遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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あぁ~。
てことで、第四部のラストなわけですわ。
短いからね、言っとくけど。
じゃ、行ってらっしゃい。



第九話 花の咲く場所

視点:梓

 

 ここは……

 何もない空間。正直、そうとしか言えない。

 周囲は、眩しいくらいに真っ白で、手を伸ばしたところで何も触れはしない。

 そんな空間なのに、一つだけ、そこにあった。

 あれは……

 

「お父さん……」

 

 間違いない。お父さんだ。お父さんが今、目の前に……

「お父さん」

 ずっと、会いたかった……

 

「……」

 

 振り返ったお父さんは、こっちをただ見たまま、何も言わない。

 何も言わないまま、歩き始めた。

「待って……!!」

 私も、一緒に……

 

 ガシッ

 

「……!」

 走ろうとした瞬間、その手を掴まれた。

「……あなたは……!」

 

「……」

 その、黒髪の下の蒼白な顔に、赤い目を向けている彼女は、そちらに手を引き、そして、私と立ち位置を入れ替えた。

「グリムロ、さん……?」

「あなたはまだ、あそこへ行ってはダメ」

「けど……」

「あなたは戻って。みんなが待ってる」

「みんな……?」

 それを聞いた瞬間、後ろが、眩しく光った。

「私は……っ!?」

 

「待って!! お父さん!! グリムロさん!!」

 

「……」

 

 ――さよなら、梓……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 気が付くと、やはり白い色が見えた。

 けどそれは、直前のものとは全く違う白。天上と、壁の白だ。

 それによく見ると、服は着物ではなく、もっとゆったりとしたものに変わっている。

 そして香ってくる、薬品の匂い、これは……保健室?

 

「目を覚ました!!」

 と、今度はそんな声が聞こえた。少女の声だ。

 そして、少し遅れてそちらを見ると、

「皆さん……?」

 

「梓、大丈夫かよ?」

「ケガは、大丈夫、だよね?」

「梓」

「梓」

 

「……」

 皆さん、誰もが私を見て、心配そうな顔を表情を浮かべている。

 どうして……

 

「……!!」

 そうだ、思い出した。私が、皆さんにしてしまったこと……

「……」

 

「梓?」

 思わず顔を隠して、壁の方へ体を向けてしまった。

「梓さん……」

「私は……」

 ……ダメだ。彼らと顔を合わせることができない。

「私は、皆さんに、何ということを……」

 彼らに、合わせる顔が無い。私は……

 

「気にするなよ」

 そう、十代さんの声が聞こえた。

「俺達は、お前のしたことに、誰も怒ってなんかねえよ」

「……え?」

「そうだよ。梓さんはただ、僕達と決闘しただけなんだから」

「そうだ。全ては俺達の都合だ」

「そして、あなたもあなたの都合で決闘した。そうでしょう」

「それは……けど……」

 

「梓」

 言葉を返そうとした時、今度は、準さんの声が聞こえてきた。

「済まなかったと、本気で思っているのなら、ちゃんとこちらを見るべきだ」

 それは、いつも聞いていたのと同じ、凛として、とても強い人の声、憧れの声。

「悪かった。申し訳なかった。ひたすらそんな言葉を漏らし、落ち込み、後悔して、自分を責め、そうやって塞ぎ込んでいることは、償いになるのか?」

「それは……」

「当然、お前の気持ちはよく分かる。だが、少なくともそれは、何もしなくていい理由にはならない」

「……」

「まずはこちらを向け。そして、俺達の顔をちゃんと見ろ」

「……」

 

 言われたまま、体を起こして、皆さんの顔を見た。

 十代さん。翔さん。隼人さん。明日香さん。準さん。大地さん。亮さん。クロノス先生。大徳寺先生。平家あずささん。

 全員が私に対し、微笑みを向けている。目の淵に、光るものを携えながら、私のことを見ている。

「皆さん……」

 そんな表情を見て、安心と、改めて、後悔の念に苛まれる。

「……済みませんでした……」

 座ったままだけど、もう一度、頭を下げた。

「もういい。気にするなよ」

「あなたはこうして戻ってきてくれたんだから」

「それだけで十分よ」

「皆さん……」

 顔を上げても、その顔は変わらない。私のことを、本当に、許してくれているのか。

 

「それより梓」

「え……?」

 十代さんが、声色を変えて、名前を呼んできました。

「明日……じゃなくて、もう今日か。授業には、出るのか?」

「授業……」

 その言葉に、私の心に新たな恐怖が芽生えてしまった。

「今更、私がアカデミアに戻ることなんて……」

 セブンスターズとして、アカデミアの敵になっていた私が、そんなこと……

 

「梓」

 また、準さんの声が聞こえた。

「確かに居場所というものは、一度でも手放してしまえば、離れた時間が長ければ長いほど、取り戻すことは難しい。だが、いざ戻ろうと思い立ったなら、そこをまた新たな居場所とできるかどうか、それは自分次第だ」

「……」

「そしてお前は、誰よりも居場所を得ることの難しさと、尊さと、喜びを知っている。ならば、今更アカデミアの教室など、恐れることはない」

「けど……」

「それにさ!」

 今度は十代さんの声が聞こえた。

「もし教室にい辛くなってもさ、俺達がいるだろう」

「十代さん達が……?」

「そうだよ。もし挫けそうになっても、僕達があなたを支えてあげるよ」

「梓はただ、いつも通り、教室に入ってくるだけでいいんだな」

「翔さん……隼人さん……」

「それに、私達だけじゃない。みんな、あなたの帰りを待っているのよ」

「私の、ですか? 明日香さん……」

「そうだ。俺達だけではなく、全員が、お前のことを心配している」

「大地さん……」

「安心なサーイ。仮にあなたに嫌がらせをするような生徒が現れるようなら……」

「私達教師も、黙ってはいませんのニャ」

「クロノス先生、大徳寺先生も……」

「もっとも、梓ならそんな心配はないだろうが……」

「うん。僕も、陰ながら応援させてもらうよ」

「亮さん……えっと……」

「そう言えばまだ名乗っていなかった。天上院明日香の兄の、吹雪だ」

「吹雪、さん……」

「これからよろしくね」

「これから……?」

 

「梓くん」

 と、また、私の名前を呼ぶ声。彼女は私の前まで来て、あるものを手渡してきた。

「これ」

「これは……」

 私のデッキケース……真六武衆……

「ずっと預かってたまま、返せなかったけど、改めまして、はい」

「……」

 私は無言のまま、それを遠ざけた。

「梓くん?」

「……これはこのまま、あなたが持っていてくれませんか?」

「え? でも……」

「今の私には、彼らと闘う資格は、無いと思うから」

「……」

 あずささんは、分かってくれたようだ。そのままデッキを、自らの懐にしまった。

 

「だが、こいつは受け取っておけ」

 そう聞こえ、準さんの方を向くと、カードを一枚、差し出してきた。

「これは……」

「落とし物だ。早くデッキに入れておけ」

 『氷結界の舞姫』……アズサ……

「……」

 なぜだか、見ていると、奇妙な感覚を覚えた。

 いつも顔を突き合わせていたカードのはずなのに、何かが足りない。何かが無くなったかのような、そんなふうに感じられる……

 けどそれでも、大切なカードには違いない。すぐにデッキに加えた。

 

「……じゃあ、わたしは先に帰るね。決闘したから疲れちゃったよ」

「あ、ああ……」

 と、あずささんは十代さんにそう言ったところで、そのまま背中を向けて、保健室の出口へ。

「あ……じゃあ、私も」

 その後ろを、明日香さんもついていった。

 

「……なぜ……?」

 

 

 

視点:外

「あずさ」

 廊下へ出たあずさに、明日香が呼び掛ける。

 

「……」

 

 ただ立ち止まり、こちらに顔は向けない。

「あずさ……あれで、よかったの?」

「……うん。梓くんが戻ってきてくれただけで、十分だよ……」

 だが、その言葉が虚勢であることは、声を聞いただけで分かる。ひたすらに、哀しんでいることが。

「あずさ……」

「……ごめん、本当に疲れちゃったから。だから……お休みなさい……」

「……」

 その言葉に、それ以上の言葉を掛けることは、できなかった。

 

 

「十代さん……」

 去っていくあずさを見ていたところを、梓に呼び掛けられ、梓を見る。すると、全員が驚かされた。

「お、おい、梓?」

 

「……」

 

 その目からは、大粒の涙を流していた。

「教えて下さい……」

 なおもあずさの出ていった出口の方を見ながら、尋ねる。

「彼女は……どうして……あんなに……哀しげだったのですか……」

「梓、お前……」

「どうして……彼女のあんな姿が……こんなにも、胸を締め付けるのですか……」

「……」

「彼女のあんな姿だけは……見たくない……どうして……」

 

『……』

 

 誰も、答えることはしなかった。

 

「教えて下さい……教えてください……」

 こうして、保険教師の鮎川が戻ってくるまで、その言葉と、涙が止まることは無かった。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:梓

 あの後、すぐにブルー寮の自室に戻った。深夜だったこともあり、幸いにもその間誰にも出会うことはなかった。

 長い間留守にしていたから、埃を被っている箇所もあったけど、自分の匂いは、そこに残ったままになっていた。

 まずは、文字通り血と汗にまみれた着物を脱いで(これはもう捨てるしかありません)、お風呂へ入った。

 お風呂から出た後は、体と髪を拭いて、服をしまってある箪笥の方へ。色はたくさんあるけれど、その中で最も好きなのが青。だから今までと同じ、青色を選び、着る。

 着替えた後は、いつもなら、前日の夜までには終わらせていた行動、時間割を確認し、今日の授業の準備を済ませる。

 それが終われば、汚れた場所を拭いたり、お茶を点てたりして、ただ、時間を待った。途中で髪も乾いたから、以前そうしていたように、後ろで一本に縛った。

 部屋に戻った時は、丑三つ時をとうに過ぎていたけれど、次第に空は黒から藍色へ、藍色から青へと変わり、そしてやがて、全てを照らす光が現れる。

 その後も待っていると、外の廊下から生徒達の声が聞こえ、窓から外を覗くと、生徒達がアカデミアへと歩いていくのが見える。

 けど、それでもまだ、私は部屋を出ることはしなかった。

 誰であれ、今、顔を合わせるのは、どうしても気まずい。そして、怖いから。

 

 そして、寮に一人もいなくなったであろう時間を見計らい、いよいよ部屋を出る。

 結果、授業の五分ほど前の時間になっているけれど、私なら、走れば十分に間に合う。

 

 授業の三分前に、教室の前に辿り着いた。思っていたより時間が掛かってしまった。

 けど後は、この扉を開くだけ。

 中からは、大勢の生徒の声が聞こえてくる。

 彼らの中に、私は再び、戻ることができるのか。

 感じるのは、ただひたすらに、不安と恐怖だけ。

 

「……」

 

 それでも、私はここに、戻ると決めた。

 大勢の仲間達が待ってくれている、この場所へ、戻ると決めた。たとえそのために、大勢の人から蔑まれることになったとしても、もう、逃げないと決めた。

 だから……

 

 スッ……

 ガララ……

 

 一歩踏み出すと、それだけで自動ドアが開き、私を迎え入れる。あとはそのまま進むだけ。

 

「……え?」

「どうした……っ!!」

 

 最初は、一人か二人か、そのくらいの視線だった。

 それが、徐々に増えていき、とうとう、教室中の視線は一点に集中し、騒がしかった教室が、一気に静寂に包まれた。

「……」

 そんな光景に、何も言えず、何もできず、それ以上、進むことができなくなった。

(やっぱり、私は……)

 

「梓さん……?」

 

 と、誰かの声が聞こえてきた。

 そちらを見ると、いつも、お茶会に参加してくれていた女子生徒。

 

「梓さん……本当に……?」

 

 今度は、イエロー生徒の方。

 

「梓さん?」

「え、梓さん……?」

「梓さんが……」

 

 最初の静寂と同じく、私を呼ぶ声は、段々教室に広がっていく。

「皆さん……」

 

「梓さんだー!!」

「梓さんが帰ってきたー!!」

『うおおおおおおおおおおお!!』

『きゃーーーーーーーーーー!!』

 

「……っ!!」

 驚いた次の瞬間には、教室中の生徒達が、私を囲んでしまった。

 

「梓さん、よく御無事で……」

「お帰りなさい、ずっと待ってました」

「心配しました。どうしてたんですか?」

「とにかく、無事でよかったー!!」

 

「……」

 ずっと、蔑まれるかと思っていたのに。

 そうでなくとも、精々無視されてお終いだと思っていたのに。

「皆さん……」

 なのに、誰もそれをしようとしない。

 蔑むどころか、全員が、私に笑顔を向けている。涙を流してくれる人まで。

「……」

 

 見ると、彼らの向こうに座る、十代さん、準さん達も、同じ視線を向けてくれていた。

 私という存在を、心から受け入れてくれて、歓迎してくれている。

 ここにいてもいいのだと、言葉にせずに語り掛けてくれている。

「……」

 

 キーンコーン……

 

 その時ちょうど、始業の鐘が鳴り、教壇に、クロノス先生が立った。

 

「皆さーん、早く席に着いて下サーイ」

 

 その呼び掛けに、騒いでいた人達は、一斉に口を閉ざし、そちらを見た。

 

「……」

 

 なぜだろう……と、疑うまでもない。ただ、感じたからそうするだけ。

「皆さん」

 静かになったところに呼び掛けて、私は一言だけ、言いたいことを言った。

 受け入れてくれる。迎え入れてくる。

 どれだけ傷つき、道を踏み外したとしても、そうやって、自分の居場所でいてくれた、この教室に、目の前の生徒達に、そして、決闘アカデミアに。

 

 自分の居場所、帰る場所だから、言うことが許される言葉。

 大切な居場所だから、掛けることができる、その言葉。

 そんな言葉を、精一杯の心を籠めて、精一杯の笑顔で……

 

 

「ただいま」

 

 

 

第四部 完

 

 

 

 




お疲れ様~。

いやぁ、ようやっと四部が終わったよ~。
よくもまあ、こんな下手くそでつまらん小説に付き合って下さって、心から感謝です本当に。

……まあこれが最終回な予定もないんだけど。
続きを読みたいと思う人がいるのか知らないけど、一応、まだ続ける予定です。こっちもあっちも。
ただぶっちゃけ、大海的には燃え尽きた感もあるから、これが最後になる可能性も無いでもない。先に言っとくよ。

とまあこれ以上先のことを言ってても仕方ないが、とりあえず、改めまして、ここまでお付き合い下さいまして、ありがとうございました。
次、会えるか分からんが、一応、いつもの言葉で締めます。

ちょっと待っててね。
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