遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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ど~もね~。
今回のお話しですが、いかんせん妄想部分が多分に含まれております。主に三体の龍について。
まああくまでこの小説の中の設定ですし、「おい!」と思っても許してやって下さいな。
ほなまあ、行ってらっしゃい。



第五話 トリシューラの咆哮

視点:梓

 あれがトリシューラ……

 その圧倒的な存在感は、私と、もう一人の私を捕らえ、動けなくした。

 まず見て分かるのが、その体の大きさ。

 『ワーム・ゼロ』自体がかなりの大きさだが、そこから出てきたトリシューラもかなりの大きさだ。

 最も小さなブリューナク、そして、あの時のグングニールの大きさは、ブリューナクの倍ほどだったが、トリシューラは更にその倍、グングニールの倍の大きさか。

 そしてその外見も、ブリューナク、グングニール以上に異質なもの。

 体つきは、日本の龍のようなブリューナクや、獣に近いグングニールとは違い、西洋の竜のようで、骨格の作りはむしろ人間に近い。だが、あの二体以上に大きく雄大な翼、強靭であろう長い尾、そして、三つの首。あの二体とは明らかに違う、形と、存在感と、そして……

「美しい……」

 隣に立つ私が呟くのが聞こえる。そう。その姿は今までの二体の誰よりも、美しかった。

 そして、その美しさの中に確かに感じる。巨大で雄大で、強大な力を。

 

『……』

 

 トリシューラが、こちらに顔を向けた。

 

『……』

 

「……」

「……」

 三人共が、無言で互いを見つめる。聞こえてくるのは、未だ戦う三匹の虎王と、三神将達の音だけ。

 私達が奴に魅了されている中、奴は私達を見ながら、何を感じている……

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

「っ!!」

「っ!!」

 その咆哮が、私達の体を激震させた。

 だがこれは、単なる驚愕からの体の反射ではない。

 体の芯から、奥底から、全身の血液が胎動しているような、まるで、体全体が脳の信号を無視し、あのトリシューラという存在を拒絶し、この空間から消えたがっているように……

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

「っ!!」

「っ!!」

 一声で動けなくなった。そして二声目で、足が崩れ、ひざを着いた。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

「っ!!」

「っ!!」

 そして三度目。遂に、手を着いた。

 互いに動けない、だが……

「アズサ……」

 また私の声が聞こえた。

「アズサ……!」

 もう一度その名を呼び、もう一人の私は走り、グリムロを抱き締めた。

「……っち!」

 どの道、あと一度でも鳴かれればまずいかもしれない。私も立ち、二人の前に立つ。

「梓さん……?」

「そんな真似をしたところで守れはしない。守りたければ、もっとしっかりと守れ……アズサを」

「……!」

 話しながら、私は着物の懐から、クナイやら手裏剣やらをあるだけ取り出し、全てをトリシューラへ投げた。

 

『……』

 

 それらの武器を察したのか、トリシューラはそれ以上何をすることもなく、武器が届く前にそこから飛び立った。

「……があぁっ!」

「うぅぇっ……!」

 お互いに、一斉に口を押さえ、その場に嘔吐してしまった。

「ぜぇ……ぜぇ……」

「はぁ……はぁ……」

 ……ちょっと待て。

 ブリューナク、グングニール、そして、今のトリシューラ……

 まさか……

「おい……」

 もう一人の私に呼び掛け、それが正しいかを知るための疑問を尋ねる。

「グングニールの力は、どんなものだった?」

「力……?」

「私が倒し、手に入れたブリューナクの力は、敵を幻に捕らえる力だった。グングニールは……?」

「なぜそんなことを……?」

「いいから答えろ!」

 切り倒された森の木々から、大方の予想はつくが、

「グングニールは……翼で起こす風で、あらゆる物を斬り裂く力……」

 やはり、そういうことか。

「三体の龍の正体が分かった……」

「正体……?」

 奴らの正体……

「三匹の龍のそれぞれの力……それは、否定の力だ」

「否定……?」

「ブリューナクは、幻で相手を捕らえ、それ以上の前進を妨げる、『時』を否定する力」

「時……ではグングニールは?」

「あらゆる物を、斬り裂くことで、破壊する、『形』を否定する力」

「形を……」

「そして、今のトリシューラだ。貴様も感じたはずだ。あの咆哮と共に、体の中から、命そのものを引きずり出されるような感覚を……」

「……」

 答えはしないが、その沈黙が答えだ。

「互いに感じた通りだ。奴の力は、『命』を否定する力だ」

「……時、形、命……まさか!」

 ようやく気付いたか。

「そうだ。その三つは紛れも無く、世界の理そのもの。奴らがなぜ生まれたかは分からない。だが、三体が揃って、その三体がもたらしたもの、それが、この世界の否定だ」

「世界の否定……だから誰もが敵わなかった。ブリューナクとグングニール、二体なら御することもできた三体の龍に。三体揃った途端、この世界という場所に生きる、あらゆる全てを否定されたから」

「そうだ。三体の存在は言わば、世界の理の対極。始めから、世界の一部でしか無い人間や、他の種族達が敵う存在ではなかったということだ。見ろ」

 指を刺した先には、倒れた虎王と、三神将、そしてビルの上のコウ。三匹と三人と一体、誰も動くことはない。三神将は元より、生きていたコウも、三匹の虎王さえも、絶命していることが分かる。

「一瞬見えたが、最初の一声で絶命していた」

「ですが、それならなぜ私達は……」

「……おそらく、私達が奴らに否定される対象ではなかったからだ。私も、そして貴様も、こことは違う世界から来た。だから奴らの力では否定されることはなかった」

 もっとも、あと一回鳴かれれば危険だっただろうが……

「始めから奴らを倒すことができるのは、私達や、レイヴンの作りだした闇の力のような、この世界には存在しえない、奴らに否定されることの無い存在。そんな、この世界のものではない存在しかなかったということだ」

「……」

 これが運命と呼ばれるものか。それとも、都合良く重なり合った偶然の産物か。

 いずれにせよ、もし私達が始めから、三体の龍を倒すため、誰かに導かれた存在なのだとしたら……

 だがまずは、

「アズサはどうだ?」

 それを尋ねると、私は慌てた様子でアズサの体を見た。

「……良かった。生きています」

「……」

 安堵しているのか、私は……

 まあ良い。

「それでどうする?」

 その質問に、もう一人の私は、私に顔を向ける。

「虎将の力、龍の力、私達はそれぞれ手に入れた。そもそも、この世界で奴と戦えるのは、始めから私達しかいない。だがトリシューラは、あの二体とは格が違い過ぎる。少なくとも、私達の個々の力で、敵う相手ではない」

「……」

「方法があるとすれば、どちらかがどちらかの力と、私の持つこの闇の力」

 あの儀式から生まれた黒い力を見せる。

「それら全てを手にしたならば、可能性はあるかもしれない」

 もう一人の私は一度顔を伏せると、もう一度、私の顔を見た。

「……少し前の私なら、協力しようと言ったでしょう。けれど、あなたは今まで、多くの罪を犯してきた。そしてその罪を、あなたは償いはしないでしょう。そんなあなたとは、一緒に戦えない」

「だろうな。ならば、どちらか強い方が、トリシューラと戦う他無い。どちらかが、どちらかの力を奪ってな」

 

「……」

「……」

 

 

 

視点:外

 

「だが、その前にまず……」

「……ええ」

 

 互いに向かい合いながら、互いに話し掛けた直後、同時に別方向を見る。

 

 ズドドドドド……

 

 遥か向こうの、都市の外。そこから直前まではいなかった大量のワーム達が、凄まじい勢いでこちらに近づいてきていた。

「まさか、この期に及んで戦えません、などとは言うまいな」

「……私は……」

 紫の梓は一瞬、アズサに目を向け、そして、再びワームを見つめた。

「もう、甘えたことは言わない。守ると決めて、そして誓ったから。私は……」

 

「奴らを殺す」

 

「……」

 紫の言葉の直後、青はアズサに向かって手を伸ばす。その瞬間、アズサの四方と真上を囲む、いくつもの結界が隙間なく生まれた。

「梓さん……」

「あの女が死に、そのせいで、戦えなくなった貴様まで死なれては、虎将の力も、龍の力も手に入らない」

「……」

 

 それ以上、言葉は無かった。

 刀を帯びた青色と、素手を剥き出しにした紫色。それが静かに、一気に走り出し、ワームに向かっていった。

 

 

 キンッ

 キンッ

 

「どうしても一度、聞かせて頂きたい」

 

 ズバァ

 

「何をだ?」

 

 ドォンッ

 

「なぜあなたは、里を犠牲にしたのです? あんなに私達を愛して下さった、優しい方々を。本当に、その力だけが目的ですか?」

 

 バキッ

 バキッ

 

「……貴様は気付かなかったか?」

「何が?」

 

 キンッ

 ズバババババッ

 

「私も聞こう。里の住民達は、私のことをどう思っていた」

 

 ガッ

 

「みんな、失ったものもありますが、あなたのことを許しているように思えました」

 

 スゥ……

 

「アズサのこともか?」

 

 ズバァッ

 

「ええ。彼女のことも、アズサとして、受け入れてくれました」

「やはり、そうか……」

「え?」

 

 ドンッ

 

「私よ、なぜレイヴンは、私達を邪心経典の生贄にしようと考えたと思う?」

「それは、私達を戦わずして消すために」

 

 グサ

 グサ

 グサ

 グサ

 

「だがそれ以前に、奴は邪心経典によって究極の闇の力を欲していた。それを手にしたくば、私達でなくとも、私が結界を壊した時点で、適当な人間を攫えばそれで事足りたはずだ。決闘だけが、あの儀式を成功させる手では無いだろうからな」

 

 ヒュッ

 バシュゥッ

 

「なら、なぜ私達を?」

「レイヴンは知っていたのだろう。里に生きる者達が失った物を」

「失った物?」

 

 ズバァ

 

「里の者達は、戦争の影響もあったのだろう。あらゆる存在を愛し、優しさを向ける。だが、何かあれば、怒り、悲しみこそすれ、誰かを疑い、そして、憎むことはない」

「あ……」

「奴らは私が裏切ったことは聞いていなかった。だが、ずっと帰ってこなかった私をすんなりと受け入れた。そして、あれだけのことをしたのに、恨むことはない。アズサのこともだ。それで、いや、ずっと以前から分かっていた。里の人間達には、その二つの感情が欠落している。人として必ず持つべき負の感情を。醜く、だが必要な感情を」

 

 ドッ

 

「だからレイヴンは私達を生贄に選んだ。奴は私達が外の世界の人間だということも知っていた。それなら、欠けた感情を補えると考えたのだろう。娘に苦しみを与えるという目的と共にな」

 

 ズバァ

 

「……そのために、里を魔轟神達に?」

「そうだ」

「ではなぜあなたはそんなことを……」

「ああでもしなければ、奴らは失った感情を取り戻すことはできないだろうからな。だが、いずれにせよ、無駄だったようだが」

 

 ズバァッ

 ズバァッ

 

「憎しみと、疑い……そんなもの、無くて何が悪いのです!?」

 

 ズバァッ

 

「なに?」

「そんなもの、持たない方が幸せに決まっている。ただ、相手のことを思いやり、愛する気持ちがあるのなら、そんな物……!」

 

 ガッ

 

「貴様は分かっていない。憎むことも、疑うこともできない人間が、真に人間を愛することなどできない」

 

 ブシュゥッ

 

「わけが分からない! そんな物、持つことで、苛まれる方が辛いだけだ!」

 

 ズバァッ

 ズバァッ

 

「貴様は誰かを、心から憎んだことがあるか?」

「それは……」

「そうだ。だから貴様は、誰かをそこまで愛することができるのだ。そして、私もそうだ。私が里で愛した人間、それは……貴様一人だ!」

「!!」

「貴様は私を愛し、教え、そして導いてくれた。私は、心から貴様に憧れた。貴様のようになりたいと、そして、貴様のために生きたいと心から願った。だから貴様の願いは、どんなことでも受け入れたい。貴様のためなら何でもできる。そう感じていた」

 

 ズバァッ

 

「……」

「そして貴様以外は、誰も愛することができなかった。その理由は今なら分かる。それは、貴様以外の誰からも、人らしさを感じなかったからだ」

「そんな……」

 

 ズバァッ

 

「それが間違っていると言われれば否定をする気は無い。だが、それが私の答えだ! 貴様以外の誰が死に、失おうが知ったことではない。そして里の人間達も、失ってさえ何も得られなかったというなら、もはや人として、生きていく価値は無い」

「何と言うことを……」

「そしてそれは貴様も同じだ。ただ憎悪を、疑いを、人間の負の想念を憎むことしかできないのなら、始めから、里の人間達と変わらない。人間として、未熟で幼稚なだけだ」

 

「刃に咎を!! 鞘に贖いを!!」

 

 ズバババババババババババババババババババババババババババババババッ

 

 ズゥンッ!!

 

「……許せない」

「なに?」

「そんなふうに、命を軽んじ、優しさを否定して、平気で命を奪えるあなたを許せない」

「……許せなければどうする?」

「あなたは、私が倒す」

 

「……」

「……」

 

 それ以上何も言わず、鞘に収まった刀を握りしめる。

 これ以上、今の二人に言葉は不要だった。

 

 バッ

 

 

 

 




お疲れ~。
人としての負の感情、あるのとないのとじゃどっちのが幸せなのかな。

まあいいや。
次回、とうとう主人公対決。

勝つのは愛か憎悪か。

トリシューラを手に入れるのは、梓か梓か。

咲き続けることができる花は、青か紫か。

てことで、待ってて。

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