遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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決闘が決着~。
まあおおよその人が予想済みの決着になるろうけど。
先に謝っとこう。ごめんね、平凡な決闘しか書けなくて。
まあこんなところで時間掛けても仕方ないから、行ってらっしゃい。



第五話 凶の始動、集結する絆 ~解放~

視点:外

 

 

万丈目

LP:2200

手札:0枚

場 :モンスター

   『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』攻撃力3000+500-500

   『XYZ-ドラゴン・キャノン』攻撃力2800-500

   『おジャマ・キング』攻撃力0+3000

   魔法・罠

    永続魔法『異次元格納庫』

    装備魔法『次元破壊砲-STU』

    ユニオン『強化支援メカ-ヘビーウェポン』

 

LP:1100

手札:2枚

場 :モンスター

   『スーパービークロイド-ステルス・ユニオン』攻撃力3600

   『スーパービークロイド-ジャンボドリル』攻撃力3000

   『スチームジャイロイド』攻撃力2200

   『ジャイロイド』守備力1000

   『エクスプレスロイド』守備力1600

   魔法・罠

    無し

 

凶王

LP:550

手札:1枚

場 :モンスター

    使用不可

    使用不可

   魔法・罠

    無し

 

 

「バカな……俺達が圧倒的な有利なこの状況で……」

「手札は一枚しか無いのに、どうやって……」

「簡単なことだ。今まで散々そうしてきたように、手が足りないなら増やせばいい」

「増やす……?」

「魔法カード発動『天よりの宝札』!」

『!!』

「全てのプレイヤーは、手札が六枚になるようカードをドローする」

「ここに来て、最強の手札増強カードだと……」

 

凶王

手札:0→6

 

手札:2→6

万丈目

手札:0→6

 

「……キリが悪いな。墓地の『フィッシュボーグ-プランター』の効果。墓地にある限り、一度だけデッキの一番上のカードを墓地へ送り、それが水属性モンスターなら特殊召喚される。もっとも、このカードは……」

 

『サイクロン』

 速攻魔法

 

「な……おい、待て!!」

「そんなことしたら!?」

 

凶王

デッキ:1→0

 

「梓さんのデッキが……」

「次に俺達にターンが回れば、ただエンド宣言するだけでドローできず敗北だぞ……」

「言ったはずだ。このターンで終わらせると」

 

『……』

 

 二人が沈黙する中、梓は、最初の一枚に手を伸ばす。

「魔法カード発動『バンデット-盗賊-』!」

『バンデット!?』

「相手の手札を全て確認し、その中のカードを一枚選び、自分の手札に加える。対象は貴様だ……準!!」

「!!」

 万丈目がこの決闘で、いや、今日までの触れ合いの中で、初めて梓から、呼び捨てで呼ばれた瞬間だった。

「確認するまでも無い。今のドローで引いたはずだ」

「……」

「返してもらうぞ! 私のカードを!!」

「……くぅ」

 忌々しげに顔をしかめながら、万丈目は一枚の手札を、梓に投げてよこした。

 

万丈目

手札:6→5

 

凶王

手札:5→6

 

「一体、何のカードを……」

 一人、分かっていない翔を前に、梓は受け取ったカードを見る。

「わざわざ使うまでもないが……目障りだ。速攻魔法『禁じられた聖杯』! このターンのエンドフェイズまで、フィールドのモンスター一体の攻撃力を400ポイントアップさせ、効果を無効にする。対象は『おジャマ・キング』だ」

「く……」

 梓が宣言したと同時に、『おジャマ・キング』の頭上から杯が現れる。そこから水がゆっくり注がれ、『おジャマ・キング』の身を包んだ。

 

『おジャマ・キング』

 攻撃力0+3000+400

 

「これで全てのモンスターゾーンが使える。私は墓地に眠る『フィッシュボーグ-アーチャー』の効果を発動する」

「まだいたのか……」

「場にモンスターが無い時、手札の水属性モンスター一体を捨てることで、墓地より特殊召喚できる。手札の『氷結界の水影』を墓地へ送り、特殊召喚」

 

凶王

手札:5→4

 

『フィッシュボーグ-アーチャー』

 守備力300

 

「あれが、『キラー・ラブカ』と一緒に『魔法石の採掘』の効果で捨てた二枚目のカード……」

「この効果を使用したターンのバトルフェイズ、私の場の水属性以外のモンスターは全て破壊される」

「だが、梓のモンスターは全て水属性。全くデメリットになっていない……」

「更に魔法カード『サルベージ』。墓地の攻撃力1500以下の水属性モンスター二体を手札に加える。対象は、『氷結界の水影』、『E・HERO アイスエッジ』の二体」

 

凶王

手札:3→5

 

「魔法カード『融合』!」

「『融合』だと!?」

「じゃあ、また……!?」

「アイスエッジと、水属性の水影の二体を融合! 再び現れよ、氷結の英雄『E・HERO アブソルートZero』!!」

 

『E・HERO アブソルートZero』融合

 攻撃力2500+500

 

「そうだった。あのカードも三枚入ってる……」

「く……だが、そのモンスター一体では、この布陣を突破することはできんぞ!!」

「何を勘違いしている。誰が攻撃すると言った?」

「なに?」

「速攻魔法『融合解除』! 私の場の融合モンスター一体の融合を解除する!」

「何だと!?」

 

『氷結界の水影』

 攻撃力1200

『E・HERO アイスエッジ』

 攻撃力800

 

「そして、場を離れたことでZeroの効果が発動する。氷結時代(アイス・エイジ)!」

 

 ビュォォォォォオオオオオ……

 

 先程と同じ、否、もしかしたら先程以上に強烈な冷気を纏った強風が、翔と、万丈目のフィールドを襲った。

 そして、先程は無かった光景。二人の場のモンスターのほとんどが、氷漬けになっていく。

 

「うぅ……『ビークロイド・コネクション・ゾーン』で融合召喚されたステルス・ユニオンは、カード効果では破壊されない……!」

「くぅ……ユニオン状態の『強化支援メカ-ヘビーウェポン』を破壊することで、VWXYZの破壊を免れる……!」

 

『VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン』

 攻撃力3000-500

 

 だが、その二体を除いた、ヘビーウェポンを含む全てのモンスターは凍りつき、音を立てて砕けた。

「ぐぅ……だが、まだ俺達の場には、それぞれのエースモンスターが残っている!」

「二枚目の『サルベージ』を発動。墓地より二枚の『氷結界の水影』を手札に戻す」

 

凶王

手札:0→2

 

「……」

「また水影を召喚されれば、梓の場のモンスターは四体」

「けど、手札にもフィールドにも、この二体に勝てるカードはいない」

「なら、この決闘……」

「僕達の……」

「……いや」

 二人の呟きを、梓は、静かに否定する。

「言ったはずだ。このターンで終わらせると」

「く……不可能だ!!」

 動揺しながらも、万丈目が叫んだ。

「お前の手札は『氷結界の水影』が二枚! フィールドの三体のモンスターにも、俺達のモンスターを倒せるモンスターは無い! 『氷結界の水影』の効果も使えない! デッキもゼロ! それで、一体どうするというのだ!!」

 だがそれは、梓への非難というよりもむしろ、必死で自分にそう言い聞かせているようにしか見えなかった。

 それも当然だろう。目の前に立つのは他でもない。たとえ、どれだけフィールドが有利だろうが、逆に絶望的な状況だろうが、妥協も容赦も、諦めすらも決して見せない、不屈の『凶王』、水瀬梓なのだから。

「……必要も無いと思っていたが……」

 また、静かに呟きながら、返事を返した。

「私も本気を出すとしよう」

「本気……?」

「え、じゃあ、なに? 今までは本気じゃなかった、て、こと?」

「……そうだ」

 梓の返事に、二人はただ、言葉を失う。

「どういう……こと……?」

「言葉よりも見せた方が早いだろうな。見るがいい。私は今、このデッキの封印を解く」

「封……印……?」

「……」

 

 異変が起きたのは、手札と、場のモンスターカードだった。

 

『氷結界の水影』チューナー

 レベル2

 攻撃力1200

『フィッシュボーグ-アーチャー』チューナー

 レベル3

 守備力300

 

 手札の二枚が、そして場の二体のモンスターが光り、同時に、梓の持つカード全てが光り輝く。

「な、何が起こっている……!?」

「なに? 一体何なの……!?」

 

「絶望しろ!! 私のデッキの真の姿に!!」

 

『!?』

 

「レベル3の『E・HERO アイスエッジ』に、レベル3の『フィッシュボーグ-アーチャー』を……」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:十代

 

「ぐわぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!」

「うわぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!」

 

『っ!!』

 氷山がそびえた辺りの方向から、そんな悲鳴が聞こえた。

 この声は、万丈目と、翔!?

 

「急ぐぞ!!」

『……!』

 

 

 そこに辿り着くと、いつの間にか氷山は消えていた。代わりにそこには、予想通りの三人がいた。

 ひざと手を着いてる翔と万丈目。そんな二人を、鍵を取り上げながら見下ろしてる、梓の三人。

「翔、万丈目……梓……」

 

「……」

「……」

 

 二人は何も言わずに、驚いた顔のまま、地面に顔を向けてるだけだった。

 

「敗けたのか、二人が……」

「梓……」

「……」

 声を掛けたすぐ後、梓は左手の決闘ディスクからデッキを取り出した。

「これで、互いに残るは二人……」

 そう言いながら、俺達の方を見た。

「十代」

 ……

「明日香」

「……」

「梓……」

「……またか大地。貴様いつから気配を消すすべを物にした?」

「え……? いや、そんなものは別に……」

「もういい。貴様は今日から、『空気』という名で十分だ」

「空、気……?」

 ……なんか変な空気になったけど、梓は改めて、俺と明日香、二人を見た。

「どうする? 今から、二人同時でも構わないぞ」

「うぅ……」

「……」

 俺も、明日香も言葉が出なかった。

 翔と万丈目、見た感じタッグで挑んだみたいなのに、その二人を相手に勝っちまうなんて。

 梓が強いってことは分かってたけど、それでも、あの二人を相手にして勝つなんて……

 

「無理だ……」

 

「万丈目君?」

 突然、万丈目が呟いて、それに明日香が話し掛けた。

「今の梓は、強過ぎる……」

「勝てるわけがない……兄貴でも、二人一緒でも、絶対……」

「そんな……」

 あの二人が、憔悴しきってる。梓の力に、完全に脅えちまってる。

「く……」

 それでも、逃げるわけにはいかないよな。

「俺が……」

 

「……!!」

 

 突然、梓は目を見開いた。その視線は、俺達じゃなくて、その後ろに向けてる。

「見つけた……」

 見つけた?

 

「そこか!!」

 

 そう絶叫して、俺達を飛び越えて、後ろへ走っていった。

 その先には……

 

「……」

 

「あ、あずさ!?」

 ずっと引き籠ってたはずのあずさが、こっちを見てた。

 それに向かって、梓は一直線に走っていく。

 やべえ! 手甲があの日のままなら、今のあずさは本当に丸腰だ!!

 

「あずさ、逃げて!!」

「梓、よせえ!!」

 

「……!!」

「ああああああああああああ!!」

 

 ガッキーン!!

 

「……」

「すげえな……」

 

「あ、あれは!?」

 あずさの真後ろから、あずさの前に刀をかざして、梓の刀を受け止めて鍔迫り合ってるそいつは、長い髪に、逞しいけど爽やかな笑顔を浮かべてる、白い着物の男。しかも、前は普通の刀だったのが、今手に持ってるのは、柄から刀身からが全部黒くて、しかも刀身がノコギリみたくギザギザな刀。

 そいつが、相変わらず笑いながら梓に話し掛けてた。

 

「あの時より遥かに早くなってる。おまけに腕力まで。私達の修行も無しに、こんな短期間で……何をした?」

「貴様が知る機会は、永遠に無い!!」

 

 また叫びながら、また刀に力を籠めた、けど……

「……!」

 梓は急に、その場から下がった。

 

 ヒュッ

 

 その瞬間、梓のいた場所に斬りかかったのは、黄色の着物に刀が二本?

「あれは、俺をここまで案内した……!」

 三沢がそう叫んだ。

 そのすぐ後、

 

 ブンッ

 

 今度は青い色が見えて、それも梓は避けちまう。青い着物着たイケメンが、両手に二本の金棒を持って梓に向けてる。

「あの男……!」

「私達をからかった男なノーネ!!」

 クロノス先生に、カイザー?

 

 ヒュッ

 

「……!」

 ガッキッ

 

「あれは、私をここへ呼んだ……!?」

 明日香が叫んだ。赤い着物を着た女が、両手の丸くて変な形をした剣で梓に斬りかかった。

 それも避けちまうと、

 

 ヒュッ

 ス……

 

 ガッキッ

 

 まず最初に、緑色の着物の光る刀の攻撃を梓は避けて、そのすぐ後に現れた、黒い着物の刀を受け止めた。

「あの緑色の男は俺……」

「あの黒い人、僕を……」

 と、俺と、翔が同時に呟いた。

 

『……』

 

 最初に現れた、白い着物と、五色の着物の五人。六人が、あずさの前に立って、梓に目を向けた。

 

「ほぉ、その女が今の貴様らの主ということか」

「あるじ……?」

 

 何の話しだ? あずさも知らないって声出してるし……

「いいや。私達にとって、主は昔から今日まで、お前一人だぜ。梓」

 主って……じゃあ、あの六人の主が、梓だってことか?

「そうか……なら命令してやる。今すぐ私に斬滅されろ!!」

「ああ。お前がそれを望むなら、仕方ない。私も、お前に恨まれて当然だと思ってるし、殺されることだって覚悟の上だ」

 覚悟……殺されてもいい、だって……?

「だが、これだけは聞かせてもらう。今ここで私を殺したとして、その後お前はどうするんだ?」

 殺した後……梓がずっと求めてた、復讐が終わった後って……

「決まっている。貴様を殺したその後は……」

『……』

 

「水瀬梓を殺す!!」

 

「……!!」

『……!!』

 信じられない言葉を、梓は叫んだ。

「何だよそりゃ、自殺でもするってのか?」

「自殺? おかしなことを言う……」

 男の問い掛けに対して、梓は嘲りながら、答えた。

「水瀬梓など、最初からこの世に存在しなかった命だ。ただ水瀬梓という名前をつけられたゴミが、そこにあっただけだ。だから水瀬梓の目的を果たせば、再びただのゴミに還る。それだけのことだ」

「……何だよ、そのふざけた理屈は……」

「ふざけているのは今ある私という存在だろう。分かっている上で言わせるな。水瀬梓が存在したから、何もかもがおかしくなったのだろう。水瀬梓が幸福を望んだせいで、関わる全てに凶が訪れ、そして壊れた。水瀬梓さえ存在しなければ、この世は平和であれた。誰も傷つかず、何物もその身を侵されることはなかった。昔から散々言われたことだ。私は始めから、生まれてこなければよかった! 生まれたいなどと望んだ覚えは無い! その上で!! 生まれることなど許されない存在だったのだ私は!!」

「……」

 

 ……違う。

 

「もう疲れたのだよ、私は。そんなありもしない生に執着することにも、凶を運ぶことしかできない自らの身にも、ゴミらしくもなくそんな現実に苦悩し、そして自らを憎悪し続けることにも、その上で人を演じ生きていくこと全てに。人としての幸福など、平穏など、生き甲斐など、全てが私にとっては過ぎたる宝だった。分かっていたはずなのに、手放すことなく今日までズルズルとそれに執着してきた。その結果が今だ。愚行にも程がある! そんな愚かなゴミには、跡形もない終わりこそがふさわしい!! そうだろう!!」

 

『……』

 

 違う。

 梓の言ってること、全部無茶苦茶だ。

 何だよ、生まれちゃいけなかったって?

 生まれちゃいけない奴なんて、いるわけねえだろう。

 何もかもおかしくなったって何だよ?

 お前が今まで、俺達にしてきてくれたこと、俺達と一緒にしてきたこと、それが全部、間違いだったって言いたいのか?

 人としての幸せとか生き甲斐とか、それが全部、自分には過ぎてたって?

 そんなわけあるか。少なくとも俺達は全員、お前と一緒にいられて楽しかった。お前もそれを感じてくれてるのが分かってたから、お前と一緒にいられる時間が大切に思えたんだ。

 なのに、そんなこと全部が間違ってて、全部に疲れたから、全部終わらせるために自分を殺すだって……

 

「そして、終わる前に唯一やり残したこと、貴様を殺すこと、それだけはやり遂げる! これだけは、人であろうとゴミであろうと、水瀬梓でなければ意味がないのだからな。そしてその時こそ、全ての凶の元凶たる水瀬梓を葬り全てを終わらせる!! このゴミ一つが巻き起こした、この世の凶の全てと共にな!!」

「……」

 

 ふざけんなよ……

 

「まったお前はそうやって……二言目には自分のことをゴミだゴミだと、そうやって何かある度に何でもかんでも自分のせいにしやがって、その上で理不尽な不幸とか過ちまでゴミとして正当化しやがって! そのくせ人としての正しいことや幸せのことごとくを否定しやがって!!」

「そうやってずっと自分を信じようとしねえから、どれだけ正しいことをしても否定することしかできねえ!! 周りの人間が不幸になっちまう本当の理由がそれだ!! それがまだ分からねえのか!?」

 

「……これ以上……」

 

「貴様が私に何か言えた義理かぁぁぁああああああああ!!」

 

 梓が絶叫した時、梓の周りにある木とか草とか、全部凍りついた。

 

「お前ら!!」

『おお!!』

 

 白い着物がでかい声を上げた瞬間、周りにいた五人が一斉に梓に向かっていった。

 けど……

 

「邪魔だああああああああああ!!」

 

 また梓が叫んで、その瞬間梓の体から、紫色のオーラが出てきた。それが、前に俺や翔にそうしたみたいに……

 

『ぐわあああああああ!!』

『うわあああああああ!!』

 

 向かっていった五人を吹き飛ばした。

 そして、吹き飛ばされた瞬間、五人は消えちまった。

 

「貴様だけはっっっ!!」

 

 そして、また梓は向かっていった。

「こっちだ!!」

 白い着物は、あずさから離れて、それを梓も追っていく。

 あずさからそれなりに離れたところで、また二人の戦いが始まった。

 

 ガッキッ

 ガキガキガキガキッ

 ガガガッキッ

 

 ガッキッ

 

「あの時は思わず逃げちまった……」

 鍔迫り合いながら、男が話し掛けた。

「正直死ぬのは私だって怖えけどな、それでもお前になら、殺されても仕方ねえし、構わないって思ってた……だが、私だけじゃなくて、お前の命まで懸かってるって言うのなら、やっぱり殺されるわけにはいかねえ。私が死ねば、お前も死ぬ。なら私は、お前の命を守る……」

「私の命を守る……」

 

 ググググ……

 

「……私の全てを奪った男が……」

 

「ふざけた言葉を吐くなああああああああああああああ!!」

 

 ガッッッッッ!!

 

「うあああああああああああ!!」

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

 ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキッ

 ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキ……

 

 最初、(あずさ)達の戦いを見た時は、とにかく色々と凄すぎて、開いた口が塞がらなかった。

 二回目に、あの男と戦ってるのを見た時は、何だかいつも以上に梓が怖くて、けど途中から、何となく見てられないって気持ちになった。

 そして、今の梓は、今までと同じように、斬りまくって、動きまくって、おまけに色々凍らせて、めちゃくちゃ速くて、強くて……けど、めちゃくちゃ悲しかった。

 上手く言えないけど、とにかく、悲しくて、可愛そうで、どうすればいいのか分からないけど、助けてやりたいって気持ちになって……

 

「あああああああああああああああああ!!」

 

「ぐぅああああああ!!」

 

 そう思ってるうちに、決着がついた。

 あの時は手も足も出なかった白い着物の男を、梓はあっという間に倒しちまった。

 そして、地面に仰向けに倒れたその男の胸を踏みつけて、動けないようにして、左手の鞘から、ゆっくり納まった刀を抜いて……

 

(こうべ)を垂れろ!!」

 

 ガシッ

 

「……!!」

 あれは……!

 

 バチッッッ

 

「……っ」

 

 その音は、静かに、けどはっきり、森に響いた。

 男を斬ろうとした梓の、刀を振り上げた右手首を掴んで、それに振り向いた梓の顔をはたいた、あずさに、全員、釘付けになった。

 

「……貴様!!」

 梓は正気に戻りながら右手を引き剥がして、今度はあずさの方を向いた。

「……!!」

 あれ、どうしたんだ?

「……なぜだ、なぜそのような目で私を見る……?」

 目? あずさの目がどうかしたのか?

「やめろ……そんな目を、私に向けるなあああああああああ!!」

 

「危ない!!」

 梓が刀を、あずさに向かって振り上げた。それに向かって、明日香が叫んだ。

 

 ……スッ!!

 

「……」

「……」

 

 振り下ろされた刀は、梓の顔の真ん前で止まって、それ以上は下がらなかった。

「……」

 どうしたんだ、梓。何か、刀が震えてる。

「……」

 それで、さっきの梓の言葉が気になって、あずさの、目を見てみた。

「あずさ……」

 それは何ていうか、明らかに梓のことを否定してるけど、けど全部じゃなくて、どこか正当化してるようで、そんな梓のこと、全部を見てる。そんな、さっきまで以上に真剣な顔。

 そんな顔に刀を向けながら、梓は、ただ体を震わせてる。

 

「……今夜の午前零時」

 

 て、喋ったのは、あずさ。

「……約束の場所で待ってる」

「約束の場所……?」

 どこだそれ……

「そこに、彼も間違いなく連れてく……そこで全部、決着つけよう」

「……」

 梓はしばらく何も言わなかったけど、

「……ちっ!!」

 舌打ちしながら、抜いてた刀を納めて、足を男からどけた。

「その命、今しばらく預けてやる。残った時間を、脅え震え、恐怖しながら過ごすことだ」

 そういって、梓は消えていった。

 

『……』

 前と同じだ。

 誰も、言葉が出なかった。

 そんな中で、

「……ぐすっ」

 一番最初に声を出したのは、あずさ。うつむきながら、両目からは、大粒の涙を流して、顔を歪めながら……

 

「うあああああああああああああああああああああ!!」

 

 忘れられてるって分かった時は見せなかった、でかい声での、号泣だった。

 両手で目を押さえながら、その場にひざを着いた。

「あずさ……」

 明日香が駆け寄ったあとで、俺達も反射的に近づいた。そんな俺達の前でもあずさは、大声を出しまくった。

 

「梓くんのバカあああああああ!! バカああああああああああああああああ!!」

 

「……ああ、あいつはバカだ」

 本当に、そう思う。

「俺達の中の、誰よりも強くて、頭だって良いくせに、なのに……あいつは、俺なんか比べ物にならないくらいの、大馬鹿野郎だ!!」

 

『……』

 

 ズリ……

 

 俺達全員、黙り込んだところで、倒れてた男が、立ち上がった。

「……なあ、何なんだよ、あんた……」

 

「……」

 

「あんた、梓に何したんだよ……あんなに優しかった梓が、あんなふうになっちまうほどの、何をしたっていうんだ!!」

 梓が憎んで憎んで、おかしくなっちまうくらい憎んでも飽き足らない、そんな男。

 目の前に立ってるそいつのことが、何だか俺まで憎く思えちまった。いや、ここにいる、梓のことを知る奴らは、全員がそう思ってる。

 こいつが何をしたのかは知らない。こいつが本当に悪い奴なのかも分からない。けど、それでも梓をあんなふうに変えたのは、間違いなくこいつなんだ。だから、俺達もこいつが憎かった。

 

「……ああ。話すよ」

 

 まだあずさの涙が止まらない中で、そいつは俺達全員の顔をまっすぐ見据えながら、話した。

 

「私は……梓の父親を殺した」

 

 

 

 




お疲れ~。
図らずも、気が付いてみたら梓の使ったカードがZeroと聖杯以外でちょうど四十枚でした。
まあもしかしたら一枚多かったり少なかったりする可能性もあるかもだけど。死ぬほど暇なら数えてみて下さいや。
ただ、大海は数えた。
まあいいけど。そんじゃらオリカ。


『バンデット-盗賊-』
 通常魔法
 相手の手札を全て確認する。
 その中からカードを1枚選択して自分の手札に加える。

遊戯王DMにて、キース・ハワードが使用。
『エクスチェンジ』の上位互換、なんて生易しいもんじゃあねえな。
一方的にピーピングした上で好きなカードを選んで奪えるとか、初期のカードとは言え壊れ過ぎだ。
まあ相手が都合よく欲しいカードを握ってるとは限らないが、無条件にピーピングができるというだけで使う価値は十分過ぎる。
仮に出てたとしたら、『ハンデス三種の神器』同様永久禁止コースだったろうよ。


でもって、原作効果。

『天よりの宝札』
 通常魔法
 互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードを引く。 

これも説明はいらないよな。
壊れ。欲しい。以上。


今回はこれだけですわ。
さあ~てと、最終決戦までもうちょいです。ああ、ちゃんと決闘はさせるから安心してくらさいな。
それじゃあ、次話まで待ってて。

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