遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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今回も決闘回。
そしてタイトルの通り。
てなわけで、行ってらっしゃい。



第四話 邪心経典 ~発動~

視点:梓

 

「『邪心経典』?」

 

 発動と同時に、レイヴンの頭上に黒い本が現れた。

「邪心経典……」

 遂に出たか……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 私との決闘を終えた後、レイヴンの手の上の光りが形を成し、本と化した。

「邪心経典……その本が何だと言うんだ?」

「ふふ。今はまだそれを話す時ではない。君は安心して私に任せておけばいい」

「……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 だがまさか、決闘で使用することになるとはな。得意の術で、光をカードへ変えたということか。

「私はこれで、ターンエンド」

 

 

レイヴン

LP:3200

手札:4枚

場 :モンスター

   『暗黒界の龍神 グラファ』

   魔法・罠

    永続魔法『邪心経典』

    セット

    セット

    セット

 

アズサ

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500

   魔法・罠

    フィールド魔法『摩天楼 -スカイスクレイパー-』

    セット

 

 

 どちらにせよ、Zeroがいる以上迂闊な攻撃はできないか。

「僕のターン!」

 

アズサ

手札:1→2

 

(あの永続魔法が気になるけど……)

「このターンで決める。『戦士の生還』発動! 墓地の戦士族を手札に加える。僕が手札に加えるのは、『E・HERO キャプテン・ゴールド』! そしてそのまま召喚!」

 

『E・HERO キャプテン・ゴールド』

 レベル4

 攻撃力2100

 

「バトル! アブソルートZeroで、グラファを攻撃! スカイスクレイパーの効果で攻撃力アップ!」

 

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+1000

 

瞬間氷結(フリージング・アット・モーメント)!!」

 先程と同じ光景だな。

 

レイヴン

LP:3200→2400

 

「……罠発動『オプションハンター』。自分フィールド上のモンスターが破壊された時、破壊されたモンスターの元々の攻撃力分ライフを回復する」

 

レイヴン

LP:2400→5100

 

「回復されたか。けどまだまだ! キャプテン・ゴールドの攻撃! ゴールドインパクト!」

「ぐぅ……」

 

レイヴン

手札:5100→3000

 

(よし! ここで前のターンに使わなかったこの速攻魔法で……)

「……罠発動『罰則金』」

「……え?」

 なに?

「このターン、私は手札を二枚選び、捨てる。手札のグラファと、『暗黒界の策士 グリン』を捨てる」

 

レイヴン

手札:4→2

 

「まずはグラファの効果でお前の場のアブソルートZeroを破壊。同時にグリンが手札から捨てられた時、場に存在する魔法・罠を一枚破壊できる。スカイスクレイパーを破壊。キャプテン・ゴールドは自身の効果により自壊だ」

 淡々とカードをプレイしながら、グリムロのモンスターを全て破壊すると同時に、フィールド魔法の破壊により、周囲は元の荒れ果てた都市へと戻る。

 だが、何だ? 今のプレイングは?

「何でこんなタイミングで? 破壊するなら戦闘ダメージを受ける前でも良かったのに」

 どの道アブソルートZeroを破壊した時点でグラファの破壊は免れない。どちらにせよ互いの場はガラ空きになった。なら、今のプレイの真意は何だ?

「答えは簡単だ。戦闘ダメージを受ける必要があったからだ」

「え?」

「私が相手によって戦闘ダメージを受けた時、『邪心経典』の効果が発動する」

 そう言いながらデッキから取り出したカードは、

「『邪心教義-怒』? それに、『邪心教義-悲』……?」

 

 

「グリムロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

視点:ハジメ

 ……

 ……?

「……ここは?」

 目を覚ました時、まず感じたのが体の窮屈さだった。どうしてか、手も足も動かすことができない。

 少し混乱したが、意識が完全に覚めた時、ようやくその理由が分かった。

 俺は今、十字架に両手両足を縛られている。いわゆる磔の状態か。

 確か俺達は、あの時魔轟神と戦っていたが、その中乱入してきたコウによって、気絶させられた。どうやらそのままここに連れてこられたらしいな。

 周りを見渡してみる。

 ……どうやら、魔轟神の巣らしい。今はもう死んで動かない『ワーム・ゼロ』。何よりこんな不気味で窮屈な場所、この惑星(ほし)には一つしか無い。

 

 そして、右を向いてみると、

「カナエ……」

 カナエも、俺と同じ状態で磔にされている。

「おい、カナエ、カナエ!」

 呼び掛けると、目が動き、少しだけ開いた。

「しっかりしろ」

 もう一度呼び掛けると、ようやく目を開いた。

「ハジメ……これは一体……」

「俺にもよく分からんが、一応はまだ生きているらしい」

 一応は、な。このまま生きて帰れれば良いんだが……

「ん?」

 と、正面を向いて、下に視線を下げた時、それは目に飛び込んだ。

「あれは……」

 アズサとレイヴン? 青と紫もいる。

「何であいつらが……」

 いや待て、あれは、

 

「僕が手札に加えるのは、『E・HERO キャプテン・ゴールド』! そしてそのまま召喚!」

 

 決闘をしているのか? そして、その相手はレイヴン。

 二人とも決闘をしながら、遠くて見辛いが、その表情には、笑み……

 

「……そうか」

 始めからこうすることが目的だったのか。

 俺達の家族になりすまして、俺達人間を襲って、最後にはこうやって、惨めな姿を晒して楽しむ気だったのか。そして、その楽しみを感じながらの決闘ってわけか……

 

 今まで感じていた疑問も、混乱も、そしてそんな感情の塊の奥にある根底の感情が、俺の中で顔を出す。

 

 顔を出し、大きくなっていき、もう限界だと激しく揺れる。

 

 アズサ……

 グリムロ……

「グリムロ……」

 

 

 

視点:梓

 

「グリムロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

『っ!!』

 レイヴンが二枚のカードを取り出した直後、突然そんな声がこだました。

「ハジメ?」

 その声に、その場の全員が一斉にハジメを見る。

 顔が赤く光っている?

 

「よくも……! よくもよくも!! 俺達のことを散々騙してバカにして、最後にはこんな場所まで連れてきて、こんな、こんなことを!!」

 

「ちょ、何言ってるの? 僕は何も……」

 

「アズサはガキの頃からいつもそうだったよな!! 周りのことなんか考えずに、自分の考えを最優先にして動き回って、周りを巻き込む!! それは人間でも魔轟神でも同じだったってわけだ!! いやむしろ、グリムロに変わったからなお更か!? 俺達を殺したかったのか!? ああ!!」

 

「そ、そんな……」

 

「それでも姉貴だからずっと大切に思ってきた!! だが、結局お前はそういう奴なんだ!! 結局はアズサだろうがグリムロだろうが、そんなバカ野郎を家族だって思って、ずっと大切にしてきた俺達が、バカだったってことだ!!」

 

 カァァァァァ……

 

 そこまで叫んだ直後、ハジメの顔の光が強まった。

 

「え、ハジメ?」

 

「な、あ……?」

 

 そして、ハジメの顔が上を向くと同時に、光となり、消えた。

 

「ハジメ!?」

 

「ハジメ!?」

 その直後だった。フィールドの『邪心経典』のページがめくれていき、そこにレイヴンの持つカードの一枚、『邪心教義-怒』。それがそのページに納まった。そして、そのページに浮かび上がった『怒』という文字と、その後ろには……

「え、ハジメ!?」

 間違い無い。ハジメの姿が、邪心経典に描かれている。

「これが『邪心経典』の効果だ。相手によって戦闘ダメージを受けた時、手札またはデッキから『邪心教義』と名の付くカードを墓地へ送っていく。そして同時に、それによって生贄が生まれる。その生贄が、人間だ」

「なにそれ!?」

 何だ、その効果は!?

「まだ終わりではない。お前が私に加えた攻撃は二回だ」

「あ……」

 

「ハジメ……いやあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「カナエ……」

 今度はカナエの絶叫。ハジメを失ったことで錯乱したか?

 

「ハジメぇ!! ハジメえええええええええええええ!!」

 

「カナエ、そんな……」

 涙を流しながら、縛られた体をめちゃくちゃに動かし、絶叫している。

 そして、ハジメの時と同じように、首に光が見える。その光が、強く光った。

 

「ハジメえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ……」

 

 やはりハジメと同じ、絶叫と共に、本に吸い込まれていく。もう一枚のカード、『邪心教義-悲』と共に。

「バカな……こんなことが……」

 もう一人の私はそんな光景に、言葉を失っている。

「うそ……うそだ……」

 グリムロはどうやらそれ以上だな。両手と両ひざを着いた。

「……む?」

 ふと気になり、『邪心経典』を見てみると、その上に、闇が集まっている。二枚のカードの力を吸い、何かが形成されていく……

 

「エンド宣言がまだだな」

 

 レイヴン……こんな状態で決闘などできるか。

 だが、この男はそういう男だ。

「僕は……一枚セット、これで終了……」

 

 

アズサ

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

 

レイヴン

LP:3000

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『邪心経典』

    セット

 

 

「ふふふ。そんなにショックだったか?」

「……」

「偽りの家族を消されたことが」

「っ!!」

「レイヴン……あなたという男は!!」

「はははははは!! 私のターン!」

 

レイヴン

手札:2→3

 

「モンスターをセット。更に魔法カード『太陽の書』。セットしたモンスターを表にする」

 

『メタモルポット』

 レベル2

 攻撃力700

 

「『メタモルポット』のリバース効果発動。互いに手札を全て捨て、カードを五枚ドローする」

 

レイヴン

手札:1→5

 

アズサ

手札:1→5

 

「そして、捨てられたベージは自身の効果で復活する」

 

『暗黒界の尖兵 ベージ』

 レベル4

 攻撃力1600

 

「バトルだ。ベージと『メタモルポット』よ、グリムロに攻撃しろ」

「アズサ!!」

 もう一人の私が叫び、その時ようやくグリムロが我に帰ったようだ。

「ぐぅ……!!」

 

アズサ

LP:4000→1700

 

「カードを一枚伏せる。ターン終了」

 

 

レイヴン

LP:3000

手札:4枚

場 :モンスター

   『暗黒界の尖兵 ベージ』攻撃力1600

   『メタモルポット』攻撃力700

   魔法・罠

    永続魔法『邪心経典』

    セット

    セット

 

アズサ

LP:1700

手札:5枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「さあ、お前のターンだ」

 グリムロはひざを着いたまま、カードをドローした。

 

アズサ

手札:5→6

 

「一つ言っておこう」

「え?」

「私のデッキに眠る、『邪心教義』のカードは残り三枚だ」

「三枚……」

 三枚……

「そして、その生贄は……お前達三人だ」

「え……?」

「なに?」

「は?」

 私達三人が、生贄?

「お前達の体を見るが良い」

 体?

 ……く、そういうカラクリか。

「僕が、苦……?」

 アズサの右手の甲。

「私は、憎……」

 もう一人の私の胸。

「私は、疑……」

 私の右の二の腕。

「それは、お前達がそれぞれ私に向けた負の感情。それこそが、邪心経典の力の源、人間の負の想念」

「じゃあ、さっきの二人は……」

「お前が魔轟神だと知った時に生まれた感情だ。家族を失った怒りと、悲しみ。それらが具現化し、邪心経典の供物となったということだ」

「じゃ、じゃあ、また攻撃した時、僕らは……」

「そう。ライフがゼロにならずとも、決着はつけられるということだ。三神将が消え、龍も三体のうち二体が倒れた今、残った脅威は、お前達だけなのだからな」

「っ!!」

「レイヴン!」

「く、貴様……」

「それで良い!! 存分に私を憎め!! 疑え!! そして苦しめ!!」

 随分と歓喜している。だが、私にはまだ疑問がある。

「だが、ここまで回りくどい真似をして、私達を消すことだけが目的ではあるまい」

 たかが三人の人間を殺すためだけにここまでのことをしたとも思えない。目的は何だ?

「他に何を狙っている?」

「ふふふ、冥土の土産に教えてやろう。邪心経典によって、人々の負の感情、邪念が一つの闇となることで、究極の闇の力が生まれる」

「究極の闇?」

「呼び方は様々だ。単純に闇の力、力そのものを指して超融合、(いにしえ)の伝承に従うならヴェルズ、いずれにせよ、それはあらゆる物を取り込み、一つにし、思いのままにできる力だと伝えられている」

「……それでトリシューラを滅ぼす気か?」

「少し違うがその通りだ。そして、この力で今度こそ人間を滅ぼす。そして私も、それでようやく思い残すこと無く死ぬことができる」

「……哀れな」

「何とでも言うが良い。さあ、決闘を続けろ!」

「そんなの……消えちゃうって分かってて攻撃なんかしない!!」

「だろうな。だからやり易くしてやろう」

「え?」

「罠発動『ナイトメア・デーモンズ』。これで、私の場のモンスター一体をリリースし、相手の場に『ナイトメア・デーモン・トークン』三体を特殊召喚する」

 『メタモルポット』が光になると同時に、その光はグリムロの場に移動しながら三つに別れ、三人の黒い子供に姿を変えた。

 

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 レベル6

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 レベル6

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』

 レベル6

 攻撃力2000

 

「そして罠発動『暗黒舞踏会』。このターン、全てのモンスターは戦闘では破壊されない。そして、モンスターは全て攻撃しなければならない」

「そんな!!」

「さあ! 三体の『ナイトメア・デーモン・トークン』よ、ベージを攻撃せよ!!」

 そして、言われた通り三体の『ナイトメア・デーモン・トークン』は、ベージに向かっていった。

「ダメ!! やめて!!」

 グリムロの声を無視しながら、三体はベージを攻撃する。

 

レイヴン

LP:3000→1800

 

「この瞬間、デッキより三枚のカードが墓地へ送られる!」

 デッキより現れた三枚のカード、『邪心教義-苦』、『邪心教義-憎』、『邪心教義-疑』。それが独りでに、邪心経典の中へ。

「そんな……」

「……」

「……ちっ」

 そして同時に、体の文字も光り出した。

「アズサ!」

 もう一人の私が叫びながら、グリムロの元へ駆け寄る。

「梓、ごめん、僕……」

 それ以上言う前に、梓はグリムロの体を抱き締めた。

 

「これで全ての願いが叶う!! 究極の力が!! 私のものとなる!!」

 

 ……ここまでか……

 

「ダメ……助けて……」

「お願い……」

 

 

 

 




お疲れ~。
サクサクオリカ行こう。


『邪心経典』
 永続魔法
 自分が戦闘ダメージを受けた時、デッキから『邪心教義』と名の付く魔法カード1枚を墓地へ送る。
 このカードを墓地へ送ることで、この効果で墓地へ送ったカードの種類×2のレベルを持つ『暗黒界』と名の付くモンスターを、手札、デッキから特殊召喚する。
 この効果で5種類のカードを墓地へ送った時、手札、デッキからレベル12の『暗黒界』と名の付くモンスターを特殊召喚することができる。
 この効果は相手ターンでも発動することができる。

ご存知、GXにてブロンが使用。
効果が色々と不明なのでこんな感じにしました。納得できないという方は異世界ということで割り切って下さい。
『暗黒界』限定だし、こんな手間かけるくらいなら普通に特殊召喚する方がてっとり早いというね。
まあ目的は別にあるからどっちでも良いんだろうけど。


『邪心教義-怒』
『邪心教義-悲』
『邪心教義-苦』
『邪心教義-憎』
『邪心教義-疑』
 通常魔法
 このカードは発動できない。
 このカードが墓地に送られた時、墓地に存在する同名カードを全て除外する。

同じく、ブロンが使用。
『邪心経典』の発動のためだけのカードです。
詳しく話せることは特に無いのでこれで。


『暗黒舞踏会』
 通常罠
 フィールド上のモンスターを全て表側攻撃表示に変更する。
 このターン、フィールド上のモンスターは全て攻撃を行わなければならない。
 フィールド上のモンスターはこのターンのバトルフェイズ終了時まで戦闘では破壊されない。

はたまたブロンが使用。
今回みたいにわざと攻撃させて自滅を誘ったり、自分のターンで相手が守備を固めてても無理やりダメージを与えられる。
これも何だかんだ悪用できそうね。


次が完結編ですので、ちょっと待ってて。

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