つ~わけで第二部の二話目ですら~い。
楽しんで頂けるかな?
とにかく、行ってらっしゃい。
視点:梓
まずは状況を整理しましょう。
女性の悲鳴が聞こえたので、そちらへ行ってみました。すると実際に女性が一人、何かに追いかけられていた。それが何やら邪悪なものに感じられたので、とりあえず殴っておくことに決め、彼女の前に立ち、刀で殴りました。そこで、彼女に話し掛けました。
その直後に彼女に質問され、見てみると、
「あなたの名前は?」
「私は、水瀬梓。あなたの名前は?」
「私は、水瀬梓」
……
…………
………………
『初めまして、水瀬梓と申します。水瀬梓さん』
お辞儀しながら、声が重なりました。顔や声だけでなく、思考も、どうやら着物の色以外は基本的には同じようだ。
「あのぉ……」
自己紹介した直後、女性が話し掛けてきました。
「今はとにかく逃げた方が……」
顔が引きつっています。そしてその目は、私達ではなく、向こう側を見ている。
向こう側を見ると、先程殴り飛ばした、男(?)が立ち上がりました。
「……」
「……何ですかあれは?」
「さあ。少なくとも人には見えませんね」
体つきは人に近い。しかし耳が異様に尖り、腕は異様に長い。目つきは悪い上に真っ赤に充血しており、肌は白過ぎる。
何より、ひざ、ひじ、腰から、赤い翼のようなものが生えている。
「お嬢さん、あれは一体……」
「いや何って……いやだから! まずは逃げないと!! このままじゃ仲間を呼ばれるから!!」
そう叫んだ直後、男の周囲に赤色の、紋様が現れました。そしてそこから大量の、彼に似ているが、彼に比べればかなり体が小さな生き物や、見た目の可愛らしい、獣ですか?
「うわぁ……この数は逃げられないよ……」
女性は半ば諦めたようにそう言いました。
しかし、私にとっては……
「ちょうど良い」
呟きながら、前に出ました。
「ちょうど頭が混乱していたところです。そちらがその気ならば、少し運動をさせて頂きたい」
そう話しながら、そちらへ歩きます。
「待って下さい!」
彼は私の前に立ち、話し掛けてきました。
「落ち着いて下さい。彼らを倒すことは簡単ですが、無暗に傷つけることはよくありません」
うむ。考えること真逆ですか。
「しかし、彼らはそうは考えていませんよ」
そう言葉を掛けると、後ろを見ました。
先程の男が、こちらを指差す。と同時に、彼の周囲にいる小物達はこちらへ。
「下がっていなさい」
彼にそう話し掛けながら、後ろから聞こえる女性の制止の声も無視しました。
武器を持つ、悪魔のような外見の小人達、更には異形の獣達、それらが一斉に襲い掛かってくる。しかし、どれも単純な攻撃ばかりで、避けるのは難しくない。
そんな攻撃を避けながら、左手に持つ刀で、または開いた右手で打撃を加える。もしくは前後左右から一度に向かってくる攻撃を避ければ、勝手に同志討ちに終わる。思った通り、刀を抜く必要も無い。
ですが、何匹かは私を無視し、後ろにいる女性へと向かっていきました。
しかし、わざわざそちらへ向かう必要も無いことが、私には分かります。
後ろのもう一人の彼を見ました。
向かってくる者達を避けつつ背中に手をやり、そのまま真後ろへ全力で押し出す。その瞬間、押された者達は進行方向にある地面や木々にぶつかり、動かなくなりました。
そして、直接彼を狙った者もいましたが、それらも避け、背中を押しつつ、自らの体を回転させる。一回転すると同時に逆方向へと押しだし、それをそちらにいる者達へぶつけることで、その衝撃の余波で全員倒してしまった。まるでビリヤードですね。
最小限の動きだけで、防御と攻撃を同時に行う、とても鮮やかで、美しい戦いだ。
「……」
そして、小物があらかた片付き、私達に襲い掛かる者はいなくなりました。
「すっご……」
女性が呟いたのを聞こえた時、また男の方を見ました。
「今度は何が来る?」
「……」
なぜか、今までとは全く違う物を感じる。無言ですが、きっと彼も同じでしょう。
「……」
先程と同じように、男は足下に紋様を生みだしました。そしてそこから、直前の小物とは明らかに違う者達が姿を現しました。男より遥かに体格が良い巨体の男達、体格は男と同じくらいですが、鎖着きの鉄球という武器を携えた者達、本に眼鏡と知的な外見の者達、女性達と、それらが少なくとも二十人近く、現れている。
「ようやく本番、ということですか」
そう呟いた直後、後ろにいた彼は、ようやく私の隣へ。
「許してとは言わない。それでも、これしか無いのなら……」
つばに親指を掛け、彼も拳を鳴らす。どうやら刀は無いらしく、素手で戦うらしい。そして、左右背中合わせに構えた時、召喚された者達は向かってきました。
私は左へ、そして彼は右へ飛び、勢力を二手に分けます。
先程と同じように攻撃を避けつつ、先程以上力を込めて殴ります。武器を向けられれば避けるか刀で受け止めつつ、そのすぐ後に敵を斬りつける。後ろから攻撃が来る時もありましたが、振り返らずとも斬り上げるか突き刺せば、簡単に倒すことができました。
そして、彼を見ました。私と同じように、倍以上ある体格の男達が彼に一斉に向かっていきますが、攻撃は封じられ、武器は無効化されるか破壊される。そして、ほとんどの者達が一撃で気絶するか、最悪絶命し、二撃目では確実に絶命させられている。
直前とは打って変わった、荒々しくもなお美しい、攻撃的な戦いを見せている。
そんな彼に向って、私は……
「え……ちょっと!」
刀を投げると、女性の声が聞こえました。しかし、彼はそれを受け取り、周囲を囲んでいた者達を一掃した。私には分かりました。いや、知っていたと言った方が良いかもしれない。彼もまた、私と同じくらいに刀を扱えるということを。
今目の前にいる者を倒した後で、鞘を顔の横に置きました。その瞬間、そこに刀が飛んできて、納まりました。
あらかた片付いたかと思い、召喚した男の方を見ると、
「っ!」
眼鏡を掛け、本を携える者が三人、こちらを見ながら何かをしています。同時に、その本の上に光が集まっている。
「やばっ!!」
女性が声を出したその瞬間、終わってしまいました。
彼らを視認した瞬間彼らの前まで走り、居合い斬りで三人の本を斬り裂きます。同時に彼は、私の刀が当たらぬようしゃがんだ体制から、彼らの三人の急所へ同時に掌底突きを繰り出していました。
「うわっ!!」
そして同時に、男に向かって踏み込む。しかし、男は不敵な笑みを見せ、上に跳び上がりました。私も同時に跳びましたが、刀が届く瞬間、男は紋様を通り、姿を消してしまいまった。
地面に降り立つと、いつの間にか彼女の前に立っていた彼と目が合います。
『……』
お互いに見つめ合いながら、無言で近づく。戦いの中で、確かに感じた。戦い方も、動作も所作も全て、私が刀を持っていなければしていた動き。私の考えた動きの通りに、彼も動いていた。どういう理屈かは分からない。けれどどうやら、この人は、梓さんは私と同じ、いやそれ以上の、ほぼ同一人物と見て、間違いないのかもしれない。
「すっごーい!!」
梓さんを見ていると、急にそんな大きな声が。そう言えば、この人がいたのを忘れていました。
「二人とも、めちゃくちゃ強いじゃん!!」
かなり大げさに騒いでいます。女性には違いないのですが、男子のような人だ。
「何であんなに強いの!? まさかザコとは言え『レイヴン』まで一緒だった『魔轟神』をあんな簡単に撃退しちゃうなんてさ!!」
「魔轟神……」
「それが、先程の者達の名前……」
「え、うそ、知らないの?」
驚いたような呆れたような、そんな顔を見せています。知らないも何も、私は先程ここへ来たばかりなのです。おそらくは、梓さんも。
「うーん……まあいいや。何かお礼させてよ」
「いえ、遠慮しておきます」
「私も。お礼目的で戦ったわけでは……」
「遠慮しないでさ!!」
断ろうとしましたが、豪快に笑いながら私達と肩を組んできました。何でしょう、背中に何やら、柔らかい物が当たっている感触が……
「君ら行くとこ無いって顔してるしさ、このまま僕の里まで来なよ! ご飯くらいなら食べさせてあげるからさ!!」
『……』
確かに、行く宛ては愚か、目的も無い。
「……分かりました」
「……お願いします」
「決まり!!」
隣の梓さんも、諦めたような声を出しました。まあ、女性は喜んで下さっているようですし……そう言えば、
「あなたの名前は?」
梓さんが、私が尋ねる前に尋ねました。
「ああ、僕? えっとね……まずは君達から名乗ってよ」
「ああ、そうですね」
ずっと組んでいた肩を離してもらい、梓さんと並んで、女性と向かい合う形を作ります。
「私の名は水瀬梓です」
「初めまして。水瀬梓と申します」
梓さんは挨拶までも。私の後とは言え余裕がありますね。
「青梓に紫梓ね」
「青梓……?」
「紫梓……?」
「そ。だって着物の色以外全部同じだからさ、そう呼ばなきゃ混乱するじゃん」
それは分かりますが、何も色で呼ばずとも……
「まあ、仕方がありませんね」
梓さんは了承したようだ。まあ、私も別に問題はありませんが。
「にしてもこんな偶然もあるんだねぇ」
「偶然?」
梓さんは疑問の声を出しましたが、
「まさか……」
なぜか、私には覚えが……
「僕の名前もさ、アズサっていうんだよね~」
「やはり……」
「なるほど」
顔を横に向ける私と、納得する梓さん。どうやらお互いに経験まで同じ、と言うわけではないようですね。
「まあ、氷結界の里じゃ舞姫で通ってるけど」
『氷結界の里?』
「そ。僕の故郷。早く行こう!」
そう言いながら私達の手を引き、走り出しました。
……
…………
………………
そんなわけで連れてこられたのですが、驚きました。
「ここが、氷結界の里だよ!」
これはまた何と言う……
「美しい場所ですね……」
梓さんが言うのが聞こえた。そう。美しい。里全体が氷に囲まれている。そこにある家や建物は真っ白な、大理石のようなものでできているらしく、氷の輝きはまるで宝石、建造物の白は雪を思わせ、理屈抜きの感動を与えてくれる。
そして、そんな里で、子供達が元気に走り回っている。
「たっだいまー!!」
そんな子供達に向かって舞姫、もといアズサさんは叫びました。
「呼び捨てで良いよ、君達と一緒でややこしいし」
「心を読まないで下さい」
「心を読まないで頂きたい」
私と一緒に梓さんまで。同じことを考えていたようです。
「あ、舞姫だー!」
『舞姫ー!!』
考えている最中に、子供達はアズサに駆け寄りました。
子供達全員が、この里と同じように純白の白髪をしています。その髪も美しいですが、全員が笑い、アズサも笑っている。お互いに、お互いのことを慕っている。そんな思いが伝わってくる今の光景は、里以上に美しい。
「舞姫、遊ぼう!」
「何して遊ぶ?」
微笑ましい光景だ。梓さんと共に見ていましたが、
「そうね、僕はいつも遊んでるし、今日はこの人達と遊んであげてよ」
「え?」
間抜けな声が出てしまいました。
「いいよ!」
「遊ぼう!」
子供達は笑って了承しました。私達が同じ顔なのは気にならないのでしょうか?
「あぁ……」
「ええ。ぜひ」
と、梓さんが笑顔で言いました。
「梓さんも、よろしいですか?」
そう笑顔で聞いてきました。本当に余裕がありますねこの人。
「早く早く」
「あ……」
「そう慌てないで下さい」
そう、梓さんが声を出した時、
カタ
「あれ?」
梓さんの着物から、紫色の何かが落ちました。
「あ、それ……」
アズサがそれを見ながら声を出しました。
「もしかして、君決闘するの?」
「え、ええ」
「じゃあ、君も!?」
「あぁ、はい」
「じゃあ丁度良いや! 僕と決闘しようよ!」
かなり興奮していますね。私と同じ、この人も、決闘が大好きなのですね。
「ほら、青梓もデッキ出して!」
「はい」
返事をしながら袖に手を入れ、デッキを取り出しました。が、
「え?」
「これは?」
私も、梓さんも疑問の声を出しました。
「え、何それ?」
アズサもまた。当然ですね。
見た目からして、氷には違いない。なのに、不思議なことに全く冷たく感じない。そんな氷によって、私の青色のケースに入ったデッキは、完全に凍り付いている。
「何これ、どうなってるの?」
それを聞きたいのはむしろこちらですが。
「梓なら砕けるんじゃない?」
言われるまでも無く先程から力を込めています。
しかし、氷は砕けるどころか、ヒビが入る様子すら無い。これまで氷はもちろん、リンゴや木材、自然石などを握り砕いたことはあります。
今更氷など……そう考えていましたが、ビクともしない。
「梓さん」
そうやって私が四苦八苦していると、梓さんが話し掛けてきました。
「刀をお借りできませんか?」
……ふむ。
私も同じことを考えていた所ですが、ここは彼にお願いしましょう。
私も無言で刀を手渡します。
「では、デッキを」
言われた通り、デッキを指三本で持ち、かざします。
「皆さん離れて」
「ま、まさか……」
アズサは何やら顔を引きつらせ、しかし同時に、何かを期待しているかのような表情を見せながら、子供達を私達から遠ざけます。
「……」
「……」
私は無言でデッキをかざし、梓さんは無言で構える。お互いに目を合わせ、心を通わせ思いを一つにする。
そして……
カッ
カッ
カッ
斬撃が三度聞こえ、その衝撃で手からデッキが飛びました。
「……どうやら、ただの氷ではないようだ」
私がそう話し掛けると、梓さんは刀を見ました。驚きはしない。彼も分かっていたようです。
「え、うっそ……」
アズサは驚いていますね。まあ、内心では私も驚いていますが。
先程からたかが氷と甘く見過ぎていました。その氷を斬り付けた刀は、完全に刃こぼれしてしまっている。
「これは……もう使い物になりませんね」
「……申し訳ありません。あなたの刀を」
「気にしないで。私も同じことを考えていました。誰がやっても同じ結果でしょう」
気になるのはこの氷です。どう見ても氷には違いない。なのに、全く冷たくない感触と言い、何より握力でも、刀にさえ耐える硬さと言い、そして斬られた瞬間、この世界との関わりを一切拒んでいる、そんなふうに感じました。
「……仕方がありません。私は、二人の決闘を見ていましょう」
デッキをしまいながら、二人にそう言いました。
「よろしいのですか?」
「はい。いつかはこの氷も無くなる時が来るでしょう」
「……そうですか。分かりました」
梓さんは表情を沈めながら、アズサの方を向きました。彼はとても優しい人なのですね。
「アズサ、私と決闘をして頂けますか?」
「……うん、やろう!」
アズサも、大きな声で返事を。それによって、子供達も一気に笑顔になりました。
お互いに距離を取り、決闘ディスクを展開させます。二人とも変わった形のディスクですね。自動でカードシャッフルまでできるのですか。
「舞姫頑張れー!!」
「紫も頑張れー!!」
子供達も元気に応援している。そして、私達は完全に色で呼ばれています。
「行っくよー! 紫梓!」
「ええ」
『決闘!!』
お疲れ~。
チャレンジとは言ったが、何気に思った以上に難しいですね。まだ二話目ですが。
まあそれでも、何より皆さんが楽しんで頂くことを目指します。
そういうわけで、ちょっと待ってて。