……
うんまあ言えるこたそれだけだ。行ってらっしゃい。
視点:明日香
決闘が終わって、私達はまたボートを着けていた。
梓と平家さん、凄い決闘だったわ。梓の決闘を見たのは三度目だけど、今までの二度の決闘を、梓はノーダメージで勝ってきた。それを、ライフを1000まで削ったうえに、あともう少しの所で追いつめるなんて。梓が『E・HERO アブソルートZero』を出さなければ間違いなく平家さんの勝ちだった。
「まさか梓くんがE・HEROを使うなんて、思ってなかったよ~」
「本当だぜ。それにお前の使ったE・HERO何なんだ? 三枚とも俺も知らないカードだったぜ!!」
十代は相変わらずだし。けど十代も知らないなんて意外ね。私も知らないカードだったけど、十代なら知ってるかと思ってた。
「……ところで平家さん?」
「へ?」
「ふと気になったのですが、最後にドローしたのは何のカードだったのでしょう?」
「え? えっと、『六武衆の理』だけど」
「……え?」
平家さんの返事に、梓はなぜか呆然と目を見開いた。
「梓?」
「どうかしたの?」
「……」
梓は呆然とした表情のまま、ぶつぶつ何かを呟いた後、ゆっくりと口を開いた。
「えっと、その……今更こんなことを言うのもどうかと思うのですが……」
「え? なに?」
「何だ?」
どうしたのかしら?
「その……」
「今の決闘、平家さんの勝利でした」
『……』
『はぁ!?』
いきなりの言葉に、梓以外の声が重なった。だって、あの状況で、平家さんが勝ってたですって!?
「ど、どうやって!?」
平家さんは慌てた様子で聞いてる。そりゃ当事者なんだから当然よね。十代達も興味津々って顔して梓を見てる。あと、ジュンコにももえも、あと多分、私もね。
「えっとですね……私が『サイクロン』を発動した時、『リビングデッドの呼び声』を黙って破壊されていましたよね?」
「う、うん。無理に発動して特殊召喚しても、どうせ破壊されたらモンスターも一緒に破壊されちゃうし」
「ええ。ですが、あなたの場には『六武の門』がありました」
「うん……うんっ!?」
あら? 突然平家さんが、何かに気付いたみたいに硬直した。
「あの時、『六武の門』には武士道カウンターが二つ乗っていました。あの時『サイクロン』にチェーンして『リビングデッドの呼び声』を発動すれば、特殊召喚自体は可能なので、適当な六武衆を特殊召喚しただけで『六武の門』の武士道カウンターが四つに増え、その後に破壊されます」
「うんうん」
なぜか十代が相槌を打ってる。
「その後で梓さんがターンを迎えて『六武衆の理』をドローし、門の効果で適当な六武衆を手札に加えて通常召喚を行えば、門に再び武士道カウンターが乗ります。そこで理を発動して墓地から『六武衆-ヤリザ』を特殊召喚すると、門の武士道カウンターが再び四つに増えます」
「それで?」
「紫炎は既に発動しているカードの効果に対しては制限を与えないので、ここでまた武士道カウンターを四つ取り除き、墓地に眠る『六武衆の師範』を手札に加え、特殊召喚して更に門に武士道カウンターを二つ乗せます」
「それで、えっと……平家のフィールドは、ヤリザと師範の二体か」
「はい。後は、師範がいるのでヤリザの効果で直接攻撃を行うか、門から武士道カウンターを二つ取り除き、師範の攻撃力を2600に上げ、紫炎を戦闘破壊した後、無防備になった私にヤリザで直接攻撃を行えば……」
『……』
本当だ。確かに、梓の言う通り、全ては結果論とは言え、そうすれば平家さんが勝ってた。
「なぜ武士道カウンターだけでも乗せようとせず、ただ『リビングデッドの呼び声』を破壊されたのか、どうしても疑問だったもので、その……」
「……」
「平家さん?」
「……うぅ」
「うぅわあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」
平家さんが壊れた!!
「平家さん! ど、どうか落ち着いて!」
「気にすることねえって! あの状況で普通そんなこと誰も思い付かねえよ!」
「私だってたった今梓に言われて気付いたんだもの! それに、『六武衆の理』を引くことだって確定してなかったし、仕方が無いわ!」
……
…………
………………
「いやぁ~、取り乱して申し訳ない……」
五分くらい慰めたかしら。ようやく落ち着いてくれた。
「ところでさ、結局梓への恨みって何だったんだ?」
え? このタイミングでそれを聞くの?
「あぁ、あれね……」
あ、話すんだ。
「実は、わたし……名前が、『平家 あずさ』って言うんだ」
「え? 同じ名前だったのか!?」
(やっぱそういうことっスか……)
「一応、漢字と平仮名っていう違いはあるけどね。中等部までは普通だったのに、梓くんが入学して目立っちゃったから、色々間違えられたりからかわれたりして、地味に嫌な目に遭ってきたんだよ」
「そうだったのか?」
十代が私に話し掛けてきた。
「ええ。お陰でそれまでは私達も名前で呼んでたのに、本人が嫌がるから名字で呼んでたの」
「やはり、そうでしたか……」
あ、梓が落ち込んだ。
「私の存在が、一人の生徒に嫌な思いを抱かせたのですね……」
「いいよ。もう気にしてないよ。君との決闘は楽しかったし、お相子だよ」
そう言った時、梓の顔が段々晴れやかなっていった。
「本当ですか?」
「うん。これからは名字じゃなくて、名前で呼んでもいいよ。梓くん!」
「……あずさ、さん」
「うん!」
満面の笑顔で言ってる。何だか久しぶりに見た気がするわ。
「じゃあ、俺達もそう呼んでいいか?」
「私達も、元に戻っても良い?」
十代とジュンコが話し掛けた。
「もちろん! よく考えたらたかが名前だもんね。あ、でも紛らわしくても自己責任てことで」
みんなが笑顔で頷いた。もちろん私も。やっぱり名字じゃ、少し堅苦しいものね。
「それじゃあ、もう遅いし、帰りましょうか」
私がそう言ったことで、みんなが一斉に動き始めた。十代と翔君が、こっちは私と、あずさがオールを持った。
そして、漕ごうと手を動かした、その時、
「あの」
急に、梓が声を出した。
「へ?」
「どうかしたのか?」
「いえ、実は、ぜひ、その……あずささんに、お願いしたことがあるのですが」
「わたしに?」
「はい。出会ったばかりで申し訳ないのですが、あずささん以外にはお願いできないことでして……」
笑顔だけど、困ったようにうつむいてる。そんなに頼み難いことなのかしら。
「うん。いいよ」
やっぱり即答よね。あずさの性格なら当然か。
「本当ですか?」
「うん。わたしにできることなら何でも言って」
あずさは笑いながら立ち上がって、梓達の乗るボートと向かい合った。
「では……」
梓も立ち上がって、あずさと向かい合うように立つ……字を変えないと本当に紛らわしいわね。
そんなことを思った瞬間、梓があずさの手を両手で取って……
「私とお付き合いして下さい!!」
視点:あずさ
「……はい?」
「私の恋人になって下さい!!」
「……へ?」
「私をあなたの恋人にして下さい!!」
……
…………
………………
!!
「えぇ~えぇー!!」
い、いきなり何を言い出すんですかこの人は!? ちょっ! そんな綺麗な目で真っ直ぐ見つめられても困るよ~!!/////////
か、顔が熱くなってきた//// 真っ直ぐ目を見られなくなったから目をあちこちに泳がせて、みんなの顔が見えたけど、みんな驚いてる。
当たり前だよ! あの梓くんがだよ! あの綺麗で強くて入学試験トップで有名な梓くんが、わたしにだよ~!!////////
「ちょ、ちょっと、一回、手を離そうか」
そう言ったら離してくれたけど、目はわたしを見たまま。凄く真剣な目だよ~////
十代「梓、お前……」
翔 「梓さん……」
ももえ 「まあ、梓さん……」
ジュンコ「やだ、本当に……?」
明日香 「大胆……」
みんなが思ったことを口にしてる。何だかそれがラブソングに聞こえてきたのは気のせいだよね~///////
「えっと、その、色々聞きたいんだけど……わたし達って、今日が初対面だよね?」
「はい」
「会ったのは、お互いさっきが初めてで間違い無いよね?」
「はい」
「それなのに、何で急にそんなことを?」
「私も初めての経験ですが、一目惚れです」
一目惚れ!? わたしに!?
「あなたと出会い、感じました。あなたと闘い、分かりました。あなたとの決闘で、確信しました。あなたと話しをして、自分を抑えられなくなりました。私にはあなたしかいない。あなた以上の女性と出会うことなど無い。だから今、私は思いを伝えることを決めました」
また真剣な目で言ってる。うぅ、その目が弱いんだってばぁ……//////
「で、でも、わたし、梓くんのこと何も知らないし、梓くんだって、今日会ったばっかでわたしのこと知らないんじゃ……」
「ええ、何も知りません。私も、今自分がどれだけ常識外な発言をしているのか、あなたから見てどれほど不快な行動を取っているかは自覚しております」
別に不快ではないけど……
「しかし! だからこそ今しか無いと感じました!! あなたは美しく、そして素晴らしい女性です!! だから今後、他の男性方があなたを放っておく訳が無い!! あなたの隣に、私以外の男性が立っている。そんな光景を想像しただけで胸が張り裂けそうになる!! だから今、あなたを私だけの物にしたい!! そして私も、あなただけの物になりたい!!」
~~~!?//// ~~~~~~~~!!////// //////////
十「す、すげえ……いつも静かで冷静な梓が、めちゃくちゃ熱いぜ……!」
翔「これが恋っスか、凄いっス……」
も「まぁまぁまぁまぁ……////」
ジ「ど、どうするの、あずさ……////」
明「大胆……////////」
あわわわわわわっ、どうしよう!//// 本当にどうしよう!!//////
恥ずかしいし梓くんは真剣に見てるしみんなは面白がってるし梓くんは真剣に見てるし////// 大事なことだから二回……何回でもいいよ!!////////
へ、返事しなきゃ//// か、顔が熱い//// あた、あた、頭が回らない////
お、落ちついてわたし!//// まずわたしは梓くんをどう思ってるか考えよう////
梓くんは……
凄く綺麗だし、決闘は凄く強いし、怒ると怖いけど普段は凄く優しいし……
成績は良いし着物が似合うし喧嘩も凄く強いし……
髪も綺麗だしお肌は綺麗だし近くに寄ると良い臭いがするし……
か、完璧だ。完璧超人だ。全く非の打ちどころが無い。
いや、でもだからって、それで好きってことでもないし、わたし自身が梓くんのことどう思ってるかだよね////
わたしは、えっと、梓くんが~~~~//////
「……そうですか」
……へ?
急に梓くんは目を閉じて、一歩後ろに下がった。
「すみません。そうでしたね。初対面だというのにこんなこと、あまりに非常識でしたね」
え? いや、その……
「何より、私は先程まで、あなた方を斬滅しようとしていた人間。始めから、こんなことを言える立場ではありませんでした」
今それを言うの!? もう気にしてないよ!! わたしだって君を粉砕しようとしてたのは同じなんだから!!
「ただ、一つだけ……」
一つだけ……?
「これからも、変わらず友達でいてくれること。それだけは、許していただけますか?」
十「梓……」
翔「梓さん……」
も「梓さん……」
ジ「梓さん……」
明「梓……」
それは……
「もちろん、良いよ」
そう言ったら梓くんは、さっきまでと同じ、いつも見せてくれてる笑顔を見せた。
「良かった。これで思い残すことはありません」
そう言って、腰を下ろした。
「皆さん、時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。また明日、授業でお会いしましょう。お休みなさい」
そう言い残して、ボートを漕いで帰っていった。
『……』
残った女子四人とも、何も言わない。それだけ、たった今起きたことが衝撃的だったってことだよね。
「良いんですの?」
そう話し掛けてきたのは、ももえちゃん?
「梓さん、一方的に振られたと思い込んで、諦めてしまっていますわよ」
それは分かってる。早く返事をしなかったわたしも悪かったよ。
「……でも、本当に急だったから。返事をしたくても、全然わたしの気持ちなんて分からなかったし、言葉を整理する前に行っちゃったし……」
「そうですわね。だとしても、梓さんを振るか、梓さんを受け入れるか、どんな返事であれ、きちんとあずささんの口から答えてあげるべきですわ」
……やっぱり、そうだよね。
「うん。いつになるかは分からないけど、わたしなりに考えて、梓くんにちゃんと返事するよ」
でも、本当にいつになるんだろう。梓くんのことは好きだけど、それって恋愛なのかな……?
視点:外
その夜、二人の
(うぅ~~眠れない。今思い出しても恥ずかしいよ~////)
(……眠れない……ずっと、あの人の姿ばかりが浮かんでくる……)
(ここまで恥ずかしいってことは、やっぱり好きなのかな~////)
(忘れなければならない……なのに、愛しいという気持ちばかりが湧いてくる……)
(あぅ~、梓くん……可愛いし決闘は強いし着物が似合うし私より強いし~////)
(あずささん……とても愛らしく、決闘も強く、笑顔が似合い、そして私より強い……)
(あぁ~、告白の言葉が忘れられないよ~////)
(今思えば、恥ずかしい言葉を次々と……それだけ彼女が愛おしかったのですが……)
(梓く~ん……////)
(あずささん……)
こうして、二人とも眠れぬうちに夜は更け、やがて陽が昇ったのであった。
余談だが、朝を迎えた直後、女子寮前の船着き場が半壊していたことで騒ぎが起こったことは言うまでもない。
お疲れ様です。
ちなみにあずさの外見ですが……
言うまでもないか。
まあ敢えて言わせてもらうとすりゃ、日本一有名な梓を誰よりも愛するウンタンだ。
言うこたそれだけだな。
んじゃ、次は月一試験編だからね。ちょっと待ってて。