第九話で~す。
新展開いきま~す。
では、行ってらっしゃい。
視点:梓
……
…………
………………
……くぅ……
「大丈夫ですか?」
意識の覚醒と共に、いつも聞いている声が響きました。
これは、私……ではなく、もう一人の私の声。
「梓さん……」
声を掛けると、彼が笑ってくれたのを感じました。
完全に意識を取り戻すと、私は地面の草地の上で横たわっていました。手足や体には、見ずとも分かる草の感触、ですが頭は随分と柔らかい。不思議に感じて目を開くと、
「これは……」
現在の状態と逆さまに映る私の顔。
これは世に言う、膝枕、という体勢ですね。
「その、どのくらい私は?」
梓さんは笑顔のまま、考えながら答えます。
「気を失ってから今まで、大体五分ほどでしょうか」
「五分……」
そんなに眠っていたのか。あの程度で気絶してしまうとは、私も随分と衰えたものです。
そんな皮肉を感じますが、今はそれ以上に、
(膝枕……心地良いですね……)
されたのは初めてですが、頭が楽で、心地良いです。それに梓さんが相手だと、なぜかいつまでも寝ていたい気分になってしまいますね。
「梓さん、可愛らしいですね」
「ふぁ!?」
急な言葉に、閉じていた目を開いてしまいました。
「先程から気持ち良さそうに、目がとろんとしておりますよ」
「////」
恥ずかしくなり、顔が熱くなってしまいました。
「私は構いません。どうぞお気の済むまで。それにあなたが望むなら、いつでもこうしてさしあげます」
そう言って下さるのは嬉しいのですが、さすがにこれ以上は恥ずかしい。
なのですぐに体を起こし、立ち上がりました。
ですが、確かに気持ち良かった……////
「またの機会があれば、今度は私があなたに////」
「ええ。楽しみにしております」
彼も笑顔で答えて下さりながら、立ち上がりました。
彼は私をひざに乗せながら、どんなことを思っていたのか。それも、いつか私が彼にしてあげられる日が来れば、きっと分かりますね。
「青紫ー!!」
と、広場の方からアズサの声が聞こえてきます。
アズサはハジメさんとカナエさんを連れて、こちらに走ってきました。
「みんながさ、悪口言ったこと、ごめんて」
「そうですか」
「良かった」
私だけでなく、彼もホッとしたようです。今いる居場所を失う。感覚からしておそらく初めてではありませんが、それでも苦しみは感じます。
「帰ろう」
いつものように、アズサの両手が差しだされる。そして、私達もいつものようにその手を取り、立ち上がりました。
……
…………
………………
視点:外
(ワームが侵入したようだが、結界の力は増したまま。どういうことだ……)
高くそびえる一本の木に腰掛けながら、レイジオンは思考していた。
今、里が存在するはずの目の前には、里どころか人影すら無く、ただ周囲と同じ、森の木々が生い茂る地面が続いているだけ。
結界が効いている以上里に入ることはできない。入ることができるのは、何の邪念も悪意も無い、人間や普通の動物だけ。殺戮と憎しみが本能に刻み込まれた魔轟神である自分や、暴虐しか頭に無いようなワームは結界に入るどころか、里があると分かっている場所を通った所で、見ることも触れることも、干渉することもできない。
言わばすぐ目の前に、触れることも見ることもできない異空間が存在し、そこに里が存在している状態。結界が解けない限り、まさに里は安住の地となっている。
当然例外も存在する。
その一つが、中にいる人間が自分から里に出てきた時。
もっとも、安住の地を目指して世界中から集まった人間達が、わざわざそこを出ていくことなどほぼあり得ない。
他には、いくつもの偶然が重なり、結界の一部に歪みが生まれてしまった時。
明確な殺意を抱く魔轟神ならともかく、生物としての本能のみで生きているワームならばそこから偶然入りこむこともありうる。今起きたように。
そして最後の例外が、何らかの理由で里に生きる人間が全滅した時。
この結界の仕組みはよくできたもので、結界の内側に生きる者達の人数がそのまま結界の力となる。更に人数だけでなく、その者の持つ力が強大であれば、その者一人で二人分、三人分力が増す。
無論逆もまた然り。里に生きる者が一人死ねば、結界の力も一人分弱まる。つまり生きた者全員がいなくなれば、結界は消滅する。だがそれでも魔轟神が入ろうと思えば、それこそ生きた人間の人数が一桁にまで減りでもしない限り永遠に不可能なことではあるが。
そして、先程入った『ワーム・キング』も、人間単位で言えば五十人分以上にはなるだろう。その前に入っていった『ワーム・イリダン』の存在が霞むほど、結界の力も強くなった。とは言え結界の仕組みなど知らぬのだから、本能に従って暴れまわるはず。そうすれば、結界の力も徐々にではあるが弱くなるはず。仮に倒されたのだとしても、あれだけの力が無くなれば結界の変化などすぐに分かる。だがそれも無い。
つまり、ワーム・キングは結界に入ってから、誰も殺さず、また殺されてもいないということになる。
(あり得ない……)
たとえ舞姫でも、子供が三人だけで倒せるほどワーム・キングは甘くは無い。
そして、人間達のワームに対する憎しみもまた、自分達魔轟神に対する物と大差ないはず。倒せるのなら間違いなく倒しているはずだろう。
まだ結界などできていなかった時代から、多くの人間が魔轟神やワームに殺されてきたのだから。
無論人間だけでなく、長年の戦争の中、多くの種族や生物、機械までもが死に絶えていった。今生き残っているのは、動植物とごく少数のワーム、今里に生きている人間達、そして、
「魔轟神が俺達四人と、龍が三匹、か……」
レイジオン自身もまた、生来から殺し合いを望んでいたわけではない。むしろ、戦争など下らないとさえ考えていた。
元々は大昔に人間達によって信仰されながらも、その存在を脅威とされた挙句に存在を全否定され、地底に封印された神々。何百年という長い時間眠りにつき、目を覚ましたきっかけは、落ちてきた一つの隕石だった。
その隕石から生まれた、人間達に『ワーム』と名付けられた生物達。それが人間を、様々な種族達を虐殺し始めた。大勢の仲間達は恨みを持っていた人間達のそんな光景に胸躍らせ、しばらくは傍観していた。
やがてワームの大半が絶滅した後、魔轟神も人間の虐殺に乗り出した。だが、ワームを撃退していただけあって、人間達は封印される以前よりも遥かに強力な力を身につけていた。更には人間だけでなく、多くの種族とも戦いを強いられた。そのために戦争となり、結果、大勢の同胞が殺されていった。
だが、そのことには悲しみも虚しさも無い。戦争など間違っていた、そんな平和ボケした思想も持ち合わせない。レイジオンにあったのは、ただその時を、殺戮に彩られた日々の中で生き延びることだけだった。
同胞よりも強い力と高い知能、持って生まれた生を感じ取る力、そして自ら磨いた剣の腕を武器に、これまで多くの死を築いてきた。
だがそれも、殺戮だけが、今の自分の存在を確かにしてくれる証だったから。人間への恨みも無く、殺すことでの快楽すら無い。ただ自分は今生きている。それだけを感じていたかった。
それが今はどうだ。共に生き残った三人は、あれだけ殺戮を繰り返してきたにも関わらず、未だ生にばかり執着し、未だ滅びぬ、そしていつ自分に振り掛かるとも分からない三匹の龍の脅威に脅えている。そして、それを防ぐための鍵となる娘一人を求めて四苦八苦している。
レイジオンにとって、いつ死にいつまで生きるか、そんなことはもはやどうでも良い。だが、長く生も眠りも共にしてきた者達を見放すことができるほど冷酷にもなれない。そんな半端者が、今の自分。
だがそれでも良い。中途半端な生に執着ばかりすることもまた生きる証なら、そのために全力で生きるのも悪くない。それが今の、レイジオンの生きる理由。
(……下らない。そんなことよりも、今はレイヴンの言っていた、双子の存在……)
話しを聞いたのが一ヶ月前。その間、ここでジッと見張っているが、それらしい気配は無い。強力な力どころか、少なくともこの一ヶ月間、人間が出入りした様子も無い。
そもそも一ヶ月前と、それ以前に最後に結界を訪れた日とでは、結界の力は全く変わっていない。レイヴンを圧倒するだけの力を持つ人間。そして、それが二人。それだけの力を持つ人間が里に入ったのなら、それは間違いなく結界の力にも強い影響を及ぼすはず。
だがそれが無いということは、始めからそんな存在など無かったか、自分が訪れる前に結界の内か外かで命を落としたかのどちらかしか考えられない。
(……どの道、今は待つしかない、か)
溜め息を吐きながらも、久しぶりに長期に味わうことができる、「一人で何もせずただ過ごすだけの時間」を満喫し、兜の下で、小さな微笑を浮かべた。
……
…………
………………
視点:梓
その日もいつものように、ハジメさんとアズサとの三人で野菜のお世話をしました。この日、初めてハジメさんの前で土を耕したのですが、普通に耕しただけでなぜか目を丸くしておりました。
(……もう全部梓一人で良いんじゃないかな)
(土に限ってはな。それ以外はまだまだ任せられない)
「朝食ができましたー」
土を耕し終わった所で、梓さんの声が。
「じゃあ行こっか」
「ええ」
朝食を取り終え、畑仕事も終わったので、梓さんとカナエさんを手伝ってお片づけをし、その後はお掃除。
全てのお掃除が終わった後でもう一度畑に行き、ハジメさんから野菜のことを学びます。その後に昼食を作り、その後はアズサの決闘の相手をするか、里へ行くかのどちらかです。
その後で夕食を作り、睡眠。それが、現在のここでの大まかなスケジュールとなっております。
そして、今日もアズサとの決闘。いつものようにお互いに向かい合い、ディスクを構えた時でした。
「ごめんくださーい」
珍しいことに、お客さんのようです。
「私が出ます」
カナエさんが言い、返事をしながら玄関へと歩いていきました。
「では、始めましょう」
「うん」
「皆さーん!!」
またカナエさんの声が聞こえてきました。随分慌てているようです。
「行きましょう」
「うん」
「ええ」
「何事だ」
ハジメさんとも出会い、四人で玄関へ。
そしてそこには……
「出てきた!」
里で見知っている、子供達以外の方々のほとんどが集まっておりました。
「頼む! 青紫!」
「頼れるのはお前達だけだ!」
「世界を救ってくれ!」
……いやあの、
「ちょっと、みんな口を揃えて何言ってんの!?」
「よりによってこの二人にそんなことを頼む気か!?」
よりによってという言い方も引っ掛かりますが……
「じゃあ誰に頼むって言うんだ!?」
「お前達三人がやってくれるのか!?」
「それは……」
ちょっと……
「なら二人に頼むしかないんだ!」
「なあ頼むよ!」
だから……
『静まりなさい!!』
『……』
やっと静かになってくれました。
「私にできることならできる限りのことは致しますが、ろくな説明も無しに一方的な主張ばかりしないで頂きたい」
「アズサ達も、私達が聞きもせず何も分かっていない内から一方的な否定ばかりしないで頂けますか」
『……』
『お返事は?』
『はい』
よろしい。
……
…………
………………
「どうぞ」
「あ、はい。頂きます」
里の人達の先頭に座っている方にお茶をお出しし、私達全員、玄関前で正座して向かい合っております。
「それで、私達にお願いとは?」
代表であるその人が一口お茶を飲んだ所で、本題に入りました。
「頼みってのは他でも無い。お前達二人に、あの四人の悪魔と、三匹の龍を退治して欲しいってことだ」
「四人の悪魔……?」
「三匹の龍……?」
他でも無いとは言いますが、一体何のお話しですか?
「おい、まさか知らないわけじゃないだろう……?」
「えっと……」
「隠してたわけじゃないんだけど……」
私達が困っていると、アズサが口を挟んできました。
「青も紫も、ここに来るまでのこと何も覚えてないの」
「それはつまり、記憶喪失ということか?」
「そ。名前以外何も覚えてないんだってさ」
正確には、私達の知る常識と、この世界の常識にいくつかの差異があることは覚えているのですが。
「てことは、戦争のことも……」
「覚えてないみたい」
『戦争?』
私も、そして梓さんも声が出ました。お互いに、自分にとってあまりにも縁遠い言葉でしたでしょうから。
「えっと、長い話しになるけど、いいかな?」
「ぜひお願いします」
「うん。始まりは今から三年くらい前かな……」
視点:アズサ
それまではさ、僕ら全員、ここよりずっと広い土地に住んでたんだ。今は人間しかいないけど、人間以外にも色んな人達や生き物とも共存してたんだ。
元々寒い土地にいた僕ら『氷結界』、その名の通り霧に包まれた谷で鳥や鳥人達と共存してた『
「では、三匹の龍とは『ドラグニティ』とやらの?」
違うし話してる途中だし。
「す、すみません……」
まあとにかく、そんな色んな種族がいたんだけど、お互い特に中が悪いとかってことは無くて、普通に仲良く生きてたんだ。
けど、そいつらはいきなり空から降ってきたんだ。
それが『ワーム』。その時降ってきた石は『W星雲隕石』なんて呼ばれてる。
「ワーム。昨日のイリダンや、コウのような存在ですか」
そう。そいつらがまずこの
そこで登場したのが、大昔に僕らのご先祖様が封印した、氷結界にだけ伝わる伝説の三匹の龍の一体、『ブリューナク』。
「ブリューナク?」
そ。三匹の龍の中でも一番小さくて弱い奴だったけど、それがめちゃくちゃ強かったんだ。そいつは氷結界から目覚めた途端、敵も味方も一気に凍らせちゃったわけ。まあ、あいつからしたら最初から敵も味方も無かったわけだけど。
「では、氷結界とは……」
そ。よく勘違いする人もいるんだけど、『氷結した世界』じゃなくて、『氷の結界』ってこと。
それで、過程はどうあれ結果的にワームのほとんどは退治できたわけだけど、今度はそのブリューナクが問題になっちゃったわけ。また封印しようにも、押さえこむだけで大変だし。
そんな大変な時に、ワームとは逆に地面の下から出てきたのが、『魔轟神』だった。
「魔轟神と言うと、初めて出会った時に撃退した者達ですか?」
そう。
「待て、どういうことだ? 撃退した?」
そう言えば言ってなかったっけ? 二人を家に連れて帰った時、森でお世話になったって言ったでしょう。森で初めて青紫に出会った時、レイヴンに襲われてたのを撃退してくれたんだ。
「レイヴンを!?」
ざわ……ざわ……
まあ、それでその魔轟神ていうの、その名の通り神様で、昔はたくさんの人間から信仰を集めてたらしいんだけど、長い時間の中で段々脅威に思われちゃったらしくて、それで封印されちゃったらしいんだ。それで人間を恨むようになっちゃって、最初ワームに侵攻されてくのを傍観して、それが全滅したのを見計らって出てきたらしいよ。
「かつての神が現在の悪魔ということですか。皮肉なものだ」
まあね。けどまあ、僕らの中にそんな昔のこと覚えてる人いないし、正直恨まれても困るだけなんだけど。
とにかく、それでまた戦争が再開したわけ。おまけにただでさえワームのせいでピリピリしてた空気が魔轟神のせいで爆発しちゃってさぁ、もう最初団結してたのが嘘みたいに、完全に全員が全員敵同士になっちゃったわけ。
中には底意地の悪いのも何人かいて、戦争にかこつけて他の種族に悪さして、それで余計関係の修復をできなくする奴なんてのもいたし。
話を余計にややこしくしちゃったのが、A・O・Jと同じ目的で、ワームの入ってた隕石から作られた、『ジェネクス』っていう新しい兵器。
けどどう間違ったのか、そいつらは
それがいつからか人の手を離れちゃって、最後には敵も味方も殺すようになっていっちゃったわけ。自分達で新しく仲間を作ったりしながら進化していって、結局制御も効かなくなって暴走したんだ。仕舞いには進化して『レアル・ジェネクス』ってのまで生まれたし。
そんな色々とややこしいことが重なって、そのせいで戦争も激化しちゃってね。
「何と言うことだ……」
それで、どうにかそれを鎮静化しようと思って目覚めさせたのが、第二の龍って言われてる『グングニール』。
「グングニール……」
ブリューナクよりも凶暴な奴でさ。
目覚めさせた途端そりゃもう大暴れ。結界を解いた術者も、その場にいた敵達も全員氷漬けにされて。その後もあっという間にブリューナク以上にたくさんの生き物の命を奪っていった。
けど、もうそれでも止められないくらい戦争は大変なことになっちゃってたんだよね。
「話しを聞く限り、二体だけでもかなりの力を持つようですね。それでも戦争は止められなかった」
そう。人間も獣人も、龍も鳥人も、動物も機械も全部めちゃくちゃ。仕舞いには色んな種族から新勢力が生まれて、神様って言われる存在が目覚め出したんだ。
若い世代で新しく編成された『
「何やらごちゃごちゃと複雑ですね。まあ、それが戦争というものでしょうが」
一応僕ら氷結界も、二体も龍を蘇らせちゃった以上後には引けなかったし、どうにかその二体を使って自体を収拾しようとはしたんだ。
けど全然ダメ。みんながみんな、目の前の戦いのことしか頭に無い。戦争なんて間違ってるって本音では分かってるくせに、それを頭で全力で否定して目の前の戦いにばっかり正当性を要求してさ。
気付いたら、ワームが来てから二年経とうとしてた。
だから、二体の龍でも止められない以上、最後の一体を蘇らせるしかなくなったんだ。
「最後の一体……」
長老達の間じゃ、「最古にして最強の龍」って呼ばれてた、最後の龍。
名前は……『トリシューラ』。
『トリシューラ……』
封印も一番厳重で複雑だった。それだけ危ない龍だって分かってるはずなのに、結局目覚めさせるしかないってことになった。そりゃそうだよ。他に手段なんて無かったし、第一、何百年も前に封印されちゃった以上、トリシューラがどれだけヤバい存在か、覚えてる人なんているわけ無いし、みんな、仮にトリシューラが暴れてもどうにかなるって思ってたんだと思う。
それが間違いだった。
トリシューラは復活してすぐ、何したと思う?
「……何を、したのでしょう……?」
……鳴いた。
「鳴いた?」
そう。三つある頭で一声、大きな声で鳴いた。
たったそれだけだよ。けどたったそれだけで、そこにいた人も敵も、全部、死んじゃった。そこにいた人達だけじゃない。ずっと離れた場所にいた、ジュラック、ドラグニティの鳥人と竜と竜騎士、ナチュルとナチュルの伝説の獣達。たった一声鳴いただけで、三つの種族を一度に絶滅させちゃったんだ。
『……!』
それからのことは、大体想像つくでしょ。
三匹の龍はあちこちで暴れ回って、どうにもならないって踏んだのか、魔轟神も諦めて退散した。あいつらには死んだ仲間を操る能力があって、それで兵隊作ったりしてたんだけど、あの時点で生きてたのは、さっき話したレイヴンと、『
それで、あれだけ殺し合いしてた者同士が、仕舞いには三匹の龍を共通の敵ってことにして、時には徒党を組んだりもした。けどやっぱりダメ。ジェネクスもA・O・Jも全部壊された。残った四つの種族、X-セイバーも、フレムベルも、霧の谷も、氷結界も、それぞれ戦える人達は三匹の龍に戦いを挑んだ。けど、帰ってきた人は一人もいなかった。
それで残ったのはその三匹の龍と、皮肉だけど僕達みたいな、戦いには向かないような人間達と、四人の魔轟神と、後で分かったけど、運良く生き残ってたワームが何匹か。
それで残された手段が、僕らが結界の中で生活していこうってこと。
「三匹の龍を封印していたものと同じ結界ですか?」
そうみたい。それを、中の人間にとって少しだけ快適に工夫したような感じかな。
この結界を作ってくれたのが、氷結界の英雄って言われてた三人の『
「虎将……」
虎の将で虎将。
ちょっと話しは逸れちゃうけど、氷結界にはさ、『虎王』って別名で人に呼ばれる、『ドゥローレン』て名前のでっかい虎が三匹いるんだ。その三匹とも不思議な力を持ってて、一族で認められた三人の人間だけがその虎から力を貰うことができて、『虎将』を名乗ることが許される。
その時の三人、『ライホウ』、『ガンターラ』、『グルナード』。
その三人が、『氷結界の三法陣』ていう儀式をした。普通は三人で小さな円を作ってやるような儀式なんだけど、その時三人は、全員が山を二つや三つ越えたくらいの距離の場所で、正確な正三角形の立ち位置について儀式をした。
それで、この里ができたんだ。三人の命を犠牲にしてさ。
『……』
それからみんな、ここで生きるって決めた。生き残った人達は全員ここに受け入れてさ、畑作ったり家作ったり、家畜を飼ったり物を作ったりしてさ。幸い魔法を使える人達もたくさん生きてたし、結界の中には川も源泉も、家を建てるための木なんかもたくさんあったから、人が生きていくには全然困らなかった。時々ワームの生き残りが入ってきたりもしたけど、昨日みたいに僕と、ハジメとカナエの三人で撃退していったんだ。
それで、一年くらいかけて、今みたいな里にしてさ、生活していってるんだ。
『……』
視点:外
「長い話しになっちゃったけど、ざっくり説明するとこんな感じ。理解してくれた?」
「ええ」
「……」
二人が返事をしたのを見て、アズサはもう一度里の人間達に顔を向けた。
「だから、もう今のままでも良いじゃん。何もさ、こんな危険を冒してまでここから出ようとしなくたって……」
「お前達はそれで割り切れるかもしれないがな、俺達は故郷を捨ててここに来てるんだぞ!!」
一人の青年が立ち上がり、大声で叫んだ。髪の色は金。氷結界の一族ではない。
「そんなのみんな同じ……」
「分かってるよ! ここの暮らしが不満てわけじゃない。むしろ毎日食う寝るに困らず生活できて、みんなにも優しくしてもらえて、快適だって感じてる。けど、俺はもう我慢できないんだ!! 大好きだった山とか森とか、そんなたくさんの思い出の詰まった場所、みんなあの龍や悪魔どもに好き放題されて! それが分かってるのに、こんな場所に一生閉じこもってるしかない。こんな狭い空間に押し込められて、それこそ家畜と同じだ!!」
「そうだ!!」
別の男も立ち上がった。
「俺だって、仕事もあるし何の不安も無い。だが、こんな狭い場所で一生を過ごすなんてのは真っ平御免だ。俺はもっと広い場所で、もっとでかっい畑を作りてえ」
「私も、昔主人と行った思いでの場所があるの。そこへもう一度、死ぬ前に行きたい」
「俺もだ。また自由に
全員が口々に、結界の外でやりたいことを言い合っていった。誰もが目を輝かせ、希望を胸に抱き、あの頃の平和な思いを思い浮かべていく。
「けど、そのために青と紫にお願いするって、何か違うんじゃないの?」
アズサのその呼び掛けに、全員の視線が、今度は二人の梓に集中する。
「なあ頼むよ青紫。お前達にしか頼めないんだ」
「あいつらを倒してくれ。俺達の惑星を取り戻してくれ」
「頼む! 礼はする。俺達全員の一生の頼みだ」
「いや、だからさ……」
ドガァ!!
『っ!!』
その轟音に、全員が口を閉じた。そして、その視線を一点に集中した。
その音の発生源。地面を拳で全力で殴り、亀裂を作った、水瀬青に。
「バカバカしくてこれ以上聞いていられるか」
青梓は立ち上がりながら、目の前の住人達を、見下すような冷たい目で睨みつけた。
「自分達の故郷を取り戻したいとほざきながら結局は人頼みか? 自分から戦おうとはせず、危険を冒す気も無い。他人の力に期待して、自分の平和だけを乞い願う。大方そうやって、戦争でもずっと逃げてきたのだろう」
その豹変ぶりに、誰もが言葉を失った。今までの優しい姿はそこには無い。あるのは、自分達を見下し、蔑み、そして凍りつかせる、冷たい人間の姿だけ。
「生き残ろうとすることは間違いではない。だが、命を拾っておいて、その命を繋ぐことばかり考え、それ以上の可能性を捨て、誇りも、意志も、志も捨てた。挙句その可能性を、自分では無く他人に押しつける。呆れて物も言えん。そんなことでよく希望を口にできたものだな」
誰もがその、正しい言葉に胸を抉られる。
戦争で生き残り、失う物は無いと言えるほど全てを失い、そして、全てを諦めここまで逃げてきた。そして、生きることに必死になり、今のようになった。そして、それ以上を求めることをやめた。今にだけ満足し、それ以上の可能性は頭から除外し、あわよくば、誰かがそれをしてくれれば、そう、全員が願っていた。
「貴様らにもそれぞれ名前があったのだったな。氷結界、X-セイバー、フレムベル、霞の谷……」
「だがそんなもの、誇りも何も捨てた貴様らには、必要無いだろう」
「今日から貴様らは……」
「バカという名で十分だ」
『!!』
「ちょっと待ってよ!!」
青梓の言葉に、アズサは叫びながら立ち上がった。だが、
「貴様もだアズサ!!」
一方的に指を指され、絶叫した。
「貴様は随分と詳しく説明をしていたが、話しを聞いていれば、命を軽んじるような言葉や表現の数々。貴様は戦争の中で何も感じなかったのか? 命の尊さも、重要性も、所詮は自分が助かっていたのだからそれだけで良い、そう思っていたのだろう!!」
「お……」
思わない。そう返事をしようとした。
「……何だ?」
だが、できなかった。
「何が言いたい?」
青梓の言葉が、アズサの胸にも突き刺さる。梓の言葉が、半ば正しかった。
「言え!!」
「梓さん!!」
そんな青梓を、紫梓は仮の名前も忘れ、押さえつけた。
「落ち着いて下さい。誰しもがあなたのように、強い力と、意志を持てるわけではないのです」
「……」
「……」
二人はしばらく無言で見つめ合ったが、やがて青梓が目を逸らし、歩き始める。
「梓さん……!」
「コウ!!」
ズドォン
「うわっ!」
何人かが驚きの声を上げる。
名前を呼び、忠実に馳せ参じた『コウ』と名付けられたワーム・キングの肩に乗り、青梓は里の向こうへと走り去っていった。
「梓さん……」
視点:梓
先程の、梓さんの言った言葉。
(「誰しもがあなたのように、強い力と、意志を持てるわけではないのです」……)
そんなことは……
「そんなことは……」
「そんなことは!!」
「分かっているうううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅ……」
……
…………
………………
小高い丘に座り込み、沈む夕日を眺める。今思えば、夕陽も少しぼやけて見えます。私の視力は正常なはず。結界の影響なのでしょう。
その結界に囲まれているから、今も安全で快適な暮らしが実現されている。
そして、そのうえで今以上を求めながら自分からは何もせず、他人の行動ばかりに希望を託す。なぜか、私は昔からそうみたいです。あの人達のように……
「梓さん」
その声と足音に振り返ると、当然というべきか、梓さんの姿。
「隣に座っても?」
「……どうぞ」
私の言葉の後で、隣に座る。その表情は私とは全く違い、一切の迷いも、陰りも見られない。
「分かっています」
そう。分かっているのです。
「あなたの言った通りだ。誰もが私のような考えを持つ人間であるはずが無い。むしろ、彼らは戦争で多くを失った。何かを失う経験が無いわけではありませんが、戦争と言う、特殊な環境下での経験は無い。心を強く持てと言う方が、もしかしたら不可能なことかもしれない。反省しております。彼らに、心無い言葉を浴びせたことを」
反省しております。けど、
「けどその上で、私はどうやら、昔から嫌いなようです。あの人達のような、自分の弱さから逃げることしかできない人が、一番」
そんな感情を持つべきではないのかもしれない。
分かっているのに……
「私も同じです」
梓さんが、そう言いました。
「彼らは弱い。あまりにも弱過ぎる。人として、見ていられないくらい、弱くて、自分勝手で、臆病で、そして虫が良い。話しを聞きながら、私もそう感じました。そしてあなたは、私にはとても言えないことを、私の代わりに言ってくれたようなものです」
「……」
意外だ。私などよりも優しいあなたが、そんなことを。
「けど、だからこそ彼らが愛おしい」
「愛おしい?」
「はい。彼らは人一倍、苦しみを乗り越えてきた。人の死を目の当たりにし、その恐怖に駆られた。そして、自らの可能性を、捨ててしまった。可能性を捨てられるのは、自らの弱さと向き合うことができる証です」
「……」
夕陽をジッと見つめながら、梓さんは立ち上がった。
「だからこそ、私は彼らの可能性を取り戻したい。彼らが私達に希望を持つことで、もう一度可能性と向き合うことができるなら、私は、彼らに応えたい」
「梓さん……」
本当に、人というものを愛している。それが伝わってくる、純粋な笑顔。それが今、私の目の前に。
「ですが、それは私一人ではできない」
そんな表情を崩しながら、私を見ました。
「実現するにはあなたの力が必要だ」
「私の?」
「はい。あなたは私よりも強い。しかし、あなた一人でも不可能でしょう。だからお願いしたい。私と共に、彼らに応えることを」
「……」
「あなたが拒否すると言うのなら、止むを得ません。私からも、今回の要望は拒否します。二人が共に、やると意志を固めなければ意味が無い。だからその答えを、あなたに委ねます」
「……」
梓さんは、私をジッと見つめている。
そして、私の答えをそこで待っている。
私の、答えを。
「……」
私は……
答える代わりに、立ち上がり、彼の手を取った。
「どこまでもお供します。紫お兄さん」
「行きましょう。青さん」
そうだ。結局はこうなる。
私は心の底から、彼に惚れているんだ。
私と同じ顔をしながら、私よりも遥かに強い意志と心を持つ、この人に。
……
…………
………………
その後、帰りは二人でコウの肩に乗り、アズサ達の屋敷に戻った後で、里の方々に謝罪をしつつ、要望を承諾致しました。
出発は明朝。道案内として、アズサ、ハジメさん、カナエさんの三人もついてきて下さることになりました。
その間の里の守りについての不安の声も上がりましたが……
「コウ」
その呼び掛けに、頭を下げたコウに、梓さんは命令します。
「私達が留守の間、この里と、里の人達をお守りしなさい。できますね」
ということで、全ての警護はコウに任せることにしました(ちなみにコウと名付けた由来は、単純に『キング』を意味する漢字の『皇』から。ついでに色の見た目からも……)。
その夜、旅立ちと、私達の帰還を祈り、宴会が催されました。この里が生まれてから、特別な行事も無くなった今、宴会などというものは久しく行っていなかったそうです。
次に無事に帰った時、宴ができる日を新たに作ることのできる、そんな世界になっていてほしいものだ。
……
…………
………………
そして、夜が明け、私達五人は里の出入り口へ。
「頼むぜ、青紫」
「生きて帰ってくるんだよ」
「また美味い饅頭作って待ってるからよ」
皆さんが、それぞれ言葉を掛けて下さる。
「青紫……」
また呼び掛けられたので見てみると、そこには子供達が。
「また決闘、できるよね」
「……ええ。また帰ります。そしたら、思う存分決闘をして遊びましょう」
あれだけ子供が苦手だったのに、今ではこうして普通に言い聞かせることができてしまう。彼らと過ごした時間は、私にとっても大切な宝です。
「それでは、行って参ります」
梓さんの言葉で、私達はいよいよ、里の外に向かって歩きました。
里の方々からの声を聞きながら、あれだけ出るなとアズサに念押しされた、里の外。
何が待っているのか……
里を出ると、周囲は里の中からも見えていた、雪の積もった森。
初めてここに来た時と、何も大きな変化は無い……
っ!!
『逃げて!!』
反射的に、三人を押した瞬間、
ヒュッ
ガッ
「ぐぅっ!」
「うぁっ!」
互いに感じた、胸への強烈な圧迫、これは、コウから受けた一撃以上に強い……
『青紫!!』
「ほう。この一撃を喰らってビクともしないか。レイヴンの言葉には半信半疑だったが、確かに普通の人間ではない」
ヒュウ!!
今度はその状態のまま後ろへ押される。抵抗できない。押さえつけられる力が強くて、その手から離れることができない。
そして気が付いた時には、私達はそのまま、空高くへと浮かんでいました。
「だが、これならどうだ」
そして、胸の圧迫が無くなったと同時に、私達の体は下へ……
「梓!!」
「梓さん!!」
「っ!!」
お疲れ~。
アズサの語った戦争の歴史、設定に若干の差異と偏見とオリ設定はあるけど、そこは大海の限界なので堪忍して下さい。
ちなみにアズサの語った二年という時間は、我々の世界でターミナル第一弾が稼働してから第八弾が稼働するまでの期間を参照しております。
ということで、次話までどうか待っててね。