遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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四部の四話~。
例によって、展開がかなり飛びますが、サクサク話を進めていきまする。
てことで、行ってらっしゃい。



第四話 戦記と日常と、凶の花と……

視点:外

 

「どこにいる……」

 

 彼がたたずむのは、火山の頂上。

 行き場を見失い、行くべき場所を測り兼ね、いかに最強の力を持つ彼と言えども、何もできず、島の全てが見えるその場所にたたずむ他無い。

 焦り、苛立ち、そしてそれら全ての根源となる、憎悪を表情に表しながら、左手の刀を握る力が増し、ガクガクと体全体を震わせる。

「どこだ……」

 

「どこだ!!」

 

 その絶叫に、大気が震え、森からカラスが飛び上がった。

 

「……」

 

「何だ、『アムナエル』」

 いつの間にか後ろに立っていた、黒い仮面を着けた、マントの男。

 振り返ることなく、尋ねる。

「そろそろ勝手な行動は控えてもらおう」

 『アムナエル』と呼ばれた男も、仮面にくぐもっていることを差し引いても、彼に劣らぬ冷たい声を発した。

「……分かっている。だがセブンスターズはまだ三人残っている。貴様と私、二人だけになるまでは自由に動く。それが契約だったはずだ」

「その通りだ。だが、お前の奔放さにはあの方も困り果てている。我々が把握できない範囲で動かれては困るのだよ」

「私は始めから、欲望にまみれた老害に下った覚えは無い。私は、私の目的のために動いていることを忘れるな」

「……」

 梓の返事に、アムナエルは突然無言となったが、次の瞬間、怒りの声を発した。

「あの方の侮辱は、たとえ誰であろうとも許さない。お前でもな、凶王」

「許せなければ、どうする?」

 

『……』

 

 息の詰まる沈黙が、しばらく続いた後、

「……ふん」

 身を引いたのは、アムナエル。

「せいぜい、勝手過ぎる行動は慎むことだ。我々の足枷になると判断した時は、容赦なくお前を粛清する。お前がカミューラにそうしたようにな」

「やれるものならやってみるがいい。たかが死人風情……いや、教師風情が、私に敵うと自負できるものならな」

 そして凶王、梓はその場から跳びあがり、消えた。

 

「どこまでも……哀れな少年だ」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:十代

 梓が戻ってきて、結構な時間が経った。

 一応あの後、セブンスターズの一人に梓がいるってことを校長に報告しておいた。まあ言わなくても分かるだろうけど、すっげえ驚いてた。

 

 そしてそれから、セブンスターズも含めて色々な奴らと決闘していった。

 大浴場に入っていたら、突然迷い込んだ精霊界で、俺に闇の決闘に打ち勝つことを教えてくれた『カイバーマン』。

 アカデミアを自分達の物にするために、万丈目とハンディキャップ決闘をして、敗けちまった万丈目の兄貴達。

 婿を探してるとかで三沢を倒した後、どうにか俺が倒した『タニア』。

 三幻魔を狙って、闇、じゃなくて、海の決闘をしにやってきた『アナシス』。

 雑な盗みで鍵を奪おうとしたけど、結局名探偵サンダーに決闘で敗けた、『黒サソリ盗掘団』。

 障害無敗って言われてたけど、実際は部下の手加減のお陰で勝ってただけで、初めて俺と本当の決闘をすることができた『アビドス三世』。

 

 何だかんだで五人のセブンスターズを倒すことができて、残ったセブンスターズは二人。

 そしてこっちに残った鍵は四つで、生き残ってるのは、俺、万丈目、翔、明日香、そして、あずさの五人だ。

 もっとも、実際に鍵を持ってて、戦えるのは、あずさ以外の四人だけど。

 あずさはどうなったか。それは……

 

 

 

視点:明日香

 

 コンコン

 

「あずさ?」

 

 ……

 

「……」

 今日もダメみたい。

 ずっといなくなってた梓が突然現れて、セブンスターズの『凶王』だって名乗った。

 私達でさえ、驚いて、傷ついて、未だに納得できないことだらけだけれど、それに一番苦しんでるのは、間違いなくあずさだった。

 ずっと、一番梓に会いたいって思ってたのに、その梓が、一番あずさのこと思ってた梓が、あずさに対して言った、初対面の時と同じ言葉。

 その後の会話を聞いていても、本当にあずさのことを何も覚えていない様子だった。

 それが相当なショックだったみたい。翔君に鍵を預けたまま、部屋から一歩も出てこなくなった。それまでは普通に授業にだって出ていたのに、今では授業にすら出てこない。完全に引き籠っちゃってる。

 

 今、どんな思いなのか。

 正直、想像なんてできない。ただ、苦しいんだろうな、とか、辛いんだろうな、とか、そんな、ぼんやりしたイメージしか持てない。私達は覚えてもらえていたから。何より、ただの友情以上に抱いていた感情なんて、当人同士でしか量ることなんてできないから。

 けど、梓はもう、あずさのその思いを量ることもできない、って、ことよね。だって、完全に忘れてるんだから。どんなにあずさが叫んでも、それは、梓にとっては見ず知らずの人間の、聞く価値もない叫びでしかなくなってしまったのだから。

 覚えられていた私達と、顔も名前も知らない赤の他人の言葉。その言葉の重さにどれだけ差があるか、私達だって分かってる。

 今のあずさは、梓にとって、そんな存在になり下がっちゃったってことよね。

 あれだけお互いに思い合って、お互いにずっと、ずっと好きで、次に会った時こそ、きっと結ばれる、そんなふうに、私は信じてた。多分、十代達も。そしてきっと、あずさも心のどこかで思ってたんじゃないかと思う。

 告白して、諦めてはいたけど、それでもずっと一途に思っていた梓のことを、みんな見てきたから。そして、そんな思われていたあずさのことも、見てきたから。

 

 それが、梓の一言で、跡形もなく否定された。

 あずさは今、どれだけ傷ついて、悲しんで、苦しんでるんだろう。

 私達にできることって、何もないの?

 あずさ……

 

 

 

視点:翔

 

「ご飯だよー」

 

「……ありがと」

 

 出来上がった夕食を、ベッドに座ってるカミューラに持っていく。

「はい。いつも通り、お口に合うか分からないけど」

 そう念押しして、とりあえずお盆をベッドの上に置く。もっとも、料理なんて簡単なものしか作れないし、それが人に食べされられるくらいに美味しくできてるのか、正直自信は無い。

「……いただきます」

 もっとも、そんな料理を文句も言わず、残さず食べてくれるから、少なくとも普通に食べられるものはつくることができてる、のかなぁ……

「……腕を上げたじゃない」

「ほんと?」

「ええ。もっとも、イエロー寮の学食には遠く及ばないけど」

「だろうね……」

 

 

 あの時、まず刺されたカミューラの傷をハンカチと脱いだ制服で押さえて、背負って保健室へ連れていった。梓さんが言ってた通り、急所は外れてて、吸血鬼だから刺された傷もちょっとずつ治っていってたらしい。それでもすごく苦しそうにしてたけど。

 それで、吸血鬼を病院に連れてくわけにもいかないってことで、そのまま保健室に寝かせてもらうことにした。

 授業が終わった後で毎日お見舞いに行ってたけど、その間、カミューラは眠った状態で、ずっと苦しそうに呻いたり動いたり、時々ほとんど悲鳴みたいな声を上げながら、体中を震わせることもあった。そんな時は手を握ってみたりしたけど、それでも治まらなくて。正直、そんな姿は見てられなかった。

 

 それで、目を覚ましたのは保健室に連れてきてから一週間後くらい。

「カミューラ?」

「……坊や……」

 目を覚ますと、まず僕の顔を見てそう呼んできた。

 その呼び方は相変わらずか。別にいいけど。

「良かった。傷は平気?」

「……」

 その時は、何だか不審そうな顔してた。

「どういうつもり……?」

「ここに寝かせてること?」

 聞いてみると、図星っていう顔を見せた。

「言ったでしょう。もう僕はあなたを恨まないよ。そんなあなたが目の前に倒れてたら、助けるに決まってるじゃん」

「……」

 言いたいことは伝わったかな?

「……疑問なんだけど……」

 と、今度は何か聞きたそうにこっちを見てきた。

「痛くてたまらないって時、決まって誰かに手を握られる夢を見たんだけど、それって……」

「ああ、ごめん。迷惑だった?」

「……」

 そう聞いたら、カミューラは壁の方に体を向けて、顔を隠しちゃった。

「え、カミューラ……」

「……」

 

「……」

 

「へ?」

 その時は、何を言ったのかよく聞こえなかった。

 

 

 それで、保健室にずっといさせてもらうのも悪いからってことで、傷が完全に回復するまで、僕のイエロー寮の自室に置くことになった。普通は女子の明日香さんが引き受けそうなものだけど、どういうわけか僕が面倒をみることになった。

 そんなこんなで、今では自分で立ち上がって、お手洗いに行けるくらいには回復したから、僕は主に食事の世話をしてる。

 最初はイエロー寮の食堂から適当に貰ってきてたんだけど、せっかくだからできたてのものを食べてもらおうと思って、自分で作ってみた。時々あずささんから習ってたんだよね。

 もっとも、ご飯を炊く以外には、正直簡単な煮物か炒め物くらいしか作れないんだけど。包丁捌きも遅いし。

 

 なんてこと考えてるうちに、カミューラは食べ終わっちゃった。

「ごちそうさま、でした……」

「お粗末さまでした」

 よかった。今日も完食してくれてる。少なくとも不味くはないみたい。あと、食欲もあるみたいだ。

「あんたは食べないの?」

「ああ、僕は……」

 食欲が無い。

「……私がこの部屋に来た日から、食べる日と食べない日があるけど、大丈夫なの?」

「大丈夫。……ねぇ」

「ん?」

 て、もう何度も聞いた質問なんだけど。

「その、梓さん……凶王のこと……」

 カミューラも慣れてはいるようだけど、さすがにうんざりって顔だ。

「知ってることは全部話したわよ」

「うん……」

 それは分かってるのに、結局は聞いちゃうんだ。聞かなくちゃいられない。

「そもそも凶王は、私達の顔合わせの時もいなかった。何でも何かを探していたらしくて、こちらの人数が少なくなるまでは自由に動くという約束だったらしいわ。それが、まさかいきなり後ろから刺されるとは思わなかったけど」

「うん……」

 何度も聞いて、聞く度に、思い知らされる。できることなら受け入れたくはない、現実。

 

 お皿を全部洗った後、またカミューラに声を掛けた。

「悪いけど、少し外に出るね」

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 寮に住んでる間、こんな挨拶を交わすことになるとは思ってもみなかったな。

 

「……」

 

「……ありがとう」

 

 

 この数日間、何だかんだで目まぐるしく色々なことがあった。セブンスターズもそうだし、兄貴が金に買われそうになったり。

 そんな色々なことが起きたのに、今でもそのどれもが、大したことじゃないように思える。

 そういうことの前に起こった出来事が、それより遥かに凄すぎたからだ。

 

 決闘した後、カミューラが刺されて、かと思ったら、ずっと行方不明だった梓さんが突然現れて、そしてそれが、敵の、セブンスターズになったって告白されて。

 

 やっぱり、今思い出しても信じられないや。僕らにとっての敵とは言え、一応は味方のはずのカミューラをあんな目に逢わせるなんて……

 ……て、そうか。梓さんは、最初から何も変わってないのか。

 僕のことを誘拐したって勘違いして、明日香さん達に斬りかかった時。あの時、もしあずささんが現れなかったら、明日香さん達も、今のカミューラみたいになってたかもしれない。それが起きたか起こらなかったか、それだけだ。梓さんはいつだって、怒った時は容赦しない人だったから。

 けど、実際に起こりそうになるのと、起こっちゃうことは違う。目の前で人が刺されちゃう。そんな場面を見るのも生まれて初めてだったけど、それ以上に、僕らはこれだけ怖い人と、ずっと一緒にいたんだって、思い知らされた。

 いつも優しい梓さんばかりを見てたから、その本当の怖さを、今になって思い知った。

 あんな怖い人に、もし戦うことになったとして、勝てるのかな、僕達……

 

「翔君?」

 

 歩きながら、色々なことを考えてるうち、そんな声が聞こえた。

「ももえさん……」

 名前を呼ぶと、ももえさんは小さく笑いながら、僕の前まで走ってきた。

「どうしたのですの? ここ最近、お元気が無いように思えますが」

「そう、かな……」

 一応、態度は普通にしていたつもりなんだけど、気付かれちゃってたかな。

「何か悩み事があるのなら、ぜひご相談下さいまし」

「……ありがとう」

 その気持ちは嬉しい。だけど、正直ももえさんじゃ、相談しても仕方ないことだからなぁ。

 でも、相談か……

「……実はね……」

 相談っていうよりも、ただ単に、愚痴を言いたくなっただけだけど。

「ものすごくショックで、信じられなくて、けど、何とかして受け入れなきゃいけないことが起きて、それで、そのことずっと、考えさせられてる。そんな状態が、今日までずっと続いてるんだ」

「……」

 そうだ。正直、梓さんが怖いとか、そんなこと、本当に見なきゃいけない現実を忘れるための言い訳だ。

 結局僕は、受け入れられてないんだ。梓さんが、僕らの敵になっちゃったってことを。

 

「もしかして、あずささんが今お休みしているのも……?」

 具体的に何があったかは言ってないけど、そのことを疑問にも思わずに、ももえさんは聞き返してきた。

「……うん。僕が悩んでるのと同じ理由」

 もっとも、あずささんの場合、悩まされてる以前に、すごく傷ついてるんだけど。

 あの後僕に鍵を渡したまま、ずっと引き籠ってるから。

「僕やあずささん以外も、全員、分かってはいるんだ。現実に起きちゃったものは受け入れなきゃいけないって。けど、それでも全員が全員、受け入れられることじゃなかったから。それだけ、信じられないことで、どうしたらいいのか分からなくて、それで……」

「……それで、今も悩み続けているのですか?」

「うん……」

 もっとも、事実は伏せてあるし、かなりぼかして答えたから、それがどんなことか、分からないだろうから、ももえさんも答えようがないとは思うけど。

「……」

 考えてくれてるけど、やっぱり返事は無理、かな。

「ごめんね。こんなこと聞いたって、分からないよね」

「……あくまで私見ですけれど……」

 と、ももえさんは、ちょっと口ごもりながらだけど、話してきた。

「たとえ、受け入れなければならない事実なんだとしても、嫌なら、無理に受け入れる必要もないのではないか、と、思います」

「いや、でも……」

「もちろん、目の前で起きてしまった現実は、どうしたって取り消せることではありません。けど……」

「けど?」

「けど……その、たとえば、事故とか事件とか、そういう、自分の力ではどうしようもないことならともかく、まだ、自分の力で変えることができるものなら、それは受け入れなくとも、自分の力で変えればいい……と、思います」

 自分の力で……

「も、もちろん、変えることが不可能なものなら受け入れるしかないんだと思います。翔君の見たそれは、変えるのが不可能なことだったのですか?」

「……」

 

 不可能か…… 

 もし、それを変えることができるとしたら、それは、決闘で梓さんに勝つしかない。

 梓さんは強い。僕なんかより、いや多分、すごく怒って、迷いとか思いやりとか、全部捨ててる今、お兄さんや、このアカデミアの誰よりも、強いんだと思う。

 けど、だからって全部諦めて、梓さんが敵になったことを素直に受け入れて、それっきりにしちゃうのか……

 

 そう考えると……いや、考えるまでもなかった。

「ありがとう。ももえさん」

 ようやく分かった。だから、ももえさんにお礼を言った。

「やっと、僕がしなきゃいけないことが分かったよ」

「は、はい……////」

 あんまり嬉しかったから、思わず手を握っちゃったんだけど、それになぜだか赤くなった。

「じゃあ、行くね」

 そして、体の向きを変えた。

 

「あ、あの!」

 

「へ?」

 走り出そうとしたら、突然呼ばれて足を止められちゃった。

「じ、実は、もう一つ、お聞きしたいことがあるのですが……」

「なに?」

 何か分からないけど、できれば急いでほしいな。

「その……お噂を聞いたのですか……翔君は今、お部屋に女性を招き入れているというのは、本当でしょうか……?」

「ん?」

「しかも、私達のような学生ではなく、大人の、それも、かなりの美女だとか……」

「……ああ、カミューラ?」

「あぅぐぁっ!! (よ、呼び捨て……)」

 何だか変な声を出しながら、この世の終わりみたいな顔に変わった。

「いやね、大けがして看病が必要だから、とりあえず僕の部屋で寝かせてるんだ」

「な、なぜ病院ではなく翔君の部屋に……」

「う~ん、色々と説明できない複雑な事情があって……」

「そ、そうですか……」

 安堵したような、どことなく不安なような、今度はそんな顔だ。

「……じゃあ、行くね」

「は、はい。ご達者で……」

 

 挨拶を交わして、今度こそ歩き出す。

 

 ありがとう、ももえさん。あなたのお陰で気が付いたよ。

 今を変えるために、僕は……

 梓さんを、決闘で倒す!

 

 

 さて、決意して、勢いよく歩き出したのはいいけど、

「どこに行けば会えるんだろう。梓さん……」

 

「……」

 

 途方に暮れた時、それは目に映った。

「……え?」

 それは、アカデミアでは見たことの無い人だった。

 黒い和服を着て、黒い長髪を後ろに下げた、何だか渋い男の人。

 

「……」

 

「ついてこいって……?」

 何となく、そう言ってるような気がして、僕はその男の方へ走った。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:万丈目

 日も沈み始め、空の赤に夜の黒が混ざり始めた頃。

 今、俺のデッキは三十八枚。

 そして、最後の二枚のカードは、あの時梓から、いや、『梓の中にいた、梓を思う者』から託された、二枚の魔法カード、『禁じられた聖杯』と、『禁じられた聖槍』。

 その二枚を刺し、デッキを完成させる。

「梓……」

 デッキを手に、一度目を閉じ、空気を吸う。

 

「……」

 

 キッ

 

 既に、迷いはない。

 デッキも完成した。

 覚悟も決めた。

 後はこのデッキを使い、覚悟を手に、お前を倒すだけだ。

 

『準』

 

 後ろから、俺の名を呼ぶ声。

「心配はいらん。お前の主は、俺が必ず取り戻してみせる」

『……本当なら、あずさちゃんに頼みたかったんだけど……』

「ああ。俺もそう思う。だが、今のあいつには無理だろうな」

『勘違いしないで。別に、準の力を疑ってるわけじゃ……』

「分かっている。同意見だと言っただろう。何よりお前も、あずさの次に、俺ならそれができると考えたからカードを託したのではないのか?」

『……』

 

『兄貴の言うとおりよ~』

 

 俺が返事を返した時、そんな間抜けな声が響いた。

『万丈目の兄貴に任せておけば、全ては安心よ』

『何より、俺達がいる限り、万丈目の兄貴は無敵だ!』

『だからお嬢ちゃんも、大船に乗ったつもりでいなさいな』

『……あはは、そうだね。心強いや』

「分かったからお前らは引っ込んでろ!」

 そう叫んだところで、三人の屑どもは慌てて消えていった。

 

「まあ、そいつらの言った通りだ。黙って俺を信じろ。この、万丈目サンダー様を」

『うん』

 

「よし……行くぞ、アズサ!」

『うん!』

 

 ……

 …………

 ………………

 

「ここか?」

『そう。間違いない。この近くにいる』

 夕方に俺達が辿り着いたのは、以前十代が吹雪さんと戦った火山。その麓にある、周囲を木々に囲まれた森林地帯。

 そこに、梓の存在を感じるらしい。

「……」

 本当にいるのなら、

 

「出てこい!! 梓!!」

 

 声を張り上げ、梓を呼ぶ。

 

「この俺と決闘する意思がるのなら、今すぐ俺の前に現れろ!! 水瀬梓!! いや、こう呼べばいいのか……」

 

「凶王!!」

 

 叫んだ瞬間だった。

 

 パキパキパキパキ……

 

 周囲の木々、足下の地面が、薄い氷に包まれ、白く染まっていく。

 

 ス……

 

 そして、そんな氷の生まれた先に立っているのが……

 

「私をその名で呼ぶ意味を、分かっているのだろうな……」

 

「当然だ。お前は俺が倒す。俺と決闘しろ」

「丁度いい。私のカードを返してもらおう」

「……」

 

『梓……』

 

 俺の後ろに立つ、アズサが声を出した。

 

「……」

 

 アズサの存在には触れない。見えていないのか、それとも見て見ぬふりをしているのか。

 分からんが、いずれにせよ、今はこいつに勝つことが先決。

「いくぞ!」

 

「待って!!」

 

 と、決闘を始めようとした時、そんな、甲高い声が響いた。

「しょ、翔……!」

 ここまで走ってきたらしく、ひざに手をついて息を切らしている。

「……この決闘……僕も混ぜて!」

「なに!?」

 いきなり何を言い出すかと思えば……

「万丈目君だって分かってるはずだよ。今のこの人には、僕達一人ずつじゃとても敵わないって……」

 そ、それは……

「だ、だが、お前も、お前が一人で戦うために、ここまで走ってきたのではないのか?」

「そうだよ。僕がやらなきゃいけないって思った。けど、一人じゃ正直不安だった。これは、必ず勝たなきゃいけない決闘だから。梓さんを取り戻すために、絶対に負けちゃいけない決闘なんだ」

「翔……」

「だから、僕にもやらせて! 万丈目君の力を疑ってるわけじゃないけど、必ず勝つために!」

「……」

 カミューラとの決闘した時とは違った意味で、その姿は意外な姿だった。

 これほどのやる気と気骨に満ちた姿を、こいつが見せる時が来ようとはな。

 

「何人だろうがまとめてかかってくるがいい」

 

 そんな、梓の冷たい声が聞こえてきた。

「貴様らを倒し、鍵を手に入れる」

 それだけ言って、不気味な白と黒の決闘ディスクを構えた。

 

「……良いだろう。ただし、必ず勝つぞ、翔!」

「うん……この決闘、必ず勝とう、万丈目君!」

 

 

 

 




お疲れ~。
戻ってからの梓の初決闘は、二対一の決闘になります。
決闘は次回から始めますので、早く見た~い、とか……まあ思わないだろうけど、敢えて言う。
ちょっと待ってて。
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