遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

41 / 175
放課後決闘編開始。
梓とあずさは、無事に互いのプレゼントを渡すことができるのか。
皆さんで見守るとしましょう。
行ってらっしゃい。



特別編 バレンタインデー

視点:外

 

『決闘!!』

 

 

明日香

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「いくわよ。私の先行、ドロー!」

 

明日香

手札:5→6

 

「魔法カード『融合』! 手札の『エトワール・サイバー』と、『ブレード・スケーター』を融合! 『サイバー・ブレイダー』を融合召喚!」

 

『サイバー・ブレイダー』

 攻撃力2100

 

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

 

明日香

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『サイバー・ブレイダー』

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

(この決闘、負けるわけにはいかない。お菓子に興味は無いし、私も貰っておいて何だけど、私も、梓のしたことは許せないわ)

 他の女子達とは違い、お菓子を貰い、恩義は感じている。だが、それ以前の行動が、明日香に一人の女としての怒りを芽生えさせていた。

「私のターン、ドロー!」

 

手札:5→6

 

「速攻魔法『サイクロン』! 貴様の場のセットカードを一枚、破壊する! 対象は貴様から見て左側のカードだ!」

「カウンター罠『マジック・ジャマー』! 手札一枚を捨てて、その発動を無効にするわ!」

 右側のカードを発動させ、残り一枚の手札を捨て、サイクロンを消し去る。

(予想通り、『サイクロン』を発動させたわね。これで、梓に伝えることができれば……)

「二枚目の『サイクロン』発動!」

「え!」

「誰が『サイクロン』は一枚しか無いと言った!!」

 その叫びに、明日香は絶句してしまう。実際に今までも、一度の決闘で最高二枚の『サイクロン』を使用し、いつからか、「梓という決闘者(イコール)『サイクロン』」という図式さえアカデミアではできあがっていた。

 だが、相手は様々な効果を使いこなす梓である。万能には違いないが、だからと言って特別強力なわけでもない『サイクロン』を一枚無効化しただけで、心に変化が起こるなどと考えたことが間違いだった。

 そして、それに気付いた時には、罠カード『ドゥーブルパッセ』は破壊されていた。

「『ドゥーブルパッセ』……モンスターからの攻撃を直接攻撃として受け、同時に対象となったモンスターの攻撃力をダメージとして相手に返すカード。それしか無いな。貴様の使ってきたカードで、カウンター罠まで使用して守るような伏せカードなど、それしか無いよな」

 なお更顔を歪ませる。確かに、今まで梓には自分の決闘は見られてきた。そして、『ドゥーブルパッセ』を使用することも何度もあった。だが更に言えば、明日香の使うカードの中で、梓にとっての『サイクロン』のように、最も頻繁に使用する罠カードが『ドゥーブルパッセ』。明日香と友人関係にある梓が知らないはずが無い。

「そんな絶望的な浅知恵で私を倒そうと言うのなら、更なる絶望をくれてやる! 『おろかな埋葬』を発動! デッキよりモンスターを一体、墓地へ置く! 『死者蘇生』発動! 墓地のモンスターを特殊召喚!!」

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 攻撃力2800

 

「『サイバー・ブレイダー』の効果! 相手の場のモンスターが一体の時、このカードは戦闘では破壊されない……」

「魔法カード『洗脳-ブレイン・コントロール-』!! ライフを800払い、『サイバー・ブレイダー』を渡して貰う!」

「なっ!!」

 

LP:4000→3200

 

「そ、そんな……」

「氷上の踊り子か。だが勘違いするな。踊り子が氷の上で踊っているのではない。そこに氷があるからこそ踊り子は踊ることができるんだ! バトル!!」

 手の無くなった明日香に言葉で更なる追い打ちを立てつつ、バトルフェイズの宣言。

「氷の将よ、氷場を作れ! 踊り子よ、存分に踊れ! 踊り主人の鮮血を散らせ!!」

 攻撃宣言とも呪文とも取れるそんな叫びに、二体のモンスターは忠実に従った。

「きゃあ!!」

 

明日香

LP:4000→1200

 

 グルナードは明日香を攻撃しつつ、地面を凍らせる。そして、その氷の上を、『サイバー・ブレイダー』が滑走する。梓の言った通り、「氷があるから踊ることができる踊り子」の様に他ならなかった。

 そして明日香は、迫ってくる自分のエースを前に、絶望することしかできない。

 

「きゃあああああああああ!!」

 

明日香

LP:1200→0

 

「明日香様!!」

「明日香さん!!」

 明日香が負けたと同時に、周囲にいた女子達が明日香に駆け寄る。それを見て、梓は今度こそ振り返らず、屋上を後にした。

 

「梓に自分のしたことを、決闘の中で教えられればと思ったんだけど、私達じゃ、力不足のようね」

 

『……』

 

 

 ……しゃーねーな。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 校舎を出て、梓は辺りを見渡す。

「あずささんは、今どこに……」

 あずさなら森の中にいるけど。

「ああ、ありがとうございます……て、なぜあなたが教えるのです?」

 まあ気にするな。それよか、俺と決闘して。

「……は? あなたと?」

 そ。無論俺が勝てばその箱ちょうだい。

「……」

 お、キレた。

「ふざけるな!! 彼女の居場所が分かった時点で、私にそれを受ける義務は無い!!」

 拒んでも良いけどそうなるとここで終わりだよ。

「なに! どういう意味だ!」

 作・者・権・限!

「ふざけるな貴様!!」

 ふざけちゃいない。一応本気。

「第一、決闘など貴様の役割では無いはずだ!! なぜ今になって現れた!!」

 確かにね。俺の役割は主に解説と傍観だからな。基本、君らのことは君らに任せる。

 けどね、今回の君のしたことは、俺も許せない。そしてそれを分からせる相手がこっちにいない。となりゃ、俺が出る他あるまいよ。

「私が……私が一体何をしたというのだ!!」

 それが分からないうちは、少なくともあずさに会う資格はねーやな。

「貴様……」

 どうする?

「……良かろう。時間が惜しい。さっさと始めるぞ」

 はいはい。

 さーて、この世界……いや時代か、かなりカードは限られてるし、シンk×××やエk×××は使えねーやなぁ。となるとぉ……これならぎりぎり大丈夫か。

 んじゃ行こか。

 

『決闘!!』

 

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

 んじゃ俺の先行、ドローフェイズ。

 

手札:5→6

 

 さーて……

 ははん、うんうん……

 オッケ。

 スタンバイは何もせずメインフェイズ。まずはね、『手札抹殺』を発動。

「なっ!」

 手札全部捨てて、捨てた枚数分ドローする。あ、一応捨てたカードは確認させてね。

「く……」

 

『サイクロン』

『ウォーター・ハザード』

『氷結界の水影』

『氷結界の交霊師』

『地獄の暴走召喚』

 

 うはー、揃ってるなー。怖い怖い。

「くぅ……貴様も見せてもらうぞ」

 もっちー。

 

『ジェムナイト・ラズリー』

『ジェムナイト・サフィア』

『ジェムナイト・オブシディア』

『ジェムナイト・ガネット』

『ジェムナイト・フュージョン』

 

 お互いに五枚ドローだね。

 ここで、墓地に送られた『ジェムナイト・ラズリー』と『ジェムナイト・オブシディア』の効果を発動するわ。

「なに?」

 まずラズリーが、カード効果で墓地に送られた時、墓地の通常モンスター一体を選択して手札に加えられる。ほんでオブシディアが、手札から墓地に送られた時、墓地のレベル4以下の通常モンスター一体を特殊召喚できる。俺はこの効果で……

「待て貴様!!」

 ん? どうかした?

「その二枚のカード効果、もう一度読みあげてみろ」

 ? えっとね……

 

『ジェムナイト・ラズリー』

 このカードがカードの効果によって墓地へ送られた場合、自分の墓地の通常モンスター1体を選択して手札に加える事ができる。

 

『ジェムナイト・オブシディア』

 このカードが手札から墓地へ送られた場合、自分の墓地に存在するレベル4以下の通常モンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。

 

 読んだよ。

「それはどちらも任意効果だ! どちらも『手札抹殺』の発動下では、タイミングを逃し発動できない!」

 ?

 ……

 ……

 !

「貴様、そんな腕で私に勝つつもりか!?」

 でへへへ。皆さんも、任意効果と強制効果の違いは覚えておこう。この場合、手札を捨ててドローするっていう一連の効果の中じゃ、墓地で発動できるのは強制効果か、「手札から捨てられた時」て明記されてるカードに限定されるからね。

「解説でごまかすな! 私が言わなければ、貴様は続けていただろう!」

 そうだよねー。聞かなきゃ分かんないことってあるよねー。分かんないくせに聞きもしないで一方的に自己完結するのが一番良くない。

「何?」

 まあ、どっちにしても結果は同じなんだけどね。

 魔法カード『闇の量産工場』。

「く……」

 墓地の通常モンスター二体を手札に加える。俺は墓地の、『ジェムナイト・サフィア』と『ジェムナイト・ガネット』を手札に加えるでよ。

「好きにしろ!」

 

手札:4→6

 

 で~もって、墓地の『ジェムナイト・ラズリー』を除外して、『ジェムナイト・フュージョン』を手札に加える。

「なに!?」

 『ジェムナイト・フュージョン』はね、墓地のジェムナイトって名の付いたモンスター一体を除外して、手札に戻せる効果があるのよ。

 つーわけで手札に戻す。

 

手札:6→7

 

 魔法カード『ジェムナイト・フュージョン』発動。手札またはフィールド上のモンスターを融合して、ジェムナイトを融合召喚する。手札の『ジェムナイト・サフィア』と『ジェムナイト・ガネット』を融合。『ジェムナイト・アクアマリナ』を融合召喚。

 

『ジェムナイト・アクアマリナ』

 守備力2600

 

 カードを二枚伏せる。最後に墓地のオブシディアを除外して、『ジェムナイト・フュージョン』を手札に戻す。これでエンド。

 

 

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『ジェムナイト・アクアマリナ』守備力2600

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「あれだけのプレイをしておいて、手札は3枚か……」

 面白いでしょ。ジェムナイト。

「ふん、私のターン!」

 

手札:5→6

 

「私は……」

 あ、ごめん。ドローフェイズに罠発動したいんだけど。

「なに!?」

 『ダスト・シュート』。相手の手札が四枚以上の時、手札を見てモンスター一体をデッキに戻して貰うカード。

「くぅ……」

 ほら、カードの発動が無けりゃ見せな見せな。

「く……」

 

『氷結界の守護陣』

『激流葬』

『ナイトメア・デーモンズ』

『エネミーコントローラー』

『氷結界の舞姫』

『スノーマンイーター』

 

 いーや、またこれ嫌なのが揃ってるねー。

「……」

 てなわけで、『スノーマンイーター』を戻して頂こうかな。

「……」

 

手札:6→5

 

 さーて、手札も分かったし、次は何をするのかしら?

「……『氷結界の守護陣』を守備表示で召喚」

 

『氷結界の守護陣』

 守備力1600

 

「カードを三枚伏せ、ターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

 

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『ジェムナイト・アクアマリナ』守備力2600

   魔法・罠

    セット

 

 

 ばればれの伏せっていうやつほど悲しいものも無いとは思わんか?

「黙れ……」

 おー怖い。ほんじゃあ俺のターン。ドローフェイズ。

 

手札:3→4

 

 スタンバイ、メイン、『大嵐』を発動。フィールド上の魔法・罠を全部破壊する。

(く……チェーン処理の関係上、『ナイトメア・デーモンズ』を発動したところで、特殊召喚後に『激流葬』は発動できない。奴に強力なモンスターを与えるだけだ……)

「速攻魔法『エネミーコントローラー』! モンスター一体を生贄に、相手のモンスター一体のコントロールをエンドフェイズ時まで得る! 守護陣を生贄に、『ジェムナイト・アクアマリナ』のコントロールを……」

 だが断る。『神の宣告』。

「!!」

 ライフを半分払って、魔法・罠の発動またはモンスターの召喚、特殊召喚を無効にして破壊。

 

LP:4000→2000

 

「ぐぅ……」

 ついでに生贄はコストだから守護陣が戻ることはない、と。

 魔法カード『ジェムナイト・フュージョン』。ジェムナイトを融合召喚する。

 手札の『ジェムナイト・ガネット』と、場のアクアマリナを融合。『ジェムナイト・ルビーズ』を融合召喚。

 

『ジェムナイト・ルビーズ』

 攻撃力2500

 

 更にアクアマリナの効果。フィールドを離れた時、相手の場のカード一枚を手札に戻せる、けど……

 戻せるカードがないか。

「……」

 はいそういうわけで、バトルフェイズ。『ジェムナイト・ルビーズ』で直接攻撃。

「ぐあぁあ!!」

 

LP:4000→1500

 

 一枚セット。エンド。

 

 

LP:2000

手札:0枚

場 :モンスター

   『ジェムナイト・ルビーズ』攻撃力2500

   魔法・罠

    セット

 

LP:1500

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

 どうよ。自分のしたいことを全部止められる気分は。

「……最悪だ。決まっている。どんなに力を尽くそうとも、それ以上の力を見せつけられ、自分の行動全てを否定される。最悪の気分だ!」

 それと同じ。

「なに!?」

 今日君がしたことは、それと同じだって言ったの。

「……なに?」

 近くで見てたからよく知ってるよ。君がみんなのために、どれだけ頑張ってお菓子を作ったか。心も籠もってたし、だからこそみんなも喜んでた。特に君が今持ってるあずさへのプレゼント、一番好きな人へのプレゼントなわけだし、徹夜して作った分思い入れも半端ないわな。

 そこで聞きたいのがだ。そんな思いをしながら今日って言う日を待ってたのは、はたして君だけだったっけってこと。

「どういう意味だ?」

 君は女子達からバレンタインデーを聞いた時、どんな答えを聞いた?

「……」

 

(「簡単に説明すると、好きな異性にプレゼントを贈る日です」)

 

 んで、女子達の持ってたプレゼントはどんなだった?

「どんな……?」

 君以外に一人でも、そんな大層な箱に入れて、そこまで無駄にクオリティの高い物を持ってた人はいたかね? しかも市販のチョコを溶かして加工したってだけの生半(なまなか)な手作りじゃなくて、素材から加工して一から作った、値段も付けられないような正真正銘の手作りをさ。

「……」

 

 

 

視点:亮

 寮の自室の机に座り、木箱の蓋を開ける。

 何度見ても見事だ。

 手前から、三体の『サイバー・ドラゴン』、『サイバー・ツイン・ドラゴン』、そして『サイバー・エンド・ドラゴン』。

 計五体のモンスター。その五体がそれぞれのポーズを取り、こちらを威圧するような眼差しを向ける。仮想立体映像にも負けない迫力と躍動感。何時間でも眺めていられるほどの、至高の芸術と言って良いだろう。

 だがそれゆえに、それを間近で見ていた女子達は哀れだった。

 目の前でこれほどの物を渡されたのだ。誰でもそうだが、自分が相手にプレゼント渡す前に誰かがその相手に渡しているのを見れば、自分の用意したプレゼントと見比べずにはいられない。そして、ある意味当たり前のことだが、あの場にいた女子達のプレゼントに、これを超えるような物を持っていた女子はいなかった。そんな状態でプレゼントを渡したところで見劣りするのは明らか。

 だから女子達からすれば、黙ってその場を去るしか無かっただろう。中にはかなり苦労してチョコを手作りした者もいたはずだ。だがその苦労とて、これほどの物を素材から手作りした苦労に比べれば、もはや始めから勝負になどならない。

 この和菓子も、梓の気持ちも十二分に嬉しいが、それ以上に、女子達には悪いことをしてしまったな。

 

 

 

視点:外

「バカな……私は……」

 うん。もちろん君の言い分も分かるよ。俺もそうだもん。小説なんて書いてる時点で『贈る側』の人間だよ。

 喜んで欲しかったよね。そのために頑張ったんだよね。手は抜きたくなかったよね。プレゼントするからには、そりゃあ完璧な物贈りたいよね。自分の好きな人達だし、それを作るって行為自体も好きだしね。

 だから女子達にとっては余計に性質(たち)が悪い。梓の性格はみんなよく知ってるし、悪気が無い分文句も言えない。その分頑張って作ったチョコを渡せなくなった怒りは倍増するわな。

 しかも、その原因が渡そうと思ってた相手その人。

 気付いてなかった? 教室にいた女子、ほとんどは君にチョコを渡す気だったんだよ。

「なら……なら私はどうすれば良かった!? 未完成な出来のものを作って渡せば良かったのか!? 普通にいつも出しているようなものを作って渡せば良かったのか!? そもそも作らなければ良かったというのか!?」

 そうは言わんよ。ただ俺としては、女子達が君にチョコを渡した後で、みんなに配っても良かったんじゃないかなーとは思ったけどさ。

「ならばなぜ……」

 言ったでしょう。俺の役割はあくまで解説と傍観。今回が特別なだけで本来そんなこと言える立場じゃないの。第一、渡そうともしてもない内からそんなこと、誰が分かるわけ?

「……」

 だから女子達は君に決闘を挑んだの。女子達からしたら、渡そうと思ってたプレゼント、根こそぎ君に捨てられたのと同じなんだから。その気持ちをちょっとは知ってもらおうって、君がまだ渡してないプレゼントを狙ってね。

「なら、なぜそのことを……」

 聞く以前に怒ったじゃん。

「あ……」

 君は一方的に怒って、どうしてかの理由を聞きもしなかったでしょう。まあ聞いたからって君が納得するとは思えないけど。君は聞きもしないで一方的に怒って明日香ら女子達の気持ちを否定しちゃったの。それで一方的に自己完結しゃったわけ。違う?

「それは……」

「!! 待て……なら、まさか、あずささんも……」

 あ、やっと気付いた?

「そんな……なら、あずささんは……」

 俺に確認した時も聞いてたでしょう。本来は女子の方から男子に対してプレゼントする日だからね。あずさのことだから用意してないわけがない。

 で、それだけのもの渡されて、私からもはいどうぞ、なんてことできるかねはたして。

「あずささん……」

 

 ガク

 

 あら~、ひざと手着いちゃって、やっと理解したみたいこの子。

「私は……」

 そりゃ辛えやなぁ。

 名前も覚えていない女子達や、単なる女友達ならばそれほど気にはならない。だがそれが、自分にとって最も大切な、愛しい人だと言うのならその意味合いは違ってくる。

 愛しい人が傷ついたことを知り、その人の気持ちを最優先に考え、そしてその原因が、自分のせいだと知った時。愛しい人のためにと必死で行った行為が、その人の心に大きな傷を作ってしまった時。

 傷つけたという罪悪感、だがそんな気は無かったという矛盾の思い。その二つに一度に心を締めつけられ、やがてそれは一つとなり、完全な、巨大な罪悪感の塊となり、その心を押し潰す。

「私は……」

 まあ、盛大に落ち込んでる所悪いけれど、一応決闘中だし、続けてもらって良い?

「私は……私の、ターン……」

 

手札:1→2

 

「……『氷結界の舞姫』……」

 

『氷結界の舞姫』

 攻撃力1700

 

 カウンター罠『神の警告』。

「……!」

 ライフを2000払って、モンスターの召喚、特殊召喚または、それに対する効果を無効にして破壊する。舞姫破壊して。

「だが、そんなことをすれば……」

 ん?

 

LP:2000→0

 

 あ……

「……」

 あっちゃー、やっちゃったよ。やっぱ下手糞だわ俺。

「まさか、始めから……」

 この決闘は梓の勝ち。

 んじゃ、もう邪魔はしないから、あずさに会いたきゃさっき言った通り森に行きな。正確な場所までは俺にも分からんし、早くしないと移動するかもだしね。

 ではでは~。

 

「……」

 

 

 

視点:明日香

「すみません、明日香さん。私達のために……」

「気にしないで。梓との決闘は初めてだったし、良いキッカケになったわ。それに、改めて梓の実力と、私の実力との差がどの程度かも分かったから」

「明日香さん……」

 もっとも、それが分かったところで、彼女達が救われることも、梓が分かってくれることもないんだけど……

 

「梓さん!」

 

 女子の一人が叫んで、反射的に後ろを振り返る。そこには梓が、風呂敷に包まれた最後の木箱をそのままに、私達の前まで歩いてきていた。けど、その顔はさっきみたいに凶王化して怒った顔はしていない。とても悲しげで、何かを見つめ直している目だった。

「……」

 梓は無言で、箱を足下に置いた。

「……皆さんの好きにお使い下さい……」

「申し訳……ありませんでした……」

 それだけ言って、踵を返す。いつも通り優雅な足取りだけど、その背中はとても悲しげで、そして、強い罪悪感に苛まれているのが分かった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:あずさ

「どうしてこんな平凡な物、作っちゃったのかな……」

 適当な木にもたれ掛かって、梓くんに渡すつもりで作ったチョコを見ながら、何度目になるか分からないそんな自問を繰り返してる。

 そもそも、まさか梓くんがバレンタインのプレゼントを用意してるなんて、予想さえしてなかった。だから、一方的に贈る楽しみばかり感じて、こんな形で贈れなくなるなんてこと、始めから思ってなかった。

 ただ、梓くんに喜んで欲しくて、けど梓くんは、普段チョコレートなんて食べないから、味とか、種類とか、他にも色々気を遣って、これを食べた梓くんが笑ってくれたらなって。そんな思いを込めて、一生懸命作ったつもりだった。

 もちろん、わたし以外にもそう考えてる人達はいっぱいいるし、だからそんなにたくさんのプレゼントの中でも、少しだけでもみんなより、梓くんが喜んでくれたらなって。

 勝手なのは分かってるし、最低だとも思ってる。でも、それでも、梓くんのこと好きだから。

 

 けど、そんなわたしなんかより強い思いの籠もったプレゼントをしたのが、他でもない、梓くんだなんて、思わなかった。

 私の頑張りを、全部否定された気がした。そもそも、梓くんみたいな人に、わたしなんかがプレゼントしよう、なんて考えたのがそもそもの間違いだったのかもしれない。

 それに、クロノス先生に渡した後、まだ箱は一つ残ってた。それが誰に渡すものなのか、みんなも、私もよく分かってる。

 だから、自分が作ったものを見ながら、なお更思った。

「どうしてこんな平凡な物、作っちゃったのかな……」

 

 でも、わたしがこんなこと考えてるのも、梓くんが悪いんじゃない。だって、梓くんは……

 

 ザ……

 

 足音が聞こえて、そっちを見た。

「梓くん……」

 梓くんがこっちを見てる。けど、その目はとても悲しげだった。

 その目の後に気付いたのが、立ってる状態が、手ぶらだったってこと。

「……あの箱は……捨てました……」

「捨てたって……」

 そっか……知っちゃったんだ……みんなの気持ち……

「あずささん……私は……」

「ごめん!」

 梓くんが何か言う前に、私は頭を下げた。

「梓くんは、ただ一生懸命だったんだよね。みんなに喜んで欲しくて、頑張って作ったんだよね」

 そう。わたしと同じ、梓くんは頑張ったんだ。頑張っただけなんだ。

「それなのに、私は自分のことばっかり考えて、一番梓くんの気持ちを分かってあげなきゃいけなかったのに、何も言わないで、逃げちゃって……」

 梓くんがあのお菓子にどれだけの思いを籠めたのか、見るだけで分かったはずなのに。

 それだけの思いを、誰のために籠めてくれたのか分かってたはずなのに。

 それだけの思いを籠めてくれる気持ちも、その理由も、わたしはよく知ってるはずなのに。

 なのに……

「頭を下げるべきなのは、私です……」

 頭を横に振りながら、梓くんが言う。

「私が、一方的にあなた達の思いを否定した。あなた達からの気持ちを、むげにしてしまった。私は考えていなかった。贈られる喜びを、贈る喜びばかり考えて……」

 そう話しながら、涙を溢れさせた。

「ただ……あなた方に……あなたに、届けたくて……あなたに、喜んで欲しくて……笑って欲しくて……あなたが……好きだから……だから……だから……」

 ただその場に立って、私を見ながら、涙を流して、言葉を繰り返してる。

 見てられなかった。見ていたくなかった。

 だから、抱き締めた。

 

「ごめんね……」

「ごめんなさい……」

 

 お互いに、謝ることしかできない。

 お互いの気持ちはよく分かってるから。

 どっちも自分が悪い。けど自分にとって、相手は悪くないから。

 だからせめて、謝りたい。償うことは今更できないけど、だからせめて、謝りたい。

 

 体を離して、私はずっと手に持ってたチョコを見た。

 そして、梓くんを見ながら、差し出した。

「受け取ってくれる?」

「……」

 無言でそれを受け取ってくれた。それでも、こんな自分に贈ってくれてありがとう。そんな感謝の気持ちが伝わってきた。

「……私にはもう、贈れる物はありませんが……」

 申し訳なさそうにそう言ったけど、私は首を横に振る。

「良いの。梓くんがそれを受け取ってくれた。それだけで、嬉しいから」

 笑顔で応えると、また梓くんは涙を流した。

 変に慰めても、逆効果だって思ったから、もう一度抱き締めた。こうしてあげるのが、梓くんは一番安心してくれる。それを分かってたから。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 たっぷり泣いて落ち着いて、それでも落ち込みながら、右手にしっかりわたしからのチョコを握ってる。そんな梓くんと、手を繋いで森を出た。

 すると、

「よ。梓あずさ」

 そこにいたのは、正直予想外の人達。

「大丈夫っスか、梓さん?」

「目は赤いけど、もう平気か?」

 木箱を片手に持った、十代くん、翔くん、隼人くん。

「ふん。梓が一大事だと聞いて来てみれば、あまり大事(おおごと)でもなさそうだな」

「だが、落ち込んでいたのは事実らしいな。それでも一応は平気そうで安心したよ」

 万丈目くん、三沢くん。

「元気を出して下さい、梓さん」

「責任ばかりを感じることはありません」

 ジュンコちゃん、ももえちゃん。

「やはり、梓の辛い時に最も必要な人間は、あずさだけか」

「まったく。悩みがあるのならば少しは教師も頼りにして欲しいノーネ」

 亮さんに、クロノス先生まで。

 そして、

「梓」

 明日香ちゃんが、例の木箱を梓くんに手渡す。そこに書かれてるのは、『平家あずさ様へ』。

「けど、これは……」

 梓くんは拒否しようとしたみたいだけど、明日香ちゃんは笑って笑顔を見せた。

「みんな、もう怒ってないわ」

「え……?」

「あの後、梓が帰った後で……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

「置いていってしまいましたね」

「あの様子だと、私達の気持ちは分かってくれたみたいだけど」

「けれど、あそこまで落ち込まれるとは」

「でも、これが私達の望んだ答えでもあるわ。今の梓ほどかは分からないけど、みんなも傷ついてはいたんでしょう」

 

『……』

 

 どうするの?

「え? なに?」

「明日香さん?」

「どうかしましたか?」

「え?」

 ああごめんごめん。君にしか聞こえんよう話してるから他は聞こえんよ。

「……」

 応えんでいいから無視しながら聞いて。

「……」

 君らの目的は果たされた訳だけれど、それでそのお菓子、どうしたいの?

「……」

 みんなで食べる? どこかに捨てる? いっそ梓の前で燃やしたりして見せる?

「……!」

 まあ感情的な行動だろうから、正しいとか正しくないとかは言わないよ。けどさ、少なくとも目的を果たした後で、梓のことどうするか、そのこと決めてた?

「……」

 見ての通り、梓は君らにしたことは十分分かった。だから償いのためにお菓子を置いてった。さすがにそれが分からん阿呆らじゃ無かろう。

「……」

 もう分かってるんでしょう。君らは梓に怒ってるけど、別に恨んでる訳じゃない。ただちょっとだけ立腹して、自分らの気持ちを知って欲しくなった。

 けどそれを知ってもらった後でどうするかは考えてなかった?

 あそこまで罪悪感に苛まれると思ってなかった?

 梓って人間がどんな人間か、分かっててやった行動なんだよな?

「……」

 まあ、質問するまでもないか。

 まあこれからどうするかは君に任せる。梓からの思いを受け取った一人の、君にやぁ。

「……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:あずさ

「それで、みんなと話し合って、これは返そうってことになったの」

『……』

 変な声。そんな存在を言われて、おかしな空気が流れる、と思ったけど、

「え? 明日香も聞いたのか?」

 へ? 明日香『も』?

「明日香もって、十代も聞いたの?」

「ああ。俺だけじゃなくて、翔と隼人もさ。なあ」

「うん」

「ああ」

「その変な声がさ、梓がお菓子を作ったこと後悔してめちゃくちゃ落ち込んでるって言ってさ、梓に感謝してるなら慰めてやってくれって言われて、居場所も教えられてさ」

「十代達もか」

「なるほど。どうやらここにいる人間全員が、その変な声とやらを聞いたらしいな」

 万丈目くんと三沢くんが言って、亮さんやクロノス先生も頷いてる。

(変な声って……)

(あの人しかいませんね……)

「梓」

 わたしと梓くんが小声で会話した後で、十代くんが話し掛けてきた。

「何があったかはよく分からねーけど、そう落ち込むなよ。こんなすげーもの作ったんだ。胸を張れよ」

 十代くんの無邪気な言葉。けど、梓くんは首を横に振る。

「全ての女性に対して等しく与えられた今日と言う日を、それを作ったことで独占してしまったのです。何より、女子の皆さんの気持ちを否定してしまった。否定されることの辛さは分かっているはずなのに、私はそれをしてしまったのです」

 

『……』

 

 たった一人優れちゃったばっかりに、故意じゃないにしろ、周りを否定しちゃう。梓くんにとって辛いよね。否定されることの辛さは、誰よりも知ってるもんね。

「けど、貰った僕たちは嬉しかったよ」

 今度は翔くん。

「他の女子達を傷つけちゃったのは確かにそうだけど、傷つけた人達ばかりじゃなくて、僕達のことも見て欲しい。ここまで一生懸命、心を籠めて作ってもらって、僕もみんなも、すごく嬉しかった。本当だよ」

「ああ。俺も帰ってから、ずっとこれを眺めていたからな。お菓子と言う形でも自分のモンスターがここまで描かれるのは、とても嬉しいことだ」

 三沢君が笑顔で、箱を見ながら言った。

「ふむ。私も、生徒から贈り物を貰ったのは初めてではありませンーが、そんな私も年甲斐も無く、このお菓子には心を踊らされましたーノ」

「普段見慣れている仮想立体映像とは全く違うモンスター達の魅力を、堪能させてもらった」

 クロノス先生と亮さんも。

「梓。故意であれ過失であれ、人を傷つけることは確かに許されることではない。お前が俺達のために激怒してくれる姿からも、お前がそれを十二分に分かっていることを俺達は知っている」

「だからこそ自分の行動によって起こったマイナスに対する贖罪の念ばかりでなく、その行動によって生むことができたプラスの面にも目を向けねばならない。普通の人間なら、プラスにばかりに目を向けて自己の正当性を求め、マイナスはほとんど無かったことにしようとする。だがお前は、人一倍マイナスと向き合える人間だ。プラスもマイナスも、同じだけの存在意義を持って向き合わなければならない。でなければ、お前は女子達だけでなく、俺達さえ否定することになるのだからな」

「準さん……」

 

『……』

 

 そんな話にみんなが聞き入って、全員の目が万丈目くんに集まった。

「何だ? 何を見ている?」

「いや、相変わらず万丈目って、長いけど良いこと言うよなって」

「ああ?」

「理屈っぽいけど、言いたいことは伝わるんスよね」

「相手に対して必要なことを教えてくれるんだな」

「将来は小説家になってみてはどうだ。売れるかもしれんぞ」

 十代くん達や三沢くんの言葉に、万丈目くんの顔は軽く赤色に染まった。

「うるさい! 俺は言いたいことを言っているだけだ! お前達と何ら変わらん! 放っておけ!」

 その反応に、笑い声が起こる。梓くんも、悲しそうな顔は変わらないけど、笑った。

「とにかくだ。ありがとうな。梓」

「十代さん……」

『ありがとう』

「皆さん……」

 

「梓」

 全員のお礼の後、また明日香ちゃんの声。そして、差し出される木箱。

 梓くんはためらったけど、またみんなの顔を見た。みんなが梓くんに笑顔を向けた。

 そして、梓くんも笑った。自分のやったことが許されたんだって、分かったんだ。

 梓くんは箱を受けとって、わたしと向き合った。

「私はあなたを傷つけた。本来、これを贈る資格は無いのかもしれない。それでも、受け取って欲しい。誰よりも愛しいという気持ちを籠めて作ったこれを。世界中の誰よりも愛している、私にとって唯一の人である、あなたに」

「梓くん////」

 

『////』

 

 告白の時からそうだったけど、相変わらず自分の気持ちをはっきり言う人だね。本人はそれを恥じる気も無いみたい。

 そして、だからこそ嬉しい。わたしの大好きな人が、そんなわたしのことだけをそれだけ思ってくれてる。それだけで、本当に嬉しい。

「ありがとう」

 箱を受け取った時、それを見てた十人が急にわたしの周りに集まった。

「なあ、早く開けてみてくれよ!」

「え? なに?」

「どんなものを作ったのか見たいっス!」

「俺達は全員、もう見せ合いは終わってるんだな。写真にも撮ったし、あとはこれだけなんだな」

「……もしかして、最初からそれが目当て?」

 その問い掛けに、全員が笑う。慰めるのはもちろんだけど、それ以上にこの中身を見たかったんだね。

「早く見せるノーネ」

「楽しみだな。最後の一つ、どんなものか」

 クロノス先生に亮さんまで。

 けど、これだけ楽しみにしてる人達だから、梓くんのこと、元気づけてあげられたんだよね。

 一度梓くんと目が合う。あ互いに笑った後で、箱に目を戻す。

「じゃあ、開けるね」

 そして、蓋を開けた。

 

『うおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 

 

視点:外

 バレンタイン。

 誰もが思いを寄せる人に贈り物を届ける。そんな、気軽ながらも少なからずの勇気を必要とする行為を、堂々と行うことを許される特別な日。

 そして、その贈り物は人それぞれでも、それに籠められた思いは同じ。

 そして、それに込められた言葉も同じ。

 友達に。親友に。感謝する人に。尊敬する人に。お世話になった人に。愛する人に。

 そんな、全ての大切な人に。

 

 ありがとう。

 

 

 ハッピーバレンタイン。

 

 

 

 




お疲れ~。
渡して喜んでもらうことが前提のプレゼントという行為も、周囲を傷つけることに繋がるということもよくある話。
まあここで描かれた物は少々極端な例ですが、皆さんも少なからず覚えはあるのではないでしょうか。
これからの長い人生、多くの人に喜んで頂ける贈り物のできる人間になりたいものですな。

じゃ、オリカ。


『ドゥーブルパッセ』
 通常罠
 自分フィールド上のモンスター1体が相手モンスターの攻撃対象になった場合に発動する事ができる。
 そのモンスターの攻撃は自分への直接攻撃になる。
 その後、相手プレイヤーは攻撃対象となったモンスターの攻撃力分のダメージを受ける。

バーンとしてはまあ魅力的には感じるけど、結局受けるダメージはこっちのが多くなっちゃうし、守るモンスターによっては損にしかならない。
活用法としては、発動時に速攻魔法とかで攻撃対象のモンスターの攻撃力を上げてダメージ増加とか、かな。後は……思い付かん。


ちなみに5D'sの方も書いてるので、良ければそちらもどうぞ。

んじゃ、長くなったが、本編の方も頑張りますんで、ちょっと待ってて。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。