遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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今回はちょっと短めです。
決闘前のちょっとしたほのぼのシーンです。
早く決闘を見せろって? うん。謝る。ごめんね。
謝ったから許しておくれ。
許されたところで、行ってらっしゃい。



第四話 月一試験開始 ~当日~

視点:梓

「おはようございます。梓さん////」

「おはようございます」

「梓さん、おはようございます!////」

「おはようございます」

「今日も素敵なお召し物ですね!////」

「ありがとうございます」

 

 私は今、早朝の女子寮前で、女子の皆さんに話し掛けられています。こんな場所にいる理由ですが、あずささんを待っています。

 昨日の様子から、寝坊をしないかとても心配です。

 きちんと一人で起きられるのでしょうか。いやむしろ、教えたことがきちんと頭にあるかどうかも心配です。彼女は少し抜けている部分がありますから、少し心配なのですよね。もちろん、そんなことは私が心配するまでもないことなのでしょうが……

 

「あら梓、おはよう」

 

 聞き覚えのある声がしました。私を唯一呼び捨てにする女子。もはや確認は不要ですね。

「おはようございます。明日香さん」

「女子寮の前で、どうかした?」

「ええ、その……あずささんは?」

 少し声が落ちてしまいました。あずささんの名前を出しただけで、顔は赤くなっていませんでしょうか。

「そう言えば、今朝はまだ見てないわね」

「やはり、寝坊ですか?」

 恐れていた事態になりましたか? すると、明日香さんは私に微笑みかけました。

「まるでそうなるって分かってたみたいね」

「ええ、その、昨夜少し様子がおかしかったので、きちんと眠れているか心配なのです。それに、教えた身としても気になるところですし」

 私の不用意な一言で気分を害されてしまったようですし、何より私の話をした直後、様子がおかしかった。理由は分かりませんが、心配していた通りのことが起こってしまいました。

「……」

「どうかなさいましたか?」

 先程からずっと微笑んでおりますが。

「ううん。梓って、本当にあずさのことよく見てるなって思って」

「そりゃあ、友達ですから……」

 そう。友達ですから。それだけです。友達として、心配するのは当然のことですよ。

「……」

 おや、今度は哀しげな顔を見せていますね。

「どうかしましたか?」

「ううん。それじゃあ、私があずさを迎えにいってくるわ」

 あ、いえ、それは……

 

 ガシッ

 

「?」

 反射的に、明日香さんの手を取りました。

「え、なに?」

「もうあまり時間もありませんし、明日香さんは先に行った方が良いでしょう」

 

 

 

視点:明日香

 あずさを迎えに部屋へ行こうとしたけど、突然梓に腕を掴まれて、先に行けと言われた。

「でも、あなたはどうするの?」

「私は彼女が現れるまで待っています」

 え? でも、それじゃあなたこそ遅刻するんじゃ……

「こうなってしまったのは私にも責任があります。だから、彼女がテストに遅れて点数が取れないというなら、その罰は私も等しく受けなければなりません」

 梓、そこまであずさのこと……

「それに、私ならば大丈夫です。ここから学園まで、三十秒もあれば到着しますから」

 ああ……納得。あの夜あれだけのスピードだったし、確かに普通に走っても速いでしょうね。正直なところ、私じゃ自転車や馬に乗っても勝てる気がしないもの。

 ……て、何で馬が浮かんだのかしら?

「分かった。じゃあ、先に行くわ。けど、ちゃんと来るのよ」

「ええ。ご健闘を」

 その言葉を最後に、私は梓と別れた。

 

 それにしても、本当に梓は純粋な人だと思う。あずさはよく寝坊をする方ではあるけど、今回はそれを昨夜一緒にいた自分のせいだと思って、それだけで試験よりもあずさを待つなんて。彼は友達だからって言ってたけど、普通は友達だからってできることじゃないわ。

 彼は諦めてるつもりみたいだけど、やっぱり今でもあずさにゾッコンみたい。

 まあそれはともかく、今は二人が試験に間に合ってくれるよう祈るだけね。

 

 

 

視点:あずさ

 ピンチです!! 平家あずさ、アカデミア生活始まって以来のピンチです!!

 とにかく落ち着いて!! ええと、忘れ物は無い、デッキオッケー、決闘ディスクオッケー、筆記用具オッケー、カバンもオッケー、荷物全部オッケー。

 忘れ物は無い。よし! 靴履いて鍵閉めて、出発!!

 今からじゃ走っても間に合わないかな?

 いや!!

 諦めるなわたし!! 人にはやらねばならない時がある!! 今がその時!!

 さあ目覚めよ! わたしの中の揺るがぬ絆よ!! 女子寮を出て、目指すは学び舎!!

 あずさ第一の絆を見よ!!

 

 

「おはようございます」

 

 揺るがぬ絆~~~!?

 

 ドッスン! ズザザ~~~~!!

 

「だ、大丈夫ですか?」

 いや、まあ、うん。顔から滑ったけど平気。それより……

「何で梓くんがここに……」

 そう聞こうとした瞬間、梓くんはわたしをひょいっと背負い上げた。両手には、梓くんとわたしの荷物を持ってる。

「へ!? な、なに!?」

「お静かに。舌を噛みますよ。私から絶対に手を離さぬよう……」

 なに? そう聞き返そうと思った瞬間、物凄い……

 

 Gぃぃぃいいいいいいいい~~~~~~~~~~~~~!!

 

「うわあぁぁぁぁああああああああああああ~~~~~~!!」

 

 

 

視点:十代

 急げ急げ急げ! まさかこんな日に寝坊なんて! ていうか、翔のやつも起こしてくれても良いだろう!

 時間は……何とか間に合うか……

 って思ってる矢先に目の前にトラックを押してるおばさん。

 ああー!! 俺こういうの弱いんだよなぁ!!

「手伝うぜ、おばさん!」

「おや、あんたテストは?」

「困ってる人は放っておけないぜ!」

 そう言いながらトラックを押すけど……くそ、中々重てぇ、思ったように進まねえ!!

「あたしは良いから、あんたは早く言った方がいいよ」

 そう言ってくれてるけど、でも、放っておけないし……

 

「じゅ~~~だ~~~いく~~~~~~ん!!」

 

 あれ? この声、あずさ!? そう気付いて振り向いた時、あずさは梓に背負われながら、こっちに猛スピードで近づいてくる。

 

「ど~~~い~~~て~~~~~~~~!!」

 

 そして、大きく下げて構えてる右手には……

 て、あの黄色の手甲!!

「おばさん! 避けろ!!」

 おばさんが何か言う前に、俺はおばさんを押して道から逸れた。そして、梓がトラックの目の前まで来て、

 

「飛んでけ!!」

 

 ガッ!!

 

 あずさの右手が、あんなに重かったトラックを一気に前に進めて、学校前に着いちまった。そしてそのまま、梓とあずさは校舎の中に走っていった。

「……」

「……」

 おばさんと俺、しばらく呆然としてたけど……

「あ! あんた、テスト!」

「あぁ! そうだった!!」

 おばさんの言葉で思い出して、俺は走り出した。

「さっきはありがとうねー。さっきの子達にもお礼を言っといておくれー」

「おー! おばさんも気を付けろよー!」

 そして、俺も試験会場へ急いだ。

 

 

 

視点:梓

 約半分の時間遅刻してしまいましたが、正直簡単な問題ばかりで、残りの半分の時間で見直しまで完了してしまいました。

 「『サイクロン』の説明をせよ。」という問題が出た時は、あまりのバカバカしさに危うく抜きかけましたよ。

 おそらく完璧ではないかと思います。

 あずささんは……

 

 シュ~~~~~……

 

 真っ白になって燃え尽きていますね。ああ、頭から煙が……

「スゥ……」

 逆に十代さんは余裕ですね。私達よりも遅く到着して、五分もしない頃には眠ってしまいました。あ、明日香さんが起こした。

 

「あずささん、大丈夫ですか?」

「……ふぇ?」

 話し掛けてみましたが、随分辛そうです。

「うん、多分。梓くんが教えてくれたところは完璧に解けたよ……」

 一応笑顔を見せて下さいました。その言葉は嬉しいのですが……

 あずささんとお話しするために、隣の席に座りました。

「やはり、私は教えるべきでは無かったでしょうか」

「え?」

 聞き返してきました。まあ、当然でしょうね。

「昨夜、あなたの様子がおかしかったので、眠れなくなるのではないかと思いました。だから、それで寝坊でもしてしまった時、お詫びにあなたをアカデミアへ送ろうと、あそこで待っていました」

「そのために、女子寮の前に……?」

 そんな目で私を見ないでください。これは当然の償いです。

「こんな事態を引き起こしてしまって、申し訳ありませんでした。これからは、こんなことにならないようにします。二度と、あなたを教えません」

「ちょっ、違うよ! 梓くん誤解してるよ!」

 随分必死に否定しています。その優しさだけで十分です。

「確かに昨夜は眠れなくなっちゃったけど、遅れたのは寝坊じゃないよ!」

 え? 違うのですか?

「実は……余計なお世話かなって思ったんだけど……////」

 あずささんは何やら言い辛そうに、顔を赤くしながら、カバンを机に置きました。

「梓くん、多分今日も朝ごはん食べてないでしょう?////」

「ええ。例によって空腹にはならなかったので」

「それでね、それじゃあいけないって思って、早起きして、梓くんにお弁当作ってきたんだよ////」

 そして取り出したのは、お弁当箱。

「これを、私に?」

「うん。料理は久しぶりだったから、すっごく時間が掛かっちゃって////」

 その話しを聞いて、たった今気付きました。あずささんの指に、何枚かの絆創膏(ばんそうこう)が貼られていることに。

「さすがに梓くんの料理には敵わないけどね。一応、あんまり食べない梓くんのお口にも合うようメニューを考えたつもりなんだけど」

 そしてまた、笑い掛けてくれています。

 

「……」

「あ、梓くん!?」

「……すみません。嬉しくて……」

 あまりに嬉しくて、涙が流れました。

 こんな、私のために、あなたに迷惑を掛けた私などのために、こんな指になるまで……

 けど、嬉しいと思うと同時に、また別の思いまで感じてしまいます。私が自分の身の上話などしたせいで、梓さんをこんな目に。それがまた、私の心を締め付けます。

「えっと、気にしないで」

 また、あずささんが話し掛けてきました。

「その、もし違ってたら謝るけど、自分を責めることなんて無いよ。わたしは確かに、梓くんの話しを聞いて眠れなくなったし、それがきっかけでお弁当を作ったけど、でも、これはわたしがそうしたくて、梓くんのために何かしてあげたいからそうしたんだ。梓くんに喜んで欲しくて、喜んでくれなくても、せめて、ちょっとは梓くんの役に立つことできたらなって。それで、少しでも梓くんが元気になってくれたら、それがわたしには一番嬉しいことだったから。だから、もし今責任を感じてるなら、全然気にしなくて良いんだよ」

 それはまるで、私の心を見透かしたような言葉でした。

 そして、とても嬉しい言葉でした。

 あまりに嬉しくて、私はあずささんの、弁当箱を持つ手を取りました。

「あ、梓くん……?」

 動揺していますが、これだけは言わせて下さい。

「ありがとうございます。あずささん……」

「……どういたしまして」

 あずささんも、笑顔でそう言って下さいました。そんな素敵な笑顔を見せて下さる。私にとってはそれだけで、仮に今空腹を感じていても、きっと満たされてしまいます。

 

 

 

視点:明日香

 幸せそうに話してる二人の(あずさ)を見ながら、私は微笑ましい気持ちを感じていた。

 

「天上院君」

 

 話し掛けてきたのは、ラーイエローのトップ、三沢君。

「もしかしてあの二人、付き合っているのか?」

 教室には今私達と、あの二人の四人だけ。私達だから良かったけど、他にも誰かいたら大事になってたかもね。

「いいえ。付き合ってはいないわね」

「そうか。いやすまない。あまりにも仲睦まじいというか、恋人同士の空気を感じてね」

「……ええ。私も同じよ」

 そう言うと、三沢君は不思議そうに私を見た。まあ、別に口止めされてる訳でもないし、話してもいいかしら。

「本当はね、梓が、水瀬の方ね。平家あずさに一目惚れしたらしくて、この間会った時、すぐに告白したの」

「ほお。あの梓が……」

 あ、あんまり驚かないのね。

「けどその時、あまりにいきなりだったからあずさは、平家の方ね。答えられなくて、それで梓は、一方的に振られたと思って、平家あずさは今も梓のことをどう思ってるのか分からなくて、水瀬梓はあずさとは友達として接してるの」

「……何だか複雑な関係だな。おまけに名前が同じなせいでかなりややこしいし」

 まあ、そうよね。私もかなり話し辛かったし。今度から説明する時は敬称を使うべきかしら。梓君とか、あずささんとか。

「けどまあ、あの様子なら、そう遠くないうちに結ばれる日も来るかもしれないな」

 そうね。けど、そうなる日が来るには、やっぱりあずさの方から言わないとダメでしょうね。梓は今でもあずさが好きみたいだけど、必死でそれを愛情から友情に変えようとしてるみたいだし。早くしないと、どちらかが誰かに盗られちゃうかもしれないわ。

 

「……誰なんだろうね」

「まったく」

 

 あら、十代と翔君が帰ってきた。

 

 ……

 ……十代は……誰かに盗られる心配は……

 

 って! 何で私がそんなこと心配してるのよ!!////

 

「天上院君、顔が赤いがどうかしたか?」

 

 !!

「何でもない! 本当に何でもないから!!」

「そ、そうか……」

 そうよ、本当に何でもないわ。

 二人を見てて羨ましいとか、私も誰かとああなりたいなとか、それが十代だったらなとか……

 

 て、だから何なのよー!!////

 

 

 

視点:外

「あ……」

 梓が弁当を食べようと蓋を開いた時、中身は既に、悲しい事態となっていた。

「ここまで来る時、背負って走った時に……」

 混ざってしまっていた。

「……すみません」

「ううん! 梓くんが気にすることないよ!」

「……いただきます」

「あ……」

 止めようとするあずさにも構わず、梓は弁当を一口食べた。

 

「……」

(ドキドキ……)

 

「美味しいです。とても」

 その笑顔での梓の言葉に、あずさの顔にも、これ以上無いほど喜びに満ちた笑顔が浮かんだ。

 

 

 

 




お疲れ様です。
次が決闘だからね。
ちょっと待っててね。

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