遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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お待たせ~。
それでは三部いきま~す。
細かい挨拶は抜きにしまして、行ってらっしゃい。



第三部 龍
第一話 その頃の学び舎、そこで……


視点:あずさ

 

「本日の授業は、タッグ決闘を行うノーネ」

 

 現在、わたし達はいつもの授業の真っ最中です。目の前にはクロノス先生、周りにはわたしと同じ生徒達。まあ、いつもある当たり前の光景だけどね。

「それでーハ、各自自由にペアを作るノーネ」

 その声で一斉に周りは立ち上がる。中にはわたしみたく座ったままの人もいるけれど。

 あの二人もそんな人達の一人みたいだ。

 

「隼人君、組もうか」

「ああ、やろう、翔」

 

 聞いての通り隼人くんと、今はもうラーイエローの制服を着てる翔くんの二人。仲が良くて隣同士だったらよくある光景だけど、あの二人の場合はそう簡単にいかないんだなぁ。

 

 スタタタタ……

 

「はっ」

「翔く~ん////」

 まあ大方の予想通りだろうね。ももえちゃんが翔くんの前まで全速力で走ってきて、ペアのお誘い。

「えっと……」

 翔くん自身、嫌な訳じゃないけど困ったって感じだね。先に隼人くんと話してたわけだし。

「その、俺は良いから、組んであげるんだな」

「ごめんね、隼人君……」

「光栄ですわ~翔く~ん~////」

「あははは……」

 

 やれやれ。まあ気持ちは分からなくはないけどね。元々は(女装した時の)顔がきっかけだったんだろうけど、制裁タッグ以来、翔くんは本当に頑張ってるから。勉強でも決闘でも、その努力の結果が今のラーイエローっていう場所と制服だからね。聞いた話しだと、レッドでは、昇格を断った十代くんを除けば最速記録の昇格らしい。

 まあ一番の問題は、翔くん自身がももえちゃんのことどう思ってるかってことだけどね。

 

「さてと、じゃあ俺は……」

 

 ……ス

 

「はっ」

「ど、どうも~、隼人くん////」

 困ってた隼人くんの前に立ったのは、ジュンコちゃん。

「何か用か?」

「いやその、用ってほどじゃないけど……もし、もし万が一相手がいないなら、私でよければペアになってもいいかな~なんて……////」

 ジュンコちゃん、素直にペアになりたいって言えばいいのに……

「本当か? じゃあお願いするんだな」

 隼人くんは気にしてないようで、素直にお礼を言ってる。

 

 まあ見ての通り、ももえちゃんが翔くんに対してそうなのと同じように、ジュンコちゃんも、隼人くんに対してそうみたいです。

 何でこうなったかというと……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 それは、万丈目くんが三沢くんに負けた次の日のこと。万丈目くんがいなくなった。

 まあ退学を賭けた決闘に負けたわけだからいなくなるのも当然なんだけど、十代くんはそのことに耐えられなかったみたいで、万丈目くんを探そうってことになった。それで、十代くん、翔くんと隼人くん、明日香ちゃん、ももえちゃんとジュンコちゃん、そしてわたしの計七人のメンバーで、万丈目くんを探しに森を歩いてたんだ(何で森だったのかは今も疑問です)。

 

「万丈目ー!」

「万丈目くーん!」

「出てくるんだなー!」

「お母さんが泣いてるよ~!」

 

 わたしも男子三人と一緒に大声で呼びながら探したんだけど、まあ現れることはないわけで。

「あずさ……」

 と、突然無言で歩いてた明日香ちゃんに声を掛けられて、そっちを向くと、よく分からない指示をされた。仕方ないからその指示に従って、その通りの行動を起こす。

 手に手甲を着けて、腕を大きく振り上げて、思い切り地面を……

 

 ドゴォ!!

 

「おわぁ!!」

「うおお!!」

『きゃあ!!』

 まあ例によって地震が起きたんだけど、その直後、

 

「隠れてないでさっさと出てきなさい!! でないとあずさが(・・・・)黙ってないわよ!!」

 

「えぇ! わたし!?」

 何その脅し文句!? 堪りかねて辛抱ならないからってわたしを出汁に使わないでよ!!

『……』

 ほら~。十代くん達まで黙っちゃったじゃん。

「……あずさで脅しても出てこないなんて、やっぱりアカデミアにはもういないのかしら……」

 まあ本人はそんな視線は気にしてないようだし、どうでもいいか。けど、「あずさで」脅してもって、何気に失礼だよ。

 

 ザァ……

 

「ん?」

 その気配に真っ先に気付いたのはわたしだった。

 他の六人はどうとも思ってないみたいだけど、その気配は間違い無くわたし達に近づいてる。

「どうした? あずさ……」

「しっ……」

 聞いてきた十代くんを黙らせて、その気配の方向を凝視する。

 すごく速く、それは近づいてくる。そして……

 

 ザザァ

「キィー!!」

 

 お猿!?

 変な機械を背中に背負って、変なものを被ってる。それを認識した、一瞬の出来事だった。

 

「きゃあ!!」

『!!』

「ジュンコちゃん!!」

 

 そのお猿はジュンコちゃんを抱え上げて、そのまま走っていっちゃった。

「待てー!!」

 

 ドッ

 バキバキバキバキ……

 

 ちょうど隣に生えてた木を手で貫いて、引き抜いた所でお猿に向かって投げる。

 けどお猿はそれをヒョイって避けて、そのまま森の奥へ消えちゃった。

「この、もう一本……!」

 

 ドッ

 

「待ちなさいあずさ!! そんなことして、ジュンコに当たったらどうする気!?」

 はっ! そうだった。

 二本目の木を手で貫いたとこだけど、そう指摘されたから手を抜いてやめた。

「何なんだよあの猿……」

 

「こっちだ!」

 

 と、また奥から、今度は大勢の人の気配。まあ声がしたし、気配とか読むまでもないんだけど。

 その人達は猟銃を持って、わたし達の前に現れた。

「ここに猿が来なかったか?」

 

 そして、わたし達はそのお猿のことについての説明を聞いた。

 英語はよく分かんないけど、頭文字を取ってSAL、サルについての研究をしてたらしい(そのまんまじゃん……)。お猿がわたし達人間と同じようにお話しして、カードを操って決闘する装置なんだって。

 それで、その実験に使われてたお猿が逃げ出したらしい。

 それがさっきの、ジュンコちゃんを攫っていったお猿ってわけか。

 

 そんなこんなで大人の人達と話して別れた後、わたし達はジュンコちゃんの捜索に向かった。

「森は広いし、ここは手分けして捜すんだな」

 そう提案したのは隼人くん。まあ確かに森は広いから、大勢で一ヶ所を捜すよりは効率がいいだろうけど、

「けどさ、わたしはともかく、みんなあのお猿に出会ったとして、ジュンコちゃんを取り返せる?」

『う……』

 みんなが一斉に渋い顔になった。わたし以外、腕っ節に自信があるって人いなさそうだからなぁ。さっきのお猿を見た感じ、大きさはそれほどでもなさそうだけど、あんな見るからに重そうな機械を身に着けた上で森を飛び回って、その上ジュンコちゃんを片手で背負ってる辺り、普通のお猿と比べても腕力は強そうだよ。

 まあ私は正直負ける気は全然しないけど、私以外の五人は……

「……でも、そんなこと言ってたらいつまでも捜しにいけないんだな」

 また隼人くんが提案した。

「こうなった以上一分一秒が重要なんだな。あの大人の人達が猿を見つけたとしてもそれで安全とは限らないし、だとしたら俺達で先に見つけ出すしかないんだな」

「それはまあ、そうだよね……」

「……よし分かった。ここからは手分けして捜そうぜ」

「分かったっス」

 翔くんは賛成した。

「けどあずさ、お前は明日香とももえと一緒に行動してくれ」

「あ、うん、分かった」

 さすがに十代くんは分かってるね。この中で一番の戦力のわたしなら、何かあったとしてもこの二人を守るのには不自由しないからね。

「じゃあ、いくんだな」

『ああ(ええ)(うん)』

 こうして、十代くん、翔くん、隼人くん、私と明日香ちゃんとももえちゃんの四組で、ジュンコちゃんの捜索に向かった。

 

 

 そして、ここから先は後から聞いた話なんだけど……

 

「見つけた!」

 ジュンコちゃんを一番最初に見つけたのは、

「おいお前! 彼女を離すんだな!!」

 別行動を提案した隼人くんだった。

「は、隼人くん……?」

 でも、当然お猿は簡単にジュンコちゃんを返してくれるはずがない。隼人くん体は大きいけど、腕力の方はちょっとってタイプだし。どうするべきか悩んだらしいけど、その時、お猿が左手に着けてる決闘ディスクに気付いたらしい。

「俺と決闘するんだな! 俺が勝ったら、その子は返してもらうんだな! お前が勝ったら、その子はお前の自由にするんだな!」

「何それ!?」

 うんまあ、酷い話しだね。

 けど、お陰でお猿はその決闘を受けることになったわけ。

 

『決闘!!』

 

 ……

 …………

 ………………

 

 それで、決闘の内容は見てないからどうなったのかは分からないけど、学生手帳で連絡を受けたわたし達が駆けつけた時には、隼人くんはお猿をやっつけて、ジュンコちゃんを助け出してた。

 そして、その後で大人達も駆けつけて、お猿を捕まえようとしたんだけど、それを隼人くんが身を呈して止めて、お猿をかばったんだ。

 もちろん大人達は怒ったけど、そのすぐ後で大徳寺先生が現れてその場を治めてくれて、お猿も野生に返すことができたってわけ(ちなみにそのすぐ後、大徳寺先生から、万丈目くんはもうこの島にはいないって教えてもらった)。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 それ以来、ジュンコちゃんは隼人くんにそういう感情を持ったらしい。まあ決闘とは言え、自分の危険を顧みず助けてくれたわけだし、女の子なら惚れちうシチュエーションかもしれないね。それにわたしも、あの時お猿をかばってた隼人くんの姿、とても格好良いって思っちゃったし。

 隼人くんも、最初会った時から変わったよね。ちょっと前の彼なら、例えジュンコちゃんを見つけ出しても、決闘を挑むなんてことしなかったんじゃないかって思う。そもそも、手分けして捜そう、なんてこと、思っても自分からは言いださなかったんじゃないかって思う。

 けど、彼はそれをした。いつか言ってたらしい。成長していってる翔くんには負けられないって。だから彼も、彼なりに強くなっていってるんだな。

 

 あんなふうに、隼人くんを変えたのも、翔くんを変えたのも、全部……

 

 

 

視点:明日香

「天上院君、ぜひ俺とタッグを組んでほしい」

 半ば予想通りだったけど、私に真っ先に声を掛けてきたのは万丈目君。いつも通りの自信満々の態度に、どこか気取ってる雰囲気。

「……ごめんなさい」

 笑顔でそう返事をすると、あからさまに顔を歪ませて落ち込んだ。

 別に彼のことが嫌いというわけではないけれど、タッグパートナーを組むというからには、ちゃんと自分の希望する人とペアを組みたいのよね。

 ジュンコとももえも、それぞれ自分の希望する人とペアを組んでるし……て、あの二人の場合、それ以外の下心の方が大きいかしら。

 まあそれはともかく、私が希望するのは、やっぱり……

 

「万丈目!」

 

「!!」

 て、考えてる間に、その本人は目の前に現れた。万丈目君の名前を呼びながら、その背中に抱きついた。

「十代?」

「なあ万丈目、俺と組まないか?」

「な、お前と?」

 十代が、万丈目君とタッグ!?

「なあいいだろう! 俺さあ、一度お前と組んでみたかったんだ!」

「な、なぜ貴様と……というか、まずは離れろ暑苦しい!!」

 抱きつきながら、笑顔で語り掛ける十代と、それを嫌がって押しのけようとする万丈目君。

 ……万丈目君、ちょっと羨ましい……

 て、何で私がそんなこと思ってるの?

「俺とお前がタッグ?」

「なあ良いだろう?」

 抱きつかれてたのをどうにか引き離して、改めて十代と向かい合って、話し合う。

「むぅ……」

 どうしてかかなり悩んでるわね。そんなに十代が嫌なのかしら。

「なあ万丈目?」

「む?」

 悩んでる万丈目君に向かって、十代は突然質問した。

「お前、俺のこと嫌いなのか?」

「なっ!」

 その質問には、万丈目君も困ってるみたい。答えにかなり迷ってる。

「だから俺と組みたくないのか?」

「いや、それは……」

 何というか、まるで必死に相手の気を惹こうとしてる人妻と、それに困ってる旦那みたいな空気ね。でも万丈目君、そんなに悩むくらいなら、素直に承諾してあげても良いんじゃないかって思うわ。

 

「むぅ……ん?」

 と、万丈目君は突然、十代とは別方向を見た。私も十代もそっちを見ると、

「あずさ……」

 あずさが一人座って、笑顔で生徒達を眺めてる。そしてその周りには、一人も生徒は寄りついてない。

 どうやら、まだ大勢の生徒があずさのことを怖がってるみたいね。私達は元々仲が良いから平気なんだけど、それ以外の、あずさと大した関わりを持たなかった生徒達は、今でもあずさを恐れてる。あずさの優しい性格を考えたら大丈夫なことくらい分かるはずだけど、確かに一度キレたら手がつけられないもの。

 もっとも、滅多にキレることがないから、私達は平気であずさと一緒にいるんだけど。

 

「……十代」

 そんなあずさを見ながら、万丈目君は十代に呼び掛けた。

「悪いが他を当たってくれ。俺は他に組みたい奴がいる」

「万丈目……」

 十代も、万丈目君の気持ちは分かったみたい。彼のしたいこと、私にも分かる。

 だから、

「待って、万丈目君」

 立ち去ろうとした万丈目君の肩を取った。

「あなたはこのまま十代と組んであげて」

「しかし……」

「実は私も、他に組みたい相手がいるのよ」

「……そうか。分かった」

 万丈目君は返事をして、十代と向かい合う。

「十代、組むぞ」

「おっしゃあ!!」

 ふふ。本当に嬉しそう。相手が万丈目君じゃなくて、私でも同じ反応をしたのかしら……

 て、だから何でそんなこと気になるの?

「明日香」

 と、また十代の声。それが、今度は私を呼んでる。

「お前も、頑張れよ!」

 ////

「……ええ」

 何だか分からないけど、私も、頑張ろうって気持ちになれた。

 

 

 

視点:あずさ

 さて、わたしもそろそろペア探ししようかな。

 と言っても、わたしなんかと組んでくれる人なんてそうそういないみたいなんだよね。みんなわたしのことずっと怖がってるし。

 あれからと言う物、わたしが決闘の力をつけてきたこともあってか、元々怖がられてたのがなお更そうなっちゃったんだよね。まあ確かに、実技でも相手を無傷で倒したりワンターンキルしたり、そんなことも増えたけど。それでも今まで仲良く喋ってた人達まで話し掛けてこなくなったのはさすがに寂しいよ。

 それに、本当はわたしだって、ももえちゃんやジュンコちゃんみたいに、特別に組みたいって思える人がいるし……

 

「あずさ」

 

 立ち上がって、動かずにいた私に、話し掛けてくる声。この声は、

「明日香ちゃん?」

 明日香ちゃんが、笑いながら私と向かい合ってる。

「わたしと組みましょうか」

「え?」

 てっきり十代くんと組むと思ってたのに。

「どうする?」

「……うん」

 まあ、特に断る理由も無いことだし、私は明日香ちゃんとペアを組むことに決めた。

 

 

 こうして。それぞれのタッグチームが出来上がったところで決闘場に集合して、順番に決闘していく。

 

「それデーハ、続いてセニョール翔・セニョーラももえペアと、セニョール隼人・セニョーラジュンコペア、前に出るノーネ」

 おお! ジュンコちゃんペアとももえちゃんペアの決闘だ!

 四人は決闘場に立って向かい合った。

 

「行きましょう翔くん! 愛の力で勝ちますわ!!」

「あははは……」

「何の! 愛の力なら……いや、私達の力なら、負けはしないわ!//// ねえ、隼人くん////」

「ま、まあな……」

 

 相変わらずあの二人はノリノリだね。男子二人はいつもと同じで淡泊だし。二人とも、ももえちゃんやジュンコちゃんのこと、そういうふうには思ってないってことかな。

 

『決闘!!』

 

 まあ、決闘が始まったし、別に良いか。

 

「……あずさ」

 と、隣からまた、明日香ちゃんの声が聞こえた。

「ん?」

「一つだけ、言わせてほしいんだけど」

「何を?」

 と、明日香ちゃんは笑顔だけど、真剣な顔を見せた。

「あなたは一人じゃないってこと、忘れないで」

「え?」

 いきなりどうしたの?

「あなたのことをみんながどう思っていようと、私達はあずさの味方よ。あずさがずっと、梓のこと信じて待ってるのと同じように、私達も、あずさの味方だから。だから、間違っても自分が一人だって思わないで、困った時は、いつでも私達を頼って」

 明日香ちゃん……

「ありがとう」

 笑顔を作って、お礼を言った。

 けど、明日香ちゃんは一つだけ間違ってる。

 わたしは、自分が一人ぼっちだなんて思ったこと無いよ。だって、みんながいてくれてるから。そりゃあ、梓くんがいなくなってからは寂しい毎日が続いてる。正直、今でもそう。でも、寂しいって思っても、それと、一人ぼっちだって思うのは違うから。今はもう、寂しくないよ。

 けど、その気持ちはとても嬉しいよ。みんなと会えて、本当に良かったよ。

 

「それデーハ、続いてセニョーラ明日香・セニョーラあずさペア、セニョール十代・セニョール万丈目ペア、前に出るノーネ」

 

 あ、前の二人が終わったみたい。

「呼ばれたわ」

「うん、行こう」

 明日香ちゃんと声を掛け合って、わたしも決闘場に立った。隣にはタッグパートナーの明日香ちゃん。目の前には、対戦者の十代くんと万丈目くんの二人。

「いくぜ明日香! あずさ!」

「君達二人とて手加減はできんぞ」

 本気でぶつかり合ってくれる二人、そして、本気で心配してくれる友達。

 わたしは今、そんな人達に囲まれて、すごく幸せだよ。

「うん! 良い決闘にしようね!」

「いくわよ!」

 

『決闘!!』

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:ハジメ

 俺は、夢でも見てるのか?

 ついさっきまで、住む家を共にして、同じ釜の飯と、同じ畑の野菜を食って、一緒に生活して、一緒に生きてきた、たった一人の肉親である姉貴。

 それが、目の前で、魔轟神に変わった……

 俺だけじゃない。カナエも、アズサを……と言うより、アズサだったものを見て、放心してる。

 

「さあ、私と共に帰ろう。魔轟神の巫女、『グリムロ』よ」

 そんな俺達をよそに、レイヴンは、グリムロと呼ばれた魔轟神に手を差し伸べた。

 グリムロも、放心状態でいる。俺達と、レイヴンを交互に見て、どうすればいいのか迷ってるらしい。

 だが、しばらく首を動かしたところで、その手を、レイヴンに向かって伸ばす……

 

「はぁ!!」

 ドゴォ!!

 

「!!」

 突然の、紫の大声と、地面への衝撃。紫に殴られた地面からは雪が舞い上がり、同時にそこを中心にいくつもの、大きな氷の柱が出現した。

 

「っ!」

「え……」

 

 そしてその直後、紫は、舞い上がる雪の中からグリムロを抱えて、走っていった。

 

 

 

視点:外

「……」

 走り去っていった方向を見ながら、梓は刀を手に取る。が、

「待て」

 レイヴンに制止された。

「慌てるな。グリムロは必ず戻ってくる」

「根拠は?」

 その梓の質問の後、レイヴンはハジメとカナエの二人を見た。そして、

「彼女にはもう、舞姫としての居場所は残されていない」

「……!」

「記憶も戻った今、必ず魔轟神の巫女として、私の元へ戻るはずだ。それをじっと待とうではないか」

「……」

 梓は無言でレイヴンの顔を見ていたが、一言、

「お前は、水瀬梓という男をまるで理解していない」

 それだけ言って、歩きだした。それにレイヴンも続き、二人ともハジメ達に何をするでもなく、去っていった。

 

『……』

 二人とも未だ、この現実をどう捉えたら良いのか分からない。

 だが、確かにレイヴンの言った通りだった。

 今の二人にはあの、『魔轟神グリムロ』を、アズサとしてもう一度迎えることなど、絶対に不可能だった。

 

 

 

 




お疲れ~。
つ~わけで、あずさ達は元気にしております。
そして、梓の方も色々と変化が起きております。
今後にまあ注目しといて下さいな。
それじゃあ次話まで待っててね。

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