遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

73 / 175
できたぞー!!
待ってないろうが待たせてすまん。
タイトル通り、二人の最後の戦いの、はじまりはじまり~。
そんじゃ、行ってらっしゃい。



第八話 最終決戦、二人の梓(あずさ) ~思い出はただ憎く~

視点:外

 

「おかえりなさい」

『おーう』

「どうでしたか?」

『やっぱりダメ。何の手掛かりもないよ』

「そうですか……御苦労でしたね。ゆっくりお休みなさい」

『申し訳ありません』

「気にしないで下さい。むしろ、あなた方に任せるしかない私の方こそ、謝罪すべき立場にあるのですから」

『すまんな。だが、これだけ長く探しているのに、未だに手掛かり一つ無い』

「ええ。あなた方が見つけられないとなると、少なくともあちら側にはいないということですね。だとすると、やはりこちら側のどこかに……」

『そうなると、私達では限界がある……』

「ええ。しばらくは私一人で動きますが、またあなた方に頼むことがあるかもしれません。その時は……」

『分かってるって。いつでも頼りにしろよ』

「そうですか。感謝に絶えません。ですが、その時が来るまではお休みなさい。もしかしたら、その時はすぐそこかもしれませんが」

『なになに? どういうこと?』

『何か問題でも?』

「分かりませんが、少し嫌な予感がするのです。このまま何事も起きなければ良いのですが」

『まあ、何かあっても梓なら大丈夫だろうけどな』

『うむ……それに、いざと言う時は私達がいる……』

「ふふ、ええ。頼りにしています」

 

 ッス

 

 ……

 …………

 ………………

 

『泣くなよぉ』

「……すみません」

『何で謝るのさ?』

「私は、あなた方を……」

『休んでろって言ったのに決闘で使っちゃったこと気にしてるの? 相変わらず大げさだねぇ』

『泣かないで下さい。いつでも力になると、私達はあなたに言ったはずです』

「……そうですね。分かっています。それは、とても嬉しいことです」

『ああ。久しぶりだが、一緒に戦えて嬉しかったぞ』

「……そうですか。そう言って下さいますか」

『楽しかった……』

「……私も、楽しかった」

『……なら、もう泣くな。私達は、いつでもお前と一緒だ……』

「……はい。ありがとうございます」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 夢を見ていた。

 幸せな夢だった。

 家に帰れば、望みもしない仕打ちに苛まれ、助けを求めることもできず、いつも一人で生き続けてきた中、唯一、友と呼べる五人の男女。

 幸せだった。何も返すことができない、何の価値も無い自分のそばに、こうしていてくれることが嬉しかった。

 『真六武衆』。

 彼らはそう名乗った。名前からして、彼ら五人以外に、もう一人いるはずだ。

 それを確信し、だから、探し出そうと考えた。けれど、精霊が見えるだけの自分では、精霊を探す力には限界がある。それに悩まされていた時、彼らが、探してくれると言ってくれた。

 こんな、自分なんかの願いを聞いてくれて、それを叶えようとしてくれる、そんな彼らの存在が、何物にも変え難い宝物になっていた。

 いつか、六人目を見つけた時、まずは、五人にお礼を言って、そして、六人目にも挨拶をして、そして、みんなで幸せになろう。

 もし見つからなくても、五人がそばにいてくれる。それだけでよかった。それだけで、一生幸せでいられる。そう、心の底から感じ、確信していた。

 

 けど、六人目が現れて、その顔を見た時、全て思い出した。

 五人にお礼を言って、そして、六人目にも挨拶をして……

 無理だった。

 まずは、彼の名前を叫んだ。そのすぐ後で、刀を抜いた。そして、過去、時代にとっては未来でそうだったように、まるで歯が立たなかった。

 

 彼らがいれば、幸せでいられる。心の底からそう思っていた。

 けど、六人目への憎しみを思い出してしまった今、もう、無理だ。

 どれだけ輝かしい思い出が、楽しかった時間が、嬉しかった気持ちが真実だったしても、彼ら五人が、六人目の仲間である以上、もう、彼らと一緒にはいられない。

 六人目のあいつは、憎むことはできても、もう、愛することはできないから。

 

 もっとも、憎むことができる身ですらないけれど……

 憎い。そんなふうに思うこと自体おこがましいのだろうけれど……

 こんな自分の感情なんて、どこまでも偽物でしかない嘘の塊だろうけれど……

 けれど、けれど、それでも……

 

 憎い。

 この感情だけはどうしても、自分はゴミだから、人じゃないから、そんな理屈で割り切れるものじゃなかった。

 バカだよね。可笑しいよね。

 けどそれでも、消すことができなかった。

 だから、まるで人間がそうするように、力を求めて、多くを犠牲にして、今日まであがいて、その憎しみをぶつけるために、走り続けることしかできなかった。

 

 そして、求めた物を全て手に入れて、戻ってきた今日……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 そこで、意識が戻った。それでも、目を開くことはできなかった。

 夢を見て、幸せだった。けどなぜか、目が覚めてもう一度この場所を認識した時、ここへ来た時と同じ感覚に酔いしれた。

 心が弾む。癒される。こんなこと、五人と一緒にいた時でさえ無かったことなのに……

 

 そんなことに疑問を感じた時、気配を感じた。

 全部で十一人、人の気配。そして、その中の一つは、記憶に無いけど、知っている。

 その矛盾が示す答えは一つ。あいつは今、あの女の中にいる。

 顔も知らない、なのになぜか、この場所のように、見ていて癒される……

 そんな、あの女の中にいる。

 

 奴らは目の前に立った。とても大切な人達だった。

 けど今はもう、邪魔者でしかない。目的に向かうことに対する、邪魔者でしか。

 まず、周囲を凍らせた。逃げられないよう、周りを氷で覆った。

「今度こそ……」

 そして、立ち上がって、

「今度こそ……逃がしはしない、絶対に!!」

 けど、その直後、その女の体から、大きな炎が立ち上った。それは、せっかく作った氷の壁を、全て溶かしてしまった。

 あいつの力だ。そう確信した直後、

 

「安心して。もう、どこにも逃げたりしない。彼も……わたしも」

 

「……」

 会ったことも無い奴の、何より、あいつを宿した奴の言葉など、信用する価値は無い。

 けど、その目は嘘を言っているようには見えなかった。

 

 だからただ、無言で見つめ合っていた。

 だからただ、無言で見つめ合って……

 

 

 バッ

 バッ

 

 ガッッッッッキィッッッッ!!

 

「熱っち!!」

「冷たい!!」

 刀と手甲。

 その二つが交わった瞬間、強烈な衝撃を伴った、熱波と寒波が発生した。

 周囲の木々を揺らし、木の葉をざわつかせ、メンバーを包んだ。

 

 ググググ……

 バキッ

 バキッ

 

 二人がしばらく鍔ぜりあった時、刀は折れ、手甲は砕けた。だがまたすぐに、不定形の光と闇となったそれは、それぞれが元の形に戻る。

 

 バッ

 バッ

 

 今度は同時に、上に跳んだ。

 

 ガキガキッ

 ガキガキガキッ

 ガキッ

 

 たたずむ木々を飛び移り、いくつもの大木を倒していきながら、そんな鍔迫り音を響かせる。

 そんな光景を、残されたメンバーは、目で追うことで精いっぱいだった。だがすぐに、目では見えない、遠くへと離れていってしまった。

 

「……彼らは本当に人間かい?」

「梓は人間よ!!」

「いや、その通りだが……いや、そういうことではなくて……」

 叫んできた明日香に吹雪は動揺を見せつつ、言葉の真意を語るべきかとも考えた。だがそのすぐ後で、肩に手が置かれ、見ると、亮が肩に手を置いていた。

「言いたいことは分かっている。だが、あの二人にそれ以上は無粋だ」

「亮……君は、この光景に何とも思わないのかい? この、どこかのスタイリッシュ英雄アクションのような光景を……」

「あの二人にとっては普通のことだ」

「普通……?」

 

「普通だろう」

「普通だよ」

「普通なんだな」

「普通だ」

「普通よ」

「普通だな」

「普通なノーネ」

「普通ですニャ」

 

「……亮、僕がおかしいのかな……」

「今はそれ以上言うな。今は、平家あずさを信じるんだ」

『うん』

 

(結局そこに落ち着くのかい……?)

 

 

「はあああああああ!!」

 梓が叫ぶと同時に、その目前に、周囲に氷の剣と、透明な四角形の結界がいくつも生まれた。それが、あずさへ向かって飛んでいく。

「やあああああああ!!」

 

 バキバキバキバキ……

 

 だが、あずさはその結界全てを殴り、砕いていく。砕けた結界がまるでガラス片のようにあずさの身に飛び散ったものの、それらは全て、その身に宿る炎によって燃やされ、溶かされていく。

 

 スタッ

 

 全ての剣と結界を破った直後、梓は空高くへ作られた一枚の結界の上に降り立っていた。そこから、刀を構え、

 

 ズバズバズバズバズバ……

 

 斬撃を繰り出す。その時、あずさは直感的に体をずらし、それ(・・)を避けた。

 斬撃による鎌鼬。目には見えないそれを、走り続けることで避けていく。

 走りながら、徐々にではあるが、見えるようになっていった。そして、全てが見えるようになったところで、

 

 ガッ

 バキバキ……

 

 手近にあった木を掴み上げ、それを、空の梓に投げつけた。

 梓も最初はそれすら斬ってしまったが、

「……ちっ」

 木の数は増加していき、おまけに四方八方から飛んでくる。徐々に、鎌鼬を作り出すより早くなっていく。そして、

 

 バッ

 バッ

 

 最も高い木に足を掛け、あずさは梓へ跳んだ。そして、拳を大きく後ろへ下げ、

「せえぇぇい!!」

 前へ突き出した時、そこから巨大な炎が生まれ、梓へ向かう。

「……っ!」

 梓は一瞬反応が遅れ、成すすべなく、その炎に飲み込まれた。

 

 パキパキパキ

 バリンッ

 

「氷!?」

 割れた梓の姿を認識した、その直後、

 

「こっちだ」

 

「くっ」

 すぐに後ろを殴ったが、避けられた。

 直後に斬撃が襲ったものの、それもどうにか防ぐ。

 防いだところで地面に降り立ち、すぐに距離を取った。

「……」

 

「……!」

 距離を取った直後、周囲を、いくつもの梓に取り囲まれた。

「これは……幻?」

 すぐに理解したが、一斉に刀を構え、こちらに向かってきた。

「……ふっ!!」

 あずさは、体全体に力を籠め、

 

 ボウッ!!

 

 体中から、巨大な炎を生み出し、周囲を燃やした。その炎を受け、動揺を見せるたった一人の梓に向かって、

 

 ガッキッ

 

 飛び込んだことで、再び手甲と刀が交わる。

「鎌鼬や幻を使ってる間は、他の技は出せないみたいだね」

「くぅ……」

 

 ガッ

 

 会話した直後、梓はあずさから離れる。

 

 スァ

 スァ

 スァ

 スァ

 

 その直後、あずさの四方を、あずさを閉じ込めるように結界が囲んだ。そして、

 

 スススススススススス……

 スススススススススス……

 

 今度は前後左右と上に、いくつもの氷の剣が生まれる。

 あずさはもう一度、体に力を籠めようとした、その時、

 

 ドゴォ!! 

 

「……っ!」

 梓が地面を強く踏みつけたことで、地面が揺れ、あずさの体は一瞬よろめいた。そして、その一瞬の隙を狙い、

「はぁ!!」

 地面に刀を滑らせ、そこから発生した氷があずさへ向かった。と同時に、あずさを覆う剣の全てが、あずさに向かって飛んでいく。

「……えい!!」

 

 ドォッ!!

 

 ふらついたまま、地面を本気で殴ると、

 

 ボォォゥゥゥゥゥッ!!

 

 巨大な火柱が、あずさの足下から生まれ、あずさを飲み込んだ。その火柱に、氷も、氷の剣は飛び込んだが、それらは全て蒸発していく。そして、

 

 バキッ

 バキッ

 バキッ

 バキッ

 

 結界が四枚同時に砕け、あずさは梓へ跳んだ。

 梓は刀を振るったが、それを、あずさは避け、

 

 ドゴオッ!!

 

 あずさの拳が、梓の頬にぶつかった。

 そのまま梓は後ろへ、いくつもの木々にぶつかり、砕きながら飛んでいく。

 今度は、氷の人形ではなかった。

 

「……」

 梓は立ち上がり、あずさを見据える。右頬が大きく腫れ上がり、吐血していたが、

 

 スゥ……

 

 腫れは無くなり、血を拭うことで吐血も止まる。瞬時に殴られる前の状態に戻ってしまった。

 

「……」

「……」

 

「はああああああああああああああ!!」

「あああああああああああああああ!!」

 

 ガッキッ!!

 

 バッ

 バッ

 

 

「戻ってきたぞ!!」

 十代が叫んだ直後、二人は鍔迫り合いながら、彼らの前に降り立った。

 

「……」

「……」

 

 最初と同じ。一方は憎悪を、一方は愛情を抱いたその目を、ただ相手に向けていた。

「あずさ、頑張れ……」

「頑張って、あずささん……」

「あずさ……」

「あずさ……」

 

(……というか、誰でもいいから、僕以外に誰か、この異常な光景に何か言っておくれよ……)

 

「あああああああああああ!!」

 

 ガッキッ

 

 メンバーが呟く中、再び梓が、あずさに斬り込む。

 

「さあ!!」

 ガキッ!!

 

「今すぐ父に(こうべ)を垂れろ!!」

 ガキッ!!

 

(ゆる)しを望んで請い願え!!」

 ガキッ!!

 

「そして!! 首を!! ()ねられろ!!」

 ガキッ!!

 

 ググググ……

 

「いくらでも謝る」

 ガッ

 

「頭だって下げる!」

 ガキッ!!

 

「殺されたって文句は言わない!!」

 ガキッ!!

 

「だけど、彼も、わたしも、君に生きてて欲しい!! わたし達のこと殺したって構わないから、君に、人として、生きてて欲しい!!」

「戯れ言も大概にしろ!!」

 

 ガッ

 ガキッ!!

 

「生きろだと? 人間になれだと!? そんなもの!! 散々望んできた!! 望んだことで人の幸福に喜悦し、更なる幸福と未来に希望を抱いた!!」

 ガキッ!!

 

「その結果がどうだ!? 友と信じた者には裏切られ、最も愛した人を奪われた!! 全て、私が望んだせいだ!!」

 ガキッ!!

 

「もううんざりだ。私自身にも、生きることにも! 多くの人が犠牲になったのも、愛した人を死なせたことも、全て、全て私のせいだ!!」

 ガキッ!!

 

「それでも、死ぬことはできなかった。命が惜しかったからではない。やり残したことがあったからだ。だから、残された望みを叶えるため、多くのものを犠牲にしてきた。掛け替えの無い居場所を、新たに愛した者達を、全て犠牲にし、その命を奪い、そうして今、力を得て帰ってきた!!」

 ガキッ!!

 

「そこまでしなければ止まらなかった!! 私の望みを叶える。そんな、まるで人間のように、ゴミの分際で、人間がそうするようにだ!!」

 ガキッ!!

 

「それだけのことをした私に、生きる資格など無い!! いや、そんなことをするまでもなく、私には最初から、生きる資格など無かった!! ゴミの私には、捨てられた時点で死ぬことが義務付けられていた!! それを見苦しく足掻き続けたせいで、多くの命を奪い、奪われた!! 私のせいで!!」

 ガキッ!!

 

「たかがゴミが人の命を奪う!! これほど愚かで滑稽なことは無いだろう!!」

 ガキッ!!

 

「さあ笑え!!」

 

 ガキッ!!

 

「ゴミの私を!!」

 

 ガキッ!!

 

「嘲笑えぇぇええええええええええええええ!!」

 

 ガァッッッッッッッッッキッ!!

 

 ググググ……

「わたしは誰も笑わない。絶対に……君のことだって」

 ガッ

 

 刀を弾き返し、再び距離を取ったところで、構える。

 

「刃に咎を!! 鞘に贖いを!!」

 

「淡く微笑め!! 東の照!!」

 

 ドォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッ!!

 

 

『……』

 技によって起きた土煙が晴れた時、二人は再び、同じだけ距離を取っていた。

 そしてそれはいつの間にか、最初に向かい合っていた場所だった。

 梓は滝を背に立ち、あずさは仲間達を背に、互いを見据えている。

 

 そして、直後、梓は左手の刀を、あずさは両腕の手甲を、それぞれ掲げる。

 それは、光と闇の不定形に変わり、互いの左手に集約した。そして、ある形を作る。

 紛れも無い、決闘ディスクの形を。

「……」

 

「平家あずさ!!」

 

「……?」

 後ろから、万丈目の声が響いた。振り返ると、万丈目を含む、何人かのメンバーは、その目の淵に光るものを見せていた。

 

「絶対に……絶対に、水瀬梓を倒せ!!」

 

「万丈目くん……」

 

「梓のこと救ってやれるのは、お前だけだ!!」

 

「十代くん……」

 

「梓さんは間違ってる!! でも、それは存在や生きてることがじゃない!! そのこと、教えてあげて下さい!!」

「それが分からないまま死んじゃうなんてこと、あっちゃいけないんだな!!」

 

「翔くん、隼人くん……」

 

「黙って聞いてたら、本当に何でもかんでも、正しいことも間違ったことも、生きることまで全部ゴミの一言で済ませて……そんな甘えた相手には、きつい一撃を加えてあげなさい!!」

 

「明日香ちゃん……」

 

「全ては水瀬梓という一人の人間の、当たり前に抱いた願いと、許されない罪だ!! それを、思い知らせてやれ!!」

 

「三沢くん……」

 

「願いがあるのなら叶えるために努力すればいい。罪があるのなら償えばいい。ただ、それらのことから目を背けることだけは許されない! そうだろう、平家あずさ!!」

 

「亮さん……」

 

「うんざりしたから死にたくなるだの、願いを叶えるために犠牲にしただの、結局は、一人の子供の言い訳なノーネ!!」

「そして、そんな言い訳を叫ぶことができるのは、紛れもない人間だけですのニャ!!」

 

「クロノス先生、大徳寺先生……」

 

「勝て、平家あずさ!!」

 

『勝て!!』

 

「みんな……うん」

 

(というか、あれだけの戦いを繰り広げておいて、結局決闘で決着をつけるんだね……)

 

 仲間達からの激励を受けたところで、改めて、向かい合った。

 同時にデッキをセットした瞬間、デッキが自動でシャッフルされる。

 そして、構える。

 

「水瀬梓の命を終わらせるために……消滅しろシエン!! 真六武衆-シエン!!」

 

「自分を絶対に人間だって認めない……そんな、間違った君とは、今日でお別れだよ、梓くん! 水瀬梓くん!!」

 

『決闘!!』

 

 

あずさ

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

LP:4000

手札:5枚

 場:無し

 

 

「わたしの先行、ドロー!!」

 

あずさ

手札:5→6

 

「永続魔法カードを発動! 『六武の門』、『六武衆の結束』、『紫炎の道場』!!」

 いつもと同じように、三枚のカードが並べられる。同時に、周囲と地面は道場に変わり、その一部、ちょうどあずさの真後ろには巨大な門が建った。

「そして、『真六武衆-カゲキ』を召喚!」

 

『真六武衆-カゲキ』

 レベル3

 攻撃力200

 

「『真六武衆』、梓のカードだ」

 

『この姿で会うのも、久しぶりだな。梓』

「どうでもいい。貴様の効果は分かっている。さっさと続けろ!」

『……』

 

「……この瞬間、三枚の永続魔法に『武士道カウンター』が乗るよ」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:0→1

 

「そして、カゲキの召喚に成功した時、手札の『六武衆』と名の付くモンスター一体を、特殊召喚できる。わたしは手札のチューナーモンスター、『六武衆の影武者』を特殊召喚するよ」

 

『六武衆の影武者』チューナー

 レベル2

 守備力1800

 

「……」

 

「チューナーモンスター?」

「なに、それ……?」

 十代と明日香は、疑問の声を漏らした。しかし、

「チューナー、まさか……」

「そうか、あずささん……」

 万丈目と翔は、驚愕と納得を口にした。

 

「そして再び、武士道カウンターが乗る」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:1→2

 

「まずは『六武衆の結束』の効果! このカードを墓地へ送って、最大二つまで乗せられる武士道カウンターの数だけカードをドローする。武士道カウンターは二つ、よって二枚ドロー!」

 

あずさ

手札:1→3

 

「更に、『六武の門』の効果! 武士道カウンターを四つ取り除いて、デッキか墓地から『六武衆』を一枚、手札に加えられる! わたしはデッキから、『真六武衆-キザン』を手札に」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0

 

あずさ

手札:3→4

 

「そして、わたしの場に二体の六武衆がいる時、手札の『大将軍 紫炎』を特殊召喚!」

 

『大将軍 紫炎』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「紫炎、あずさのエースカードだ!」

 

「そして……いくよ、梓君。君の本当のエースモンスター」

「……」

 

「レベル3の『真六武衆-カゲキ』に、レベル2の『六武衆の影武者』をチューニング!!」

 二体のモンスターが飛び上がると同時に、『六武衆の影武者』は二つの星に変わり、『真六武衆-カゲキ』の周囲を回る。

 

「な、何だ……」

「何が起こっている……」

 疑問を漏らすメンバーの前で、あずさは、続けた。

 

「紫の獄炎、戦場に立ちて(つるぎ)となる。武士(もののふ)の魂、天下に轟く凱歌を奏でよ」

「シンクロ召喚! 誇り高き炎刃『真六武衆-シエン』!!」

 

「シンクロ召喚……」

「これが、翔達を倒した、未来のモンスターってことか……」

 

 あずさの声と、メンバーの納得と共に、彼は、フィールドに降り立った。

 長い髪と白い着物、そして、爽やかな笑顔が良く似合う逞しいその顔。

 

「あいつは……」

「真六武衆……シエン……」

「シエン……それじゃあ、最後の真六武衆とは、紫炎の……」

 それぞれが、別々の感想を述べる中、

 

「……(ギリッ)」

 

 彼の表情は、憎しみに埋まっていた。

 

「シィィイイイイイイイイエエエエエエエエエエエエエエエエン!!」

 

『決着つけようぜ。何もかもな!!』

 その言葉の直後、彼は白い着物のその上に、鎧を纏った。赤い、炎のように赤く、背中に翼のような飾りを着け、右手に黒い刀を携えた、若き武将に姿を変えた。

 

『真六武衆-シエン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2500

 

「シエンの召喚に成功したことで、武士道カウンターが乗る」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:2→3

 

「カードを二枚セットして、ターンエンド」

 

 

あずさ

LP:4000

手札:1枚

 場:モンスター

   『真六武衆-シエン』攻撃力2500

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:3

    セット

    セット

 

「すげえ……一気に二体の上級モンスターを並べやがった……」

 

「分かってると思うけど、『大将軍 紫炎』が場にある限り、君は一ターンに一度しか魔法か罠カードを発動できない。そして、『真六武衆-シエン』が場にある限り、一ターンに一度、君の魔法・罠カードの発動を無効にして破壊できる」

「……」

 

「え……てことは、あの二体が並んでることで、梓は魔法も罠も使えなくなったってことか?」

「いや、真六武衆の方は発動自体を無効にする効果のようだ。だからこの場合、真六武衆の効果で無効にして破壊した後、大将軍の制限下でもう一度だけ魔法・罠を発動できる」

「だがどちらにせよ、これで梓の行動は大きく制限された。攻めと守り、両方を兼ね備えた万全の一ターン目だ」

 三沢の十代への説明を終え、万丈目が言った、その直後、

 

「何だそれは……」

「……」

 

「え?」

「何だ?」

 

「私を()めているのかああああああああああああああ!!」

 

「な、何だ……!?」

「あずさのプレイが、どうかしたの……?」

 

「これで良いんだよ」

 梓の絶叫を受け、あずさは、柔らかな微笑みで言葉を返す。

「決闘する前から、最初はこうしようって決めてたから」

「貴様……」

 

「な、何なんだよ二人とも……」

「そんな、今のプレイに、ミスがあったっていうの……?」

 

 あずさとは対照的な、怒りの形相のまま、梓はデッキに手を伸ばした。

「ドロー!!」

 

手札:5→6

 

「私の場にモンスターが無く、相手の場にモンスターがいる時、チューナーモンスター、『アンノウン・シンクロン』を特殊召喚できる」

 

『アンノウン・シンクロン』チューナー

 レベル1

 守備力0

 

「梓もチューナー!?」

 

「更にチューナーモンスター、『深海のディーヴァ』を召喚」

 

『深海のディーヴァ』チューナー

 レベル2

 攻撃力200

 

「『深海のディーヴァ』の召喚に成功した時、デッキから、レベル3以下の海流族モンスターを特殊召喚できる。デッキから、レベル3の『ニードル・ギルマン』を特殊召喚する」

 

『ニードル・ギルマン』

 レベル3

 攻撃力1300

 

「『ニードル・ギルマン』が場にある限り、私の場の魚族、海流族、水族モンスターの攻撃力を400ポイントアップさせる」

 

『ニードル・ギルマン』

 攻撃力1300+400

『深海のディーヴァ』

 攻撃力200+400

 

「一気に三体のモンスターを並べた上に、パワーアップも……」

「しかし、これでは紫炎(シエン)には勝てない。つまり……」

「彼の狙いもまた、シンクロ召喚……」

 

「……」

「レベル3の『ニードル・ギルマン』に、レベル2の『深海のディーヴァ』をチューニング!」

「激流轟く海原(かいげん)の地より、清誕せしは神なる潮流」

「シンクロ召喚! 母なる海の力『神海竜ギシルノドン』!」

 

『神海竜ギシルノドン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2300

 

「これが君の、『シンクロモンスター』……」

 

「シンクロモンスター。そう呼ぶのか……」

「……違う」

「え?」

「僕と万丈目君のタッグを倒したのも、シンクロモンスターだった」

「だがあれは、俺と翔を倒したシンクロモンスターではない」

「何だって!?」

 

「更に、墓地に眠る水属性『ニードル・ギルマン』と、『深海のディーヴァ』をゲームから除外することで、手札の『フェンリル』を特殊召喚する」

 

『フェンリル』

 レベル4

 攻撃力1400

 

「レベル4の獣族『フェンリル』に、レベル1の闇属性『アンノウン・シンクロン』をチューニング」

 

「な、連続でシンクロ召喚!?」

 

暗士(あんし)凍士(とうし)交わりし時、永久凍土の時代が始まる。熱無き世界へ」

「シンクロ召喚! 冷たき魔人『氷結のフィッツジェラルド』!」

 

『氷結のフィッツジェラルド』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2500

 

「シンクロモンスターが二体……」

 

「『神海竜ギシルノドン』の効果。フィールド上のレベル3以下のモンスターが墓地へ送られた時、エンドフェイズまで攻撃力が3000となる」

 

『神海竜ギシルノドン』

 攻撃力2300→3000

 

「まずい、攻撃力が、二体の紫炎(シエン)を上回った!!」

 

「バトルだ。ギシルノドンで、『真六武衆-シエン』を攻撃! 海利流衝波(かいりりゅうしょうは)!」

「……」

 成すすべなく、『真六武衆-シエン』は、ギシルノドンの起こした津波に飲み込まれた。

 

あずさ

LP:4000→3500

 

「これで魔法カードが使える。速攻魔法発動! 『エネミーコントローラー』!!」

 

「あのカード!?」

 

「二つある効果の内の一つを選択し、発動できる。私は第二の効果を選択。攻撃を終えたギシルノドンをリリースし、貴様の場の『大将軍 紫炎』のコントロールを得る!」

 

「リリース? 生贄のことか」

「……いや、それどころではない!」

 梓の場のギシルノドンが光になると同時に、あずさの場の『大将軍 紫炎』があずさの前へ移動した。

 

「『氷結のフィッツジェラルド』が攻撃する時、相手は魔法、罠を発動することはできない。そして、これでこの決闘は終わりだ」

「……」

「死ね!! 『氷結のフィッツジェラルド』、『大将軍 紫炎』、二体でダイレクトアタック!!」

 

「ワンターンキル!?」

「あずさ!!」

 

「攻撃前に、伏せ(リバース)カードオープン! 罠カード『六武衆推参!』! 墓地の六武衆を特殊召喚する。『真六武衆-シエン』を特殊召喚!」

 

『真六武衆-シエン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:3→4

 

「くっ、貴様だけは倒す! 絶対に倒す!! 『大将軍 紫炎』、『真六武衆-シエン』に攻撃!!」

 今度は二体の紫炎(シエン)が激突し、再び倒れた。

「永続罠発動『リビングデッドの呼び声』! 墓地の『真六武衆-シエン』を特殊召喚!」

 

『真六武衆-シエン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→6

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:4→5

 

「シエン……『氷結のフィッツジェラルド』、烈吹雪(ブリザード・ストライク)!!」

 『氷結のフィッツジェラルド』の放った氷がシエンを襲うと同時に、シエンの振るった刀が、『氷結のフィッツジェラルド』を襲う。そして、再び二体のモンスターは倒れた。

 

「これで、互いの場のカードは全滅か……」

 

「『氷結のフィッツジェラルド』、効果発動」

「え?」

「戦闘破壊された時、フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札を一枚捨てることで、守備表示で特殊召喚できる」

 

手札:2→1

 

『氷結のフィッツジェラルド』シンクロ

 レベル5

 守備力2500

 

「そんな……」

「これが、シンクロモンスターの力なの……?」

 

「これで二体の紫炎(シエン)は消えた。心置きなく魔法カードを使える。『壺の中の魔術書』を発動! 互いのプレイヤーは、カードを三枚、ドローする」

 

手札:0→3

あずさ

手札:1→4

 

「……(ニッ)」

「……!」

「魔法カード『テラ・フォーミング』。これで、デッキよりフィールド魔法を一枚手札に加える。そして……」

 

「これが、ゴミが人のように足掻いた末に辿り着いた答えだ」

 

「フィールド魔法発動! 『シュトロームベルクの金の城』!!」

 

 

 

 




お疲れ~。
戦闘シーンが意外と長くなっちまった。
それと決闘までの流れが若干強引な気もするが……仕方ねえか。
ほんじゃあ、次話まで待ってて。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。