遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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第六話~。
つってもそこまで真新しいエピソードがあるわけでもなし。
どういうことになってくの、というお話です。
それじゃ、行ってらっしゃい。



第六話 花の闇、凶の胎動

視点:梓

 

 カランカラン……

 

『……』

「鍵は二つ手に入れた。文句は無いな」

『……』

 放り投げた鍵を眺めるだけで、何も返事は無い。

 もっとも、ここで止められたところでそれを聞き入れる気も無い。

 約束通り鍵は手に入れた。奴も見つけた。もう私がこの男に下る理由は無い。

 

 約束の場所……

 そんなものに覚えは無い。

 無い、はずなのに……

 私の足は、なぜか、そちらへ向けられた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 梓の(かたき)の男。

 梓が恨んで止まない男。

 梓をおかしくした張本人。

 梓の友人として、梓を思い、その姿に悲しみを抱く者達にとって、目の前に立つ白い着物の男は、そんな、怒りや憎しみの感情を催す者でしかなかった。

 そして、そんな男の口から発せられた事実が、新たに、全員の心に驚愕を植えつける。

 

「殺した……?」

「梓の、父親を……」

 翔と万丈目が呟いたのを見ながら、それでも男は笑っていた。

「もっとも、今の親父さんじゃねえ。昔の……いや、現在から見れば、未来の、かな?」

「わけ分かんねえこと言ってんじゃねえ!!」

 なおもニヤつく男に、十代はまた怒りの声を上げる。

「ふざけてないで、分かるように説明しろ!!」

「……その前にさ……」

 ニヤつく顔をそのままに、男は目を閉じた。

「気付いてる奴もいるんじゃないのか? 私が何者か」

「何者か?」

「遊城十代」

「……!」

「後は……万丈目準」

「……!」

「それと多分、君もだろう。平家あずさ」

「……っ!」

「どういうことだ?」

「何なノーネ?」

 驚愕する三人に、亮とクロノスが尋ねる。

 

『……』

 三人共に、しばらく視線を逸らしていたが、もう一度、男に顔を向ける。

「……初めて見た時から、違和感ていうか、おかしいとは思ってた」

「ああ。人にしてはやけに存在が希薄と言うか、まるで本当はそこにはいないかのように、ぼんやりと感じられた。そして、身近にそんな存在が現れて、確信できた」

「……わたしは二人みたいに、見えるわけじゃない。けど、噂には聞いてたし、あんたのこと見て、まさかとは思ってたけど、さっきの、主って言葉や、他の五人まで見せられたら……」

 

「な、何だっていうの?」

「三人で納得してないで、説明してくれ」

 明日香と三沢に促され、十代が、その重い口を開いた。

 

「あんた……決闘モンスターズの精霊、だよな」

 

「精霊?」

「ああ。その通りだよ」

 翔の疑問と、男の肯定の声が重なった。

 だが、大方の予想通りというべきだろう。この場でその言葉を聞いて、納得の表情を浮かべる者は、三人以外にはいない。

「精霊って、なに言ってるの?」

「おい、今はそんな冗談を言ってる時じゃないだろう」

「なら……」

 怪訝な声を上げる明日香と三沢に、男は呼び掛ける。

「証明すればいいのかな?」

『……!!』

 男がそんな声を出した直後、先程の、メンバーをここまで呼び寄せ、直前に梓に吹き飛ばされた、着物姿の五人が、同時に現れた。

「私だけじゃない。ここにいる奴全員が、梓の精霊だった者達だ」

 

「カゲキだ」

「シナイだよー」

「ミズホです」

「エニシ」

「キザン……」

 

「お前達全員が……」

「平家あずさ」

「……!」

「梓のデッキ、今持ってるよな」

「……」

 返事はしない。代わりに、紫のデッキケースを取り出した。

「その中の、真六武衆を出してやれ」

「……」

 一瞬、躊躇したものの、言われた通り蓋を開け、デッキの最前面に並ぶ、五枚のカードを取りだす。

 

『真六武衆-カゲキ』

『真六武衆-シナイ』

『真六武衆-ミズホ』

『真六武衆-エニシ』

『真六武衆-キザン』

 

『……っ!!』

 また、全員が驚愕させられた。

 直前までは確かに着物姿だった。だがそこには、五枚のカードに描かれたデザインそのままに、着物と同じ色の鎧を着た、鎧武者が五人。

「て、手品なノーネ!!」

 だが、クロノスは未だ信じられないようで、大声を上げた。

「今時突然現れたり、早着替えができる人間など、たくさん居まスーノ! 手品、マジック、隠し芸なノー……」

「悪いけど黙って」

 そんなクロノスを、あずさは睨みつけながら、静止した。クロノスも、そんなあずさに恐れをなしたようで、口を閉ざした。

「んで、本題だけどな」

 そこで、改めて男は話しを切り出し、五人も元の着物姿に戻る。

「事情は結構複雑だ。ちゃんとついてこいよお前ら」

「……分かったから話してくれ」

「よろしい。それで、まずは私達真六武衆なんだが、そもそも私達は、現在のカードじゃねえ」

「現在……?」

「の……?」

「ああ。今から数年後、君達が卒業したしばらく後だろうな。そのくらいにデザインされたカードだ。私達が梓に出会ったのは更にその後、梓の十六歳の誕生日だ」

「十六歳の……おい待て、あいつは今が十六歳だろう」

「そう。だが、あいつは今よりも未来に生まれた。それがどういうわけか、過去、つまり現在から十六年前に生まれて、この時代の水瀬梓として生きている、ということだ。もしかしたら、順番が逆の可能性もある。だが私達が先に出会い、主として仕えたのは今から十数年後の未来を生きた、十六歳の水瀬梓だった」

「……やべえ、もう頭が痛くなってきた」

「僕も……」

「要約すると、俺達の知る梓が生まれたのは今から十六年前だが、実は未来でも俺達の知る梓と同じ人物が生まれ、その梓がこの男達と出会った、ということだ」

 音を上げる十代と翔に対し、三沢が解説することで、二人ともようやく納得したらしい。

 男は続ける。

「もっとも、十六歳ってのも、実際にそうなのかは分からねえ。未来でもあいつはゴミ溜めに生まれて、親父さんに拾われたのは、あくまで推定で十歳の頃だったからな」

「そうか。未来でも、梓は捨て子だったのか……」

「捨て子……?」

 疑問の声を上げたのは、クロノス。同じく大徳寺も疑問の表情を浮かべた。

「そういえば先生達は知らないんだっけ……まあ、後で説明するよ。説明してもいいことなのか知らないけど……続き頼む」

「ああ。それで、未来で生きてた梓は、今よりもかなり複雑な環境にいてな。今と同じように決闘は大好きだし、決闘がしたくてしたくてたまらない、そんな子供だった。だが、あいつを取り巻く環境がそれを許さなかった」

「環境って……けど、今のあいつは決闘してるぞ」

「確かに、今はな。だが未来での事情は違う。未来でのあいつは、水瀬家の頭首になってたんだ」

「頭首……十六歳でか!?」

「そう。大勢の頭首の座を狙う連中を抑えてな。その後、頭首としても尽力した結果、水瀬家を、今以上に大きく、日本一有名な家に成長させたんだ。そして梓本人も、日本中から羨望やら憧憬やら、そんな感情を向けられる人間になっていた」

「すご……」

「けど、それがまずかったんだな」

「まずい?」

「ああ。今言ったように、現在でこそそこそこの知名度でしかない水瀬家を、梓が誰でも知ってるくらいに有名な家に成長させた。けど、これは今も同じだろう。そうなる以前から、家の中で拾われた梓を大切にしてくれてたのは、梓を拾った親父さんだけ。それ以外からの扱いは、君達も聞いての通り、最悪だった」

『……』

「事情は分かりませんが……」

「何となく、想像はできますニャ」

「けど、それがどうして決闘ができないことになるんだ?」

「スポーツと同じだ。社会的評価は高くても、それ以前に所詮は遊びやゲームだという認識も拭いきれない。だから中には、そんなゲームは下らない、そう吐き捨てる人間だって大勢いた。そして、あいつが拾われた水瀬家はそんな奴らの典型みたいな家で、そういう洋物文化とはまるで縁が無い場所でもあった。それこそスポーツの方がまだ許された。どれだけ楽しくて、社会に認められていても、決闘は……俺達は所詮、ゲームなんだよ」

 

『……』

 この場にいる全員が、悲痛な心境に駆られた。

 大会もあれば、プロもあり、そのための仕事さえある。

 だがそれも、元来子供の遊び道具だったそれが、世界で爆発的なヒットを確立し、今に至ったものだ。

 スポーツ。趣味。ゲーム。遊び。

 突き詰めてしまえば、決闘モンスターズとはそういうことだ。はっきり言ってしまえば、たかがカードゲームに一生を捧げ、必死な努力をしているのが自分達だ。

 たかがゲーム。そう言われてしまえば、返す言葉も無い。

「そんな家の中にいて、家中が、頭首になった梓を妬んで、恨んでる敵だらけ。社会からは大注目。そんな中で決闘なんてしちまったら、スキャンダルは免れない。日本中からバッシングを喰らって、頭首だからと大人しくしていた家の連中はここぞとばかりに梓を潰しにかかる。そして、間違いなく頭首ではいられなくなり、家を追われる」

「そっか。頭首でなきゃ、家にはいられなかったのか……」

「だが、あの梓が、そんなことにこだわる奴だとも思えんが……」

 

「……けどそれじゃ、どうして梓は決闘を……?」

「親父さんだ」

 十代の疑問に、男は一言で答えた。

「梓の十六歳の誕生日、親父さんは、私達の入ったデッキを梓にプレゼントしたんだ」

「でも、決闘は嫌いだって……」

「それは親父さんと、秘書として梓を支えていた男、その二人を除いた水瀬家の連中だよ。親父さんは、梓が拾われる以前から決闘を望んでるのを知っていた。そして、自分や、家を守るために我慢してることも分かってた。だから、夢を叶えてあげようとしたんだ。お陰で梓は、顔と名前を隠しながらだけど、大きな大会に出られるほどの実力を身に付けた」

「そっか。優しいお父さんだったんだ……」

「ああ。梓も、そんな親父さんのこと、本当の父親として大切にしてた。拾われた恩だけじゃない。本当の親子の絆を持ってた。頭首になったのだって、梓を選んだ親父さんが先代頭首だったからってのもあるが、それ以上に梓がその親父さんに拾われた恩を返したくて、何より喜んで欲しいからと必死に努力し続けて、結果選ばれた」

「決闘をしなかったのは、頭首の座を失うのが怖かったからだ。そのせいで、親父さんに迷惑を掛けること、何より、親父さんの息子でいられなくなることを、何より怖れたからだ」

『……』

「そんな親父さんを……私が殺した」

 

『……』

 

 ここで、ようやく本来の話題が上った。

「そして、その現場を見られた直後、あいつは姿を消した。その後何が起こったのかは分からない。ただどういうわけか、もろもろの出来事を綺麗さっぱり忘れた状態でこんな昔まで時間を遡って、人生をやり直して十六歳になってた。そこで、精霊界との結びつきが強いこの島で『真六武衆』のデッキを使ったから、私も姿を現すことができたわけだ」

 

『……』

 

「にわかには信じられん話しだが……」

 さすがに万丈目がそんな声を上げたが、その声色には、いくらかの納得も含まれていた。

「けど、そう考えると、君達タッグを最後に倒したカードにも説明がつくだろう」

『……』

「二人を最後に倒した、カード……?」

 十代の疑問の声を、二人は無視しながら顔を上げる。

「じゃあ、いくつも使った見たこと無いカードや、最後に召喚したあのモンスターも……」

「私達と同じ、未来に作られたカードだ」

「未来のカード……」

 

「……関係ない」

 ほとんどのメンバーの興味がその話に傾いた中、一人、声を上げたのは、あずさだった。

 ようやく涙が止まったらしく、目は真っ赤に晴れているが、それでも立ち上がり、男を見据える。

「梓くんが未来のカードや、どんなカードを使うかなんてどうだっていい。一番重要なのは、どうしてあんたが、梓くんのお父さんを殺したかってことだよ……」

「そ、そうだ……」

「それで、梓がおかしくなったのだろう。生き甲斐を奪われた。そして、私の全てを奪った。梓はそう言っていたが、それが、父親を殺された、ということなのだろう?」

「その通り」

 万丈目の質問に答えたところで、再び万丈目が、

「なぜ殺した?」

 そう問いかけた。

「……」

 そして男も、その重い口を開く。

「親父さんの意思だ」

「お父さんの?」

「ああ。理由は、私にも教えてはくれなかった。ただ親父さんは、死ぬことを望んでいた。どの道病気で半年ももたない。だから、これ以上梓の足枷になるくらいなら、いっそお前の、つまり私の手で……親父さんが、私が梓の精霊だと知った上で、私に最後に言った言葉だ」

『……』

「……信じていいのか?」

 

「そうでなきゃ、俺達はとっくにこいつを斬ってる」

 横から口を挟んだのは、いつの間にか鎧から着物に変わっていた、五人の一人、カゲキと名乗った黄色の着物の男。

「こいつは、そして俺達全員が、梓と親友だった。こいつが、梓の親父さんと二人きりで何を話していたのかは知らないが、そんな梓にとっての、この世で最も大切な存在を奪ったんだ。俺達だって、最初は君達と同じ気持ちだった」

『……』

「けど、彼は嘘のつける人間じゃないからねぇ」

 青色の着物、シナイ。

「彼がこう言う以上、何かきっと、のっぴきならない事情があったのは間違いない。納得できたわけじゃないけど、それは間違いないと思った」

「もちろん、だからと言って許したわけではありません」

 赤色の、ミズホ。

「正直今でも、梓をあんなふうに変えてしまったこの人を、斬りたくて仕方がない……けど……」

「俺達も、仲間だ」

 緑色の、エニシ。

「たとえ許せなくとも、そうなると分かっていた上で行った仲間の決意と覚悟を、俺達は信じることにした」

「それが、私達真六武衆の絆だ……」

 最後に、黒色のキザンが話した。

 

『……』

 全員が、沈黙に囚われていた。

 信じられない真実を、一度に聞かされて、思考が追い付いていないのか、それともどうすればいいのかと必死で思案しているのか。

 

「……なら、なぜ今現れた?」

 沈黙の後のそんな三沢の問い掛けに、再び視線が一ヵ所に集まる。

「今お前が梓の前に現れたら、梓がああなることは分かっていたのではないのか? それをどうして、今頃になって……」

「……そうだよな」

 視線を落としながら、切なげな表情で男は答える。

「このまま、私や、未来の親父さんのこと忘れて、何にも知らないまま、この時代の友達に囲まれて、普通の学生生活や、普通の人生を送る。そうすることが、あいつにとっては幸せだったのかもな……」

『……』

「けどそれって、本当の幸せなのかな?」

「それは……」

「あいつにとって、今とは違った意味で大切なこと、向き合わなきゃいけないこと、全部忘れたままにして、それで本当によかったのかな?」

『……』

 

「それに……」

 再び、今度はミズホが口を挟んだ。

「梓は私達を使って、彼のことを探していました」

「梓が?」

「ええ。彼を抜かれたデッキだけは、幼いころからずっと一緒にいましたから。そして、彼以外の私達五人の存在も、彼は認識していた」

「だから、ずっと正体不明だった最後の真六武衆、それを、僕らと一緒に探していたんだ。ただ時代が違うから会えないだけで、本当はすぐ近くにいる。それを知らないまま、なぜ探し続けているのかも分かっていないまま、ずっとね」

 ミズホとシナイの説明の後で、また男が言う。

「だから、私は梓の前に現れたんだ。どの道、いずれ思い出さなければならない日が来る。なら多分、早い方がいい。あいつが無くした記憶も、あいつが抱いた私への憎しみも、あいつには、全部知る権利があるから……なんていうのは、正直、建てまえだな」

「建てまえって……じゃあ、本当は違うのか?」

「……君達と同じさ。会いたかったからだ」

「会いたかった……?」

「そう。ずっと、一緒に戦ってきた大切な親友に、会いたかった。向けられるのが憎しみでも殺意でも、一目会って、話しがしたかった。それが、あいつの前に現れた一番の理由だよ」

 

『……』

 そう話した男の表情は、笑みを含んだまま、今まで見せてきたどの表情よりも、純粋だった。

 そして、今見せているその表情を、全員が知っていた。

 会いたい。そのたった一つの願いだけを抱き続け、待ち続けた、そんな、メンバー全員の表情だった。

 

「じゃあ……」

 再び流れた沈黙の中、今度はあずさの声が聞こえた。

「どうすればいいの……?」

「……」

「理由は全部分かったけどさ、梓くんは、多分あんたを殺すまで、絶対に止まらないよ。ずっとずっと暴走して、いつか本当に死んじゃう。それまで、逃げ回る気?」

「そんなことはしない。だから私はここに来たんだ」

 男の顔から、それまであった笑顔が消え、強い視線を全員に向ける。

「君の言った通り、今のあいつは、私への復讐だけに囚われて、暴走してる。そのために、今一番大切なものの存在まで忘れて、復讐だけを見るようになっちまったんだろう」

「一番大切なもの……それが、あずさ……?」

 十代の問い掛けに、男は頷く。

「そうだ。思い出とか絆とか、そういうものを復讐には邪魔だって一切合財切り捨てた結果、全部忘れたんだろうな。現在で一番大切に思ってた、君のことを」

「……」

「だが、だからと言って、私が黙って殺されたら、今度は梓が自殺する」

「それだけは絶対ダメだ!!」

「もちろん……もっとも、それがあいつの望みなら、正直どうにもならない……」

「望み? 梓は、死にたがってるのか……?」

「言ってたろう。疲れたって」

「あ……」

「私の行為をきっかけに、何も信じられなくなって、色々なことに絶望して、それで生まれたことに後悔しちまってる。それに疲れちまったから、私の命を道連れに、自分も消えて無くなろう。そう望んでるなら、それはもう仕方ない」

「仕方ないって……!!」

「だが仮にそうだとしても、人間でなくゴミとして、色んなものに絶望しきったまま死んでいくなんてことはさせない。思い出させるんだ。人間としての希望と幸せを。そして二度と言わせない。生きることに疲れた、生まれてこなきゃよかった、なんてことは」

「……」

 

『……』

 

「そして、そのために、君が梓を止めるんだ」

「……え?」

 男が言葉を掛けたのは、あずさだった。

「この中でそれができるのは、君しかいない。そうだろう」

 あずさに語り掛けながら、全員に尋ねる。

『……』

 あずさ以外、全員が同意を示した。

「そんな……梓くんに忘れられてるのに、どうやって……」

「けど、そもそも決闘以前にあいつに実力で敵うやつなんて、お前しかいないだろう。お前だって、さっきはそのつもりでああ提案したんじゃないのか?」

「それは……正直、ただの勢いだよ。よく考えたら、わたしももう丸腰だし、今の梓くん、最後に別れた時よりすごく強くなってるし、第一、決闘だって……」

「いいえ」

 あずさの不安の声を、明日香が遮った。

「あずさは、梓に一度決闘で勝ってる」

『えぇ!?』

 十代と、翔以外の全員が声を上げた。

「いや、でもあれは……」

「ええ。決闘自体は梓の勝利だった。けどあなたのプレイミスさえ無ければ勝てた。梓もそう言ってたじゃない」

「プレイミスか。なるほど……」

 亮が声を出しながら、頷いた。

「いや、でも……」

「ねえ、あずさ」

 なおも拒むあずさに対し、明日香は両肩に手を添えながら、優しく語り掛ける。

「何も決闘の実力とか、それ以前の戦闘力とか、そんなものだけで私達はあなたを頼ってるわけじゃないの」

「……?」

「梓がああなる前、このアカデミアで誰よりも梓と仲が良かった人、誰よりも梓のことを思ってた人、それに、今日まで誰よりも梓のことを待っていたのは、あなたのはずよ」

「それは……」

「梓が暴走した時、力ずくで止められる人間はあずさ以外にいない。もちろんそれもあるけど、それ以上に、あずさが梓のことを止めてあげないといけないの。今の梓が、あずさのこと忘れてるんだとしても、きっと、ずっと自分のことをゴミだと思っていた水瀬梓に、人間としての幸せを感じさせてあげられたのは、平家あずさの力だから」

「わたしが……?」

「だから、みんなもあずさじゃなきゃいけないって、思ったんでしょう?」

 

「ああ、そうだ」

 最初に、十代が返事を返した。

「そりゃあ俺だって、梓のことずっと友達だって思ってたし、梓だって、俺のことそんなふうに思ってくれてたって、感じてる。けど、それでも一番大切にしてたのは、あずさ、お前だった」

「本当、その通りだったよね」

 続いて翔が、微笑みながら話し始める。

「はたから見てて、笑っちゃうくらい、不器用だけど、一途にあずささんのことを思ってた。本人は告白して振られたってずっと思ってて、それで諦めたつもりだったけど、全然諦めきれてなくて、あずささんのこと、ずっと見ててさ。あずささんだって、梓さんのこと、ずっと見てたんでしょう?」

「……」

 否定はしない。できるはずがなかった。

 そんなあずさに、

「あずさ」

 万丈目が声を掛ける。

「俺もこいつらほどでなくとも、梓のことはよく知っているつもりだ。そして、あいつがお前に向けていた感情にも気付いていた。そして、そんな感情を、梓自身も大切にしていた。それだけは、間違いない」

「……」

「前にも言ったろう。梓のことを思い、梓に思われている以上、お前はここで梓のことを待ち、そして、迎え入れなければならないと。そしてそれは、たとえ忘れられ、向こうからの思いが消えてしまっているとしても変わらない。思い、思われていたという事実があったなら、たとえどちらかが忘れていても、どちらかが覚えてさえいれば消えることはない。そして、それを思い出してほしいと願うなら、その思いを梓にぶつけるしかない」

「……」

「俺は……俺と翔は、それができなかった。もちろん俺達もあいつへの思いは同じだ。だが、どれだけぶつけても、あいつの心に届くことはなかった。なら誰ができるか。悔しいが、この中で最もあいつのことを思い、そして、本当の水瀬梓を誰よりも知っている、平家あずさ、お前だけだ」

「……」

「あずさ」

『あずさ』

 再び全員から声を掛けられる。

 あずさ自身も、梓のことを止めたいと、心底思っている。ただ、それでも、

「……けど、今の梓くんを、力ずくで押さえられる力なんて、わたしには……」

『……』

 それが、最も現実的な問題だった。

 

「一つだけ方法がある」

 今なお顔を伏せるあずさに対し、再び男が話し掛けた。

「なに……?」

「今のあいつは、自分以外の別の力……精霊の力を体に取り込んで強くなってる」

「精霊の……?」

「だよな。そこの子」

 と、突然別方向を見た。全員がそちらを見ると、そこには、仁王立ちの万丈目、と、

「……て、誰だ、お前……」

 

「……」

 

 そこには直前までいなかった、青髪をツインテールに縛り、紫色のタイツに身を包んだ、美少女が立っていた。

「さっきの……やっぱり、見たことがある」

「知ってるのか、翔……あれ? 言われてみれば……」

「そう言われてみれば、私も……」

「俺もなんだな……」

 疑問を浮かべる翔、十代、明日香、隼人に、少女もまた顔を向ける。

「梓の今の精霊、かな?」

 問い掛けてきた男の方を見ながら、少女を答えた。

「初めまして、かな。そう。僕も精霊だよ。あずさちゃんと、君達四人には会ったことあったよね」

『……』

「『氷結界の舞姫』」

『!!』

「そして本名は……君や彼と同じ。カタカナ三文字で、アズサ」

「アズサ……」

「もっとも、生まれた時からずっと梓の中にいて、最近決闘で使われてようやく出てこられたんだけど。そこまで強くないから滅多に使われないし。さっきの決闘でも、デッキに入れられてすらなかったし……」

「入っていないのも当然だ。梓から離れたお前のカードを今所持しているのは、俺だぞ」

 『氷結界の舞姫』。そのカードを取り出しながら、万丈目が言った、その直後、

「……うん?」

 あずさが突然、疑問と、更に別の感情を含んだ声を上げた。

「ずっと、梓くんの中にいて、使われたから出てこれて、それで、(ボク)って……まさか……」

「あ、分かった?」

 

「////」

 

 分かり、思いだして、赤面するあずさに対し、アズサは笑いながら再び声を掛ける。

「もっとも、あの時は梓が怒って、その拍子に性格が僕になってただけ。そんな僕の性格と梓の本音が重なったから、ああなったんだけど。だから、決闘の時のあれは僕じゃなくて、梓自身がそうしたくてそうしたことだよ」

「梓くんが……」

「もちろん、決闘の後のアレもね」

「////////」

 余計に赤くなった。

「何の話しだ?」

「……聞いてやるな」

 万丈目他、あの場にいなかった者達に対して、十代がそう言った。

「それより……うん、そう。正確には少し違うけど、梓は今、精霊の力を体に宿してる」

 真面目な顔になりながら、アズサは話しを始めた。

「それも、かなり強力なのをね」

「そのために、多大な犠牲を払ったんじゃないか? 世界一つ滅ぼしかねないくらいの」

「……分かるの?」

「あれだけの力だ。そのくらいの代償はいるだろう」

「世界一つって……」

「マジかよ……」

 声を出した、十代と万丈目も、あずさやアズサを除くメンバーも、信じられないと、表情に表れていた。

「……うん、そう」

 深刻な表情を見せながら、アズサは、肯定する。

「あの力を手に入れるために、梓は僕の故郷と仲間を犠牲にした。それも、結果的にとは言え、世界を滅ぼしかねない異変を起こして。そして、その力を今、手に入れてる。全部、君への復讐のために」

「……」

 

『……』

 

「そうなると……」

 沈黙の中、男がもう一度、あずさを見る。

「こっちも、精霊の力……つまり、私の力を、君に与えるしかない」

「わたしに……?」

「ただその場合、力が格段に強くなる代わりに、梓の標的は私から君に変わる。何せ私が君の中にいるわけだからな。梓は君ごと私を殺しにくるだろう」

「そんな……そんなこと……!?」

「他に方法は無い!」

 大声を上げた明日香に対し、男もまた、声を上げた。

「それとも君が変わるか? それで梓に勝てるのか?」

「そ、それは……」

 戦闘力を持たない明日香としては、そこで口を閉ざすしかない。

「……とは言え、この子の言う通りだ。もちろん、無理にとは言わない。文字通り命懸けになるからな」

「……」

「どうする? 比喩じゃなくて、本物の命を懸けて、梓のことを止める覚悟はあるか?」

「……」

 目を閉じながら、その言葉を思考する。

 

『……』

 

 そして、目を開いた。

「ある」

 迷う理由は、無かった。

『……』

「……よろしい」

 そんなあずさの姿に、男は笑みを浮かべ、他のメンバーは、ただ沈黙するだけ。

「じゃあ、まずはもう一度、梓の紫のデッキケースを出してくれ」

 言われた通り、ケースを取り出し、男の前に差し出す。

「今から、こいつの封印を解く」

「封印?」

「それって……!」

 十代の疑問の声の直後、翔が声を上げ、万丈目も目を見開いた。

「さっき言った、未来の力、それを使えるようにする」

「そんなことできるのか?」

「もちろん本来なら許されることじゃない。別段、ペナルティがあるわけじゃないが、遥か先の未来で作られるはずの力を、現在に逆輸入するわけだからな。だが、今のあいつはそれをしてる。そして、次も必ずそうしてくる。なら、こっちもそれで対抗するしかない」

 十代に応えながら、男がケースに手を触れた時、

 

 カァァァァァァァァ……

 

『……っ!』

 男と、あずさを除いた全員が目を覆うほどの光が、ケースから立ち上った。

 そして、それも徐々に消えていき、やがて、普通のデッキケースへと戻った。

 

「同じだ……」

「ああ。俺達の決闘の時と……」

 そんな、翔と万丈目の呟きは、誰にも届くことはなかった。

 

「このデッキを使え。君なら、すぐに使いこなせる」

「……(コク)」

「よろしい。今度は、私だな」

 男は立ち上がりながら、腰に差した刀を鞘ごと取る。

「……」

 先程目の前で見た時、ノコギリ状の刀身は全て真っ黒だった。今目の前で、鞘に納まっている状態ではあるが、柄も鍔も、鞘に至るまで全てが、透き通るように美しい漆黒。それはまるで、夜空を形作る闇の輝きに見えた。

「そうだ。今のうちに約束しておこう」

「約束?」

「結果がどうなろうと、全てが終わった時……私のことを殺してもいい」

『……!』

「……それは、提案じゃなくて、あんたの望み、なんじゃないの?」

「……かもな」

「……でも、どうやって?」

「簡単だ。たった今デッキに現れた、私のカード。それを破る。それだけでいい」

「あんたのカードを……」

 あずさの返事を待つ前に、男は刀を差しだした。反射的に、あずさもその刀に両手で触れた、その瞬間、

 

「……!!」

 

 まるで、その刀を通して、両手から、あずさの中へ、何かが流れ込んでくる、そんな感触。

 苦痛ではない、だが快楽ですら決してない、そんな不快な感覚が続く。

「……」

 そんな感覚の最中、男の姿は、徐々に透明と消えていった。

「……」

 そして、男の姿が消え、後には刀だけがあずさの手に握られていた。

「これ……」

 

 スゥ……

 

「……!」

 そして今度は、その刀が変化を始めた。

 うごめく真っ黒な、闇。言葉にするならそう呼ぶしかない。そんな不定形の闇に変わり、二つに分かれ、あずさの両手にまとわりつく。

 そして、

「これ……」

 それは、刀と同じように黒く光り、黒い輝きを放つ、手甲に変わった。

「……!」

 同時に、気付いた。

(何だろう、体の奥から、すっごい力が湧いてくる感じ……わたしの中から出たがってるみたい……すごく……すごく……)

「……!!」

 衝動に任せて、力を開放するイメージを作った、その瞬間、

 

 ボウッ!!

 

「おわあ!!」

「あずさから、炎だと!?」

「ちょ、周りが燃えてる燃えてる!!」

「えぇ!!」

 慌てて後ろを振り返ると、確かに、周りの木々に炎が燃え移っていた。

「わあ!! わ、わあ……!!」

 どうしようかと、慌てたまま拳を燃える木々に向かって打ち出した、その瞬間、

 

 ビュォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

「……!!」

『……!!』

 放たれた拳からの風圧が、一気にその炎を消し飛ばし、鎮火させてしまった。おまけに風圧は目の前だけでなく、森の奥まで届いていき、向こうの木々に停まっていたのであろうカラス達が空へ飛び上がる様が見えた。

「……」

 今までも、風圧での消化は、或いは可能だったかもしれない。だが、少なくとも衝撃がこれほど遠くまで届くことは無かっただろうに。

(前よりずっと、強くなってる……)

 ふと、消化した木に目を向けてみる。

「……」

 今なら木どころか、アカデミアに建つ巨大な柱すら、片手で掴み上げられる気がしてくる。

 

「……」

 そして、今度は紫のデッキケースを開いた。

 今日まで保管するだけで、詳しく内容を見たことの無いその中身は、見たことのないカードはもちろん、見たことの無いカードテキストまでもが多く混ざっている。

 そして、

「あ……」

 ようやく、分かった。梓がずっと追い、その命を狙い、そして、たった今、力と命を差し出した、男の名を。

「そっか……」

 

「あずさ?」

 声を掛けた明日香を含む、心配を向けるメンバーに、あずさは、笑顔を向ける。

「ごめん。一人にしてくれる?」

「え?」

「この力と、デッキのこと、ちゃんと分かっておきたいから」

『……』

「大丈夫……わたしはもう、大丈夫」

「あずさ……」

「梓くんのことは、わたしが絶対、何とかする」

 

『……』

 

「さっき、梓くんに言った通り、今夜の午前零時に、全部、終わらせるよ」

「……じゃあ、後で女子寮に行くからな」

「一人で行こう、なんて、思ってないわよね」

「うん。みんなで行こう。みんなで、梓くんを取り戻そう」

 

『うん』

 

 そして、陽が完全に隠れた頃、残り二つとなった鍵を守るメンバーは、一時解散した。

 そして、今度は日付が変わる時。

 それが、彼を取り戻すための、最後の戦いとなる。

 それを、全員が理解した。

 

 

 

 




お疲れ~。

……

台本じゃねえか!! 小説を書け小説を!!

……いや今更のことではあるけど。
やたら人が多い場面を書くとこうなってしまう。だからって台詞を書かないことには話が進まないし、無理して状況描写しても話は進まないし、それで文字数だけ増えても何が良くなるわけでもなし……
……て、書く側の愚痴をここに書いてたって仕方ないのだけれど。
もう一話会話のみの話を挟みますゆえ、決闘はもうちょい待っててくださいな。
そげなわけで、次話まで待ってて。
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