遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

36 / 175
ど~も~。
六話目張り切っていこ~。
行ってらっしゃい。



第六話 謝罪とデッキと新生活

視点:梓

 お風呂から上がり、私達は現在、私は青い浴衣、梓さんは紫の浴衣を着て(なぜこうも都合の良い色が揃っているのでしょう?)、三人の前に正座しております。

「ここはひとまず……」

「ええ。ひとまず……」

 隣に座る梓さんと言葉を交わした後で、正面に向き直りました。

 

『申しわけありませんでした!』

 

 二人同時に、手と額を畳に着ける。

 私達のせいで、二人の女性にあらぬ恐怖を植え付けた挙句、その場で気絶させてしまうという大失態を犯してしまった。絶対に許されることではない。

「まあまあ、落ち着いて……」

「そうですよ。あまり気にしてませんから……」

「やれやれ」

 アズサとカナエさんは笑って言っている。ハジメさんは、呆れています。

「にしても驚いた。そんな顔と格好してたら、誰でも女の子だって思うよ」

「すみません。昔からよく間違われていたのに」

「あまりにもアズサが自然に接してくるので、気付いているものかと」

「全然気付かなかったよ」

「私も、気付きませんでした」

「同じ男としては情けない限りだが、俺も気付かなかった」

 三人共が苦笑しながら話した。

 その話しに、また申しわけない気持ちが湧きあがる。

「まあまあ、いつまでもそんな深刻な顔しないでさ」

 アズサが言いながら、私達の前まで来た。

「二人ともお腹空いてるでしょう? ご飯にしよう」

『……』

「許して下さるのですか?」

「私達は、あなた方をあんな目に遭わせたのに」

「わざとじゃないでしょう。許すも許さないもないって。ちょっと深刻に考え過ぎ。ほら立って、カナエ、用意してあげて」

「ああ、はい」

 そして、また私達の手を引き、立ち上がった。

 やはり、とても真っ直ぐな人なのですね。

 

「美男子か……(短い恋だった……)」

「ハジメ……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 夕食も頂き、二人で同じ部屋をあてがわれました。とても広いお部屋です。そんなお部屋の真ん中に布団を敷き、その前にそれぞれの着物を置き、互いに布団の上に正座しております。

「何日でも泊まっていけばいい……」

 夕食の時、アズサに言われた言葉でした。

 とても明るく豪快で、何より自分と、相手のことが大好き。

「ありがたい言葉ですが……」

 梓さんも、隣で同じことを思っているらしい。

 夕食の時、私達のことを聞かれたので、共に正直に応えることにした。

 

「それが、自分がどこの誰なのか、名前以外の記憶が無いのです」

「バカげた話しだと思うかもしれませんが、私も同じです」

 

 その言葉に、三人とも呆然としていた。

 それはそうだろう。顔も同じ、名前も同じ、そして、記憶喪失まで同じ。普通なら冗談で笑えることが、目の前で起きている。そこには、驚き以上の感情は無いでしょう。

 そして、その事実と同時に、行くところがない。それを知ると、ここに何日でもいればいい。そう言ってくれた。

「ご迷惑、ですよね」

「ええ。紛れもなく」

 何もせずただただご厚意に甘える。そんな厚かましいマネはできない。間違いなくご迷惑が掛かってしまう。

 二人とも、それは分かっていました。

 

「迷惑じゃなーい!」

 

『!!』

 とつぜん|襖(ふすま)が開き、浴衣姿のアズサが大声で言いながら入ってきました。両手に大き目の段ボールほどある大きな箱を担ぎ、足で襖を開けている。

「僕がいてほしいからそうしてるの。だから二人はそうしてればいいの」

「いや、しかし……」

「それではあまりにも……」

 しかし、私達がそれ以上言う前に、アズサは私達の前にドサッとその箱を置きました。

「これは?」

「何ですか?」

 その質問に、アズサは得意げな顔を見せました。そして、その箱を開くと、

『!!』

「これは、全てカードですか……」

 その大きな箱の中には、大量のカードが納まっていた。それぞれモンスター、魔法・罠に分けてありますが、今にもこぼれ落ちそうな量です。

「二人ともどうせ暇でしょう。欲しいカードはあげるからみんなでデッキ作りしようよ」

「あげるって……」

「大切なカードなのでは……」

「僕にはデッキが一つあれば良いんだって。ハジメとカナエは二人とも決闘はしないし、第一こんなに持ってても、一人じゃ使いきれないからさ」

 まあ、そうでしょうね。

 と、そう言っているアズサの顔は、どこか寂しげです。

「それに、二人にはカードが必要だって思ってたし」

「私達に?」

「そ。まず青梓はデッキがあんなだし」

 まあ、確かに凍っていて使えませんが。

「紫梓は、正直変わった構築で回すの大変そうだし」

 まあ、私もあの構築には疑問を感じましたが。

「それにさ、この里で決闘するのは、僕以外では子供達だけだからさ。嬉しいんだ。僕以外の、おまけに僕より強い決闘者と話したりできるのが」

「そうだったのですか?」

「うん。そりゃ今の生活に不満は無いし、カードがあって幸せだけど、僕としては使いきれないくらい大量のカードよりも、一緒にいつでも決闘できる、対等な実力を持った友達が一人欲しかったんだよね」

『……』

「だからさ、もう少しだけここにいてくれない? そうすればいつかは記憶が戻るかもしれないし、二人とも、何も損なことはないでしょう」

『……』

 なるほど。そういうことでしたか。

「分かりました」

「あなたが望むなら」

「ありがとう!」

 お礼を言いながら、私達二人を抱き締めました。

「ちょっと、女性なのですからそういう行動は控えた方が……」

「細かいことは気にしないでさ!」

 そして、私達から離れました。

「それじゃ、デッキ作ろっか」

「……そうですね」

「では、ご厚意に甘えさせて頂きます」

 そして、私達は箱に手を伸ばしました。

 

「なるほど。この『E・HERO』達は属性を指定する融合モンスターだったのですね」

「そ。だから僕は属性を宣言してたの」

「しかし、こうしてみると見たことの無いカードも多い」

「私は見たことがありますが」

「ふむ、梓さんとはここに来る以前のカード事情が違っていたのかもしれませんね」

「なにカード事情って?」

「私も初めて聞いた言葉ですが?」

「お気になさらず。思いついただけです」

「そうですか」

「それで、青梓はどんなデッキを組みたいの?」

「そうですね……」

「紫梓も、必要なカードはどんどん取ってよ」

「感謝に堪えません」

「あはは」

 

 

「アズサのあんな顔は久しぶりだな」

「それだけ嬉しかったのね」

「やっぱり、アズサには笑顔が似合うな」

「そうよね」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 こうして、私がここで決闘するためのデッキを、アズサの手伝いもあって完成させることができました。

「それにしても、『HERO』系のカードが異様に多いですね」

 梓さんが言いました。

 様々なカードが綺麗に整理されており、その中で『必須カード』と呼ばれるカードが大量にあることは納得できますが、それに加えてHEROや『融合』に関するカードが、最低でも七枚ずつありました。その他は十枚以上あるので、彼女がデッキに入れているカードも考えると、全種類が十枚以上ある、ということですね。

 そんなわけで、私も必然的にHEROデッキになりました。

「お揃いだね」

「そうですね」

「じゃあ、次は紫梓のデッキ見よう」

「既に完成しております」

「はや……」

 アズサは呆れていますが、私のデッキの構築だけで一時間以上掛かっています。一から作るのではなく、あらかじめ完成しているものを編成するだけなのだから時間は掛かりませんよ。

「……もう一度お聞きしますが、本当に頂いても……?」

「良いって!」

 不安げに尋ねる梓さんに、アズサは豪快な笑顔を見せ、大声で返事をします。

「ですが、調子に乗ってチューナーやシンクロモンスターまで……」

「どうせ融合使いの僕にはシンクロなんてあっても仕方ないもん。構わないから持っていきな。あははははは!」

 また豪快な笑い。本当に、カードを与えることには何の抵抗も無い。私達は与えられることに慣れていないため、一方的な施しにはどうしても抵抗を受けてしまう。しかし彼女の場合、何かを誰かに分け与えるということに慣れている、そんな印象を受ける。

「じゃあ、新しくなったデッキで早速決闘しようか!」

「え……!」

「今からですか……?」

「ああ、そうか。もうこんな時間か。僕も明日早いし、今日はここまでにしよう」

 笑顔から、気付いた表情、そして、がっかりした表情を見せ、カードの箱に蓋を閉める。

 明るく表情豊かで、自分の感情を素直に現す。楽しい人ですね。

「じゃあ、僕はもう寝るよ。二人とも、ゆっくりお休みなさい」

 そう言って、部屋を出ていく。カードの箱は置いたままですか。

 

『……』

 

「私達も……」

「ええ……」

 ということで、お布団に入りました。

 カードと、新たに出会った決闘者との触れ合い。お風呂を出てから今日まで、やったことと言えばそれだけですが、それでも、少しだけ不安は取り除かれました。

「……」

 そして目を閉じ、眠りました。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

(……)

 ……?

(ここは……?)

「セニョール梓」

「!」

 名前を呼ばれ、反射的に顔を上げます。

「授業中に居眠りナンーテ、あなたらしくもないノーネ」

「……申しわけありません」

 謝罪すると同時に、周囲からいくつもの微笑が聞こえました。

「お前でも居眠りすることがあるんだな」

 隣から声が。

「疲れてるんスか?」

「昨夜はちゃんと眠れたのか?」

「はい。ご心配なく」

 たかだか居眠りくらいで、大げさですね。

 そう思ったのと同時に、チャイムが鳴り響きます。

 全員がぞろぞろと立ち上がり、各々様々な行動を取っている。

「行こうぜ、梓」

「ええ」

 その提案に、私は頷き立ち上がります。

「あら、私も良いかしら?」

「どれ、俺様も行ってやらんこともないぞ」

「俺も行こう」

 更に別の二人の声も。

「ええ。みんなで行きましょう」

 笑顔で応えます。皆さんと過ごす毎日。これほど尊いものが他にありましょうか。なぜだか、急にそんなふうに感じました。

 

「梓くん」

 

 と、もう一人声が……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「……」

 目を覚ますと、白い天井と、薄暗い空間。意識がはっきりするのに数秒掛かったのち、今見た光景が何なのかを自覚させる。

(夢……なぜ、あんな夢を……)

 体を起こします。すると、隣からも同じ、布団から体を上げる音が。

「……」

『……』

 むしろ、この光景こそが夢なのではないか、そう疑ってしまう。

 服装以外の全てが同じ人が、寝食を共にし、同じ部屋で眠っている。現実味の無い、親近の思いすら芽生えない土地の、大きなお屋敷で。

「……よく、眠れましたか?」

「……はい。ご心配なく」

 夢と同じやり取り。彼も同じような夢を見たのでしょうか。

 あれが私の過去、ということなのか。だとしたら過去の私は、幸せであったようですね。

 梓さんも、そうであったことを祈りたい。

『……』

 しばらく無言で見つめ合った後で、同時に立ち上がり、着物に手を伸ばしました。

「まだ随分と早朝のようだ」

 外は暗いですが、それでも朝に感じる独特の臭いというものがある。時計はありませんが、早朝の六時前後と言ったところか。

 

 ザク……ザク……

 

『?』

 着替えていると、突然外からそのような音が聞こえてきました。

「この音……」

「これは確か……」

 お互い、よく知っている音のようですね。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「ふぅ、やっと半分か」

「アズサ」

「おはようございます」

「うぉあ!!」

 話し掛けた瞬間、悲鳴を上げました。

 昨日着ていた紫の服ではなく、灰色のもんぺと軍手、頭には頭巾を着けている。

「畑作りですか?」

「あ……うん、そ。さっき収穫が済んだから、また種植えるために耕してるところ」

 驚いていた表情をどうにか元に戻したようで、笑顔を作りました。

「広い畑ですね」

 昨夜は否応なしに屋敷内に連れ込まれて気付きませんでしたが、裏にこんな畑があったとは。小さな小学校の運動場くらいの広さがあります。

「うん。元々は別の目的のための土地だったんだけど、必要無くなったから野菜を育てようってことになったんだ」

「三人でこの畑を?」

「まあね。今は野菜を運びにいってるけど、さっきまでハジメもいたし」

 足下のクワを指しながら言ったその話しに、私は疑問に感じていたことを聞くことにしました。

「これだけ広いお屋敷なのに、三人しかいないのですか?」

「梓さん……!」

 と、質問したところで梓さんが。

 いけない、たった今気付きました。そうだ。こんなこと、質問すべきことではない。

「いいよ別に。まあ色々あってさ、今は僕ら三人だけなんだ」

「そうですか……」

「よろしければ、私達にもお手伝いさせて頂けませんか?」

 梓さんが暗い声を出した直後、なるべく明るい声色でそう言いました。

「二人が?」

「ええ。初めてではありません」

「……ふむ、昨日のお礼もしたいので、お願いします」

 梓さんも明るい声で尋ねました。

 アズサは少しだけ迷ったようですが、

「じゃあ、はい」

 持っていたクワと、足下にあったクワを渡されました。

 畑仕事は久しぶりだ。明確な記憶はありませんが、このずっしりとしたクワの感触には覚えがあります。

『では……』

 二人で並び、クワを右に、両手持ちの構えを作る。

「え、何それ……」

 

『っ!』

 

 ブァサアアアァァアアアアアッ

 

「……」

『こんな感じでよろしかったでしょうか?』

「よろしいよ!! てかこんなの見たことないよ!! 一振りで畑の真ん中から端まで耕すってどういうこと!?」

『アズサにもできますよ』

「できるかー!!」

 最後にアズサは絶叫しました。

 なぜだかその光景が、とても楽しい物に感じられました。

 

 

「うおっ! 何だよこれ!!」

 私達二人で畑を耕し、全てを終えた所でハジメさんが現れました。

「アズサ、どうなってるんだ!? 何でこんなに早く終わってる!?」

「……二人が手伝ってくれて」

「この二人が?」

 疑っている目で見てきます。私達はただ、畑を耕しただけだというのに。

「……どうする? 予定より遥かに早く終わっちゃったけど」

「まあ、早く終わるに越したことは無い。朝飯の後にと思っていたが、種まきと野菜の仕分けを済ませようぜ」

「仕分け……そう言えば、収穫は済んでいると言っていましたね」

「その野菜はどこに?」

「あそこ」

 アズサが指差した先には、川が流れており、そのそばに少し大きめの小屋が立っています。

「あそこに獲れた野菜を置いて、仕分けした分を里に売りに行くってわけ」

「なるほど。そうやって生計を立てているのですか」

 ようやく納得できました。

 これだけ広いお屋敷です。三人しかいないため食費はともかく、光熱費(?)は結構なお金が掛かるはず。それをどうまかなっているのか、実は疑問に感じておりました。

「そういうこと」

「売れないものはそのまま食材になるからな。金はもちろん、家畜や魚なんかとの物々交換もする」

 なるほど。納得しました。

「二人も手伝ってくれる?」

『はい』

「いや待て! 着物が汚れるだろう!」

 返事をすると、またハジメさんが口を挟みました。

「平気ですよ。着物の汚れくらい」

「というか、耕す作業の後ではそれも今更でしょう」

「よくない! せめて、小屋の中で着替えてからにしろ!」

 かなり必死な形相で迫ってきました。

「えっと……分かりました」

「よろしくお願いします……」

 そこまで大げさに騒ぐほどのことでもないはずですが、最後には私も彼も、根負けという形で了承致しました。

 

 

「おぉー……」

「これは……」

 私も梓さんも、そう声を漏らしてしまいました。

 まさに彩りみどりという言葉が相応しい。大量に、多種の野菜が、小屋の真ん中に多く積み上がっている。

「二人はこっちだ」

 ハジメさんに連れられると、そこは人が五人ほど入れるスペース。

「これに着替えろ」

 それは、二人が来ているもんぺ等の作業服。綺麗に洗われているようですが、それでもかなり使いこまれていることが分かります。

「ありがとうございます」

「ああ。着物はその籠に入れろ。着替えたら出てきてくれ」

 そう言って、野菜のもとへと行ってしまいました。

 

『……』

 

 作業服を見ながら、私も梓さんも、無言でした。

「あの野菜、気が付きましたか?」

「ええ。それに昨日からの疑問でしたが、気温もそうです」

 やはり、同じことを考えていたようだ。

 そうしてお互いに確認し合った事実が、見たことの無い生き物や、知らない里の名前だけならまだ否定できたかもしれない真実を、私達に再認識させました。

 この場所、というより、この世界そのものが、私達の見知っていたものとは、全くの別の世界。

「信じられない事実ですが……」

「ええ。私達はいわゆる……」

 『異世界』と呼ばれる場所にいるらしい。

 

「梓ー?」

 

 と、アズサの声が聞こえ、思い出しました。

「すみません、急ぎます!」

 

「ゆっくりでいいからねー」

 

「はーい!」

 返事をしながら、大急ぎで着替えました。

 

 

『お待たせしました』

「おぉ、可愛いー」

「ほぉ……」

 こういう格好はあまりしたことがないので、新鮮です。

「しかし、こう同じ格好されると改めてどっちがどっちか分からなくなるな」

「え? なんで?」

 ハジメさんの言葉に対し、アズサはそう疑問の声を漏らしました。

「何でって、アズサは分かるのか?」

「うん。こっちが青でそっちが紫でしょう?」

 そう、指を差しながら言われました。

「正解です」

「よく分かりましたね」

 ハジメさんは驚いている。私も正直、驚いていま

「どうして分かるんだ?」

「どうしてって……」

 アズサは呆れた様子でハジメさんを見ながら、また私達を指差しました。

「青は雪の結晶髪に着けてるけど、紫は何も無いじゃん」

「あぁ……」

 私も納得しました。そう言えば、これを着けているのは私だけですね。

 隣の梓さんを見てみると、どうやら気付いていたようですね。まあ当然でしょうが。

「まあいいや。じゃあどっちかはここでハジメと野菜の仕分け、もう片方は僕と種まき」

「では、私が種をまきましょう」

 そう言ったのは、梓さん。

「では私がここで野菜の仕分けですね」

「じゃあそういうことで、始めよっか」

『はい』

 

 

 売り物にするため、形の悪い物や傷物を分けていく。最終的には分けたそれらを川の水で洗い、乾かす、という一連の作業の説明を受け、私は野菜に手を伸ばしました。が……

「大根、白菜、ほうれん草、ねぎ……」

 これらは冬が旬の野菜ですが、

「茄子、トマト、きゅうり、かぼちゃ……スイカ……」

 これらは夏が旬の食材。スイカに至っては、寒い土地ではまず育たない。

 ビニールハウスや暖房器具等が存在してすらいない、だというのに、これらの野菜は遠くから見ても分かるほど、旬で瑞々しく、環境と条件全てが整い、出来上がったものそのもの。何より昨夜食べた夕食の野菜、とても美味しかった。

 私のよく知る野菜とは、形が同じというだけで全く違うとでもいうのか?

 もっとも、それもこの里の不自然な気候を考えれば、納得するしかない。

 梓さんも今頃、畑を耕しながらそれを感じているはずだ。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 全ての野菜の仕分けと水洗いを完了し、干すために置いた時でした。

 

「朝食ができましたー」

 

 小屋の外から、カナエさんの声が聞こえました。

「ああ、ちょうど良かった。たった今仕分けが終わった」

「こっちも種まき今終わったよ」

「今ですか!? 随分早いですね。いつもなら今頃畑を耕し終わるくらいなのに」

「この二人が手伝ってくれたからさ。予定より遥かに早く終わったんだ」

「そうですか。ではすぐに準備しますね」

「じゃ、僕らも着替えて、ご飯食べに行こっか」

「ああ」

「二人ともお腹空いたでしょう。カナエにたくさん作るよう言ってあるから、遠慮せずに食べてね」

『ありがとうございます』

 

 ……

 …………

 ………………

 

 朝食の最中のことでした。

「この後野菜を売りに行くんだけど、二人も来ない?」

『私達も?』

「そ。この際はっきり言うけど、二人とも可愛いから売り子をしてもらえないかなって思って」

 笑いながら、無邪気に言い辛そうなことを言っています。

「売り子ですか……」

「経験がありませんが……」

「二人の顔ならどうにかなるって」

 ……本当に無遠慮に言いますね。

「顔を言うのなら、あなた方三人もそうでは?」

「そうですよ。三人とも、美しい容貌をしております」

 おや? ハジメさんとカナエさんは赤くなりました。

「だってさ~、僕らいい加減里の人達とは顔見知りだも~ん」

「ああ、確かに」

「それでは意味がありませんね」

 と、二人は今度は顔を歪ませました。

「分かりました。やりましょう」

「ええ。こうして寝食の場を頂いているのです」

『何でもお申しつけ下さい』

 いつもと同じように、最後は言葉を揃える。アズサは笑顔で頷きました。

 

 

「あのさ、売りに行く時間まで結構あるし、また決闘しようよ」

 朝食を食べ終えた後で、アズサが言いました。

「良いですよ」

「分かりました」

 突然の決闘、そしてその承諾。これも何やら当たり前の光景になりつつありますね。

「で、どっちがやる?」

『どちらでも』

 また声が揃い、アズサは私達を交互に見始めました。

 そして、しばらくそれを続けた後で、

「そうだ」

 何かを思いついたように手の平を叩きました。

「デッキのお披露目も兼ねてさ、二人が決闘しなよ」

『私達が? よろしいのですか?』

「この際だからはっきりさせようよ。二人のうち、どっちが強いかさ」

 笑顔で言われた後で、また梓さんと目を合わせます。

『……』

 ……正直に言います。

「私も、あなたと決闘がしたい」

「ええ。私もです」

 どうやら、お互いに思いは同じようですね。

 

 

 私達は、二人で縁側の庭先に立ちました。

「始めましょう」

「はい」

 

「頑張れー!」

 

 

 

 




お疲れ~。
次回、新しくなったデッキでついに青と紫の決闘です。
まあ誰が楽しみにしてるのか知らないけど。
そんなわけで、ちょっと待ってて。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。