手札があのカードだったなんて! 『精神操作』を発動した時点からここまで計算に入れていたの!?

 

「改めまして、交霊師と類人猿で、慕谷さんにダイレクトアタック!」

 

「ぐあああああああああ!!」

 

慕谷

LP:3000→0

 

 慕谷君のライフがゼロになったのを見て、梓は取巻君の方に向き直る

「ひっ!」

「バトルフェイズを終了し、罠カード発動! 『ナイトメア・デーモンズ』!」

 な! また知らないカード!

「このカードは私の場のモンスター一体を生贄に捧げ、相手の場に攻守2000の『ナイトメア・デーモン・トークン』を三体特殊召喚するカード。生贄は『氷結界の交霊師』!」

 梓の場の交霊師が光になった。それが三つに別れ、取巻君のフィールドへ。そして三体の、子供かしら? そんな感じの悪魔に姿を変えた。

 

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 攻撃力2000

 

 て、ちょっと待って、攻撃力2000!? それって相手が有利なんじゃ!! しかもどうしてわざわざ攻撃力が上の交霊師を!?

「そのトークンが一体破壊される度、あなたは800ポイントのダメージを受けます」

「800ポイント……まさか、その最後のリバースカード……」

 そのためにトークンを!?

「良い読みです。罠発動! 『激流葬』! モンスターの召喚、反転召喚、特殊召喚時、フィールド上の全てのモンスターを破壊します!」

 一気に流れる水と、それに飲み込まれていくモンスター達。そして『ナイトメア・デーモン・トークン』が破壊された時、彼らから白い塊が浮き出てきて、取巻君に襲い掛かった。

(お、俺に残されたカードは前のターンに伏せた、除外された岩石族を特殊召喚する永続罠『化石岩の解放』。ダメージを防ぐ手立ては、無い……)

「一体につき800ポイント、合計2400ポイントのダメージです!」

 

「うわあああああああああああ!!」

 

取巻

LP:1000→0

 

 

 二人が座り込み、最後に立っていたのは梓。

 見事だわ。あれだけの攻撃にノーダメージだなんて。

 

 それにしても、彼の決闘を見て感じたのは、何と言うか、変わった戦い方だという印象。入学試験の時とはまるで違う。デッキや決闘者には様々なタイプがいるのは当然だけど、彼のような戦い方は初めて見たわ。

 彼の相手をした取巻君や慕谷君は、普通に攻撃タイプ。おそらくほとんどの決闘者はこの部類に入るわね。私もそうだし。

 けど梓の場合は言わば、相手の力や戦術を利用して戦うタイプ。もちろん攻撃はするけど、するのは必要最低限、足りない分は相手を利用するといった感じね。実際梓は『氷結界の交霊師』くらいしか上級モンスターは使っていない。その交霊師さえ、レベルの割に高い攻撃力は持っていない。効果は中々凶悪なものだけど。

 それだけじゃない。彼はかなりカードに関しても知識が広いみたい。グリーン・バブーンの出現を読んでいた時と言い、『精神操作』でスフィンクスを奪った時と言い、カード効果を知っていなければできることじゃない。梓は分からなければ聞けとは言っていたけれど、少なくとも梓は二人には聞いていなかったし。

 ただ、正直なところ、運が良かったから、という事実も否定できないのよね。

 最後のターン、『強欲な壺』の効果で引けたのが『精神操作』と『エネミーコントローラー』だったこと、最後のコンボが決まったのだって、取巻君が『光の護封壁』を使ってライフが減っていたからだし。

 そう考えると、運もかなりの物だわ。

 

 

「お二人とも、素晴らしい決闘でした」

 気が付くと、梓は項垂れている二人に近づき、話し掛けていた。

「今日のこの決闘で、私はまた一つ強くなることができました。どうかこれからも、同じ寮の仲間として、互いに競い合いながら成長していきましょう」

『梓さん……』

「良き決闘を、感謝致します」

 

 うわぁ……

 私から見ても眩しい笑顔ね。あんな笑顔を見せられたら、大抵は男も女もイチコロだわ。あの二人も。どうやら隣の翔君もそのようだし。実際、今日の歓迎会、女子寮でもほとんどの子が梓の話しをしていたもの。恋人はいるのかとか、好きな女性のタイプはどんなだとか。まったく、何のためにアカデミアに来たんだか。

 ……え? 私? 私は特に気にならないわ。梓は面白い人だとは思うけど、恋愛対象として見られるかと言われると、それは無い。むしろ、綺麗なモデルを見てる気分になる。別に恋愛に興味が無い訳じゃないけど、もしするなら面白くて、且つもっと身近な存在でいられるような人が良いわ。

 

 たとえば……あいつみたいな……

 

「罠発動! 『異次元トンネル-ミラーゲート-』!」

 

 !!

 

 

 

視点:梓

 お二人との決闘も終わり、三人並んで十代さんと準さんの決闘を見ている時でした。

「警備員が来るわ!」

 明日香さんが突然叫びました。

「時間外の決闘は校則違反よ。アンティルールも禁止されてるし、このままじゃ退学もあるかもしれないわね」

「え? マジ!?」

「え? 本当ですか!?」

 思わず十代さんと同時に叫んでしまいました。

「はあ……あなた達、生徒手帳は読まないの?」

 言いながら生徒手帳を見せる明日香さん。だから機械は嫌なのですよ。

 とまあ、言い訳をしていても始まりませんね。どうにか使いこなさなければ。

「お前達行くぞ。こいつの実力は分かった。どうやら入学試験はマグレだったようだ」

「っておい! まだ決闘は終わってねえだろう!」

 十代さんがブーブー言っていますが、我がままはダメですよ。そうなだめようとしたのですが、

 

「行きましょう梓さん!」

「急がないと見つかります!」

 

 え、いや、そんな、手を引かないで下さい! まだ十代さんが、あぁ……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 結局、二人に引っ張られ、私は準さん達と四人で夜道を歩いております。

「梓さん、また決闘しましょうね!」

「え、ええ、もちろん……」

「絶対ですよ!」

 お二人の言葉は嬉しいのですが、それよりも十代さん達が心配です。無事に逃げられたのでしょうか。

 

 無事に三人が逃げたことを祈りながら、私はブルー寮へと戻ったのでした。

 

 

 

 




お疲れ様です。
上手く書けてたかな? ミスや矛盾があったらどんどん言ってくらさい。修正不可能なもの以外はどうにか直しますゆえ。
次は三話で会いましょう。ちょっと待ってね。

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