遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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やぁ~。
さあ、三話へ行こう。
行ってらっしゃい。



第三話 憎しみの結末、凶の再来

視点:明日香

 すごい……

「翔……」

「強すぎなんだなぁ……」

「あの、翔がここまで……」

「見事だ……」

「……」

 

 翔君は強い、それは分かってた。けど、そのことを今日ほど痛感させられたことは無かったと思う。

 昨日の翔君の姿を見て、ちゃんとした決闘ができるのか、ずっと心配だった。

 亮を人形にされたことに激怒して、それでただカミューラのことを憎んで、そんな状態でまともな決闘ができるのかって。

 けど今日の翔君は、そんな状態の上で終始冷静に場の状況を見回して、その状況で的確なプレイングを行って、不利な状況も、決して不利だとは思わせない、鮮やかな決闘を見せた。

 そして気が付けば、フィールドのモンスターはゼロ、カミューラのフィールドには最上級モンスターが二体、そんな大ピンチの状況を、三枚の手札と一枚の伏せカードで、見事にひっくり返して、逆転勝利を飾った。

 

「私の……敗け……」

 

 ライフをゼロにされて、力なくひざを着いたカミューラの声が聞こえた。

 私達と同じく、今目の前で起こったことに呆然としていた。

 

「落ち込んでるとこ悪いけどさ、これで終わりじゃないのは分かってるよね」

「……!!」

 

『っ!!』

 そうだった。これは闇の決闘。

 そして、後攻のカミューラが、一番最初に発動させたカードの発動条件が……

 

「……」

 翔君の言葉の直後、カミューラの後ろから、また『幻魔の扉』が現れた。

 そして、そのドアがゆっくり開きながら、その隙間から、強い光が漏れる。

 

「自分の発動したカードに吸われろ!! クソ女!!」

 

 その翔君の絶叫に応えるように、扉から白い手が伸びて、カミューラに掴みかかった……

 

「だめえっ!!」

 

『……!!』

 悲鳴のような、そんな声が隣から聞こえたと思ったら、隣に立っていたあずさが走り出していた。

「な……!」

 あっという間に壁を駆け上がって二階へ跳び上がったかと思ったら、その手が触れる寸前だったカミューラを背負って、私達の前へ飛び降りた。

 けど、扉から伸びる腕はそんなカミューラを追い掛けて、こっちまで伸びてきた。

「危ない!! 逃げろ!!」

 万丈目君が叫ぶのとほぼ同時に、あずさがまたカミューラの前に躍り出た。と、気が付くと、その手にはいつの間にか黄色の手甲が着けられてる。その状態で、こっちへ伸びてくる腕を、そして、その先にある扉を見据えながら、足を開いて、腰を落として……

 

「淡く微笑め、東の照!!」

 

 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオ……

 

「……」

『……』

 ありのまま今起こったことを言葉にすると……

 あずさが叫びながら扉へ跳んで、それを捕まえようとする腕を全部避けながら、その扉へ届いた瞬間、その扉を殴った。

 その瞬間、扉は光に包まれて、消えた。

 

『……』

 

 扉の脅威は消えた……

 相変わらずあずさは強い……

 もう心配は何もない……

 

 そんな、色々な思いや感情で、わけが分からなくなっているうちに、

 

「何でだよ!!」

 

 またそんな、翔君の絶叫が聞こえてきた。

「何でそんな奴助けたんだよ!! その女が何したのか、あずささんだって見てたじゃないか!!」

 いつの間にか一階まで降りてきて、へたり込んでるカミューラを見ながら、あずさにそう叫んでいた。

 

「……本当にね」

 

 と、今度はカミューラの声が聞こえた。

「放っておけば私はあのまま幻魔の生贄になってた。そうなれば、人形にした二人も元に戻ったでしょうに……どうして、敵の私を助けたのよ?」

 助かったのに、あまり嬉しくなさそうな声でそう聞いた。

 助かったことへの安堵とか、助けられたことへの混乱とか、そんなもの以上に、自分を助けたことへの不信感、それが強いみたい。

「……」

 あずさはそんなカミューラから視線を外しながら、悲しげな顔でうつむいた。そしてその後、

「だって……」

 そう、言葉を切り出した。

「だって……わたしも、あなたの気持ちが、何となく分かったから……」

「なに?」

 あずさ、もしかして話すの? 過去のこと……

 

「わたし、強いでしょう? でも、昔から強かったわけじゃなくて、今よりずっと弱くて、頭も悪くて、体も小っちゃくて、それで、よくからかわれたり、いじめられたりして、すっごく悔しい思い、何度もしてきたんだ」

「そんなことしてくる子達を見返したくて、強くなるためのトレーニングを始めた。それで、何年もたくさん頑張ってるうちに、気付いたら、いじめてくる子達全員に仕返しできるようになって、喧嘩になっても負けないようになって、むしろ、男の子が大勢で来ても返り討ちにできるようになって……それで気付いたら、わたしの周りには、友達が一人もいなくなってた……」

「……」

「今考えたら当然だよね。こんな、壁とか扉とか、素手で壊せるような女の子なんて、怖がって近づかないよ。それで、結局小学校じゃ一人も友達ができなくて、何となくその町にもいづらくなっちゃってね、それで、アカデミアの中等部に入学したんだ」

「それが、アカデミアに入った理由……?」

「もちろん、その時から決闘は大好きだったし、決闘の勉強して、プロになりたいって思いもあったよ。けど、ほとんどの理由はそっち……」

『……』

 

 まだ中等部にいた頃、私と、ジュンコとモモエの三人にだけ打ち明けてくれた、あずさの秘密だった。

 あの頃のあずさは、今と同じで、ちょっと天然の入った普通の女の子、そんなふうに思っていた。そんなあずさとたまたま気が合って、良い友達になれた。

 けど一度、私が男子生徒に絡まれていたところに割って入って、殴りかかってきた男子を返り討ちにしたことがあった。そこで、昔の話しを聞かせてくれた。

 あずさの強さも、あずさの過去も、四人だけの秘密にしよう。そう約束して、ずっと誰にも言わないできた。

 もっとも、強さはもう学園中に知れ渡ってるからどうしようもない。だからせめて、過去だけは、と思っていた。

 

 そんな、あずさにとっても思い出したくもない過去を話すことで、あずさはカミューラに語り掛けていた。

「一方的に仲間を全滅させられちゃったカミューラと、自分から人を遠ざけることになっちゃったわたしとじゃ、思ったことや、感じたことは全然違うと思う。でも、それでも一人ぼっちになった時の辛さとか、苦しさとか、そうなっちゃった原因になったものに恨みを持っちゃうこととか、全部、私は分かったから。だから……」

「だから……?」

「だから……カミューラにそんな思いを持たせたまま、見捨てちゃダメだって、思ったから……」

 

『……』

 終始、申し訳なさそうに話すあずさに、翔君も、私達も何も言えなかった。

 図らずもあずさの意外な過去を知ったことや、そんなあずさの気持ちとか、色々なことに、思うところがあったから。

 

「……」

 カミューラは無言で目を閉じたまま、ポケットから人形を取り出していた。

 そして、それに何かをしたかと思ったら、

 

「亮!」

「お兄さん!」

 

「おわ! ク、クロノス教諭!?」

 

 人形にされた二人が元に戻った。

「カミューラ……」

「勘違いしないでちょうだい。あんた達に借りを作りたくなかっただけよ」

 座ったままの状態で、ぶっきらぼうだけど、どこか嬉しそうな声でそう言った。

「……」

 けど、そんなカミューラに、翔君はまだ、強い視線を向けていた。

「翔くん」

 そんな翔君に、あずさがまた話し掛けた。

「何?」

「翔くんもさ、もう、カミューラのこと、許してあげない?」

「カミューラを……?」

「もちろん、わたしだって、カミューラのしたことは許されることじゃないって思ってるよ。でも、二人とも元に戻ったし、もう、カミューラのこと憎む理由は無いはずだよ。何より……」

 そこまで話すと、一層悲しげな表情に変わった。

「誰かのこと憎んで、それで怒って、そんな感情のままで行動しちゃうことほど、苦しいことは無いんだって、翔くんも知ってるでしょう」

「それは……」

『……』

 それは翔君だけじゃない。ここにいる全員が理解してること。

 誰かのことを殺したいほど憎んで、暴走して、止まらなくなる。

 とても怖くて、なのに悲しくて、こっちまで辛くなってくる。

 けど、そんな姿を目の前で見せつけられても、どうすることもできない。

 はたから見たら間違っていることでも、その人にとってはその感情だけが現実の真実でしかないから、止めたいと思っても、止める権利なんか無い、そんな気持ちにさえさせられる。

 あの時もそうだった。突然怒りだして暴走して、おかしくなって、いなくなってしまうまで、何もできなかった。憎いって思う気持ちを消す方法なんて分からないけど、それでも仲間として、精一杯支えるべきだったのに。

 

 そして、今の翔君は、あの時の姿に似過ぎてる。

 怒って、憎んで、暴走して、結果的に勝つことはできたけど、勝つこと以上に、カミューラへの害を望んでいた。

 それじゃダメ。それじゃ、あの時と同じだから。いくら憎い気持ちがあっても、その気持ちで暴走することだけは間違ってるから。

 

「……」

 翔君はしばらく考えた後、カミューラの前に立った。

「……」

「……もう、お兄さんも元に戻ったことだし……決闘にも勝って、正直、気は済んだ……」

「……」

「僕は……あなたを許す」

「……」

「ありがとう。良い決闘だったよ」

 そう言いながら、翔君は手を差し出した。

「……」

 カミューラも、そんな翔君の言葉に、何かを感じてくれたみたい。

 立ち上がって、差し出されたその手に向かって、自分の手を伸ばした……

 

 

 ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

 

視点:外

 

 グサッ

 

「かっ……!!」

 

『っ!!』

 

 突然のガラスの粉砕音が轟いた、次の瞬間だった。

 翔の前に立っていたカミューラの胸から、赤い何かが飛び出した。

 それは見ると、真っ赤な血に染まった、長い、だがどこか不気味な、日本刀の切っ先の形をしていた。

 そして、そんなカミューラの後ろにいたのが……

 

「甘いな。翔……」

 

 低く、鋭く、そして冷たい声。その声と同時に、貫かれたカミューラの体は上へ持ち上げられた。そんなカミューラの陰から現れた、そんな声には似つかわしくない、つばの二つ着いた異形の刀を帯び、青色の着物に身を包んだ、雪のように白く輝く美しすぎる顔。

 

「憎しみを消すことなど最初からできない。その相手を完膚なきまで、息の根を止め、その存在全てを否定するまで、憎しみが途切れることは無い。こんなふうにな」

 

 ブンッ

 バシッ

 

 最後の言葉を言うと同時に、刀を振ることでカミューラの体は飛んでいき、壁に叩きつけられた。壁に醜い血痕が刻まれながら、その体は床へ崩れ落ちた。

 

『……』

 全員が、驚愕と衝撃に囚われ、声を出すこともできず、その人物を凝視していた。

 一本に纏めていた髪は、縛ることもせず全て垂らしている。ずっと髪に飾っていた雪の結晶も、今は無い。

 それでも、青い着物と日本刀、そして美しい容姿、それだけで十分過ぎた。

 あまりにも強烈過ぎた、狂気と、殺意に彩られた、恐ろし過ぎる姿が、今日までの長い間、ずっと再会の日を待ち望んできた、その人であることを理解するには。

 

「お前……」

 かろうじて、声を出したのは十代だった。

「お前、梓……?」

 右手で刃の血を払い、左手の鞘に納めながら、梓は、十代に顔を向ける。

「どうした十代。もう私の顔を忘れたか?」

「……」

「まあどうでも良い。私には初めから、人に覚えられる価値など無い」

 自虐的な言葉は、あの頃と変わらない。それでもその様相は、あまりにも違い過ぎた。

「お前……いや、それよりも梓、お前、何ということを……」

 万丈目も声を上げたが、声にも表情にも、まだ衝撃は抜けきっていない。

「なら聞くが、貴様は本気であの女を、この程度で許そうと思ったのか? あれだけのことをした、敵の女を」

「それは……」

「だからと言って、こんなことが……」

 今度は三沢が言い、今度は三沢に顔を向ける。

「何だ大地、貴様いつからそこにいた?」

「え……最初からいた……」

「ほぉ……まあいい。いずれにせよ、あの女は敗けた。愚か者には罰を与えねばなるまい」

「罰って……」

 翔が声を出した時、梓は翔に顔を近づけ、静かに語り掛ける。

「貴様もその程度の憎悪しか抱けないのなら、最初から憎いなどという言葉を口にするな。その言葉は、真にその対象を否定する覚悟がある者だけが口にできる言葉だ。人だろうと、ゴミだろうとな……」

「ゴ、ミ……」

 話し終えた時、顔を遠ざけ、カミューラに顔を向けた。

「だが……急所は外した。何よりあの女は吸血鬼だ。この程度では死にはしない」

『……!』

 その言葉で、全員の目が梓から、カミューラに向けられた。

 吐血し、刺された部分を押さえ、虫の息になりながらも、ピクピクと動いている。

「もっとも、死ぬほどの苦しみは味わってもらうがな」

 確かに、今にも死にそうなほどの苦しみに喘いでいる。

「あれだけの罪を犯した上でセブンスターズとして戦い、そして敗れた。そのことに精々苦しむがいい」

「……え?」

 明日香が疑問の声を上げ、質問をする。

「ちょっと待って。どうして梓が、セブンスターズのことを……」

「……」

 梓は、また無言で、不気味な笑みを作った。

 そして、語った。かつての仲間達に、さらなる衝撃と、苦難を与えることとなる真実を。

 

「私の名は、水瀬梓。そして今は、セブンスターズの一人、『凶王』」

 

『……!!』

「凶……王……」

 誰かが呟くと共に、梓は踵を返した。

「もっとも、私にはまだやることがある。私が出るのは、それが終わった時だ」

 そして、窓ガラスを破って侵入した窓へ歩き出した。

 

「待って!!」

 そんな梓の前に、手甲を着けたままのあずさが立ち塞がった。

「なに? 梓くんがセブンスターズってなに!? 色んなことがわけ分かんないけど、とにかく行っちゃダメ!!」

「……」

「……」

 

「……誰だ貴様は? 一平卒が遮るな」

 

「っ!!」

『っ!!』

「ど、どうしたノーネ……?」

 おそらく、クロノスを除いた誰もが、今日聞いた中で最も信じられない言葉だったろう。

 あれだけ純粋に、はたから見れば滑稽に映るほど、切実にその存在を思い、惹かれ、そして惹かれ合っていた、そんな、平家あずさという存在に対して放たれた言葉、「お前は誰だ?」。

「わたしは……わたしの名前は、平家あずさ……」

「知らん。十代達の仲間か……まあ、どうでも良い」

「おい!」

 たまりかね、十代が叫んだ。

「あずさだぞ! 本当に忘れちまったのか!? お前達、あんなに仲良かったじゃねえか!!」

「知らないものをどうすれば忘れることができる?」

「梓……」

 十代に返事をした後、また歩き始めたが、またあずさが、

「だから行っちゃダメ! どうしても行くなら、力ずくでも止めるよ!!」

「ほう、勇ましいな……丸腰で私を止められるのか?」

「丸腰?」

 

 カラン……

 

「……!」

 あずさが聞き返した直後、あずさの両手の手甲は、真っ二つになり、地面に儚い音を響かせた。

 そして、

 

 ブシュッ……

 

「痛っ……」

 手の甲からひじに掛けて、血の線が浮かび上がる。

「あずさ!!」

 明日香が叫びながら、両手を押さえたあずさに駆け寄る。

 それは、一直線状に出血こそしているが、数日もすれば傷痕さえ残らないほどの浅い切り傷でしかない。

 代わりに、それよりも遥かに深い傷を、生み出すことになったが。

 

「慌てずとも、私は再び貴様らの前に現れる」

 

『……!』

 全員があずさに気を取られている内に、梓は、ガラスの割れた窓に立っていた。

 

「そしてその時は、貴様らの中のいずれか、それとも全員か、鍵を渡してもらう」

 

 それだけ言い残し、左手に刀を帯びる体をこちらに向けたまま、後ろ向きに倒れるように、窓の外へ消えていった。

 

『……』

 誰もが、また驚愕と衝撃に支配され、動けなくなっていた。

「……! カミューラ……」

 まずは翔が、先程までの決闘の相手、カミューラの元へ駆け寄る。痛みに悶え、ほとんど虫の息だが、この様子なら梓の言った通り、助かるだろう。

 そう思った時、次に口を開いたのが、

「梓くん……」

 手甲を、腕ごと斬られ、斬られた手を押さえながら、動けなくなっていた、あずさ。

 明日香を振り払い、窓の方へ歩き、窓を見上げる。

「梓くん」

 もう一度、いや、たとえ何度名前を呼んでも、その返事が返ってることは無い。

 分かっていても、叫ばずにはいられなかった。

 

「梓くん!! 梓くん!!」

 

「梓くーん!!」

 

「梓くーーーーーーーーーーーん!!」

 

 

「梓くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」

 

 

 

 




お疲れ~。
ということで、梓は敵に回って、且つあずさのこと忘れちゃってます。
その理由は、今後明らかにしていきますわ。
んじゃ、次話まで待ってて。
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