遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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あ~は~。
三回目~。
今回も、じゃんじゃん禁止カード使わせまする。
あといつものことだけど、最後の方でちょこっと出血展開があるから、苦手な人は要注意。
そんなところを踏まえて、行ってらっしゃい。



第八話 最終決戦、二人の梓(あずさ) ~氷結界の龍~

視点:外

 

『……!!』

 二人の決闘をする場所から、遠く離れた場所にいた。

 それでも、感じることができた。彼がとうとう、あのモンスターを呼び出したことを。

『梓……』

 とうとう、『氷結界の龍』を……

 

 ……

 …………

 ………………

 

「レベル3の『E・HERO アイスエッジ』に、レベル3の『フィッシュボーグ-アーチャー』をチューニング!」

「凍てつく結界(ろうごく)より昇天せし翼の汝。全ての時を零へと帰せし、凍結回帰(とうけつかいき)の螺旋龍」

 

「シンクロ召喚! 舞え、『氷結界の龍 ブリューナク』!!」

 

 二体のモンスターが光となり、黒雲より現れたのは、全身が氷の如く、青く輝く長い体。

 そこから生えた四肢と、先端にいくつもの氷柱を備えた鋭く長い尾。

 雪の結晶を象った頭部に備わる、鋭い眼光と牙の輝き。

 体と同じく、青く輝く大きな翼を羽ばたかせ、空を舞った後、ひざまずくように梓の前に舞い降りた。

「氷結界の、龍、ブリューナク……」

 

「すげえ……」

「美しい……」

 メンバーのほとんどは、その美しい姿に心を奪われていた。

 そして彼らも、初めて見た時は、その青い輝きに囚われかけた。だが、今の心は、

「気を付けて!! あずささん!!」

「そいつが、俺と翔の二人にとどめを刺したカードだ!!」

『……!!』

 

「え……!」

 二人のそんな声が聞こえると同時に、

 

『グオオオオオオオオ!!』

 

「……!!」

 

『……!!』

 

 その咆哮に、全員が怯んだ。そして同時に、

 

 ビュゥゥオオオオオオオ……

 

 雷鳴と豪雨が止み、代わりに荒波と激流の海は瞬く間に凍りついた。

「うわ、何か見るからに寒そう……」

「仮想立体映像でなきゃ、とっくに凍死してるわね……」

「『氷結界の龍 ブリューナク』……一体どんな力を……」

 

「それが、今の君の、本当のエースモンスター?」

「……」

 

『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2300+500

 

「ブリューナク。氷結界で、最も才能に恵まれし龍だ。『氷結界の龍 ブリューナク』の、モンスター効果発動!」

 あずさの言葉を無視しながら、梓は手札に手を伸ばす。

「ブリューナクの力は、そのものが紡いできたあらゆる時を否定する。手札のカードを任意の枚数捨てることで、捨てた枚数分フィールドのカードを選択する。そして、選択したカードは持ち主の手札に戻る」

「え……!」

「手札の二枚の『キラー・スネーク』を捨てる。対象は、貴様の場の『真六武衆-キザン』、そして『真六武衆-シエン』」

「!!」

 宣言しながら、手札の二枚のカードを墓地へ捨てる。

「凍結回帰!」

 指定した二体の武将を指しながら叫んだ瞬間、ブリューナクの体から異様なオーラが現れた。そして、それが二体に降りかかると、二人はまるで生気を吸われたような目に変わり、そして最後には、その場から消えた。

「シエンとキザンが……」

 

あずさ

手札:1→2

 

「私がなりふり構わずシエンを攻撃するとでも思ったか?」

「え?」

「シエンは大将軍と同じく、六武衆を身代りに破壊を防ぐ効果を持つ。それを私が忘れたと思ったか?」

「……」

 

「それがシエンのもう一つの効果か」

「……確かに、正直俺も、シエンを攻撃するものと思っていたが……」

「梓……私達が思っている以上に、ずっと冷静なようね……」

 

「バトルフェイズに入る。『フィッシュボーグ-アーチャー』の特殊召喚に成功したターンのバトルフェイズ、私の場の水属性以外のモンスターは全て破壊される」

「……けど、ブリューナクは水属性……」

「……ブリューナク、『六武衆の師範』を攻撃。静寂のブリザード・ストーム!」

 ブリューナクの口から放たれた白い息吹。それが、向けられた師範を氷漬けにし、砕く。

「うぅ……」

 

あずさ

LP:3500→2800

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200

 

「私はこれでターンエンド」

 

 

LP:1600

手札:0枚

 場:モンスター

   『氷結界の龍 ブリューナク』攻撃力2300+500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

あずさ

LP:2800

手札:2枚

 場:モンスター

   『真六武衆-カゲキ』攻撃力200

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

 

 

「くぅ……わたしのターン!」

 

あずさ

手札:2→3

 

「……カゲキを守備表示に変更」

 

『真六武衆-カゲキ』

 守備力2000

 

「『真六武衆-キザン』を守備表示で特殊召喚」

 

『真六武衆-キザン』

 レベル4

 守備力500

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「カードをセット。これでターンエンド」

 

 

あずさ

LP:2800

手札:1枚

 場:モンスター

   『真六武衆-カゲキ』守備力2000

   『真六武衆-キザン』守備力500

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    セット

 

LP:1600

手札:0枚

 場:モンスター

   『氷結界の龍 ブリューナク』攻撃力2300+500

   魔法・罠

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

 

「まずいな。守るしかないのか」

「次のターンには、また梓の手札に『キラー・スネーク』が戻っちまう」

 

「私のターン」

 

手札:0→1

 

「そしてスタンバイフェイズ、墓地の『キラー・スネーク』を手札に戻す」

 

手札:1→4

 

「ブリューナクの効果。手札から二枚の『キラー・スネーク』を捨て、貴様の場の伏せカードと、『六武の門』を手札に戻してもらう」

「門が……だったら戻る前に、罠発動! 二枚目、『和睦の使者』! このターン、モンスターは戦闘では破壊されずに、わたしが受ける戦闘ダメージはゼロになる」

 

手札:4→2

 

あずさ

手札:1→2

 

「よし、これで戦闘破壊の危険は消えた」

 

「魔法カード発動。『命削りの宝札』。手札が五枚になるよう、カードをドローし、五ターン後、手札を全て捨てる」

「……」

 

手札:1→5

 

「……チューナーモンスター、『フィッシュボーグ-ガンナー』を召喚」

 

『フィッシュボーグ-ガンナー』チューナー

 レベル1

 守備力200-500

 

「『フィッシュボーグ-ガンナー』……! あいつもチューナーだったのか……」

「知ってるのか? 万丈目」

「ああ」

「僕と万丈目君を、散々苦しめたモンスターの一体だよ……え、でも待って……」

 

「チューナーってことは、まさか……」

「『フィッシュボーグ-ガンナー』をシンクロ素材とする場合、他のシンクロ素材は水属性でなければならない。そして、これから呼び出すモンスターも、チューナー以外は水属性である必要がある。レベル6の水属性『氷結界の龍 ブリューナク』に、レベル1の『フィッシュボーグ-ガンナー』をチューニング!」

 

「ブリューナクを!?」

「シンクロ素材にだと!?」

 

 『フィッシュボーグ-ガンナー』が光の星に変わり、ブリューナクの周囲を回る。

「冷たい結界(ろうごく)にて研磨されし(つるぎ)の汝、仇なす形の全てを砕く、冷刃災禍(れいじんさいか)の刃文龍」

「シンクロ召喚! 狩れ、『氷結界の龍 グングニール』!!」

 

 バキバキバキ……

 

 ブリューナクとは対照的に、地面、氷の海を突き破り、現れた。

 ブリューナクよりも暗く、所々が血管の如く赤く光る、青い体。だが、体を包む氷は、まるで鎧の如く鋭利な輝き。

 更に、ブリューナク以上に逞しい四肢と、鋭い牙と、眼光と、何よりその巨体。

 その逞しい四肢で、氷を踏みしだきながら、梓の前にひざまずき、あずさを睨み据える。

「氷結界の龍って、ブリューナクだけじゃなかったの……?」

「グングニール。氷結界で最も純粋なる力に餓えし龍だ」

 

『氷結界の龍 グングニール』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500+500

 

『グオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

『!!』

 その咆哮は、ブリューナク以上に空間に轟いた。その振動は、周囲にそびえていた氷の波を全て砕き、氷の更地に変えてしまった。代わりに、空からは大粒の雪と、暴風による、猛吹雪が起きた。

 

「もう、全然『ウォーターワールド』じゃねえ……」

「けど、これが、梓の世界(フィールド)だと考えれば、納得ね……」

 

「グングニールのモンスター効果! グングニールの力は、目の前に立ちはだかるあらゆる形を否定する。一ターンに一度、手札を二枚まで墓地へ捨てることで、捨てた枚数分相手のフィールド上のカードを選択し発動。選択したカードを破壊する」

「手札に戻すんじゃなくて、破壊!?」

 あずさが叫ぶ間に、手札から二枚のカードを捨てた。

 

手札:4→2

 

「冷刃災禍!」

 そしてまた、梓が叫ぶと同時に、グングニールが翼を羽ばたかせる。そこから発生した二つの鎌鼬が、二体の六武衆を破壊した。

「カゲキ……キザン……」

「更に、今墓地へ捨てた『処刑人-マキュラ』の効果! このターン、私は手札より罠カードを発動できる!」

「また!?」

「罠カード、『破壊輪』! フィールド上のモンスター一体を破壊し、その攻撃力分のダメージをお互いに受ける!」

「ここで『破壊輪』!?」

 その説明が終わった瞬間、グングニールの首に、手榴弾付の首輪がはめられた。

 

「な、おい待て!」

「グングニールの攻撃力は3000、二人ともやられるぞ!」

「まさか、道連れ!?」

 

「貴様と心中などできるか! 墓地に眠る罠カード『ダメージ・ダイエット』を発動!!」

「墓地から!?」

 

『墓地から罠!?』

 

「未来では普通のことだ。墓地に眠るこのカードを除外することで、このターン私が受ける効果ダメージは半分になる!」

 

「梓だけ半分てことか!?」

「じゃあ、あずさだけが3000ポイントをもろに!?」

 

「死ね!! シエン!!」

 その叫びに応えるように、『破壊輪』が光を放ち、

 

 ズドォオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 グングニールを包む爆風が、二人の(あずさ)をも包む。

「ぐぅ……」

 

LP:1600→100

 

『あずさ!!』

 

「手札から、『ハネワタ』を捨てて、このターン私が受ける効果ダメージはゼロにするよ!」

 

あずさ

手札:2→1

 

 あずさの前に、巨大な綿のモンスターが現れ、爆風からあずさの身を守る。

 

「おお、三枚目か!!」

「いや、あれは……」

 

「後生大事に、一体何を手札に温存しているのかと思えば……魔法カード『強欲な壺』! カードを二枚ドローする!!」

 

手札:0→2

 

「『死者蘇生』を発動! 対象はグングニール!」

 

『氷結界の龍 グングニール』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500+500

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

LP:100

手札:0枚

 場:モンスター

   『氷結界の龍 グングニール』攻撃力2500+500

   魔法・罠

    セット

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

あずさ

LP:2800

手札:1枚

 場:モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「くぅ……わたしのターン!」

 

あずさ

手札1→2

 

「……よし、三枚目。魔法カード『魂の解放』!」

「な……!」

「お互いの墓地から五枚までのカードを選択して、ゲームから除外できる! わたしは君の墓地から、三枚の『キラー・スネーク』と、えっと、確か……『フィッシュボーグ-アーチャー』と、ええっと……『氷結界の龍 ブリューナク』!!」

「くぅ……」

 顔をしかめながら、宣言されたカードを懐にしまう。

「『六武の門』を発動して、ターンエンド」

 

 

あずさ

LP:2800

手札:0枚

 場:モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

 

LP:100

手札:0枚

 場:モンスター

   『氷結界の龍 グングニール』攻撃力2500+500

   魔法・罠

    セット

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

 

「……いや待て。いくら墓地を除外しても、あずさを守るモンスターがいないだろう!!」

 

「私のターン!!」

 

手札:0→1

 

「『キラー・スネーク』を除外したところで、この攻撃で終わりだ! グングニール、ダイレクトアタックだ!!」

 

『あずさ!!』

 

「崩落のブリザード・フォース!!」

「……」

 

 ドオオオオオオオオオオ……

 

 グングニールの口から放たれた、強烈な冷気が、あずさに襲い掛かる。

「やったか……っ!?」

 

「……」

 

あずさ

LP:2800

 

「バカな、なぜ、ライフが減っていない……」

「墓地にカードが落ちてるのは、君だけじゃないってことだよ」

 その言葉と共に、彼女の背後に、一体のモンスターが現れた。

「『ネクロ・ガードナー』……」

 

「『ネクロ・ガードナー』は墓地から除外することで、攻撃を一度だけ無効にできる!」

「あずさったら、あんなカードを入れていたのね」

 

「くぅ……カードをセットする! ターンエンド!!」

 

 

LP:100

手札:0枚

 場:モンスター

   『氷結界の龍 グングニール』攻撃力2500+500

   魔法・罠

    セット

    セット

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

あずさ

LP:2800

手札:0枚

 場:モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

 

 

(……さて、どうにか耐えたけど、もう、正真正銘がら空きだよ。次のドローで何とかしないと、わたしの敗け。なのに……)

「……」

「……?」

 

「あずさ?」

「あいつ、笑ってるぜ」

「こんなピンチな状況なのにか……まったく」

 

「そんなに私の姿が可笑しいか?」

「うん。楽しい……君との決闘はいつだって、楽しくって仕方ないよ」

「なに?」

「わたしは決闘が大好き。君だって、決闘が大好きだから、こうして決闘してるんでしょう?」

「……ああ。好きだったさ……だが、今は違う。私から全てを奪った決闘を、どうして今、好きだと言うことができる!?」

「梓くん……」

「それでも私が決闘をするのは、それ以外に貴様を殺す手段が無いからだ!! だから、確実に貴様を殺すために、禁止カードも使った!! 私は貴様を許さない!! そのための決闘だ!!」

「……うん、分かるよ。けどそんなの、本当の君じゃないよ」

「黙れ!! これが私だ!!」

「だったら、わたしが取り戻して見せる! わたしのターン!!」

 

あずさ

手札:0→1

 

「『強欲な壺』。カードを二枚ドロー」

 

あずさ

手札:0→2

 

「……」

(この二枚のカード……それに、あの伏せカード……それで、どうにかしてグングニールを倒すには……待てよ。えっと……墓地……墓地!)

(そうだ!! 墓地だ!!)

「このターンで、君を倒すよ!!」

「……!」

 

「行くのか、あずさ!!」

「逆転の手を引いたか!?」

 

「四枚目! 魔法カード発動『死者蘇生』!!」

 

「何を復活させる気だ?」

「確か、紫炎(シエン)は大将軍も真六武衆もデッキのはずだが……」

「ブリューナクも、前のターンの『魂の解放』で除外されてるし……」

 

「なら、破壊効果を備える『六武衆の露払い』辺りか……」

「違うよ。わたしが呼ぶのは、君の墓地の『氷結界の水影』!!」

「なに!?」

 

『氷結界の水影』チューナー

 レベル2

 攻撃力1200+500

 

(よかったー、落ちてた……)

 

「そうか!! あいつは直接攻撃ができる!!」

 

「く、そういうことか……」

(だが、無駄なことだ……)

 

「そして、これが五枚目! 『戦士の生還』!!」

 

「何だと……?」

「梓くん、このデッキが六武衆だけじゃないってこと、君は知ってるでしょう」

「……まさか!!」

「私は墓地に眠るチューナーモンスター、『ジャンク・シンクロン』を手札に戻すよ!」

 

あずさ

手札:0→1

 

「そしてこのまま、『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

『ジャンク・シンクロン』チューナー

 レベル3

 攻撃力1300

 

「『ジャンク・シンクロン』の効果! 召喚に成功した時、墓地からレベル2以下のモンスターを一体、守備表示で特殊召喚できる! わたしは墓地から、レベル2の『紫炎の足軽』を特殊召喚!」

 

『紫炎の足軽』

 レベル2

 守備力300

 

「まさか、そのために水影を……」

「それで、ええっと……まあいいや! レベル2の『紫炎の足軽』に、レベル3の『ジャンク・ウォリアー』をチューニング!!」

「集いし星が、新たな力を呼び起こす。光射す道となれ」

「シンクロ召喚! いでよ、『ジャンク・ウォリアー』!」

 

『ジャンク・ウォリアー』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2300

 

「新しいシンクロモンスター!」

「……ねえ、ひょっとしてその詠唱って、自分で考えてるの?」

 

「……仕方ないじゃん!! 呼ぶにはどうしても必要だって言うし!! シエンは全然教えてくれないし!! これでも一生懸命考えたんだからね!!」

 

「そ、そうなんだ。ごめんなさい……」

「……だが、なぜより攻撃力の高いシエンではなく、そいつを……?」

 

「シエンを呼んだってこの状況じゃ仕方ないよ。それに、シエンを呼ぶには、戦士族のチューナーと、六武衆じゃないとシンクロ素材にできないからさぁ」

 

「なるほど、そういうことなのニャ」

「しかーし、勝てないのはその戦士でも同じなノーネ!!」

 

「大丈夫。『ジャンク・ウォリアー』のモンスター効果!! シンクロ召喚に成功した時、このカードは自分フィールド上のレベル2以下のモンスター全部の攻撃力の合計分、アップする!! パワー・オブ・フェローズ!!」

 

「そうか!! 水影の攻撃力は、『ウォーターワールド』の効果で500アップしてる!!」

 

「無駄だ。速攻魔法『禁じられた聖杯』! モンスター一体の攻撃力を400アップし、エンドフェイズまで効果を無効にする!」

 梓の宣言の直後、『ジャンク・ウォリアー』の頭上に杯が現れ、そこから注がれた水がその身を包んだ。

 

『ジャンク・ウォリアー』

 攻撃力2300+400

 

「あのカードって、万丈目の……」

「……いや、あれは元々、梓から預かっていたカードだ」

「預かってた?」

「もっとも、先程の決闘で取り返されたのだがな」

「……いずれにせよ、これではグングニールは倒せない……」

 

「バトル!!」

「……!?」

「『ジャンク・ウォリアー』で、『氷結界の龍 グングニール』を攻撃!! スクラップ・フィスト!!」

「な、血迷ったのか!?」

 顔をしかめる梓に構わず、『ジャンク・ウォリアー』の拳が、グングニールに向かった。

「言ったでしょう。墓地にカードがあるのは君だけじゃない。墓地の罠カード『スキル・サクセサー』発動!」

「っ!?」

 

「あずさも墓地から!?」

 

「墓地のこのカードをゲームから除外して、自分フィールドのモンスター一体の攻撃力を、800ポイントアップさせる!」

 

『ジャンク・ウォリアー』

 攻撃力2300+400+800

 

 拳の一撃に、グングニールは成すすべなく吹き飛び、その体が梓に向かって飛んでいく。

「く……罠発動! 『ガード・ブロック』!!」

「……!!」

 発動と同時に梓はカードを引く。それをまるで、居合のような動きでぶつけたことで、グングニールの体は上へ弾かれ、そのまま四散した。

「戦闘ダメージを一度だけ無効にし、カードを一枚ドローする」

 

手札:0→1

 

「なるほど。けど、まだ水影がいるよ! 水影の攻撃、氷結・斬影の形!!」

 今度は水影が、梓に向かう。

「……!」

 梓は手札のカードに手を伸ばしたが、その一瞬、水影を見る。

 

『……』

 

「……く、そんな目で私を見るな。相手の直接攻撃宣言時、手札の『バトルフェーダー』を特殊召喚することで、バトルフェイズを終了する!」

 

『バトルフェーダー』

 レベル1

 守備力0

 

「もう少しだったのに……ターンエンド」

 

 

あずさ

LP:2800

手札:0枚

 場:モンスター

   『ジャンク・ウォリアー』攻撃力2300+1700

   『氷結界の水影』攻撃力1200+500

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

 

LP:100

手札:0枚

 場:モンスター

   『バトルフェーダー』守備力0

   魔法・罠

    無し

    フィールド魔法『ウォーターワールド』

 

 

「くぅ……私が……私は……私のターン!!」

 

手札:0→1

 

「私は敗けない……モンスターをセット!! 墓地の『ADチェンジャー』の効果発動!! フィールド上のモンスター一体の表示形式を変更する!! 私はたった今セットしたモンスターを、表側攻撃表示に変更!!」

 

『ファイバー・ポッド』

 レベル3

 守備力500

 

「『ファイバー・ポッド』!? 究極のリセットモンスター!!」

「もしかして、あれも禁止カードなのか……」

「ああ」

 

「リバース効果発動!! 互いの手札、フィールド、墓地のカード全てをデッキに加えてシャッフルし、手札を五枚、ドローする!!」

「うぅ……」

 『ファイバー・ポッド』が光りを放った瞬間、氷の世界と化した『ウォーターワールド』は消え、普段の森へと姿を変えた。

 

デッキ:28→23

手札:0→5

 

あずさ

デッキ:38→33

手札:0→5

 

「『バトルフェーダー』はフィールドを離れた時、ゲームから除外される。『強欲な壺』発動! カードを二枚、ドローする」

 

手札:4→6

 

「『天使の施し』発動! デッキからカードを三枚引き、二枚を捨てる。速攻魔法『異次元からの埋葬』! ゲームから除外されたモンスターを、三枚まで墓地に戻す。『氷結界の龍 ブリューナク』、『フィッシュボーグ-アーチャー』、『ADチェンジャー』! 更に、私の場にモンスターがいない時、手札の水属性モンスターを墓地へ捨て、『フィッシュボーグ-アーチャー』を特殊召喚!!」

 

手札:5→4

 

『フィッシュボーグ-アーチャー』チューナー

 レベル3

 守備力300

 

「そして、魔法カード『死者蘇生』! 舞え、『氷結界の龍 ブリューナク』!!」

 

『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2300

 

「そして、たった今墓地へ送った水属性『ライオ・アリゲーター』と、『E・HERO アイスエッジ』をゲームから除外! 『フェンリル』を特殊召喚!!」

 

『フェンリル』

 レベル4

 攻撃力1400

 

「レベル4の『フェンリル』に、レベル3の『フィッシュボーグ・アーチャー』をチューニング!! シンクロ召喚!! 狩れ、『氷結界の龍 グングニール』!!」

 

『氷結界の龍 グングニール』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500

 

「二体の龍が揃ったぞ……」

「いかん、この攻撃が通れば今度こそあずさは……」

 

「ダイレクトアタックだ!! ブリューナク、静寂のブリザード・ストーム!! グングニール、崩落のブリザード・フォース!!」

 

『あずさ!!』

 

「……似たようなカード、このデッキにもあったよ。直接攻撃宣言時、手札の『速攻のかかし』を墓地へ送って、バトルを終了!」

 

あずさ

手札:5→4

 

「ぐ、うぅ……カードをセットし、ターンエンド!!」

 

 

LP:100

手札:2枚

 場:モンスター

   『氷結界の龍 ブリューナク』攻撃力2300

   『氷結界の龍 グングニール』攻撃力2500

   魔法・罠

    セット

 

あずさ

LP:2800

手札:4枚

 場:モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「ここからが本当の勝負、だね……わたしのターン!!」

 

あずさ

手札:4→5

 

「……一気にいくよ。永続魔法『六武衆の結束』を二枚発動! そして、相手の場にだけモンスターが存在する時、『六武衆のご隠居』を特殊召喚!!」

 

『六武衆のご隠居』

 レベル3

 守備力0

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

 

「……確かに、バカの一つ覚えだよね。『真六武衆-カゲキ』召喚!」

 

『真六武衆-カゲキ』

 レベル3

 攻撃力200+1500

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

 

『バカは無えだろう。こんな有能モンスター捕まえてよ』

「自分で言わないでよ……まあ、有能なのは認めるけどね。カゲキの効果! 召喚成功時、手札の六武衆を一体、特殊召喚できる! 『真六武衆-エニシ』を特殊召喚! 効果で攻撃力アップ!」

 

『真六武衆-エニシ』

 レベル4

 攻撃力1700+500

 

『この流れでよく呼び出せたな。梓さえ、俺を呼ぶのは意外に苦労してたってのに』

「まあね……確かにエニシだけ、シエン以外の四人と違って展開に関する効果が無いから、正直一番扱い辛いよ……」

『はっきり言ってくれるな……』

「ここで『六武衆の結束』を墓地へ送って、効果発動! このカードに乗った武士道カウンターの数だけ、デッキからカードをドローする!」

 

あずさ

手札:0→4

 

「『強欲な壺』発動! カードを二枚ドロー!」

 

あずさ

手札:3→5

 

「永続魔法『紫炎の道場』! 六武衆が召喚か特殊召喚された時、武士道カウンターを一つ置く。そしてもう一枚、『六武の門』! こっちは武士道カウンターを二つ置く。速攻魔法『六武衆の荒行』! フィールドの六武衆一体を選んで、その攻撃力と同じモンスターをデッキから特殊召喚する! 対象はご隠居、同じ攻撃力のチューナーモンスター『六武衆の影武者』を特殊召喚!」

 

『六武衆の影武者』チューナー

 レベル2

 守備力1800

 

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:0→1

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「……ちっ、罠発動『威嚇する咆哮』! このターン、貴様は攻撃宣言できない!」

「う……まいっか。じゃあ、レベル3の『六武衆のご隠居』に、レベル2の『六武衆の影武者』をチューニング!」

「シンクロ召喚! 誇り高き炎刃『真六武衆-シエン』!!」

 

『真六武衆-シエン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2500

 

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:1→2

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「そして、『六武の門』の効果で、デッキから『真六武衆-キザン』を手札に加える」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0

 

あずさ

手札:2→3

 

「効果で『真六武衆-キザン』を特殊召喚!」

 

『真六武衆-キザン』

 レベル4

 攻撃力1800+300

 

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:2→3

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

『……』

『……なんか喋ったらどうだ』

『……何を?』

『いや、俺達に聞かれてもさ……』

「あはは……そして、『紫炎の道場』の効果発動! このカードを墓地へ送って、乗ってる武士道カウンターの数と同じレベルの、六武衆か『紫炎』と名前の付いたモンスターを特殊召喚できる。武士道カウンターは三つ、デッキからレベル3の『真六武衆-ミズホ』を特殊召喚!」

 

『真六武衆-ミズホ』

 レベル3

 攻撃力1600

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

『さて、今度の生贄は誰ですか?』

『リリースだリリース。生贄言うな。大体お前、シナイ以外にする時強過ぎるんだよ』

「ミズホのモンスター効果! キザンを生け……リリースして、君の場の、ブリューナクを破壊するよ!」

「く……!」

「更に、魔法カード『紫炎の狼煙』! デッキから、レベル3以下の六武衆一枚を手札に加えられる。『真六武衆-シナイ』を手札に加える。そして、場にミズホがいることで特殊召喚できる!」

 

『真六武衆-シナイ』

 レベル3

 攻撃力1500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→6

 

『お待たせーミズホ~』

 

 ギュ~

 

『シナイ~////』

『……』

「……」

「……げふんっ、ここで、『六武の門』の効果で、墓地から『真六武衆-キザン』を手札に加える」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:6→2

 

あずさ

手札:1→2

 

「カードをセットして、これでターンエンドだよ」

 

 

あずさ

LP:2800

手札:1枚

 場:モンスター

   『真六武衆-シエン』攻撃力2500

   『真六武衆-カゲキ』攻撃力200+1500

   『真六武衆-エニシ』攻撃力1700+500

   『真六武衆-ミズホ』攻撃力1600

   『真六武衆-シナイ』攻撃力1500

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    セット

 

LP:100

手札:2枚

 場:モンスター

   『氷結界の龍 グングニール』攻撃力2500

   魔法・罠

    無し

 

 

「やっぱ、すっげえ展開力……」

「これが、本当の六武衆……『真六武衆』の力、と、いうことか……」

 

『いやあ、久しぶりに揃い踏みだね』

『ええ。特に、シエンの隣に並ぶなんて、いつ以来でしょうか』

『そうだな。一人だけシンクロだし、省られるとすれば大抵シエンだったしな』

『そういうことだな。そもそも六人の中で一番強いくせに、身代り効果まで備えている。正直、溜まったものじゃない』

『……お前ら酷えな、何気に』

 

「……」

 

『だがこうなると、一人だけ手札のキザンが気の毒だな』

『まあ、あいつは元から無口だし、大丈夫じゃねえか?』

『そう言いつつ、今頃手札で寂しくて泣いてたりして』

『……キザンに限って、それは……』

『いいや、あり得る。ミズホだって、僕が隣にいないとすぐに泣いちゃうでしょう?』

『そ、それは……////』

 

「……」

 

『誰が泣いていると……?』

『わ!!』

『キザン、無理やり出てきたのですか?』

『デッキか墓地ならともかく、手札ならどうと言うことはない』

『さすが、真六武衆の実質ナンバー2……』

『……効果で上がった後の攻撃力や、効果なら俺の方が……』

『エニシはむしろ単騎派でしょう。少なくとも二番ではないよ』

『そうそう。協調性が無いから一緒には戦い辛いんだよ』

『それに効果だって、強力ではあるがコストがいるし、全体的に中途半端だよね』

『せめて、キザンや私達のような特殊召喚効果か、カゲキのような召喚補助の効果があれば……』

『……酷くない?』

 

『……』

 

『まあ、何にしても、こうしてまた決闘の場に六人揃うことができたんだ』

『ええ。しかも、相手は私達の主の梓です』

『おまけに、使ってくれてるのはその彼女と来てる』

『そうだな。気合い入れて戦わないとな』

『よーし行くかー!!』

 

『……』

 

『……すまない。お前のターンだ』

 

「……」

「ごめん、梓くん。ていうか、この人達自由過ぎだよ……」

「……」

「梓くん、よくこんな人達まとめられてたね。さすが梓くんだよ、ね……」

「……」

「梓くん?」

 

『え……どうかした……?』

『あ……梓……?』

 

「……」

 

 それはただ、真六武衆達を見つめている。それだけだった。

 冷たく、暗く、なのに強烈な殺気を含んだ目。

 そんな目で、そんな視線を、六人に向けているだけだった。

『えっと、ごめん、はしゃぎ過ぎた、かな……?』

 それだけだが、六人には、十分に恐怖だったらしい。

 

「……気にするな。貴様らは何も間違っていない」

『間違って?』

「そうだ。ただ可笑しいから笑う。そして、仲間がいるから笑い合う。当たり前のことだ」

『何が、可笑しいというんだ?』

「……私の口からそれを言わせるのか。そんなに私を追い詰めたいか……まあいい」

『梓……?』

「私が、可笑しいのだろう?」

『は……?』

「ゴミの分際で、一丁前に貴様らを仲間だと信じ、主だと認められたことに歓喜し、その上で父を奪われた。そんなゴミが、あまつさえ貴様らの前に現れ、あろうことか決闘という人間の使う手段で足掻いている」

『ち、違……』

「可笑しいだろうな、滑稽だろうな……ああ、貴様らは間違っていない。ただ、こうして、そんな事実に、ゴミらしくもなく憤っている私がおかしいだけなのだから……」

『違う!! 梓、私達はそんなつもりで……!!』

「……好きなだけ笑っていいから、これ以上、私に話し掛けないでくれないか……?」

『……!!』

「梓くん……」

 

「もっとも、笑うことができるのは、今夜が最後だと知れ……私のターン……」

 

手札:2→3

 

「モンスターをセット。そして、墓地の『ADチェンジャー』を除外。リバース効果発動。 『サイバーポッド』」

「!!」

 

「今度は『サイバーポッド』!?」

「何枚禁止カードを使う気だ!?」

 

「フィールドの全てのモンスターを破壊、その後、互いにカードを五枚ドローし、その中のレベル4以下のモンスターを攻撃表示、または裏守備表示で特殊召喚し、残りは全て手札に加える……消えろ、真六武衆共……」

「あぅ……」

 フィールドに並び立った五人だったが、その最後は、あまりにも呆気なく、グングニールと共に『サイバーポッド』に吸われ、終わってしまった。

「そして、互いにカードを五枚、ドローする……」

 

手札:2→7

 

あずさ

手札:1→6

 

「私はこの五体を特殊召喚する」

 

『氷結界の水影』チューナー

 レベル2

 攻撃力1200

『氷結界の水影』チューナー

 レベル2

 攻撃力1200

『氷結界の水影』チューナー

 レベル2

 攻撃力1200

 

 セット

 セット

 

「うぅ……わたしはこの三体」

 

『六武衆-ヤリザ』

 レベル3

 攻撃力1000」

『六武衆-ニサシ』

 レベル4

 攻撃力1400

『六武衆-カモン』

 レベル3

 攻撃力1500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターがレベル2以下のモンスターのみの場合、『氷結界の水影』はダイレクトアタックできる。どうやら、この攻撃で終わりだな。『氷結界の水影』で……っ!!」

「……え?」

 

「梓?」

「ンン?」

「何なノーネ?」

 

「……くぅ、水影三体で、ダイレクトアタック! 氷結・影斬の形!!」

「カウンター罠『攻撃の無力化』!! その攻撃を無効にするよ!!」

「しぶとい……カードを二枚セットする。ターンエンドだ!」

 

 

LP:100

手札:0枚

 場:モンスター

   『氷結界の水影』攻撃力1200

   『氷結界の水影』攻撃力1200

   『氷結界の水影』攻撃力1200

    セット

    セット

   魔法・罠

    セット

    セット

 

あずさ

LP:2800

手札:3枚

 場:モンスター

   『六武衆-ヤリザ』攻撃力1000

   『六武衆-ニサシ』攻撃力1400

   『六武衆-カモン』攻撃力1500

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:4

 

 

「梓の奴、さっきから無茶苦茶だろう……」

「確かに。いくら許せないからと言って、あれほど大量の禁止カードを……」

「こうまでしてこの決闘に勝ちたいのか……勝たねばならないのか、梓!!」

 

「……」

「……何をしている。貴様のターンだ」

「……あ、うん。ごめん。いやあ、何だか懐かしいなってさ」

「なに?」

 

「懐かしい?」

「梓が、か?」

 

「正直、真六武衆を使ってるより、梓くんはやっぱ、そうやって、三体の『氷結界の水影』を並べてるところが、一番梓くんらしいなって、つい思っちゃって」

「なに……?」

「覚えてるでしょう。アカデミアの入学試験でのフィニッシャー、その三体だったこと」

「……何が言いたい?」

「何がって、そうだな~……うん。やっぱり、禁止カードとかシンクロモンスター使ってても、梓くんは梓くんだなって、ことかな」

「何だと……?」

 

「あずさ……」

「……そうだな」

「確かに」

 

「確かに禁止カードは強過ぎるし、ずるいとも思っちゃうよ。けどさ、そんな強過ぎるカードだって、使いこなせなきゃ意味は無い。梓くん、さっきから禁止カード、すっごく上手に使いこなせてるからね。ねえ、みんな」

「……」

 

「……ああ、確かにな」

「見事な手腕だ」

「兄さん、同じことできる?」

「……難しいね。まあそもそもデッキに入れられない以上、デッキに入れて回してみるなんてこともしないんだけど、彼の使った禁止カード、誰でも使えるカードも多いけど、コンボ性の高いカードや、強力な代わりに手間の掛かるカードも多かった。それをあれだけ見事に使いこなすなんて僕には……多分、君も無理だろう。亮」

「……ああ」

 

「……」

「すご~い。カイザーの亮さんからも褒められてるよ、梓くん」

「……」

「やっぱさ、君はとても強いよ。誰よりも強い、一人前の決闘者なんだよ」

「……だから、何だというのだ……」

「だからって、わけでもないけどさ……君はやっぱり、ゴミじゃなくて、人なんだよ」

「……」

「君はゴミだから禁止カードを使う、なんてこと言ってたけど、違う。人だから、禁止カードの力を引き出せたんだよ。君はやっぱり、人なんだよ」

「黙れ……」

「そんな、尊い人だから、君に真六武衆のみんなもついていった」

「黙れ」

「そんな人だから、このアカデミアのたくさんの人が、君のこと好きになった」

「黙れ!」

「アカデミアのみんなも、ここにいるみんなも、わたしも……」

「黙れ!! 黙れ黙れ黙れ、黙れぇ!!」

 

「君のこと、大好きなんだよ、梓くん」

 

「っ!!」

「だよね。みんな」

 

「当ったり前だ!」

「うん。僕達みんな、梓さんのこと好きだ」

「今も昔も、その気持ちは変わらないんだな」

「そう。ずっと思ってる。梓は大切な友達だって」

「尊い友人であり、そして、共に競い合うライバルだ」

「認めるのは悔しいが、俺以上のカリスマを兼ね備えた、俺以上の天才だ」

 

「……」

「君は、もしかしたらここにはもう自分の居場所は無いって思ってるのかもしれないけど、こうやって、君が確かに作ってきた絆は、君にとっての居場所なんだよ」

「居場所……私の……?」

「そう。君は、大切な人を奪われたから、絆を否定してる。けど、確かに無くしちゃったものは戻らないけど、そんな否定を肯定してくれるものだって、絆だよ」

「……」

「もう一度、君が許せないこと、恨んでること、わたし達に、任せてくれないかな」

「なに……?」

「もう一度一緒に、絆を見つめ直してみない? 真六武衆のみんなと、アカデミアのみんなと、全部の絆をひっくるめてさ。そうすれば、君が死んじゃうことなんてしなくたって、アカデミアっていう居場所が、君のことを支えてくれるはずだから」

「……」

「梓くん、生きよう。このアカデミアで、みんなと一緒に」

「……」

 

「梓」

「梓さん」

 

「……」

 そしてあずさは、手を差し伸べた。

 その微笑みは、嘘偽りも、助かろうという裏すら見られない。純粋に、梓のことを見つめながら、梓のことを迎えるための、慈愛の表情だった。

「……」

 そんな慈愛に、絆に、身を委ねたくなった。自分に向かって伸ばされた手を、掴みたくなった。

 だから、手を伸ばした。

「梓くん」

「……」

 

 スゥ

 ドスッ!!

 

「!!」

 

『……!!』

 

「……」

 伸ばした梓の右手。その上に、氷の剣が現れ、右手の甲を突き刺し、貫通し、地面に突き刺さった。

「……ふざけるな……」

 梓は呟きながら、剣の突き刺さった右手を、氷の剣を砕きながら乱暴に引き戻す。

「よぉく、分かった……」

 それだけのことをしながら、苦痛の素振りも見せず、そして呟きは止まない。

「私が間違っていた……貴様を殺すには、水瀬梓でなければ意味は無い。そう、ずっと自分に言い聞かせてきた……」

 そして、徐々に、邪気を含んでいく。

 

「だが違う……やっと分かった……」

「誰も彼もが、梓梓と……誰もが水瀬梓を求める……水瀬梓を中心に世界が回る……水瀬梓を、ゴミから、復讐もできない人間に変えようとする……」

 

 その声は、徐々に、大きくなっていく。

 

「そうだ……邪魔だ。水瀬梓……復讐に邪魔なのは、他でもない、水瀬梓だった……復讐など、水瀬梓でなくとも、私がやればいいだけのこと……そのために、誰よりも邪魔な、水瀬梓、貴様を消す方が先だ!!」

 

 絶叫しながら、両手を耳の下辺りに引っ掛けた。

 

「ぐうぅぅううぅぅぅぅぅ……!!」

 

「な、なにしてるの?」

 そんな質問にも答えず、梓はただ、苦しげな声を上げ続けていた。

「うううぅぅぅぅぅ……!!」

 

「な、何だ?」

「梓?」

 

「があああぁぁぁぁ……!!」

 

「ちょっと、梓、さん?」

「どうしたって言うんだな?」

 

「う、ううぅぅぅぅ……」

 

「お、おい、梓?」

「何が……?」

 

「ううぉおおぉぉぉ……!!」

 

「一体何をしているんだ?」

「新手の、リンパマッサージかい?」

 

「くぁ、あぁあぁぁぁぁ……!!」

 

「な、何なノーネ?」

「……ん?」

 

「ぐ、うううぅぅぅぅぅ……!!」

 大徳寺が疑問の声を上げた瞬間、その変化は、目に見えるほどになっていた。

「ちょ、梓、くん……?」

 

「おい、梓の指……」

「何だか、沈んでない?」

 

「ううぅぅあああああああああ……!!」

 

 グチャ、グチャ……

 

「この音……」

「おい、これってまさか……」

 

「がああぁあぁぁぁああああああああああ……!!」

 

 グジュグジュグジュグジュ……

 

 

「おい! 梓の指先、出血しているぞ!!」

「まさか、おいよせ、それは……」

 

「うぅぅぅぅあああああああああああ……!!」

 

 グチャ、グチャ、バキ……

 

「や、やめて……」

 

 バキ……

 

「やめて!」

 

 バキ……

 バリ

 

「やめてええええええ!!」

 

「がああああああああああああああああああああああ!!」

 バリバリバリバリバリッ

 ベリァッ

 

『……!!』

 その、つんざくような悲鳴と、惨たらしい音は、同時に森の中に響いた。

 そしてそんな音に、あずさを除くメンバーのほとんどは、反射的に目を背けた。

 

「はぁ……はぁ……」

 そして、それ(・・)を手に持つ梓の顔には、長い黒髪が垂れ下がっていて、そのほとんどが隠れていた。

 ただかろうじて、髪の隙間から見えるのは、瞼の無くなった、黒い大きな瞳と、唇の無くなった、白く輝く歯と、鼻の無くなった、ただの二つの穴。そして、そんな顔の全体から、だらだらと赤い液体が地面に滴り落ちる。

 そんな真っ赤な、梓の顔に、全員が言葉を失った。

 

「はぁ……はぁ……ふ、ふふふ、ふふははは……」

 そんな沈黙の中で、梓は一人、笑い声を上げた。

「ふはははは……あっははははははははは!!」

 大声で笑いながら、顔から剥がしたそれを、両手でぐしゃぐしゃに丸め、引きちぎり、粉々にして地面に投げ捨てたところで、また、全員を見据えた。

 

「これで、どうだ?」

 

「これで、どうだ!?」

 

「これで! どうだ!?」

 

「これで!! どうだ!!」

 

「これで!! 貴様(きさわ)らの愛する水瀬(いなせ)梓は、いなくなったぞおおおおおおおおおお!!」

 

 唇が失せたことで、性格な発音がままならないにも関わらず、そう、絶叫した。

 その直後、再び両手で顔に触れ、

「く、うぅぅぅぅぅ……」

 再び苦痛の声を漏らす。だが今度は、すぐに終わった。

「水瀬梓は死んだ……」

 その発音は、直前のものに戻っていた。だが、唇が戻っているわけではない。口だけでなく、顔が、完全に変わっていた。

 髪の隙間から、それは、姿を現した。

 真っ赤な血の氷で作られた、歪んだ顔と、二本の角。

 怒りと悲しみ、そして憎悪が入り混じった、女性の顔。

 

「私は鬼だ……」

「ゴミより生まれし……」

 

「復讐鬼だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 




お疲れ~。
決闘中に顔剥いだのって、DMのアメルダ一戦目くらいか?
まあ今回は本物の皮なんだけど。さすがにこんなのはやろうと思っても放送はできねえだろうな。

まあそれはともかくとして、今回の禁止は、二枚のみ(だったよな)。

『ファイバーポッド』
『サイバーポッド』

俗に『ポット系』と呼ばれる二大禁止カード。
今回みたく展開だけが取り柄みたいなデッキには刺さる刺さる。
まあ、効果発動する前に裏側のまま除去されたり発動しても無効にされることもあるからそうとも言い切れないけれど。

あと気付いてるろうけれど、前回の決闘と違ってデッキ枚数は度外視して書いてるからね。一々数えてないから多過ぎたりしても許してね。
今回言うことはこれだけかな。
じゃあ次がラストですので、待っててね。

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